出入国管理令違反外国人登録法違反被告事件
昭和30年(あ)第2684号
上告人:被告人A
最高裁判所第三小法廷
昭和32年7月9日

決定
主 文
本件上告を棄却する。

理 由

弁護人の上告趣意第一点について。
所論は、憲法三一条違反を主張するが、その実質は法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお所論法令違反は、本件被告人のように不法に本邦に入国した外国人に対しては、出入国管理令二五条は適用がないというのである。しかし同条は、適法に本邦に在留し又は入国した外国人であると、所論のように不法に本邦に入国した外国人であるとを問わず、すべてその適用があると解するのが相当であつて、原判決の判示するところは肯認できる。所論は採用できない。

同第二点について。
所論の一は、単なる法令違反の主張であり、これに対する判断は、右第一点について説示したとおりであり、また二は、単なる量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

弁護人の上告趣意
第一点 
原判決は出入国管理令第二十五条の解釈適用を誤つた違法があり、法律の明文なきにかかわらず刑罰を科したものであつて憲法第三十一条に違反するものと思料する。
本件出入国管理令違反の事実は、不法に本邦に入国した被告人(外国人)が旅券に証印を受けないで出国したというのであるが、これに対し第一審では出入国管理令第二十五条を適用して有罪を認定したのである。そこで同条は被告人の如き不法に本邦に入国した外国人には適用がないと解すべきであるから、第一審の判決は法令の適用を誤つた違法な判決であるとして控訴したのであるが、原判決は「同条は適法に本邦に在留し又は入国した外国人であると、不法に本邦に入国した外国人であるとを問わず総て適用があると解するを相当とする」と判示して控訴を棄却したのである。しかしながら出入国管理令第二十五条に不法入国者も包含すると解した原判決は、明らかに同条の解釈適用を誤つたものと言わなければならない。けだし出入管理令によれば不法に入国した外国人は第七十条によつて処罰されるほか、第二十四条によつて本邦より退去を強制されることになつており、しかも右第七十条の罰則は同令中最も重い刑罰を定めているのである。このように不法入国者を強力に排除すべく規制しながら、不法入国者のあり得ることを前提とした規定を設けるが如きは、格別の事由なき限り、法の権威を失わしめるものであつて、かくの如きは到底法の予想しなかつたところであるというべく、従つて右第二十五条は適法に本邦に在留し又は本邦に入国した外国人を対象としているのであつて、不法に本邦に入国した外国人はこれを包含しないものと解すべきである。証人Bの証言は「法令の規定を密入国者を前提として規定することが出来ませんので、第二十五条の規定中には入つておりませんが、実務をとる場合は只今証言したような方法をとつているのです。不法出国の場合にも二十五条によつております。」と実務上の便宜から不法入国の外国人にも適用しているというのであつて、かかる便宜論から直ちに同条の解釈を左右することはできない。更に又次の理由からも右の解
釈は正当であると信ずる。即ち同令第二十五条は「本邦外の地域におもむく意図をもつて出国しようとする外国人は、その者が出国する出入港において、入国審査官から旅券に出国の証印を受けなければならない(第一項)。前項の外国人は旅券に出国の証印を受けなければ出国してはならない(第二項)。」と規定しており、旅券を所持することを前提としているのである。しかしながら不法に本邦に入国した外国人は、有効な旅券を所持することを期待することは不可能である。原判決は「不法入国者といえどもその本国政府(外交使節)より旅券又はこれに代る身分証明書、入境許可書、国籍証明書等を以つて出国することの可能なることは当審証人Bの供述により優にこれを認めることが出来る。」と判示しているが、B証人の供述を誤解しているのであつて、外国政府においてその国民に旅券を下附するに当つては、本邦に入国し又は本邦から出国するすべての人の出入国を管理する日本政府(法務省入国管理局)に連絡あるものと解すべく(出入国管理令第一条参照)、従つて不法に本邦に入国した外国人が出国するため旅券の交付を申請すれば、必ずや不法入国の事実が日本の捜査機関に発覚し、その結果処罰される虞れがあり(同令第六十二条参照)、不法入国の外国人が有効な旅券を所持しようとするには、この危険において下附の申請をしなければならないのであり、自己の不法入国の罪(しかも不法出国より法定刑の重い罪)を供述すると同一の結果を来たすことになり、不法入国の外国人に有効な旅券を所持することを期待することは不可能であるといわなければならない。以上の理由から、出入国管理令第二十五条は不法に本邦に入国した外国人も包含するものとして第一審の判決を支持した原判決は、同令の解釈適用を誤り法律によらずして刑罰を科した憲法違反の判決であると思料する。
第二点 
原判決は左の事由があつてこれを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
一、判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある。即ち前叙の如く出入国管理令第二十五条の解釈適用を誤つて、本件、被告人が本邦より出国した事実を有罪に認定しているからである。
二、刑の量定が甚だしく不当である。原判決は被告人に対し懲役四月の実刑を科したのであるが、控訴趣意書にも詳述した如く、本件発覚の端緒、被告人が不法出国するに至つた事情、殊に被告人は本件裁判終了次第妻子と共に帰国することになつている事情等を斟酌すれば、懲役四月の実刑は甚だしく不当である。
以上の理由により原判決は破棄せらるべきものと思料する。

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