司法警察職員のした差押処分を取り消す裁判に対する特別抗告事件
昭和43年(し)第100号
最高裁判所第三小法廷
昭和44年3月18日

決定
主 文
本件各抗告を棄却する。
理 由
検察官の抗告趣意第一点は、憲法三五条、一二条違反をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張であり、第二点は、単なる訴訟法違反の主張であり(刑訴法二一八条一項によると、検察官もしくは検察事務官または司法警察職員は「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に差押をすることができるのであるから、検察官等のした差押に関する処分に対して、同法四三〇条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査することができるものと解するのが相当である。そして、差押は「証拠物または没収すべき物と思料するもの」について行なわれることは、刑訴法二二二条一項により準用される同法九九条一項に規定するところであり、差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。しかし、差押物が右のようなものである場合であつても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によつて受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない。したがつて、原裁判所が差押の必要性について審査できることを前提として差押処分の当否を判断したことは何ら違法でない。)、第三点は、事実誤認の主張であつて、いずれも抗告適法の理由とならない。
司法警察員の抗告趣意について。
司法警察職員は、事件を検察官に送致した後においては、当該事件につき司法警察職員がした押収に関する処分を取消しまたは変更する裁判に対して抗告を申し立てることができないものと解すべきである。したがつて、司法警察員の本件抗告の申立は不適法として棄却すべきものである。
よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

特別抗告申立書
国学院大学映画研究会代表者

右の者の申立に基づき、被疑者Bに対する騒擾、建造物侵入、威力業務妨害、公務執行妨害被疑事件について、東京地方裁判所刑事第一三部が本月二二日付でなした、司法警察員Cが同月二〇日東京簡易裁判所裁判官磯部喬の発した捜索差押許可状により、東京都渋谷区東四の一〇二八国学院大学若木会館内映画研究室(映画研究会室の誤記と認む)でした差押処分を取消す旨の裁判のうち、別添一差押目録中番号四の一六ミリフイルムに関する部分に対し、別紙理由により、特別抗告を申し立てる。

昭和四三年一一月二七日
東京地方検察庁
検事正代理次席検事 高橋正八
最高裁判所 御中
(別紙)
理 由
被疑者Bは、昭和四三年一一月七日公務執行妨害罪により現行犯人として逮捕され、同月一一日勾留、引続き取調べを受けていたが、同月一九日に至り、東京地方検察庁検察官Dに対し、被疑者は国学院大学映画研究会の構成員であるが、一〇月二一日の国鉄新宿駅における騒擾事件に際しては、革マル派全学連の学生らと行動をともにし、同駅構内に侵入してこれを占拠し、国鉄の業務を妨害するなどして右騒擾に参加し、その際右映画研究会の構成員が事件現場で一六ミリ映画フイルムおよび三五ミリ写真を撮影し、被疑者は連絡係としてこれに加わつたもので、右フイルムなどは東京都渋谷区《住所略》a荘一八号室(右映画研究会構成員の居室)または国学院大学内映画研究会室に存在する筈である旨自供した。
そこで、前記検察官は、右フイルムなどの証拠としての重要性を考慮し、かつ、革マル派の構成員である右研究会の構成員が同証拠物を任意に提出することは到底期待し得ないと判断し、司法警察員Cに対し、右証拠物の差押方を指揮し、Cは、即日被疑者に対する別添二の騒擾助勢、威力業務妨害、公務執行妨害の被疑事実に関し頭書の場所において捜索差押を行なうため、東京簡易裁判所裁判官に対し、許可状の発付を求めて同日付同裁判所裁判官磯部喬発付の捜索差押の許可状を得、これに基づき、同月二〇日司法警察員Cは、前記映画研究会室において捜索を行ない、別添一差押目録記載の各物件を差押えた。
一方被疑者については、同月一九日取調中の公務執行妨害罪の事件につきこれを釈放し、同日、あらためて警察において右騒擾助勢等被疑事件による逮捕状を得て同人を逮捕のうえ、同月二一日検察官に対する事件送致がなされた。
ところで、右差押物件中本特別抗告がとりあげた別添一差押物件目録四の一六ミリフイムルは、次のようなものである。すなわち、右フイルムは、被疑事実となつている騒擾事件に際して、その騒擾主体の一つである革マル派全学連に属する国学院大学映画研究会の構成員が、革マル派の学生集団と行動をともにし、事件当日革マル派約一,〇〇〇名が、ヘルメツトをかぶり、角材多数を林立させて拠点校である東京大学を出発する状況、新宿に至る前千代田区麹町警察署前で機動隊に阻止され同機動隊および同署に対し、執拗な投石をくり返して攻撃する状況、さらに反転して新宿駅に向け行進する状況、同駅構内へ侵入したうえホーム上その他の警察官、駅施設に対し、集団として激しく投石する状況などを詳細に撮影したものであり、これを新宿における騒擾事件を中心としてみれば、すべての画面が、同事件における騒擾主体の暴力的企図、共同暴行脅迫意思の形成過程、多衆暴行の具体的様相等を何よりも如実に再現しているもので、すでに収集されている多数の証拠と相まち、事件全体の真相を究明するためにも、また被疑者の本件への加担程度、情状等を認定するためにも、証人の供述をもつては到底表現し難い内容を有し、極めて証拠価値の大きい重要な証拠物である。事件の実相を活写している点では、その一貫性とともに、おそらく、これまでに収集し得た写真、映画フイルムよりも一段と優れたものといつても過言ではないであろう。
しかるに、同月二一日国学院大学映画研究会代表者Aより本件捜索差押許可の裁判および差押処分の取消し等を求める準抗告の申立があり、東京地方裁判所刑事第一三部は、右準抗告のうち、後者を認容し、本件差押処分を全部取消す旨の決定をなすに至つた。
原決定は、別添差押目録番号四の本件一六ミリフイルムにつき、これが被疑者の被疑事実との間に関連性のあることを認めながら、第三者の所有する物について押収する場合は、捜査の必要性と押収される第三者のもつ利益との比較衡量が必要であるとの前提のもとに、「本件についてみるに右フイルムは被疑者の具体的な犯行状況を内容とするものではなく、他の共同者の行為を内容とするもので、その罪責に対する影響、被疑者の役割りの軽重の判定、その他被疑者の罪を立証すると思われる作用は極めて低いと思われ、本件被疑者の被疑事実との関係で考える限り、第三者が適法に撮影し所持している右フイルムを押収する必要はさほど強いものとは言えず、右フイルムを押収されることの、その所持者たる映画研究会に与える不利益(その一つとして、彼らはこれを期日の迫つた学園祭に上映する目的を有すること等)とを比較衡量してみた場合には、右フイルムの強制的な差押までは許されない」としている。
しかしながら、原判決は以下詳論するとおり、憲法の解釈に誤があるのみならず刑事訴訟法に規定する物の押収に関する捜査官の権限行使を甚だしく制約し、その立場を無視する極めて不法な裁判であつて、決定に影響を及ぼすべき法令の違反及び重大な事実の誤認があり、これを取消さなければ著しく正義に反するものであるから到底取消しを免れないものと思料する。
第一点 原決定は、憲法第三五条、第一二条の解釈適用を誤りその法意に著しく反している。
原決定は、本件差押物件に関し、捜査官(検察官、検察事務官、司法警察職員の意で以下これに同じ)がその裁量権の範囲内で、裁判官により正当な理由があるとして適法合憲に発付された令状に基づいて実施し、手続上もなんらの法的瑕疵のない、差押処分を事後的に審査し当該物件のもつ犯罪との関連性を認めながら、あえて捜査上の必要性と物件所持者らの利益の程度を比較衡量して強いて差押処分を不当としてこれを取消したのであるが、右の判断は捜査官の行なう差押について実質的必要性(信用性、証拠価値の程度、代替性の程度、他の証拠との量的関係、捜査の発展状況その他の広汎な情況の意義で以下これに同じ)についてまで裁判所が無制約に審査判断できるとの誤解に基づいて、憲法第三五条にいわゆる「正当な理由」に基づいて発せられた令状による適法な差押処分を取消したものであつて、これは憲法第三五条の法意に反し、一方差押物件所持者などの利益を不当に高く評価してこれを捜査上の必要性に対し極度に優先させ、基本的人権が公共の福祉のため利用されるべきことを定めている憲法第一二条の精神に著しく反する結果を招来している。
一、そもそも憲法第三五条が捜索、差押は原則として令状によつて行なうべきこととしているのは、基本的人権を尊重し、国家権力の行使を適正な範囲および手段に限定するものであると同時に、一方捜査によつて犯人を発見し証拠を収集して事案の真相を明らかにし、刑罰法令の適正迅速な適用実現を図り、もつて公共の福祉の維持増進を期そうとする目的の達成を図つているものである。
故に、同条は右各要請を調和させるように解釈すべきで、このような観点から考えると、同条第一項は「正当な理由」に基づいて令状が発せられるべきことを定めているが、ここに「正当な理由」とは犯罪の嫌疑があること、捜査差押の目的物が右犯罪と関連性を有することを内容とするもので、それ以上の理由を含むものではないと解される。
また、すべての国民は公共の福祉のために捜査に協力することを期待されており、そのため刑事訴訟法第二二三条が規定されているほか、同第二二六、二二七条に証言義務も課せられているのであつて、犯罪捜査に必要がある物の所持者はこれを任意に捜査の用に供することを法は期待しているものと解され、その期待に反し法定の理由がないのに協力が得られないことが合理的に推測される状況下において、捜索すべき場所と差押の目的物を特定して差押えることは、当該物の所持者の基本的人権をなんら不当に制約することとなるものではない。憲法がその第三五条で実現しようとしている人権保障の目的は、差押が右の理由と方式を備えていることによつて十分に満足されているものと言わなければならない。従つて、同条は裁判所が差押許可状の発付、或いは差押処分の審査にあたり右の各要件以上の事項について実質的に審査することを当然に認めているものではなく、わけても差押の実質的必要性特に捜査の必要と物件所持者などの利益との比較衡量をなすべき権能を定めているものでもない。
二、捜査における差押手続の主体はあくまで捜査官であつて、その差押の実質的な必要性の判断は捜査官の裁量によることは自明の理であり、右の裁量権への安易な干渉は捜査上の手続形成そのものを麻痺させるおそれがある。すなわち捜査の遂行の権限と責任を有しない裁判官が差押の実質的必要性の有無について広く審査、判断をすることは、捜査そのものに関与することに帰するのである。
右のことは三権分立を基本的原理とするわが憲法の基本的立場からしても言いうるところであつて、要するに憲法第三五条第二項は裁判官に行政権の作用である捜査に実質的に関与するがごとき差押の実質的な必要性についての判断権を無制約に与えたものと解することは許されないものといわなくてはならない。
故に憲法第三五条は裁判所に対し差押の実質的必要性の有無を審査判断する権能を与えたものではなく、また、後記のように刑事訴訟法上もまた、かかる権限は認められていないのである。
しかるに本準抗告裁判所が無制限に右必要性について判断したことは憲法第三五条が目的とした基本的人権の尊重と公共の福祉の維持増進の調和を破り、捜査機関の裁量権を著しく阻害するものであり、きわめて失当といわなければならない。
三、原決定の申立人は、憲法上保障された基本的人権に反する差押は許されないと主張し、原決定は、差押の必要性を判断することができるとして、その必要性の判断に当り、申立人の主張を容認したのではないかと思料されるのであるが、かかる憲法上の解釈は、いずれの点からも認めることができない。
例えば憲法第二一条第二項の通信の秘密に関する物件といえども、刑事訴訟法第一〇〇条の規定により差押を行なうことができるし、また報道機関についても、刑事訴訟法第一四九条の証言拒絶権に関する最高裁判所昭和二七年八月六日大法廷判決(刑集六巻八号九七四頁)の判旨によつて明らかなように、刑事訴訟法第一〇五条に制限的に列挙される業務に報道機関が含まれていないことを留意すべきである。まして、後述するように本件フイルムの撮影は犯行集団の一員として同集団の側に立つて、その活動を記録しようとしたものであつて、報道を目的としたものとは認められず(被疑者調書参照)客観的にも報道の自由の範囲内のものとして特別に取扱うべき公共性を具備しないことは明らかである。
さらに、学問、研究の自由との関係についてみても、本件撮影行為およびその利用行為は「真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動にあたる行為をする場合」(最高裁判所昭和三八年五月二二日大法延判決、刑集一七巻四号三七〇頁)であつて、これを「大学の学生が学問の自由を享有しうる場合」とみることは到底できない。(この点申立人Aに対する決定は、本件フイルムを学園祭において上映する目的を有していた旨述べているが、被疑者の供述によつても右の目的は認められず、かりに上映の目的が右のようなものであつたとしてもこれをもつて直ちに捜査の必要に優先すべき利益とは認められない。)。以上述べたように、原決定が捜査上の必要と所持者らの利益を比較衡量したうえ、後者が優先すべきものと判断したのは、結局基本的人権の濫用をいましめ、基本的人権を公共の福祉のために利用すべきことを定めた憲法第一二条の解釈、適用を誤つたものといわなければならない。
第二点 原決定は、刑事訴訟法第一条ならびに第二一八条の解釈を誤つたものであつて同法第四一一条にいう重大な法令の違反がある。
一、原決定は、適法に発付された令状に基づき、かつ、その実施についてもなんらの瑕疵がない本件差押処分について、当該差押物件のもつ犯罪との関連性を容認しながら、あえて捜査上の必要性と第三者の利益との比較衡量にまで立ち入つて判断し、差押処分を不当としてこれを取消したのであるが、右判断は明らかに刑事訴訟法第一条ならびに第二一八条の解釈を誤つたものである。
二、本件差押えにかかる物件は、前述のごとくきわめて証拠価値が高く、かつ代替性を有しない証拠物であるが、捜査機関としては、真実を発見して公共の福祉を維持し、刑罰法令の適正かつ迅速な適用をはかるためには、これらの物的証拠をできるだけ迅速かつ豊富に収集しなければならず、このことはとりもなおさず公判審理の長期化を避け、刑事被告人に迅速適正な裁判を保障することとなるのである。
従つて自由の偏重を避けつつ真実を発見するためいわゆる科学的捜査を遂行することが要請されている現行刑事手続においては、とくに右のような証拠価値の高い物的証拠を収集することが可能なかぎり担保されていることを要するのであり、一方すべての国民は原則として捜査に協力することを法は期待しているのであつて(たとえば刑法訴訟法第二二三条、第二二六条、第二二七条)、その期待に反し正当な理由がないのに協力が得られない場合、法定の手続によつて捜索、差押を行なうことは当該物件の所持者の基本的人権をなんら不当に制約するものでなく、刑事訴訟法第一条は右の条理を明示したものというべきである。しかるに原決定が、本件証拠物によつて同法第一条に定めるところの事案の真相を明らかにし、捜査及び公判審理の期間を短縮し刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現しうる点を無視して、その必要性が少ないとの判断をなしたことは刑事訴訟法第一条の法理に背反するものといわざるを得ない。
三、刑事訴訟法第二一八条第一項は、捜査機関が「犯罪の捜査をするについて必要があるときは裁判官の発すれ令状により」差押、捜索をすることができる旨規定しているが、その必要性の判断は一にかかつて捜査機関の権限に属するものであり、一見明白な瑕疵がなく、あるいは著しく合理性を逸脱していないかぎり、裁判官は必要性につき立ち入つて判断することはできないものと解される。いわんや捜査上その必要性が明らかな場合に第三者の利益との比較衡量をするごときは、明らかに裁判官としての権限を逸脱した判断であるといわざるを得ず、このことは以下論述するところによつて明らかである。
いうまでもなく、捜査権は行政機関である検察官、司法警察職員等の専権に属し、かつ捜査の遂行はきわめて流動的かつ発展的でありまたとくに迅速に行なわれることを要するのである。かかる本質を有する刑事手続にあつては、捜査の必要性の判断は、捜査機関の裁量にかかるものであることは当然の事理であつて、裁判官が前述の限界をこえて必要性、相当性の判断をなすことは、本来の捜査それ自体に関与することとなり法の建前を破るのみならず、実際問題として流動的に発展する捜査過程における処分の必要性の判断は、その衝に当る捜査機関のみがよくなしうるものといわなくてはならない。
また逮捕状についての刑事訴訟法第一九九条第二項の規定は、昭和二八年における改正にあたり、その以前においては、裁判官が令状発付につき、必要性の審査権又は審査義務を有するか否かについて解釈の分れるところがあつたので、差押、捜索よりも基本的人権に影響するところの大である逮捕について裁判所に必要性の審査義務を課したのであるが、同時に同項は「明らかに逮捕の必要がないと認めるとき」でないかぎり裁判官は逮捕状を発すべきことを定めているものである。よつて前述の一部改正の際においてその他の差押、捜索、検証の処分に関する裁判官の審査義務についてはなんらふれることなく従来の規定を存置した経緯に照らすならば、差押の実質的必要性に関する裁判官の裁判権は基本的にはなくきわめて例外的に制約されたわく内でのみ認められるものといい得るのである。
故に,すでに令状発付裁判官の判断を経て正当に発付された令状に基づいてなされた差押処分に関し前述のごとき立つ入つた事後判断をなすことは明らかに法の解釈を誤つたものである。 
なかんずく原決定は、「押収する必要性はさほど強いものとはいえない」旨の判断をなし、相当性の有無に関してまで言及していることは明らかに捜査権に容かいするものであつて、準抗告裁判所としての判断の限界を著しく逸脱したものというべきである。
さらに原決定は、本件フイルムは「被疑者の具体的な犯行状況を内容とするものではなく、他の共同者の行為を内容とするもので、その罪責に対する影響、被疑者の役割の軽重の判定、その他被疑者の罪を立証すると思われる作用は極めて低いと思われる」旨述べている。前述のごとくかかる判断を加えること自体失当であるのみならず、本件フイルムは被疑者に関する直接証拠として、自白を補強するほとんど唯一の証拠物であり、かりに被疑者自身の映像が写つていないとしても、被疑者が騒擾現場における連絡係をしていた点などから、撮影者とともに行動していることが認められるのである。さすれば本件フイルムは現場における被疑者の行動、位置関係を明らかにし、共同暴行の意思、加担の程度などを明らかにするうえで不可欠の証拠であるのみならず、フイルムに写つている革マル派集団の状況すなわちその行動状況が過激的であるか否かは、同集団に属する被疑者の犯情を確定するうえでも重要な事情となるものである。
また原決定は、あたかも差押の必要性が、被疑者との関連においてのみ判断されるべき問題で
あるごとく述べているが、およそ証拠物は共同犯行者全体、すなわち本件の場合は騒擾事件の全被疑者との関連において共通の証拠価値を有するものであつて、たまたま被疑者が一名であることをとらえて証拠物自体の有する証拠価値を過少に評価することは右の原則を忘れたものといわざるを得ない。
以上の次第で原決定は、刑事訴訟法第二一八条の解釈を誤り、不当に必要性に関する判断をなしたものであつて明らかに失当である。
第三点 原判決は、刑事訴訟法第四一一条にいう重大な事実の誤認がある。
捜査官の行なう証拠物の差押処分について、その適否を判断する準抗告裁判所に、差押の必要性についてまで実質的な審査権限がないと解すべきことは前述したとおりであるが、かりにこれら必要性について裁判所に審査権限があるとしても、原決定は、これらの判断をなすにあたり重大な事実の誤認をなし、その結果捜査官にとつて全く容認し難い結論を導くに至つたものである。
原決定は、捜査の必要性と押収される第三者のもつ利益との比較衡量をなすにあたり、一方で、本件フイルムは被疑者の具体的な犯行状況を内容とするものではなく、他の共同者の行為を内容とするもので、その罪責に対する影響、被疑者の役割りの軽重の判定、その他被疑者の罪を立証すると思われる作用はきわめて低い、との誤つた判断を示し、他方でも本件フイルムは、第三者が適法に撮影し所持するものとの独断をなしている。しかしながら、本件騒擾事件のごとく、数千人にのぼる暴徒が長時間暴行脅迫を逞しくした事案においては、各種多量の証拠を比較検討し、本件全体の様相とその間における個々の被疑者の加担程度等を総合的に認定把握すべきもので、しかもそれにはかなりの長時間の努力を要するものであり、個々の被疑者の行為を認定するにあたり、準抗告裁判所のように各種の証拠を別個分断し、しかも短時間一見したのみで評価するごときは、およそ捜査官の日夜をわかたぬ努力には程遠いものがある。原決定は、本件フイルムは被疑者の具体的な犯行状況を内容とするものではない、とするが、被疑者が右フイルムに撮影されている革マル派学生集団と行動をともにしていた疑いが濃い以上、まさにそこにあらわれている映像の如く共同行動をとつた疑いもまた濃いのであつて、他の共同者の行為は、すなわち被疑者の役割りを判定するうえに無視できないのみならず、これらフイルムの画面に被疑者が写つているか否かは、被疑者の取調担当官が被疑者の人相、着衣から挙措動作の特徴に至るまで十分に理解把握してようやく発見するに至る場合があり、さらに、本件フイルムと他の多くのフイルムなどを比較検討することによつて、相互の関連や、被疑者自体、およびその属した集団の行動の連鎖を見出す例も多く、現に本件騒擾事件で起訴した被告人中には、勾留取調を行なうこと二〇日近くにして、ようやく証拠写真中より、その犯行の決定的瞬間(放火行為の後姿)を見出した例も存するのである。結局、原決定は、群衆犯罪ないし多数共犯者ある場合の犯罪の事実認定にあたり、証拠は、当該被疑者のみならず全被疑者との関係においてその必要性を判断すべきことを知らず、また本件被疑者のみにつき、本件フイルムのみをみても、そこにあらわれている革マル派ら学生集団の行動如何が本件被疑者の犯罪の成否、情状の認定に密接に関連しきわめて必要性の高いことをみようとしないものというほかない。
さらに、原決定は、本件フイルムが第三者によつて適法に撮影されたものとしているが、右撮影者たる同学院大学映画研究会員が従来から集団暴力をくり返してきた革マル派に属し、本件当日も右集団と行動をともにしたものであつて、暴徒集団の外にあつた第三者でないこと、被疑者とは共同犯行者たる関係にあることの疑いが濃いこと、撮影の場所も、新宿駅構内に集団とともに不法に侵入したうえ暴徒集団の中に身をおいていたと認められる場合が多いこと、フイルム購入資金を被疑者も負担しているなどにかんがみれば、到底適法に撮影したとは認められないこと、これらの実情から映画研究会として自己の利益を主張する根拠のないことすでにる説したとおりであつて、この点においても原決定は明らかに事実を誤認している。(押収しないときの隠滅の危険も考慮しなくてはならない)
以上の事実誤認はすべて本件証拠物差押の必要性につき誤つた判断をする際の基礎となつているものであつて、原決定の結論に決定的な影響を及ぼしていることはきわめて明白である。
以上の諸点よりして、原決定が本件差押の必要がないと判断したことは失当であり、今後憲法第三五条および関係法令の解釈運用に影響するところが多大と考えられ、刑事訴訟法第四三三条にいわゆる同法第四〇五条の理由があるのみならず同法第四一一条一号および三号の事由があつて、原決定を破棄しなければ著しく正義に反することが明らかなる場合に該当するものと信ずるので、御審理のうえ前記東京地方裁判所刑事第一三部のなした本件差押処分取消決定を取消し、相当な裁判を求めるため特別抗告の申立をなした次第である。
(付言)

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