上陸不許可処分執行停止却下決定に対する即時抗告申立事件
昭和45年(行ス)第21号
抗告人(申請人):A、相手方(被申請人):羽田入国管理事務所特別審理官
東京高等裁判所(裁判官:石田哲一・杉山孝・小林定人)
昭和45年11月25日

決定
主 文
原決定を取り消す。
相手方が抗告人に対し昭和四五年一〇月三一日付でした口頭審理認定処分の効力は、東京地方裁判所昭和四五年(行ウ)第二一四号口頭審理認定処分取消請求事件の本案確定に至るまでこれを停止する。
申立費用は原審抗告審とも相手方の負担とする。
理 由
抗告代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙抗告理由書及び同補充記載のおりである。相手方指定代理人の意見は別紙意見書記載のとおりである。
右に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
一、認定処分の性質について
抗告人が本件執行停止申立において効力の停止を求める口頭審理認定処分は、その実質において上陸不許可処分の性質を有し、抗告訴訟の対象となる行政処分であると解するのが相当である。即ち、口頭審理の結果、特別審理官のなす出入国管理令(以下令という。)第七条一項各号に規定する上陸のための条件に適合していないとの認定は、単に行政庁の内部的確認行為にとゞまるものではなく、これを上陸申請をした外国人に通知することにより、上陸申請に対する不許可を告知するものである。上陸の申請に対する許否の処分は、上陸許可の証印もしくは退去命令によつてなされ、その前提となる認定は、行政処分ではないとの考え方も首肯しえないではないが、退去命令が本邦外への退去を下命するという積極的な効力を有する点よりすれば、その前提となる認定に不許可処分としての効力を認めることも不合理ではない。かように考えれば、異議の申出は退去命令にとつては事前審査であるが、上陸不許可処分にとつては事後審査となるのであつて、異議の申出と文辞を改正したのも、右手続が上級庁である法務大臣に対するものであつて、この点において処分庁に対してなす行政不服審査法による異議の申立とは性質を異にするから、混乱を避けるためとも考えられるのであつて、相手方の主張するように異議の「申出」の文書を用いたことが必ずしも事前審査手続であることを明らかにするためとばかりとは考えられないのである。(まず、異議の申出を事前審査手続であると解釈してそれを理由に口頭審理認定を行政処分ではないとする相手方の主張は
その点においては本末転倒の議論であるとの感が免れない。)
二、認定処分の効力の停止の申立の利益について
上陸に関する令の規定は、船舶等の内で上陸申請の審査を受け、上陸の許可を受けた者のみが本邦に上陸することができ、不許可処分を受けた者は船舶等に留まり、船舶等の出港によつて本邦から退去せざるをえなくなるのが、規定の建前である。しかしながら、航空機によつて入国した場合には機内で上陸の申請の審査を行なうことは不適当であるので、上陸申請者を審査前にもかゝわらず降機させ、ターミナルビル内に設置された審査場所において審査を行なうこととしているため、外国人が上陸の申請の審査を受けるために航空機を降り、指定された通路を通つて審査場所に至り、審査手続が終了するまでその場所に留まることになり、事実上は本邦内の陸上に留まつているわけであるが、令の運用上からは事柄の性質上未だ本邦に上陸したものとは解せられないのであつて、さらに審査手続が口頭審査、異議の申出、裁決と順次行なわれて即日終了しないときに、審査場所の範囲をその最至近距離内にある特定のホテル内の特定箇所にまで拡張して、当該ホテルに止宿させる場合についても同様に解することができる。しかしながら、以上はあくまで上陸の申請の審理のためになされるものであるから、上陸申請の審査手続が退去命令の発出により終了すれば、もはやかかる取扱いをする必要もなくなるので、退去命令に指定された乗船予定日を経過しても依然として滞留する場合には、上陸許可の証印を受けないで本邦に上陸した者として、令第二四条第一
項第二号に規定する不法上陸者に該当すると解するのも一つの考え方であり、現に相手方はそのように主張している。
そうだとするならば、本件口頭審理認定処分の効力が停止されれば、上陸申請の審査手続がまだ終了していないことになり、抗告人が審査場所又はその範囲を拡張されたホテル内に滞留することは、いまだ本邦に上陸したものとはみなされないことになり、不法上陸を理由に抗告人に対して国外退去を強制しえなくなる、かかる意味において抗告人に対して本件申立をなす利益があるというべきである。(当裁判所としては退去命令に強制力を与えず、上陸の申請をした外国人の任意退出を期待した令の建前とその考え方の合理性を思うと、退去命令に従わなかつたときには、退去強制の理由として挙げられているいわゆる不法上陸者に該当すると解することは法律解釈としては誤つていると考える。
そうだとするならば認定処分の効力の停止を求めなくても不法上陸を理由として退去を強制されることはないので停止を申立てる利益がないことになる。 
しかしながら退去命令に従わなかつた外国人をそのまゝ本邦内に滞留させておいてよいとは云えず、むしろ退去させる方法を考えるのが当然だというべきであるので、令の解釈として相手方の主張するような考え方も無下に否定し去る訳にも行かず、それ故に停止の申立の利益ありと解するもので、要は令の改正問題として早急に立法によつて解決されるのが適当と考える。)
三、本件についての事実認定(申立の要件の具備について)
 本件記録によれば、抗告人に対して相手方が上陸不許可処分をなすに至つた経緯は、すべて原決定摘示のとおりであることが疎明される。そして抗告人が本件執行停止申立事件の本案訴訟における不服の理由は、抗告人の申請した観光という在留資格が虚偽のものではないとは認められず、かつ、令第四条第一項各号所定の在留資格の一に該当しないとした口頭審理認定処分の事実誤認による違法を主張するにあることは本件記録に基づきうかゞうことができる。
一般的に外国人の入国の規制は、国際法上国家の自由な決定に委ねられ、原則として国家は外国人の入国を許すべき義務を負うものではなく、外国人は入国する権利を有するものではない。
これは国際法上確立された慣習法であると解されている(条約による制約についても、わが国と抗告人の本国であるアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約においても、相互の国民が、外国人の入国及び在留に関する法令の認めるその他の目的をもつて、他方の締約国の領域に入り、在留することを許される̶第一条IC̶と規定するにすぎない)。国際交通の自由の原則は好ましいにしても、現行法上においては、あくまで理想にすぎないのである。わが国においては、出入国管理令が外国人の在留資格を定め、外国人は在留資格を有しなければ本邦に上陸することはできない(第四条第一項)と規定しているのであるが、右規定の趣旨、上陸を許すべき外国人の資格を限定し、従つて、そのいずれにも該当しない外国人は上陸を許さないとしているものと解すべきであつて、令の規定する在留資格は単に上陸しようとする外国人を分類し、その在留を規制するための技術的手続的規定にすぎず、上陸しようとする外国人は、すべていずれかの在留資格に該当し、上陸の拒否事由(令第五条)に該当しない限り入国が許されるものと解することはできない。従つて同じく旅券に証印を受けることを要するといつても、出国の証印(令第二五条)と入国の証印(令第九条)とではその性質を異にし、前者は、外国人が本来的に出国の権利を有している点よりして管理の適正を期するための技術的手続的制約にすぎないけれども、後者は、外国人は、本来的に入国の権利を有せず、これによりはじめて本邦に上陸し、在留する法的地位を付与されるのである。抗告人は、かように解すれば、法の定めない上陸拒否の事由を設けるに等しいと主張するが、在留資格の規定(令第四条)と上陸拒否の規定(令第五条)とは規制の面を異にし、第五条の規定は、形式的に第四条に該当しても第五条に規定する拒否事由があれば、本邦に上陸できないというのであつて、第五条に該当しない者はすべて第四条のいずれかの規定に該当し、在留資格があるというわけではない。在留資格のいずれかの一に該当しない者が上陸を許されないのは現行制度上当然であつて、上陸拒否以前の問題である。抗告人のこの点に関する主張は令に規定する在留資格についての立法論としてなら格別、令の解釈論としては理由がない。
令第四条第一項第四号に規定する観光客の行なうべき観光の概念の内容、範囲は、同項のその他の各号に規定する者の行なうべき活動が、主として経済、商業、文化芸術、教育研究、宗教等積極的な活動を内容としているのに比較して必ずしも明確であるとはいい難く、在留資格の規定について改正の要ありと考えられるが、そうだからといつて現行法上その内容を広く解して、他の各号に該当しないものはすべてこれに含まれると解しえないことは、前記のとおり、出入国管理令はすべての外国人の入国を許す建前とはなつていない点、また同項が包括規定(第一六号)をおいている規定の体裁からしても明らかである。従つて観光の概念は限定的であるべきであつて、以上の点よりして、同号にいう観光客の行なうべき観光とは、文言通り名所、旧跡、景観等の見物等狭義の観光を規定したものというべきでそのほか、休養、娯楽、近親友人訪問、並びにこれらに類する活動を含めても差支えないと解するのが相当である。右観光客の概念如何は別として、ある活動が右にいう観光の概念に含まれるか否かということと観光客がその活動をすることが出入国管理令の上から許されるか否かということとは別異に考えるべきであつて、当該活動が仮りに観光の概念に含まれないとしても他の在留資格に属する者の行なうべき活動でないかぎり、観光客が観光に伴なつて、あるいは従としてその活動をすることは、現行法上令の規制の対象とはならないものと解する。(令第二四条も資格外活動のうち他の在留資格に属する者の行なうべき活動のみをとりあげて退去強制事由に掲げる、なお在留資格の変更についての規定の中に観光客は除外されていることも合せ考えるべきである)。以上のことは、上陸申請にかゝる在留資格が虚偽のものでないか否かを判断するにあたつても同様に解すべきである。
よつて抗告人の申請にかゝる観光の在留資格が虚偽のものではないと認められるか否かについて検討するに、抗告人の今回の本邦への入国は、その実質において沖縄旅行以前の本邦での在留の継続とみなすべきであるから、右在留中の抗告人の活動は、今回の上陸目的を検討するについて判断の資料となるものというべきである。本件記録によれば、抗告人が昭和四五年七月二日から同年一〇月二四日まで本邦に在留中東京及びその周辺、京都、大阪、奈良、広島岩国およびそれらの周辺、九州についていわゆる狭義の観光を行つていることが疎明されるが、また他方その宗教的反戦の信念から岩国、福岡、佐世保において米軍兵士に反戦に関するカウンセリングを行なうほか、センパー・フアイ等の機関紙あるいはビラの配布、マイクで反戦を呼びかけ、広島においてデモ行進に参加する等の活発な反戦活動(これらの活動の多くは観光の概念には含まれないと解せられる。)をしたことが疎明される、さらに抗告人は、口頭審理において来日の目的は、すでに反戦の信念を持つているできるだけ多くの日本人と、如何にすれば米軍基地に関して日本人が最も良く反戦活動を続けられるかということについて語り合うことであり、また、日本の秋も楽しみたいと供述しており、さらに法務大臣に対する異議申立書には、本邦各地の観光旅行の計画をもつていることを述べてあることが疎明される。これらの事実によれば本件停止申立事件としては相手方の主張するように抗告人の上陸目的がその主張にもかゝわらず、観光は単なる名目的形式的なものにすぎず、真の目的はもつぱらあるいは主として反戦活動を行なうにあり、従つて、申請にかゝる在留資格は虚偽のものではないとは認められないと断定することは困難であり、右の点は本案訴訟における主張、立証にまつべきものと考える。従つて本案の審理を経ない現段階では本件口頭審理認定処分の適法であることが疑いを容れる余地のないほど明白であるといい難く、本件申立はその本案が理由がないとみえる場合にあたらないというべきである。
よつて右と判断を異にし抗告人の申請に係る在留資格が虚偽のものでないと認められないと判断した認定処分を違法とはいえないとした原決定は失当であり、この点において本件抗告は理由があり、抗告人の本件申立は行訴法二五条の要件を欠くものではない。
 抗告人の本件執行停止申立について他の法定要件である回復困難な損害を避ける緊急の必要の有無について判断する。抗告人は、本件処分の効力を維持されると本邦より出国せざるをえず、さらに退去強制処分により身柄を拘束され、本国へ送還されるおそれも生ずる。(当裁判所としては退去強制の処分が許されないと解することは前にも述べたとおりであるが、相手方は現に右処分をしようとしていることは明かであるので、事実上上記おそれのあるものと云える)かくては、本件処分の取消しを求める本案訴訟の維持が事実上不能となつて、裁判上の救済の途が閉されるばかりではなく、今後一年間は、本邦への入国は許されなくなる(令第五条第一項第九号)。従つて抗告人は、回復困難な損害を蒙るおそれがあり、これを避けるため右処分の効力の停止を求める緊急の必要があるというべきである。
四、よつて、原決定を取消し、抗告人の申立を容認することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(別紙)
抗告理由書
一、原決定は、「……以上認定に係る事実関係のもとにおいては、被申請人が申請に係る在留資格が虚偽のものでないとして行なつた本件上陸不許可処分をもつて敢えて違法と断ずることは許されないものというべきである。」として本件申立ては、行訴法二五条所定の執行停止の要件を欠くものであるとしたがこれは同法二五条の三項に定める執行停止の決定は「本案について理由がないと見えるときは、することができない」との解釈を誤まるものである。
即ち同項は執行停止の消極的要件を定めたものではあるが、申立人は執行停止の段階では問題の処分が違法であることまでも疎明する必要はないことを明らかにしたものであるから、本件においても申立人は本件上陸不許可処分が違法であることまで疎明する必要がないことは明白である。
したがつて原判決の右の如き解釈は申立人に極めて難きを強いて執行停止制度の趣旨を没却する誤つた解釈であることは明白である。(杉本「行政事件訴訟法の解説」八九頁参照)
本件においても問題とさるべきは、本案の処分が違法かどうかではなく「本案について理由がないと見える」かどうかであつて、本件全証拠ならびに以下に述べるところを総合するならば、この段階で本件申立てが、その本案について理由がないと見える場合にあたらないことは明白である。
二、原決定は、抗告人の在留資格は「観光客」であるところ、既に一二〇日間の在留期間が与えられたのであるから、観光の目的は一応達せられていたものと認められるとしている。
しかしながら、抗告人に対してそうであるように観光目的の外国人に対して数次往復査証が与えられた場合には、観光客としての在留資格を有する外国人は長期間の間に何回でも我国への入国ができ、結局は相当長期にわたつて我国に在留できる資格が与えられている。
このような査証が、入管令にいう「観光客」に与えられている所以は、後述するように入管令にいう「観光」なるものが、単に「名所旧蹟もしくは景観等を見物すること」を意味するに止まらず、広くその国の色々の人々との交流までを含むものであり、その目的のためには、かなり自由な、ある程度長期の滞在を許すのが望ましいからである。
のみならず、狭義の観光についても当面の具体的な観光のスケヂユールの終了ということがあつても、さらに新しい所を見物したいとか、もう一度見物したいということが十分考えられ、観光の目的の達成というものは極めて主観的なものであるというところからも右のような数次往復査証が与えられるのである。
そして本件においても、抗告人は現に四八ケ月間に何回でも入国可能な査証を与えられており、抗告人の狭義の観光目的も、その具体的な旅行計画に照して明らかなように、未だ達成されていないのである。従つて一度数次往復査証を与えておきながら、二度目の観光はその必要がないというのは極めて不当な見解といわざるを得ないのである。
三、原決定は、入管令四条一項四号の「観光」とは必ずしも厳格な意味において本邦内の名所旧蹟もしくは景観等を見物することだけを意味するものではないとしながらも、抗告人の以前の我国における良心的戦争反対者としての行動を、これと対立するものとして評価している。
、しかしながら、入管令の原文である英文の法案によれば、「観光」「観光客」は「tourism」「tourist」となつており、「sightseeing」となつておらず、そこには、広く旅行をしながらその国の人々と全人格的な接触、交流を図ることを意味する概念が使用されている。
この点からして、入管令にいう「観光」とは、広く人々との全人格的交流をも意味するものとして解釈さるべきである。
それ故、現に著名な文化人の文化活動、国際的平和運動家の平和運動のための来日は、そのほとんどは「観光客」としての在留資格によつており、原水爆禁止世界大会等に出席する外国代表も、まさに平和運動の目的のみで入国することが客観的に明らかな状況下で観光客として入国が許されているのである。
仮に抗告人の以前の我国における平和運動的行動が「観光」と対立するものであるとすれば、右のような明白に平和運動を目的とする外国人の入国の場合は、観光客としての在留が許されないのは勿論、入管令四条一項の各号の在留資格のいずれにも該当しない者として、その一切の入国が許されないということになる。
とすれば、我国は外国人の出入国管理において、国際的規模での平和運動に関係する外国人の入国を全く許さないということとなり、憲法がその柱とする国際主義の精神に明白に反することとなる。
このような事態は、「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」(憲法前文)日本国民としては、到底許されないことであり、かかる事態を生ぜしめる法解釈は、その結果の不当性を照しても許されないといわなければならない。
、そもそも抗告人の反戦のための行動は、クエーカー教徒としての深い戦争反対の信念に支えられたものであつて、その具体的行動は合法的、平和的な表現活動であり、抗告人の人々に対する全人格的働きかけとして、抗告人のtourismにおける日常生活の一部をなしているものである。
我々は、ともすれば、市民としての隣人等に対する自己の思想、良心の表現、働きかけを日常生活とは切り離して、あたかも職業として活動の如き独立の活動として評価しがちであり、反戦の訴え等というと、市民の日常生活とは異質の特殊な活動と考えがちである。
しかしながら、一市民の宗教、思想の表現活動をその日常生活から切り離し、特別視することは、政治家、評論家の職業人としてではなく、一市民として、思想を表現しようとする者を、何もしない者とは異つた特殊の人として評価し取扱うことにほかならず、それは国民一人一人がその日常生活の中において政治、社会を考え、自己の思想を表現することその中心としている民主主義の精神に反するものといわなければならない。
加えて、抗告人の如きクエーカー教徒にとつてはその良心の表現は、伝導師ならずとも日常生活の一部なのである。
要するに、前回の旅行中における抗告人の反戦のための行動を、その旅行から切り離してtourismとは異なるものとして評価することはtourismの意義の解釈、抗告人の行動の評価を誤まつたものといわなければならないのである。
四、原決定は、その結論部分において、抗告人が東京̶サンフランシスコ間の航空券と本邦の観光に必要な可成の費用を所持しているとしても、その摘示する事実関係のもとにおいては、抗告人の申請に係る在留資格が虚偽のものでないとは認められないとする処分は違法と断ずることはできないとしている。
、しかしながら、入管令施行規則四条の二は、その二号において我国に観光客の在留資格で入国しようとする外国人は、出発国等までの船舶等の切符、我国における在留期間等を通じて有効な旅券ならびに我国の観光に必要と認められる費用の三点を所持していることを立証すれば、観光客の在留資格が虚偽のものではないことを立証したこととされる旨規定している。
これは、在留資格の立証といつても異国において将来の活動予定という主観的意図を内容とする事柄について迅速かつ十分に立証をすることは困難であるところから、一種の法定証拠主義を採用し、入国の際は、客観的証拠によるチエツクのみに止め、入国後現実に在留資格外活動をもつぱら行なうに至つたときに、退去強制事由に該当する者として追放することとしたものである。
従つて観光客として入国しようとする外国人が前記三点の所持を立証したときは、その入国を認めなければならないのであつて、入管当時が在留資格が虚偽であると主張することはできない。
前回の我国滞在中のの活動を理由に当該外国人の入国を拒否し、当該外国人に対し、今回は真実である旨の立証をさらに要求することは酷を強いるもので許されないというべきである。
しかして、東京̶サンフランシスコ間の航空券、一九七五年六月二四日まで有効な旅券、我国の観光に必要十分と認められる六四〇ドル余りの金を所持していることの立証をなしている抗告人としては、その申請に係る在留資格が虚偽でないことの立証を尽しているのであるから、抗告人の上陸申請は許可さるべきなのである。
、なお施行規則四条の二は、入管令七条二項を受けて、その内容を明らかにしたものであるが、それが仮に法定証拠主義を採用した規定ではないとしても外国人に規則四条の二の規定する定型的な証拠以上の立証を要求することは前述のとおり困難であるから入管令七条二項は入国しようとする外国人に、入国条件に適合しているか否かの点についての実質的挙証責任を課したものではなく、いわゆる形成的挙証責任を負わしたに止まると解すべきである。
五、原決定は、その理由の第四丁表において、申請人は被申請人の口頭審理において「今回の入国目的
は、すでに反戦の信条を抱いている一人でも多くの日本人と話合い彼らの在日米軍基地に関する反戦活動を支援したいということです……」と申述した旨を認定しているが、右認定は疎乙第四号証についての被申請人の誤つた翻訳にもとづくものであつて重大な事実誤認をおかすものである。
原文の正確な訳は「今度の私の来日の目的は日本の人々が米軍基地に関して、どうすれば最も良く反戦活動を続けることができるか、という信念を既に持つている日本人とできるだけ沢山語り合うことです。」というのであり、「彼らの在日米軍基地に関する反戦活動を支援したいということです」などということを抗告人が述べた事実は全くないのである。
(別紙)
抗告理由補充書

一、特別審理官の認定は行政処分である。
相手方は、特別審理官の口頭審理認定処分は行政処分ではなく、行政処分のなされる以前の単なる内部手続にすぎないと主張する。
しかしながら特別審理官の口頭審理は入国審査官が上陸許可の証印をする場合を除いて、当該外国人を特別審理官に引渡しをした場合に行われるものであるが(令第九条四項、第一〇条一項)、この場合には、特別審理官は、口頭審理に関する記録を作成しなければならず、当該外国人はその代理人は証拠を提出し、かつ証人を尋問する権利が与えられている。そして、右の口頭審理の結果、当該外国人が、令七条第一項の条件に適合していると認定したときには、上陸許可の証印をしなければならない一方、右条件に適合していないと認定したときには、当該外国人に対してすみやかに理由を示してその旨を知らせるとともに、法務大臣に対する異議申し出をなすことができる旨を告知しなければならないのである。
口頭審理認定処分が相手方のいう如く行政庁の最終的行政処分(退去命令又は上陸特別許可)に至る全くの内部的手続であるとするならば、その中間段階の結果が行政庁の外部の者すなわち当該外国人に告知されるということは考えられないし、その中間段階の行政の結果に対して外国人から異議申立てが出来るということも考えられないことである。
確かに口頭審理認定処分→異議→法務大臣の裁決という過程をふむことは行政を慎重に行うためのものとはいえようが、それが相手のいう如く行政の内部手続であるならば、これを法律を以つて定める必要はなく、省令あるいは内部規則ですむことであるし、右の手続が法律で定められているということは、行政庁と国民との間の関係を定めるものであることの何よりの証左というべきである。従つて行政の慎重ということから直ちに入管令一〇条の規定を無視して口頭審理認定処分を行政庁の全くの内部手続と解するのは正当な解釈とはいえない。
相手方は更に行政不服審査法の制定に際して、令の一部改正がなされ、それまで使用されていた「異議の申立」という用語が「異議の申立」という用語に変更されたことを以つて、特別審理官の口頭審理認定処分に対する異議申出は行政不服審査法四条二項にいう「別に法令で定める不服申立て」の制度ではないと主張する。
確かに相手方主張のような変更がなされたことは事実であるが、本件で問題となるのは、特別審理官の口頭審理認定処分に対する異議の申出が行政不服審査法第四条二項にいう「別の不服申立制度」であるか否かではなくて、口頭審理認定処分が行政事件訴訟法二五条にいう処分であるか否かなのであるから、相手方の右の主張は特に意味のあるものとは解されない。又、外国人の出入国に関する処分が行政不服審査法の適用を受けないとされても、そのことから直ちに本件口頭審査認定処分の行政処分性が否定されることにはならない。
右の手続きは、まさに別に法令で定められた「当該処分の性質に応じた不服申立ての制度」というべきであつて、右の如き用語の変更が生じたのは、行政不服審査法による不服申立てについては、審査請求、異議申立て、再審査請求という用語に統一する一方で、行政不服審査法の適用されない不服申立てについては、右の三つの名称を使わないという観点からの整理が行われたためであつて、(ジユリスト二六六号、研究会「行政不服審査法」一二頁参照)、このことが口頭審理認定処分の行政処分性を否定することにならないことは明白である。
二、我国の査証が与えられた場合の外国人の地位について̶上陸審査の性質
我が出入国管理令はその九条一項において、同令七条一項一ないし四号にかかげる上陸のための条件に適合した外国人に対しては裁量の余地なく義務的に上陸許可の証印を与えなければならないと定めている。
従つて七条一項一〜四号の条件を満たす外国人は、他の理由を以つて入国を拒否されることはなく、その限りで我国への入国を認められる権利を有するものである。
しかるに本件においては抗告人が右一号(有効な旅券及び査証を有すること)三号(申請にかかる在留期間が法務省令の規定に適合すること)及び四号(令五条所定の上陸拒否事由に該当しないこと)の各条件を満たしていることについては当事者間に争いがない。問題は二号の定める申請に係る在留が虚偽のものでなく、且つ四条一項各号の一に該当するか否かのみであり、相手方は抗告人がこの条件を満たしていないとするのである。
抗告人がこの条件を満たしているとする点については、既に主張しているように、少なくとも「本案について理由がないとみえるとき」に当らないことは明白であるが、この点についての抗告人の主張が容れられて本件口頭審理認定処分の執行停止がなされた場合には、相手方は速かに上陸許可の証印をして抗告人の上陸を認めなければならないのである。
何故かならば、上陸申請がなされた場合、入国審査官及び特別審理官は速かにその審査をして上陸の許否を決めなければならず、かつ、上陸審査は、前述の如く七条一項各号の点にのみ限定されているので、右各号の条件を満たす限り、外国人に我国への上陸を認めなければならないのであるから、ひとたび上陸拒否処分に違法の疑いあり(即ち、本案について理由がないと見えるときにあたらない)とされて、これが執行の停止をされ、同一の処分を反覆することが許されぬ以上、上陸申請に対して速かに上陸の許可をするより他ないからである。 
尚、相手方は、抗告人が外国人に数次往復査証が与えられている場合には、観光客としての在留資格を有する外国人は査証の有効期間中何回でもわが国へ入国でき、結局相当長期にわたつて我国に在留することができると主張したのに対して、査証及び入国審査の性質をあげて種々論じているが、抗告人が主張したのは、数次往復査証が与えられている場合には、通常その期間中何回でも我国へ入国できるから通算すれば事実上長期の滞在ができることになると述べただけのことであつて入国の都度上陸審査が行われるのを否定する趣旨ではないから、相手方の反論はあたらない。
三、「観光客」について
、相手方は、入管令四条一項四号にいう「観光客」とは、入国目的が狭義の観光、娯楽、休養、宗教的巡礼等であつて、収益を目的としないものに限定される旨主張し、その根拠として法四条一項八号、一〇号の存在を挙げている。
しかしながら、法四条一項八号は「芸術上又は学術上の活動を行おうとする者」を在留資格としているため、「芸術」「学術」とまでは言えない一般市民レベルの思想・文化の交流については、その適用が考えられず、また入管行政の実際においても右在留資格は厳格に運用されている。
さらに同項一〇号は、宗教活動を行うために「外国の宗教団体により本邦に派遣される者」と規定しているため、宗教団体からの派遣とは無関係の布教活動については、適用外とされている。
そして「芸術」「学術」とまではいえない一般市民レベルの思想・文化活動・あるいは宗教団体とは無関係の宗教活動、さらにはスポーツの興業(四条一項九号)とはいえないアマ・スポーツのための入国等については、我国の入管がそれを否定しているとは考えられないのであるから、同項四号の「観光客」‖touristとしての在留資格による入国に包含されるものと解するほかはない。
、加えて出入国管理行政の実際においても「観光客」としての在留資格は広く解釈され、右の如き思想・文化活動等も含まれるものとして運用されている。
すなわち、いわゆる原水爆禁止大会への参加や、各種文化活動の国際会議への出席あるいは学術、文化の講演等をもつぱらの目的とする著名な外国人の来日の多くは、「観光客」としての在留資格によつて入国を許可されている。
のみならず、我国の政党の大会へ外国代表として出席することを主たる目的としていることが明らかな各国の政党、政治的組織の関係者も、「観光客」として入国が許可されている。例えば昭和四〇年二月の民社党第七回大会に出席した国際社会主義同盟代表、同年一二月の民社党第八回大会に出席したドイツ社会民主党代表、昭和四三年三月の民社党第一〇回大会に参加したインド人民社会党代表、さらに本年四月の民社党一三回大会に参加しかつ演説したマレーシア民主行動党代表などがその例である。
加えて、本年夏に東京で開かれた世界反共大会への諸外国からの参加者の多くも「観光客」の在留資格で入国しているもののようである。(何故なら、「観光客」でないとすれば、該当する在留資格は他に考えられないからである。)
右のような政党ないし政治的組織の関係者、あるいは世界反共大会の参加の例ではカストロの妹などの著名人の来日は、その入国前に来日が公に報道されるか少なくとも入管当局を含む政府機関にはその情報が伝わつているのが通常であるから右外国人の入国目的が、もつぱら前記大会等へ参加することにあることが明らかであるにもかかわらず、前記外国人に対し、入管当局が「観光客」としての入国を許可してきたという事実は、入管当局が入管令四条一項四号の「観光客」の概念を抗告人と同様あるいはそれ以上に広く解釈し運用していることの証左にほかならない。
なお、ちなみに米軍の岩国基地における軍事法廷の弁護人としての活動のためのみに来日した米国人弁護士B夫妻も「観光客」としての在留資格により入国しているし、在日米軍の軍人家族の本国との往復についても、ツーリストのためのマルテイプル・エントリー・ビザが与えられて、「観光客」としての在留資格により入国が許されている例がかなり多数存在している。
、以上要するに、入管令にいう「観光客」という在留資格は、他の在留資格が厳格かつ限定的なものであるため、それらに該当しない者を広く包含することが期待されているのでもあるから、その意味内容は前述したごとく広く解釈さるべきであり、抗告人が狭義の観光をしながら、自己の宗教的信念を中心とする反戦平和の思想に基き平和的、合法的な表現活動を行い平和を訴えることは当然「観光客」としての活動に含まれると言うべきである。
四、「在留資格が虚偽」であるということについて
相手方は、抗告人は「……もつぱら反戦活動を行う目的で入国しようとするのであるから「観光客」としての在留資格は虚偽である」と主張する。
、しかしながら、そもそも「外国人といえどもわが国の法令を忠実に遵守するかぎり、その出入、滞留を自由に認めるを理想とし、ただ本来わが国の統制下にない外国人であるため、その統制に服せしめる必要上その出入、滞留につき一定の手続制限を付したものと認むべきで」あつて(東京高裁昭和四四年一二月一日決定、判例時報五七六号一六頁)、外国人の出入国等に関する手続、制限は技術的なもので、外国人を、国民と本質的に異るものとしてその活動を制限しようとするものではないといわなければならない。
従つて、入管令上の「在留資格」の制度も、右のような観点から解釈さるべきであつて、入管令が他に積極的に上陸拒否事由を規定していること(入管令五条参照)に鑑みると、入管令四条一項に定める在留資格なるものは、その全てが厳格なもので、限定的に解釈された各在留資格に該当しなければ(実質的には何ら入国を拒否する理由はなくても)入国を許さないというような消極的入国拒否事由の如き性質のものではなく、いわば入国しようとする外国人の分類ともいうべきものであり、入国目的に対応した在留期間を決定し(入管令四条二項同施行規則三条)、それに応じた一定のコントロールをするための手がかりともいうべきものである(逆に相手方の如く「在留資格の虚偽」を解することは、実質的には令五条にない上陸拒否事由を勝手に設けることになるのである)。
従つて、一定の証明書(四条三項参照)が要求され、あるいは長期の在留期間が予定されている在留資格についてはともかく、少くとも短期の在留を予定しており、かつその定義自体不明確な「観光客」という在留資格は他の在留資格には該当しない外国人を包含すべき在留資格として特に広く解釈さるべきである。
、このように「在留資格」なるものは、外国人の入国目的によつて、その在留期間、在留中のコントロールを区別するための技術的制度であるから、入管令七条一項二号に規定する「在留資格が虚偽のもの」ではないとの入国要件も、右に述べた「在留資格」制度の趣旨に照して解釈さるべきである。
すなわち、「在留資格の虚偽」とは、在留資格制度の趣旨を没却させるような場合を意味すると解釈すべきであつて、当該在留資格の活動を全く行う意思がなく「他の在留資格に属する者の行うべき活動」を行う意図であるにもかかわらず、より長期の在留期間を得るために、あるいは四条三項の証明書の所持の要件を潜脱するために、積極的に在留資格を偽わつた場合等を指すものといわなければならない。
従つて、少なくとも、当該在留資格の活動を行う意思がある限り虚偽ということは問題とならないのである。
ちなみに当該在留資格の活動にも含まれず、「他の在留資格に属する者の行うべき活動」にも含まれない活動があり、その活動を行う意思も併せ持つて入国しようとする外国人がいたとしても、それは他の在留資格の活動を行おうとするのではないから、在留資格制度の前記趣旨を否定するものではないし、入管当局としては当該在留資格の外国人として分類把握し、在留期間を決定し、在留中のコントロールをして、在留資格制度の目的を達することができるのであるから、そのような場合に在留資格を「虚偽」としてその入国を拒否することはできないのである。
これは、入管令二四条がその四号イにおいて、「当該在留資格以外の在留資格に属する者の行うべき活動をもつぱら行つていると明らかに認められる」ことを、退去強制事由として規定しており、単純に「当該在留資格に属する者の行うべき活動以外の活動をもつぱら行つていると明らかに認められる者」とは規定していないことに照しても首肯できるところである。(これに対し、昭和四四年三月第六一通常国会に上程された出入国管理法案は、その二三条二項、二五条等において「他の在留活動者が行うべき在留活動」を禁止するとともに、単なる「在留活動以外の活動」については許可を受けることなく職業につき、あるいは報酬を受けることのみを禁止して、それ以外の単なる「在留活動以外の活動」は、現行入管令と同様に禁止していないのである。)
、以上要するに、入国しようとする外国人が、ある在留資格の活動を行う意思を少くとも有しており、そのため、当該外国人を一定の在留資格を有するものとして分類・把握できる限り、他の在留資格における活動以外の合法的活動を行うことも自由なのであり、そのような自由である活動を併せ行うことを目的として入国しようとする者に対し、それをもつて在留資格が虚偽であると云うことはできないのである。
従つて、仮に抗告人の反戦平和のための活動が、入管令上の「観光客」としての活動に含まれないとしても、抗告人は狭義の観光の意思を明らかに有しているのであるから、抗告人の「観光客」としての在留資格が虚偽であるとすることは許されない。
、なお、相手方は、抗告人が、「もつぱら」反戦活動を行う目的で入国しようとしているのであるから、その観光としての在留資格は虚偽である旨主張するが、抗告人の今回の入国目的は、真実狭義の観光にあるので、まずこの点で誤りであるのみならず、当該在留資格が虚偽であるかどうかを決するについて、「もつぱら、他の活動を行う目的」であるかどうかを基準とした点についても誤りを犯すものである。
すなわち、「もつぱら」という基準は、それ自体極めて暖昧な概念であるうえに、退去強制事由のような過去の行動に基づく判断についてならともかくとして、その判断対象が本件の如く将来の活動に関する入国の許否の判断における基準であるということになると、その判断が恣意的になることは必至であり、その結果は入国しようとする外国人の地位を著しく不安定ならしめることとなるから、それを「在留資格が虚偽」か否かを決する基準とすることは許されないというべきである。

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