在留期間更新不許可処分取消請求控訴事件
昭和48年(行コ)第25号
控訴人(被告):法務大臣、被控訴人(原告):A
東京高等裁判所
昭和50年9月25日

判決
主 文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事 実
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は左に付加するほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
控訴代理人の主張
別紙昭和四八年七月二六日付準備書面
  同年九月一七日付 同
 昭和四九年一〇月一七日付 同
  同年一二月一〇日付 同
のとおりである。
被控訴代理人の主張
別紙昭和四九年一〇月一七日付準備書面
 第二、第三項
のとおりである。
証拠《省略》
理 由
一 本件処分にいたる経緯
被控訴人がアメリカ合衆国国籍を有する外国人で、昭和三四年ハワイ大学(教育学等専攻)を卒業し、ハワイ州立学校の教師、米国船舶局職員をした後、昭和四一年米国平和奉仕団の一員として韓国に渡り、英語教育に従事したが、昭和四四年四月二一日その所持する旅券に在韓国日本大使館発行の査証をうけたうえで、本邦に入国し、同年五月一〇日下関入国管理事務所入国審査官により、出入国管理令(以下たんに令という)四条一項一六号、特定の在留資格及びその在留期間を定める省令一項三号に該当する者としての在留資格をもつて、在留期間を一年とする上陸許可の証印を受けて本邦に上陸したこと、被控訴人は入国後東京都内に居住し当初はB語学学校(以下Bという)に、その後は財団法人C(以下Cという)に英語教師として勤務して生計をたてるかたわら、琵琶をDに師事して週二回、琴をEに師事して週一回それぞれ習い、その研究を続け、ゆくゆくはアメリカのアジア音楽部門を有する大学で琵琶、琴などの教授をしたいと志していたこと、そこで被控訴人が昭和四五年五月一日さらに日本での英語教育及び琵琶、琴などの研究を継続する必要があるとして控訴人に対し、右を理由として一年間の在留期間の更新を申請したところ、控訴人は同年八月一〇日「出国準備期間として同年五月一〇日から同年九月七日まで一二〇日間の在留期間更新を許可する。」との処分(本件処分)をしたこと、そこで被控訴人はさらに同年八月二七日控訴人に対し、同年九月八日から一年間の在留期間の再更新を申請したところ、控訴人は同年九月五日付で、被控訴人に対し右更新を許可しないとの処分(本件処分)をしたこと、以上の事実はすべて原判決の理由に示すとおりにこれを認めることができるので、原判決の右部分を引用する(原判決二一枚目表三行目から裏一〇行目まで)。
二、本件処分の適否
被控訴人は控訴人のした本件処分は違法であるとしてその取消を求めるものである。よつて以下これについて判断する。
 およそ本邦(以下わが国または日本ともいう)に在留する外国人の地位は、日本国民が本邦において生来固有する法的地位と全く同一のものでありえないことは勿論である。自国内に外国人を受入れるか否かは基本的にはその国の自由であり、国は自国および自国民の利益をまもるため、これに支障があると思料する外国人の受入れを拒否しうべく、そのための基準を定めることもまた自由である。今日国際社会において国際協調、文化交流、平和共存の傾向が強まり、外国人受入れの規制は逐次緩和されているとはいえ、その基本は変ることはなくわが国についても同様である。すなわち本邦に入国、上陸、在留しようとする外国人は権利として右のごとき入国等を要求しうるものではなく、国はその自ら定める基準である出入国管理令所定の各規定に照らし当該外国人の資格審査をし、その結果に基づき特定の資格により一定の期間を限つて(外交関係及び永住許可の場合を除く)、入国、上陸、在留を許可するのである。もつとも、いつたん適法に在留を許可された外国人は、その在留期間内は令二四条に定める退去強制事由に該当しない限り、
その活動は原則として自由であり、人権、人種、信条、性別によつて差別されることはなく、思想、信教、表現の自由等基本的人権の享受においても、おおむね日本国民に準じて劣るところはない。
さらに仮りにその言動がわが国、その友好国ないし当該外国人の母国の政策を批判し、その動向に影響を及ぼす等いわゆる政治的活動であつても、それが本来外国人としての礼譲にかなうかどうかの批判はありえても、それ自体が退去強制事由に該当しない以上、その在留期間中は、法律上とくだんの不利益を受けることはないのである。しかしひとたびこの外国人に在留期間の更新を許すべきかどうかとなれば、問題はおのずから別である。すなわち、適法に在留する外国人はその定められた在留期間内に在留目的を達成して自ら国外に退去するのがたてまえであり、国は自ら在留を許した外国人には、その在留期間内に限つて活動を保証すれば足りるのである。たまたま在留外国人が期間内にその目的を達成しがたい等によつて在留期間の延長の必要が生じたときは、当該外国人は令二一条によつて期間の更新を受けることができるとしているが、その更新の申請に対しては、法務大臣は更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができるのであつて、その相当の理由の有無については法務大臣の自由な裁量による判断に任されているものというべく、このことは外国人の受入れが基本的には、受入国の自由であることに由来する。法務大臣は許否の決定に当つては申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留期間中の行状、国内の政治、経済、労働、治安などの諸事情及び当面の国際情勢、外交関係、国際礼譲など一切の事情をしんしやくし、窮極には高度の政治的配慮のもとにこれを行なうべきこととなる。したがつて法務大臣が在留期間更新の申請を拒否するには令五条一項一一号ないし一四号の上陸拒否事由、あるいは令二四条の退去強制事由に準ずる事由がなければならないと論ずることは妥当ではない。
しかしこの法務大臣の処分といえども、それが処分の理由とされた事実に誤認があり、または事実に対する評価が何人の目からみても妥当でないことが明らかである等裁量権の範囲を逸脱し権利の濫用である場合にはその処分は違法となること一般の行政処分と異なるものではなく、ただ事実上法務大臣の判断が第一次的に高度に尊重されなければならないというだけである。そして在留期間の更新申請を違法に却下された外国人は、当該処分の名宛人であり、法律上保護される利益を害された者としてその取消を裁判所に求めうべきものと解するのが相当である。
 そこで本件の場合について按ずるに、この点について控訴人が本件処分をし、次いで本件処分をし、結局被控訴人の在留期間更新の申請について、被控訴人の申請事由はともかく、更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとせず、これを許可しなかつたのは、被控訴人の在留期間中の無届転職と、いわゆる政治的活動の故であることは、控訴人の自ら主張するところである。しかしその無届転職すなわち被控訴人がBからCに勤務を変更したことのみをもつて右不許可の理由としたものとすればその間の事情に即していささか問題であろう(その消息については原判決二三枚目表一〇行目から二五枚目裏三行目まで)。しかし本件処分理由はこれのみでないこと前記のとおりであるから、ここで右転職のみを理由としてその適否を決することは相当でない。よつてさらに控訴人のいういわゆる政治活動の点について検討する。
まず、控訴人が本件訴訟においてはじめて右のごとき処分理由を追加して主張することの差支えないことの判断および被控訴人がしたいわゆる政治的活動の目的、態容についての当裁判所の認定は、原判決のそれと同一であるから、原判決二八枚目表三行目から二九枚目裏五行目までを引用する。
右に引用した原判決判示の認定事実によれば、被控訴人は外国人ベ平連(昭和四四年六月在日外国人数人によつてアメリカのベトナム戦争介入反対、日米安保条約によるアメリカの極東政策への加担反対、在日外国人の政治活動を抑圧する出入国管理法案反対の三つの目的のために結成された団体であるが、いわゆるベ平連からは独立しており、また、会員制度をとつていない)に所属し、昭和四四年六月から一二月までの間、九回にわたりその定例集会に参加し、七月一〇日左派華僑青年等が同月二日より一三日まで国鉄新宿駅西口付近において行なつた出入国管理法案粉砕ハンガーストライキを支援するため、その目的等を印刷したビラを通行人に配布し、九月六日と一〇月四日ベ平連定例集会に参加し、同月一五、一六日ベトナム反戦モラトリアムデー運動に参加して米国大使館にベトナム戦争に反対する目的で抗議に赴き、一二月七日横浜入国者収容所に対する抗議を目的とする示威行進に参加し、翌四五年二月一五日朝霞市における反戦放送集会に参加し、三月一日同市の米軍基地キヤンプドレイク付近における反戦示威行進に参加し、同月一五日ベ平連とともに同市における「大泉市民の集い」という集会に参加して反戦ビラを配布し、五月一五日米軍のカンボジア侵入に反対する目的で米国大使館に抗議のため赴き、同月一六日、五・一六ベトナムモラトリアムデー連帯日米人民集会に参加してカンボジア介入反対米国反戦示威行進に参加し、六月一四日代々木公園で行なわれた安保粉砕労学市民大統一行動集会に参加し、七月四日清水谷公園で行なわれた東京動員委員会主催の米日人民連帯、米日反戦兵士支援のための集会に参加し、同月七日には羽田空港においてロジヤース国務長官来日反対運動を行なうなどの政治的活動を行なつたものである。
右のごとき一連の政治活動も、これが在留米国人によつてその在留期間内になされたのであれば、さきにみたように外国人にも許される表現の自由の範囲内にあるものとして格別不利益を強制されるものではなく、また、それ自体で退去強制事由を構成するものとするのも困難であろう。
しかし外国人の在留期間がその所定期間の経過によりもはや本邦に在留しえなくなるにさいしなされる在留期間更新の申請に対し、法務大臣が更新を認めるに足りる相当の理由があると判断すべきか否かの問題となれば、その評価はおのずから異なるべきことは、前記のとおりである。従つて、右のごとき被控訴人の一連の行動に対し法務大臣がこれを前記のような高度の政治的配慮のものに判断をするに当り、これを消極的資料としてとりあげたとしても、やむをえないものといわなければならないのであつて、たんに在留期間中は適法になしえたというだけで、右のごとき法務大臣の評価を非難することはできない。
とくに憲法上外国人は参政権を認められず、わが国の政治、外交など日本国民が自主的に主権の行使として決定すべき事項に関し、純粋な学問上の見地からする批評や在留外国人が国際的礼譲の立場から許容される論評行為であればともかく、その域を越えて、これに干渉的言動を弄するがごときは、なんぴとの目にも本来望ましい事柄と見えるものとは必らずしもいいえないであろう。被控訴人の右の行動のうち、昭和四四年七月一〇日と一二月七日の行動はわが国の出入国管理政策に対する非難行動であり、その他のものはアメリカの極東政策̶ベトナム戦争反対、カンボジア侵入反対̶ひいて日米安保条約に対する抗議行動であつて、その主張の趣旨の是非は別として、わが国の外交政策を非難し、また、わが国と友好関係にあるアメリカ合衆国が国策としているところを非難するものであり、日米間の国際友好関係に影響なしとしえないものに属する。
これらの行動が被控訴人によつて現実に行なわれた以上、既述のごとき高度の政治的判断のもとに出入国管理行政を行なうべきものとされている法務大臣が、これをもつて日本国及び国民のために望ましいものとせず、その在留期間更新の許否を決するにつき消極の事情と判断したとしても、それはその時点におけるその権限の行使として、まかされた裁量の範囲におけるものというべく、これをもつて違法とすることはできないといわなければならない。これら個々の行動が、具体的にわが国の国益をそこなうような実害を発生せしめるものではないとか、また、そのようなおそれがないからといつてすでに法務大臣がその高度の政治的判断によりわが国及び国民の利益に適しないとする以上、それがなんぴとの目からも妥当としえないことが明白であるとすべき事情のない本件では、右裁量を非難するのは相当でない。
その他に本件処分が違法であることについてはこれを認めるに足る資料はない。
三、結論
しからば、控訴人のした本件処分が違法であることを前提としてその取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れないものというべく、これと異なる原判決はこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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