在留期間更新不許可処分取消請求事件
平成6年(行ウ)第24号
原告:A、被告:法務大臣
大阪地方裁判所第7民事部(裁判官:福富昌昭・倉吉敬・小林康彦)
平成7年8月24日
判決
主 文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が原告に対して平成六年二月一四日付けでした在留期間の更新不許可処分を取り消す。
第二 事案の概要
一 本件は、日本人男性との婚姻の届出をし、「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦に在留
していた大韓民国の国籍を有する原告が、被告から、実質的な婚姻関係がないという理由で在留
期間の更新を不許可とされたことから、右処分の取消しを求めた事案である。
二 当事者間に争いのない事実
1 原告は、大韓民国の国籍を有する外国人であるところ、平成元年九月二三日、出入国管理及
び難民認定法(平成元年法律第七九号による改正前のもの。以下、右改正前の同法を「旧法」と、
右改正後の同法を「法」という。)四条一項四号に該当する者としての在留資格で上陸の許可を
受けて本邦に入国し、同年一二月二〇日に本邦から出国した。原告は、平成二年一月一一日再
び、同じ在留資格で上陸の許可を受けて本邦に入国し、在留期間更新を一回許可されて、同年
二月八日に本邦から出国し、さらに、同年三月二四日、三たび、同じ在留資格で、在留期間を
九〇日とする上陸の許可を受けて本邦に入国した。
2 原告は、同年六月一二日、大阪市東成区長に対し、日本人であるB(以下「B」という。)との
婚姻の届出をした上、同月一八日、被告に対し、法二条の二、別表第二所定の「日本人の配偶者
等」の在留資格への変更を申請し、同年一〇月一六日その旨の許可を受けた。原告は、その後五
回にわたり在留期間の更新を受け、その在留期限は平成五年六月二二日となった。
3 原告は、同月一五日、さらに在留期間更新の申請をしたところ、被告は、平成六年二月一四日、
更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして、右申請を不許可とした(以下「本件処
分」という。)。
4 被告は、本件処分後の平成六年二月一六日、原告に対し、在留資格を「短期滞在」とし、在留
期間を九〇日(在留期限は平成五年九月二〇日)とする在留資格の変更を許可するとともに、
併せて、在留期間を各九〇日とする二回にわたる在留期間更新の許可をした(最終の在留期限
は平成六年三月一九日となる。)。
三 争点
1 本件訴えの適否(訴えの利益の有無)
 被告の本案前の主張
原告は、本件処分後の平成六年二月一六日、在留資格を「短期滞在」に変更する旨の在留資
格変更の許可申請をするとともに、在留期間を各九〇日とする二回にわたる在留期間更新の
許可申請をしたので、被告は、前記二4のとおり、それぞれ原告の申請どおりの許可をした。
ところで、法は、外国人に対して在留を許可するに当たっては、常に一個の在留資格及び在
留期間を定め、我が国に在留する間は、常時単一の在留資格及び在留期間をもって在留する
ものとする仕組みを採っているから、原告の在留資格が既に「短期滞在」に変更されている
以上、現時点で本件処分が取り消されたとしても、原告に対し右変更前の「日本人の配偶者
等」としての在留資格で在留期間の更新を許可する余地はなく、本件訴えは訴えの利益を欠
く。
 原告の反論
法が、単一の在留資格及び在留期間をもって在留するという制度を採用しているものとは
いえない。
仮にそうでないとしても、原告は、本件処分後、担当係官の説明を受けた結果、本件処分の
適否は裁判で争うが、既に在留期限を徒過しているので、在留期間更新の許可は受けておく
必要があるものと考えて、被告主張の各申請をしたものであり、在留資格の変更の許可を求
める意思はなかった。したがって、原告のした右各申請が、「短期滞在」の在留資格への変更
とこれを前提とした在留期間の更新の各許可を求めたものと解されるのであれば、原告のし
た右各申請には錯誤があり無効である。
2 本件処分の適否(実質的婚姻関係の有無)
 原告の主張
原告とBは、平成二年三月ころ知合い、結婚を前提として交際するようになり、婚姻の届
出をして同居し、その後、原告の肩書住所地であるマンションに転居して現在に至っている。
この間の一時期、Bが家を留守にしていたことはあるが、これは、Bが鉄筋工に従事し出張
が多かったこと、Bが借金をしていて債権者の取立てから逃れる必要があったこと、右マン
ションの賃料が高かったこと等によるものにすぎず、原告とBが夫婦として暮らしていたこ
とに変わりはない。
したがって、本件処分は、処分の基礎とされた重要な事実に誤認があって、裁量権の範囲
を逸脱し、又は濫用にわたるものとして、違法である。
 被告の主張
原告とBは、合理的理由もないのに別居しており、本件処分前の調査段階における両名の
供述には、婚姻に至る経緯やその後の生活状況等の重要な部分につき、通常の夫婦にはみら
れない食い違いや不自然な部分が多かった。被告は、このような事情を考慮して、両名の間
には実質的婚姻関係はなく、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由はないと判
断したものであり、本件処分に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はない。
第三 判断
一 争点1(本案前の争点)について
前記争いのない事実に、甲第一号証、第一二、第一三号証、乙第五号証、第六号証の一、二、第
一七号証、第二〇号証、証人B及び同Cの各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、本件処
分の通知(甲第一号証)を受けた原告は、平成六年二月一六日、Bとともに大阪入国管理局を訪れ、
統括審査官であるC(以下「C」という。)と面談したこと、Cは、原告が日本語に堪能でないこと
から、主としてBに本件処分の趣旨等を説明したが、その過程でBから、本件処分を撤回しても
らうことができないかとその方法の有無等について尋ねられたので、裁判で右処分を争う以外に
これを是正させる方法はないと答えるとともに、既に平成五年六月二三日以降、在留許可の期限
が切れていることを指摘し、もはや合法的に日本に在留することができる途は九〇日ごとに更新
許可が必要とされる「短期滞在ビザ」(原告の場合の最終在留許可期限は平成六年三月一九日とな
る。)によるほかないと説明したこと、B及び原告はCからの説明を聞いて、とりあえずCの指示
に従うしか仕方がないと判断し、Cにもその旨述べたため、Cは両名に対し、受付の窓口で、在留
資格変更許可申請書用紙一通及び在留期間更新の許可申請書用紙二通をもらって、所要事項を記
入の上提出すればよいことを教示したこと、なお、Cは、ここで在留資格の変更をしてしまうと、
本件処分の適否を訴訟で争う余地がなくなるとの認識までは有していなかったこと、ところが、
原告らは、受付の窓口で在留期間更新許可申請書用紙三通を受け取り、Bが所要事項を記入し、
原告がこれに署名した上提出したこと、しかるに、この三通の在留期間更新許可申請書はそのま
ま受理され、その経緯は必ずしも明らかでないものの、このうちの一通については、原告に無断
で、その「在留期間更新許可申請書」という表題中の「更新」の二文字が抹消されて、その上に「変
更」と書き加えられ、これを前提として、在留資格を「短期滞在」に変更し在留期間を九〇日とす
る旨の在留資格変更許可のスタンプが押捺されたこと(乙第五号証)、そして、残りの二通につい
ては、それぞれ、在留期間を各九〇日とする在留期間更新許可のスタンプが押捺されたこと(乙
第六号証の一、二)、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、在留資格変更許可のスタンプが押捺された乙第五号証は、定型の在留期
間更新許可申請書であって、定型の在留資格変更許可申請書用紙に設けられている「希望する在
留資格」欄や「在留資格変更の理由」欄のないことはもとより、在留資格の変更を窺わせるような
記述は一切ないのであるから、これをもって、原告が、その在留資格を「短期滞在」に変更するこ
との許可を求める意思を表示したものということはできない(ちなみに、「在留期間変更許可申請
書」という訂正後の表題を前提としても、その意味内容は不明といわざるを得ず、この訂正自体
原告に無断でされたものであるから、問題にならない。)。結局、原告及びBは、Cの説明の趣旨を
理解し得ないまま、とりあえず在留期間更新許可申請書を三通出しておけば、既に在留期限が経
過していることによる不法滞在の外形がなくなり、当面我が国に在留し得るという漠然とした考
えから、このような書面を提出したものと推認される。なお、原告が受け取った本件処分の通知
書(甲第一号証)には、「あなたが出国の意思を有し、出国準備のため短期間の在留を希望する場
合には、……大阪入国管理局に出頭し、所定の手続を行ってください。」と記入されていることが
認められるけれども、原告が、本件処分に従って出国する意思で大阪入国管理局に赴いたものと
も認め難いので、この通知書の記載によっても、右認定は左右されない。
以上のとおりであるから、原告が「短期滞在」に在留資格を変更する旨の許可を申請したもの
とみることはできない。そうすると、被告がした在留資格変更許可処分は、その旨の申請行為が
ないのにされた無効のものというほかはなく、右処分を前提とする二度にわたる在留期間更新許
可処分も無効のものというべきである。したがって、本件訴えが訴えの利益を欠くとする被告の
主張は、前提を欠き、採用することができない。
二 争点2について
1 前記争いのない事実に、甲第二ないし第七号証、乙第七、第八号証、第九号証の一ないし八、
第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一ないし八、第一二ないし第一四号証、第一五号証の
一、二、第一六号証、第二四号証、証人Bの証言(甲第一三号証の陳述書を含む。)及び原告本人
尋問の結果(甲第一一号証の陳述書を含む。)(ただし、各陳述書を含む両名の供述中、後記措信
しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
 前示のとおり、原告は、比較的短期間のうちに、旧法四条一項四号に該当する者としての
在留資格で、三度にわたり我が国への入出国を繰り返したものであるが、これは、在日韓国
人であるDことD’(以下「D」という。)と交際していた女性の勧めによるもので、原告は、
同女の紹介により大阪市内のスナック等の飲食店で働いていた。Bは、原告が働いていたス
ナックの客であり、鉄筋工に従事しながら一人暮らしをしていたものであるが、韓国語はほ
とんどわからず、一方、原告も、大韓民国に残した子供があり、当時は日本語がほとんどわか
らなかったが、勤めていたスナックの関係者から、日本人と結婚したら長く日本で働けるか
ら、Bと交際するとよいと勧められていた。こうして、原告とBは、原告が三度目に来日し、
その在留期限が近づいた平成二年六月一二日に婚姻の届出をしたが、その婚姻届(乙第二三
号証)に署名している証人二人のうち一人は、前記のDであるところ、同人は、大阪入国管理
局において偽装結婚のブローカーと目されている人物であり、もう一人は、原告もBも知ら
ない人物であった。原告は、同月一八日に、在留資格を「日本人の配偶者等」に変更する旨の
許可申請をしたが、その申請の際提出された回答書には、Bを知ったのは日本人Eの紹介に
よるものであるという虚偽の事実が記載されていた(乙第八号証)。
 原告は、右婚姻届出の前である平成二年五月二九日、大阪市東成区東小橋《住所略》のマン
ション(以下「東小橋のマンション」という。)に入居し(乙第二一号証)、平成三年四月一一
日、原告の肩書住所地である同市中央区日本橋《住所略》のマンション(以下「日本橋のマン
ション」という。)を賃借して転居し(甲第六号証)、平成五年四月ころからスナックを経営す
るようになって現在に至っている。一方、Bの住民基本台帳(乙第一一号証の一ないし八)に
よると、Bは、婚姻届出をした平成二年六月一二日に東小橋のマンションに入居し、平成三
年一一月六日に日本橋のマンションに転居し、同年一二月一六日に同市西成区梅南《住所略》
のアパートに転居し、平成四年二月二七日に再び日本橋のマンションに戻ったことになって
いる。
しかし、平成六年一月一一日の朝、大阪入国管理局の係官が日本橋のマンションを訪れた
ところ、同所には、原告が経営するスナックのマネージャーをしているFと原告がおり、F
は、当初、自分がBである旨虚偽の事実を述べたが、原告は、係官の質問に対し、Bは友人宅
にいて留守であり、連絡先、仕事先は知らないと答えた(乙第一四号証、第二四号証)。同月
一七日、Bは大阪入国管理局に出頭し、平成五年五月ころから大阪市西成区萩之茶屋所在の
ホテルを借りていていること及びFがしばしば日本橋のマンションに泊まっていることを認
めたところ(乙第七号証)、その後の同局の調査の結果、Bは、同年四月以後右ホテルに宿泊
し、専ら同所を本拠として生活していることが判明した(乙第二四号証)。
また、東小橋のマンションは、平成二年五月二九日にDが保証人となってBが賃借したこ
とになっているところ(乙第二一号証の賃貸借契約書)、Bは、Dが保証人であることすら認
識しておらず(B証言)、同人が、真実、権利金等を支払って右マンションを賃借したものか
は疑わしい。 
2 右認定事実によれば、原告とBは、当初同居していた時期のあることは窺えるものの、その
間に実質的婚姻関係があったものということはできず、むしろ、原告とBは、日本で長期間安
定して働くことのできる在留資格を原告に得させるための便法として、婚姻届を作成提出した
ものであって、右届出当時両名に婚姻意思はなかったものと認められる。証人Bの証言(甲第
一三号証の陳述書を含む。)及び原告本人の供述(甲第一一号証の陳述書を含む。)中、右認定に
反する部分は、前認定の婚姻届出提出に至る経緯及びその後の別居の状況等に照らして、信用
できないし、別居の理由として原告が主張する事由も、家賃が高いからBのみ他に引っ越して
原告と別居したというなど、およそ合理性がなく採用し難い。
3 したがって、本件不許可処分に裁量権の範囲の逸脱または濫用のないことは明らかであり、
本訴請求は理由がない。

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