在留期間更新不許可処分取消請求、退去強制令書発付処分取消請求各控訴事件
平成6年(行コ)第54号
控訴人:A、被控訴人:法務大臣
大阪高等裁判所第5民事部(裁判官:井関正裕・河田貢・高田泰治)
平成7年10月27日
判決
主 文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人法務大臣が控訴人に対して平成五年七月二〇日付でした在留期間の更新不許可処分を
取り消す。
三 被控訴人大阪入国管理局主任審査官が控訴人に対して平成六年一月五日付でした退去強制令書
発付処分を取り消す。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人らの負担とする。
事実及び争点
第一 控訴の趣旨
主文同旨
第二 事案の概要
本件事案の概要は、以下に付加訂正するほか、原判決二枚目裏五行目から同七枚目表一〇行目
までのとおりであるから、ここに引用する。
一 原判決四枚目表九行目「誤認が」の次に「あり、あるいは事実に対する評価が明白に合理性を欠
くこと等により、右判断は社会通念に照らして著しく妥当性を欠くもので」を加える。
二 同五枚目表九行目「右のとおり」を「右のように、控訴人とBとは、愛情を感じ、性交渉を持ち、
互いに結婚を決意して婚姻し、同居した。控訴人が働こうと考え始めたのは結婚後である。また、
控訴人とBには婚姻当初から実質的婚姻関係が存在していた。したがって、」と改め、同表一〇行
目「有しており、」の次に「控訴人が婚姻中稼働し、」を加える。
三 同五枚目裏四行目の次に、以下のとおり加える。
「四 控訴人が大阪市都島区南通のマンションでBと同居している旨届出たのについては、前
記主張事実、及びBと控訴人の事情により、控訴人はやむをえずBの申出により焼肉店の営業を
続けるため別に桃谷のマンションを借りたことに鑑みれば、生活の本拠地は右都島区のマンショ
ンであって、右届出を虚偽の届出とは言えない。
担当官に金員を交付しようとしたのは昼食代としてであり、不法ではない。」
四 同五枚目裏六行目から同六枚目表二行目まで、及び七枚目表四行目から一〇行目までを削除す
る。
五 被控訴人らの当審での主張
在留期間の更新については、その時々の国際、国内情勢等の客観的事情に加えて、控訴人の年
齢、性別、身体状況、生活歴、生活状況、家族構成、在日在外親族の有無、その他すべての個人的
事情を併せ考慮するべきものであって、被控訴人法務大臣の広範な裁量にゆだねられているもの
である。そして、本件処分において、その判断の前提となった事実関係は、そのうちの個人的事情
に限っていえば、次のとおりである。
1 Bから、平成二年七月ころ、「妻とは一年前から別居しており離婚についても考えている」旨
の申立があった。
被控訴人法務大臣は、控訴人とBとの婚姻関係が不健全なものではないかとの疑問を持ち、
以後婚姻の信ぴょう性等をみる必要が生じ、控訴人からなされた平成二年八月一三日付け在留
期間更新許可申請について、それまでは一年間の在留期間を付与していたものを、六か月に短
縮して許可し、以後同様の措置を採った。
2 控訴人は、Bと婚姻し在留資格の変更の許可を受けた後(変更後の在留資格四−一−一六−
一)、本件申請までの在留期間更新申請に際しても、実際にはBと別の場所に居住しながら、そ
れらの申請書及び外国人登録済証明書上の居住地の欄にはBの居住地に居住している旨記載
し、あるいは、証明を受けるなど、外国人登録法八条に違反する申請を繰り返してきた。
3 また、控訴人は、Bと婚姻後も在留期間更新を継続して申請してきたが、申請書に添付され
あるいは追加提出されているBの在勤証明書には、申請受理後の調査により在勤証明書自体の
成立に問題があるものが含まれていることが判明した。控訴人はこの添付あるいは追加提出し
た書類を前提にして申請書中の「配偶者の勤務先等」を記載して、在留期間更新許可を継続し
て受けていた。
4 控訴人は、本件処分の前提となった平成五年五月二四日付け在留期間更新許可申請書の「9
 日本における居住地」欄にはBの住民登録上の住所である「大阪市都島区中通《住所略》」と
記載し、「18 在日家族」欄では、「夫B」と同居の有無に「有」と記載し、本件申請を行っている。
しかし、大阪入国管理局(以下「入管」という。)の調査により、控訴人は、同所に居住地を有し
ておらず、「大阪市生野区桃谷《住所略》」に居住し、また、平成元年ころからBとは同居してい
ないことが判明し、本件申請に係る右申請書の記載は虚偽であった。
控訴人は、この点について、Bと別居していることを認め、その合理的な理由があることに
ついて何ら疎明も説明もなかった。
5 また、入管の右調査の段階で、控訴人は、観光ビザで働くと入管に捕まるから、日本人と結婚
したら日本で働いてお金を稼ぐことができると教えてもらったことを述べ、入国した目的が本
邦での稼働を主な目的とするものであったことを自認した。したがって、控訴人がBと婚姻し
て在留資格が変更されるまでの在留資格(在留資格四−一−四)での在留期間更新、在留資格
四−一−一六−一への在留資格変更許可及び在留資格四−一−一六−一又は「日本人の配偶者
等」での在留期間更新許可は、右目的を隠して虚偽の事実を基に申請し在留資格の変更ないし
- 3 -
在留期間の更新許可を得ていたことが判明した。
6 控訴人は、入管の右調査に際して、担当官に不法な金員を交付しようとした。
7 以上の事実を勘案し、被控訴人法務大臣は、控訴人とBとの婚姻はいわゆる偽装婚と認定し
た。
本件事案に即してみると、本件処分の際に前提にした事実関係は、右のとおりであって、こ
れら適正に認められる事実を前提にして、控訴人とBの婚姻は偽装であると評価したことにも
合理性があることに疑いはない。
理 由
一 争いのない事実に加え、甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第八号証、第一〇号証、
乙第一、第二号証、第三ないし第五号証の各一、二、第六ないし第二〇号証、第二二号証、第二四
ないし第四一号証、証人B(原審及び当審)、同C(当審)の各証言、控訴人本人尋問(原審)の結果、
弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 控訴人は、大韓民国で一九四一年二月一二日に生まれ、以降来日まで同国で生活してきた同
国国民であり、母国においては衣料品の行商を営み、離婚した前夫との間の長女D(一九七〇
年六月三〇日生まれ)及び二女E(一九七一年九月五日生まれ)を養育していた。
控訴人は、昭和五七年に旧法四条一項四号(観光、……親族の訪問、……その他これらに類似
する目的をもって、短期間本邦に滞在しようとする者)に該当する者としての在留資格で来日
して働いたことがあり、この時の経験から、日本で稼働した方が、より高額の収入を得られる
ことを知っていた。
控訴人は、昭和六一年六月二九日、二人の子を韓国に残したまま再び来日し、旧法四条一項
四号に該当する者としての在留資格で在留期間九〇日間の上陸許可を受け、日本に入国した。
控訴人はその後、同一在留資格で二回在留期間更新許可を受けた。この在留許可の期間は、一
回目の更新期間が九〇日間で同年一二月二六日まで今回限り、二回目の更新期間が六〇日間で
昭和六二年二月二四日まで今回限り・出国準備期間とするものであった。
控訴人は、入国後大阪市東成区所在の親戚宅等に滞在し、同年七月途中から同年一二月ころ
までは焼肉店で稼働していた。このときは、一月あたり一二、三万円の収入を得て、うち七、
八万円を韓国にいる子二人に送金していた。
控訴人は、そのころ、親戚の者から、日本人と結婚したら、日本で仕事をしても大丈夫である
し、在留期限の心配もないとの話を聞いていた。
2 控訴人は、昭和六二年一月ころ、日本在住の親族であるFから、他の親族であるGの経営す
るクリーニング業のHで働いていたBを結婚相手として紹介された。
Bは、昭和九年八月五日生まれの日本人であり、離婚歴があって、クリーニング師として、関
西地域の各所のクリーニング店において稼働し、昭和六二年一月ころは、前記Hで働きながら、
大阪市都島区中通《住所略》所在のIマンション(以下「中通のアパート」という。)で一人暮ら
しをしていた。Bは、Gから韓国人女性を紹介する旨見合いを勧められて、自己の年令から結
婚は人生最後の機会と考えつつ、右勧めに応じることとした。その際、Bは、Gから、結婚すれ
ば、給料を五万円上げると聞かされた。
控訴人とBとは、そのころ右Gらによって引き合わされ、Bはその際控訴人から、在留許可
期限が同年二月二四日までであること、日本で仕事がしたいので結婚したいことを聞かされ
た。控訴人は、当時日本語がよくわからず、Bは韓国語が全然わからなかったが、互いに相手に
好感を持ち、その後数回会い、性交渉も持った。そのうえで、短い交際期間を経ただけであった
ものの、控訴人は、もともと独身生活が長いので結婚を望んでいたうえ、Bと交際した印象か
ら同人とはうまく結婚生活を送れるだろうとの気持ちを持ち、また結婚すれば在留許可が容易
に得られ、日本に長く居住し、その間稼働して子らの養育費を送金できるとも考えて、Bとの
結婚を決意した。Bも、控訴人とは円満に夫婦として過ごせると感じ、控訴人が早い届け出を
望んだことから、直ちに結婚することを決意した。
3 両名は、昭和六二年一月二七日に一緒に都島区役所へ赴いて婚姻届出をし、その数日後にG
の家で簡単な結婚式を挙げた。
控訴人は、右結婚式の翌日に身の回りの品や布団、炊事用具を持って中通のアパートに移り、
そこでBと同居生活を始めた。Bはクリーニング店勤務を続け、控訴人は専ら家事に従事した。
Bはその名義の預金通帳と給料全部を控訴人に渡し、控訴人がこれを生活費に使い、一部はB
に渡し、残りをB名義で貯金していた。
この間、両名は、日本語と韓国語の本を購入して控訴人は日本語を、Bは韓国語を勉強して、
意思の疎通に努力していた。
4 控訴人は、韓国に居る二人の子の養育費及び日本での生活の準備金等を作るため、結婚当初
から仕事を探していたところ、昭和六二年五月から同年一〇月ころまで大阪市内道頓堀所在の
焼肉店で昼前から深夜まで働くようになった。この時は、一月あたり一〇万円ないし一二万円
の収入を得て、その大部分を子らに送金した。
5 控訴人は、昭和六三年一月ころから同年六月ころまでは奈良県橿原市《住所略》の在日韓国
人J宅で住込家政婦として働き、同年七月より九月まではBと中通のアパートで過ごし、同年
九月ころから平成元年三月までは奈良市《住所略》の在日韓国人K宅で住込家政婦として働き、
それ以降はBと同居して過ごした。控訴人は右住込稼働については、Bと相談し、その承諾を
得ていた。この住込稼働の間も、月に三、四回の休日にはB宅に帰宅して家事を行い、帰宅の時
は大抵寝泊まりもしていた。控訴人は、右住込稼働収入により一月あたり約一五万円の収入を
得、そのうち一〇万円ずつを子らに送金していた。
6 控訴人は、平成元年二月二日から一四日まで、長女の高校卒業式に出席するため韓国に帰国
した。Bはその費用約二〇万円を負担した。Bは、平成元年二月上旬、中通のアパートから大阪
市都島区都島南通《住所略》所在のLマンション一〇二号室(以下「南通のマンション」という。)
を賃借して転居し、ここで控訴人と同居した。
7 控訴人は、平成元年四月、Bから約一〇〇万円の金銭的援助を得て、大阪市生野区《住所略》
所在の韓国料理店の賃借人からその営業権を取得して韓国料理店「M」を開店し、以後同店を
経営した。平成四年一〇月には、自己の貯蓄、Bの新たな援助金及び借金により同店の賃借権
を買取り、Bはこの賃貸借契約上の控訴人の債務につき連帯保証人となった。控訴人は、右営
業により、一月あたり一五万円ないし三〇万円の収入を得、子らが高校を卒業した平成二年三
月ころまでは、毎月一〇万円を子らに送金していた。
8 控訴人は、同居中のBの南通のマンションから右店まで通勤するのは時間がかかり不便であ
り、体力的に辛いことや、店の準備の必要があること、他方Bの通勤の都合等があって、Bと相
談のうえ、平成元年五月から九月までの間に、右店に近い大阪市生野区桃谷《住所略》Nマンシ
ョン二〇三号室(以下「桃谷のマンション」という。)を賃借し、以後単身で同所に居住し、控訴
人はこの賃借保証金を負担した。
控訴人は、その後も週に二、三度程は南通のマンションに行って、Bのために食事の準備や
掃除、洗濯、買物をし、大抵寝泊まりもし、ここに自己の収入で購入した洗濯機や冷蔵庫や、自
己の衣服も置いていた。
Bも控訴人居住のマンションの鍵を持ち、週末や仕事が暇な時期などに、たびたび控訴人を
訪れて泊まり、その衣類をそこに置いていた。Bは、平成五年ころBが病気で仕事を休んだ時
期を除き、月額五万円ないし一〇万円を控訴人に対し生活費として渡し、控訴人のためにテレ
ビを買ったりした。
控訴人とBは、婚姻届出以降引き続き、控訴人が住込稼働中や桃谷のマンションに移った以
降も、性交渉は週一、二回程度行っており、仲は良かった。
右状態は、平成五年九月七日右両名が同居するまで継続していた。
9 控訴人の子二人が平成二年四月に来日し、七月まで桃谷のマンションに滞在し、控訴人はこ
の間Bと共に南通のマンションに寝泊まりした。控訴人の子らは、Bの住居を訪ねたり、共に
国際花と緑の博覧会に行ったりし、Bはこれらに小遣いを与えたりした。同年六月七日、Bは、
右二人の子を自己の養子とする養子縁組届出をした。ただ、右子らは、同年七月韓国に戻り、以
後日本に来たことはない。
10 控訴人は、婚姻届出に基づき日本人の配偶者等への在留資格変更の許可を受けた後、合計九
回在留期間の更新を受けたが、右更新申請書には、桃谷のマンションに住むようになった後も、
居住地を南通のマンションとし、概ね同所でBと同居している旨記載していた。また、控訴人
は、外国人登録済証明書上の居住地も、同様に南通のマンションのままにして登録を受けてい
た。
そして、最終的に在留期限が平成五年五月二四日となったところ、控訴人は、同日、南通のマ
ンションでBと同居している旨の事実を記載し、在留期間の更新許可申請をした。
控訴人のこれまでの在留期間更新許可申請書に添付されたBの在勤証明書の中には、事実と
異なる記載があるものや勤務先経営者の関知せずに作成されたものがあった。
11 大阪入国管理局(入管)の担当官らは、控訴人が右申請書記載の南通のマンションではなく、
桃谷のマンションに居住している疑いが濃いと考え、平成五年七月六日、桃谷のマンションに
赴き、控訴人から事情聴取した。このとき、控訴人は、右担当官らに、「気持ちだけです。」と言
って一万円を渡そうとして、拒絶され、かつたしなめられた。
同担当官らは、調査を行い、同月七日に担当の入国審査官は首席審査官にまとめの最終調査
報告書を提出したが、それには、まとめの意見として、控訴人は当初から同居しておらず婚姻
を本邦在留・稼働の手段としていると思料される、控訴人はBから戸籍を借りていることを認
めていることから収容相当と思料すると記載した。
12 被控訴人法務大臣は、入管の調査の結果を考慮し、平成五年七月二〇日、前記事実及び争点
欄第二の五記載のとおり、控訴人とBとの婚姻がいわゆる偽装婚であると判断し、法二一条三
項の規定による在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当な理由がないとして、本件不許可
処分をした。
13 控訴人が入管から調査を受けたのをきっかけに、控訴人とBとは同居することとし、Bは、
平成五年九月七日大阪市生野区《住所略》所在のアパート「O」四階A号室を賃借し、以後控訴
人はBと同室で同居した。
控訴人は、同年一一月一五日、入管収容場に収容され、入管入国審査官の認定、同特別審理官
の判定、被控訴人法務大臣の裁決を経て、平成六年一月五日、被控訴人入管主任審査官から、本
件退去強制令書発付処分を受けた。その後平成六年五月三一日同主任審査官から仮放免を許可
され、仮放免された。
Bは、控訴人が収容されている間、時々面会に行っていたところ、仮放免以後、両名は、前記
《住所略》所在のアパートで同居している。
二 被控訴人らの主張に鑑み、事実認定上問題となるべき点につき検討する。
1 乙第一五号証には、控訴人が、平成五年七月六日、入国審査官から「Bから戸籍を借りたので
すね。」と聞かれて、「はい、そのとおりです。」と答えた旨の記載がある。
しかし、仮にこのような問答があったとしても、「戸籍を借りる」とのことばは、日本語とし
ても難しい表現であって、日本に来てから七年を経過していたとは言え、韓国で育った控訴人
がこの表現の意味する所を正確に理解して答えたかについては疑問があるところである。同号
証のこれに続く記載を見ると、結婚すれば日本で働くのが容易になると思ったのが結婚の一つ
の理由であるとの趣旨を述べたものと理解される。
2 乙第一六、第二五号証には、控訴人はBとは一緒に住むつもりはなかったが、Fに一緒に住
まなければだめだと言われ同居することになったとの供述記載がある。
しかし、前記認定のとおり、控訴人とBとが婚姻届出直後から同居し始めている事実、届出
前から性交渉をしている事実等の婚姻届出前後の経過に照らすと、右記載は措信しがたい。
3 Bが、Gから、控訴人と結婚すれば、給料を五万円上げると聞かされていたことは前認定の
とおりである。
しかし、現実にBが月五万円の昇給があったとの事実は認められないし、証人B(原審及び
当審)の証言によれば、同人は婚姻届出後間もなくG方で働くのを止め、他で働いていたこと
が認められ、併せて前記一認定の事実を考慮すると、Bが月五万円の利益を受ける目的で婚姻
をしたとも推認できない。
4 乙第二三号証には、Bが、平成二年七月二三日、入国審査官に対し、控訴人の所在や近況を知
らないので、離婚も考えており、控訴人の連子二人との養子縁組を行うようになっていたが、
取りやめたいなどと述べたとの記載がある。しかし、右書証は、Bの署名又は記名押印がなく、
証人B(原審及び当審)の証言に照らすと、実際B自身が右記載のとおりの供述をしたかどう
か定かではないと言わざるを得ない。そのうえ、一認定のとおり、控訴人が右当時、大阪市生野
区《住所略》で韓国料理店を経営し、桃谷のマンションに居住していたことはBも知っていた
のであり、またBと控訴人の二人の子との養子縁組届出は、既に同年六月七日にされているの
であるから、この供述記載は客観的事実と矛盾するものであって、これを採用することはでき
ない。
三 法二一条三項は、外国人の在留更新につき、法務大臣は、「在留期間の更新を適当と認めるに足
りる相当な理由があるときに限り、これを許可することができる。」と定め、法務大臣に広汎な裁
量権を与えている。しかし、右裁量権は無制限ではなく、その裁量権の行使に当たり、判断の基礎
とされた重要な事実に誤認があること等により判断が事実の基礎を欠くか又は事実に対する評価
が明白に合理性を欠いて右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には、右判断が裁量
権の範囲を越え又はその濫用があったものとして取消されるべきである(最高裁判所昭和五〇年
(行ツ)第一二〇号同五三年一〇月四日大法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁)。
本件不許可処分にあたり、被控訴人法務大臣が裁量権行使の基礎とした事実は、事実及び争点
欄第二の五記載のとおり、控訴人とBとの婚姻が婚姻意思のないいわゆる偽装婚であるというに
あると理解される。右第二の五1ないし6では、具体的な事実関係も記載されているが、その7
や五の末尾で婚姻を偽装と認定(評価)したとまとめていること、控訴人の在留資格が「日本人の
配偶者」であることからすると、これら1ないし6の具体的事実を直接に判断の基礎事実とした
のではなく、婚姻が偽装であるとの事実を基礎としたものと認められる。
四 そこで、控訴人とBとの婚姻が、偽装のものかについて判断する。
前記一、二認定事実によると、控訴人の側には、昭和六二年一月二七日の婚姻届出に際し、その
在留期間の更新及び在留資格の変更を容易にして、日本国内で働きやすくしたいとの目的があっ
たものと認められる。しかし、婚姻前から性行為があり、婚姻後同居生活しているなどの事実を
見ると、右目的だけから婚姻届出をしたものとまで認めるのは困難である。
他方、Bは、控訴人の右の国内で働き易くしたいとの目的を知っていたものではあるが、B自
身には仮装結婚をする動機は認められず(五万円の昇給も実現していないし、この勤め先も退職
している。)、その後の生活状況を見ると、Bはなんらかの結婚生活を期待して婚姻に至ったもの
と認めるのが相当である。
婚姻届出後の状況を見ると、控訴人は住込家政婦として働き、特に平成元年以降控訴人とBは
共に大阪市内でありながら、別の住居に主として住んでいる点は通常の婚姻生活とは異なるとこ
ろである。
しかし、右両名は、婚姻届出直後結婚式を経て同居生活に入り、しばらく同居生活を続け、住込
家政婦として、或いは韓国料理店を開店して近くのマンションに住むようになってからも、控訴
人は頻繁にBの住居に行って寝泊まりもし、Bもたびたび控訴人住居に行き、性交渉もたびたび
おこなっている。Bは控訴人に生活費を毎月与え、控訴人の韓国料理店開店に際しては多額の援
助をし、その賃借保証人にもなり、帰国費用を負担し、控訴人の子らには小遣いを与え、博覧会に
行ったりしている。控訴人においては、Bのために炊事、掃除、洗濯、買物といった家事を継続し
てこなしている。
以上のように、両名間には、同居を常にはしていなかったという点はあるものの、夫婦として
の日常生活、性生活や相互協力扶助の実態があるのであって、この点からすると、この婚姻が本
件不許可処分当時において、いわゆる偽装のものではなく、実質的婚姻生活の実体を有していた
ものと認められる。
五 そうすると、控訴人とBとの婚姻が偽装婚であるとの事実を基礎としてされた本件不許可処分
は、判断の基礎とした重要な事実に誤認があって、事実の基礎を欠くものであり、本件不許可処
分には、裁量権の逸脱ないし濫用の違法があり、右処分は違法なものとして取り消されるべきも
のである。
控訴人とBとの婚姻が偽装婚であるとは認められないが、常には同居していなかった等の前記
認定の事実、その他の事実関係の下において、在留更新許可をするのが相当かどうかは、法務大
臣が本判決確定後にその裁量権を行使して一次的判断をすべきものであるから、当裁判所が本判
決で本件不許可処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかどうかについて判断すべきもので
はない。
六 本件不許可処分が違法として取り消されるべきものとすると、右処分の取消後、被控訴人法務
大臣が、控訴人によりなされている在留期間更新許可申請に対し、新たに処分をするべき状態に
ある。したがって、この間、控訴人は、更新前の在留期間経過後においても、不法残留者としての
責任を問われないという意味において、日本に残留することができるものと解するべきである。
したがって、控訴人は、法二四条四号ロに該当する者と言うことはできないから、右該当の認定
によりなされた本件退去強制令書発付処分もまた違法なものであって、取り消されるべきであ
る。
七 よって、控訴人の本件請求は、いずれも理由があるから、これを認容するべきところ、これと結
論の異なる原判決を取消して本件請求を認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、
民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

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