在留期間更新不許可処分取消請求事件
平成7年(行ウ)第87号
原告:A、被告:法務大臣
東京地方裁判所民事第3部(裁判官:青柳馨・増田稔・篠田賢治)
平成9年9月19日

判決
主 文
一 被告が平成七年三月八日付けで原告に対してした在留期間更新を許可しない旨の処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四四年二月二日に出生した、中華人民共和国国籍を有する男性である。
2 原告は、平成三年四月一一日、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田支局入国審査官から、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)別表第一の四所定の「就学」の在留資格で在留期間六か月として上陸を許可され、本邦に上陸し、以後、就学継続のため、同資格をもって三回の在留期間更新許可を受けて本邦に滞在した。
3 原告と日本国籍を有するB(平成五年三月二六日戸籍法一〇七条二項の氏の変更の届出によりA姓となる。以下「B」という。)は、平成四年一〇月一六日、東京都杉並区長に対し婚姻の届出をして婚姻した。
原告は、同年一一月二六日、被告に対し、Bとの婚姻を理由に法別表第二所定の「日本人の配偶者等」への在留資格変更許可申請をし、これに対し、被告は、平成五年二月一日、在留期間を六か月として右在留資格の変更を許可した。その後原告は、同年七月一九日在留期間更新の申請をし、被告は、同日、在留期間を六か月としてこれを許可した。また、原告は、平成六年一月一九日在留期間更新の申請をし、被告は、同年一月二五日、在留期間を一年に伸長してこれを許可した(最終在留期限平成七年二月一日)。
4 原告は、被告に対し、平成七年一月一三日、「日本人の配偶者等」の在留資格により在留期間更新許可申請をした。これに対し、被告は、同年三月八日付けで、「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がない。」との理由でこれを不許可とした(以下、この不許可処分を「本件処分」という。)。
5 法に基づき在留期間更新の許可を受けるために必要な在留資格を認められるためには、法別表第二の「日本人の配偶者等」の下欄の「日本人の配偶者」であれば足りるものと解されるところ、原告とBとの婚姻は法律上有効であり、原告は、右の「日本人の配偶者」として在留資格を有する。
6 仮に、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるためには、単に法律上有効な婚姻関係があることだけでは足りず、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動を行うことが必要であるとの立場に立ったとしても、原告の在留は、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動のためのものであるといえる。
すなわち、原告とBとは恋愛の末結婚し、円満な結婚生活を送っていたのであり、その後Bが家出をして別居状態となっているが、その原因は妊娠等の事実を前に不安定な精神状態になったBが一方的に家出をしたことに原因があるのであり、原告は、いまだ婚姻関係の継続の意思を有し、夫婦関係の修復に向けた行動や努力を続けており、Bの側からも、平成六年八月に絶対に離婚しないなどという手紙を原告に差し出したりしているものである。平成五年五月にBが家出をしてから本件処分が行われるまで約一年一〇か月であるが、原告とBとが別居に至る経緯、別居後の原告とBの行動からすれば、この程度の別居期間をもって、原告とBの婚姻関係が完全に破綻したものということはできない。また、原告が現在行っている関係修復へ向けた行動も、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するものであり、仮に、原告とBとの婚姻関係の修復が困難であったとしても、当事者が話合いを行い、原告を含めた双方が納得した結論を出そうと原告が努力していることも、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当する。
7 原告が5、6記載のとおり在留資格を有するにもかかわらず、在留期間更新を不許可とした本件処分は、被告の持つ裁量権を逸脱したものであり、違法である。 
よって、原告は、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし4の各事実はいずれも認め、同5、6の主張は争う。
三 被告の主張
本件処分は、以下に述べるとおり適法である。
1 在留資格「日本人の配偶者等」の意義について
 法は、外国人の在留目的を在留活動の面においてとらえ、外国人が在留中に従事すべき活動又は在留中に従事すべき活動の基礎となる身分若しくは地位の面から類型化して二七種類の在留資格を定め、外国人が本邦において在留の目的として行う活動がこれらの在留資格によって表示される活動のいずれかに該当(当該活動が右類型化された活動又は類型化された身分若しくは地位を有する者としての活動に該当することをいう。)する場合に限り、当該外国人の入国及び在留を認め得ることとしている(法二条の二第二項、七条一項二号、法別表第一及び第二)。
すなわち、法別表の定める在留資格は、それ自体が独立して存在するものではなく、法二条の二第二項の「在留資格は、別表第一又は別表第二の上欄に掲げるとおりとし」との規定に基づき同項の一部として存在するものであり、同項にいう「別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者」については、その者の行う活動が「当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる活動」に、また、「別表第二の上欄の在留資格をもって在留する者」については、その者の行う活動が「当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動」に該当する場合に在留資格が認められるものであり(法二条の二第二項)、本邦に上陸しようとする外国人は本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、「別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動」のいずれかに該当する場合に限り、上陸を認められ得るのである(法七条一項二号)。
 前記の法の趣旨からすれば、法別表第二において「日本人の配偶者」が在留資格を有する身分として掲げられているのは、日本人と婚姻した外国人が、その配偶者である日本人と我が国において社会通念上夫婦共同生活を営むために我が国に入国し在留することを可能にするという行政目的からである。
したがって、法別表第二の「日本人の配偶者等」の在留資格で入国及び在留が許可されるためには、日本人と法律上有効な婚姻関係にあることに加えて、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動、すなわち、当該外国人がその配偶者である日本人と同居し、互いに協力し、扶助しあって(民法七五二条)社会通念上の夫婦共同生活を営むという活動を行うことが必要である。
もっとも、日本人の配偶者である外国人がその配偶者と別居しているとしても、仕事や家庭の都合で単身赴任している場合や病気で入院している場合等別居に合理的理由が認められれば、社会通念上夫婦共同生活を営むという実体は失われていないものというべきであり、かかる場合には、在留資格該当性が認められるのである。
なお、平成元年法律第七九号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下「旧法」という。)四条一項本文括弧書が、在留資格について、「外国人が本邦に在留するについて本邦において次に掲げる者のいずれか一に該当する者としての活動を行うことができる当該外国人の資格をいう。」と定義し、かつ、旧法一九条二項が、外国人は「その在留資格に属する者の行うべき活動以外の活動をしようとするときは、……あらかじめ法務大臣の許可を受けなければならない。」と規定していたことからも明らかなように、旧法も、個々の外国人が我が国で行おうとする活動内容に着目し、一定の在留活動を行おうとする者に対してのみ、その活動内容に応じた在留資格を与えて、その入国及び在留を認めることとしていたのである。
2 在留期間の更新における被告の裁量権について
 我が国における憲法上、外国人は我が国に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き我が国に在留することを要求する権利を保障されているものではない。
法もかかる原則を踏まえ、我が国に在留する外国人の在留期間の更新に関して、被告がこれを適当と認めるに足りる相当な理由があると判断した場合に限り許可することとし(法二一条一項、三項)、在留期間の更新の許否を被告の裁量にかからしめているのである。
 そして、法二一条三項本文にいう「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」が具備されているかどうかは、外国人に対する出入国及び在留の公正な管理を行う目的である国内の治安と善良な風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定等国益の保持の見地に立って、申請者の申請理由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲等諸般の事情を総合的に勘案して的確に判断されるべきであり、このような多面的専門的知識を要し、かつ、政治的配慮も必要とする判断は、事柄の性質上、国内及び国外の情勢について通暁し、常に出入国管理の衝に当たる被告の広範な裁量に委ねられているものと解すべきである。
 したがって、在留期間の更新の許否の判断が違法となるのは、右判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した場合に限られるというべきである。
3 本件不許可処分の適法性について
 被告は、原告が、本件不許可処分時において、既に二年近く配偶者であるBとは同居していないこと、Bが原告との婚姻解消を切望していながら、経済的理由等によりその手続ができないでいること、原告が、Bと別居している理由につき回答を拒否したこと等から、原告とBとの婚姻関係が既に破綻し、その実体を失って形骸化しており、原告は、日本人の配偶者であるBと同居し、互いに協力し、扶助しあって社会通念上の夫婦共同生活を営むという活動を行う者には該当しないと認定し、本件処分を行ったものである。
 また、仮に、実質的な婚姻関係が破綻しているものの、法律上有効な婚姻関係が認められる外国人について、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるとの見解を前提としても、以下のとおり本件処分は適法である。
法二一条三項は、「法務大臣は、(在留期間更新の許可を申請した)当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。」旨規定し、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があることを裏付ける資料を提出すべき責任を外国人に課し、これを受けて出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「法施行規則」という。)二一条一項、二項は、在留期間更新許可の申請に当たって、申請人は申請書二通のほか、法施行規則別表第三の二に掲げる資料その他参考となるべき資料を提出すべき旨を規定しているが、原告は、本件在留期間更新許可申請に当たり、同別表に掲げる資料の一つであるBの身元保証書を提出せず、また、東京入管の入国審査官がBと同居していない理由を明らかにするよう求めたが、原告は、本件処分時までに、Bとの別居に合理的理由があり、原告が日本人の配偶者としての活動を行う者であることにつき、被告を納得させるに足りる資料を提出しなかった。
この事情に加え、被告は、Bから聴取した事情(その要旨は別紙記載のとおり)等を総合して考量し、原告の我が国で行う活動が夫婦としての活動ではなく、Bと法律上婚姻関係にあることを利用した就労等他の目的を持った活動であり、かかる活動が我が国の婚姻秩序をびん乱し、日本人の労働市場を侵害すること等の不都合をもたらすこと及び別紙記載のような原告の在留中の行状を併せ考慮した上、広範な裁量権に基づき、原告につき在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないと判断して本件処分を行ったものである。
本件処分には、被告がその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法はない。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるための要件について
 在留資格には、入国・在留及び特定の活動を許容する資格(法別表第一)と、特定の身分・地位に基づき入国・在留することができることを前提に、当該身分または地位を有する者として活動することができる資格(法別表第二)と二種類ある。
「日本人の配偶者等」の在留資格は、別表第二に掲げられていることから明らかなとおり、日本人との婚姻関係又は血縁関係という身分関係があるということから我が国に在留できることとしたものであり、家族関係を保護することを根拠として在留の必要性が認められる類型である。
したがって、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるためには、法律上有効な婚姻関係があれば足りるのであり、法律上有効な婚姻関係があること以上に、同居・協力・扶助等の付加的事実関係を必要とするものではない。
 「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるためには「日本人の配偶者たる身分を有する者としての活動」が必要であるとする被告の解釈は、次に述べる理由から成り立たない。
 そもそも旧法四条一項一六号、七条一項、平成二年法務省令第一五号による改正前の出入国管理及び難民認定法施行規則二条一号等の規定によれば、「日本人の配偶者又は子」という在留資格に該当することだけが上陸のための要件とされており、「日本人の配偶者たる身分を有する者としての活動」が要件でないことに文理上何らの疑義もなかったのである。
そして、現行の法七条一項二号の「申請に係る本邦で行おうとする活動が虚偽のものでなく」との部分は、旧法七条一項二号では「申請に係る在留資格が虚偽のものでなく」との法文であったところ、論理的には、申請の内容は在留資格そのものでなく在留資格要件該当事実であるので、現行のように改正され、これに伴い、続く「且つ、第四条第一項各号の一に該当すること。」とある部分が、右改正に合わせて現行のように「別表第一の下欄に掲げる活動(……)又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位(……)を有する者としての活動のいずれかに該当し」と改正されたものであって、右改正は全く立法技術的なものにすぎない。
 法二条の二第二項は、その前段で「在留資格は、別表第一又は別表第二の上欄に掲げるとおり」とし、在留資格の類型を明らかにし、その後段で「別表第二の上欄の在留資格をもって在留する者は同表の下欄に掲げる身分又は地位を有する者としての活動を行うことができる。」と規定しているのであって、右規定は、在留資格は法別表第一又は第二の上欄に掲げるとおりである旨定めることを主たる目的とするものであり、後段はそれらの在留資格でどのような活動ができるのかを一般的に明らかにしたものにすぎない。また、法二条の二第二項は「……活動を行うことができる。」と規定しているが、この規定のみからは、どのような活動ができ、どのような活動ができないのかは明らかにならず、右の点は、法一九条の規定と相まって初めて明らかになるのである。
すなわち、法二条の二第二項は、法別表第二の身分又は地位を限定するものではなく、それぞれの在留資格を有する者が、いかなる活動を行うことができ、できないかを明らかにするものでもない。
 被告は、同居・協力・扶助をしていない外国人は、「日本人の配偶者たる身分を有する者としての活動」をするという目的が認められない旨主張しているが、「日本人の配偶者たる身分を有する者としての活動」をそのように制限的に解することはできない。
すなわち、法別表第一の在留資格は、入国・在留及び特定の活動を許容する資格であるから、法(具体的には別表第一の下欄)をもって活動の範囲を特定し、これをもって入国・在留及び在留中の活動を規制する。これに対し法別表第二の在留資格は、特定の身分・地位に基づき入国・在留できることを前提に、当該身分又は地位を有する者としての活動を行うことができる資格であるから、その活動の範囲に制限はないと解されている。
しかも、現代の日本人の法意識においては、一旦夫婦が結婚した以上、たとえ別居し婚姻生活の実体が失われていたとしても、離婚が成立しない限り、当該夫婦は法律上はもとより社会的に見ても夫婦であるとの認識は極めて強い。そして、夫婦が別居し婚姻生活の実体が失われているとしても配偶者としての関係が直ちに失われるものとはいえず、相手方配偶者から婚姻費用の分担を受け続けたり、実質的な婚姻関係の復活を期待して働きかけを続けたり、あるいは、夫婦関係をどのように解消するかをめぐり離婚の話し合いを継続したり、と多種多様の活動がある。これらが「日本人の配偶者たる身分を有する者としての活動」に該当するか否かを判別することは不可能である。
 右に検討したとおりであって、法七条一項の法文や法二条の二第二項の規定を根拠として、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるための要件を被告主張のように解釈することはできないし、「日本人の配偶者たる身分を有する者としての活動」の意義を限定的に解することができないという観点からしても、被告主張のような解釈が成り立たないことは明らかである。
4 被告の裁量権について
 法二一条三項は、「出入国の公正な管理」(法一条)、すなわち、国内の治安や労働市場の安定の保持等の公益と、国際的な公正、妥当性の実現、また憲法、条約、国際慣習、条理等により認められる外国人の正当な権利利益の保護との調整を図るという法の目的に沿って定められているのであり、仮に同項が被告に裁量権を付与したものだとしても、日本国憲法の精神及び法律による行政の原則からすれば、被告には、右法の目的・趣旨の範囲内での裁量権行使が認められるにすぎず、「広範な」裁量権などありえない。しかも、法は、右目的を実現するため、平成元年の出入国管理及び難民認定法の改正等において、各在留資格に関する審査基準を法施行規則で定めるなどして審査基準を明確化し、行政庁の裁量の幅を減少させ、審査の公正を図っているのである。さらに、裁量権の行使につき、在留資格ごとに幅があるのは当然であるところ、「日本人の配偶者等」の在留資格を有する者について在留期間更新の許否を判断するに当たっての裁量権の幅は極めて限定的であると考えるべきである。
したがって、適法な婚姻関係にある夫婦が、「同居し、互いに協力し、扶助しあって」いるかどうかといった純粋な私事に関わる事柄で、しかも公益に無関係な事実に関係して裁量権を行使するのであれば、それは裁量権を逸脱したものである。
 また、原告には、別居の理由を詳細に説明した書面を提出すべき義務は本来ないのであり、在留期間更新の許否の判断に当たり、右書面を提出しなかったことを原告に不利に勘案するのは、法律による行政の原則に反し、明らかな裁量権の逸脱であって違法である。
仮に、夫婦関係の実体について調査が必要であるとしても、その調査は、申請人のプライバシーに配慮しつつ調査の具体的必要性の程度等に応じて行われるべきであり、調査の具体的な進展の中で、提出を求められる書類やその内容の程度も変わってくると解すべきである。しかるに、東京入管は、Bが書面を提出したことを原告に伝えず、原告に反論や追加立証の機会を与えずに本件処分を行っているのであり、Bが書面を提出する一か月前の段階で、原告が詳細な説明書の提出を拒んでいるからといって、その後に提出されたBの書面を根拠に本件処分を行い、併せて原告が説明書を提出しなかったことの手続的不備を被告が主張することは、公平に反する。
 在留資格該当性ないし在留期間更新に関し、被告の裁量権の逸脱があるかどうかを判断するに当たって、仮に、婚姻関係の経緯が問題となるとしても、原告とBとは恋愛の末結婚し、円満な結婚生活を送っていたのであり、その後Bが家出をして別居状態となっているが、原告は、円満な婚姻関係の継続を求めて、Bと連絡を取るように努力しており、いまだ婚姻関係が破綻しているとは到底いえない状態である。かかる経緯に鑑みれば、原告の在留資格該当性を否定したり更新を不許可とすることを基礎付ける事実が存在しないことは明らかである。
第三 証拠《省略》
理 由
一 請求原因1ないし4の各事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件処分の適否について判断する。
在留期間の更新許可は、我が国に在留している外国人の申請により、現に有する在留資格を変更することなく、従前許可された在留期間に引き続きさらに一定期間適法に我が国に在留できる法律上の地位を付与する処分であり、したがって、その許可は、当該外国人が更新時において有する在留資格に該当する要件を充足していることを当然の前提としているものであって、その要件を欠く者からの更新の申請はこれを認める余地がないことはいうまでもないから、まず、本件で問題となる「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるための要件いかんについて検討する。
1 本邦に在留する外国人の在留資格は、法別表第一又は第二に掲げられているとおりであり、別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者は本邦において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ、別表第二の上欄の在留資格をもって在留する者は本邦において同表の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動を行うことができるとされている(法二条の二第二項)。また、上陸審査においても、入国審査官は、当該外国人の申請に係る我が国において行おうとする活動が虚偽のものではなく、法別表第一の下欄に掲げる活動又は法別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当することを審査すべきものとされている(法七条一項二号)。これらのことからすると、法は、個々の外国人が我が国で行おうとする具体的活動内容に着目し、一定の在留活動を行おうとする者に対してのみ、その活動内容に応じた在留資格を与えて、その入国及び在留を認めることとしているものということができ、日本人の配偶者である外国人についてもこのことは同様に妥当するものというべきである。
したがって、日本人と法律上婚姻した外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格によって我が国に在留するためには、単に、当該外国人が日本人と法律上有効な婚姻関係にあるというだけでは不十分であって、さらに、当該外国人が我が国において行おうとする活動が、日本人の配偶者としての活動に該当することが必要であると解するのが相当である。
2 もっとも、法がその別表第一の上欄に掲げる在留資格について、当該下欄に我が国において行うことができる活動を個別具体的に規定しているのと異なり、その別表第二の「日本人の配偶者等」の下欄には、我が国において有する身分又は地位として「日本人の配偶者」と規定するのみで、日本人の配偶者としての活動内容を個別的・具体的に定めておらず、その他その活動の内容及び範囲を具体的に認識できるような規定も見当たらない。したがって、結局は、社会通念に従って、その内容及び範囲を画するほかないというべきである。
この点、婚姻は夫婦としての同居・協力・扶助の活動を中核とするものであることはいうまでもなく(民法七五二条)、右同居・協力・扶助の関係を前提としこれを維持しつつ行われる諸活動が右に該当することは疑いがない。他方、既にその婚姻関係が回復し難いまでに破綻し、互いに婚姻関係を維持、継続する意思もなく、婚姻関係がその実体を失い形骸化しているような場合には、当該外国人には、もはや社会通念上日本人の配偶者としての活動を行う余地があるものとはいえないから、かかる外国人配偶者が我が国で行う活動は、日本人の配偶者としての活動というよりも、就労など他の目的を持った活動とみるべきであって、そのような者までを、単に日本人と法律上の婚姻関係にあるというだけで、日本人の配偶者としての活動を行う
者に当たるということは困難であり、かかる外国人について、「日本人の配偶者等」の在留資格を認めることはできないといわざるを得ない。
しかし、例えば、日本人の配偶者の一方的な遺棄や婚姻関係の冷却化によって、同居・協力・扶助等の活動が事実上行われなくなっている場合であっても、いまだその状態が固定化されず、なおその婚姻関係が維持、修復される可能性があるなど、その婚姻関係が実体を失って形骸化しているとまでは認めることができない場合には、当該外国人は、同居・協力・扶助を中核とする婚姻関係に附随する日本人の配偶者としての活動を行う余地があるものというべきである。
なお、法二一条二項、法施行規則二一条一項、二項、同規則別表第三の二によれば、「日本人の配偶者等」の在留資格で我が国に在留する外国人が在留期間の更新を申請する場合、当該外国人は、「本邦に居住する当該日本人の身元保証書」を提出すべきものと定められているが、右の手続要件は、在留資格の認定を適正に行うためのものであって、右の要件が定められていることをもって、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるためには、夫婦としての同居・協力・扶助の関係が現実に存在しなければならないものと限定的に解することは相当でない。
3 原告は、日本人と法律上有効な婚姻関係にある外国人であれば、日本人の配偶者という身分を有することのみで、「日本人の配偶者等」の在留資格を有するものであり、たとえ婚姻関係が破綻しているとしても、法律上適式に離婚していない以上、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるべきである旨主張する。
しかし、前示のとおり、法は、個々の外国人が我が国で行おうとする活動内容に着目し、一定の在留活動を行おうとする者に対してのみ、その活動内容に応じた在留資格を与えることとした趣旨と解すべきであり、「日本人の配偶者等」の在留資格も、当該外国人が、我が国でその身分を有する者としての活動として社会通念上予想される活動を行うことに着目して、これを認めることとしたものとみるのが相当である。
 したがって、原告の主張は法の趣旨に合致せず、採用することができない。
三1 原告は、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるためには、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動が必要であるとの立場に立ったとしても、原告の在留は、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動のためのものであるといえる旨主張し、被告は、原告とBとの婚姻関係は破綻し形骸化している旨主張してこれを争うので、次に、原告とBとの婚姻関係の推移についてみるに、前記争いのない事実に《証拠略》を併せれば、以下の事実が認められる。
 原告は、東京都杉並区《住所略》C荘一〇三号室(以下「C荘一〇三号室」という。)に居住し、D日本語学校に通学して日本語を勉強していたが、平成四年三月に同校が倒産したため、東京都新宿区大久保《住所略》所在のE日本語学院(以下「学院」という。)に転学した。
他方、Bは、平成四年五月ころ、学院に時間外講師として採用され、原告の所属するクラスを担当することとなった。Bは、同年三月三一日にFと協議離婚し、当時は、熱海に住むGという男性と交際しており、学院ではGと名乗っていた。
 平成四年五月、学院の旅行会で富士山に行った際、バスの中で原告の隣にBが座ったことから、お互いの家族関係のことなどの話をしたが、その際、Bは、年齢は実は三一歳であるのに二五歳であると偽り、住居等に関しても、Gという男性と同棲しているのに、熱海に父、弟妹がいて一緒に暮らしていると言い、名前も、当時はFBであったのに自分のフルネームはGBであると言うなど原告に虚偽の事実を話した(なお、Bは自己の過去の結婚歴を隠すためか、戸籍について転籍を繰り返し、後記の原告との婚姻届の直前の同年一〇月八日には静岡県沼津市《住所略》から東京都杉並区《住所略》に転籍している。)。その旅行の時以来、原告とBとは次第に親密になり、喫茶店で会い、映画を見に行くなどして交際していた。同年六、七月ころになると、Bは原告に対し、自立して東京に出たいと言い出し、そして、とりあえず原告の部屋を半分使用させて欲しいと話した。これに対し、原告は、結婚もしていない女性を一緒に住まわせることはできないと考えてこれを断っていた。同年八月初めころ、Bは原告に電話をしてきて「今日、家を出る。」と話し、原告と会いたいというので、原告は東京駅で待ち合わせてBに会ったところ、Bは「知り合いの水商売の経営者の女友達の所に行くが、ちょっと巣鴨の女友達の店に寄ってから行く。」と言い、原告に宝石を預かって欲しい
ということであった。翌日、原告がBに会うと、Bが疲れているようであったので、どうしたのか聞くと、Bは店を手伝ったと話した。原告は、Bが水商売の店で働いているかも知れないと心配になり、その日の深夜巣鴨の駅で待っていると、Bが同駅に現れたことから、Bが学院に内緒で水商売の店で働いていることが明らかになった。原告は「水商売の店で働くのはよくない。実家に電話をしてあげようか。」と言ったところ、Bは「実家には絶対に帰りたくない。」と言うので、原告はBを自宅に連れて行くことにした。自宅まで行く途中、Bが「もう行くところはない。お金もないから、店で働くほかない。」という趣旨のことを話したので、原告は、Bを守ってやりたいとの気持ちになり、Bに対し一緒に住もうと話し、Bもこれに同意し、このようにして、原告とBとはC荘一〇三号室で同棲することとなった。 
当時、原告は、午前中はH株式会社で働き、午後は学院に通う生活をし、Bはそれまでどおり週二回の学院の教師の仕事を続けていた(一か月の給与は約五万円であった。)が、休日等には二人で東京都内の公園などに遊びに行き、比較的楽しい毎日を送っていた。
原告は、Bと同居してからすぐにBに正式に婚姻届をするよう話した。Bは離婚歴もあることから、婚姻届をすることを渋っていたが、原告が何度も婚姻届をするよう言うので、Bもこれに応ずることとし、婚姻届を作成し、Bの希望により大安の日を選んで婚姻届をすることになった。原告は、婚姻届を作成する際、Bから自分は実は二五歳ではなく三一歳であること、一度離婚歴があるとの告白を初めて受けた。原告は、右告白を聞いて動揺したが、Bとの生活を継続したいとの気持ちが強かったことから、婚姻の意思を変えなかった。原告とBの婚姻届は、大安の日である同年一〇月一六日、東京都杉並区長に提出された。
原告は、Bに対し正式に結婚したら学院の教師をやめて欲しいと話しており、Bは、婚姻届をした日をもって学院を退職する予定にしていたが、右届出をした日にBが食中毒を起こしてI病院に入院したことから、入院中の同年一〇月一八日ころ電話で学院に退職する旨通知した。その後、Bは、同月二〇日ころから約一か月間Jデパートに勤務し、五反田にある塾教材販売会社勤務を経て、平成五年一月から二月にかけてK歯科医院で助手の仕事をしていた。
原告は、Bと結婚したことでもあり、もっと収入の多いしっかりした仕事に就かなければならないと考え、平成四年一〇月三〇日、九〇万円の定期預金を解約してL自動車学校に通い、同年一二月二四日に普通自動車運転免許を取得し、平成五年二月からM運輸に勤務するようになった。この間、原告は、平成四年一一月二六日、東京入管に行き、Bとの婚姻を理由に法別表第二所定の「日本人の配偶者等」への在留資格変更許可申請をし、同年一二月六日には日本語能力試験一級に合格した。なお、原告は、平成五年二月一日、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められた。
原告とBは、当初、順調な結婚生活を送っており、同年一月一九日には、Bが妊娠していることが明らかになった。同日、原告が帰宅すると、Bが「子供をどうする。」と聞いたので、原告は「子供を産んでくれ。生活は大丈夫だから。心配しなくていい。」と答えた。
 原告は、C荘一〇三号室が手狭で、風呂がなく、トイレも和式で共同であること等から、妊婦であるBや生まれてくる子供にとって不便であると考え、平成五年二月九日に、C荘の近所にある東京都杉並区《番地略》N方二〇一号室(以下「N方二〇一号室」という。)を賃借し、同室に転居した。
しかし、引っ越しをした翌日、Bは、大家であるNから自分の実家の電話番号を聞かれ、仕方なく教えたということで、親の承諾なく原告と結婚していること、子供を妊娠していることが実家に知れるのではないかと心配している風であり、その日からBの様子がおかしくなり、情緒不安定となった。
その後間もなくして、Bは原告に対し、「今日病院に行って、先生から卵巣が腫れていて手術をしなくてはいけないと言われた。子供を産むのは今回はだめだ。」と話した。原告は心配になり、病院に電話をして医師の意見を聞いたところ、医師は、卵巣は少し腫れているが、手術の必要はなく、子供をおろす必要もない旨説明した。同年二月一四日、Bが原告のポケットベルに連絡をしてきたので、Bに連絡すると、Bは「病院に行って手術を受けるから、手術後の介護をお願いね。」と言った。原告は、急いで病院に行くと、Bが現れて「卵巣の手術を受けたい。子供をおろすことにしたい。」と話した。原告は、医師に対し、子供をおろさない
ように頼むと、医師は、子供をおろすには夫である原告の同意書がいる旨Bに説明し、二人でよく話し合うように言い、Bもこれに納得した様子であった。ところが、同月一五日に、Bはまた「子供をおろしたい。」と言いだし、同月一六日、N方二〇一号室を飛び出し、Bの実家に戻った。なお、Bは、実家に戻った後、子供を産む自信を持てないことから中絶してしまった。
原告は、Bの居所を探し求めたが、なかなか見つからず、警察に相談に行き、遺留品を調べてみたらどうかとの助言を受けて、Bの残していった荷物をみてみると、その中にアパートの賃貸借契約書があり、その住所は静岡県沼津市《住所略》と記載されていた。
原告は、同年三月一四日、その住所を訪ねて行き、そこがBの実家であることを知った。
そして、Bに会うことができたので、Bに対し再度原告の許に戻るように話した。Bは原告の許に戻ることは了解したものの、N方二〇一号室に戻ることに難色を示したので、原告はN方二〇一号室から引っ越すことを決意し、新居を探してBとの生活を再び始めることとした。
原告は、同年三月二一日ころ、有限会社O建設のPから中野区《住所略》Qハイム三〇四号室(以下「Qハイム三〇四号室」という。)を紹介され、同日中に右物件を見て気にいったが、Bの意見を聞いてから契約することとし、同年三月二三日にBと落ち合って再び右物件を見た上、同月二四日に賃貸借契約を締結した。そして、その後二日間はビジネスホテルに泊まり、同月二五日、原告が費用を出してQハイム三〇四号室に転居した。
Bは、同日、原告に対し、今までの自分の身勝手さを詫び、F姓からA姓に変わること、子供を産むことを伝え、同月二六日、Bについて外国人との婚姻による氏の変更届を作成し、原告が東京都杉並区長に提出した。
Bは再び仕事を始め、R大学附属病院病棟の手伝いや、東京都台東区にあるS株式会社での伝票整理等の仕事をした。
原告は、Bとの結婚をBの両親にも理解してもらいたいと思い、Bに対し母親に電話をし元気にやっているから心配しないように連絡して欲しいと頼んだが、Bは両親に対して電話をしたがらなかった。原告は、同年四月三〇日、Bに両親に電話をして欲しいと思い、Bにあらためてそのことを頼み、一緒にQハイム付近の電話ボックスまで行き、Bは渋々そこで電話を掛けた。原告はBが母親に電話をしているものと思い、直接母親に話をするつもりで受話器を取ると、その相手方はFという男性であることがわかったので、原告は、立腹して「どうして男性なんかに電話するのか。」と言い、かっとなってBの頭部を殴った。原告がBを殴ったとき、Bの頭が受話器にぶつかったため、原告は、Bが怪我をしているのではないかと思い、翌五月一日BをT病院に連れて行き、レントゲンを撮るなどして診察してもらったところ、全治五日間の頭部外傷と診断されたが、医師の話では大したことはないとのことであった。
原告とBは、同月四日、上野、浅草に遊びに行き、原告は、再びBと仲良く生活していけると感じた。
 Bは、その後、原告からFとの関係のことなど過去のことを少しずつでもいいから話して欲しいと言われたことや、原告が気にくわないことがあるとかっとなるタイプで、暴力を振るうこともあることから、原告と一緒に生活を続けるのはやはり難しいと感じ、平成五年五月六日、原告が留守の間に再び家出をし、U診療所を訪れ診察を受け(頭部・右膝関節部・右腰部打撲と診断された。)、診断書の交付を受けて沼津市の実家に戻った。
原告は家出をしたBを探し、同月八日にBの実家を訪ねたが、Bに会うことはできなかった。その後、原告は、何度かBの実家に電話をしてその所在を確認しようとしていたところ、Bが電話に出たので、Bが実家にいることが判明した。
同月一〇日、Bは、原告との離婚を求めて東京家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立て(平成五年(家イ)二七〇二号)、同年六月二日に第一回の調停期日が開かれた。右期日には、原告及びBの双方が出席したが、合意が成立する見込みがないとして、同日、調停は不成立となった。
同月四日、原告は、Bが実家にいると思って、Bの実家を訪ねた。そして、Bの過去が気になったので、右実家に行く前に、沼津市役所に寄ってBの戸籍謄本をとってみたところ、Bの姓は正しくはFであり、離婚歴が三回あること(昭和五八年一一月Dと婚姻、昭和六〇年六月同人と協議離婚、昭和六一年三月Fと婚姻、平成元年一一月同人と協議離婚、平成二年八月同人と再婚、平成四年三月同人と協議離婚)、Fが前夫であること、GというのはBがFと離婚した後付き合っていた男性にすぎないことなどがわかった。原告は、Bに裏切られた思いで怒りがこみ上げたが、今更どうしようもないと思って実家に行ったところ、Bの母が応対に出て、Bは仕事に行っていて不在であると言うだけであり、原告はしばらく待っていたが、結局Bに会うことができず、原告は帰京した。その後、原告は、平成五年七月四日にもBの実家を訪ねたが、Bに会うことはできなかった。
 Bは、二回目の家出の翌日である平成五年五月七日、住民票上の住所を東京都中野区《住所略》(Qハイム三〇四号室)から実家のある静岡県沼津市《住所略》に移したが、原告は、同年六月一五日、Bの住民票上の住所をBに無断で元のQハイム三〇四号室に戻した。Bは、そのことを暫くしてから知って驚き、再び実家の所在地に住民票を移し、中野区役所の職員からアドバイスを受けてBの住所異動届についての不受理届を提出した。
また、原告は、Bの最初の家出の後である同年三月八日以降、少なくとも平成八年九月一一日までの九回にわたり、継続的に東京都杉並区長に対し離婚届不受理の申出をしている。
 平成六年八月二七日ころ、Bから原告に対し、「私はAとは離婚しません。何故なら、今年生まれてくる赤ちゃん(別の男性との間にできた子)の為にも、戸籍上父親のない子にしたくないから……。」「それに、何かと言うと(原告は)暴力を振るうでしょう。」「とにかくAと籍を入れたのは楽をしたいからなの。」などと書かれた手紙が届いた。
その後、原告がBの住民票を取り寄せてみると、その住所が京都府舞鶴市《住所略》に変わっていたので、原告は、平成七年一月一二日に、Bの右住所宛てに原告の許あるいはBの実家に戻るように手紙を出したが、転居先不明で返送された。
 Bは、陳述書等で、原告との離婚を望んでいるようにいうが、離婚訴訟を提起せずに今日に至っている。
 原告は、平成五年七月一九日、平成六年一月一九日及び平成七年一月一三日、更新の理由を「二人の事を大事にしたいのです。」等と記載して在留期間更新許可の申請をした。前二者は許可されたものの、平成七年三月八日、在留期間更新を不許可とする本件処分を受けた。
以上の事実が認められる。
Bの証人としての供述又はその陳述書中には、原告に自分が水商売の店で働いているところを写真撮影されて、学院にばらすなどと脅されたため、原告と同棲せざるを得なくなった、原告との性的な関係は、原告の暴行、強制により始まった、原告と同居中金銭問題等で原告からしばしば暴行を受け、耐えられなくなって家出をしたなど、右認定に反する供述又は記載部分があり、乙八、九、二四(大家(N)からの聞き取り調査について)にもこれに沿う部分がある。しかしながら、Bは学院に時間外講師として働き、一か月五万円程度の収入を得ていたにすぎず、水商売で働いているところを写真にとられたことを学院に知らせられると困るからといって、その程度のことで同居や婚姻といった重大な事柄に応じるというのは常識的に考えにくいことであり、原告とBが二人で遊びに行った時の写真等からすると、楽しい思い出もあったはずであるのに、証人Bの供述、陳述書の記載には、そのようなことは一切現われておらず、原告を殊更悪く言うことに終始しているのは不自然である。また、乙八について、証人Bは日記のようなもので原告に内緒で書いたものと供述し、中学のころからこのようなものを書いていたというが、乙八の記載は原告と出会った七月から始まり、しかも、内容のほとんどが原告に対する悪口のみで、原告と婚姻したこと、妊娠したこと、Bのその他の生活関係の記載が欠けているなど内容的に極めて不自然であり、また、証人Bは、その保管場所について、アパートの共同トイレの上の棚に置いていたというのであるが、右のような私的で原告に秘密にしている日記を共同トイレの中に置くというのは考えにくいことである。さらに証人Bは、乙九は、原告からBの実家に頻繁に電話が掛かってきて脅迫まがいのことを言われるので、その電話の内容をメモしていたものであるというが、乙八の信用性が薄い点からして、乙九の記載も事実をそのまま記載したものかどうか疑わしい。証人B
の供述、陳述書の記載は、他にも一貫しない面、矛盾する面を含んでいる。そもそも、Bにおいて原告を殺したいほどにくいというのであれば、同居せずにすぐに逃げ出す途はあったはずであるのに、Bはそうしていない。一方、平成六年八月Bが原告に出した手紙について、証人Bは何故このような手紙を出したのかについて曖昧な供述しかしていないところ、その内容のほか、Bが原告に対し、自分の年齢、姓、結婚歴等について虚偽の事実を話していること、また、転籍を繰り返し自分の過去の結婚歴を隠そうとした形跡があることなどからすると、Bは、原告のBに対する愛情を利用して生活していたとのではないかとの感を否めない。乙
二四(大家(N)からの聞き取り調査について)には、大家においてBが青あざを作っているのを何遍も見た旨話したように記載されているが、原告とBがN方に同居していたのはわずか一週間であり、右聞き取り調査の内容は、大家であるNの話を正確に記載しているかどうか疑問があるし、少なくとも右の話には誇張があると考えられる。右証人Bの供述、陳述書の記載、乙八、九、二四の記載は、右の各点及び前掲各証拠に照らしてたやすく採用することができない。
2 右認定の事実によれば、Bと原告は、語学学校の教師と学生という関係から親しくなり、恋愛感情を生じ、双方の合意に基づき、同居、婚姻したものであり、婚姻後、性格の不一致、国際結婚に伴う生活習慣、考え方の違いがあり、特にBの方は夫と協力して円満な夫婦関係を築こうとする意思が薄弱で、移り気な性格であり、また、原告は気にくわないことがあるとかっとなるタイプで、時に暴力を振るうこともあって、夫婦関係がうまくいかなくなり、Bは原告との一緒の生活に耐えられなくなって家出をし、実家に戻ったこと、しかし、原告が婚姻関係の修復を強く求めたことから、Bは原告と再度同居したものの、夫婦関係がうまくいかないことは従前と変わりなく、Bは原告と同居して生活を継続することは困難と考えて、再び家出をし、原告と別居するようになったものと推認される。結局、原告とBが夫婦として同居した期間は合計約六か月にすぎないことになり、Bが二回目の家出をした平成五年五月六日以降原告とBの別居状態が継続しており、Bは、本訴に証人として出廷し、原告との婚姻関係を継続する意思を有していない旨供述していることからすれば、原告とBの婚姻関係は破綻に瀕しているといわざるを得ないが、原告とBが別居してから本件処分時までには約一年一〇か月しか経過していないのであり、原告はBとの婚姻関係を修復したいとの意思を有し、Bの実家に電話をしてBと話をする機会を持とうとし、また、平成七年一月一二日にBに対し原告の許あるいはBの実家に戻るように書いた手紙を出したりし、東京都杉並区長に対し九回にわたり継続的に離婚届不受理の申出をし、在留期間更新許可の申請に当たっても、申請書にBとのことを大事にしたい旨記載していること、Bも、原告に差し出した手紙の中で、「私はAとは離婚しません。何故なら、今年生まれてくる赤ちゃんの為(別の男性との間にできた子)にも、戸籍上父親のない子にしたくないから……。」などと書いてきていること、Bは原告に対し離婚訴訟を提起するなど、原告との婚姻関係を解消するための措置を何らとっていないことなどを考慮すると、本件処分時において、原告とBとは婚姻関係をどうするかについてさらに話合いの機会を持つ必要があったと考えられるし、両者の婚姻関係が完全に回復し難い程に破綻してその実体を失い、既に形骸化したとまで認めることはできない。
右のとおり、本件処分時において、原告とBの婚姻関係が完全に破綻してその実体を失い形骸化しているとはいえないから、社会通念上、原告にはいまだ日本人の配偶者としての活動を行う余地があるとみるべきであり、したがって、原告は「日本人の配偶者等」の在留資格を有するものというべきである。
四 法所定の在留資格を有する外国人も、当然に我が国で在留を継続する権利を有するものではなく、被告において、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある場合に在留期間更新の許可が認められるのであり、右の要件の判断は、国内の治安と善良の風俗の維持などの国益の保持の見地から、当該外国人の在留中の行状や国内外の情勢など諸般の事情を総合的に勘案して行われる被告の裁量に委ねられているものである。しかし、その裁量権の行使が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかなときは、その判断は、被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとして違法になるものと解するのが相当である。そこで、本件において、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとした被告の判断にその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法があるかどうかについて検討する。
1 本件処分当時、原告とBの婚姻関係が完全に破綻して形骸化していたといえないことは、前示のとおりであり、原告は、現在でもなおBに愛情を持ち、できることなら夫婦関係を修復したいと希望しており、その他、原告とBの婚姻関係の推移等前記三1に認定した諸事情を考え併せると、原告が我が国における在留を継続したいというのは十分理解できるところであり、もし更新が認められないとすれば,原告はBとの婚姻関係を修復するための機会を失うし、また、修復が困難としても、原告とBとはなお話し合って婚姻関係をどのようにするか決める必要があるが、そのような話合いをすることも非常に困難になると推認される。
2 被告は、原告は、本件在留期間更新許可申請に当たり、法施行規則別表第三の二に掲げる資料の一つであるBの身元保証書を提出せず、また、東京入管の入国審査官がBと同居していない理由を明らかにするよう求めたが、原告は、本件処分時までに、Bとの別居に合理的理由があり、原告が日本人の配偶者としての活動を行う者であることにつき、被告を納得させるに足りる資料を提出しなかったとし、このことをも考慮して、原告については在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないと判断した旨主張している。 
法施行規則二一条一項、二項は、在留期間更新許可申請に当たって、申請人は申請書二通のほか、同規則別表第三の二に掲げる資料その他参考となるべき資料を提出すべき旨を規定しており、これによれば、原告は、Bの身元保証書を提出すべきことになるが、原告は、Bと別居状態にあり、前記三1に認定したような事情から、Bの身元保証書を入手することもできない状況にあったものである。そして、右規則の定める資料は、あくまでも在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかを判断するための一資料にすぎず、その資料の提出がなければ直ちに在留期間の更新を不許可にしてよいということにはならず、原告のように配偶者の身元保証書を提出することができない特殊な事情がある者については、配偶者以外の者による身元保証書をもって代えることができるものと解するのが相当である。
また、《証拠略》によれば、原告は、東京入管の担当者からはがきで、原告とBが同居していないことについて詳細な説明書を出すように要求されたが、プライバシーに関する事柄であり、書類のやりとりでその説明をすると原告らのプライバシーがきちんと守られるか心配であり、また、原告とBの関係は微妙であり、書類に記載して説明するのは適当でないと考えられたことから、三回にわたり、東京入管の担当者に連絡をし、その都度婚姻の経過や別居の事情については出頭して口頭で説明をすると申し出ていたが、担当者からは何の連絡もなかったことが窺われるのであって、この点を考慮すれば、Bとの別居に合理的理由があり、原告が日本人の配偶者としての活動を行う者であることにつき、被告を納得させるに足りる資料を提出しなかったとし、Bから一方的に事情を聞き、原告の反論を聴取しないまま、Bの言い分をそのまま信用して、在留期間の更新を不許可とするのは、手続的に妥当性、公平性を欠くものといわざるを得ない。
3 法律上日本人と婚姻関係にあるがその日本人と同居していない外国人の場合、偽装結婚という場合が往々にしてあることは否定できない。しかし、原告とBとの婚姻が偽装であるとか、原告が婚姻意思を有しないのに、もっぱら我が国で就労するための目的でBと形式的に婚姻した者でないことは、前記三1に認定したところから明らかであり、しかも、原告の場合、本件処分時には、配偶者であるBと別居して約一年一〇か月しか経過していなかったものであり、また、原告は、アルバイトをしながら日本語学校に通って日本語能力試験一級の資格を取るなどまじめに生活していることが認められ、原告について我が国の国益を損なうような行状等があったことを認めるに足りる証拠はないのであって、これらの点を考慮すれば、日本人の配偶者と同居していない外国人の在留継続を認めることは偽装結婚を誘発する懸念があるからといって、原告について在留期間の更新を不許可とするのは妥当性を欠くといわなければならない。
4 そうすると、本件の場合、被告において、原告とBの婚姻関係が破綻し形骸化していることなどを理由に、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとしたのは、その判断の基礎を誤ったか、あるいは事実の評価を誤ったものであり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわなければならず、本件処分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法というべきである。
五 結語
よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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