受刑者接見妨害国家賠償請求控訴事件
平成8年(ネ)第144号、平成8年ネ第204号
第204号事件控訴人、第144号事件被控訴人(一審原告):A・戸田勝・木下準一・金子武嗣
第144号事件控訴人、第204号事件被控訴人(一審被告):国
高松高等裁判所第4部(裁判官:大石貢二・一志泰滋・重吉理美)
平成9年11月25日

判決
主 文
一 一審被告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告は、一審原告Aに対し、金二五万円及び内金一五万円に対する平成三年八月二七日から、内金一〇万円に対する平成四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 一審被告は、一審原告戸田勝に対し、金五万円及びこれに対する平成三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 一審被告は、一審原告木下準一に対し、金一〇万円及びこれに対する平成三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 一審被告は、一審原告金子武嗣に対し、金五万円及びこれに対する平成三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 一審原告らの控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を一審原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 一審原告ら
1 原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告は、一審原告Aに対し、金二四〇万円及び内金七〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金一六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 一審被告は、一審原告戸田勝に対し、金一〇〇万円及び内金三〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 一審被告は、一審原告木下準一に対し、金一一〇万円及び内金四〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 一審被告は、一審原告金子武嗣に対し、金六〇万円及び内金一〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金五〇万円に対する同四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 一審被告の控訴を棄却する。
7 訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。
8 2ないし5項につき仮執行宣言
二 一審被告
1 原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。
2 一審原告らの請求をいずれも棄却する。
3 一審原告らの控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。
5 仮定的に担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二 事案の概要
一 本件は、徳島刑務所内で刑務所職員に暴行を受けた等として国家賠償請求訴訟を提起した懲役刑受刑者である一審原告A及び右訴訟の訴訟代理人であるその余の一審原告らが、刑務所長によって違法に接見を妨害され、精神的苦痛を被ったとして、一審被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき慰謝料を請求した事案である。
争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実については、次のとおり補正するほかは、原判決四枚目裏六行目から同一〇枚目表五行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決五枚目表九項目の「提起され」の次に「(平成二年ワ第三三二号)」を、同一〇行目の「右訴訟」の次に「、その他の民事訴訟及び再審事件」を、それぞれ加える。
2 同六枚目表一、九行目及び同裏六行目の各「乙1」の次に「、23」をそれぞれ加え、同七枚目表六行目の「乙1」を「乙23」と改め、同裏二、八行目、同八枚目表二、八行目、同裏四行目、同九枚目表一、八行目、同裏三、一〇行目及び同一〇枚目表五行目の各「乙1」の次に「、23」をそれぞれ加える。
二 争点
次のとおり補正するほかは、原判決一〇枚目表七行目から同二七枚目裏二行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決一七枚目裏二、三行目の「国連被拘禁者保護原則」の次に「(あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則、以下「被拘禁者保護原則」という。)」を、同一〇行目の「いるのである。」の次に「右被拘禁者保護原則18やヨーロッパ人権規約六条の解釈は、訴訟における「武器の平等の原則」からみて当然のことということができる。」を、それぞれ加える。
2 同一九枚目裏七行目の末尾に改行して、「このように、憲法三二条、B規約一四条一項は当然に受刑者と弁護士との無条件の接見を認めており、これは受刑者の権利であるばかりか弁護士の権利でもある。」を加え、同二〇枚目表五行目の「」を「」と改め、同二一枚目裏七行目の「」を削除する。
3 同二一枚目裏一行目から同五行目までを次のとおり改める。
「 B規約一四条一項の解釈に当たっては、条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。)が解釈の指針となるとしても、その三一条では条約の解釈に関する一般的な規則を定めており、同条一項は「条約は文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」とし、同条二項は「条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほかに、次のものを含める。条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意、条約の締結に関連して当事国の一または二以上が作成した文書であってこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの」とし、同条三項は、「文脈とともに、次のものを考慮する。条約の解釈又は適用に
つき当事国の間で後にされた合意、条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」とし、さらに同条四項は「用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図していたと認められる場合には、当該特別の意味を有する。」としている。この条約法条約三一条の規定からすれば、条約の解釈は同条一項が規定するように、用語の通常の意義に従い誠実に解釈されるべきものである。
 B規約一四条一項を、右条約法条約三一条一項の規定に基づき検討してみると、B規約一四条一項第一文は、すべての者は裁判所の前には平等に取り扱われるべきものとしており、したがって、例えば「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等」のいかんなどによって、裁判所の門戸が開閉されたり、法律が不平等に適用され判断が偏ったりすることは許されないとの意であると解され、また、第二文は、すべての者が、刑事・民事を問わないすべての裁判について、「法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。」と規定しているのであって、右のような第一文及び第二文の意味は、これ以上の特別の意味を有すると解することはできず、憲法一四条一項が法の下の平等を保障し、三二条が裁判を受ける権利を保障し、また、三七条一項が刑事事件における公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を保障していることと同義であると解される。
そうすると、B規約一四条一項の規定からは、そのコロラリーとして受刑者が民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利を保障していると解するのは無理があり、まして当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないと解することは到底できないものである。このことは、同条全体の文脈に照らしてみても、同条三項が刑事手続上の保障を受けることができる権利についての特別の規定を設け、とりわけ、において、刑事手続上「防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。」と規定しているのに、民事上の手続について何ら言及していないことからも明らかである。
 B規約一四条一項を解釈するに当たっては、ヨーロッパ人権条約の当事国がB規約の当事国の一部にすぎず、我が国もヨーロッパ人権条約の当事国にはなっていないのであるから、ヨーロッパ人権条約六条一項の解釈は条約法条約三一条三項の「当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」には該当せず、また、一九八八年一二月九日に国連第四三回総会決議で採択された被拘禁者保護原則は、条約の規定に関する当事国の一定の適用が繰り返され、それが慣行化されたもの、とは到底いえず、条約法条約三一条三項には該当しないものである。したがって、右ヨーロッパ人権条約六条一項の解釈及び被拘禁者保護原則をその解釈基準とすることはできない。
なお、条約法条約三二条は、条約の解釈の補足的手段として、同条約三一条の規定によっては意味があいまい又は不明確である場合等には、条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができるとしている。しかし、B規約一四条一項の意味は条約法条約三一条の規定に照らして明確であり、同条約三二条にいう条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠してB規約一四条一項の意味を決定することは適当ではない。そして、B規約の草案が検討された経緯においても、受刑者が民事裁判を提起するために弁護士と面接する権利を含むか否かが検討されたことは窺えないのであり、この点からみても、B規約一四条一項が受刑者が民事裁判の訴訟代理人たる弁護士と接見する権利をも保障する趣旨を含んでいると解することはできない。」
4 同二六枚目表一〇、一一行目の「代わらない」を「変わらない」と改める。
三 証拠関係
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 B規約一四条一項、憲法三二条、監獄法及び同法施行規則の解釈について次のとおり補正するほかは、原判決二七枚目裏六行目から同三三枚目裏三行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二八枚目裏九行目の「ウィーン条約は、」の次に「その第三部の」を加え、同二九枚目表五行目の「しかるところ、」から同三〇枚目表一一行目までを「B規約一四条一項の文脈による解釈としては、その第一文では「すべての者は、裁判所の前に平等とする。」とあって、憲法一四条一項が保障するところの法の下における平等と同様の平等原則を意味し、その第二文では「法律で設置された、権限のある、独立の、かつ公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利」とあって、憲法三二条が保障するところの政治権力から独立の公平な司法機関に対しすべての個人が平等に権利・自由の救済を求め、かつそのような公平な裁判所以外の機関から裁判されることのない権利であって、当該事件に対して法律上正当な管轄権を有する裁判所で権限のある裁判官の裁判を受ける権利であり、裁判の拒絶が許されないこと及び憲法八二条が保障するところの対審及び判決の公開原則を意味しているものと解される。そして、この権利の内実をより明確に解釈するために、条約法条約では文脈とともにその三一条三項に掲げる、条約の解釈又は適用につき当事国間で後にされた合意、条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則、を考慮すると定められているものと解される。
ところで、B規約草案を参考にして作成されたヨーロッパ人権条約では、B規約一四条一項に相当するその六条一項で、同規約と共通する内容で公正な裁判を受ける権利を保障しており、右条約に基づき設置されたヨーロッパ人権裁判所におけるゴルダー事件においては、右六条一項の権利には受刑者が民事裁判を起こすために弁護士と面接する権利を含む、との判断が、また同裁判所におけるキャンベル・フェル事件においては、右面接に刑務官が立ち会い、聴取することを条件とする措置は右六条一項に違反する、との判断がなされている(甲62、63の1、2、72の1、2、証人北村泰三)。ヨーロッパ人権条約は、その加盟国がB規約加盟国の一部にすぎず、我が国も加盟していないことから、条約法条約三一条三項の「当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」とはいえないとしても、ヨーロッパの多くの国々が加盟した地域的人権条約としてその重要性を評価すべきものであるうえ、前記のようなB規約との関連性も考慮すると、条約法条約三一条三項における位置づけはともかくとして、そこに含まれる一般的法原則あるいは法理念についてはB規約一四条一項の解釈に際して指針とすることができるというべきである。また、被拘禁者保護原則は国連総会で採択された決議であって、直ちに法規範性を有するものではなく、被拘禁者の弁護士との接見に関して定めたこの原則18に関し、当事国による適用が繰り返され慣行となっているとまで認めるに足りる証拠はなく、条約法条約三一条三項の「条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの」に該当すると解することは困難である。しかし、右被拘禁者保護原則は、「法体系又は経済発展の程度の如何にかかわりなく、ほとんどの諸国においてさしたる困難もなく受入れうるもの。」として専門家によって起草され、慎重な審議が行われた後に積極的な反対がないうちに採択されたもの(甲62)であることを考慮すれば、被拘禁者保護について国際的な基準としての意義を有しており、条約法条約三一条三項に該当しないものであっても、B規約一四条一項の解釈に際して指針となりうるものと解される。
右ヨーロッパ人権条約についてのヨーロッパ人権裁判所の判断及び国連決議の存在は、受刑者の裁判を受ける権利についてその内実を具体的に明らかにしている点において解釈の指針として考慮しうるものと解される。
なお、規約人権委員会(B規約二八条)は、モラエル対フランス事件において、市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書(B規約第一選択議定書)五条四項に基づき、B規約一四条一項における公正な審理の概念は、武器の平等、当事者対等の訴訟手続の遵守を要求していると解釈すべきである、との見解を示している(甲65)ことも前記解釈について参考とすべき事情といえる。
以上の諸事情を勘案すれば、B規約一四条一項は、その内容として武器平等ないし当事者対等の原則を保障し、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり、接見時間及び刑務官の立会いの許否については一義的に明確とはいえないとしても、その趣旨を没却するような接見の制限が許されないことはもとより、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項については、右B規約一四条一項の趣旨に則って解釈されなくてはならない。なお、付言すると、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由は、広い意味において憲法一三条の保障する権利ないし自由に含まれると解することができ、その点からも、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項については、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利にも配慮した解釈がなされなくてはならない。」と改める。
2 同三一枚目表七行目の「そして」から同裏七行目の「考える。」までを「従って、前記のように憲法一三条で保障されているものと解される受刑者の弁護士との接見の権利ないし自由についても、これを尊重し、右の合理的な範囲を超えた制約が許されないことはいうまでもない。」と改め、同一〇行目の「弁護権」の前に「依頼者に対する債務とは別にその地位ないし使命から生ずる固有の」を加え、同三二枚目表九行目の「並びに接見の権利の重要性」を削除する。
3 同三三枚目裏三行目の末尾に改行して、「すなわち、受刑者とその民事事件の訴訟代理人である弁護士との接見について、当該事件の進捗状況及び準備を必要とする打合せの内容からみて、具体的に三〇分以上の打合せ時間が必要と認められる場合には、相当と認められる範囲で時間制限を緩和した接見が認められるべきである。また、当該民事事件が、当該刑務所内での処遇ないしは事件を問題とする場合には、刑務所職員が立ち会って接見時の打合せ内容を知りうる状態では十分な会話ができず、打合せの目的を達しえないことがありうることは容易に理解しうるところであって、現に接見の経験を有している弁護士が問題として指摘するところである(甲79の1ないし11、85、証人八重樫和裕)。そのような状態で訴訟を進めなければならないとすれば、受刑者であることゆえに訴訟において不利な立場に置かれ、訴訟における「武
器の平等の原則」に反し、裁判の公正が妨げられることになるのであるから、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあって会話を聴取している状態では十分な打合せができないと認められる場合には、その範囲で刑務所職員の立会いなしでの接見が認められるべきである。従って、三〇分以上の打合せ時間の具体的必要性が認められる場合に、相当と認められる範囲で接見時間の制限を緩和しなかったとき、また、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあっては十分な打合せができないと認められる場合に、刑務所職員の立会いなしの接見を認めなかったときには、裁量権の行使を逸脱ないしは濫用したものと解するのが相当である。なお、この場合、刑務所職員の立会いなしの接見とは、監視もされないということを意味するものではなく、受刑者と弁護士の会話の内容が刑務所職員に聞かれることのな
い状態を意味するものであって、被拘禁者保護原則18の四項でも「法執行官は監視できるが聴取することはできない。」と定めている(甲72の1、2、80)。」を加える。
二 接見制限の有無及び態様とその違法性について
次のとおり補正するほかは、原判決三三枚目裏五行目から同四七枚目裏七行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三三枚目裏七行目の「甲10の1ないし9」を、「甲10の1ないし10、10の12、10の16、10の18、10の21、10の24、10の27、10の29」と改める。
2 同三六枚目裏五行目の「仮に」から同六行目の「いい得る。」までを、「一概に接見業務に著しい支障を来すことになるとはいいきれない。」と、同三七枚目表三行目の「甲20の1、2ないし30の1、2」を「甲20ないし30(枝番を含む。)」、同裏八行目冒頭から同三八枚目表四行目末尾までを「そこで、具体的な必要性についてイないしヘ、チ及びリの各接見について次に検討する。
イ及びロについては、それぞれの面会許可申請書に、面会事由として、大阪地方裁判所平成二年ワ第三〇五四号事件の一一月二一日一審原告A本人尋問の準備のため、との記載がある(甲10の10、10の12)。訴訟における本人尋問は、証拠調べの中でも重要なものであって、その打合せには十分な時間が必要であることは容易に理解することが可能である。そしてロの申請書には一審原告A本人の主尋問の時間が一時間三〇分でその準備に最低二時間が必要との具体的な記載があり、接見を希望する日が平成二年一一月二〇日であって本人尋問がなされる前日であること及び申請書の記載からみても面会しての打合せには三〇分以上の時間が必要であったことが認められる(一審原告木下準一)。
ハについては、その面会申請書に、面会事由として暴行事件訴訟に関して一審原告Aの在監経過等事実調査及び打合せのためとの記載がある(甲10の16)。しかし、この記載から直ちに三〇分以上の時間が必要であると認めるのは困難であり、接見を求めた津川弁護士及び木村弁護士は、面会の当日、担当する黒岩課長に三〇分以上の時間の接見を求めたことが認められる(証人津川博昭)が、その必要性について具体的に明らかになっていたと認めるに足りる証拠はない。
ニについては、面会申請書に面会事由として記載されている事項のうち、六〇分を必要とするとされている暴行事件訴訟外一件の国家賠償請求事件の打合せは、その記載によれば期日の経過と今後の方針についての打合せ(甲10の18)であって、この記載から直ちに三〇分以上の時間が必要であると認めるのは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。
ホについては、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、民事事件四件及び国家賠償事件二件の打合せ並びに再審の準備状況について(甲10の21)というもので、件数が多いことからみて、接見時間がある程度必要であることは窺われるものの、民事事件四件のうち三件は事件番号が連続していることからみて関連事件であることが推測され、そうであればそれぞれの事件について別個の打合せまでは必要のないこともあり、また、打合せの内容としては、民事事件一件について和解成立後の履行について、とされているのみで、その余の事件については明らかではなく、この申請書の記載から直ちに三〇分以上の時間が具体的に必要であると認めるのは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。
ヘについては、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、再審の準備状況、面会についての新訴提起について、国家賠償事件二件及び民事事件の打合せのため(甲10の24)というものであり、この申請書の記載から直ちに三〇分以上の時間が具体的に必要であると認めることはできず、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。
チについては、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、再審の準備状況、大阪地方裁判所の国家賠償事件の鑑定方法の打合せ、徳島地方裁判所の国家賠償事件二件の準備及び民事訴訟事件の打合せ(甲10の27)というもので、打合せや準備の内容としては、民事事件に関してその対策のために告訴する件及び新たな示談提起について、とされているのみで、その余の事件については明らかではなく、この申請書の記載から三〇分以上の時間が具体的に必要であるかどうかは不明であって、直ちに三〇分以上の時間が必要であると認めるのは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。
リについては、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、再審の準備状況、徳島地方裁判所の国家賠償事件二件の準備及び民事訴訟事件の打合せ(甲10の29)というもので、打合せや準備の内容としては、再審に関しては証人の供述の説明、徳島地方裁判所の国家賠償事件二件(暴行事件訴訟及び本件)に関しては一一月二〇日の期日の説明と今後の対策、民事事件に関しては新たな示談提起について、とされている。これらのうち、証人の供述の説明については、具体的な事実経過を説明し質問に応答するとすればかなりの時間がかかる場合があることは予測できないではないが、書面で補う可能性も否定できないし、常にそのようにはいえないこと、また、他の事件に関する事項と総合してみても、具体的に三〇分以上の時間が必要であったとまで認めることは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、イ及びロの接見については、具体的に三〇分以上の必要性が認められる場合であるにもかかわらず、相当な範囲で制限を緩和しなかった点に裁量権を逸脱した違法があるというべきであるが、その余のハないしヘ、チ及びリの各接見については、具体的な必要性が明確であったとは認め難く、三〇分と制限したことが裁量権を逸脱し、濫用したものとまではいえないと解するのが相当である。」と、それぞれ改める。
3 同三九枚目表七行目の「主張する」から同裏六行目までを「主張し、当該刑務所における処遇等の事実関係にわたる打合せが接見の主要な目的となっている場合には、訴訟における「武器の平器の原則」から刑務所職員の立会い(会話を聞くこと)なしの接見を認めるべきことは前述のとおりである。この点からイないしヘ、チ及びリの接見について検討すると、面会許可申請書の面会事由に、暴行事件訴訟についての準備又は打合せが記載されているのはイ、ハないしヘ、チ及びリである(前掲の各接見日に関する甲号証)。従って、まずロについては、前記の理由により立会いを不可とすべき事情はない。その余のうち、ハについては、一審原告Aの在監経過等事実調査が接見の目的となっていることが明確であり、このような場合には刑務所職員が立ち会って会話内容を知り得る状態では率直な話ができず、打合せに支障を来すことが認
められるが、その余のホ、ヘの場合は単に打合せ(甲10の21、10の24)、チの場合は準備(甲10の27)、イ、ニ、リの場合は期日の経過説明と今後の方針または対策(甲10の10、10の18、10の29)というものであって、期日の経過説明については、過去の公開された裁判の経過を説明するものであるから、刑務所職員の立会いがあったからといって、暴行事件訴訟において一審原告Aが不利な立場に置かれることはなく、刑務所職員の立会いが違法となるとは解されないが、単なる打合せ或いは準備というのでは、立ち会っては打合せに支障を来すような事実関係にわたるものかどうかは不明であって、このような場合には、不測の事態に備えて刑務所職員が立ち会うことが直ちに違法となるものと解することはできない。そうすると、本件において、右ハの接見の際に刑務所職員を立ち会わせたことは違法であったといえるが、その余の場合に
は前記戒護上、処遇上の目的を達成するための合理的範囲内にとどまるものと認められ、裁量権の逸脱又は濫用があったとはいい難い。」と改める。
4 同四一枚目裏八行目の「証人黒岩」の前に「乙16、17」を加える。
5 同四三枚目表五行目の「乙5、」の次に「16、18ないし20、」を加え、同四四枚目表二、三行目の「証言するが、」を「証言し、これに添う証拠として乙16号証が存在するが、右証言によってもすべての電話内容について電話書留簿に記載されるものではないことが認められ、したがって津川弁護士からの電話連絡について電話書留簿に記録がなかったとしても、記載のないことが必ずしも津川弁護士からの電話連絡がなかったことにはならず、」と、同四六枚目表八行目の「10」を「11」と、それぞれ改める。
6 同四七枚目表三行目の「以上を総合考慮すると、」を「また、岡山大学医学部神経内科城洋志彦の鑑定書(甲77)によれば、同人は平成九年二月二一日に一審原告Aを診察し、その鑑定結果として一審原告Aの胸椎下部に黄色靱帯の骨化による第一ないし二腰髄神経レベルの神経障害があり、同人の訴える症状と矛盾するものではなく、骨化は進行していること、また頚椎の変形が認められ、第五ないし六頚髄あたりの頚髄及び神経根の損傷、病変として同人の訴える症状と合致すること、の各事実が認められているが、同鑑定書には、平成三年四月二日の時点での持続的な神経根の症状や脊髄の症状はなかったものと考えられる旨の記載がある。以上を総合考慮すると、ルないしカの接見当時、」と改める。
三 徳島刑務所長の故意、過失等について
次のとおり補正するほかは、原判決四七枚目裏九行目から同四八枚目裏六行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決四七枚裏九行目の「各接見について」の次に「、刑務所職員の立会いのもとで」を加える。
2 同四八枚目表三行目の「そうすると、」から同六行目の「いうべきであるから、ここに」までを「そして、前記二で認定したとおり、面会許可申請書の記載自体からイ及びロの接見については三〇分以上の時間が必要であったことが認められ、ハの接見については刑務所職員の立会いがあっては打合せに支障が生ずることが認められるのであるから、これらの面会許可申請書を検討すれば、条件を緩和して接見を認めるべきことを認識し得たものというべきであり、」と改める。
四 一審原告らの損害について
以上のとおり、イ及びロの接見について接見時間を三〇分に制限されたこと、ハの接見について刑務所職員の立会いがあったこと及びヌの接見ができなかったことによって、一審原告らは精神的苦痛を被ったものと認められ、本件における諸般の事情を考慮すると、イないしハの接見の制限についてその精神的苦痛を慰謝するには、各一審原告において一回の接見について五万円(一審原告Aについて三回合計一五万円、同戸田弁護士についてイの一回五万円、同木下弁護士についてイ及びロの二回合計一〇万円、同金子弁護士についてロの一回五万円)が相当であり、ヌの接見できなかったことによる一審原告Aの精神的苦痛を慰謝するには一〇万円が相当である。
第四 結論
以上のとおり、一審原告らの本訴訟請求は、一審原告Aが金二五万円及び内金一五万円に対する訴状(原審平成三年(ワ)第二六四号)送達の日の翌日である平成三年八月二七日から、内金一〇万円に対する訴状(原審平成四年(ワ)第二六八号)送達の日の翌日である平成四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同戸田弁護士が金五万円、同木下弁護士が金一〇万円、同金子弁護士が金五万円及びこれらに対する平成三年八月二七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるが、その余は失当であって棄却を免れない。
よって、これと結論を異にする原判決を右の趣旨にしたがって変更し、一審原告らの本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言については相当ではないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

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