在留資格変更申請不許可処分取消請求控訴事件
平成8年(行コ)第60号(原審:大阪地方裁判所平成7年(行ウ)第24号)
控訴人:A、被控訴人:法務大臣
大阪高等裁判所民事第6部(裁判官:笠井達也・孕石孟則・大塚正之)
平成10年12月25日
判決
主 文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対して平成七年三月三〇日付けでした在留資格の変更を許可しない旨の処
分を取り消す。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
次のとおり、付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」(三頁七行
目冒頭から一二頁一〇行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三頁七行目冒頭から四頁三行目末尾までを次のとおり改める。
「一 本件は、出入国管理及び難民認定法(平成元年法律第七九号による改正後のもの。以下、
改正前の同法を「旧法」、改正後の同法を単に「法」という。)二条の二及び別表第二所定の「日
本人の配偶者等」の在留資格で日本に滞在していたタイ王国国籍の女性である原告が、その後、
夫と別居していたこと等から右在留期間の更新を拒絶されたため、法二条の二及び別表第一の
三所定の「短期滞在」の在留資格に変更して滞在していたが、再び右別表第二所定の「日本人の
配偶者等」の在留資格への変更許可申請をしたところ、これに対し、被告は、平成七年三月三〇
日付けで、右変更を不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたので、被告に対し、
本件処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。」
2 同五頁九、一〇行目の「在留期間の更新を認める」を「法二一条三項所定の在留期間の更新を
適当と認める」と、同一〇行目の「同年」を「平成六年」と改める。
3 同六頁六行目の「被告は、」の次に「法二〇条三項所定の」と加える。
4 同七頁八行目の「民法七五二条」の次に「参照」と加える。
5 同八頁七行目の「求められる」を「認められる」と改める。
6 同九頁一〇行目の「原告について」を「原告の本件申請に対し、法二〇条三項所定の」と改め
る。
7 同一一頁八行目末尾に改行のうえ、次のとおり加える。
「なお、原告は、平成六年の在留期間更新許可申請を不許可とした処分を争うことなく、自ら
の意思に基づき、希望する在留資格を「出国準備」を理由とする「短期滞在」に変更申請をし、
これが許可されたものである。したがって在留資格の変更を求める本件申請には、変更の必要
性及び相当性並びに法二〇条三項但書の「やむを得ない特別の事情」が必要であるところ、仮
に右の平成六年の不許可処分が違法であるとしても、後者の処分は前者の処分を前提とするも
のではないから、前者の処分の違法性を承継しないし、変更の必要性及び相当性並びにその他
にやむを得ない特別の事情を認めるに足りる事情も存在しない。」
8 同一一頁一一行目の「継続していたし、」の次に「現在においてもBとの同居を望み、同人と
の婚姻関係を継続する意思を失っていないし、」と加える。
9 同一二頁三行目の「欠くものであり、」を「欠くものである。」と改め、同三行目と四行目との
間に改行して次のとおり加える。
「仮に、原告とBとの婚姻関係が本件処分時において破綻していたとしても、その責任はも
っぱらBにあり、離婚となれば原告が精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状態におかれる
ことになるので、Bからの離婚請求は有責配偶者からの離婚請求として認容されないものであ
る。それにもかかわらず、原告が被告の本件処分により国外退去を強制されれば、その後にB
から離婚訴訟が提起されても事実上これに応訴することはできなくなり、右の点についての裁
判所による司法判断を経る機会を奪ってしまう結果になる。したがってこの点を看過している
点において、被告は評価を間違っている。」
10 同一二頁四行目の「また、原告がBの不貞、遺棄のために別居を余儀なくされ、」を、改行の
うえ「また法二〇条三項但書の点については、原告は被告に右の諸事情を無視され、平成六年
の」と改める。
11 同一二頁六、七行目の「受けたものであることを考慮すると、」を「受けたものである点を考
慮すべきである。」と改め、改行して、「これらの諸事情を考慮すると、原告の本件申請には、法
二〇条三項本文及び但書所定の在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由及びやむを
得ない特別の事情があるのであって、これを拒否した本件処分は、」と改め、さらに同九行目の
「裁量権の裁量権」を「裁量権」に改める。
第三 当裁判所の判断
一 争点一について
1 当裁判所は、控訴人は、本件処分当時、法二条の二、別表第二の在留資格である「日本人の配
偶者等」に該当し、当該在留資格が認められるための要件を具備していたものと判断する。そ
の理由は、「日本人の配偶者等」の意味について、次の2のとおり解するところ、控訴人には、
次の4のとおりの事由があり、これに該当すると判断するからである。以下順次述べる。
2 法二条の二、別表第二の「日本人の配偶者」の意味
 当裁判所も法二条の二、別表第二の在留資格である「日本人の配偶者等」のうち、日本人の
配偶者の身分又は地位に該当するためには、単に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足り
ず、日本人の配偶者としての活動が必要であると解する。その理由は、原判決の事実及び理
由の「第三 争点に対する判断」の一の1(一三頁二行目冒頭から一五頁三行目末尾まで)
に記載のとおりであるから、これを引用する。
 そこで、次に右に示した日本人の配偶者としての活動とは何かについて検討すると、法
二条の二の別表第二の在留資格である「日本人の配偶者等」に関して、法は、日本人の配偶者
としての活動の内容を個別、具体的には定めておらず、その活動範囲等を具体的に認識させ
るような規定も見当たらないから、同法の趣旨、目的、制度の構造等諸般の事情を斟酌した
うえ、我が国で適用される法例以下の国際民事法(準拠法としての日本民法を含む。)の諸規
定並びに国内法としての日本民法とその解釈及び条理などをも参考としながら、社会通念に
したがって判断するほかない。
ところで、一般に日本人の配偶者としての活動としては、当該配偶者と同居し、協力、扶助
しあう場合(法例一四条、民法七五二条参照)が通常ではあるが、それにとどまらず、例えば、
単身赴任で別居中であったり、双方の合意に基づいて離婚するか否かを考えるために当分の
間別居中である場合などを含み、さらに夫婦関係が既に破綻して別居しているような場合に
あっても、外国人である配偶者が離婚について合意せず、かつ、日本人である配偶者が不貞
や悪意の遺棄を行うなどして、明らかに有責配偶者に該当し、離婚訴訟を提起しても、これ
が認容されないようなとき(法例一六条、民法七七〇条一項五号参照)は、未だ当該外国人で
ある配偶者の日本での在留は、特段の事情がない限り、日本人の配偶者として活動している
ものと評価でき、別表第二の「日本人の配偶者等」に該当すると解すべきである。けだし、右
のような場合には、その在留が通常、前記の法の目的に反することはないし、また、右両配偶
者の身分関係には、法例と大部分の場合準拠法として日本民法が適用されるところ、法別表
にいう「日本人の配偶者」の概念はもとより同法独自の立場から決めるべきことは当然であ
るが、同じ日本法である右法例、日本民法の使用するそれと著しく乖離した意味付けをする
ことは、日本法間における用語の統一を乱し、ひいては制度、善良の風俗等に混乱を生じさ
せるおそれがある。具体的に見ても、日本人の有責配偶者の不貞等により婚姻関係の破綻に
追い込まれた外国人である配偶者が、それにもかかわらず、日本から退去させられ、ますま
す夫婦間を疎遠に追いやられ、さらに地理的、経済的、社会的、言語的な障害等により、事実
上、自らの権利(婚姻費用分担請求権等)も行使困難になり、極端な場合、日本人有責配偶者
から離婚訴訟を提起されても事実上これに応訴できなくなってしまう(子の親権者の指定、
財産分与、慰謝料請求権の行使についても同じ)ことになり、著しく正義に反する結果を招
来する危険があるし、このことは国際化する婚姻関係の中にあって、社会理念や通念にも合
わないと考えられるからである。
 なお、この点に関し、控訴人は、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるためには、
日本人との有効な婚姻関係が存在すれば足りる旨主張するが、前記の説示のとおり、右の
見解は採用できない。他方、被控訴人の主張及び行政実務は、基本的には前記の解釈と同
旨であると認められるが、その具体的な適用に当たっては、当該日本人配偶者の不貞等の有
責行為によって婚姻関係が破綻している場合であっても、破綻している事実を重視し、外国
人である配偶者はもはや日本人の配偶者としての行動をしていないとして、右在留資格を否
定する。しかし、この見解は、先に述べたとおり、日本人配偶者の有責性を顧慮していない点
において採用の限りではない。
3 そこで、以上の見解に立って、控訴人が本件処分時に法二条の二、別表第二の在留資格であ
る「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるための要件を具備していたか否かについて検
討すると、証拠及び証拠によって認められる事実は、次のとおり、付加、訂正するほか、原判決
の第三の一の2の(一八頁二行目冒頭から三一頁四行目末尾まで)に記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
 原判決一八頁三行目の「九の一、二、」の次に「二七、」と加え、同行目の「検甲一ないし三」
を「検甲一ないし一一」と改める。
 同五行目の「一八及び一九、」の次に「二三、」と加え、同行目の「原告本人」の次に「、当審
における証人畑純一、同控訴人本人」と加える。
 同一九頁二行目の「スナックにおいて、」の次に「借金返済のため、求められるまま、」と加
える。
 同二〇頁二行目の「原告は」を「その後原告は、Bが原告と正式に婚姻したいと考え、婚姻
に必要な書類を用意してタイに来たので、」と改め、同八行目の「嵩んだこともあって」の次
に「Bには借金があったので、その支払に充てるため」と加え、同九行目末尾に改行のうえ、
次のとおり、加える。
「原告は、Bに昼の弁当を作って持たせるなど、通常の主婦としての仕事もしており、Bは、
原告がやきもちを妬くことを嫌がってはいたが、それ以外に原告が妻として問題があるとは
考えていなかった。」
 同二一頁四行目の「旅行に出る旨告げてCとともに出奔し、」を「旅行に出る、一人で考え
たい、待っていてくれなどと告げて、Cとともに出奔して所在をくらまし、」と改め、同五行
目の「同居するようになった。」の次に「なお、Bは出奔前には、原告の勤務するスナックの
ママに対して離婚はしないと述べていた。」と加える。
 同六行目の「原告は、」の次に「Bが彼氏のいる女性と駆け落ちしたと聞かされ、半信半疑
のまま、Bの居場所を探したが、日本の地理に不慣れであり、探すことができなかった。その
後、知人の力を借りて、ようやく」と加え、同八行目の「ともに」の次に「原告とBの結婚式
の写真を持って」と加える。
 同九行目の「これに対し、Bが、」を「しかし、Bから」と、同一〇行目の「拒否したところ、
原告は、」を「拒否されてしまったので、原告は、このままBと別居状態が続いたのでは在留
期間更新の許可が下りず、日本に在留することができなくなってしまうのではないかと恐れ
た。そのため、原告は、離婚する意思は毛頭なかったにもかかわらず、離婚すると言わなけれ
ば右更新についてBの協力が得られないと考え、Bに対し、」と改める。
 同二三頁二行目冒頭から二四頁三行目末尾までを次のとおり改める。
「 原告は、警察署にも捜索願いを出すなどしてBを捜し、連絡先が判明してからは、そ
の判明した連絡先である勤務先に伝言を依頼するなどしたが、連絡が取れないまま時が経過
した。やがて再び在留期間更新時期が近づいてきたので、原告はBに対し、更新手続への協
力を求めたところ、Bはこれに応じて、平成四年三月三一日、大阪入国管理局に出頭した。そ
の際、原告は、Bに、仕事の都合で別居しているが、早く同居したい旨記載された書面を作成
してもらい、原告は、これを添付して、希望する在留期間を三年とする在留期間更新許可申
請書を同局に提出した。被告は、同年八月一〇日、在留期間を一年とする更新許可をした。な
お、右Bに作成してもらった書面内容は、原告が呈示した案文を書き写したものであったが、
右案文は、前回更新時にBに作成してもらった書面の案文と同様、漢字かな混じり文であり、
原告自身が起案した文面ではないと推測される。」
 同二四頁四行目の冒頭から同五行目の「求められたことから」までを次のとおり改める。
「 原告は、その後もBが戻ってくるのを待っていたが、その見通しがなく、また、次の
在留期間更新については協力を得られないおそれがあったため、平成五年初めころ、和歌山
県の畑純一弁護士に相談をし、同弁護士に対し、緊急の問題としてBから在留期間更新手続
の協力を求めること、併せて夫婦間が円満になるようBと話し合いを行うことの二点を依頼
した。畑弁護士は、本件は、原告とBが偶然に知り合って、真摯に交際のうえ、困難を乗り越
えて結婚したものであること、しかし、Bがその後女性を作って原告を捨て別居状態になっ
ていること、それにもかかわらず、Bが更新手続に協力しないことによって、原告が国外退
去になり、その後、Bが離婚訴訟を起こして勝訴するということになれば誠に理不尽である
と考え、右依頼を引受けた。そして、畑弁護士は、当時の入管行政の実務では夫の不貞によ
って別居ないし婚姻関係破綻に追い込まれている外国人である妻の場合でも、別居等の事実
があれば、これを理由として日本人の配偶者等に該当しないとして扱われているので、原告
が不許可処分を受けてしまうと、取消訴訟でその不当性を争う道は事実上はなはだ困難であ
るし、また、原告の依頼の趣旨が夫婦関係の円満解決にあったことから、平成五年三月四日、
和歌山家裁新宮支部に夫婦間の協力扶助請求の審判及び審判前の保全処分を申し立てた。そ
して同月二五日の保全手続の審問期日において、原告とBとの間で、在留期間更新手続につ
いて協力すること、夫婦間の正常化についても今後話し合って行くという話がされたことか
ら、同弁護士は、当事者間の話合いに委ねることにした。その結果、Bは」
 同二五頁二行目冒頭から二六頁八行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかし、その後も原告とBとの間で夫婦関係正常化に向けての話し合いは進まず、再
度の在留期間更新手続の時期が近づいたが、これへのBの協力も難しくなったため、原告は、
再び畑弁護士に相談をした。これを受けて、畑弁護士は、Bに対し、夫として協力する義務が
あることなどを話して説得したのに対し、Bは離婚届を渡してくれれば、最後に一度だけ協
力する旨回答した。畑弁護士は、Bが協力しなければ、在留期間更新の許可はおりないだろ
うと判断し、原告に対し、本来、Bは有責配偶者であり、離婚をBから求められる筋合ではな
いが、Bの協力がないと在留期間の更新が難しいこと、Bから協力を得るため、やむなく同
人と取り引きしてBの離婚届作成の要求を一定の条件のもとで受け入れて同弁護士が原告か
ら離婚届を預かる方も考えられるが、この場合には、その期間中に原告の気持ちが整理でき
なくて、離婚届の返還を求めても、返還できなくなることなどを説明したところ、原告は、B
との取引に応じたくはないものの、それでは在留期間更新許可を得られず、日本から退去を
求められ、事実上、話し合いができなくなることから、真実は離婚する意思はなかったもの
の、同弁護士がBと原告の立場を考慮して作成したB宛ての書面を写し、離婚届とともに同
弁護士に交付した。右書面には、離婚をし他の人と結婚する決心がつかないので、更に二回
在留期間更新手続に協力をしてほしい旨及び翌年四月を経過すれば離婚届を畑弁護士に預け
る旨が記載されていた。原告が二回の協力を求めたのは、直ぐに離婚を考えられる状況には
なく、Bが悪い女性との関係に眼を醒まして原告のもとに戻るのに時間が欲しかったためで
あった。なお、右書面中に原告が交際している男性がいるかのような記載があるが、畑弁護
士には具体的な人についての心当たりはなかった。」
十一 同二七頁八行目末尾に「なお、畑弁護士は、右のとおり、Bの協力は得られたものの、結果
的に更新が不許可となったことから、原告から預かっていた離婚届を原告に返還した。」と加
える。
十二 同二九頁八行目冒頭から三一頁四行目末尾までを次のとおり改める。 
「 原告は、BがCと出奔した後も、BがCと別れて戻ることを期待して、ホステスとし
て稼働しながら、Bの持ち物を処分することなく、肩書住所地で生活をしていた。原告は、平
成三年初めころにBの勤務先で同人と話し合った後も、Bと接触を求めたが、勤務先にしか
電話はなく、Bがいないときは取り次いでもらえないので、なかなか会うことができず、調
停及び在留期間更新手続の機会にしか、話し合うことができなかった。原告は、在留期間更
新手続の協力を得るため、三年間の更新許可がされれば離婚を考える旨の発言をしたことは
あるものの、本件申請に至るまでBと離婚をする決心はついていなかった。また、原告は、右
のとおり稼働しており、Bの扶助を受けなくても生活は可能であったので、女性と同棲し子
供のいるBに対し、生活費の支給を求めることはしなかった。
 Bは、原告のもとから出奔して以来、Cと同棲し、同人との間でD(平成四年一二月
三一日生)、同E(平成六年一〇月二九日生)をもうけ、両名を認知している。Bは、原告に発
見されるまで、自分の方から連絡を取って原告との関係をどうするかなどについて話し合お
うとしたことはなく、生活費を送ったりしたこともなかった。またBは、平成六年六月ころ
から、Cの祖父が経営する果物畑の栽培を手伝っており、本件処分当時は、原告との婚姻関
係を修復する意思のないことを原告に告げていた。Bは、出奔して後、原告に対し離婚を求
めたことはなく、また、その立場にはないと認識しているものの、できれば離婚したいとの
意思を有しており、本件訴訟の結果次第で、裁判を含めて離婚の話をするつもりでいるが、
先立つものはなく、具体的な離婚条件などは示されていない。」
4 以上の事実によれば、控訴人は、同棲期間を含めれば、一時、タイ王国に帰国していた期間
はあるものの、ほぼ六年間にわたり、Bと同居生活をし、その間、控訴人は、Bから見ると、
嫉妬心が強いと感じられたことはあるとしても、特に妻として問題があったわけではなかっ
たこと、ところがBは、他の女性と不貞行為に及び、旅行に出ると偽って、同女とともに行方
をくらまし、その後は控訴人に連絡をすることも、生活費を送金することもなく、一方的に
控訴人を遺棄して、その女性と同棲生活を営んでいたものであって、Bは明らかな有責配偶
者であること、本件処分当時、控訴人とBとの婚姻関係は、別居後四年半が経過し、その間、
BがCと同棲を続け、その間に二児までもうけており、客観的に見れば、再びBが控訴人の
元に戻って同居することは難しい状態にあり、原告とBとの婚姻関係は破綻状態にあったこ
とが認められるが、しかし、控訴人は、右当時、Bとの婚姻関係を今後も維持、継続したいと
考え、Bが女性と別れて自分のもとに戻ることを切望しており、Bも、その間の事情をわき
まえ、直ちに原告との婚姻関係を解消しようとは言い出せなかったこと、また、仮にBがそ
の時点で控訴人に対し離婚訴訟を起こしても到底認容される余地はなかったこと(法例一六
条、民法七七〇条)、そうすると、控訴人のBに対する配偶者としての地位は、法的にも十分
保護されるべきであり、他に前記の法の目的を害するような特段の事情のない本件において
は、本件処分時において、控訴人には日本人の配偶者としての活動を認めることが十分に可
能であり、したがって、控訴人は、「日本人の配偶者等」としての在留資格を有すると解する
のが相当である。
 被控訴人は、この点に関して、控訴人は、平成二年八月以降Bと別居し、家庭裁判所の調停
時や在留期間更新許可申請の際に顔を合わせるだけで、Bに対し三年間のビザがもらえたら
離婚をする旨申し述べ、離婚を約した書面及び署名済みの離婚届を交付するなど、本件処分
時には、両者の婚姻関係は完全に破綻し、控訴人も夫婦としての活動を行う意思もその可能
性も存在しない状態であり、日本人の配偶者としての活動を行おうとする者に該当しないと
主張する。しかし、前記認定のとおり、控訴人は、Bが女性と別れて自分のもとに戻ると信じ
て待っていたが、被控訴人に在留期間の更新許可をしてもらえなければ、タイ王国に帰らな
ければならず、そうなるとBとの同居を回復することも不可能となるため、不本意ながら、
離婚をほのめかせつつ、Bに在留期間更新手続への協力を求めてきたのであり、Bも、夫と
してこれに協力する義務のあることから、右手続に協力してきたものであり、本件処分当時
も、控訴人は、Bと離婚する意思はなかったが、畑弁護士からBの要望に応じなければ被控
訴人から更新許可を受けることができない旨説明され、将来離婚に応じるような書面を作成
したが、その文面においても、離婚の決心はつかず、少なくとも今後二年間は、Bと離婚でき
るかについて心の整理をする時間がほしいことを明記し、その間に、BがCと別れて控訴人
のもとに戻るのを待ちたいと考えていたのであり、Bも、その趣旨を理解して、在留期間更
新手続に協力したことが認められるのであり、また、強くBの不貞行為を責め、翻意を促し
て積極的に行動すれば、かえってBの離婚意思を強固にすることも懸念されるのであり、円
満な解決を求める意味で積極的な働き掛けをしていないからといって、離婚意思を有してい
ると推認することはできないのであって、Bに対し三年間のビザがもらえたら離婚をする旨
申し述べたとしても、Bに翻意を促す時間がほしかったからと解されるのであり、離婚を約
した書面及び署名済みの離婚届を交付するなどしたのも前記の経緯によることを考えると、
これらの事実から、両者の婚姻関係は完全に破綻し、控訴人も夫婦としての活動を行う意思
もその可能性も存在しない状態であったと判断することはできないと言わなければならな
い。
二 争点二について
1 被控訴人は、控訴人の本件申請に対し、法二〇条三項所定の在留資格の変更を適当と認める
に足りる相当の理由がないとして、本件不許可処分を行ったものであり(《証拠略》)、被控訴人
の主張によれば、右不許可処分の理由は、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるために
は日本人の配偶者としての活動をし、又、活動する予定であることが必要であると解されると
ころ、控訴人は、日本人の配偶者としての活動をしておらず、又、離婚意思を有しており、今後
も活動する可能性もない状態であり、それにもかかわらず、控訴人はBに同居する予定がある
との虚偽の書面を提出させるなどして欺いたものであり、そのような場合は、「短期滞在」の在
留資格を「日本人の配偶者等」の在留資格へ変更する必要性及び相当性はなく、かつ、同項但書
における「やむを得ない事由」も存在しないと判断したことによるものと考えられ、また、右判
断に当たっては配偶者である日本人が有責か否かについては考慮されていなかったことは、被
控訴人の主張及び弁論の全趣旨により明らかである。
2 しかしながら、前記のとおり、控訴人はBとの婚姻を継続する意思を喪失したものとは認め
ることができないのであって、それにもかかわらず被控訴人において、控訴人が離婚意思を有
しており、今後も日本人であるBの配偶者として活動する可能性がなくなったと判断したこと
は重大な事実を誤認したものと言わなければならず、また、日本人である配偶者が有責配偶者
であり、離婚訴訟を提起しても認容されないような場合には、なお、日本人の配偶者としての
活動をする余地があることは前記のとおりであり、被控訴人は、控訴人がそのような立場にあ
ったことを考慮しなかったのであるから、この点において、その評価を誤ったものとも言わな
ければならない。
3 ところで、法二〇条三項は、被控訴人は、在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理
由があるときに限り、これを許可することができ、「短期滞在」の在留資格をもって在留する者
の申請については、やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ許可しない旨定めている
が、右の要件の判断は、法の目的である国内の治安及び善良の風俗の維持などの国益の保持の
見地から、当該外国人の在留中の行状、国内外の情勢など諸般の事情を総合して行うべき被控
訴人の裁量行為であると解されるのであり、右判断が違法であるというためには、その裁量権
の行使が全く事実の基礎を欠き、又は、事実に対する評価が合理性を欠くこと等により社会通
念上著しく妥当性を欠くことが明らかなときは、裁量の範囲を逸脱し、又は、その濫用があっ
たものとして、違法になると解するのが相当である。
4 そこで、検討すると、右1及び2記載のとおり、被控訴人は、控訴人が離婚の意思を有してお
らず、円満解決を望んでおり、Bの戻りを待ち望んでいるにもかかわらず、控訴人は離婚意思
を有しており、婚姻関係を継続する意思がないと誤認をしたものであるが、離婚意思を確定的
に有しているか否かは、日本人の配偶者としての活動を考えるうえで極めて重要な事実である
と言わなければならない。また、被控訴人は、相手方である日本人が有責配偶者であるか否か
については、評価の対象とはしていないのであるが、しかし、有責配偶者であるか否かは、離婚
訴訟においても、その要件を異にしており、当該外国人において日本人の配偶者としての活動
の余地があるか否かを評価するうえでも重要な事柄であると言わなければならない。そうする
と、被控訴人がした本件不許可処分は、その裁量権の行使が全く事実の基礎を欠き、かつ、事実
に対する評価が合理性を欠くことにより社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであると
言わねばならず、したがって、裁量の範囲を逸脱し、又は、その濫用があったものとして違法に
なると解するのが相当である。
5 なお、控訴人は、Bに協力を求めて、事実に反する書面を提出するなどして「日本人の配偶者
等」の在留資格について更新の許可を求めた経緯はあるのであるが、当時、控訴人が、既にBと
別居しており、Bは女性と同棲しており、連絡も取りにくい状態にあることなどを話せば、当
時の更新手続の運用からすると、日本人有責配偶者への配慮が欠けており、「日本人の配偶者
等」の要件を具備しないものとして、更新が不許可とされ、日本に滞在することができなくな
る危険が高かったのであり、控訴人が有責配偶者の妻として、日本に滞在するためにはやむを
得ない行動であったと見ることもできないものではなく、また、控訴人は、Bと婚姻して再入
国して後は、他に日本国の国益を損なうような行状はなく、かえって在留許可を認めないとす
れば、控訴人の円満な解決を求める活動ができなくなるのはもとより、控訴人は生活の資を失
い、我が国を最後の同居地としてBから我が国の裁判所に離婚訴訟等を提起された場合にも、
事実上、日本人の妻としての活動が封じられる危険が高く、結果的に日本人の配偶者としての
活動をする余地を奪われることになるのであり、これらの点を考えると、右事実に反する陳述
をしたなどの事実があるとしても、なお、前記判断を左右するに足りないというべきである。
6 また、本件は、「短期滞在」で上陸した者が日本人の配偶者等への変更を求めたものではなく、
既に「日本人の配偶者等」の在留資格を有しており、その更新を同様の理由で違法に拒絶され
たために、やむを得ず被控訴人の指示にしたがって「短期滞在」の在留資格を取得したうえ、直
ちに「日本人の配偶者等」への在留資格の変更を求めたものであり、前記認定の経緯を総合す
ると、別個の処分であるから前記認定の違法性を引き継がないということはできず、変更の相
当性及び必要性を認めるべきであり、また、短期滞在からの在留資格の変更において必要とさ
れる「やむを得ない特別な事情」についても、右同様、これを認めるべきであり、これらの事情
がないとして、これを不許可とすることは、前記同様、著しく妥当性を欠くと言うべきである。
二 以上によれば、控訴人の本件請求は理由があるから、これを認容すべきであり、これと異なる
原判決は相当でないから、これを取消し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条、六一条を適
用して主文のとおり判決する。

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