在留資格変更不許可処分取消請求事件
平成12年(行ウ)第114号
原告:A、被告:法務大臣
東京地方裁判所民事第2部(裁判官:市村陽典・森英明・馬渡香津子)
平成14年4月26日
判決
主 文
被告が平成12年3月10日付けで原告に対してした在留資格の変更を許可しない旨の処分を取り消
す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、日本人男性と婚姻し、二人の子供をもうけて、本邦に適法に在留していた外国人であ
る原告が、離婚し、二女の親権者となったため、被告に対し、出入国管理及び難民認定法別表第1
の「短期滞在」の在留資格から同法別表第2の「定住者」へ在留資格の変更許可を申請したところ、
被告がこれを不許可としたため、この不許可処分の取消しを求めている事案である。
1 法令の定め等
 本邦に在留する外国人は、原則として、当該外国人に対する上陸許可若しくは当該外国人の
取得に係る在留資格又はそれらの変更に係る在留資格をもって在留する(出入国管理及び難民
認定法(以下「出入国管理法」という。)2条の2第1項)。
在留資格は、出入国管理法別表第1又は同法別表第2の上欄に掲げるとおりであり、同法別
表第1の上欄の在留資格をもって在留する者は当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表
の下欄に掲げる活動を行うことができ、また、同法別表第2の上欄の在留資格をもって在留す
る者は当該在留資格に応じそれぞれ本邦において国表の下欄に掲げる身分若しくは地位を有す
る者としての活動を行うことができる(同条2項)。
出入国管理法別表第2の「定住者」の在留資格をもって在留する者は、「法務大臣が特別な理
由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」としての活動を行うことができる(同
表第2)。
 在留資格を有する外国人は、その在留資格の変更を受けることができるところ(出入国管理
法20条1項)、在留資格の変更を受けようとする外国人は、法務省令で定める手続により、被告
に対し、在留資格の変更を申請しなければならない(同条2項)。
上記申請があった場合、被告は、当該外国人が提出した文書により在留資格の変更を適当と
認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる(同条3項)。
ただし、短期滞在の在留資格をもって在留する者の申請については、やむを得ない特別の事
情に基づくものでなければ許可しないものとする(同項ただし書)。
 「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の規定に基づき同法別表の定住者の項の下
欄に掲げる地位を定める件」と題する告示(平成2年法務省告示第132号。以下「本件告示」と
いう。)は、上記地位であらかじめ定めるものについて別紙2のとおり定めている。
 法務省入国管理局長が平成8年7月30日付けで地方入国管理局長及び地方入国管理局支局
長宛てに発した「日本人の実子を扶養する外国人親の取扱いについて(通達)」(以下「本件通達」
という。)は、「日本人の実子としての身分関係を有する未成年者が我が国で安定した生活を営
めるようにするために、その扶養者たる外国人親の在留についても、なお一層の配慮が必要と
考えられます。ついては、扶養者たる外国人親から在留資格の変更許可申請があったときは、
下記のとおり取り扱うこととされたく、通達します。」として、未成年かつ未婚の日本人実子を
扶養するため本邦在留を希望する外国人親については、その親子関係、当該外国人が当該実子
の親権者であること、現に相当期間当該実子を監護養育していることが確認できれば、地方入
国管理局(支局を含む。以下同じ。)限りで「定住者」(1年)への在留資格の変更を許可して差
し支えないとし、①実子が本邦外で生育した場合、②外国人親が「短期滞在」の在留資格で入国・
在留している場合、③実子の監護養育の実績が認められない場合等、地方入国管理局限りで許
否の判断が困難な場合には、本省に進達するものとしている。(乙13)
2 前提となる事実
末尾に証拠を掲げた事実は当該証拠により認定した事実であり、証拠を掲げていない事実は当
事者間に争いがない。
 本件処分に至る経緯
ア 原告の国籍について
原告は、昭和46年(1971年)《日付略》、タイ王国の《地名略》において出生したタイ国籍を
有する外国人である。
イ 前回の入国・在留状況等について
a 原告は、有効な旅券又は乗員手帳を所持せずに、平成元年《日付略》ころ、新東京国際空
港に到着上陸し、もって、出入国管理法3条の規定に違反し本邦に入国した。
b 原告は、平成4年《日付略》、千葉県銚子市において、B(以下「B」という。)との間にC(以
下「長女C」という。)を出産した。なお、長女Cは、平成6年《日付略》、日本国籍を取得し
ている。
c 原告は、平成6年《日付略》、千葉県銚子市長に、Bとの婚姻届を提出した。
d 原告は、平成6年、千葉県銚子市において、Bとの間にD(以下「二女D」という。また、
長女C及び二女Dを併せて以下「子供ら」という。)を出産した。二女Dは、出生届出により、
日本国籍を取得している。
e 原告は、平成7年《日付略》、出入国管理法24条1号該当者として、本邦から退去を強制
された。
ウ 今回の入国から本件処分に至る経緯ついて
a 原告は、平成8年《日付略》、新東京国際空港に到着、東京入国管理局成田空港支局入国
審査官から、在留資格「日本人の配偶者等」、在留期間「1年」を付与されて、本邦に上陸し
た。
b 原告は、平成9年11月27日、東京入国管理局鹿島港出張所において被告に対し在留期間
更新許可申請を行い、同年12月11日、被告から、在留期間「1年」とする許可を受けた。
c 原告は、平成10月12月3日、東京入国管理局鹿島港出張所において被告に対し、「定住
者」への在留資格変更許可申請(以下「別件変更申請」という。)をした。
ところが、被告は、「短期滞在」への在留資格変更申請を受けたものではないにもかかわ
らず、別件変更申請において申請されている「定住者」への在留資格変更に係る許否につ
いて応答することなく、平成11年1月27日、別件変更申請に対し、原告の在留資格を「短
期滞在」(在留期間90日)に変更することを許可する旨の処分を行なった。
d 原告は、平成11年3月3日、東京入国管理局において被告に対し、在留資格変更許可申
請を行い、被告は、同年4月9日、上記申請に対し、在留資格の変更を許可しない旨の処分
をした。
e 原告は、平成11年4月20日、東京入国管理局において被告に対し、在留期間更新許可申
請を行い、同日、被告から、在留期間「90日」とする許可を受けた。
f 原告は、平成11年5月31日、東京入国管理局において被告に対し、在留期間更新許可申
請を行い、同年6月7日、被告から、在留期間「90日」とする許可を受けた。
g 原告は、平成11年6月24日、千葉家庭裁判所八日市場支部において、Bとの間で、原告
を申立人、Bを相手方として、別紙3記載のとおりの調停条項(以下「本件調停条項」とい
う。)による調停(以下「本件調停」という。)が成立し、Bと離婚した。
h 原告は、平成11年8月18日、東京入国管理局において、被告に対し、変更の理由を「次
女Dの親権者として」と記載し、具体的な在留目的に「別紙上申書及び千葉地裁八日市場
支部の離婚調停成立調書により、次女のDの親権者、又長女Cとの面接交渉権を得ました
(Cの親権は別紙戸籍謄本に記入)。この事を確実に実行する為に定住者としての資格が必
要ですので、よろしく御願いいたします。」と記載して、「定住者」への在留資格変更許可申
請(以下「本件申請」という。)をした。(乙3の1)
被告は、平成12年3月10日、本件申請に対し、原告が本邦において行おうとする活動は、
「定住者」の在留資格について法務大臣があらかじめ告示で定めた地位を有しているとは
認められず、また、他に本邦への居住を認めるに足りる特別な理由も認められないから、
「定住者」の在留資格への変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるとは認められな
いとして、「定住者」への在留資格変更を許可しない旨の処分(以下「本件処分」という。)
をした。(乙6)
3 当事者の主張
(原告の主張)
 原告に対し定住者の在留資格を付与すべき事情
ア 原告の結婚及び離婚に至る経緯
原告は、平成2年5月ころに銚子市の寿司屋「E」で板前をしていた日本人であるBと知
り合い、平成3年3月からは同人と同棲し、内縁の夫婦となった。
そして、前提事実記載のとおり、原告ら夫婦は、長女C(平成4年《日付略》生)をもうけて、
平成6年4月22日正式に婚姻の届出をし、さらに二女D(平成6年《日付略》生)をもうけた。
原告は、結婚当初、Bの両親、祖母と同居して、Bらの家業である寿司店を手伝いながら、
家事全般から従業員の食事の支度、店の掃除、洗い物など一手に引き受けて近所でも評判の
働きぶりであった。
その後、原告は、子供らのためにも正規の在留資格を得る必要があると考え、自ら入国管
理局に出頭して違反事実を申告し、平成7年《日付略》、退去強制を受けて、子供らを連れて
タイに帰国し、同国において、「日本人の配偶者等」の在留資格を取得した上で、平成8年12
月7日、再来日し、結婚生活を継続した。なお、原告がタイに帰国している間、原告は、子供
らを同国において養育していた。
ところが、夫のBは、他のタイ人女性を愛人にして、次第に自宅に寄りつかなくなり、原告
に対し、子供らを置いてタイに帰れなどと罵るようになったため、耐えかねた原告は、平成
10年4月14日、千葉家庭裁判所八日市場支部に離婚の調停申立をした。
そして、上記離婚調停は不成立となり、離婚訴訟が開始されたが、再度調停に付され、平成
11年6月24日、前提事実記載のとおり、離婚調停が成立した。
イ 長女C及び二女Dに対する面接交渉権と二女Dに対する親権
原告は二女Dの親権者であり、かつ養育・監護の監督者でもある。すなわち、前記離婚調
停の成立によって、原告は二女Dの親権者とされ(本件調停条項2項)、面接交渉により同人
に対する養育・監護を親権者として監督しなければならず(同3項)、長女C及び二女Dの双
方について面接交渉権がある(同4項)。
この監督の任務は、子に対する保護のため必要不可欠なものであり、上記養育・監護の補
充的性質を有し、その延長線上の内容を有するというべきである。また、原告の二女Dに対
する親権は、本件調停条項に定められた当面の間の養育監護権を除いても、財産管理権や代
理権及び未成年者の親権代行権等がある以上、原告はこの親権を常に日々行使し得る状態に
なければならないが、母親たる原告が現に日本に居なければ、それらの権利行使は事実上、
有名無実のものになる。さらに、原告がタイに帰国した場合、子供らに面接しようとしても、
交通費、滞在費等の諸費用が高額になり、原告の経済状況からみて、事実上不可能である。
そして、現に実の母親たる原告は、定期的に上記面接交渉権を行使し親権者として元夫で
あるBの二女Dに対する養育・監護の監督にあたっている。
すなわち、原告は、親あるいは親権者としての各権利に基づき、本件調停が成立した平成
11年6月以降、7月には銚子市まで子供らに会いに行ってデパートに行ったり食事をしたり
して過ごし、8月には夏休みを利用して2人を自分の新宿区のアパートに連れてきて3日間
一緒に遊んであげ、以後も、毎月、銚子市まで子供らに会いに行っている。平成12年の正月
には、後楽園遊園地に連れて行って同年1月5日まで3人で楽しく過ごしている。その後、
原告は、本件処分に対処するために、支援の人々や弁護士らとの打ち合わせ等を重ねざるを
得ず、週に1日しか取れない休みをそれらに費やさなければならなくなったこと等の事情に
より直接には子供らに会えないでいたが、電話での会話は絶やさず、平成12年4月には子供
らと銚子市のマクドナルドで食事を共にしている。
また、子供らが電話で緊急に会いたいと電話連絡してくれば、原告は、その都度、休みをと
って、銚子駅まで行き、子供らと会っている。
このように原告は本件調停条項に従い、親権者として面接交渉権の行使によって、現実に
2人の子供らの養育・監護の監督にあたっている。
原告は、離婚後、タイ料理店等で働く等して収入を得て生活している。
原告は、子供らの存在を心の支えとし 生甲斐としているのであって、子供らが成人する
までは何としても本邦に在留し、実の母としての当然の責任を全うしたいと切実に願ってい
る。
また、子供らも実母である原告を深く慕っている。
ウ 子供らの養育・監護がBに委ねられている事情
a もともとBには子供らを養育・監護する意思も能力もなかったため、原告としては子供
らを自分の元で育てることを強く望んでいた。しかし、離婚調停において、離婚原因と責
任がBにあり、よって慰謝料と財産分与として合わせて218万円を支払うことに合意した
ものの、同人にそれ以上の資産がなかったため、毎月の養育費の支払については、本件調
停条項に入れられなかった。原告は、Bの実家の家業(創業80年以上の寿司屋の老舗)を
手伝っていた間も、Bから生活費ももらっておらず、離婚時点の原告の資産は、上記の218
万円から弁護士費用を差し引いた140万円程度が全てであり、二女Dを実際に養育・監護
するだけの経済的な余裕がなかった。一方、Bは、子供らの養育・監護する意思も能力も
ないことは明らかであったが、Bの両親と祖母が、子供らの養育・監護を望んでおり、原
告もそれらを共同行使できると判断した。そこで、原告は、子供らの養育・監護を切望し
ていたものの、子供らの幸せを真剣に考え、子供らの養育・監護をBに委ねたものである。
しかし、今後、原告が二女Dに対する相応の養育・監護を施せる程度に経済的に安定し
た場合や、Bによる子供らの遺棄などの事態が生じた場合に備えて、本件調停条項にはあ
くまで「申立人(原告)は、次女Dの親権者として、当分の間、次女Dの養育・監護を相手
方に委ねる。」との明確な限定を付けたのものである。
b 原告が子供らの扶養について金銭的負担をしていない事情
そもそも、養育費も支給されず、女性であり外国人であるというハンディを背負いなが
ら、一人日本で生きていくことを余儀なくされている原告と、80年以上も続いている老舗
の寿司屋を経営するBの両親と共に安穏と暮らしながら、実際に子供らと同居しているB
とを比較すれば、Bが扶養についてもある程度の金銭的負担をするのは、むしろ当然であ
り公平である。
エ Bの監護能力の欠如
原告が子供らの監護者として期待していたBの祖母が平成11年に亡くなり、Bの母親も平
成12年12月に亡くなった。Bの父親が近所の知人の協力を得て子供らの面倒を見ているが、
もはや十分な監護は期期待できない。他方B自身は、昼間からパチンコ屋に入り浸るなどし
ており、自身の扶養義務を放棄したかのようである。
オ 原告の本邦に対する定着性
原告は、平成元年12月6日から平成7年4月24日までの約5年6月の在留歴と、平成8年
12月7日から本件処分時まで約3年4月の在留歴を有し、かつ、2回目の在留のうち約1年
5月の期間、長女C及び二女Dと同居していた。
したがって、原告は、本件処分時において、合計8年9月の長期間にわたる本邦滞在歴を
有していた。
この期聞だけみても、本邦への定着性が強固であることは明らかである。
なお、原告が1回目の滞在と2回目の滞在との間にいったん帰国した目的は、日本人家族
との生活を継続するため在留資格を得ることにあったこと、この帰国中、原告は日本人であ
る夫との間で生まれた子供らの養育を一手に引き受けていたこと、退去強制による上陸拒否
期間1年の経過を待ってすぐに「日本人の配偶者等」の在留資格を取得の上、再入国を果た
したことにかんがみれば、1回日の滞在と2回目の滞在は一体としてとらえるべきである。
また、「定着性」とは、在留期間の長さ、在留中の生活態度などにより判断されるべきであ
って、その場合、その間の在留資格の有無は考慮されるべきではなく、日本人家族との同居
期間の長短を加味して判断されるべきものでもない。
 在留資格変更申請に対する許否に係る被告の裁量について
ア 国際慣習法上、国家が外国人の出入国管理に広範な裁量権を有することを前提としても、
そこからただちに被告の自由裁量が導かれるわけではない。
外国人の入国、在留に関しても、国会の広範な立法裁量の結果として、行政庁に一定の裁
量権を付与することもあるが、行政庁に全くの自由裁量が付与されることはあり得ない。す
なわち、国会を国権の最高機関とする日本国憲法の精神及び「法律による行政の原則」から
すれば、行政庁に一定の裁量権が与えられるとしても、その裁量権の範囲は根拠となる法律
の目的及び趣旨等に制約されるいわゆる「霸束裁量」にとどまることは明らかである。
イ この点、出入国管理法は「出入国の公正な管理」を目的としており(同法1条)、これは、国
内の治安や労働市場の安定などの公益と、国際的な公正性、妥当性の実現、また、憲法、条約、
国際慣習、条理等により認められる外国人の正当な利益の保護を意味する。そして、出入国
管理法20条1項、3項(在留資格変更許可)の趣旨も、この公益目的と外国人の正当な権利・
利益の調整を図ることにあると解される。
そうすると、在留資格変更許可における被告の裁量権は、上記の出入国管理法の趣旨の範
囲内で認められる羈束裁量にとどまるはずであり、被告の主張するような、広範な自由裁量
などではないと解すべきである。
ウ したがって、在留資格変更申請に対する被告の許否に係る裁量処分の当否が司法審査の対
象になるのは当然である。また、裁量性のある処分であっても、①判断の前提となる具体的
事実関係が正確に把握されていなければならないこと、②判断にあたっては当該具体的事件
の具体的諸事実を斟酌しなければならないこと、③過去の行政処分例や内部基準等に従い行
政の平等性を損なわないようにしなければならず、これらに反する処分は違法と評価される
べきである。
 本件処分の違法性
ア 裁量権の逸脱、濫用
a 前記のとおり、原告は2人の幼い子供の実の母親であり、子供らは母親を慕い、かつ、必
要とし、母親である原告は、母親としての当然の責任を全うしたいと願っており、子供ら
をかけがえのない存在として慕い、大切にしている。
仮に、在留資格の変更が認められず、原告が外国に退去させられることになれば、実際
上、子供らに突然起こる病気や事件等の異変があっても原告が駆けつけることはできなく
なり、子供の権利の保護の精神にも著しく反することになる。
ところで、原告とBとの結婚生活は、前述のとおり同居期間を含めれば8年以上に及ぶ
長期のものであったにもかかわらず、結婚のときだけは妻として協力させ、かつB家の家
業に従事させておいて、離婚した途端、安易に国外退去を強いることは、外国人配偶者(家
族)の生活や人権を脅かすものである。しかも、離婚に至った原因は、そもそも元夫である
Bが愛人をつくり家庭を放棄したためなのである。明らかに元夫の日本人の方に帰責事由
があるのに、その不利益を外国籍の元妻たる原告の側に一方的に負わせるのでは、元夫た
る日本人男性にだけ有利であって、不公平であるから、原告の在留資格変更申請の許否を
判断するに際しても、原告の権利、利益を不当に害することのないように配慮される必要
がある。
また、法務省は平成12年3月「第2次出入国管理基本計画」を告示し、今後は外国人労
働者を積極的に受け入れるとともに、不法滞在者に対しても、日本人等との身分関係を有
する者など日本社会とのつながりが十分に密接と認められる不法滞在者に対しては、人道
的な観点を十分に考慮し、適切に対応していくとしている。これは従来の入管政策を転換
するものであり、法務省としても、今後は、日本人と外国人が円滑に共存・共生していく
社会づくりが必要になりつつある国際社会の趨勢に適応して、日本社会の構成員、居住者
たる外国人に対して新たな外国人行政を構築していこうとするものである。
本件において、原告は、日本人の子供らの親として日本社会の構成員であったし、現在
もそうであるから、原告に対しても人道上の配慮が必要というべきである。
そうであるとすれば、原告に定住者等の在留資格を一切与えず、外国人だからといって
強制送還してしまうことを強いる本件処分は、2人の子供から母親を人道上不当に奪うも
のであり、人類普遍の母子の情愛を踏みにじる、人道上許されない違法な処分である。
b 民法及び考慮すべき事由の不考慮による違法
前記のとおり、原告は、二女Dの親権者であり、養育・監護の監督者でもある。また、原
告は、長女C及び二女Dに対する面接交渉権も有している。
ところが、本件処分により、引き続き所定の退去強制手続が実行されれば、子への手厚
い保護を実現するため後見的に親権を保障した民法818条1項の「成年に達しない子は、
父母の親権に服する」という条文の趣旨は没却されたも同然になる。
したがって、本件処分は、原告につき民法が定める親権と子供らに対する面接交渉権の
存在、これらの各権利に基づき親としての面接交渉を重ねてきたという事実があるのに、
全くこれらを考慮しようとせず、処分の前提となる事実の評価を誤り、明白に合理性を欠
く狭量な判断というべきである。
c 内部基準違反・平等原則違反
前記のとおり、内部基準に違反する処分は、違法と評価されるべきであるところ、「定住
者」の在留資格については、内部基準として本件告示と本件通達が存在する。
 まず、本件告示は、日本において生活歴が全くない者が初めて上陸しようとする場合
であっても、本件告示に示された類型に属する者については、上陸後、「定住者」と呼ぶ
に相応しい活動をする蓋然性が高いので、上陸当時から「定住者」の在留資格を認めよ
うとするものである。
これに対して、在留資格変更申請の際には、上陸後資格変更申請のときまでに積み重
ねた職場環境、家庭環境、社会環境があることから、在留資格変更時の「定住者」該当性
は、日本での生活歴がないことを前提に、どのような場合に「定住者」の在留資格が認め
られるかという見地から類型化された本件告示にとらわれる必要はない。
したがって、在留資格変更の時点では、本件告示の類型に該当するか否かに関わらず、
本邦において積み重ねてきた生活環境の態様と長さを「定住者」該当性の判断要素とす
ることは、本件告示の存在と何ら整合性を欠くことにはならない。
現に、被告自身、本件通達によって、上陸後の生活環境のみを「定住者」の在留資格該
当性の判断要素とすることを認める方針を示している。
したがって、原告が本件告示に定められた地位に該当しないからといって、在留資格
の変更申請を拒否すべきではない。
 次に、本件通達は、本件告示の類型に該当しない場合であっても、日本人の実子を監
護養育する外国人親に対して、「定住者」の在留資格を付与して在留を認める方針を示し
ている。
本件通達の趣旨は、仮に、外国人親が日本人配偶者と離婚又は死別し、そのために本
国への帰国を余儀なくされた場合、親子は離ればなれになるし、それまで外国人親に監
護・養育されている日本人実子は、外国人親が本国に帰国すると、残されて1人で本邦
で生活することが困難となり、結局は親と一緒に親の本国に行かざるを得ないことにな
るのであって、このような事態は日本において教育を受け生活していくことを望む子の
利益に反するという点にあると解される。
すなわち、本件通達の趣旨は、日本人である子の利益の保護にあると解されるのであ
って、日本人実子を養育する外国人親に対する在留資格付与の判断にあたっては、子の
利益保護を基準に判断すべきである。
そして、離婚後の子の監護・養育は、子と同居している親だけが行なうものではなく、
子の監護・養育に関する状況は、個々の家族が抱える事情やライフスタイルによって異
なるものであり、同居していない親であっても、子の監護・養育に重要な役割を果たし
ていることもある。
したがって、本件通達にいうところの外国人親が実子を「自ら監護・養育」している
か否かの判断は、親権の有無、同居の有無のほか、日本人親、外国人親それぞれの監護能
力、監護・養育への貢献の程度(面接交渉も含む。)、子の意思などを総合的に考慮して
判断すべきである。
そこで、本件についてみると、原告は、前記に述べた事情によれば、子供らを自ら監
護・養育していると評価されるべき立場にあると認められるから、本件通達の趣旨及び
本件通達が定める内部基準に照らし、原告に対しては、「定住者」の在留資格を付与する
のが相当であり、本件処分には、本件通達に違反するという内部基準違反が存するとい
うべきである。
d 以上のとおり、本件処分は、人道に反し、民法及び考慮すべき事由を考慮せず、自らが定
めた内部基準にも違反するものであるから、被告に与えられた裁量権を濫用、逸脱した違
法な処分というべきである。
イ 憲法違反
a 憲法13条違反
親が子供らと心を交歓したり、教え、また会話したりなどして、家族の交流を通じ、子を
大人に育てていくことに対する職責と、これに対する期待と幸福感は、親たる個人にとっ
て幸福追求権として保障されるべきである。
したがって、母子を離ればなれにしてこのような幸福を奪う本件処分は、憲法の基本原
理たる個人の尊重を旨とする上記条項に違反する。
b 憲法第14条1項違反
日本人であれば、離婚しても親権や面接交渉権があれば子供らとの交流は当然可能であ
るのに、原告が距離的にも金銭的にも、莫大な渡航滞在費用を要するタイを母国とする外
国人であるゆえに、上記各権利の行使が事実上不可能になる。
したがって、本件処分は、離婚する日本人の配偶者に比べ、離婚した原告たる外国人配
偶者に対してのみ著しい不利益を与えるものであって、極めて不当な差別であり、法の下
の平等に反する。
c 憲法第24条2項違反
上記条項は、家族に関する事項に関して、法律は個人の尊厳に立脚しなければならない
旨を定める。そして、親子は、自然の情愛に基づいて相互にその傍らに居て常時交流し、相
談し合い、子供らが親に監督され得る状況にあってのみ、それぞれの子供らの人格は発展
し、親も、これらの行為や責任を全うして円満な人格を形成していくことができるもので
ある。
したがって、これらを無視した本件処分は、家族における各個人の尊厳に反する。
d 以上のとおり、本件処分は、憲法に違反した違法な処分というべきである。
なお、憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをそ
の対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及
ぶ。
したがって、上記の基本的人権はいずれも、その性質上、外国人たる原告にも保障され
るべきである。
ウ 法律に優位する国際人権条約違反
国際法上、外国人の入国、在留の処遇について国家の一定の裁量が認められるとしても、
国家とその行為は以下列挙するとおり特別に条約の定めがあればこれに拘束される。
a 世界人権宣言16条は、「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国
の保護を受ける権利を有する。」と規定し、同宣言25条は、「母と子とは、特別の保議及び
援助を受ける権利を有する。」と規定している。
したがって、本件処分は上記各条項の制定趣旨及び文言に違反する。
b 児童の権利に関する条約9条は、「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母か
ら分離されないことを確保する。」と規定している。
したがって、退去強制手続の前段階である本件処分自体が上記条項に違反する。
なお、同条約3条は、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的もしくは私
的な社会施設、裁判所、行政当局または立法機関のいずれによって行われるものであって
も児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」と規定しているが、母親である原
告が子供を虐待したなどの特別の事情がない以上、原告が日本でできるだけ子供らのそば
に居て、自然の情愛と最低限の保護を与え得ることが、「最善の利益」であるというべきで
ある。そうすると、原告が今後受けるであろう退去強制処分は、上記条項に違反する措置
である。
c 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)10条は、「こ
の規約の締結国は、次のことを認める。できる限り広範な保護及び援助が、社会の自然か
つ基礎的な単位である家族に対し、特に、家族の形成のために並びに扶養児童の養育及び
教育について責任を有する間に、与えられるべきである。」と規定している。
同条は、人権の保障はその個人の家族の保護にまで及ばなければ十分とはいえないこと
にかんがみて、家族それ自体が社会及び国による保護を受ける権利を享有することを規定
し、家族離散の防止を求めている。国家による保護、援助が、特に「扶養児童の養育及び教
育」について必要であることが強調されている。
したがって、本件処分は上記条項に違反する。
d 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)17条は、「何人も、そ
の私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及
び信用を不法に攻撃されない。」と規定し、同規約23条は、「家族は、社会の自然的かつ基
礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。」、「この規約の締結国
は、婚姻中及び婚姻の解消の際に、婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するた
め、適当な措置をとる。その解消の場合には、児童に対する必要な保護のため、措置がとら
れる。」と規定している。
本件処分は、原告の家族関係(原告と長女C及び二女Dの親子関係)に対する恣意的干
渉に当たり、また、将来、本件母親を退去強制させて母子を遠く海を越えて離ればなれに
し、元夫である父親のみに子供らを託することは、子供らの生存、生活に生じる危険を倍
加させるものである。
したがって、本件処分は上記各条項にも違反する。
e 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下「女子差別撤廃条約」とい
う。)16条は、「締約国は、婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差
別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし、特に、男女の平等を基礎として
次のことを確保する。」、「子に関する事項についての親(婚姻をしているかいないかを問わ
ない。)としての同一の権利及び責任。あらゆる場合において、子の利益は至上である。」と
規定している。
したがって、本件処分は、上記条項に違反する。
f 以上のとおり、本件処分は、条約に違反した違法な処分というべきである。
 出入国管理法20条3項ただし書の「やむを得ない特別の事情」について
出入国管理法20条3項ただし書は、短期滞在の在留資格からの在留資格変更申請について、
やむを得ない特別の事情の存することを要求している。
ところで、原告は、離婚調停を行なっていたころ、「日本人の配偶者等」としての在留期限が
平成10年12月7日までだったので、東京入国管理局鹿島港出張所Fの勧めに従い、「日本人の
配偶者等」から「定住者」への在留資格変更申請をしたが、原告の意に反して、一方的に、平成
11年1月27日付け「短期滞在」の在留資格に変更許可処分をされた。
上記変更処分は、短期滞在の在留資格を一方的、不意打ち的に付与したものであるから、重
大な違法の存する処分であって、このような経緯で短期滞在の資格を付与された原告の在留資
格変更申請については、出入国管理法20条3項ただし書は適用されないというべきである。
そうでないとしても、このような場合において、原告に対し、出入国管理法20条3項ただし
書の規定する「やむを得ない特別の事情」を要求することは、信義則に反する。
仮に原告に対して出入国管理法20条3項ただし書が適用され、「やむを得ない特別の事情」
の具備が要求されるとしても、被告が別件変更申請に対して「短期滞在」への在留資格変更許
可処分を行ったこと自体が、同項ただし書の「やむを得ない特別の事情」に該当するというこ
とができ、原告は、「やむを得ない特別の事情」に基づいて、「短期滞在」から「定住者」への在
留資格変更を申請したものというべきである。
(被告の主張)
 在留資格変更申請に対する許否に係る被告の裁量権
ア 在留資格変更の要件
外国人の在留資格の変更申請が許可されるためには、当該外国人の在留状況等諸般の事情
を考慮して、在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由が認められることが必要で
ある(出入国管理法20条3項)。
被告が上記の相当の理由の有無を判断するに当たっては、在留資格の変更にあっては、ま
ず、当該外国人が希望する在留資格についての在留資格該当性(当該外国人の行おうとする
活動が出入国管理法別表第1に類型化された活動又は同法別表第2に類型化された身分若し
くは地位を有する者としての活動に該当することをいう。以下、同様の趣旨で用いる。)を有
するか否かについて判断し、次に、在留資格該当性が認められる場合に、さらに、当該在留資
格該当性を除くその他の諸般の事情を考慮した上で在留資格の変更を認めるのが相当である
か否かを判断することになるものである。
イ 裁量の範囲
上記在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由が具備されているかどうかは、外
国人に対する出入国及び在留の公正な管理を行なう目的である国内の治安と善良な風俗の維
持、保健衛生の確保、労働市場の安定など国益の保持の見地に立って、申請者の申請理由の
当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、
国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情を総合的に勘案して的確に判断されるべきで
ある。
そして、出入国管理法には、在留資格変更の許否の判断について特に考慮すべき事項や考
慮すべきでない事項を定めるなど被告の判断を覊束するような規定が置かれておらず、その
変更の事由も出入国管理法5条の定める上陸拒否事由に比べて概括的であるから、上記のよ
うな多面的専門的知識を要し、かつ、政治的配慮も必要とする判断は、事柄の性質上、国内及
び国外の情勢について通暁し、常に出入国管理の衡に当たる被告の広範な裁量に委ねられて
いるものと解される。
このような被告の裁量権の性質にかんがみると、裁判所が被告の裁量権の行使としてなさ
れた在留資格の変更申請の許否の判断が違法となるかどうかを審査するに当たっては、被告
と同一の立場に立って在留資格の変更をすべきであったかどうか、又はいかなる処分を選択
すべきであったかについて判断するのではなく、被告の第一次的な裁量判断が既に存在する
ことを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある等により上記判断が全
く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により上
記判断が社会通念上著しく妥当性を欠いていることが明らかで裁量権を付与した目的を逸脱
し、これを濫用したと認められるか否かを基準に判断すべきである。
したがって、在留資格の変更の許否の判断が違法となるのは、上記判断が全く事実の基礎
を欠き、あるいは、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、被告に与えら
れた裁量権の範囲を逸脱し、又はその裁量権を濫用した場合に限られるというべきである。
 本件処分の適法性
ア 「定住者」の意義
出入国管理法は、我が国への入国・在留を認めるべき外国人について、外国人が我が国で
在留中に従事する活動又は在留中の活動の基礎となる身分若しくは地位に着目して類型化し
た27種類の在留資格を定め、在留資格として定められた活動(出入国管理法別表第1)又は
身分、若しくは地位を有するものとしての活動(同法別表第2)を行おうとする場合に限っ
てその入国・在留を認めることとしている。
そして、在留資格のうち、出入国管理法別表第2の「定住者」には当該活動の前提となる身
分又は地位として「被告が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」
と規定するとともに、この在留資格については、上陸の申請をした外国人が、被告からあら
かじめ告示をもって定める地位を有する者としての活動を行おうとする者でない限り、入国
審査官は上陸許可の証印を行うことができないこととされている(出入国管理法7条1項2
号、9条1項)。
これを受けて定められたのが、本件告示であり、同告示が定める地位に該当しない者は出
入国管理法7条1項2号にいう「定住者」として予定されているものではなく、原則として
上陸を認めない趣旨であることは明白である。
すなわち、本件告示は、「定住者」の在留資格で上陸を許可すべき外国人を類型化して羅列
的に列挙しているのであり、逆に、本件告示に定める地位に該当しない者は、原則として 
「被告が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」として上陸が許可
されるべき者には該当しない者であるということができる。
そして、上陸申請において許可される場合と在留資格の変更申請において許可される場合
とが余りに整合性を欠くことは、外国人の出入国ないし在留全般を公正に管理するという本
来の法の目的にも抵触しかねず、また、本邦における外国人の地位を極めて不安定にするな
どの点で適当ではないから、本件告示が直接的には上陸申請の場合の原則的な許否の要件を
定めているものであって在留資格の変更の許否の要件を定めるものではないとはいうもの
の、上記在留資格の変更申請の許否の判断においても本件告示の内容・趣旨は十分に尊重さ
れるべきである。
したがって、本件告示に定める地位に該当しないことは、在留資格の変更又は在留期間の
更新申請に当たってこれを許可し難いとする方向に働く大きな要因となると解すべきである
が、当該外国人が本件告示に適合しない場合でも、本件告示に類型化して列挙された外国人
の場合と同視し、あるいはこれに準じるものと考えられる人道上の理由その他特別の事情が
あるときには、一定の在留期間を定めて居住を認めるのを相当とする場合はあり得るという
べきであり、上記のような特別の事情があることを考慮して「定住者」の在留資格該当性を
認めるか否かの判断については、被告の広範な裁量に委ねられており、被告に与えられた裁
量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのは、上記判断が全くの事実
の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限られるというべ
きである。
イ 被告は、原告に係る以下の諸事情を考慮して、「定住者」への在留資格変更を適当と認める
に足りる相当の理由がないと判断して本件処分をしたのであって、本件処分における被告の
判断に裁量権の逸脱又は濫用はない。
a 原告が本件告示の定める地位に該当しないこと
本件申請は、在留資格「定住者」への変更許可申請であるが、原告の地位が本件告示に定
めるいずれにも該当しないことは明らかである。
b 原告は形式的親権者にすぎないこと
原告は、本件調停条項によって二女Dの親権者とはなっている。
ところで、被告は、日本人配偶者と離婚したことにより、在留資格「日本人の配偶者等」
に該当しなくなった外国人については、日本人配偶者との間に出生した未成年かつ未婚の
日本人の実子の親権者になっており、かつ、現実に相当期間当該実子を自ら監護・養育し
ている場合においては、日本人の実子が我が国で安定した生活を営むことができるように
するため、原則として、在留資格「定住者」への在留資格の変更許可をする取扱いをしてい
る。
しかし、親権とは、父母が未成年の子に対して持つ身分上及び財産上の監督保護を内容
とする権利義務の総称であって、子の監護教育、居所指定、懲戒、職業許可、財産管理権及
び子の財産に関する法律上の代表をその内容とするものであるところ、二女Dの養育・監
護がすべてBに委ねられており、扶養についての金銭的負担もされていないという事実に
かんがみれば、原告の親権は実際にはその内容をほとんど欠くものといわざるを得ない。
さらに、原告は、本件調停の成立時(平成11年6月24日)はもちろんのこと、本件処分
時(平成12年3月10日)においても、子供らを自ら養育監護しようという積極的意思を有
していなかったことが明らかである。
そして、本件調停条項が定められるに至った経緯について、Bが東京入国管理局入国審
査官に対して、「妻は日本に住みたいため、親権を譲らず、離婚に応じなかった。次女の親
権を譲るのであれば離婚に応じると言うので調停に応じた」、「妻は離婚に応じず、離婚の
条件として在留資格を得るために、子の親権をよこせと言ってきた。子は2人とも私が扶
養していたし、扶養したかったため調停となったが、妻は頑として離婚に応じなかったと
ころ、タイ人専門の婦人団体の支援を得て、Gという有能な弁護士を付けてきた。私の弁
護士は、驚き、こちらに勝ち目はないと悟り、子供だけこちらで養育できたら良いと相手
の言い分を認めたためこのような結果になったものである。」と述べていることをも併せ
考慮すれば、親権の行使という在留資格変更の目的も疑わしく、原告が形式的に親権を有
していることをもって、離婚後もあえて本邦に在留を認めなければならない理由はない。
c 原告の本邦への定着性が強固とはいえないこと
原告は、本国タイにおいて出生し、前回の本邦入国まで、我が国とは何らかかわりのな
かったものであり、前回不法入国した平成元年12月から強制送還された平成7年4月まで
の約5年4月は本邦に不法に滞在していたものである。
そして、不法入国し在留を継続する外国人は、違法な在留を継続するにすぎず、それが
長期間平穏に継続していたとしても、法的保護を受けるものではないのであるから、違法
な在留をもってその定着性を評価することはできない。
そうすると、今回の原告の在留歴は、本件処分時において、約3年3月であって、そのう
ち、B、長女C及び二女Dとの同居期間は、原告が単身で家出をしたと称する平成10年4
月1日までの1年4月にすぎないのであるから、本邦への定着性が強固であったとは到底
認められない。
d 子供らがBの監護下で生活することに特段の支障が認められないこと
Bが子供らに対する養育・監護を放棄している事案は全く認められず、Bは、従来から
子供らの生育に十分に関心を持ち、父親としてのしかるべき行動をとっており、長女C及
び二女Dの2人の子供に対する養育に対するBの意思は堅固なものであると認められる。
また、子供らが通常の生活を送るにあたり、特段の支障が生じている事実はないことは、
子供ら自身が現在の任所を離れたくない旨明確に述べているという事実にかんがみても明
らかである。
e 原告は、二女Dを養育・監護する能力に欠けること
原告は、経済的状況もBに比較して不安定であり、二女Dを引き取った後の生活設計に
ついては、支援者や福祉の関係に相談する旨供述するのみであって、何ら具体性がない。
仮に原告が、二女Dの養育・監護をすることになったとしても、二女Dが原告の保護下
で安定した生活を送れるとは到底いえず、かえって、職場と住居が一緒で、Bとその両親
が同居し(本件処分時には母親も存命中である。)、近所にはBの父親の姉も住んでいるな
どの状況の認められるBによる監護・養育の方がはるかに望ましい。
f 原告が子供らとの面接に一定限度の制約を受けたとしてもやむを得ないこと
そもそも、外国人は、我が国の憲法上も、本邦に入国する自由を保障されるものでない
ことはもとより、在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障さ
れているものではないから、仮に原告が、2人の子供と本邦において面接交渉する権利が、
我が国に在留する資格を失って本国へ帰国しなければならないなどの事情から一定の制約
を受けることとなっても、それはやむを得ないというべきである。
そして、仮に原告が、本国に帰国することになっても、子供らとの面接は、必要とあらば、
子供らがタイを訪問することや、原告が短期滞在の査証を新たに取得して本邦に入国する
ことにより可能である。また、子供らにとって原告の在留を認めなければならないような
差し迫った状況も見あたらず、B及びその親族が、原告と子供らとの面接を妨害したよう
な事案はなく、Bが調停での合意事項以上の面接をも容認しているから、仮に原告と子供
らとの毎月の面接が困難になるとしても、夏期休暇等を利用したまとまった期間の面接に
より十分に補えるというべきである。もちろん、原告との文通はもちろんのこと、電話や
ファックス等によるやりとりも十分可能である。
したがって、本件処分により、原告の面接交渉権自体が侵害されるとはいえない。
ウ 原告の主張に対する反論
a 出入国管理法20条3項ただし書の「やむを得ない事由」の具備が必要であること
確かに、平成10年12月3日付けの原告からの在留資格変更許可申請に対して、平成11年
1月27日、被告が「短期滞在」を許可した点については、別件変更申請を不許可処分とし
た上で、事後、別個の手続を進めるべきであり、手続上の瑕疵があったことは否定できな
い。
しかしながら、当時、原告とBとの婚姻関係は破綻状態にあって、「日本人の配偶者等」
の在留資格を付与すべき事情は失われていたのであるから、そのような状況において、別
件変更申請に対して不許可処分をしたとしても、「日本人の配偶者等」の在留資格による在
留期間の更新を許可する余地はなかったため、鹿島港出張所審査官が、原告から事前の相
談があった際に在留資格「短期滞在」に変更許可になる可能性があることを説明していた
こともあり、原告の便宜をも考慮して、改めて「短期滞在」への変更許可申請を指導するこ
となく、別件変更許可を行ったものである。
そして、原告には、「日本人の配偶者等」の在留資格による在留期間更新を許可する余地
はなかったこと、原告の別件変更申請に対し、在留資格「定住者」への変更を適当と認める
に足りる相当の理由はないことの事情からすれば、いずれにしても、原告は、法20条3項
ただし書の「短期滞在の在留資格をもって在留する者」といわざるを得ず、本件申請に際
し、同項ただし書の「やむを得ない特別の事情」の具備を求めても信義則に何ら反するも
のではない。
また、本件処分が何ら人道に反するものではないことは、前述のとおりであり、また、別
件変更許可に手続的瑕疵があり、それ故に仮に違法であるとしても、その違法は、別個独
立の処分である本件処分に何ら影響を及ぼすものではない。
b 本件処分が憲法に違反しないことについて
外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているに
すぎないものと解するのが相当であって、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの
保障が与えられているものではないから、在留する外国人に対する憲法の基本的人権の保
障は、違法な在留資格という基盤の上において与えられているにすぎないものである。そ
して、その基盤を形成する在留の許否を決定する国家の裁量を拘束するような範囲まで基
本的人権の保障が及ぶものと解することはできない。
したがって、本件処分が、原告の挙げる憲法の各条項に違反しないことは明らかである。
c 本件処分が人道に反せず裁量権の濫用に当たらないことについて
そもそも、本件処分には、原告に退去を強制する効力はなく、原告に退去を強制するか
どうかは、別途退去強制手続において決定される事柄であるから、退去強制がされること
を前提とする原告の主張は失当というべきである。また、この点を措くとしても、長女C
及び二女Dは、現実にはBに監護・養育されているのであり、日常生活において、原告は、
長女C及び二女Dとは別居していること、また、原告が本国への帰国を余儀なくされたと
しても、前述のとおり、新たに「短期滞在」の在留資格により本邦に入国したり、日本人実
子がタイを訪問することによって、本件調停により確認された原告の面接交渉権を行使す
ることも可能であることに照らせば、本件処分は何ら人道に反するものではなく、裁量権
の濫用に当たらないことは、明らかである。
d 本件処分には原告の親権及び面接交渉権を考慮しなかった違法はないことについて
本件処分は原告の上記各権利を侵害するものではないから、原告の主張は失当である。
e 本件処分は国際人権条約に違反しないことについて
原告は、①世界人権宣言16条及び25条、②児童の権利に関する条約3条及び9条、③A
規約10条、④B規約17条及び23条、⑤女子差別撤廃条約16条に違反する旨主張する。
しかしながら、上記主張は以下のとおりいずれも失当なものである。
 ①の世界人権宣言については、そもそも、その前文が示すとおりあくまで道義的次元
のものであって、確立された法意識に支えられた法的拘束力を有するものではないので
あり、また、国際慣習法の原則からも国家は外国人の入国又は在留を許可する義務を負
うものではない。
 ②の児童の権利に関する条約に関して、まず、同条約9条は、平成6年5月16日に国
連事務総長に通告した書簡において、「日本国政府は、児童の権利に関する条約第9条1
は、出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用
されるものではないと解釈するものであることを宣言する。」としているのであって、上
記宣言の内容をみれば、本件処分に何ら違法性がないことは明らかである。
そして、そもそも児童の権利に関する条約9条4において、父母の一方若しくは双方
又は児童の退去強制の措置に基づき、父母と児童とが分離されることがあることを予定
していることをみれば、外国人親が日本国籍を有する子供の監護・養育に関与する法的
地位は、当該外国人の本邦における在留が認められる枠内において保護されるものにす
ぎないというべきである。
また、上記のとおり解される以上、同条約3条1に規定する「最善の利益」も、我が国
の出入国管理制度の枠内で実現されるにすぎないものであることもまた明らかである。
 ③のA規約10条についていえば、そもそも、A規約は、その完全な実現について漸進
的な達成を定める(2条1)など方針規定としての性格が強く、個人に対し即時に具体
的な権利を付与すべきことを定めたものではない。
したがって、A規約の定めをもって、本件処分の違法性を根拠付ける原告の主張には
理由がない。
 ④のB規約17条及び23条についていえば、外国人を自国内に受け入れるかどうか、こ
れを受け入れる場合にいかなる条件を付すかは、国際慣習法上、当該国家が自由にこれ
を決することができるというのが原則であるところ、同規約13条1項が、外国人につい
て、法律に基づいて退去強制手続をとることを容認していることからも明らかなよう
に、同規約は、上記国際慣習法上の原則を当然の前提とし、その原則を基本的に変更す
るものとは解されない上、同条文は、その文言からして、外国人の在留の権利について
特に定めたものとは認められない。
 ⑤の女子差別撤廃条約に関して、原告は、本件処分が同条約16条に違反する旨主張す
るが、その具体的根拠は述べていない。
もとより、本件処分において男女差別の点は何ら存在しないのであるから、原告の主
張は理由がない。
4 争点
 在留資格変更申請に対する許否に係る被告の裁量権の有無及び範囲(争点1)
 本件処分に際し、被告がその裁量を逸脱し、又は濫用したか否か。( 争点2)
 本件申請について、出入国管理法20条3項ただし書が適用されるか否か及び適用されるとし
た場合において、原告が同項の定める「やむを得ない特別の事情」を具備しているか否か。(争
点3)
 本件処分は、憲法13条、14条1項、24条2項に違反するか否か。(争点4)
 本件処分は、世界人権宣言、児童の権利に関する条約、A規約、B規約、女子差別撤廃条約等
に違反するか否か。(争点5)
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
 外国人は、憲法上、我が国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を
保障されてはおらず、また、国際慣習法上も、国家は外国人を受け入れる義務を負うものでは
なく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れ
る場合にいかなる条件を付するかは、当該国家が自由に決定することができるものとされてい
る。
また、出入国管理法は、我が国に在留する外国人の在留資格の変更の許否について、被告が
「在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」許可するものとし(出
入国管理法20条3項)、その許否の判断について特に考慮すべき事項や考慮すべきでない事項
を定めるなど、その判断を覊束する規定をおいていないこと、元来外国人の出入国管理は、国
内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持を目的と
して行われるものであって、上記のような国益の保護の判断については、広範な情報を収集し
その分析の上に立って、時宜に応じた的確な判断が必要であり、ときに高度な政治的な判断を
要求される場合もあり得ること、上記のような判断については出入国管理行政を任されている
被告が責任を負うべき建前になっていると解されること等にかんがみれば、外国人の在留資格
の変更の許否の判断は、被告の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
 したがって、在留資格の変更の許否の判断が違法となるのは、その判断の基礎とされた重要
な事案に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠くか、又は事実に対する評価
が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明
らかであるなど、被告に与えられた裁量権の範囲を著しく逸脱し又は濫用した場合に限られる
というべきである。
2 争点2について
 「定住者」の意義について
出入国管理法は、前記のとおり、我が国への入国及び在留を認めるべき外国人について、外
国人が我が国で在留中に従事する活動又は在留中の活動の基礎となる身分若しくは地位に着目
して類型化した同法別表第1及び同法別表第2所定の各在留資格を定め、在留資格として定め
られた活動(同法別表第1)又は身分若しくは地位を有するものとしての活動(同法別表第2)
を行おうとする場合に限って、その入国・在留を認めることとしている。
そこで、在留資格の変更の許否の判断に当たっては、当該外国人が希望する在留資格につい
て、当該外国人の行おうとする活動が出入国管理法別表第1に類型化された活動又は同法別表
第2に類型化された身分若しくは地位を有する者としての活動に該当するか否かにつき、判断
すべきこととなるところ、同法別表第2の定める在留資格「定住者」については、法は、当該活
動の前提となる身分又は地位として「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定し
て居住を認める者」と規定している(同表下欄の「本邦において有する身分又は地位」欄)。
上記の規定は、社会生活上、外国人が我が国において有する身分又は地位は多種多様であり、
出入国管理法別表第2の「永住者」、「日本人の配偶者等」及び「永住者の配偶者等」の各在留資
格の下欄に掲げられた類型の身分又は地位のいずれにも該当しない身分又は地位を有する者と
しての活動を行おうとする外国人に対し、人道上の理由その他特別の事情を考慮し、その居住
を認めることが必要となる場合が考えられ、また、我が国の社会、経済情勢の変化によって、こ
れらの在留資格の下欄に掲げられた類型の身分又は地位のいずれにも該当しない身分又は地位
を有する者としての活動を行おうとする外国人の居住を認める必要が生じる場合も考えられる
ことから、法は、このような場合に臨機に対応することができるように、同法別表第2に「定住
者」の在留資格を設け、同表のその他のいずれの在留資格にも当たらない外国人を一定の範囲
で受け入れることを可能としたものと解される。
このような規定の趣旨にかんがみれば、上記の「特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定
して居住を認める」か否かの判断は、被告の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相
当である。
 本件処分が根拠とした事情
被告は、①原告が本件告示の定める地位に該当しない、②原告は形式的親権者にすぎない、
③原告の本邦への定着性が強固とはいえない、④子供らがBの監護下で生活することに特段の
支障が認められない、⑤原告には二女Dを養育・監護する能力に欠ける、⑥原告が子供らとの
面接に制約を受けてもやむを得ない、などの事情を考慮して、在留資格の変更を適当と認める
に足りる相当の理由がないと判断したと主張する。
そこで、本件処分が、全く事案の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明ら
かであるなど、被告に与えられた裁量権の範囲を著しく逸脱し又は濫用した場合に当たるか否
かについて検討する。
 原告の事情
各項末尾に掲げる証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 日本人の夫との婚姻及び離婚に至る経緯
a 原告は、タイで生まれ育ったが、実家が貧しかったため、原告が19歳のとき、本邦にお
いて不法就労する目的で、平成元年《日付略》、本邦に不法入国した。
原告は、平成2年5月ころに銚子市の寿司屋「E」で板前をしていたBと知り合い、平成
3年3月ころから同人と同棲し、内縁の夫婦となった。(甲16)
b このころ、Bには、昭和62年に婚姻したフィリピン人女性の妻(以下「前妻」という。)
及び同人との間に生まれた長男(昭和63年《日付略》出生。以下「長男」という。)がいたが、
Bは、平成3年《日付略》、この長男の親権者を母親である前妻と定めた上で、前妻と正式
に離婚した。
上記離婚に際して、Bは、前妻に対して慰謝料として350万円を支払い、前妻は、長男を
連れてフィリピンに帰国した。(乙3の2、原告本人)
c 原告は、平成4年《日付略》、Bとの間に長女Cを出産し、平成6年《日付略》、正式に婚
姻届を提出し、そのころからBと共に、同人の実家にて、同人の両親、祖母と同居すること
になった。
原告は、平成6年《日付略》、Bとの間に、二女Dを出産し、子供らのためにも正規の在
留資格を取得したいと考えるようになり、いったんタイに帰国し、正規の在留資格を取得
した上で本邦に再入国することにした。
そこで、原告は、平成7年《日付略》、東京入国管理局第2庁舎に自主出頭の上、子供ら
を連れてタイに帰国し、「日本人の配偶者等」の在留資格を取得して、平成8年12月7日に
本邦に再入国し、本邦におけるBとの結婚生活を再開した。(甲16)
d ところが、その後、Bには原告の他に交際しているタイ人女性がいることが判明したこ
と等をきっかけとして、原告とBとの夫婦関係は悪化するようになった。
しかし、原告は、在日タイ大使館を訪ねて相談するなどしながら、子供らのためにも離
婚を思いとどまっていた。
そうしたところ、原告は、平成10年3月30日夜、友人のタイ料理店で原告の誕生日を友
人に祝ってもらって帰宅したところ、鍵をかけられて自宅から閉め出され、車の中で一夜
を明かすことになり、翌日もBから出ていけと怒鳴られた。そのため、原告は、もうBと暮
らすことはできないと考えて、同年4月1日、Bの家を出て、東京の友人宅に身を寄せる
ことになった。
そして、同月6日が長女Cの小学校入学式であったため、原告は、同日、Bの家を訪ねた
ものの、長女Cには会わせてもらえず、原告に駆け寄ってきた二女Dとも、Bによって無
理やり引き離されてしまった。
そこで、原告は、このままでは子供らをB家に取られてしまうと思い、同月14日、ボラ
ンティア団体の支援等も得て、千葉家庭裁判所八日市場支部に離婚調停を申し立て、平成
11年6月24日、本件調停条項のとおり調停が成立した。(甲1、16)
イ 子供らの親権者、養育・監護権者決定に至る経緯
上記の離婚調停においては、当初、原告及びBの双方が、互いに子供らとの同居及び親権
を求めて譲らず、話し合いは対立していた。
原告は、離婚調停を申し立てたころには、子供ら2人の親権者となり、子供らをタイに連
れて帰りたいと思っていたが、次第に、子供らが日本で生まれ育っているので、タイに連れ
て帰ることは子供らにとって望ましいことではないと考えるようになった。しかし、Bは、
原告に対して子供ら2人の養育費の支払に応じる様子はなく、当時、仕事もないまま友人宅
に身を寄せていた原告にとっては、日本で、子供ら2人を養育していくことは経済的に不可
能であった。また、原告は、子供らのうち1人であれば、引き取って養育することも可能であ
ろうと考えたものの、子供らの心情を慮ると、2人姉妹を引き離すことはできないと居った。
そこで、原告は、子供らにとっての幸福を考えた結果、B自身には、子供らの養育・監護を
まかせることはできないものの、Bと同居しているBの両親及び祖母が子供らをかわいがっ
ていたこと、Bの家は寿司屋を営んでいて経済的に裕福であることなどを考えて、当分の間、
子供らの養育・監護をBに委ねることに同意することとした。
その結果、本件調停条項記載のとおりの内容で、調停が成立した。
なお、原告としては、子供らが原告と生活することを希望した場合、原告自身の生活基盤
が安定した場合、B家の家族が子供らの面倒をみなくなった場合、Bが再婚して子供らがい
じめられたような場合などには、直ちに子供らを引き取るつもりがあり、本件調停条項に「当
分の間」と明記されたのも、その趣旨であると理解していた。(甲16、原告本人、証人B)
ウ 調停成立後の原告と子供らとの面接交渉状祝
a 原告は、調停成立後、ほぼ毎月、本件調停条項に従い、東京から銚子市まで子供らに会い
に行き、面接交渉を行っている。
そして、原告は、子供らの学校が終了する時刻(面接交渉の日が土曜日である場合には
昼の12時ころ、週末以外の日である場合には午後3時半ころから)から東京に帰るための
最終電車が出る時刻(午後6時半ころ)までの間、銚子駅付近のデパートなどで買い物や
食事をするなどして、子供らと共に過ごしている。
なお、原告の自宅から銚子市までは、片道約3時間かかり、電車賃として片道約4000円
程度を要する。(甲16、原告本人、証人B)
b 原告は、本件調停条項に従い、夏休み、ゴールデンウィーク、冬休みには、それぞれ数日
間から1週間位の期間ずつ、子供らを原告の自宅に泊まりがけで連れてきて、共に過ごし
ている。
原告は、これらの機会には、子供らを遊園地に連れていったり、デパートで買い物や食
事をしたりして過ごしており、そのための費用として、下記の交通費も含めてその都度10
万円程度を負担している。
また、東京と銚子間の子供らの送り迎えは原告が担当しており、そのための交通費(子
供2人分の往復で約3万円)なども原告が負担している。
なお、上記の負担や前記aにおける負担は、後記のような原告の就業の状況及び収入に
照らせば、原告としては、時間的にも、経済的にも、精一杯の負担である。(甲16、原告本人、
証人B)
c そのほか、原告は、本件調停条項に定められた面接交渉以外にも、子供らからの電話連
絡で会いたいと言われた場合には、休みをとり、銚子駅まで会いに出向いている。(原告本
人)
d 一方、Bは、子供らが原告との面接交渉を楽しみにしていることから、子供らに対し、原
告と会うことを禁じたりはせず、本件調停条項に定められた以上の期間、回数であっても、
子供らと原告が決めた日に自由に面会させている。(原告本人、証人B)
エ 原告の生活状況
a 原告は、平成11年1月からは頭書住所地に単独で居住している。(甲16)
b 原告は、離婚後しばらくハウスクリーニングの仕事をした後、平成11年8月からはタイ
屋台料理店「H」において、ホール担当の従業員として働き始め、午前10時半から午後4
時までは同店渋谷店で稼働し、午後5時から午後10時半までは同店池袋店で稼動し、月給
を20万円ないし22万円程度得て、子供らのために月に5万円の貯金も行うようになった。
その後、原告は、ホールではなく、キッチンを担当する仕事を希望していたことから、平
成12年7月に上記「H」を辞め、タイ料理店「I」で、キッチン担当の従業員として働き始
めた。しかし、同店の月給は13万円から14万円程度であるため、貯金はできなくなり、生
活も苦しくなった。
原告は、平成14年1月に開店するタイ料理店での採用が内定し、同店での仕事内容は原
告が希望しているキッチン担当で月20万円の収入が得られる条件であったが、原告の在留
資格について裁判で係争中であることから、採用が保留となった。(原告本人、甲16、23)
c 原告は、Bが再婚するなどして子供らがBの下で幸福に過ごせなくなった場合、子供ら
が望む場合には、いつでも自ら監護・養育したいと考えており、そのために、上記のとお
り貯金をしている。
原告には、原告がBと不仲になったころから原告を支援してきたボランティア団体「J」
の人々等の支援者がおり、今後も、原告の経済的問題等については、これらの人々や福祉
に相談して解決したいと考えている。(甲17、原告本人)
オ B家の状況
a Bの祖母は、平成11年11月に亡くなり、Bの母は、本件処分後である平成12年12月に亡
くなった。(証人B)
b Bは、Bの父が経営する寿司店で働いており、同店の開店時間は午前11時から午後11時
までである。B家には、B家の近所に住むBの叔母が手伝いに来て、店の手伝い及び子供
らの世話を行っている。(原告本人、証人B)
c 原告は、平成13年8月ころ、上記叔母から、電話で、Bが、子供らを自宅に置いたまま、
原告との離婚前に交際が発覚した女性とは別のタイ人女性と出て行ってしまい、どこにい
るかわからず困っているなどの連絡を受けたことがある。
そして、原告は、Bが、原告と同居しているころから、寿司店が忙しいとき以外は、昼間
からパチンコ屋や愛人の家などに出て行ってしまったまま自宅に帰らないなど真面目さを
欠いていたことや、離婚後においても、上記のとおり、タイ人女性との交際が発覚したほ
か、面接交渉の日にちを決めるためなどにBの携帯電話に連絡すると電話越しにパチンコ
店の音が聞こえてくるなど、Bがまじめに就労していない様子が窺えるため、このまま子
供らの養育・監護をBに委ね続けることについて不安を抱いている。(原告本人)
カ 子供らの状況
a 現在、長女Cは10歳(処分時には8歳)、二女Dは7歳(処分時には5歳)であり、原告
とともに平成8年12月7日に来日して以来、Bの家でBと共に暮らしている。(弁論の全
趣旨)
b 子供らは、原告を深く慕っており、原告との面接交渉の時間を非常に楽しみにしている
ほか、原告に頻繁に電話をかけたり、手紙を書いたりしている。
また、子供らは、原告がタイに帰国してしまって会えなくなってしまうことを非常に心
配しており、原告の在留資格の状況についても、子供らなりに気遣い、原告には今後も日
本に居てほしいと願っている。(原告本人、甲10ないし15、19ないし22)

 

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