在留資格変更申請不許可処分取消請求事件
平成11年(行ヒ)第46号
上告人(被控訴人):法務大臣、被上告人(控訴人):A
最高裁判所第一小法廷(裁判官:藤井正雄・井嶋一友・町田顯・深澤武久・横尾和子)
平成14年10月17日
判決
主 文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人山崎潮、同高野伸、同江口とし子、同新田智昭、同田島淳子、同山垣清正、同中本敏嗣、
同高橋伸幸、同浦田光儀、同重見一崇、同新保富雄、同沼田光夫、同宮林昭次、同吉岡聖剛、同大本正二、
同矢野卓士の上告受理申立て理由について
1 本件は、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)別表第一の3の表所定の「短期滞在」の
在留資格で本邦に在留していたタイ王国の国籍を有する被上告人が、上告人に対し、法別表第二所
定の「日本人の配偶者等」の在留資格への変更申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、上告
人がこれを不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため、被上告人が本件処分の
取消しを求める事件である。
原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 被上告人は、昭和63年2月19日、タイ王国において、日本人であるBと婚姻した。被上告人は、
平成元年4月21日、法(平成元年法律第79号による改正前のもの)4条1項16号、出入国管理及
び難民認定法施行規則(平成2年法務省令第15号による改正前のもの)2条1号所定の「日本人
の配偶者又は子」の在留資格で在留期間を1年とする上陸許可処分を受けて本邦に上陸し、和歌
山市内でBと同居生活を始めた。
 被上告人は、平成2年4月6日、上記の在留資格(ただし、上記改正に伴い、同年6月1日以降
は、同改正後の法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格によって本邦に在留するもの
とみなされた。)で在留期間1年(在留期限は同3年4月21日まで)とする在留期間更新許可処分
を受けた。
 Bは、平成2年6月ころ、被上告人に対する愛情を急速に喪失する一方、Cと関係を持つに至
った。Bは、被上告人に離婚を求めたが、これを拒否されたため、同年7月26日ころ、Cと共に出
奔し、被上告人に居住地を知らせないで、和歌山県新宮市内でCと同居生活を始めた。
被上告人は、同3年初めころ、Bの居住地を探し当て、その勤務先を訪ねて被上告人のもとに
戻るよう要請したが、Bは、被上告人と生活する意思はないとして拒否した。
 被上告人は、その後、平成3年4月11日付け、同4年8月10日付け、同5年9月16日付けで、
それぞれ「日本人の配偶者等」の在留資格で在留期間を1年(最後の更新許可に係る在留期限は
同6年4月21日まで)とする在留期間更新許可処分を受けた。
被上告人は、上記同3年4月11日付けの在留期間更新許可処分に係る更新申請をするについ
て、真に離婚する意思はなかったが、Bに対し、3年間のビザを取得することができたら離婚す
る旨を申し向けて更新申請手続への協力を求めた。Bは、これに応じて、当該更新申請の際に添
付を要する在職証明書等の準備等をして大阪入国管理局に出頭した。Bは、その後2回の被上告
人の在留期間更新申請の際にも、同様の協力をした。
 被上告人は、平成6年2月ころ、Bに対して在留期間更新申請手続への協力を求めたところ、
Bから離婚届の交付を条件として最後の協力をするという意向を示されたので、その協力を得る
ために、真に離婚する意思はなかったが、離婚を約する旨の書面及び離婚届を作成して被上告人
の代理人であった弁護士に交付し、同弁護士は、同書面及び離婚届の写しをBに交付した。
被上告人は、同年4月12日、Bの協力を得て、上告人に対し、在留期間更新申請をしたが、上告
人は、同年5月19日付けで、被上告人が同2年8月以降Bと別居状態にあったこと等から、法21
条3項所定の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして、これを不許可と
した。
 被上告人は、平成6年6月2日、上告人に対し、出国準備を理由として、在留資格を「日本人の
配偶者等」から「短期滞在」に変更する旨の在留資格変更申請をし、上告人は、同日、被上告人に
対し、「短期滞在」の在留資格で在留期間を90日(在留期限は同年7月20日まで)とする在留資格
変更許可処分をした。
 被上告人は、平成6年7月18日、上告人に対し、Bとの法律上の婚姻関係が継続していること
を理由として、在留資格を「短期滞在」から「日本人の配偶者等」に変更する旨の本件申請をした
が、上告人は、同7年3月30日付けで、法20条3項所定の在留資格の変更を適当と認めるに足り
る相当の理由がないとして、本件処分をした。
 被上告人は、本邦に入国後、スナックのホステスとして稼働しており、Bが出奔して別居状態
になった後も、その収入で自活し、Bに対して生活費の支給を求めることはなかった。Bは、Cと
の間で2子をもうけて認知し、出奔以来現在まで、C及び子らとの同居生活を継続している。
被上告人とBとは、別居状態になって以降、被上告人がBの居住地を探し当ててその勤務先を
訪問したとき、被上告人が在留期間更新申請手続をしたとき、被上告人が平成5年3月にBを相
手方として和歌山家庭裁判所新宮支部に申し立てた夫婦間の協力扶助を求める審判事件を本案と
する審判前の保全処分申立事件における同月25日の審問期日に会ったときなどを除いて接触は
なく、Bから被上告人に連絡をとったことはなかった。
 被上告人は、本件申請に至るまでBと離婚する決心はついていなかった。他方、Bは、別居し
てからは被上告人に対して直接離婚を求めたことはなかったが、離婚したいとの意思を有してお
り、本件処分当時には、被上告人に対し、婚姻関係を修復する意思のないことを告げていた。また、
Bは、本件訴訟の結果次第によっては、被上告人に裁判を含めて離婚の話をするつもりでいる。
2 原審は、上記事実関係に基づき、次のように判断して、被上告人の請求を棄却した第1審判決を
取消して、被上告人の請求を認容した。
 日本人と婚姻した外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格によって本邦に在留するためには、
単に当該外国人が日本人と法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず、当該外国人が本邦にお
いて行おうとする活動が日本人の配偶者としての活動に該当することを要する。
 日本人と婚姻した外国人と当該日本人(以下「日本人配偶者」という。)との間の夫婦関係が既
に破たんして別居している場合であっても、当該外国人が離婚について合意せず、かつ、日本人
配偶者が不貞や悪意の遺棄を行うなどして、明らかに有責配偶者に該当し、離婚訴訟を提起して
もこれが認容されないようなときは、当該外国人の本邦での在留は、特段の事情がない限り、い
まだ日本人の配偶者として活動しているものと評価することができ、当該外国人には「日本人の
配偶者等」の在留資格該当性を認めることができる。
被上告人とBとの婚姻関係は、客観的にみれば破たん状態にあったことが認められる。しかし、
被上告人は、婚姻関係を維持、継続したいと考えており、Bは、婚姻関係を解消しようとは言い出
せなかったこと、Bは有責配偶者であって、離婚訴訟を提起しても認容される余地はなかったこ
とからすると、被上告人のBに対する配偶者としての地位は法的に保護されるべきであり、被上
告人には日本人の配偶者としての活動を認めることが十分に可能であるから、被上告人につき、
「日本人の配偶者等」の在留資格該当性を認めることができる。
 本件処分は、被上告人が日本人の配偶者としての活動をしておらず、離婚意思を有していると
の事実を前提として、今後も被上告人にはその活動をする可能性がない状態であるとの評価を
し、Bの有責配偶者性について考慮しないで、法20条3項所定の要件を満たさないとの判断をし
たものである。しかし、この判断は、事実の基礎を欠き、かつ、事実に対する評価が合理性を欠く
ことにより社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるから、本件処分は、裁量権の範囲
を逸脱し、又はその濫用があったものとして違法である。
3 原審の上記判断のうち、は是認することができるが、は是認することができない。その理由
は、次のとおりである。
 法は、本邦に在留する外国人の在留資格は、法別表第一又は第二の上欄に掲げるとおりとした
上、別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者は、当該在留資格に応じそれぞれ本邦におい
て同表の下欄に掲げる活動を行うことができ、別表第二の上欄の在留資格をもって在留する者
は、当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分又は地位を有する者とし
ての活動を行うことができるとし(2条の2第2項)、また、入国審査官が行う上陸のための審査
においては、外国人の申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、別表第一
の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のい
ずれかに該当することを審査すべきものとしている(7条1項2号)。これらによれば、法は、個々
の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し、一定の活動を行おうとする者のみに対して
その活動内容に応じた在留資格を取得させ、本邦への上陸及び在留を認めることとしているので
あり、外国人が「日本人の配偶者」の身分を有する者として別表第二所定の「日本人の配偶者等」
の在留資格をもって本邦に在留するためには、単にその日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻
関係にあるだけでは足りず、当該外国人が本邦において行おうとする活動が日本人の配偶者の身
分を有する者としての活動に該当することを要するものと解するのが相当である。
 日本人の配偶者の身分を有する者としての活動を行おうとする外国人が「日本人の配偶者等」
の在留資格を取得することができるものとされているのは、当該外国人が、日本人との間に、両
性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真しな意思をもって共同生活を営むことを本質
とする婚姻という特別な身分関係を有する者として本邦において活動しようとすることに基づく
ものと解される。ところで、婚姻関係が法律上存続している場合であっても、夫婦の一方又は双
方が既に上記の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようにな
り、その回復の見込みが全くない状態に至ったときは、当該婚姻はもはや社会生活上の実質的基
礎を失っているものというべきである(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判
決・民集41巻6号1423頁参照)。そして、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動を行お
うとする外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することができるものとされている趣
旨に照らせば、日本人との間に婚姻関係が法律上存続している外国人であっても、その婚姻関係
が社会生活上の実質的基礎を失っている場合には、その者の活動は日本人の配偶者の身分を有す
る者としての活動に該当するということはできないと解するのが相当である。そうすると、上記
のような外国人は、「日本人の配偶者等」の在留資格取得の要件を備えているということができな
い。なお、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するかどうかを決するに際して
は、婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っているかどうかの判断は客観的に行われるべきも
のであり、有責配偶者からの離婚請求が身分法秩序の観点から信義則上制約されることがあると
しても、そのことは上記判断を左右する事由にはなり得ないものというべきである。
上記事実関係によれば、被上告人は、日本人の配偶者として本邦に上陸した後Bと約1年3箇
月間同居生活をしたが、その後本件処分時まで約4年8箇月にわたり別居生活を続け、その間、
婚姻関係修復に向けた実質的、実効的な交渉等はなく、それぞれ独立して生計を営み、BはCと
の間の子2人を認知してこの3人との同居生活を継続していたというのであり、また、被上告人
は、Bと離婚する決心はついていなかったものの、Bに対し、在留期間の更新がされれば離婚す
る旨を述べたり、離婚を約束する書面及び離婚届を作成して同書面及び離婚届の写しを自分の弁
護士を介して交付するなどしており、他方、Bは、離婚意思を有し、本件処分当時、被上告人に対
して婚姻関係を修復する意思のないことを告げ、ただ、被上告人の在留期間更新申請についての
み婚姻関係の外観を装うことに協力するなどしていたというのである。これらの事情に照らす
と、被上告人とBとの婚姻関係は、本件処分当時、夫婦としての共同生活の実体を欠き、その回復
の見込みが全くない状態に至っており、社会生活上の実質的基礎を失っていたものというのが相
当である。
したがって、本件処分当時、被上告人の本邦における活動は日本人の配偶者の身分を有する者
としての活動に該当するということができず、被上告人は、「日本人の配偶者等」の在留資格取得
の要件を備える者とは認められないというべきである。論旨のうちこの趣旨をいう点は理由があ
る。
4 以上によれば、原審の上記2の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があ
り、その余の点につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、被上
告人の請求を棄却すべきものとした第1審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきで
ある。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

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