損害賠償請求事件
平成10年(ワ)第3147号
原告:A、被告:国
東京地方裁判所民事第16部(裁判官:大門匡・高宮健二・笹本哲朗)
平成14年12月20日
判決
主 文
1 被告は、原告に対し、20万円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを50分し、その3を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、336万円を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、トルコ共和国(以下「トルコ」という。)の国籍を有する外国人である原告が、不法残留
を理由に収容令書及び退去強制令書に基づき収容され、本邦から退去させられたことにつき、上
記収容等の手続は、憲法、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権B規約」とい
う。)、難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)、出入国管理及び難民認定法(以下「入
管法」という。)等に違反しており、原告は違法な手続によって精神的、肉体的な苦痛を受けたな
どと主張して、被告に対し、国家賠償法に基づき損害賠償を請求する事案である。
2 前提事実(争いがない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
 原告は、トルコ国籍を有する外国人である。
 原告は、平成7年5月5日、「短期滞在」の在留資格で在留期間90日の上陸許可を受けて本邦
に上陸した。その後、原告は、上記在留期間を超えて本邦に不法に残留した。
 原告は、平成8年9月17日、法務大臣に対し、難民認定の申請をした。
 東京入国管理局(以下「東京入管」という。)主任審査官は、平成9年7月30日、原告に対し
収容令書(以下「本件収容令書」という。)を発付し、東京入管入国警備官は、同日、本件収容令
書を執行して、東京都北区西が丘3丁目2番21号所在東京入管第二庁舎の東京入管収容場(以
下「本件収容場」という。)に原告を収容した(乙4)。
 東京入管入国審査官は、同年8月21日、審査の結果、原告が入管法24条4号ロの退去強制事
由に該当するとの認定をし、原告にこれを通知した(乙7)。
これに対して、原告は、同日、東京入管特別審理官に対し口頭審理を請求した。
 東京入管特別審理官は、同年9月1日、原告について口頭審理を行い、その結果、前記の退
去強制事由該当認定は誤りがないと判定し、原告にこれを通知した(乙8)。
これに対して、原告は、同日、法務大臣に対し異議を申し出た(乙9)。
 法務大臣は、同月18日、前記の難民認定の申請について、難民の認定をしない旨の処分を
し、また、前記の異議の申出について、理由がないとの裁決(以下「本件裁決」という。)をし
たが、本件裁決に当たり、原告について在留を特別に許可すること(在留特別許可)はしなかっ
た。
そして、東京入管主任審査官は、同日、原告に対し、送還先をトルコとする退去強制令書(以
下「本件退去強制令書」という。)を発付し、東京入管入国警備官は、同日、本件退去強制令書を
執行して、原告を引き続き本件収容場に収容した(乙11。以下、本件収容令書による収容及び
本件退去強制令書による収容を併せて「本件収容」という。)。
 原告は、同年11月18日、本邦から出国した。
3 争点
 本件収容令書の執行前に原告に対し違法な拘束がされたか。
 本件収容が難民条約31条に違反するか。
 本件収容が収容の必要性を欠き違憲、違法であるか。
 入管法39条及び同法52条5項が憲法33条に違反するか。
 本件収容が国際人権B規約9条4項に違反するか。
 原告について在留特別許可をしなかった本件裁決が違法であるか。
 本件退去強制令書における送還先をトルコとしたことが難民条約33条1項及び入管法53条
3項に違反するか。
 本件収容中の原告に対する処遇が違法であるか。
 本件退去強制令書の発付及びそれに基づく収容が難民不認定処分に対する原告の異議申出権
を侵害し違法であるか。
 損害の有無及び金額
4 争点に関する当事者の主張(なお、以下に引用する原告及び被告の総括準備書面(写し)におい
て記載されている別紙表(すなわち、別紙「A主張整理表」)の頁数の部分は、いずれも引用しな
い。)
 争点(本件収容令書の執行前に原告に対し違法な拘束がされたか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第1のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第1のとおり
 争点(本件収容が難民条約31条に違反するか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第2のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第2のとおり
 争点(本件収容が収容の必要性を欠き違憲、違法であるか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第3並びに第10ないし第13のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第3並びに第10ないし第13のとおり
 争点(入管法39条及び同法52条5項が憲法33条に違反するか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第4のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第4のとおり
 争点(本件収容が国際人権B規約9条4項に違反するか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第5のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第5のとおり
 争点(原告について在留特別許可をしなかった本件裁決が違法であるか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第6のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第6のとおり
 争点(本件退去強制令書における送還先をトルコとしたことが難民条約33条1項及び入管
法53条3項に違反するか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第7のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第7のとおり
 争点(本件収容中の原告に対する処遇が違法であるか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第8のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第8のとおり
 争点(本件退去強制令書の発付及びそれに基づく収容が難民不認定処分に対する原告の異
議申出権を侵害し違法であるか)について
ア 原告の主張
別紙原告総括準備書面(写し)記載第9のとおり
イ 被告の主張
別紙被告総括準備書面(写し)記載第9のとおり
 争点(損害の有無及び金額)について
ア 原告の主張
ア 原告は、本件に関する公務員の行為(違法な拘束、本件収容、本件裁決、本件退去強制令
書発付、本件収容中の処遇)によって、多大の精神的、肉体的な苦痛を受け、劣悪な処遇の
下で健康状態を害した。
イ これによる原告の精神的損害は、336万円(収容1日当たり3万円として、それに収容日
数112日を乗じた金額)を下らない。
イ 被告の主張
否認又は争う。
第3 争点に対する判断
1 前記前提事実、証拠(甲28、29の1、30、乙1ないし17、18の1、18の2、19、20、42、50の1
ないし50の3。ただし、甲29の1中、後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、
次の事実が認められ、甲29の1中、この認定に反する部分は採用することができない。
 原告は、西暦1968年(昭和43年)《日付略》生まれのトルコ国籍を有するクルド人である。
原告には、クルド人である両親及び5人の兄弟姉妹がいる。
原告は、トルコにおいて成育し、教育を受けた後、トルコ国籍のクルド人女性と結婚し、後記
の出国をするまで、トルコにおいて農業及び穀物の販売業を営んでいた。
 原告は、平成7年4月11日、トルコ政府から一般旅券の発給を受け、同年5月3日、トルコ
を出国し、同月5日、東京入管成田空港支局入国審査官から、在留資格を「短期滞在」、在留期
間を90日とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。
しかし、原告は、上記在留期間の満了日である同年8月3日までに、在留資格の変更又は在
留期間の更新若しくは変更を受けることなく、同日経過後も、本邦に不法に残留した。
なお、原告は、自己の周りに不法滞在者が多くいたため、上記在留期間経過後の滞在が法律
違反となることについては、あまり気に留めなかった。
 原告は、本邦に上陸してから約1年間は、知人のクルド人男性の世話を受けて、埼玉県川口
市、同県鳩ヶ谷市等で生活し、その後、別のクルド人男性であるB(以下「B」という。)及びC
と共に、同県蕨市《住所略》Dビル○○号室で生活した(以下、同居していた原告及び上記2名
を「原告ら3名」という。)。
原告は、本邦に上陸後、建築物の解体作業員(日給約1万円)、プラスチック工、ゴミの仕分
け作業員(日給1万円)等の職業に従事し、平成9年1月17日からは、埼玉県戸田市《住所略》
所在の株式会社Eにおいて、机、椅子等の集配の仕事(日給1万円)に従事していた。
なお、原告は、単身でトルコを出国し本邦に入国したものであり、原告の妻子、両親及び兄弟
姉妹は、トルコに居住していた。原告は、本邦に滞在中も、トルコ在住の妻と継続的に連絡をと
り、妻からの送金依頼に応じて、本邦での稼ぎをトルコの妻子に仕送りしていた。その滞在中
の送金額は、合計で約1万米ドルになる。
 原告は、平成8年4月4日、外国人登録法3条に基づく新規登録の申請をした。
 原告は、同年9月17日、法務大臣に対し、難民認定の申請をした。
なお、原告は、本邦に入国した当時から難民認定申請については知っていたものの、いずれ
トルコに帰国する心積もりがあったことから、同日まで難民認定の申請をしなかったものであ
る(この点、弁護士大橋毅(以下「大橋弁護士」という。)の平成9年8月7日付け報告書には、
原告が日本の難民制度を知ったのは上記申請の2か月前であると原告から聴取した旨記載され
ている(甲29の1)。しかしながら、原告は、入国審査官に対する同月21日付け審査調書におい
て、入国当時から難民認定申請については知っていたことを明確に述べた上(乙20)、同年9月
1日の口頭審理において、上記審査調書の内容を訂正することなく、その成立について認める
とともに、難民認定申請が日本でできることは知っていたと供述しており(甲30)、これらに照
らすと、上記報告書記載部分は採用することができない。)。
ア 東京入管は、平成9年7月30日、埼玉県警察本部及び同県蕨警察署と合同で、前記Dビル
の○○号室、302号室、401号室及び502号室の4部屋を対象に、不法滞在の外国人の摘発を
実施した。当日は、東京入管からは6名の入国警備官、蕨警察署からは18名の警察官が参加
した。
イ 東京入管入国警備官及び警察官は、同日午前6時30分、一斉に各部屋の呼び鈴を鳴らし、
又は扉をノックして、摘発を開始した。
東京入管入国警備官は、上記○○号室の扉をノックして「おはようございます。」と言った
ところ、原告ら3名のうち1名がその扉を開けたので、同人に証票を呈示しながら、「東京イ
ミグレーションと埼玉ポリスです。パスポートを確認させてください。」、「中に入ってもいい
ですか。」などと日本語で告げた。すると、同人がうなずいたため、東京入管入国警備官及び
警察官は上記○○号室の中に入った。室内には、原告ら3名のうち残りの2名もおり、東京
入管入国警備官は、再度、「東京イミグレーションと埼玉ポリスです。パスポートを確認させ
てください。」と日本語で告げた。
ウ 原告ら3名は、東京入管入国警備官に対し、特に不満を述べることもなく旅券を提示し、
東京入管入国警備官は、その旅券を見て、原告ら3名がいずれもトルコ国籍を有しているこ
と、既に不法滞在の状態となっていること、うち2名については旅券に難民認定の申請受理
票が添付されており難民認定の申請中であることを認識した。なお、東京入管入国警備官は、
原告ら3名の同意を得た上で、各々の旅券を預かった。
そして、東京入管入国警備官は、原告ら3名に対し、「全員オーバーステイしているので、
とりあえずポリスまで一緒に来てください。ここには帰れないかもしれませんので、貴重品
や身の回りの荷物を今から整理して持ってきてください。」と言って同行を求めた。
これに対して、原告ら3名のうち1名が、東京入管入国警備官に対し、「私は難民の申請を
しています。」と述べたが、東京入管入国警備官は、「難民の申請をしていても、オーバーステ
イしていることに間違いはないので、とりあえずは荷物を整理して一緒にポリスまで来てく
ださい。」と言ったところ、原告ら3名は、特に不満を述べることもなく、それぞれの荷物を
整理した。
原告ら3名が30分程度で荷物の整理を終えたところで、東京入管入国警備官及び原告ら3
名は庁用車で蕨警察署に向かった。
エ 蕨警察署に到着後、東京入管入国警備官は、再度原告ら3名の身分事項を確認して、「これ
から話を聞きたいので、東京イミグレーションまで一緒に来てください。」と言い、原告ら3
名に庁用車に乗ってもらった上、同車で蕨警察署から東京入管第二庁舎まで移動した。
オ 東京入管第二庁舎に到着すると、東京入管入国警備官は、直ちに原告に対して違反調査を
開始した。原告は、その違反調査において、東京入管入国警備官に対し、日本に来てから約2
年2か月が経つため、簡単な日常会話程度の日本語なら話すことができると述べた上で、ト
ルコから日本に来た経緯、日本での滞在中の経過等について供述し、原告には身元保証人は
誰もいないが、難民申請の際に紹介してもらった弁護士がいるので何かあれば連絡してほし
いなどと述べた。
上記取調べにおいては、基本的に日本語で、原告の分からないところはトルコ語で問答を
行い、トルコ語を使用する場合には、当時原告と同居していたトルコ人であるBが通訳を行
った。その上で、原告が供述人として、Bが通訳人として、供述調書(乙1)にそれぞれ署名
指印をした。
なお、東京入管入国警備官は、本件が早朝の摘発であったことから、原告に対し昼食を提
供するなどした。
 東京入管主任審査官は、同日、本件収容令書を発付した。
東京入管入国警備官は、同日午後7時20分、本件収容令書を執行して、本件収容場に原告を
収容した。
 東京入管入国警備官は、同月31日、入管法24条4号ロ該当容疑を理由として、原告を東京入
管入国審査官に引渡した。
 原告は、同年8月7日、本件収容令書発付処分が違法であるとして、その取消しを求める訴
訟を東京地方裁判所に提起するとともに(東京地方裁判所平成9年(行ウ)第191号収容令書発
付処分取消請求事件)、本件収容令書の執行停止を同裁判所に申し立てた(東京地方裁判所平成
9年(行ク)第60号収容令書執行停止申立事件)。
 東京入管入国審査官は、同月21日、審査の結果、原告が入管法24条4号ロの退去強制事由に
該当するとの認定をし、原告にこれを通知したところ、原告は、同日、東京入管特別審理官に対
し口頭審理を請求した。
 原告は、同月27日、東京入管主任審査官に対し仮放免を請求した。
 東京入管特別審理官は、同年9月1日、原告に対し、同代理人立会いの下で口頭審理を行い、
その結果、前記の入管法24条4号ロに該当するとの認定は誤りがないと判定し、原告にこれ
を通知した。
この判定に対して、原告は、同日、法務大臣に対し異議を申し出た。
 東京地方裁判所は、同年9月3日、「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」
(行政事件訴訟法25条2項)の疎明がないとの理由で、前記の本件収容令書執行停止の申立
てを却下するとの決定をした。
 東京入管主任審査官は、同月5日、前記の仮放免を不許可とした。
 原告は、同月11日、前記の本件収容令書執行停止の申立て却下決定に対して東京高等裁判
所に即時抗告をした。
 法務大臣は、同月18日、前記の難民認定の申請について、入管法61条の2第2項所定の期
間を経過してされたものであり、かつ、同項但書を適用すべき事情が認められないことを理由
として、難民の認定をしない旨の処分をし、原告にこれを通知した。
また、法務大臣は、同日、前記の異議の申出は理由がない旨の本件裁決をしたが、本件裁決
に当たり、原告について在留特別許可はしなかった。
東京入管主任審査官は、同日、本件裁決がされた旨の通知を受けて、原告に対し、その旨を告
知するとともに、入管法24条4号ロに該当することを理由として、送還先をトルコとする本件
退去強制令書を発付した。
東京入管入国警備官は、同日午後6時4分、本件退去強制令書を執行して、原告を引き続き
本件収容場に収容した。
また、原告は、同日、法務省東京入国管理局長を拘束者として人身保護請求の訴えを浦和地
方裁判所に提起した(浦和地方裁判所平成9年(人)第1号人身保護請求事件)。
 原告は、同月25日、前記の難民の認定をしない処分について、法務大臣に対し異議を申し
出た。
 浦和地方裁判所は、同年10月17日、原告は本件収容場において適法に拘束されていると認
め、前記の人身保護請求を棄却するとの決定をした。
 原告は、同月21日、本件退去強制令書発付処分の取消しを求める訴訟を東京地方裁判所に提
起するとともに(東京地方裁判所平成9年(行ウ)第254号退去強制令書発付処分等取消請求事
件)、本件退去強制令書の執行停止を同裁判所に申し立てた(東京地方裁判所平成9年(行ク)
第73号退去強制令書執行停止申立事件)。
 原告は、同月27日、前記の異議の申出を取り下げた。
また、原告は、同日、友人のBから、500米ドル及び同日付けクアラルンプール経由イスタン
ブール行きの航空券予約票兼領収証を差し入れてもらった。
そして、原告は、同日、代理人である大橋弁護士に相談した上で、東京入管難民調査官に対し、
近日中にトルコに帰る決意をしたこと、そのため友人に依頼してイスタンブール行きの航空券
を購入したこと、これまでに提起した訴え等を取り下げる意思を有していることを明らかにし
た。
21 原告は、前記の一般旅券の有効期間が経過していたので、同月28日、東京入管入国警備官
に対し、旅券の有効期間延長申請の代行を依頼した。
そこで、東京入管入国警備官が、同月30日、在日トルコ大使館において上記旅券の有効期間
延長申請を代行したところ、特に条件が付されることもなく同申請が許可され、上記旅券の有
効期間は平成10年3月1日までとなった。
22 大橋弁護士は、同年11月11日、原告を代理して、前記の本件退去強制令書執行停止の申立
てを取り下げた。
23 原告は、同月18日、東京入管入国警備官により本件収容場から成田空港まで護送された後、
前記の航空券により航空機を利用して本邦から退去した。
24 原告は、その後、クアラルンプールを経由してトルコに帰国した。
2 争点(本件収容令書の執行前に原告に対し違法な拘束がされたか)について
 原告は、東京入管入国警備官及び警察官は、平成9年7月30日、①総勢10名以上で、原告の
自宅に臨場し、早朝、事前の予告なしに摘発を開始した、②原告から弁護士に電話することを
希望されたのに、それを許可しなかった、③原告に対し、通訳を介さずに旅券の提示を求めた、
④東京入管又は警察が用意した乗用車に原告を乗せて、警察署から東京入管まで移動させた、
⑤その乗車の際、原告に選択の余地を与えなかった、⑥東京入管においては、食事も施設内で
取らせ、外出を認めず、取調べ終了後も本件収容令書執行までそのまま東京入管の施設内に留
め置いた、⑦東京入管における取調べ時に通訳人を付さなかったと主張し、これらの事実をも
とに、東京入管入国警備官等が、本件収容令書の執行前に、原告に対し、違法な拘束をしたと主
張する。
しかしながら、上記②の事実を認めるに足りる証拠はなく(かえって、証拠(甲29の1、30、
乙9)によれば、原告及び大橋弁護士は、大橋弁護士の原告からの平成9年8月5日付け聴取
書及び大橋弁護士の同年9月1日付け意見書において、同年7月30日の違反調査の状況を述
べ、その違法性を問題としているにもかかわらず、上記②の事実に言及していないこと、同年
9月1日の口頭審理においてもそのような言及がなかったことが認められ、上記②の事実はな
かったことが推認される。)、上記⑤の事実を認めるに足りる証拠もない。また、上記⑥につい
ては、原告が東京入管の施設内において外出を希望した事実及び東京入管入国警備官等が原告
を東京入管の施設内に強制的に留め置いた事実は、これらを認めるに足りる証拠がない。さら
に、前記1の認定事実によれば、東京入管における取調べ時には、原告の同居人であったBが
通訳を行ったことが明らかであるから、上記⑦の事実は認められない(なお、原告の陳述書(甲
31の1及び2)は、Bが通訳を行った事実自体を否定するものではないし、原告及びBの各署
名による供述調書(乙1)が真正に成立したとの推定を覆すに足りるものでもない。)。 
上記①ないし⑦のその余の各事実は当事者間に争いがない。前記1の認定事実によれば、東
京入管入国警備官等は、入管法上の違反調査という正当な目的のために、原告に同行を求め、
その取調べをしたものであるといえる。そして、前記1の認定事実によれば、原告は、当時、来
日してから既に2年以上を経ており、簡単な日常会話程度の日本語は話すことができ、東京入
管入国警備官等から同行を求められた際にも、同行を拒絶する意思を伝達する程度の日本語の
会話能力はあったと推認されるところ、本件全証拠によっても、原告が、自宅から移動する際
や、庁用車に乗車する際などに、同行について異議を述べたり、抵抗を示したりしたとの事実、
あるいは、東京入管入国警備官等が、原告の同行及び取調べに際し、ことさらに原告の意思を
抑圧するような言動をとったり、原告に対して有形力を行使したなどの事実を窺わせるものは
ない。したがって、上記①ないし⑦のその余の各事実をもって直ちに、東京入管入国警備官等
が本件収容令書の執行前に原告に対し違法な拘束をしたとはいうことができない。
 以上によれば、本件収容令書の執行前に原告に対し違法な拘束がされたとはいうことができ
ず、この点に関する原告の主張は理由がない。
3 争点(本件収容が難民条約31条に違反するか)について
原告は、自らが難民であり、難民認定申請をしていた者であることを理由に、本件収容は、生命
又は自由が脅威にさらされていた領域から直接来た難民であって不法入国又は不法滞在している
者に対し、不法入国又は不法滞在を理由として「不利益」(正文の「penalties」の原告代理人によ
る訳。ただし、日本政府訳では「刑罰」とされている。)を課してはならないと定める難民条約31
条1項に違反し、また、同項の規定に該当する難民の移動に対し必要な制限以外の制限を課して
はならず、上記難民に対し他の国への入国許可を得るために妥当と認められる期間の猶予及びこ
のために必要なすべての便宜を与えることを定める同条2項に違反すると主張する。
ところで、同条1項は、「当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国し又は不法にい
ることの相当な理由を示すことを条件とする。」とその適用のための条件を明文で規定しており、
同条2項も、「1の規定に該当する難民の移動に対し」、「1の規定に該当する難民に対し」と規定
し、同条1項に規定された条件を満たすことがその適用のための要件であることを明らかにして
いる。
前記1の認定事実によれば、原告は、在留期間を90日とする上陸許可を受けて本邦に入国し、
その後在留期間の更新等を申請することなく、入国後約1年4か月、在留期間経過後約1年1か
月が経過して初めて、難民認定の申請をしたものであるが、原告は、入国当時から難民認定申請
については知っていたものの、いずれトルコに帰国する心積もりがあったことから、上記の時期
に至るまで難民認定の申請をしなかったということになる。
そうすると、原告は、「遅滞なく」当局に出頭し、かつ、不法に入国し又は不法にいることの相
当な理由を示すことという上記各条項の適用のための条件(要件)を満たしていないというほか
はない。
したがって、その余の要件について判断するまでもなく、本件収容が難民条約31条に違反する
との原告の主張は理由がない。
4 争点(本件収容が収容の必要性を欠き違憲、違法であるか)について
 憲法34条後段違反の有無について
ア まず、原告は、本件収容は、収容の必要性を欠くから、何人も正当な理由がなければ拘禁さ
れないと定める憲法34条後段に違反すると主張する。
これに対し、被告は、同条は刑事手続における身体拘束の際の適用を予定した規定である
ところ、本件収容は、外国人の出入国の公正な管理という行政目的のための手続であって刑
事責任追及を目的とする手続ではないから、同条後段の適用はない旨主張する。
この点、同条が直接には刑事手続に関する規定であることは被告主張のとおりであるが、
本件収容が刑事責任追及を目的とする手続ではないとの理由のみで、本件収容による身柄拘
束の手続が当然に同条後段による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
もっとも、前記1の認定事実によれば、本件収容は、不法残留者である原告に対し、入管法
所定の手続に則ってされたものとみられ、外国人の出入国の公正な管理という正当な行政目
的のために(入管法1条参照)、不法残留者を本邦から確実に退去させるべく、法定の手続に
則ってされたものということができるから、収容の必要性を欠くことが明白であるなど特段
の事情のない限り、憲法34条後段の正当な理由に基づくものというべきである。
そこで、本件収容について、上記特段の事情が認められるかを検討する。
イ この点、原告は、平成8年9月7日、自ら東京入管に出頭し、その所在を明らかにして難民
認定の申請をし、その後も難民審査官からの出頭要請の便宜のためにその所在を継続的に申
告していたと主張する。
しかしながら、前記1の認定事実によれば、原告は、平成7年5月5日、在留資格を「短期
滞在」、在留期間を90日とする上陸許可を受けて本邦に上陸したが、その後2年以上経過し
た平成9年7月30日の本件収容時まで、在留資格の変更又は在留期間の更新若しくは変更を
受けることなく、本邦に不法に残留していたこと、原告は単身で本法に上陸、滞在したもの
であり、本件収容当時29歳であったが、その家族は全員トルコに居住しており、本邦にはそ
の身元を保証できる者が特にいなかったこと、原告は、トルコ在住の妻からの送金依頼に応
じて、本邦での稼ぎをトルコの妻子に仕送りしており、本邦から退去させられるならば、そ
の仕送りもできなくなる立場にあったこと、原告は、本邦に滞在中、何度か住所を移転した
ことがあったほか、主として日給による職業を転々としていたことが明らかである。
これらの事情に照らすと、原告の上記主張に係る事実によっても、本件収容について、前
記特段の事情を認めることはできない。
ウ 以上によれば、本件収容が憲法34条後段に違反するとの原告の主張は理由がない。
 入管法違反の有無について
次に、原告は、本件収容は、収容の必要性を欠くから、入管法に違反すると主張する。
ところで、入管法は、外国人の出入国の公正な管理という目的のために(1条参照)、容疑者
に退去強制事由該当性について入国審査官、特別審理官等による複数の判断の機会を受けるこ
とを手続上保障しつつ(45条、47条ないし48条参照)、退去強制事由に該当する者を確実に排
除することができるように図ろうとするものであるところ、もともと退去強制手続は本邦に違
法に在留している外国人を対象とする手続であることに鑑みると、容疑者を収容した上で手続
を進めなければ、上記のような退去強制手続の実効性を確保することが困難となることが予想
される。これに加え、前記イに認定の諸事情を総合すると、仮に、入管法上、容疑者を収容す
るための要件として、明文の規定はないが「収容の必要性」が要求されると解したとしても、原
告に対する本件収容に当たっては、その必要性が存していたと優に認められるところである。
以上によれば、入管法上、収容の必要性が要件となるか否かを判断するまでもなく、そもそ
も本件収容にはその必要性が認められるから、原告の上記主張は理由がない。
 国際人権B規約9条1項、同条3項2文及び同条4項違反の有無について
原告によるこの点に関する主張については、いずれも、本件収容が収容の必要性を欠くこと
をその主張の前提としているところ、本件収容について、収容の必要性が存したことは前述の
とおりであるから、原告の上記主張は、その前提を欠き、いずれも理由がない。なお、念のため
その個別の主張に応じて検討しても、次のようにいずれも理由がない。
ア 原告は、本件収容は、収容の必要性を欠くから、何人も恣意的に逮捕され又は抑留されな
いと定める国際人権B規約9条1項に違反すると主張するが、前述のとおり、本件収容は、
不法残留者である原告に対し、正当な行政目的のために、法定の手続に則ってされたもので
あるから、「恣意的」な身柄拘束といえないことは明らかであって、この点からも、原告の上
記主張は理由がない。
イ 原告は、本件収容は、収容の必要性を欠くから、裁判に付される者を抑留することが原則
であってはならないと定める国際人権B規約9条3項2文に違反すると主張するが、同項
は、「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者」についての規定であることを明記し
ているその体裁からして、刑事手続に関する規定であることが明らかである。
さらに、行政手続にもこの規定の趣旨が及ぶと解したとしても、前述のとおり、本件収容
は入管法所定の要件を満たした上でされたものであり、「抑留を原則としている」とはいえな
いから、この点からも、原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は、本件収容は、収容の必要性を欠くから、「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者
は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法
的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を
有する。」と規定する国際人権B規約9条4項に違反すると主張する。原告は、同項の「合法
的」とは収容の必要性があることを含むとの解釈を前提とするものであるが、当該「合法的」
とは、法令に適合していること(適法であること)を意味するものにとどまると解すべきで
あるとともに、原告は、後記6のとおり、本件収容が合法的であるか否かを裁判所が遅滞な
く決定できるように、裁判所において手続をとる権利を保障されていたものであるから、こ
の点からも、原告の主張は理由がない。
5 争点(入管法39条及び同法52条5項が憲法33条に違反するか)について
 入管法39条は、入国警備官は、容疑者が同法24条各号のいずれかに該当すると疑うに足りる
相当の理由があるときは、収容令書により容疑者を収容することができる旨を、同法52条5項
は、入国警備官は、退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送
還可能のときまで、その者を収容することができる旨を規定するが、いずれも、その際に裁判
官の令状を要する旨は規定していない。そこで、原告は、収容に関する上記各条項は、司法官
憲の発する令状によらない身柄拘束を規定するものであるから、憲法33条に違反すると主張す
る。
この点、同条は直接には刑事手続に関する規定であることが問題となるが、入管法上の収容
の手続が行政手続であって刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続
による身柄の拘束が当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しか
しながら、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に
応じて多種多様であるから、行政手続における身柄の拘束についてすべて裁判官の令状を要す
ると解するのは相当でなく、当該身柄の拘束によって達成しようとする公益の内容、程度、そ
れが行政目的を達成するために欠くべからざるものであるかどうか、身柄を拘束する方法の相
当性などの事情を総合考慮して、裁判官の令状の要否を決めるべきである。
ア そこで検討するに、そもそも、国家は、その主権に基づき、いかなる外国人を、いかなる条
件で、自国に入国させ、自国に在留させるかについて広範な裁量を有しているところ、入管
法上の収容の手続は、国家にとって好ましからざる者を強制的に退去させるための重要な手
続であるから、その公益性が高いことはもとより、上記退去強制手続の実効性を確保し、も
って外国人の出入国の公正な管理を図るという入管法の目的を達成するために必要不可欠な
制度であるといえる。
イ そして、入管法は、収容令書に基づく収容の手続について、収容令書の執行に当たる入国
警備官とは別個の独立した権限を有する主任審査官(上級の入国審査官で法務大臣が指定す
る者(2条11号))が収容令書を発付するものとし(39条1項、2項)、身体を拘束する判断
の適正を期している。収容令書には、容疑者の氏名、居住地及び国籍、容疑事実の要旨、収容
すべき場所、有効期間、発付年月日等を記載することを要求し(40条)、収容の際に、収容令
書の容疑者への呈示等を要求する(42条1項、2項)ほか、収容令書によって収容すること
ができる期間を原則として30日以内に限定する(41条1項)など、容疑者の人権にも配慮し
ている。さらに、その収容後には、適正な手続により、入国審査官による審査、特別審理官に
よる口頭審理、法務大臣による裁決という3度の審理を受けられる機会を保障した上で(45
条1項、2項、47条2項、3項、48条1項ないし5項、7項、49条1項ないし3項)、いずれ
かの時点で容疑者が24条各号のいずれにも該当しないことが判明した場合には、直ちに容疑
者を放免しなければならないとして(47条1項、48条6項、49条4項)、判断の適正を担保す
るとともに、身柄拘束から解放される場合について明確に規定している。
また、入管法は、退去強制令書に基づく収容手続についても、上記と同様に、判断の適正を
期している上(47条4項、48条8項、49条5項、52条1項、2項参照)、容疑者の人権に配慮
し(51条、52条3項参照)、身柄拘束から解放される場合についても明確に規定している(52
条6項参照)。
以上によれば、入管法に基づく身柄拘束の方法は相当性を有するといえる。
 以上の事情を総合考慮すると、入管法上の収容の手続に裁判官の令状を要するということは
できない。
したがって、入管法39条及び同法52条5項の規定が憲法33条に違反するとの原告の主張は
理由がない。
6 争点(本件収容が国際人権B規約9条4項に違反するか)について
原告は、国際人権B規約9条4項にいう「合法的」とは収容の必要性があることを含むとの解
釈を前提とした上で、本件収容が合法的であるかどうかについて、遅滞なく裁判所の判断を受け
ることを保障されないまま、本件収容を継続されたと主張し、それを前提として、本件収容は国
際人権B規約9条4項に違反すると主張する。
しかしながら、前記4ウで述べたとおり当該「合法的」とは法令に適合していること(適法で
あること)を意味するにとどまると解されるところ、我が国において、収容令書及び退去強制令
書によって収容された者は、その収容の適法性を争う場合には、行政事件訴訟法、人身保護法等
に基づき、それについて裁判所の判断を求めることが可能である。
そして、前記1の認定事実によれば、原告は、現に、①本件収容令書の発付、執行の後まもなく、
本件収容令書発付処分の取消しを求める訴訟を提起するとともに、本件収容令書の執行停止を申
し立て、その約1か月後に同申立てを却下するとの決定を受けると、それに対して即時抗告をし
たこと、②本件退去強制令書の執行と同日、人身保護請求訴訟を提起し、その約1か月後に同請
求を棄却するとの決定を受け、その決定において、本件収容が適法な拘束である旨の判断を受け
たこと、③本件退去強制令書の発付、執行の約1か月後、本件退去強制令書発付処分の取消しを
求める訴訟を提起するとともに、本件退去強制令書の執行停止を申し立て、後にそれを取り下げ
たことが明らかである。
そうすると、原告は、裁判所が本件収容が合法的であるかどうかを遅滞なく決定することがで
きるように、裁判所において手続をとる権利を保障されていたものであり、現実にその権利を行
使し、本件収容が合法的であるかどうかの決定を受けたものということができる。
したがって、本件収容が国際人権B規約9条4項に違反するとの原告の主張は理由がない。
7 争点(原告について在留特別許可をしなかった本件裁決が違法であるか)について
 原告は、原告について在留特別許可をしなかった本件裁決は、法務大臣がその裁量を逸脱し
たものであって、違法であると主張する。
しかしながら、在留特別許可に関する法務大臣の処分は、その判断が全く事実の基礎を欠き、
又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を超え、又
はその濫用があったものとして違法となるというべきである。
なぜならば、そもそも国際慣習法上、いかなる外国人につき、いかなる条件で自国内に在留
させるかについては国家の裁量に委ねられていると解されるところ、在留特別許可の申請があ
った場合、国家としては、国益を保持し出入国の公正な管理を図る観点から、申請者の在留状
況、申請者が我が国に居住することになった経緯、難民をめぐる国際情勢、国内の状況、我が国
の外交政策、国際礼譲など諸般の事情を総合的に勘案した上、その許否につき判断する必要が
あり、そのような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の広範な裁量
に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができないからである。在留特別許可の
制度を規定する入管法61条の2の8が、その許可の判断基準につき、何ら具体的に規定してい
ないのも、在留を特別に許可するかどうかの判断については法務大臣に広範な裁量権を認める
趣旨と解される。
 そこで、以上の見地に立って、法務大臣が原告について在留特別許可をしなかった本件裁決
が裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法であるかどうかについて検討す
る。
前記1の認定事実によれば、①原告は、短期滞在の在留資格で、在留期間を90日とする上陸
許可を受けて本邦に上陸したものの、その後、在留期間の満了日までに、在留資格の変更又は
在留期間の更新若しくは変更を受けなかったこと、②原告が外国人登録法3条に基づく新規登
録の申請をしたのは、本邦上陸後1年以上が経過してからであったこと(この点に関し、同条
1項は、上陸の日から90日以内に同申請をしなければならないと定めている。)、③原告が難民
認定の申請をしたのは、本邦上陸後約1年4か月を経過してからであり、法務大臣は、本件裁
決と同日、上記難民認定申請について、入管法61条の2第2項所定の期間(上陸した日から60
日以内)を経過してされたものであり、かつ、同項但書を適用すべき事情が認められないこと
を理由として、難民の認定をしない旨の処分をしたこと、④原告は、27歳で本邦に入国するま
では、本国であるトルコにおいて成育し、妻子らとの生活を営んでいたものであり、本件裁決
当時も、原告の家族は全員トルコに居住していたこと、⑤原告は、本邦に滞在中も、トルコ在住
の妻と継続的に連絡をとり、妻からの送金依頼に応じて、本邦で集配業等に従事して得た収入
をトルコの妻子に仕送りしていたことが明らかである。すなわち、原告は、本邦において不法
に残留、就労するなどしたものであるが、難民と認定されたものではなく、また、原告と我が国
とのかかわり合いは密接なものとはいえない。
これらの事情に加えて、後記8のとおり、クルド人である原告に対する本件退去強制令書に
おいて、送還先をトルコとしたことが難民条約や入管法に違背するものと認めることができな
いことに照らすと、法務大臣が本件裁決に当たって原告に在留特別許可をしなかった判断が、
全く事実の基礎を欠くとか、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるということは
できない。
したがって、在留特別許可をしなかった本件裁決が、法務大臣の裁量権の範囲を超え、又は
その濫用があったものとして違法であるということはできない。
 以上によれば、この点に関する原告の主張は理由がない。
8 争点(本件退去強制令書における送還先をトルコとしたことが難民条約33条1項及び入管法
53条3項に違反するか)について
 原告は、下記①のトルコにおける一般的情況に加え、下記②ないし⑦の原告の個別事情を根
拠として、原告が平成9年当時トルコに帰国すると、クルド人であるとの民族的理由又は政治
的意見により迫害を受けるおそれがあった。すなわち、原告にとってトルコは難民条約33条1
項の「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のため
にその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域」に当たると主張し、本件退去強制
令書における送還先をトルコとしたことは、上記領域の属する国への送還を禁止する難民条約
33条1項及び入管法53条3項(いわゆるノンルフールマン原則)に違反すると主張する。

① トルコ政府は、従来から、クルド人を民族的理由又は政治的意見により迫害してきた。
② 原告は、昭和60年頃、有名なクルド人歌手の歌をカセットテープで聞いたことを理由に、
警察に拘束され、拷問を受けた。
③ 昭和62年、原告の複数の友人が、クルド人の権利を擁護する主張を記載したチラシ、ビ
ラの配布、ポスター貼り等の活動を行ったとの嫌疑で逮捕されたので、原告は、逮捕を逃
れるためにトルコ国内の他の地方に逃亡し、兵役にも応じなかった。
④ 原告は、平成3年、クルド人の権利を擁護する立場の新聞を携えていたのを警察に見と
がめられ、派出所に連行されたところ、原告が政治犯容疑で追われ兵役に応じていないこ
とが発覚し、治安警察に拘束され、拷問を受け、兵役に送られた。
⑤ 原告は、兵役を終えた後、しばらくは家族と平穏に暮らしたが、一方でDEP(民主主義党。
クルド人の権利を擁護する立場の政党の一つ)の事務所に出入りし、その選挙運動に協力
するなどの政治活動を行っていた。
⑥ 原告は、平成7年3月、ネブルズ祭のビラ配りに関与した容疑で逮捕され、拷問を受け、
翌日釈放されたものの、その後尾行をされるなど当局の監視下に置かれた。
⑦ 原告は、同年5月4日予定の裁判の出頭を命じられると、懲役刑が必至であると考え、
これを逃れるため出国した。
 そこで、原告の上記①の主張について検討するに、原告が証拠として提出する甲1、2、5な
いし23の新聞記事等は、トルコにおいて、拷問等といった形でクルド人に対する迫害が行われ
ていることを示唆するものということができるが、このことから直ちに原告がクルド人である
というだけで当然に迫害を受けるおそれがあるとまでいうことは困難である。実際、原告は、
供述調書等(甲30、乙1、19、20)において、自らがトルコにおいて迫害を受けたことを述べる
一方で、同じクルド人である原告の家族が迫害を受けたと窺えるようなことは一切述べていな
いばかりか、日本に家族を呼ぶつもりはないとも述べているのである。
もっとも、原告は、供述調書等において、自身のトルコにおける活動歴、逮捕歴及び拷問体験
等について、上記②ないし⑦にそった事実を述べ(甲29の1、30、32、乙1、19、20)、さらに、
平成9年にトルコに帰国した後も、拷問に遭ったと述べる(甲33)。 
しかしながら、原告のトルコにおける上記活動歴、逮捕歴及び拷問体験等の事実については、
客観的な裏付けとなる証拠がなく、直ちには認定できないといわざるを得ない。
また、原告はDEPの党員であったわけではなく(甲30)、仮に原告主張の上記活動歴があっ
たとしても、その関与の程度はさほど深いものとはいえないから、原告が平成9年当時トルコ
に帰国したときに迫害を受けるおそれがあったことを十分に基礎付けるものとはいい難い。
なお、原告は、供述調書等において、平成9年当時にも、トルコでは警察が毎日のように原告
宅に来て原告を捜している旨を妻から聞いたと述べるが(甲30、乙1、20)、伝聞であって具体
性に乏しい上、警察が原告を捜し続ける目的も判然としないから、そのような事実をたやすく
認定することができない。
 ところで、前記1の認定事実によれば、①原告は、27歳までトルコで生まれ育ち、妻子らと
の生活を営んでいたものであり、本件退去強制令書発付当時も、原告の家族は全員トルコに居
住していたこと、②原告は、平成9年10月27日、トルコ人の友人を通じて、クアラルンプール
経由イスタンブール行きの航空券予約票を取得したこと、③原告は、同日、代理人である大橋
弁護士に相談した上で、東京入管難民調査官に対し、近日中にトルコに帰る決意をし、これま
でに提起した訴え等を取り下げる意思を有していると述べたこと、④原告は、同月、東京入管
入国警備官を介して、当時失効していたトルコ政府発行の一般旅券の有効期間延長申請をし、
特に条件が付されることなく同申請が許可されたこと、⑤大橋弁護士は、同年11月11日、原告
を代理して、本件退去強制令書執行停止の申立てを取り下げたこと、⑥原告は、上記航空券に
よりクアラルンプール経由の航空機を利用して本邦を出国したが、途中クアラルンプールに留
まることもなく、トルコに帰国したことが明らかである。
これらの事実によれば、原告は、自己の本国であり家族が居住するトルコに帰国することを
最終的には希望し、実際にそのとおりトルコに帰国したものとみられる。もっとも、原告は、当
該帰国はその真意に出たものではないと主張するが、原告の帰国は、上記のとおり、代理人で
ある大橋弁護士に相談した上で決められたことであり、その帰国に伴う本件退去強制令書執行
停止の申立ての取下げ等も大橋弁護士が代理した上で行ったものであるから、帰国に至る経過
について原告に不満があったかはさておき、トルコへの帰国自体が原告の真意に基づいていな
いとはいえない。
また、上記のとおり、原告の一般旅券の有効期間延長申請について、特に条件が付されるこ
となく許可されたことに照らせば、原告は、少なくとも、トルコ政府に出入国を制限されるよ
うな人物としては把握されていなかったということもできる。
さらに、前記1の認定事実によれば、原告は、本邦上陸当時から難民認定申請については知
っていたが、いずれトルコに帰国する心積もりがあったことから、その後約1年4か月を経過
するまで、難民認定の申請をしなかったこと、原告は、本邦に滞在中も、トルコ在住の妻と継続
的に連絡をとり、本邦で稼動して得た合計約1万米ドルをトルコの妻子に仕送りしていたこと
が明らかであり、原告は、迫害からの庇護を求めるというよりもむしろ経済的な目的のために、
本邦に上陸、滞在した可能性が否定できない。
 前記及びの検討結果に照らせば、本件全証拠によっても、原告が平成9年当時トルコに
帰国すると、クルド人であるとの民族的理由又は政治的意見により迫害を受けるおそれがあっ
たとまでは認めるに足りず、原告にとってトルコは難民条約33条1項の「人種、宗教、国籍若
しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威
にさらされるおそれのある領域」に当たるとはいえない。
したがって、本件退去強制令書における送還先をトルコとしたことが難民条約33条1項及び
入管法53条3項に違反するとの原告の主張は理由がない。
9 争点(本件収容中の原告に対する処遇が違法であるか)について
 前記前提事実、証拠(甲29の2、乙29の1、29の2、43、45、46)及び弁論の全趣旨によれば、
次の事実が認められる。
ア 原告は、平成9年7月30日から同年11月18日までの112日間にわたり、本件収容令書及び
本件退去強制令書に基づき本件収容場に収容された。
イ 本件収容場は、平成2年12月、東京地方検察庁の旧庁舎(当時築23年9月)の一部を改修
して、収容令書又は退去強制令書により身柄を拘束した外国人の収容施設として開設された
ものであるが、当初から、屋外運動場及び屋内運動場は設置されていなかった。
ウ 東京入管は、本件収容場の被収容者に対し、居室内でストレッチ体操等の軽い運動をする
ことについては特に制限していなかったが、他方で、とりたてて運動の機会を設けることは
なく、戸外での運動の機会は全く与えていなかった。
エ 本件収容場において原告が収容された居室は、収容定員8名の雑居房であり、居室全体の
広さは、縦約6.2メートル、横約5.8メートルであった。ただし、居室内には、別紙本件収容場
トイレ図①のとおり、縦約1メートル、横約1.9メートルのトイレが設置されており、それを
除いた部分が、居室内における運動が可能なスペースであった。
原告は、本件収容中、面会、シャワー等のために上記居室から出るほかは、上記居室内に居
続けた。
オ 原告は、本件収容中、入浴はできなかったが、週に2回、各10分間、シャワーを浴びること
ができた。
カ 居室内のトイレの構造は、自損事故防止、保安上の観点等から、別紙本件収容場トイレ図
②のとおりになっていた。居室内のトイレ設置スペースと畳部分との間には、高さ約135セ
ンチメートルの隠し板が立てられており、成人の被収容者が洋式の便器に座ったときに、畳
部分に居る他の収容者からは頭部が見える程度であった。
 なお、被収容者は、トイレを清掃するように指導されていた。
キ 東京入管においては、被収容者には、寝具として、夏季には毛布4枚並びに枕、シーツ、毛
布カバー及び枕カバー各1個を貸与し、同毛布を敷布団又は掛布団替わりに使用させる扱い
をしており、シーツ、毛布カバー及び枕カバーについては、約1か月をめどに被収容者から
の申出等により交換しており、1か月以内であっても、被収容者から汚損等の申出があった
場合には、その状況に応じて寝具を交換をする運用がされている。
このような運用に従い、原告は、平成9年9月30日、上記寝具一式を貸与され、同年10月
18日、シーツ、毛布カバー及び枕カバーの交換を受けた。
 戸外運動について
ア 原告は、本件収容中、一度も戸外に出ることはなく、屋内においても、本件収容場に運動場
等がないため、運動の機会を与えられなかったとして、そのような処遇は、「所長等は、被収
容者に毎日戸外の適当な場所で運動する機会を与えなければならない。ただし、荒天のとき
又は収容所等の保安上若しくは衛生上支障があると認めるときは、この限りでない。」と規定
する被収容者処遇規則28条に反して違法であると主張する。
イ ところで、荒天でなければ、居室内の閉塞的な空間から戸外の開放的な空間に出て、陽光
を浴び、外気に触れつつ、適度の運動をすることは、病気その他の理由によりこれを避ける
べき特段の事情がない限り、人の精神的、肉体的健康を保持する上で欠かせないものという
べきであり、被収容者処遇規則28条も、このような観点から、被収容者に戸外での運動の機
会を保障する趣旨と解される。
そうすると、被収容者に対し長期間にわたり戸外運動の機会を与えないことは、上記特段
の事情がある場合のほか、荒天のとき又は収容所等の保安上若しくは衛生上支障があるとき
(同条但書)や、同条が戸外運動の機会を保障した上記趣旨に適うだけの代替措置がとられた
場合を除き、同条に反するものであるのみならず、違法性を有するものというべきである。
本件についてみると、前記の認定事実によれば、原告は、本件収容中、112日もの長期間
にわたり、戸外での運動の機会を全く与えられなかったというのである(以下、この原告に
対する処遇を「本件処遇」という。)。
他方、原告に病気その他の理由により戸外運動を避けるべき特段の事情があったとも、原
告が本件収容中に戸外運動をすることによって、本件収容場の保安上又は衛生上支障があっ
たとも認めるに足りる証拠はない。
さらに、前記の認定事実によれば、東京入管は、原告に対し、居室内でストレッチ体操等
の軽い運動をすることについては特に制限していなかったというのであるが、外気等から遮
断された閉塞的な居室内でその程度の運動の機会が与えられたからといって、被収容者処遇
規則28条が戸外運動の機会を保障した上記趣旨に適うだけの代替措置がとられたというこ
とはできない。
以上によれば、本件処遇は、被収容者処遇規則28条に反するものであるとともに、違法な
ものであるというべきである。
ウ なお、被告は、①本件収容場の被収容者の処遇については、保安上支障のない範囲内にお
いてできる限り自由を与えることを基本原則として、法令及び被収容者処遇規則に基づき運
用していたものであり、具体的には、テレビの視聴や喫煙などの自由を与えていたこと、②
収容が長期化することが見込まれる者等については、運動設備等が整備されている入国者収
容所東日本入国管理センター等に移送する運用をしていたが、原告については、当時、東京
入国管理局長を拘束者とする人身保護請求訴訟(前記1)が係属しており、上記移送によ
って拘束者が替わると同請求が却下されてしまうこととの関係で、同請求に対する裁判所の
判断が出るまでの間は上記移送を見合わせたことを理由に、原告に戸外運動の機会をさせな
かったことが直ちに違法となるものではないと主張する。そして、③そもそも本件収容場に
おいて戸外運動ができなかったことについては、東京入管入国審査官Fの陳述書(乙45)に
おいて、施設上及び人員上の余裕がなかったためである旨説明されている。
しかしながら、上記①については、原告がテレビの視聴や喫煙などの自由を与えられたと
しても、被収容者処遇規則28条が人の精神的、肉体的健康のために戸外での運動の機会を保
障した固有の趣旨(前記イ)を全うすることはできないから、本件処遇の違法性を否定する
理由にはならない。
また、上記②については、人身保護請求の却下を回避するということが、原告に対して112
日間にわたり戸外運動の機会を全く与えなかったこととに直接結び付くものではなく、合理
的な理由とはなり得ない。
上記③については、本件処遇の背景に、東京入管の施設上及び人員上の窮状があるにして
も、それは被告において改善すべき事柄であるといわざるを得ず、本件のように112日もの
長期間にわたって、被収容者に被収容者処遇規則に定めた基本的な保障を与えないことを正
当化し得るものということはできない。
以上のとおり、被告の上記主張等は、本件処遇が被収容者処遇規則28条に反し、違法なも
のであるとの前記結論を左右するものではない。
 入浴について
原告は、本件収容中、週2回のシャワーを浴びることしか許されなかったとして、そのよう
な処遇は、「所長等は、被収容者の衛生に留意し、適宜入浴させるほか、清掃及び消毒を励行し、
食器及び寝具についても充分清潔を保持するように努めなければならない。」と定める被収容
者処遇規則29条に反して違法であると主張する。
しかしながら、「適宜入浴させるように努めなければならない」という規定の文理に照らして
も、被収容者に入浴をさせないことが直ちに同条の違反となるものではない。
そして、週2回のシャワーを浴びる機会を与えることは、同条が被収容者の衛生に留意する
ことを要求した趣旨に適う入浴の代替措置ということができる。
したがって、上記のような処遇が被収容者処遇規則29条に反するものであり、あるいは違法
性を有するものであるとすることはできず、この点に関する原告の主張は失当である。
 トイレの設置状況について
原告は、本件収容中、トイレが置かれた居室内で食事をとらされたが、そのトイレは、側面3
方向を囲まれているが1面は開いたままの、しかも使用者の顔まで隠しきれない高さの隠し板
のみで仕切られたものであり、衛生的でなかったとして、そのような処遇は、被収容者処遇規
則29条、「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、取り扱わ
れる。」と定める国際人権B規約10条1項及び「衛生設備は、各拘禁者が、必要なとき、清潔に、
かつ、不体裁でなく生理的要求を満たしうるものでなければならない。」と定める被拘禁者処遇
最低基準規則(1955年犯罪防止及び犯罪人取扱いに関する第1回国際連合会議採択)12条に反
して違法であると主張する。
しかしながら、上記トイレの設置状況が、衛生的でなく違法であるとまでは直ちにはいえな
い。
そもそも被収容者処遇規則29条及び国際人権B規約10条1項は、上記トイレの設置状況を
違法とするような基準を示すものではないし、被拘禁者処遇最低基準規則は、我が国において
法的拘束力を有するものではなく、これを違法性の根拠とすることはできない。
したがって、上記のような処遇が違法であるということはできず、この点に関する原告の主
張は失当である。
 寝具について
原告は、本件収容中、原告の寝具は1度も洗濯されず、交換もされなかったとして、そのよう
な処遇は、「寝具は、支給時において清潔で、常に良好な状態に保たれ、かつ、清潔さを保つた
め頻繁に交換されなければならない。」と定める被拘禁者処遇最低基準規則19条に反して違法
であると主張する。
しかしながら、被拘禁者処遇最低基準規則は、我が国において法的拘束力を有するものでは
ないから、これを国家賠償法上の違法性の根拠とすることはできない。
また、前記の認定事実によれば、原告は、平成9年9月30日、寝具として、毛布4枚並び
に枕、シーツ、毛布カバー及び枕カバー各1個を貸与され、同年10月18日、シーツ、毛布カバ
ー及び枕カバーの交換を受けたものであり(なお、大橋弁護士の平成9年9月17日付け報告書
(甲29の2)及び平成14年4月26日付け陳述書(甲68)は、同人が原告に接見した平成9年9
月16日の時点において、原告の毛布及び枕が一度も取り替えられていないことを示すものにす
ぎず、同年10月18日の上記寝具交換の事実を否定するものではない。)、汚損等があった場合に
は、それを申し出て、その状況に応じて寝具の交換を受けることができたものである。
そうすると、本件収容中、原告の寝具は1度も交換されなかったとの事実が認められないこ
とはもとより、原告に対する処遇につき、清潔な寝具の提供を怠り違法であったということは
できない。
したがって、本件収容中の寝具に関する原告の上記主張は理由がない。
 食事について
原告は、本件収容中、トルコで育った者の嗜好を全く無視した食事を出されたため、急激に
やせ衰え健康を害したとして、そのような処遇は、「各被拘禁者には、当局から、通常の食事時
間に、健康・体力を保ちうる栄養価を持ち、衛生的な品質で、かつ、上手に調理、配膳された食
事が与えられなければならない。」と定める被拘禁者処遇最低基準規則20条1項に反して違法
であると主張する。
しかしながら、被拘禁者処遇最低基準規則を国家賠償法上の違法性の根拠とすることはでき
ないことは既に述べたとおりである。
なおかつ、被収容者の食事については、その内容が宗教上の教義に抵触するなどといった事
由の認められる場合に、特段の配慮の要請される場面のあることはさておき、これを超えて被
収容者処遇規則25条ないし27条の規定を離れて、各国の被収容者それぞれの嗜好に合わせた
食事を提供しなければならないとする法的根拠を見出すことはできない。
したがって、本件収容中の食事に関する原告の上記主張は失当である。
10 争点(本件退去強制令書の発付及びそれに基づく収容が難民不認定処分に対する原告の異議
申出権を侵害し違法であるか)について
原告は、難民の認定をしない処分(難民不認定処分)を受けた者であっても、それに対する異議
申出権を有する者に対し、退去を強制することは、その者が異議申出の審査を受けることを不可
能にするから、本件において、原告が難民不認定処分を受けた直後に本件退去強制令書を発付し、
それに基づく収容をしたことは、入管法61条の2の4が保障する原告の異議申出権を侵害し、違
法であると主張する。
しかしながら、同条は、難民不認定処分に対して異議を申し出ることができる旨を定めている
ものの、入管法には、難民不認定処分に対する異議申出権を有する外国人について、異議申出の
審査が終了するまで、退去を強制されずに我が国に在留する権利を認める規定はなく、他にその
ような在留権を認めなければならないとする法的根拠は見いだせない。したがって、難民不認定
処分を受けた者に対し、異議申出の審査が終了する前に退去を強制したとしても、同条に違反す
るということはできない。
そもそも入管法の定める難民認定手続と退去強制手続とは、別個独立の手続であって(このこ
とは、入管法が、難民の認定を受けている者についても退去強制手続がとられることがあること
を前提としていること(61条の2の7等参照)からも明らかである。)、難民認定手続の進行にか
かわらず、退去強制手続は入管法に則って進められるべきところ、入管法49条5項は、主任審査
官が法務大臣から、退去強制事由該当認定に関する特別審理官の判定に対する異議の申出が理由
がないと裁決した旨の通知を受けたときは、速やかに退去強制令書を発付しなければならない旨
を規定している。
前記1の認定事実によれば、東京入管主任審査官は、平成9年9月18日、本件裁決がされた旨
の通知を受けて、本件退去強制令書を発付し、東京入管入国警備官は、本件退去強制令書に基づ
き原告を収容したものであって、これらの手続が入管法の退去強制手続に関する定めに則ったも
のであることは明らかである。
以上によれば、本件において、原告が難民不認定処分を受けた直後に本件退去強制令書を発付
し、それに基づく収容をしたことは、入管法61条の2の4が保障する原告の異議申出権を侵害し
て違法となるものではなく、この点に関する原告の主張は理由がない。 
11 争点(損害の有無及び額)について
証拠(甲29の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、戸外運動の機会を与えなかった本件処
遇により、精神的、肉体的な苦痛を受けたと認められるから、本件収容所についての設置又は管
理に瑕疵が存したか否かを判断するまでもなく、この点について、被告は国家賠償法1条1項に
よりその賠償義務を負うものと認められる。
前記9の認定事実その他の諸般の事情を総合考慮すると、原告が受けた上記苦痛を慰謝する
には、20万円が相当である。
そうすると、被告は、原告に対し、国家賠償法1条に基づき、上記損害20万円を賠償する義務
を負うというべきである。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は、20万円の支払を求める限度で理由があり、仮執行免脱宣言につ
いては、これを付するのは相当でないと判断し、主文のとおり判決する。

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