難民認定をしない処分取消請求控訴事件
平成14年(行コ)第42号(原審:東京地方裁判所平成11年(行ウ)第192号)
控訴人:法務大臣、被控訴人:A
東京高等裁判所第16民事部(裁判官:鬼頭季郎・納谷肇・任介辰哉)
平成15年2月18日
判決
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 原判決を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本邦に在留中のエティオピア国籍を有する外国人である被控訴人は、自らに難民となる事由が
生じたとして出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)61条の2第1項に基づく難民の認
定の申請をした(以下「本件申請」という。)。控訴人は、本件申請は同条2項が原則として本邦に
上陸した日等から60日以内に行わなければならないとする申請期間を経過してされたものであ
り、かつ、同項ただし書が例外として定める「やむを得ない事情」も認められないとして、難民の
認定をしない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。被控訴人が同条2項本文の60日の期
間制限は難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)及び難民の地位に関する議定書(以
下「難民議定書」といい、難民条約と合わせて「難民条約等」という。)に違反し、また、被控訴人
の申請期間の経過は、同条同項ただし書の「やむを得ない事情があるとき」に該当するものであ
るから、いずれにしても同処分は違法であるなどと主張して、その取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 第1審は、次のように判断して、被控訴人の請求を認容した。
難民不認定処分は申請者を難民と認定しないというにとどまり、難民でないと確定する効果を
生じさせるものではないから、法61条の2第2項本文の期間制限は難民条約に違反するとはいえ
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ない。また、難民の立場になって考えると、自らが難民であると表明することは、故国との絶縁と
いう重大な結果をもたらすばかりか、それ自体に危険を伴う行為であるから、我が国が信頼する
に足りるか否かに不安を抱く場合もあろうし、そうでなくても、我が国に平穏に在留できている
ならば差し当たり迫害を受ける危険から逃れられているのであるから、そのような状態が続く限
りは難民であることを秘匿し、そのような状態が維持できなくなって初めて、いわば最後の手段
として難民であることを理由に保護を求めるというのも無理からぬものと考えられ、このような
難民の実情等に照らすと、我が国において平穏に在留している以上は難民認定申請をしないこと
も難民にとっては定型的に法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」があるというべき
であり、少なくとも適法な在留資格に基づいて在留している間にされた申請については、それが
申請権の濫用にわたるなど難民としての保護に値しないと認められる特段の事情がなく、実体審
査をするまでもなく難民に該当しないことが明らかな場合でない限りは、申請者の難民認定制度
に関する知識の有無や申請を決意した時期等に関わらず、入国後60日以内にされなかったことに
ついてやむを得ない事情があったものと解するのが相当である。被控訴人は、本邦入国後、難民
認定の申請をするまでの期間が法61条の2第2項の定める60日の期間を経過しているが、本件
申請は、適法な在留資格に基づいて在留している間にされたものであり、申請権の濫用にわたる
など難民としての保護に値しないと認められる特段の事情がなく、実体審査をするまでもなく難
民に該当しないことが明らかな場合でないから、上記期間内にされなかったことについて同項た
だし書の「やむを得ない事情」があったものと認めるのが相当である。
3 判断の前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
 被控訴人は、昭和41年《日付略》エティオピアのアジスアベバにおいて出生したエティオピ
ア国籍を有する外国人であり、平成9年11月13日、本国内の外務省移民・難民安全局において
有効期限を平成11年11月13日までとする被控訴人名義旅券を取得し、同日、本国内の移民局で
許可日から1か月間有効とする本国出国許可を取得した(その後、出国許可については、平成
9年12月8日に同日から30日間有効とする許可延長がされている。)。
 被控訴人は、同月18日、在アジスアベバ日本大使館において、我が国の査証を取得し、平成
9年12月14日、エティオピア・アジスアベバの空港から本国を出国した。
 被控訴人は、平成9年12月15日、タイのバンコクから新東京国際空港に到着し、東京入国管
理局成田空港支局入国審査官に、外国人入国記録の渡航目的の欄に「business(商用)」、日本滞
在予定期間の欄に「5days(5日間)」と記載して上陸申請を行い、同入国審査官から法別表第
1に規定する在留資格「短期滞在」及び在留期間90日の許可を受け、本邦に上陸した。
 被控訴人は、平成9年12月16日、東京都葛飾区長に対し、居住地を東京都葛飾区《住所略》
として、外国人登録法(以下「外登法」という。)に基づく新規登録申請をした。その後、被控訴
人は、平成10年3月31日に東京都板橋区長に対し、住居地を東京都板橋区《住所略》として、
平成10年9月18日に茨城県猿島郡○○町長に対し、居住地を茨城県猿島郡《住所略》として、
平成10年12月22日に東京都港区長に対し、居住地を東京都港区《住所略》として、それぞれ外
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登法に基づく居住地変更登録申請をした。
 被控訴人は、平成10年3月13日、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)において、控
訴人に対し、在留期間の更新を申請し、同月24日、在留期間「90日」とする在留更新の許可を
受けた。被控訴人は、以降3回にわたり在留期間の更新を申請し、それぞれについて更新許可
を受けた。同更新許可により、被控訴人の在留期限は平成11年3月10日までとなり、さらに在
留資格を「定住者」へと変更する許可を受け、現在も在留資格を有し、本邦に在留している。(被
控訴人本人)
 被控訴人は、平成10年3月24日、東京入管において法61条の2第1項に基づく難民認定の申
請を行い、同年9月3日及び同年10月19日の両日、東京入管難民調査官から事情を聴取される
などの事実の調査を受けた。(乙6)
 控訴人は、平成10年12月25日、被控訴人からの難民認定申請は、法61条の2第2項所定の期
間を経過してされたものであり、かつ、申請遅延の申立ては、同項ただし書の規定を適用すべ
き事情とは認められないとして、本件処分を行い、平成11年1月13日、被控訴人にこれを告知
した。(乙21)
 被控訴人は、平成11年1月19日、本件処分を不服として、控訴人に対し、同処分に対する法
61条の2の4に基づく異議の申出を行った。(乙22、23)
 東京入管難民調査官は、平成11年2月3日、被控訴人から事情を聴取すべく被控訴人の出頭
を求めて事情聴取を行おうとしたところ、被控訴人はこれを拒否した。そのため、東京入管難
民調査官は、同年2月12日、被控訴人に対し、追加資料の提出を促したが、被控訴人から資料
の提出はなかった。(乙24、25)
 控訴人は、平成11年6月3日、被控訴人からの異議の申出については原処分に誤りがない旨
裁決し、同日、被控訴人にこれを告知した。(乙27)
4 争点
本件の争点は、本件処分の適法性であるが、具体的には次のとおりである。
 本件申請に対する法61条の2第2項本文の適用の可否
 本件申請の法61条の2第2項ただし書該当性
 本件処分は憲法31条に違反するか。
 本件処分の取消請求訴訟において、被控訴人は自らが難民であることを主張立証しなければ
ならないか。
 被控訴人の難民該当性
5 争点に関する当事者の主張
 本件申請に対する法61条の2第2項本文の適用の可否
ア 被控訴人
ア 我が国は、難民条約等の締約国となったことにより、難民について難民条約等が定める
義務を負うものである。難民条約は、締約国が同条約1条に定義する難民に対して様々な
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便宜を供与する義務を課しており、法7章の2は、かかる国際法上の義務を国内法化した
ものであるから、我が国は難民条約1条のいう難民に該当するすべての者についてかかる
便宜の供与をする義務を負うのであって、法61条の2第1項の難民の認定は、このような
条約上の便宜を含めて、我が国が難民に対して与えることとした各種の保護措置の前提と
して行われるものである。そうすると、難民条約等に定める難民の定義に厳格に従い、難
民条約のいう難民に該当する者が、難民としての庇護を求めた場合に、前記の便宜を与え
ないとすることは許されないというべきである。
控訴人は、難民条約等においても、難民認定手続の内容は定められておらず、難民認定
手続は締約国の裁量によって定め得るものであると主張するが、法61条の2第2項の規定
が存在することにより、難民認定申請が遅れたために難民認定が受けられず、便宜を与え
られない場合を定型的に作る結果をもたらすこととなり、前記の難民条約等による義務に
違反することとなる。また、同項の規定は、単なる手続の定めでなく、難民条約が定める難
民の定義に加えて、「日本に入国後、60日以内に難民認定をすること」という要件を付加す
るものであり、このような要件を付加することは難民条約42条により同条約1条に留保を
付けることが認められていないことからして、我が国が難民条約に何らの留保を付けず批
准・加入していることと矛盾する。
イ 他国の立法例をみても、難民認定申請をするについて入国後60日以内にしなければなら
ないという短期間の期間制限を定めている例はないし、あったとしても極めて例外的なも
のである。また、国連難民高等弁務官事務所の執行委員会は、1979年にした「庇護国なき
難民の決議」の中で「迫害を受けるおそれを有することに理由が認められる国に、難民が
戻ることを余儀なくされたり送還されたりすることになる行為は、確立された『ノン・ル
フールマンの原則』に対する重大な違反行為を構成する。」としたうえで、「難民として保
護を求める人々がその難民申請を一定期間内にしなければならないと定められている場合
にも、そのような期間を遵守せず、ないしはその他の形式上の要件を履行していないこと
を理由として難民申請を審査の対象から除外してはならない。」としている。これらによれ
ば、短期間の申請期間を定めて、期間内に難民認定申請をしないものについて、難民条約
上の難民であっても難民としての庇護を与えないとすることは許されないということが国
際慣習として確立したものというべきであるが、法61条の2第2項の規定は、このような
国際慣習にも明らかに反するものである。
ウ 控訴人は、法61条の2第2項本文による期間制限には合理性があると主張するが、その
合理性は首肯し難い。すなわち、難民は、自ら難民である旨を明らかにした場合、日本にお
いて受け入れられ難民かどうかの審査を受入れられるかどうか、入国を拒否されてその場
ですぐに送還されたり拘禁施設に収容されてしまうのではないかについては通常何らの知
識も有していないから、逃れてきた迫害の可能性が高ければ高いほど、直ちに難民認定申
請をするのではなく、何よりもまず平穏に日本に入国することを望むものと考えられ、入
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国後に難民認定しようとするのが自然である。また、60日の期間が経過することにより難
民該当性についての証拠の収集が直ちに困難になるという事情は認められない。さらに、
我が国の交通事情等を考えれば、最寄りの地方入国管理局に赴くのに60日の期間は十分で
あるが、我が国に入国した難民は情報面や心理面における障害が極めて大きく、直ちに正
しい難民認定申請のためのルートを知り、容易に難民認定申請をすることができるとはい
えず、実際に難民認定手続をすることは、日本語を解さない外国人にとって極めて困難で
ある。法の立法当時の議論の中には、難民認定制度の濫用者があり得るので、期間制限を
しなければならないという議論はまったくされていない。そして、控訴人の解釈を前提と
して法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」があったと認められた事例はほと
んどなく、60日の期間制限に対する救済としてほとんど機能していない。以上のように、
被控訴人が主張するような法61条2項の2第2項本文の合理性はいずれも首肯し難いも
のである。
エ 難民条約は、難民に対して供与されるべき各種の保護措置を定めるが、17条、18条、24
条、26条等その多くは「合法的に領域内にいる」難民あるいは「合法的に領域内に滞在す
る難民」に供与されるべきものとしており、また、難民条約32条は、合法的にその領域内
にいる難民の締約国領域内からの追放を禁止している。そうすると、難民条約締約国は、
適法な在留資格を有するうちに難民認定申請をした者が難民条約上の難民である限り、そ
の領域内に滞在、在留することを認める難民条約上の義務を有するものと解される。難民
不認定処分は、この滞在、在留義務を否定するものであるから、入国後60日以内に難民認
定申請を行わなかったという理由により難民認定をしないことは、難民条約上の義務に反
するものというべきである。被控訴人は、短期滞在の在留資格で日本に入国した者であり、
本件申請当時適法な短期滞在の在留資格を有していた者であるから、法61条の2第2項本
文を適用して本邦入国後60日以内に難民認定申請をしなかったことを理由として難民認
定申請についての実体審査をすることなく不認定とした本件処分は、難民条約に違反する
ものというべきである。
オ 以上によれば、60日という極めて短い申請期間の設定と、その例外としての「やむを得
ない事情」についての厳格かつ限定的な解釈を行った場合には、法61条の2第2項の規定
が、難民条約等や国際慣習法を含めた国際法規に合致しないこととなり、ひいては憲法98
条2項に違反するものと解すべきである。
イ 控訴人
ア 難民条約等は、難民の定義及び締約国が取るべき保護措置の概要についての規定を定め
てはいるものの、難民の認定手続については何ら定めていないのであるから、難民認定手
続を定めるか否か、定めるとした場合にどのように定めるかについては、各締約国の裁量
に委ねられていると解すべきである。諸外国においても各国ごとに独自の難民認定制度を
定めており、その中には、我が国と同様に申請期間に制限を設けている国や他の要件を定
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めている国が存するのであり、国家はその国の事情に応じた法律を制定し得るのであるか
ら、難民認定手続をどのように定めるかは締約国の立法政策上の問題である。各締約国に
おいて定められた難民認定手続が、難民条約等の規定や趣旨及び各締約国の実情等を勘案
し、合理的な制度である限りは、仮に難民認定手続を遵守しなかったために締約国の難民
認定制度による難民として認定されない条約上の難民が生じるとしても、そのこと自体か
ら、直ちに難民条約等に違反するとは解し得ない。
イ 法61条の2第2項は、難民条約等の規定や趣旨及び我が国の実情等を考慮した場合、以
下のとおり、内容的にも合理性を有するものである。すなわち、難民条約上の難民の定義
からすれば、難民に該当する者は、迫害の恐怖から早期に逃れるために速やかに他国の庇
護を求めるのが通常であって、我が国の保護を受けるべく難民の認定の申請をするものも
速やかにその旨を申し出るべきであって、難民となる事由が生じてから長期間経過後に難
民認定の申請がされると、入国当時の事実関係を把握するのが困難となり、難民の認定が
適正かつ公正にできなくなるおそれがある。そして、この60日という期間は我が国の国土
面積、交通・通信機関、地方入国管理官署の所在地等の地理的、社会的実情に照らしても
十分な期間と考えられるものである。また、我が国において法務大臣の難民認定制度が発
足した昭和57年当時には、実際には難民に該当しないにもかかわらず、滞在国において長
期間滞在又は就労するために、難民認定申請に及ぶ難民認定申請濫用者が重大な問題とな
っており、このような濫用者が増加すると行政側の負担が加重となり、適正な難民認定が
遅延し、誠実な難民認定申請者にとっても不利益となることから、期間制限を設けて、こ
のような濫用者の申請を可及的に排除する必要があった。加えて、法61条の2第2項ただ
し書は、申請期間の例外として、申請期間の経過に「やむを得ない事情」があるときは、期
間内にされた申請と同様に難民性の有無を判断することをも合わせ勘案すれば、法61条の
2第2項の規定は、難民条約等の趣旨に照らし、合理性があると解すべきである。
実質的にみても、我が国の地理的・社会的事情に照らせば、申請者が難民認定申請をす
べきか否かについて意思を決定し、入国管理官署に出向いて手続を行うには、60日という
申請期間は十分と考えられるのであるから、速やかに難民であることを主張して保護を求
めなかったという事実自体、その者の難民非該当性を物語っているというべきであって、
実際上は、難民条約で定める難民に該当しながら、申請期間内に難民認定申請をしないと
いうケースはほとんど考えられないというべきである。
また、我が国においては、条約上の難民であれば、難民不認定処分を受けたものであっ
ても、難民条約上の保護措置による利益をすべて実質的に享受することが可能である。
よって、法61条の2第2項による期間制限は、難民条約等に違反するものとはいえない。
ウ 被控訴人は、法61条の2第2項による期間制限が難民条約等、国際慣習又は国連難民高
等弁務官事務所の執行委員会の決議に違反する旨主張するが、難民認定手続につき、国際
法上一般条約があるわけではなく、他国の立法例からみても、国際慣習が存在していると
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もいえない。また、国連難民高等弁務官事務所の執行委員会の決議には法的拘束力はない
し、同決議はその内容的にも難民条約の解釈を有権的に示したものとまではいえない。ま
た、被控訴人は、法61条の2第2項は、難民の定義に新たな要件を付すもので、難民条約
42条及び難民議定書7条が難民条約1条の規定に留保を付すことを認めていないことに
違反する旨も主張するが、ここでいう留保とは「国が、条約の特定の規定の自国への適用
上その法的効果を排除し又は変更することを意図して、条約への署名、条約の批准、受諾
若しくは承認又は条約への加入の際に単独で行う声明」をいう(条約法に関するウィーン
条約2条の1)から、難民条約1条の規定について何らの留保がされているとはいえな
い。
エ 難民条約は、難民に対する各種具体的保護措置を定める一方、そのような保護措置をい
かなる手続によって保護するかについては何ら定めておらず、包括的な難民認定制度を定
めるか否かさえ締約国に委ねられている。また、我が国では難民認定と外国人の日本にお
ける滞在、在留はそれぞれ別個の手続で判断されるものであり、難民認定を受けたからと
いって難民が日本国内に在留、滞在できるわけではなく、他方、適法な在留上の地位を有
する外国人は難民不認定処分を受けたことによってこれを喪失するものではない。
 本件申請の法61条の2第2項ただし書該当性
ア 被控訴人
ア 仮に法61条の2第2項本文の規定が難民条約等に反しないとしても、前記ア記載の難
民条約等の趣旨や我が国に課せられた難民条約等上の義務にかんがみれば、同項ただし書
の「やむを得ない事情のあるとき」とは、形式的に60日間を過ぎていても、その徒過の程度、
徒過に至った理由、申請者の難民該当性などを総合勘案してその有無が決定されるべきで
ある。そして、その判断が著しく合理性を欠く場合には、裁量の範囲を逸脱するものとし
て違法性を有するに至るものと解すべきである。
イ これを本件についてみると、被控訴人が本邦に上陸した日は平成9年12月15日であり、
難民認定申請を行ったのは平成10年3月24日であるから、その遅れはわずか40日ほどに
すぎない。
そして、被控訴人は、日本において直ちに難民認定申請をしたいと考えていたものであ
るが、①自らが難民であることを裏付ける資料を本国の空港から持ち出すことは危険であ
ったため、日本に来たときに何らの書類も手元にはなかった。②日本に到着したときにイ
ンフルエンザにかかっており、その後まもなく2週間以上病臥せざるを得なかった。③日
本語ができないために情報源を東京にいる外国人に頼らざるを得ず、本人が最初に会った
ウガンダ人に自分の状況を説明したが、難民認定申請をすることは日本においては不可能
であるとの意見を聞かされた。④オーストラリア大使館に電話連絡して、事情を説明し、
庇護を求めたところ、日本政府に対し難民認定申請をする道があることを教えられ、入国
管理局の電話番号を教えられて、初めて日本において難民認定申請を行うことができるこ
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と及び申請する場所を知った。⑤オーストラリア大使館において教示された東京入国管理
局の電話番号に電話したところ、電話の応答者から「難民認定申請をするときは色々資料
が必要で、資料がないと難しい。」「在留期間が切れるまでに申請をすればよい。」などと言
われたため、その後すぐにエティオピア本国に連絡して資料をそろえ、資料の到着後直ち
に難民認定申請をした。 
これらの事実によれば、被控訴人が上陸後60日以内に難民認定申請ができなかったこ
とには相当な理由があるというべきであり、被控訴人が法所定の期間を経過したことには
「やむを得ない事情」が存したといえる。
イ 控訴人
ア 法61条の2第2項本文が60日以内に難民認定申請を行わねばならないと定めている理
由は、前記のとおりであるが、そのような趣旨からすれば、同条ただし書の「やむを得な
い事情」とは、本邦に上陸した日又は本邦にある間に難民となる事由が生じた場合にあっ
てはその事実を知った日から60日以内に難民認定の申請をする意思を有していた者が、病
気、交通の途絶等の客観的な事情により物理的に入国管理官署に出向くことができなかっ
た場合のほか、本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定するのが客観的に
も困難と認められる特段の事情がある場合をいうものと解すべきである。
イ 被控訴人は、法61条の2第2項本文所定の60日の期間を経過した後に難民認定申請を
したものであるところ、被控訴人の主張する理由は、インフルエンザにかかったことを除
けば、いずれも交通の途絶等の客観的事情により物理的に入国管理官署に出向くことがで
きなかった場合でなく、本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定するのが
客観的にも困難と認められる特段の事情がある場合とは認められない。
入国時において日本の難民認定制度の存在や60日の期間制限について知らなかったと
しても、入国時の審査の際に庇護を求める旨申し述べれば足り、現に被控訴人は本邦での
入国審査の際に別室で長時間にわたり審査を受けており、他にも庇護を求める機会があっ
たというべきである。また、被控訴人の主張によっても、入国後1か月して、オーストラリ
ア大使館に電話をしたとき、日本の難民認定手続について知ったというのであるから、そ
の時点で難民認定申請をし得たはずであるし、法務省入国管理局は、昭和57年1月から難
民認定手続案内を作成して、各地方入国管理局の窓口に備え、必要に応じて頒布するなど、
難民認定制度について案内している。難民認定申請手続について知らなかったとしても、
外国人が難民認定申請することについて支障はない。
さらに、被控訴人は、日本に入国した翌日に日本の公的機関である東京都葛飾区長に対
し、外登法に基づく新規登録申請をしているのであり、被控訴人は、英語は自由に読み書
き会話することができるのであるから、言葉の問題はそれほど問題になり得るとは考えら
れないし、被控訴人自身がウガンダ人からの話によっても、日本で難民認定申請できる方
法があると信じていたというのであるから、何ら難民認定申請をしなかった理由になるも
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のではない。
被控訴人は、平成10年1月終わりか2月の頭ころ、東京入国管理局に電話をして難民認
定手続を聞き、その際、資料が必要であるなどと聞き、その直後にエティオピアに電話を
して資料の送付を依頼したと主張する。しかし、東京入国管理局の外国人在留総合インフ
ォメーションセンターでは、難民認定の申請の相談は非常にデリケートなケースであるた
め、通常難民認定申請を担当する部門を案内する扱いをしているのであって、難民認定手
続について相談をしたとしても、申請の期間や申請の方法について誤った回答をするとは
考えにくい。また、被控訴人がそのようにして入手した一つであると主張して提出する全
アムハラ人民機構(AAPO)の党員証明書と称する文書は、党名や電話番号等の基本的な
記載が一貫しておらず、このようなことは真実エティオピアの合法的な政党が作成して交
付したのであれば到底考えられないから、同文書の作成の真正には重大な疑義がある。ま
た、同文書の発行年月日は被控訴人が東京入国管理局に電話をかけた以降でなければなら
ないのに、その記載から1998年(平成10年)1月18日に発行されたと認められ、被控訴人
の供述と食い違っている。そうすると、被控訴人が東京入国管理局に電話をかけた旨の供
述自体は信用できないというべきである。
そして、インフルエンザにかかり2週間余病臥せざるを得なかったとしても、2週間余
であれば60日以内に申請できない理由にはなり得ず、更に2週間余の病臥期間に比して、
申請遅延期間は39日間とより長期に及んでいる。
以上によれば、本件申請について法61条の2第2項ただし書の規定にいう「やむを得な
い事情」があったとは認められない。
 本件処分は憲法31条に違反するか。
ア 被控訴人
難民認定手続は、法務大臣によりされる行政手続であるところ、憲法31条の適正手続保障
規定は行政手続に準用されるものであるが、法61条の2第2項は、短い期間の経過をもって、
本人の難民該当性の有無を審査することなく、難民認定を拒絶することにより我が国におけ
る庇護の可能性を否定するという結果をもたらすものであって、正当な理由なく難民認定申
請を行う機会を奪われないこと、難民認定申請者が準備のために十分な時間を与えられるこ
とを保障する憲法31条に違反するものである。
イ 控訴人
難民条約といえども、入国及び在留は、国の主権的権限に基づいて決するという国際法上
確立した考えに何ら変更を加えるものではなく、迫害国への送還を禁止するノン・ルフール
マン原則は、法務大臣の難民認定を受けるか否かに関わりなく保障されているものである
し、在留の拒否の判断に当たっては、迫害にかかる申立ては十分に検討されているのである
から、かかる見地からみても被控訴人の主張は失当である。また、法は60日以内の申請を求
めているにすぎず、60日以内の立証を求めているわけではないので、難民認定申請者が準備
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のために十分な時間を与えられないこともない。
 本件処分の取消請求訴訟において、被控訴人は自らが難民であることを主張立証しなければ
ならないか。
ア 控訴人
ア 法61条の2第1項に基づく難民の認定の申請に対する難民認定処分は、当該申請が同条
2項所定の60日以内に行われたか、60日を超えたことにつきやむを得ない事由があると
認められること(以下「申請期間制限」という。)、申請人が難民に該当することの二つの要
件がそろった場合にされる。これに対し、いずれかの要件がないことが判明した場合には、
その時点で難民不認定処分がされるが、難民不認定処分は、申請期間制限違反を理由とす
る場合も、難民非該当を理由とする場合も、「難民の認定をしない処分」という一つの行政
処分であると解される。したがって、本件処分の取消請求訴訟において、申請人である被
控訴人は、申請期間制限を遵守し、かつ、難民に該当するにもかかわらず、難民不認定処分
がされたことを主張立証しなければ、本件処分を取り消すことができない。
すなわち、行政処分取消訴訟の訴訟物が行政処分の違法一般であるという場合の行政処
分は、取消しの対象とされる特定の行政処分の意味であるから、訴訟物の同一性は行政処
分の同一性により画されることになる。そして、行政処分の同一性は、当該行政処分の根
拠法規たる実定行政法規の立法政策によって決定されると解するのが相当であり、当該行
政処分の処分要件の内容・趣旨・性質等を考慮すべきである。難民不認定処分について、
法をみると、次のとおりである。①申請期間制限違反を理由とした場合でも、難民非該当
を理由とした場合でも、難民不認定処分の効果は変わらない。②申請期間制限の制度趣旨
が公正な難民認定の確保、難民非該当の推認、制度濫用者の排除という要素により基礎付
けられていると理解できることからすると、申請期間制限違反という不認定処分要件と難
民非該当という不認定処分要件は、難民非該当の推認という点において立法趣旨が一部共
通する。その判断内容についても、本邦に上陸した日(本邦にある間に難民となる事由が
生じた者にあっては、その事実を知った日)から難民認定申請までどれくらいの期間が経
過しているかは申請期間制限違反の有無を判断するに当たっても難民該当性を判断する
に当たっても共通して検討されるべき内容であり、本邦にある間に難民となる事由が生じ
た者にあっては、申請者の難民該当性に関する判断内容は一部関連している。さらに、法
61条の2の文言には申請期間制限の遵守が認められることが難民該当性の審査に入るた
めの要件であることをうかがわせるものはないし、その制度趣旨からすると、申請期間制
限違反の有無について結論が出る前に当該申請者が難民でないことが判明した場合に、な
お申請期間制限違反の有無について審査を尽くさなければ難民不認定処分ができないと解
する合理的根拠はないから、両要件は、論理的先後関係になく、選択的・並列的な要件と
して位置づけられている。③法61条の2の4第1号は「難民の認定をしない処分」と規定
するのみで、その違反を理由とした場合と難民非該当を理由とした場合で、例えば却下処
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分と棄却処分とするように処分類型を書き分けていない。④難民不認定処分の理由付記に
ついて、法61条の2第3項は、「その認定をしないときは、当該外国人に対し、理由を付し
た書面をもって、その旨を通知する。」と規定し、理由付記の内容については特に定めてい
ないし、法施行規則55条6項は、別記76号様式において、難民不認定処分の通知書の様式
について定めているが、同様式によれば、処分を「○年○月○日付けのあなたからの難民
の認定の申請については、下記の理由により難民の認定をしないこととしたので、通知し
ます。」とされているのみで、理由付記の内容について特に定めていない。また、難民不認
定処分の異議申出手続について、法61条の2の4は、「難民の認定をしない処分」に対して
「異議を申し出ることができる」と規定し、異議審において一次不認定処分を取り消す場合
を難民であると認められる場合に限定しており、法施行規則58条2項は、「法務大臣は、法
第61条の2の4の規定による異議の申出に理由があると認めるときは、別記第75号様式
による難民認定証明書をその者に交付し、理由がないと認めるときは、その旨を別記第79
号様式による通知書によりその者に通知するものとする。」と規定し、異議申出に理由があ
る旨の判断をなし得るのは、難民認定をすべき場合だけであるとの前提に立っており、難
民不認定処分の中に二つの類型が存在することを想定していない。以上のことから考える
と、法は申請期間制限違反を理由とする難民認定処分と難民非該当を理由とする難民不認
定処分を別個の処分類型とはせず、一つの同じ「難民の認定をしない処分」とする立法政
策を採っていると解するのが相当である。
また、行政処分取消訴訟は処分に対する事後審査をその本質とし、このことは難民不認
定処分取消訴訟においても異ならない。そうすると、本件処分時の違法性は本件処分時を
基準として判断されるべきである。
イ 法第61条の2の3は、難民認定申請者について、難民調査官による事実の調査等を受け
る手続的権利を保障したものではなく、各々の事案における必要性に応じて調査を行う権
限を法務大臣及び難民調査官に付与することを定めた権限規定にすぎないと解するのが相
当である。また、事実の調査は、申請期間制限違反の有無、難民該当性のいずれについても
行われ得る。
イ 被控訴人
ア 行政処分の効果は結論(主文)にほかならず、行政処分の結論が同一である範囲で行政
処分は同一である。行政処分に理由が付された場合に、処分理由の追加変更を許すのは、
処分理由を付して被処分者の権利を擁護しようとした趣旨を没却するから許されない。本
件処分は、「被控訴人からの難民認定申請は、法61条の2第2項所定の期間を経過してさ
れたものであり、かつ、申請遅延の申立ては、同項ただし書の規定を適用すべき事情とは
認められない」という理由によるものであったから、本件処分の取消訴訟において、被控
訴人は難民非該当であるとの理由を追加することは許されない。
また、法の申請期間制限は、行政側の事務負担を軽減する目的で、難民認定処分につい
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て実体審理を受けるための手続要件として申請につき期間制限を定めたものと解すべきで
ある。それに違反した者が難民非該当であること、あるいは濫用的な難民認定申請者であ
ることを推認させるものではないから、難民該当性の判断との間には共通性はない。そし
て、申請期間制限が手続要件として期間制限を定めたものと解される以上、申請期間が充
足していることが認められた場合に初めて、難民該当性の実体審理、判断をすべきであり、
申請期間制限の要件の判断は難民該当性の判断に論理的に先き立つものである。仮に、両
要件が論理的に先後の関係に立たず選択的・並列的な要件であるとしても、申請期間の要
件が充足していることが認められないとしてされた難民不認定処分は、難民該当性に対す
る法務大臣の第1次的判断権が行使されていないから、申請期間制限違反を理由とする難
民認定処分と難民非該当を理由とする難民不認定処分が一つの同じ「難民の認定をしない
処分」として「行政処分として同一性」があるとはいえない。さらに、法61条の2の4第1
号は申請期間制限違反を理由とした場合と難民非該当を理由とした場合で処分類型を書き
分けていないが、難民不認定処分が申請期間を充たしていないという手続的理由でされた
か、難民非該当という実体的理由でされたかは、その処分に付される理由によって明らか
である。法61条の2の4に基づく難民不認定処分の異議の申出は、原処分をした法務大臣
に対する不服の申出であるから、法務大臣が異議手続で実体審理、判断を行っても不当と
はいえないが、このことから不認定処分取消訴訟における不認定処分の同一性の範囲を左
右するものではないし、法施行規則58条2項は下位法令であり、これが法の解釈を決定す
るものではない。法施行規則55条6項、別記76号様式も下位法令であり、これが法の解釈
を決定するものではないし、実務上は、申請期間制限違反を理由とする場合と難民非該当
を理由とする場合では異なる理由が付記されている。
以上のとおり、控訴人が指摘するところは、申請期間制限を理由とする難民不認定処分
と難民非該当を理由とする難民不認定処分との間の処分の同一性、したがって、取消訴訟
における相互の理由の追加、差替えを許容する根拠としては理由のないものである。
イ 法は、難民認定手続において、法務大臣が難民認定申請者の提出した資料に基づいて難
民認定をするものとしながら、専門的知見を有する難民調査官の事実の調査を定め(法第
61条の2の3)、難民調査官による関係人に対する出頭、質問、文書の提示(同条2項)及
び公務所又は公私の団体への必要事項の照会(同条3項)や異議の申出(法第61条の2の
4)を定めていることにかんがみると、難民認定申請者としては、そのような難民認定手
続を受ける利益を有しているというべきであるから、裁判所で難民該当性も証明されなけ
れば難民不認定処分は取り消されないとする控訴人の主張は不当である。
ウ 本件処分に係る難民不認定取消訴訟において、裁判所が、被控訴人に申請期間の要件に
ついて法第61条の2第2項ただし書のやむを得ない事情がある、あるいは申請期間制限そ
のものが無効であるという判断に達した場合には本件処分を取り消す判決を行い、更に実
体審理、判断を第一次処分権を有する法務大臣に行わせるべきである。
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 被控訴人の難民該当性
ア 被控訴人
被控訴人は、1966年《日付略》、エティオピアのアジスアベバにおいて出生したエティオ
ピア国籍を有する者である。かつての支配部族であるアムハラ族に属しており、その父親は
陸軍中佐として政府部内の地位を持っていて、クーデターの結果殺害されている。その後、
被控訴人は、当時の政権を取っていた他民族勢力からなる政府がかつて政治権力の座にあっ
たアムハラ族に対する圧迫行為を行ったことなどから、アムハラ部族の団体である全アムハ
ラ人民機構(AAPO)に参加し、1994年以降その活動を行ってきた。その結果、AAPOからエ
ティオピア内に止まることは危険である旨知らされ、組織の手配と指示に従い、1997年12月
14日ころに出国し、日本に上陸した。なお、被控訴人がエティオピアを出国した後、その母
及び弟がエティオピア政府により逮捕されている。
以上によれば、被控訴人は、エティオピアに帰国すれば「人種、特定の社会集団の構成員で
あること、又は政治的意見を理由とする迫害のおそれがあるという十分に理由のある恐怖を
有するために国籍外の国にいる」(難民条約1条A)者であることが明らかである。
イ 控訴人
ア エティオピアの現政権が大幅な自治を認める政策を採っているのに対し、AAPOがこれ
に反対している旨報道されているが、AAPOは政府に認められた政党であり、エティオピ
アがAAPOのメンバーを同党のメンバーであることのみを理由に、逮捕・投獄するような
状況があるとは認められない。
イ 被控訴人は、原審で、エティオピアからの出国の経緯について、1997年(平成9年)11
月に釈放された後に、AAPOから、被控訴人の書いた新聞記事を理由に再び逮捕されると
いう情報を入手し、エティオピアから出国して国外で難民認定申請することを勧められ
たところ、AAPOに約1万ドルを渡し、AAPOが代理で旅券や査証を取得されたと供述す
る。しかし、被控訴人は、平成9年11月10日(乙7)又は11日(甲3)まで投獄されていた
というのであるが、被控訴人の旅券及びエティオピア出国査証は同月13日に発給されてお
り(乙1の4頁及び9頁)、被控訴人の供述する経緯は不自然であるし、被控訴人は、自ら
作成した者であれば供述できる事項すら供述できず、記事自体の存在すら確認できていな
い。また、被控訴人は、平成9年11月18日に我が国の査証を取得するなどして同年12月14
日に正規の手続でエティオピアを出国したことが認められるが、出国当時逮捕のおそれが
あったとの主張と矛盾するばかりか、短期に旅券等を取得したAAPOがその後約1か月間
も費やして出国の手配をしたことになる点からみても不自然である。
ウ 被控訴人が、出国後、エティオピアから書類を取寄せた経緯や被控訴人の身代わりとし
て家族が逮捕されたとの供述部分も、その内容に変遷がみられ、信用性がない。
エ 被控訴人が来日した目的は稼働目的であると推認される。
オ 以上によれば、被控訴人が難民に該当するとは認められない。
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第3 当裁判所の判断
1 本件申請に対する法61条の2第2項本文の適用の可否
 法61条の2第2項本文の期間制限の意義について
法61条の2第1項は、「法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申
請があつたときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことがで
きる。」と、また、同第2項は、「前項の申請は、その者が本邦に上陸した日(本邦にある間に難
民となる事由が生じた者にあつては、その事実を知つた日)から六十日以内に行わなければな
らない。ただし、やむを得ない事情があるときは、この限りでない。」と、それぞれ定めている。
この法61条の2第2項の趣旨は、難民となる事由が生じてから長期間経過後に難民の認定の申
請がされると事実の把握が困難となり、適正な難民認定ができなくなるおそれがあるため、我
が国の庇護を受けるため難民認定の申請をしようとする者は速やかにその申請をしなければな
らないことを定めたものと解され、これは、迫害から逃れて他国に移動した難民は、他国に入
国後速やかに庇護を求めるのが一般であるとの経験則を背景とし、入国後速やかに庇護を求め
なかったという事実自体がその者が難民でないことを事実上推認させるものであることを基礎
としているが、我が国において法務大臣の難民認定制度が発足した昭和57年当時には、諸外国
では、実際に難民に該当しないにもにもかかわらず、滞在国において長期間滞在又は就労を確
保するために、難民認定申請に及ぶ難民認定制度濫用者が存在することが重大な問題となって
おり、このような濫用者が増加すると行政側の負担が加重となり、適正な難民認定が遅延し、
誠実な難民認定者にとっても不利益となることから、このような濫用者の申請を可及的に排除
することをも併せて目的としたものである。また、同項本文は難民認定申請の期間を60日とし
ているが、これは、我が国の地理的、社会的実情に照らせば、経験則上、申請期間としては60日
をもって十分であると判断されたことによる。もっとも、同項本文による60日の期間制限を一
律機械的に適用して取り扱うことは、具体的な事情の下において妥当でない場合があり得るこ
とから、このことを考慮して、同項ただし書を置き、申請期間の例外として、申請期間の経過に
「やむを得ない事情」があるときは、期間内にされた申請と同様に難民性の有無を判断すること
として、個別に救済を図っている。
 法61条の2第2項本文の難民条約等適合性
ア 被控訴人は法61条の2第2項本文の60日の期間制限は難民条約等に違反すると主張する。
しかし、難民条約等は、難民の定義及び締約国が取るべき保護措置の概要についての規定を
定めてはいるものの、難民の認定手続については何ら定めていないのであるから、難民認定
手続を定めるか否か、定めるとした場合にどのように定めるかについては、各締約国の主権
国家としての立法裁量に委ねられており、各締約国が、その実情等を勘案して合理的に定め
るものとしていると解すべきである。
イ 被控訴人は、申請期間に制限を設ける法61条の2第2項は、国際慣習又は国連難民高等弁
務官事務所の執行委員会の決議に違反すると主張する。しかし、難民認定手続につき、国際
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法上一般条約があるわけではなく、証拠(甲9、10の1ないし4、12、14の1及び2、乙37、
50、62)によれば、諸外国においても各国ごとに独自の立法により難民認定制度を定めてお
り、欧州諸国をはじめ先進国で難民認定申請に期間制限を設けている国はほとんどないも
のの、我が国と同様に申請期間に制限を設けている国もあり(例えば、アメリカ合衆国は1
年間とし、韓国は入国60日以内としている。また、ベルギーは、不法入国の場合は入国から
8勤務日以内、在留資格を有していた場合はその在留期間内とするなどとしている。)、他の
要件を定めている国(例えば、カナダが難民認定の審査を受けることができたであろう国を
通過してきたときなどには申請は適格性がないとしている。また、オーストリアやドイツは
安全な第三国からの入国者は申請あるいは庇護権が認められないとしている。)が存在して
いることが認められる。証拠(甲8)によれば、国連難民高等弁務官事務所の執行委員会は、
1979年にした難民の国際的保護に関する結論第15号「庇護国なき難民」のi項において、「庇
護希望者に対し一定の期限内に庇護申請を提出するよう求めることはできるが、当該期間を
徒過したことまたは他の形式的要件が満たされなかったことによって庇護申請を審査の対象
から除外すべきでない。」旨の判断を最低基準の指針として示していたことが認められる。同
指針は国際法上の法的拘束力を有せず、同指針は、その内容的に難民条約の解釈を有権的に
示したものとまではいえないが、難民条約等の締約国の各国政府によって支持されているも
のであると解される。
ウ 被控訴人は、法61条の2第2項は、難民の定義に新たな要件を付すもので、難民条約42条
及び難民議定書7条が難民条約1条の規定に留保を付すことを認めていないことに違反する
旨主張する。しかし、ここでいう留保とは「国が、条約の特定の規定の自国への適用上その法
的効果を排除し又は変更することを意図して、条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承
認又は条約への加入の際に単独で行う声明」をいう(条約法に関するウィーン条約2条の1
)から、難民条約1条の規定について留保がされているとはいえない。 
エ 被控訴人は、難民条約締約上、適法な在留資格を有するうちに難民認定申請をした場合に
は、難民であるか否かにつき実体審査をしなければならないのに、61条の2第2項本文を適
用して本邦入国後60日以内に難民認定申請をしなかったことを理由として実体審査をする
ことなく不認定とした本件処分は、難民条約に違反する旨主張する。しかし、難民条約は、難
民に対する各種具体的保護措置を定める一方、そのような保護措置をいかなる手続や要件の
下に保護するかについては何ら定めていないうえ、前記のとおり、難民認定手続を定めるか
否か、定めるとした場合にどのように定めるかについては、各締約国の主権国家としての立
法裁量に委ねているのであるし、難民認定と外国人の在留はそれぞれ別個の制度である。そ
うすると、難民条約は、各締約国に対し、難民の在留を保障するものではないばかりか、適法
な在留資格を有するうちに難民認定申請をした場合に、難民であるか否かにつき実体審査を
しなければならないとするものでもないというべきである。
 以上によれば、法61条の2第2項本文が申請期間の制限を設けているのは、前記のとおり、
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一つには難民となる事由が生じてから長期間経過後に難民の認定の申請がされると、その当時
の事実関係を把握するのが著しく困難となり、適正な難民の認定ができなくなるおそれがある
ため、難民認定行政の公正、円滑な実施を確保しようとするものであり、これは、難民は他国に
入国後速やかに庇護を求めるのが一般であると考えられるため、入国後速やかに庇護を求めな
かったという事実自体がその者が難民でないことを事実上推認させるとの経験則上の判断に基
づくものであり、また、我が国において法務大臣の難民認定制度が発足した当時における諸外
国において出稼ぎのために長期間滞在する目的で大量に難民認定制度を悪用する等の問題が
発生したため、制度濫用者の申請を可及的に排除することをも目的として、具体的な申請期間
を、我が国の地理的、社会的実情に照らし、経験則上十分と考えられる60日としたものである。
このような趣旨に照らすと、同項本文は、申請について単に手続的要件を定めたものではなく、
その内容には合理性が認められるから、これを無効ということはできないというべきである。
2 本件申請の法61条の2第2項ただし書該当性
 前記のとおり、法61条の2第2項本文が定める申請期間の制限は、その必要性及び合理性が
あることが認められる。しかし、申請者にとって、難民の認定を申請をすることは、重大な決断
を要するものであるうえ、難民の中には、難民に対する取扱いに対する知識がないか申請に際
し証明資料の提出が必要であるなどの誤解の下に、証明資料を所持しないまま自ら難民である
旨を明らかにした場合には入国を拒否されてその場ですぐに送還されたり拘禁施設に収容され
てしまうのではないかとの危惧を抱くなどして、直ちに難民認定申請をするのではなく、何よ
りもまず平穏に日本に入国することを望み、入国後、難民に対する取扱いに対する知識を得、
証明資料を収集して整えた後に難民認定申請をしようとする者など前記の経験則によらない者
もあるため、この期間制限を一律機械的に適用することが妥当でない場合があり得るものと考
えられる。そこで、同項ただし書は、このような例外的な場合があり得ることを考慮して、期間
を経過した申請についても、個別に具体的な事情を検討して期間を経過したことに合理的理由
がある場合には「やむを得ない事情」があるものとして救済を図り、期間内にされた申請と同
様に難民性の有無を判断することとしたものというべきであって、同項ただし書の「やむを得
ない事情」の意義も、こうした救済規定としての趣旨に適合するように解釈されなければなら
ない。そして、前述の国連難民高等弁務官事務所の執行委員会の結論第15号「庇護国のない難
民」のi項の指針も、申請期間の徒過を形式的要件として解釈運用してはならないことを示す
ものである。このような救済規定としての趣旨に照らせば、法61条の2第2項ただし書にいう
「やむを得ない事情」とは、本邦に上陸した日又は本邦にある間に難民となる事由が生じた場合
にあってはその事実を知った日から60日以内に難民認定の申請をする意思を有していた者が、
病気、交通の途絶等の客観的な事情により物理的に入国管理官署に出向くことができなかった
場合に限らず、本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定することが、出国の経
緯、我が国の難民認定制度に対する情報面や心理面における障害の内容と程度、証明書類等の
所持の有無及び内容、外国人の解する言語、申請までの期間等を総合的に検討し、期間を経過
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したことに合理的理由があり、入国後速やかに難民としての庇護を求めなかったことが必ずし
も難民でないことを事実上推認させるものではない場合をいうと解するのが相当である。
 本件申請について、被控訴人に法61条の2第2項ただし書にいう「やむを得ない事情」があ
るか否かを検討する。
ア 判断の前提となる事実に証拠(甲3、乙1ないし7、19、20、被控訴人本人)を併せると、
次の事実が認められる。
ア 被控訴人は、昭和41年《日付略》エティオピアのアジスアベバにおいて出生したエティ
オピア国籍を有する外国人である。平成9年12月14日、エティオピア・アジスアベバの空
港から本国を出国し、同月15日、新東京国際空港に到着して本邦に上陸した。被控訴人は、
本邦上陸当時、日本語を解さず、英語については十分ではないが理解できた。
イ 被控訴人は、平成10年1月中旬に外国人向けの広告を載せている雑誌の中で、オースト
ラリア大使館の電話番号を見つけたため、電話をし、オーストラリアに難民として入国し
たいと話をしたところ、「日本にいる以上、最初に日本の入国管理局に行くべきだ。行って
も捕まることはない。」と言われ、日本の入国管理局の電話番号を教えられた。
ウ 被控訴人は、その後、東京入管に電話をし、英語で、難民の認定について尋ねた。被控訴
人は、その回答として「難民認定申請をするには資料が必要である。」「申請はビザが切れ
るまでに行えばよい。」と言われたと理解した。
エ 被控訴人は、出国時に空港で難民性を基礎付ける書類を持っていることが自らに不利に
なると考えていたことから、何らの書類も携えて来なかったため、直ちにエティオピアに
電話をし、弟に必要な書類を取りそろえることを依頼した。弟は、被控訴人が投獄されて
いた証明書、AAPOのメンバーであることの証明書を送付し、被控訴人は、その書類の到
着の2、3日後である平成10年3月24日に東京入管において、難民認定申請を行った。
イ 以上の事実によれば、被控訴人は、エティオピア人で、我が国の難民認定制度に対する情
報や証明書類等を所持しないまま我が国に上陸したこと、我が国に入国した当時、日本語を
解さず、英語については理解できるものの十分ではなかったため、我が国の難民認定制度に
対する情報の収集に期間を要したほか、情報収集した難民認定制度の内容に対する理解も十
分でないか一部誤解したところもあったこと、難民認定申請をするには資料が必要であると
理解した後は直ちに収集を開始し、その収集後、直ちに難民認定申請したこと、入国後難民
認定申請をしたときまでの期間は99日であって、法61条の2第2項本文の60日の申請期間
を徒過した程度は40日未満であったことが認められ、これらの事情を総合すると、本件申請
について申請期間を一応経過したものであるが、そのことが必ずしも難民でないことを事実
上推認させるものではない合理的理由があるから、被控訴人には法61条の2第2項ただし書
にいう「やむを得ない事情」があるというべきである。
ウ 控訴人は、被控訴人の供述の信用性は低いとして、まず、被控訴人が難民認定手続につい
て相談をしたとする東京入管の外国人在留総合インフォメーションセンターの職員が、申請
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の期間や申請の方法について誤った回答をするとは考えにくいと主張する。証拠(乙35)に
弁論の全趣旨を併せると、外国人在留総合インフォメーションセンターの行政相談の業務内
容は、外国人の入国在留に関する各種案内、外国人の入国在留に関する各種申請書類の配布
及び申請の際の記載要領の案内であり、難民認定申請の相談に対しては、非常にデリケート
な事項であるため、通常難民認定申請担当部門に直接相談するように案内し、電話による相
談の場合は電話番号を案内していることが認められ、同職員が誤った回答をすることは考え
にくいことが認められるが、同職員としても、難民認定申請に関する応対を一切しないとい
うものではないこと、難民の認定には申請者から提出された資料に基づいて行われること
(なお、法務省入国管理局作成の「難民認定手続案内」〔乙30の1・2〕にもこのことが記載
されている。)、被控訴人は、相談した言語である英語の能力が十分であったわけではないこ
とを併せて考慮すると、被控訴人が相談を受けた同職員の話の内容を十分理解できなかった
か誤解した可能性を否定できないから、前記主張はにわかに採用できない。
また、控訴人は、被控訴人が入手したと主張して提出する全アムハラ人民機構(AAPO)の
党員証明書と称する文書には党名や電話番号等の基本的な記載が一貫していないと主張す
る。確かに、証拠(乙15、52)及び弁論の全趣旨によれば、同文書(乙15)は、党名の「アムハラ」
について、「AMARA」(左上の円形印)、「AMAHRA」(レターヘッド及び下の円形印)及び
「AMHRARA」(本文2行目の太字部分)と3種類の表記をしていること、「×× ×× ××」
という国内電話番号の欄(本文の右上部分)と「15/11/○○ ○○ ○○」という国際電
話番号の欄(本文の真上部分)についても、本来は共通すべき「×× ×× ××」の部分と
「○○ ○○ ○○」の部分が相違していること、国際電話の欄の冒頭部分にはエティオピア
の国番号は「251」であるのに「15」と記載されていることが認められる。しかし、これらの
記載の相違があるからといって、控訴人において、これらの食い違いが被控訴人の難民性に
疑問を抱いて被控訴人からの事情聴取以外に更に調査した経過があると認めるに足る証拠は
なく、他に適切に比較検討することが可能なAAPO作成の文書が証拠として提出されていな
い以上、上記党員証明書と称する文書が直ちにエティオピアの合法的な政党の証明文書でな
いと断定できず、少なくとも控訴人において同文書の真否を調査すべきであったといい得る
のみである。さらに、控訴人は、上記党員証明書と称する文書の発行年月日が被控訴人の供
述と食い違っていると主張する。しかし、被控訴人がエティオピアから党員証明書等の書類
を取寄せた経緯として供述するところは記憶によるものであって、その供述する日には若干
の誤差があり得るし、上記党員証明書と称する文書の発行年月日が記載された経緯は明らか
でないから、直ちに控訴人主張のように食い違いがあるとまではいえない。
そうすると、上記の各食い違いのみから被控訴人の供述の信用性が低いとまではいえな
い。
3 本件処分の取消請求訴訟において、被控訴人は自らが難民であることを主張立証しなければな
らないか。
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 本件処分は、被控訴人が難民に該当するか否かについては判断することなく、専ら被控訴人
の難民認定申請が、法61条の2第2項所定の申請期間に係る申請期間制限(申請が法61条の2
第2項所定の60日以内に行われたか、60日を超えたことにつきやむを得ない事由があると認
められること)を遵守していないとしてされたものである。控訴人は、本件処分の取消請求訴
訟において、申請人である被控訴人は、申請期間の60日を遵守したことのほか、難民に該当す
るにもかかわらず、難民不認定処分がされたことを主張立証しなければ、本件処分を取り消す
ことができないと主張する。
法61条の2第1項に基づく難民の認定の申請に対する難民認定処分は、申請人が申請期間を
遵守したこと及び難民に該当することの二つの要件を証明した場合にされる。そして、前記の
とおり、申請期間制限の制度趣旨は、難民となる事由が生じてから長期間経過後に難民の認定
の申請がされると、その当時の事実関係を把握することが著しく困難となり、適正な難民の認
定ができなくなるおそれがあり、また、過去に難民認定制度の濫用的利用が大量になされたこ
とがあることにかんがみ、これを適正に抑制し、難民認定行政の公正、円滑な実施を確保しよ
うとするものであるとの実質的な必要性に基づくものであり、申請期間制限も難民該当性を否
定するための事実上の推定要件としての機能を有し、単なる手続的要件ではないといえる。こ
のことからすると、上記の二つの要件は、論理的に先後関係にあるものではなく、選択的・並
列的な要件として位置づけられているというべきであり、法務大臣は、いずれかの要件がない
ことが判明した場合には、その時点で当該一つの要件の欠如を理由として難民不認定処分をす
ることができることになる。そして、法61条の2の4第1号は「難民の認定をしない処分」と
規定するのみで欠如する要件に応じて処分類型を書き分けておらず、法61条の2第3項は「そ
の認定をしないときは、当該外国人に対し、理由を付した書面をもって、その旨を通知する。」
と規定し、理由付記の内容については特に定めていないうえ、申請期間制限の不遵守又は難民
非該当のいずれか一方のみを理由とする場合も、難民不認定処分の効果は変わらない。以上を
総合すると、難民不認定処分は、いずれか一方の要件の欠如を理由としてされたものであって
も、「難民の認定をしない処分」という一つの終局的な行政処分であると解される。
 難民不認定処分が、申請期間制限又は難民該当性のいずれか一方の要件の欠如を理由として
されたものであっても、「難民の認定をしない処分」という一つの終局的な行政処分であるから
といって、直ちに、難民不認定処分取消訴訟において、難民認定申請者である原告が、その理由
とされなかった他方の要件についても主張立証しない限り、裁判所が、当該難民不認定処分を
取り消す旨の判決をすることができないと解さなければならないものではない。すなわち、法
により、難民認定に関する第一次的な審理、判断の権限は、法務大臣に与えられているのであ
り、難民認定手続においては、法61条の2の3によれば、法務大臣は、難民認定申請者から法
61条の2第1項の規定により、提出された資料のみでは適正な難民の認定ができないおそれが
ある場合その他難民の認定又はその取消しに関する処分を行うために必要がある場合には、難
民調査官に事実の調査をさせることとし、その調査のため、難民調査官による関係人に対する
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出頭、質問、文書の提示及び公務所又は公私の団体への必要事項の照会ができることになって
おり、難民であるか否かを職権で調査、審査されることになっている。また、国連難民高等弁務
官事務所の執行委員会によって指針として示された1979年、難民の国際的保護に関する結論
第15号i項の指針が申請期間を徒過したことによって形式的に審査対象から除外してはなら
ず、できる限り難民であるか否かを実質的に審査させようとしている趣旨にかんがみると、上
記の職権による調査は難民認定申請者の利益のためにも運用されるべきであるから、申請者が
難民であるとの証明責任のすべてを果たさなければ、必ず不利益に認定される手続となってい
ないものと解すべきである。そうすると、難民認定申請者としては上記のような難民認定手続
を経て審査してもらう利益を享受し得る地位にあるといえる。法務大臣が申請期間制限又は難
民該当性という両立し得る選択的・並列的な要件のうち申請期間制限違反を選択してその要件
が欠如するから事実上難民でないと推認判断し、難民不認定処分をした場合は、難民認定申請
者に難民認定手続において難民該当性について実質的に調査して審査してもらう利益をも享
受するために不服申立てをする利益もあるというべきであるから、難民不認定処分の取消訴訟
は、その利益を追求するための訴えとしても法律上の利益を認めるのが相当である。そうする
と、本件のような申請期間制限違反を理由とする難民不認定処分の取消訴訟において、難民認
定申請者である原告に難民であることの立証責任を課すことは、上記の利益の回復を否定する
結果に繋がり相当ではない。したがって、本件においては、申請期間制限違反の判断の適否の
み、取消事由として主張立証すれば足りるものというべきである。そうすると、本件処分の違
法性を争う取消訴訟においては、被控訴人は、本件処分の取消しを求めるについて自らが難民
に該当することを主張立証しなければならないものではない。
4 結論
以上によれば、控訴人は、被控訴人がした難民認定申請については法61条の2第2項ただし書
の「やむを得ない事由」があったのに、これがないものとして本件処分をしたもので、違法であり、
取消しを免れない。そうすると、被控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく
理由があるので認容すべきであり、原判決はその結論において相当である。 
よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

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