退去強制令書執行停止申立事件
平成15年(行ク)第221号
申立人:A、相手方:東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第3部(裁判官:藤山雅行・廣澤諭・加藤晴子)
平成15年9月17日
決定
主 文
1 相手方が平成15年7月25日付けで申立人に対して発付した退去強制令書に基づく執行は、平
成15年9月17日午後3時以降、本案事件(当庁平成15年(行ウ)第454号裁決取消等請求事件)の
第一審判決の言渡しの日から起算して15日後までの間、これを停止する。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は、これを2分し、その1を申立人の負担とし、その余を相手方の負担とする。
理 由
第1 申立ての趣旨
相手方が平成15年7月25日付けで申立人に対して発付した退去強制令書に基づく執行は、本
案事件(当庁平成15年(行ウ)第454号裁決取消等請求事件)の判決確定までの間これを停止する。
第2 申立ての理由
本件甲立ての理由の要点は、申立人は、「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動
を専ら行っていると明らかに認められる者」(出入国管理及び難民認定法(以下「法」という)24
条4号イ)に該当せず、法24条所定の退去強制事由に該当しないのに、法務大臣が申立人がした
法49条1項の異議の申し出に対して同異議の申出に理由はない旨の裁決(以下「本件裁決」とい
う。)をし、退去強制令書発付処分(以下「本件退令発付処分」という。)をしたのは違法であり、
本件裁決及び本件退令発付処分は取り消されるべきであるから、本件は「本案について理由がな
いとみえるとき」(行政事件訴訟法25条3項)に当たらず、申立人には本件退令発付処分による回
復困難な損害を避けるために執行停止を求める緊急の必要性があるというものである。
相手方は、本件執行停止申立は、行政事件訴訟法25条2項に定める要件のうち「回復の困難な
損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を欠き、同条3項に定めるその余の要件を満た
すもので、理由がないと主張する。
第3 当裁判所の判断
1 退去強制令書発付処分と行政事件訴訟法25条2項及び3項所定の要件
 行政事件訴訟法25条2項の「回復の困難な損害」とは、処分を受けることによって生ずる損
害が、原状回復又は金銭賠償が不能であるとき、若しくは金銭賠償が一応可能であっても、損
害の性質、態様にかんがみ、損害がなかった現状を回復させることは社会通念上容易でないと
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認められる場合をいう。
そして、この「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」との要件は、一般に執
行停止の必要性の大小を判断するための要件であるといわれるところ、この必要性の判断を行
うに当たっては、民事保全手続における保全の必要性と本案の疎明の程度との関係と同様、当
該処分が違法である蓋然性の程度との相関関係を考慮するのが相当である。すなわち、発生の
予想される損害が重大で回復可能性がない場合には、同条3項に定める「本案について理由が
ないとみえるとき」との消極要件該当性は相当厳格に判断すべきであるのに対し、損害が比較
的軽微で回復可能性もないとはいえないときは、上記の消極要件該当性は比較的緩やかに判断
するのが相当である。
 このような観点から、外国人に対する退去強制令書発付処分の執行停止における執行停止の
必要性について検討するに、まず、同処分中の送還部分については、これが執行されると、申立
人の意思に反して申立人を送還する点で、そのこと自体が申立人にとって重大な損害となり、
仮に申立人が本案事件において勝訴判決を得ても、その送還前に置かれていた原状を回復する
制度的な保障はないことに加え、申立人自身が法廷において尋問に応ずることが不可能となっ
て立証活動に著しい支障を来し、訴訟代理人との間で訴訟追行のための十分な打合せができな
くなるなど、申立人が本案事件の訴訟を追行することが著しく困難になり、遂には違法な処分
を是正する機会すら奪われる可能性も高いことを考慮すれば、この部分については、行政事件
訴訟法25条3項にいう「本案について理由がないとみえるとき」との消極要件該当性を相当厳
格に判断するのが相当であり、申立人の主張がそれ自体失当であるような例外的な場合を除
き、この消極要件を具備しないものとするのが相当である。
次に、退去強制令書発付処分中の収容部分についてみると、その執行により申立人が受ける
損害としては、一般には、収容によってそれまで行っていた社会的活動の停止を余儀なくされ
ることや心身に異常を来すおそれのあることなどが指摘されるにとどまることも多いが、それ
ら以上に、身柄拘束自体が個人の生命を奪うことに次ぐ重大な侵害であって、人格の尊厳に対
する重大な損害をもたらすものであって、原状回復はもとより、その損害を金銭によって償う
ことは社会通念上容易でないことに十分留意する必要がある(従来、この点については、やや
もすると十分な考慮がされず、安易に金銭賠償によって回復可能なものとの考え方もないでは
なかったが、そのような考え方は個人の人格の尊厳を基調とする日本国憲法の理念に反するも
のというほかない。)。これらによると、収容部分の執行によって生ずる損害も相当に重大かつ
回復困難なものであるが、送還部分の執行が停止されるならば、訴訟の進行自体への影響は比
較的少なく、違法な処分を是正する機会まで奪われる事態は生じないことを考慮すると、送還
都分の執行によって生ずる損害よりは軽微なものといわざるを得ない。したがって、この部分
の執行停止の可否を判断するに当たっては、「本案について理由がないとみえるとき」との消極
要件該当性をそれほど厳密に判断する必要はなく、通常どおり、本案について申立人が主張す
る事情が法律上ないとみえ、又は事実上の点について疎明がないときと解すれば足りるのであ
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る。
 上記のように解すると、 送還部分のみならず収容部分についても執行停止がされることが
多くなり、後に本案において申立人の敗訴が確定したとしても、それまでの間に、申立人が逃
亡して退去強制令書の執行が困難となったり、申立人が違法な活動をするおそれが生ずるとの
危惧が生じないでもない。
しかし、そのような点、すなわち、収容部分の執行停止の申立てについて判断する時点にお
いて、申立人の身元が不確かであるから逃亡のおそれがあり、将来の退去強制が困難となると
認められる場合には、そのこと自体が我が国の公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある
との消極要件に該当すると認められるし、申立人のそれまでの行状等からして、収容しなけれ
ば違法な活動を行うおそれがあり、それが我が国の公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが
あると認められる場合にも、同様に当該申立てについては、消極要件に該当するものとして却
下することができるものである。
2 本件における執行停止の要件の有無
 執行停止の必要性(行政事件訴訟法25条2項)
本件処分によって申立人が受ける損害については、少なくとも上記1で説示した退去強制
令書発付処分によって一般的に生ずる損害はすべて生ずることが明らかであるから、送還部分
のみならず収容部分についても執行停止の必要性があると認められる。
さらに、疎甲第1号証、第7号証、第16ないし第18号証によれば申立人は、《住所略》所在の
B大学に在学し、入学試験の成績がトップクラスであったため、同大学の留学生奨学生として
奨学金(授業料の50パーセント免除)の支給を受け、1学年時は31科目中優28、良3という成
績で、遅刻・欠席もほとんどなく、本年4月からは文部科学省私費外国人留学生学習奨励費給
付制度による奨学金(以下「学習奨励費」という中)の受給者となっていること、本年9月19日
に○○(後期)の履修ガイダンスがあり、これに出席できず9月末日を過ぎても大学の教務課
に出頭しないと、○○授業が受けられなくなる可能性が高いことが一応認められ、さらに収容
を継続した場合、2学年の必要単位の取得ができず、3学年への進級ができない可能性が高く、
申立人が学費を自ら捻出している状況下で、本件各処分を受けたことにより学習奨励費の支給
の辞退を勧告され(疎甲第9号証)、申立人の学費の未納が近く行われる教授会等で問題とされ
る可能性も示唆されているなど(疎甲第7号証)、これ以上、収容を継続した場合には、仮に、
本案事件により本件退令発付処分が違法であるとされた場合においても、学業を断念せざるを
得ない可能性が十分あると認められ、申立人の収容を解く必要性は高いといわざるを得ない。
 本件退去強制令書について「本案について理由がないとみえるとき」の要件に該当するか否

本件において、申立人が主張する本件退令発付処分の違法事由は、申立人の退去強制事由該
当性であるところ、申立人は、本件摘発当時、東京入管局長から資格外活動許可を受けていな
い(疎乙第1号証)こと、新宿区歌舞伎町所在のCにおいて接客のアルバイトをしていたこと
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は認めているものの、収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を「専ら」行って
いると「明らかに」認められるものとまでいえるかという点を争っている。
前記認定のとおり、申立人にB大学在学の実態が存し、成績も優秀であると一応認められ
ること、疎甲第19号証、乙第7号証、第8号証、第11号証、第13号証、第16号証、第26ないし
第28号証によれば、申立人は、大学入学後、中華料理店でアルバイトをしていたが、その店が
閉店してしまい、4ヶ月ほど収入がなく、平成15年1月の授業料の支払が迫っていたため、C
でのアルバイトを始めたもので、稼働時間は午後8時以降の4時間程度であって、学業と両立
可能な範囲内のものであること、同年5月に学習奨励費が4月分にさかのぼって支給されるこ
ととなったため5月いっぱいで同店をやめることを経営者に伝えており、その僅か4日前に本
件の指摘を受けたものであることなどからすると、アルバイトの主たる目的はあくまでも学
費・生活費の捻出のためであったことが一応認められ、Cでのアルバイトによる収入が月25万
円程度であり、他に翻訳のアルバイトをしていること(疎乙第16号証)、申立人が外国送金を行
っていること(疎乙第18号証)等を考慮しても、同人のアルバイトが在留日的の活動が実質的
に変更したといえる程度に達していたかには現段階では疑問の余地があり、「専ら」資格外活動
を行っていたことが明らかとはいえず、上記消極要件を具備しないと考えられる。
この点について、相手方は、留学中の必要経費の多くを自らの本邦での稼働に依存している
場合には、もはや、その活動は留学の在留資格をもって在留する者の活動には当たらない旨主
張する。我が国への留学生の多い東アジア諸国と我が国との所得水準及び物価水準の差異や現
に我が国に在留する留学生の生活状況(疎甲第20、21号証)に照らすと、同主張は、留学生に
対して厳格にすぎるのではないかとの疑問が生ずるところであるが、その点はさておき、相手
方の主張を前提としても、奨学金を得られることとなるまでの間に限り、主として自らの稼働
によって必要経費を捻出することはやむを得ない事態として是認されるべきであって、前記認
定のように、申立人は本件摘発の少し前に奨学金が受けられることとなったためにまもなくホ
ステスとしての稼働をやめる予定であったことからすると、身元保証人である、Dの会社から
得ている金銭の性格いかんによっては(これについては、疎乙第16号証によると、仕事がなく
ても支払われていたことが認められ、それが就労の対価か否かには大いに疑問がある。)、申立
人がホステスとして就労したことを上記のようにやむを得ない事態と評価する余地もあると考
えられる。そうすると、相手方の主張を前提とするとしても、なお現時点では、申立人の在留目
的の活動が実質的に変更したと断ずることはできず、その点については、本案の審理を遂げな
ければ判断ができないものといわざるを得ない。
3 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(行政事件訴訟法25条3項)に該当する
かどうかについて
本件退去強制令書に基づく送還の執行停止に関し、相手方が公共の福祉に重大な影響を及ぼす
おそれがあるとして主張するところは、送還の執行停止による一般的な影響をいうものであって
具体性がなく、本件において、本件退去強制令書に基づく送還の執行を停止すると公共の福祉に
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重大な影響を及ぼすおそれがあるとの事情をうかがわせる疎明はない。
また、収容部分についても、疎明資料(疎甲第2号証、第4号証、第16号証)によると、申立人は、
単身で生活しているものの、身元保証人としてDが、法令の遵守・出頭の確保を約していること、
申立人が勉学を続ける強い意思をもっていること、本件による収容の以前からCをやめる予定で
あったこと、今回のことは反省し今後は貯金や親からの援助で勉強を続けたいと考えていること
等が一応認められ、これらによると、現時点で申立人の収容を解いたとしても、申立人が逃亡し
たり、再度資格外活動を行うとは考えにくく、収容部分の執行を停止しても、上記消極要件に該
当する事実が生ずるとは認め難い。
4 結論
よって、本件申立ては、主文第1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分
は理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民
事訴訟法61条、64条本文を適用して、主文のとおり決定する。

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