退去強制令書執行停止申立事件
平成15年(行ク)第249号
申立人:A、相手方:東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第3部(裁判官:鶴岡稔彦・新谷祐子・加藤晴子)
平成15年10月17日
決定
主 文
1 相手方が平成15年8月27日付けで申立人に対して発付した退去強制令書に基づく執行は、平
成15年10月17日午後3時以降、本案事件(当庁平成15年(行ウ)第506号退去強制令書発付処分
取消等請求事件)の第一審判決の言渡しの日から起算して15日後までの間、これを停止する。
2 申立人のその余の申立を却下する。
3 申立費用は、これを2分し、その1を申立人の負担とし、その余を相手方の負担とする。
理 由
第1 申立の趣旨
相手方が平成15年8月27日付けで申立人に対して発付した退去強制令書に基づく執行は、本
案訴訟(当庁平成15年(行ウ)第506号退去強制令書発付処分取消等請求事件)の判決確定に至る
まで、これを停止する。
第2 申立の理由
本件申立の要点は、申立人は、「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行
っていると明らかに認められる者」(出入国管理及び難民認定法《以下「法」という。》24条4号イ)
に該当せず、法24条所定の退去強制事由に該当しないのに、法務大臣が、申立人がした法49条1
項の異議の申出に対して同異議の申出に理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、
相手方が退去強制令書発付処分(以下「本件退令発付処分」という。)をしたのは違法であり、本
件裁決及び本件退令発付処分は取り消されるべきであるから、本件は「本案について理由がない
とみえるとき」(行政事件訴訟法25条3項)に当たらず、申立人には本件退令発付処分による回復
困難な損害を避けるために執行停止を求める緊急の必要性があるというものである。
相手方は、本件執行停止申立は、執行停止が許されない要件である行政事件訴訟法25条3項に
定める「本案について理由がないとみえるとき」、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあ
るとき」に該当し、かつ、執行停止の要件である同条2項に定める「回復の困難な損害を避けるた
め緊急の必要があるとき」に該当しないから、理由がないと主張する。
第3 当裁判所の判断
1 執行停止の必要性(行政事件訴訟法25条2項)について
1 送還部分について
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本件退令発付処分の送還部分が執行された場合、申立人は、その意思に反して本国に送還さ
れることとなり、それ自体が申立人にとって重大な損害になる上に、仮に申立人が本案事件に
おいて勝訴判決を得ても、送還前に置かれていた原状を回復する制度的な保障はないことに加
え、申立人自身が法廷において尋問に応ずることが不可能となって立証活動に著しい支障を来
し、また、訴訟代理人との間で訴訟追行のための十分な打ち合わせができなくなるなど、申立
人が本案事件の訴訟を追行することも著しく困難となるおそれがあるものというべきであるか
ら、「回復の困難な損害を避けるための緊急の必要」があるものというべきである。
2 収容部分について
次に、収容部分について検討する。
本件は、適法な在留資格を得て本邦に在留中の申立人が、法24条4号イに該当するものとし
て、退去強制令書発付処分を受けた事案である。したがって、同条項に該当するとの認定判断
が誤っていたとすれば、申立人は、依然として適法に本邦に在留し、活動をする資格を有して
いたはずであったといえるのであり(なお、申立人は、平成14年10月8日に、在留資格を就学、
在留期間を1年として上陸許可を得たものであるから、現在においては、その在留期間が経過
していることになる。しかしながら、疎明資料によれば、申立人は、在留期間更新許可申請をし
ていることが認められ、上記の事情がなければ、その許可を受ける可能性は十分にあったもの
といえるから、上記の点を考慮したとしても、本件が、単純な不法入国や不法残留のケースと
は事案を異にすることは明らかである。)、このような申立人の地位は、法の規定を前堤とした
としても、十分に保護に値するものである。そうすると、単純な不法入国や不法残留の事案に
おいては、当該外国人には、適法に本邦に在留し、活動をする資格がない以上、本邦において活
動をすることができないことや、その活動を阻止するために身柄が収容されることも通常はや
むを得ない事柄であって、原則として回復困難な「損害」という評価には値しないという考え
方が生ずる余地があり得るとしても、適法な在留資格を有し、又は有することができたはずで
あるといえる申立人については、その前提を異にし、収容それ自体によって生じる不利益や、
本邦において活動することができなくなることによる不利益をも回復困難な損害が生ずるかど
うかの判断に当たって考慮することに差し支えはないものというべきである(相手方自身、収
容部分の執行停止が極めて例外的にしか許されない理由として、①退去強制令書の執行による
収容には、その対象者が本邦において活動を行うことを禁じる意味も含まれていることと、②
法は、在留資格を有せず、入国管理局の管理下にないような外国人の存在を予定していないこ
とを挙げているのであるが、退去強制令書が違法に発付された場合にまで①の点を貫徹させる
べき理由はないことからすれば、相手方の主張の実質的な根拠となり得るのは②の点であると
考えられる。ところが、本件においては、②の理由はそのままには当てはまらないということ
になるのであるから、相手方の主張は、その前定を欠くことにならざるを得ない。)。
この観点から考えた場合、申立人は、身柄が収容されることそれ自体によって重大な不利益
を受けており、これは一般的には金銭賠償によって救済することは困難であるというべきであ
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ることに加え、次のような事情も一応認められる。すなわち、疎明資料によれば、申立人は、昭
和57年(1982年)5月15日に中華人民共和国遼寧省で出生した中国の国籍を有する女性であ
り、平成14年10月8日に就学の資格で在留期間を1年として本邦に入国したものであるが(乙
1)、同月18日に日本語学校である東京都中野区所在のB学院の大学進学コースに入学し、平
成15年6月13日に法70条4号違反の被疑事実で現行犯逮捕されるまでの間、授業日数142日
のうち、無遅刻で139日(98パーセント)の授業に出席し、大学に進学するという目的の下、真
面目に勉強しており、担当教師の信頼も厚く、授業態度や成績も非常に優秀で模範生的な存在
であったこと(甲1)、このため、同学院学院長は、申立人が収容された後も、復学した際には
責任を持って指導することを誓約し(甲3)、同学院理事長のCも、申立人が収容を解かれた場
合には、同人を同学院に迎え入れ、指導監督することを誓約している(甲10)ものの、申立人が
除籍猶予処分を受けている期間は、平成15年7月から6か月間にとどまり、その後においても
復学が保証されているとは限らないこと、申立人は、現在も日本の大学への進学を希望して日
本語の勉強を継続しているが、平成15年11月に、日本の大学に進学するために必要な日本語検
定試験の受験を控えていること(甲11、乙19、21)などの事実を一応認めることができるから、
これ以上収容が継続された場合には、仮に、本案事件において本件退令発付処分が違法である
とされた場合においても、同学院から除籍され、日本語検定試験を受験する機会を失うことに
より、本邦における学業を断念せざるを得なくなる可能性が十分あると認められる。このよう
な事態は、多額の費用を負担して来日し、勉学に励んできた申立人の努力を無に帰するもので
あって、申立人に対し、著しい損害を与えるものというべきである。そして、以上のような、身
柄収容それ自体による不利益や、学業を断念せざるを得なくなることによる不利益等は、著し
く、かつ回復困難なものというべきであるから、収容部分についても、「回復の困難な損害を避
けるための緊急の必要」があるものというべきである。
2 本件退去強制令書について、「本案について理由がないとみえるとき」の要件に該当するか否か
本件裁決及び本件退令発付処分は、申立人が法24条4号イに該当するものとしてなされたもの
であるところ、同号は、在留の資格要件に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受
ける活動を専ら行っていると明らかに認められることをその要件としている。そこで、申立人に
おいて、当該要件を満たす活動を行っていたとみえるかどうかについて検討する。
前記1の2認定のとおり、申立人はB学院の授業に98パーセントの割合で出席し、成績も優
秀であると認められる上に、疎明資料によれば、申立人の本邦への渡航費用、B学院の授業料及
び寮費(98万2500円、乙27)、これまでの生活費等はいずれも申立人が後記アルバイトで得た金
銭で補填した部分以外は基本的に祖国の両親がすべて負担してきたもので(乙7、10、21、26、
27、28)、今後も両親から援助を受けることが可能であり、申立人には本邦における生活を維持
するために必ずしも就労しなければならない事情はないこと(乙7、10、26、28)、申立人は、就
学の在留資格を有して本邦に入国したものであるが(乙1)、平成14年12月20日、東京入国管理
局に対し、資格外活動許可申請をし、同日、有効期限を平成15年10月8日まで、内容を「1日4
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時間以内の収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(風俗営業若しくは店舗型性風
俗特殊営業が営まれている営業所において行うもの又は無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性
風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介常業若しくは無店舗型電話異性紹介営業に従事するものを除
く。)で専修学校、各種学校又は設備及び編制に関して各種学校に準ずる機関に在籍している間に
行うもの」とする資格外活動許可を受けたこと(乙34、39)、申立人は、両親から生活費のことは
心配しなくてもよいと言われていたものの、両親に生活費援助の負担をかけたくないとの気持ち
から、①平成14年12月10日から平成15年5月30日までの約半年間(同年3月下旬から5月上旬
まではほぼ休職)、都内の居酒屋で皿洗いとして稼働し、月額7万円程度の収入を得、②同年3月
21日から同年5月7日までの間、都内のスーパーにおいて時給950円の食品加工の業務に従事し
たが、これらはいずれもおおむね1日4時間以内の稼働であり、学業と両立していたこと(乙7、
10、17、19、21)、申立人は、同年5月20日から6月11日のうちの11日間、都内の性風俗店「D」
でビラ配り及び客引きとして1日4時間程度稼働し、合計約9万2900円の報酬を得ていたとこ
ろ(乙7、10)、同年6月13日、これが法70条4号違反であるとして現行犯逮捕され、その後勾留
された(甲2、乙2)が、同被疑事件によって起訴されることはなかったこと(甲4)、「D」にお
けるアルバイトは申立人のいとこからの紹介で始めたものであるが、申立人は当初「D」が風俗
店であることを知らず、かつ、同年5月末ころには雇用者に対し同店におけるアルバイトを辞め
たいと伝えていたが、同人から慰留され代わりの人が見つかるまでということで継続していたに
すぎないこと(乙10、14)、申立人は同店におけるアルバイトを行っていた期間も並行してこれ
までどおり真面目に学業に勤しんでいたこと(乙10)などの事実を一応認めることができる。
これらの事実からすると、まず、申立人の上記①②のアルバイトについてはほぼ申立人が得た
資格外活動許可の範囲内にとどまるものといえる(申立人が同許可を得たのは前記①の稼働を開
始してから10日経過した後であるが、これだけの事情で「専ら」資格外活動を行ったものとは言
い難い。)。
また、「D」におけるアルバイトは、風俗営業が営まれている営業所における活動であるから、
前記資格外許可の範囲外であって資格外活動に該当するが、申立人が稼働したのは11日間と短期
間に過ぎず、稼働内容も184時間程度のビラ配りと客引きにすぎないものであって、これにより
得た収入も総額で約9万2900円にとどまる一方、この間も申立人は従前どおり学業に励んでい
たことなどの事情に照らせば、こうした活動をもって申立人の在留目的が「就学」から実質的に
変更したといい得るかについては現段階では相当疑問の余地があり、「専ら」資格外活動を行って
いたことが明らかとはいえないから、上記消極要件を具備しないと考えられる。
3 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(行政事件訴訟法25条3項)に該当する
かどうかについて
相手方が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとして主張するところは、執行停止に
よる一般的な影響をいうものであって具体性がなく、本件において、本件退令発付処分に基づく
送還の執行を停止すると公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとの事情をうかがわせる
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疎明はない。
また、疎明資料によると、申立人は、在籍していたB学院に復学が可能であること(甲3)、身
元保証人である同学院学院長及び理事長並びに申立人がアルバイトをしていた居酒屋の店長が今
後の監督を誓約していること(甲3、10、14)、申立人が、これからも勉学を続け日本において大
学に進学する強い意欲を持っていること、資格外活動を行ったことを反省し、今後は資格外活動
を一切行わないことを誓約していること(乙21)などの事実を一応認めることができるから、現
時点で申立人の収容を解いたとしても、申立人が逃亡したり、再度資格外活動を行うとは考えに
くく、収容部分の執行を停止しても、上記消極要件に該当する事実が生ずるとは認めがたい。
4 結論
よって、本件申立は、主文第1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は
必要性がないからこれを却下することとし、申立費用の点について、行政事件訴訟法7条、民事
訴訟法61条、64条本文を適用して、主文のとおり決定する。

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