退去強制令書発付処分取消等請求事件
平成13年(行ウ)第34号
原告:Aほか2名、被告:法務大臣・東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第3部(裁判官:藤山雅行・廣澤諭・加藤晴子)
平成15年10月17日
判決
主 文
1 被告東京入国管理局主任審査官が平成12年11月28日付けで原告A、同B及び同Cに対してし
た各退去強制令書発付処分をいずれも取り消す。
2 原告らの被告法務大臣に対する各訴えをいずれも却下する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告法務大臣が平成12年11月28日付けで原告A、同B及び同Cに対してした、出入国管理及び
難民認定法49条1項に基づく各原告の異議申し出は理由がない旨の各裁決をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、いずれも大韓民国の国籍を有し、在留期間を徒過して本邦における在留を続けること
となった原告A(以下「原告夫」という。)、その妻である原告B(以下「原告妻」という)及びその
子である原告C(以下「原告子」という。)が、被告法務大臣が平成12年11月28日に原告らに対し
てした出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)49条1項に基づく各原告の異議申し出は
理由がない旨の各裁決(以下「本件各裁決」という。)及び被告東京入国管理局主任審査官が同日
に行った各退去強制令書発付処分(以下「本件各処分」という。)はいずれも違法であるとしてそ
の取消しを求めるものである。
2 判断の前提となる事実(争いがない。)
 当事者
原告夫は、1959年6月25日生まれの大韓民国(以下「韓国」という。)国籍を有する男性であ
り、原告妻は、1960年9月7日生まれの同国国籍を有する女性であり、両名は夫婦である。原
告子は、1992年10月26日に原告夫と原告妻の間に生まれた女児であり、韓国国籍を有するも
のである。
 原告らの入国及び在留の経緯
ア 原告らは、平成6年4月7日、韓国のソウルから日本航空機で名古屋空港に到着し、名古
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屋入国管理局名古屋空港出張所入国審査官に対し、各人の外国人入国記録の渡航目的の欄に
「方問(訪問)」、日本滞在予定期間の欄には「10 day(10日)」と記載して上陸申請をし、同入
国審査官から法別表第一に規定する在留資格「短期滞在」及び在留期間15日の許可を受け、
本邦に上陸した。
イ 原告らは、在留資格の変更又は在留期間の更新の申請を一度も行うことなく、在留期限で
ある平成6年4月22日を超えて本邦に不法残留するに至った。
ウ 原告らは、平成9年10月27日、群馬県前橋市長に対し、居住地を群馬県前橋市《住所略》
として、外国人登録法に基づく新規登録を行い、同年11月21日、外国人登録証明書の交付を
受けた。
 原告らの退去強制手続の経緯
ア 原告夫は、平成12年8月21日、前橋市所在の総合交通センターにおいて、群馬県警前橋警
察署員により、法違反(不法残留)により、現行犯逮捕された。
イ 前橋地方検察庁は、平成12年8月23日、法62条に基づき、原告夫について、法24条(不法
残留)に該当するとして、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)調査第3部門あて、通
報を行った。
ウ 前橋地方検察庁は、平成12年9月1日、原告夫を、法70条1項5号に該当するものとして、
前橋地方裁判所に対して起訴した。
エ 原告夫は、平成12年10月6日、前橋地方裁判所から懲役2年執行猶予3年の判決を受け
た。
オ 東京入管入国警備官は、平成12年10月6日、原告夫が法24条4号ロ(不法残留)に該当す
ると疑うに足りる相当の理由があるとして、東京入管主任審査官から収容令書の発付を受
け、同日、同令書を執行して原告夫を東京入管収容場に収容し、同日、違反調査を行い、原告
夫を法24条4号ロ該当容疑者として、東京入管入国審査官に引き渡した。
カ 東京入管入国審査官は、平成12年10月10日及び同月12日、原告夫について違反審査を行
い、その結果、同月12日、原告夫が法24条4号ロに該当する旨の認定を行い、原告夫にこれ
を通知したところ、原告夫は、同日、東京入管特別審理官による口頭審理を請求した。
キ 東京入管入国警備官は、平成12年10月19日及び同月20日、原告妻及び原告子について違
反調査を実施した結果、原告妻が法24条4号ロ(不法残留)に該当すると疑うに足りる相当
の理由があるとして、同月20日、東京入管主任審査官から収容令書の発付を受け、同月25日、
同令書を執行して、原告妻及び原告子を法24条4号ロ該当被疑者として、東京入管入国審査
官に引渡した。東京入管主任審査官は、同日原告妻及び原告子に対し請求に基づき、仮放免
を許可した。
ク 東京入管入国審査官は、平成12年10月25日、原告妻及び原告子について違反審査を行い、
その結果、原告妻及び原告子が法24条4号ロに該当する旨の認定を行い、原告妻及び原告子
にこれを通知したところ、原告妻及び原告子は、同日、東京入管特別審理官による口頭審理
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を請求した。
ケ 東京入管特別審理官は、平成12年10月30日、原告夫について、口頭審理を行い、その結果、
同日、入国審査官の上記カの認定は誤りがない旨判定し、原告夫にこれを通知したところ、
原告夫は、上記同日、法務大臣に対し、異議の申出をした。
コ 東京入管特別審理官は、平成12年11月9日、原告妻及び原告子について、口頭審理を行い、
その結果、同日、入国審査官の上記クの認定は誤りがない旨判定し、原告妻及び原告子にこ
れを通知したところ、原告妻及び原告子は、同日、法務大臣に対し、異議の申出をした。
サ 法務大臣は、平成12年11月28日、原告夫からの上記ケの異議の申出については、理由がな
い旨裁決し、上記裁決の通知を受けた東京入管主任審査官は、同日、原告夫に本件裁決を告
知するとともに、送還先を韓国とする退去強制令書を発付した。そこで、東京入管入国警備
官は、同月29日、これを執行し、夫を引き続き東京入管収容場に収容した。
シ 法務大臣は、平成12年11月28日、原告妻及び原告子からの上記コの異議申し出について
は、理由がない旨裁決し、上記裁決の通知を受けた東京入管主任審査官は、同年12月22日、
原告妻及び原告子に本件裁決を告知するとともに、送還先を韓国とする退去強制令書を発付
した。東京入管主任審査官は、平成12年12月22日、原告妻及び原告子に対し、請求に基づき、
仮放免を許可した。
ス 東京入管入国警備官は、平成12年12月26日、原告夫を入国者収容所東日本センターに移収
した。その後、東京入管主任審査官は、平成14年7月17日、原告夫に対して仮放免を許可し
た。
第3 当事者の主張
1 被告ら
 本件各裁決の適法性について
ア 原告らの退去強制事由
原告夫、原告妻及び原告子が、在留資格の変更又は在留期間の更新の許可申請を行うこと
なく、在留期限である平成6年4月22日を超えて本邦に不法残留したことは前記第2、2
イのとおり争いがなく、原告夫、原告妻及び原告子が法24条4号ロに規定する退去強制事由
に該当することは明らかである。したがって、原告らが退去強制事由に該当することを認め
た特別審理官の判定に何ら誤りはない。
イ 在留特別許可に係る法務大臣の判断の適法性
ア 法務大臣の広範な裁量権
法務大臣は、異議の申出に対する裁決に当たって、異議の申出に理由がないと認める場
合でも、特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは、その者の在留を特別に許可
することができるところ(法50条1項3号)、このような在留特別許可は、退去強制事由に
該当することが明らかで、当然に本邦からの退去を強制されるべき者に対し、特別に在留
を認める処分であって、その性質は、恩恵的なものであるというべきである。そして、在
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留特別許可の判断をするに当たっては、当該外国人の個人的事情のみならず、その時々の
国内の政治・経済・社会等の諸事情、外交政策、当該外国人の本国との外交関係等の諸般
の事情を総合的に考慮すべきものであることから、在留特別許可に係る法務大臣の裁量の
範囲は極めて広範なものであって、当該裁量権の行使が違法となることは容易には考え難
く、例外的に当該外国人について本邦に在留することを認めなければならない積極的な理
由があると認められる場合に限って、これが違法になると考えられる。したがって、その
ような理由の存在については、原告らにおいて主張立証すべきものであり、法務大臣が裁
決をするに当たっての判断の基礎とした事実がいかなるものであったかについては、それ
自体およそ争点となり得ないのである。
イ 本件各裁決に裁量権の逸脱又は濫用がないこと
a 原告夫及び原告妻は、渡航目的を「方問(訪問)」、日本滞在予定期間を10日と申告し
て上陸したにもかかわらず、その後まもなく不法就労を開始し、その不法就労を行った
期間は長期に及んでいるのであり、出入国管理行政上看過し難い。この点原告らは、ド
イツ在住の原告夫の叔父を訪問するためドイツに向かう際に、本邦に在住する原告妻の
姉を訪ねるために立ち寄ったものであると主張し、当初から不法就労目的を有していた
ものではないとするが、これらは客観的事実と符合せず信用できないものであり、当初
から本邦に不法就労目的で入国したというほかなく、原告らが不法残留に至った経緯
は、極めて計画的であったというべきである。 
さらに、原告夫は、平成12年8月21日に逮捕された当時、食品衛生法上の営業許可を
取得することなく、居酒屋「D」の営業をしていたものであり、このような行為が我が国
の公衆衛生上の観点からも許容し難いものであることは明らかである。
b 原告夫、原告妻及び原告子は、韓国で出生・生育したもので、原告夫及び原告妻につ
いて、今回来日前、韓国で従事していた仕事のために本邦に短期間滞在した事実が数回
認められるものの、いずれも我が国とは何ら特別な関係を有していなかったものであ
る。また、原告夫及び原告妻の親兄弟は、原告妻の姉が本邦に在住しているとするほか、
すべて韓国に在住しており、原告夫及び原告妻ともに稼働能力を有する健康な成人であ
ること、本邦で不法就労して、前橋市に木造2階建ての家屋を原告妻名義で所有してお
り、同家屋購入時の借金等についても順調に返済するだけの収入を得ていることなどに
照らせば、原告らが韓国に帰国したとしても本国での生活に支障はないといえる。また、
原告子は、いまだ可塑性に富む年代にあり、仮に当初は言語や生活習慣の面で多少の困
難を感じることがあるとしても、現地での生活を経験することが言語や生活習慣を身に
つける最善の方法であり、両親とともに帰国するのが子の福祉又はその最善の利益に適
うところであることは明らかであり、自国の生活習慣及び言語等に習熟した両親ととも
に帰国し、他の親族の在住する韓国での生活に慣れ親しむことは十分に可能であると見
込まれる。したがって、原告らについて、本邦への在留を認めなければならない特別な
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事情が存在するとは認められない。
確かに、原告らは、本邦に不法に残留する間に一定の安定した生活状態を形成した旨
主張するが、生活の基盤となる家族の結合にしても、経済的な基盤にしても虚構の生活
であって存在すること自体定かではないし、この間、原告らが外国人登録をした市役所
から不法残留の事実が東京入管に連絡されたこともなく、その在留が容認されていたも
のでもないし、最高裁昭和54年10月23日第3小法廷判決は、「本邦に不法入国し、その
まま在留を継続する外国人は、出入国管理令9条3項の規定により決定された在留資格
をもって在留するものではないので、その在留の継続は違法状態の継続にほかならず、
それが長期間平穏に継続されたからといって直ちに法的保護を受ける筋合いのものでは
ない」と判示しており、これは、近時の裁判例においても踏襲されているところ、本件に
おいても当てはまるものといえる。そもそも不法残留は、法70条1項5号による処罰の
対象となる違法行為であり、原告夫及び原告妻が本邦において長期間不法就労活動を行
ったという事実は、違法行為が長期間に及んだことを意味するものであるから、被告法
務大臣が原告らの在留特別許可の可否を判断する上で、当該事実を有利な事情と解しな
ければならない理由はないのであり、むしろ、長期にわたる不法残留事実や不法就労事
実等が在留特別許可の判断において消極的要素として評価されるべきものである。
c 以上のような諸事情を考慮すれば、法務大臣が本件各裁決に当たって付与された権限
の趣旨に明らかに背いて裁量権を行使したものと認め得るような特別の事情が存在する
とは認められない。
ウ 原告らの主張に対する反論
a 原告らは、法務大臣による本件各裁決は、原告らの居住の自由を侵害するものである
旨主張する。
しかし、最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決が判示しているように、在留する外
国人に対する憲法の基本的人権の保障は、適法な在留資格という基盤の上において与え
られているにすぎないものである。そして、その基盤を形成する在留の許否を決定する
国家の裁量を拘束するような範囲まで基本的人権の保障が及ぶものと解することはでき
ないのである。
したがって、原告らが主張する居住の自由(憲法22条1項)は、在留制度の枠内で保
障されるにすぎないと解され、本件各裁決が居住の自由の侵害である旨の主張は失当で
ある。
b 児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」)に違反しないことについて
原告らは、子どもの権利条約3条1項が、児童に関するすべての措置をとるに当たっ
ては、児童の最善の利益が主として考慮されるべきことを定めているところ、本件にお
いては、原告らに在留を特別に許可することが児童の最善の利益であるとして、これを
与えなかった本件各裁決は子どもの権利条約3条に違反する旨主張する。
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しかし、外国人は、憲法上、本邦に在留の権利ないし引き続き在留することを要求す
る権利を保障されているものでもなく、外国人の本邦への上陸、在留を認めるか否かに
ついては、国際慣習法上、主権国家の広範な裁量により決し得るところであり、外国人
に対する出入国や在留の管理は、国内の治安や保健・衛生の維持、確保、労働市場の安
定等の国益保持のための政策的見地から国際情勢や外交関係等について政治的配慮をし
た上で決定されるものであることからすれば、原告らが主張する原告子の「最善の利益」
については、在留制度の枠内で保障されるにすぎないものであり、原告子について、上
記主張にかかる事情が存在するとしても、本件各裁決は、子どもの権利条約3条に違反
するものではない。
そもそも、原告夫及び原告妻について在留特別許可を与えることが妥当でない以上、
両名の未成年の実子でその扶養を受けるべきものについては、両親とは別に扱わず、同
様に在留特別許可を与えないことが、むしろ家族を分離させる結果を招かないことか
ら、子どもの権利条約に定める児童の「最善の利益」にも反しないこととなるのである。
そして、原告子はいまだ可塑性に富む年代にあり、仮に当初は言語や生活習慣の面で
多少の困難を感じることがあるにしても、両親とともに帰国し他の親族の在住する韓国
での生活に慣れ親しむことは十分に可能と見込まれるものであることは前記イbのとお
りであるから、本件各裁決が子どもの権利条約3条1項に違反するものであるとはいえ
ない。
c 原告らは、韓国に帰国しても、親類の経済的支援を受けることもできず、自己資金も
なく、新たに事業を開始することも困難なのであるから、韓国での生活基盤の再建が極
めて困難であることは明らかであると主張する。
しかしながら、原告夫及び原告妻の近しい親族が、仮に原告らの生活に何らかの支障
が生じた場合に何らの援助も行わないということは考え難いし、原告夫が韓国を出国す
る際に整理しなかった借金について、原告夫の親戚が原告夫が所有していた家屋を譲り
受ける代わりに肩代わりしてくれたというのであり、協力的な関係が築かれていること
が認められる。また、韓国において収入を得る方途が新たに事業を開始することに尽き
るものでないことも明らかであり、結局、原告らは、転居に伴う通常の不便をいうにす
ぎない。
なお、原告らは、韓国に帰国した場合、本邦におけるのと同様の生活レベルを維持す
るのが困難であるとし、これを問題とするものとも解されるが、そのような事情が本件
裁決の違法事由たり得ないことは明らかである。
この点をおくとしても、近年における韓国は、政府の内需を刺激する減税政策の効果
などを要因として経済は回復をみせ、中小企業の開業が雇用の増大に寄与するなどして
失業率が低下するなど雇用機会は広がりをみせているのであるから、原告らについて全
く雇用の機会等がないなどということはない。また、原告らは賃借に当たって一定のま
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とまったお金が必要であることなどを主張するが、韓国の最近の住宅事情をみるに、政
府の相次ぐ住宅市場の安定対策が功を奏して住宅の売買価格が安定しつつあるとか、チ
ョンセ制度(賃借時に住宅価格の3〜7割を預けなくてはならない賃貸方式)が影を潜
めているなどとされており、原告らが帰国後に住居を確保することができないとは認め
られない。
d 原告らは、原告子について、言語、行動様式、精神が日本人であり、韓国での生活にと
け込むことが困難であるとし、原告子を退去させることは、その学習の機会を奪うに等
しい旨主張する。
しかしながら、韓国の教育や福祉等にかかる状況をみても、児童の生育上特段の問題
があるとは認められず、原告子の状況は、韓国系企業の社員が家族を伴って日本に派遣
され、長期滞在したのちに韓国に戻る場合と同様であって、同女を送還することが在留
特別許可の権限を法務大臣に認めた趣旨に反する非人道的なものであるといった事情は
何ら存在しない。
原告妻は、原告子が韓国に帰れば絶対にいじめられる旨述べるが、その根拠は漠とし
ており、原告夫自身が韓国の子供達には日本人に対する悪感情はない旨答えているので
あり、そのような事実は認められない。
e 国際連合は、平成2年12月18日、「すべての移住労働者とその家族構成員の権利保護
に関する国際条約」を採択し、その30条には、移住労働者の子が公立学校で教育を受け
る権利を有することを定めているが、同条は、不法に滞在するこの在留の適法化に関す
る権利を含むものと解してはならないとされているのであるから(同条約35条)、国際
的にも、不法就労者の流入先の国が当該不法就労者及びその子女の在留を適法化すべき
であるなどという合意がされている状況が存しないことは明らかである。
エ 以上のとおり、法務大臣が本件各裁決に当たって付与された権限の趣旨に明らかに背い
て裁量権を行使したものと認めうるような特別の事情が存在するとは認められないから、
本件各裁決に何らの違法性はない。
 本件各処分の適法性について
退去強制手続において、法務大臣から「異議の申出は理由がない」との裁決をした旨の通知
を受けた場合、主任審査官は、退去強制令書を発付するにつき裁量の余地はないから、本件各
裁決が違法であるといえない以上、本件各処分も適法である。
法は、法務大臣が在留特別許可の権限を行使するか否かの判断を行う過程においてのみ、退
去強制事由に該当する外国人の在留を例外的に認める裁量を認めており、異議の申出を受けた
法務大臣が、在留特別許可に関する権限を発動せず、異議の申出に理由がないとの裁決を行っ
た場合には、それは我が国が国家として当該外国人を退去強制すべきとする最終的な意思決定
をしたことを意味するものであって、上級行政機関である法務大臣の意思決定を同大臣の指揮
監督を受ける下級行政機関である主任審査官が、その独自の判断に基づいて覆し、あるいはそ
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の適用時期を考慮できるとすることは行政組織法上の観点からして考えられず、法がこのよう
な立法政策を採用しているとは考えられない。また、法は、在留資格のない外国人が本邦に適
法に在留することは、明文で定められた例外を除いて予定していないところ、主任審査官が裁
量により退去強制令書を発付しない場合に、当該外国人が引き続き本邦に在留するための法的
地位を定める手続規定は存在しないのであって、法は、主任審査官の裁量により退去強制令書
を発付しないという事態を想定していないというべきである。
したがって、主任審査官に退去強制令書を発付するか否かに係る裁量権限がある旨の原告ら
の主張には理由がないというべきである。
なお、原告らは比例原則違反の主張をするが、退去強制事由に該当する外国人には比例原則
において警察権の行使と対比されるべき権利利益がそもそも存在しないこと、退去強制令書に
基づく収容についても目的と手段とが比例していること、在留特別許可及び仮放免の制度があ
ることからすると、退去強制令書の発付につき、法の定める要件適合性以外に比例原則違反の
有無が問題となる余地はない。
2 原告ら
 本件各裁決の適法性について
ア 本件各裁決の裁量違反
ア 法務大臣の裁量権の範囲について
日本国憲法は、国会を国権の最高機関と定めていることから、国家の裁量は、第一義的
には国会に属するものとして立法裁量に現れることとなる。その立法裁量の結果として、
特定の場合には外国人に入国・在留を許可すべく行政庁に義務づけをすることもあり、行
政庁に裁量を与えつつ、許可内容に制約を付すこともある。そして、憲法の精神や「法律に
よる行政の原理」からすれば、行政庁に全くの自由裁量が付与されることなどあり得ない
のであって、一定の裁量権が与えられたとしても、その根拠となる法律の目的及び趣旨等
によって覊束裁量となるのである。この点、法は、「出入国の公平な管理」を目的としてお
り(1条)、「出入国の公平な管理」とは、国内の治安や労働市場の安定など公益並びに国際
的な公正性、妥当性の実現及び憲法、条約、国際慣習、条理等により認められる外国人の正
当な利益の保護を図るための管理を意味する。法50条1項の趣旨も、この公益目的と外国
人の正当な権利・利益の調整を図ることにあり、法務大臣の裁量権もこの趣旨の範囲内で
認められるにすぎない。
被告の主張は、この点を看過し、国家の裁量権と法務大臣の裁量権とを混同したものと
いわざるを得ない。
また、上記のとおり、被告法務大臣の裁量権は、法の目的及び法50条1項の趣旨に覊束
されるものであり、法も平成元年の法改正によって各在留資格に関する審査基準を省令で
定めて交付し、行政の裁量の幅を減少させようとしているところであり、在留特別許可の
制度に恩恵的な面があるとしても、そこから法務大臣の「極めて広範な裁量権」が導かれ
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るものではない。裁量性のある処分であっても、判断の前提となる具体的事実関係が正確
に把握されていなければならないこと、当該具体的事件の具体的諸事実を斟酌しないまま
に行われた処分は違法の評価を受けること、過去の行政処分例や内部基準等に従い、行政
の平等性を損なう恣意的な判断に基づく処分が違法と評価されることは自明であり、司法
審査もかかる観点から行われるべきである。
その上、法によれば、在留特別許可の許否に関する法務大臣の裁決を地方入国管理局長
に委任する旨規定されているが、地方入国管理局長は、法務省の一部局である入国管理局
の下にある8つの地方入国管理局のうちの1つの長にすぎず、諸般の事情を総合的に考慮
する特別な能力もなければ、政治的配慮をする資格もないのであり、このようなものに委
任がされていることからすると、それまでもそのような要素が在留特別許可の許否に際し
て考慮されてきたわけでないことは明らかである。したがって、法務大臣の権限行使も古
色蒼然たる自由裁量論で説明することはできず、事実を正確に把握した上で、各種通達、
先例、出入国管理基本計画、国際的な準則等の示すところに従い、退去強制が著しく不当
であるか否かを慎重に判断すべきで、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事実
を考慮して処分がされた場合、あるいは、その判断が合理性を持つものとして許容されな
い場合には、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったとして違法となる。
イ 本件における裁量違反
a 原告らの入国及び在留の経緯
原告夫は、高校卒業後兵役を経て、製靴業に就職した後、Eという靴とハンドバック
の製造会社に就職した。そして、1987年からは、独立して会社を設立し、Eの製造請負
等を行っていたものの、独自ブランドの商品の企画・販売に失敗し、1994年には倒産し
た。
原告妻は、1979年にソウル市内の高校を卒業し、服飾関係の仕事を経た後、1983年に
原告夫と同じEに就職し、在職中の1986年6月22日、原告夫と婚姻し、1992年10月26
日には原告子をもうけた。
原告夫の会社の倒産により、生計を立てるすべを失った原告らは、ドイツでレストラ
ンを経営している原告夫の叔父を頼り、ドイツを訪ねようと考えた。そこで、ドイツ行
きのチケットを日本で購入し、ドイツに行く前に当時日本に居住していた原告妻の姉を
訪ねる目的で、1994年4月7日、日本に立ち寄った。
しかし、日本に立ち寄った際に、日本に在住している韓国人等から、収入の点でも韓
国に近い距離にあるという点でも、そして同じアジア人種であるという点で子どものた
めにも、ドイツより日本の方がよいと勧められ、日本で生活することを決意し、現在ま
で至っている。
b 原告らの生活状況等
 原告夫は、来日後間もなく、富士吉田市にある親戚の経営する飲食店を住み込みで
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2ヶ月ほど手伝い、その間原告妻及び原告子は、前橋の知人の家に居住していた。そ
の後、原告夫は、前橋市の知人の経営する韓国風食堂でアルバイトをするようになり、
同店の寮で暮らすようになった。原告ら家族の生活は徐々に安定し、定着していった。
 原告妻は、平成8年3月から前橋市内でブティック「F」を経営し、地域に密着した
経営を続けている。原告夫は、平成11年3月ころ前橋市内で、韓国風居酒屋「D」を開
業し、利益が25万円程度上がるなど経営が軌道に乗った。
 原告らは、前橋市の外国人登録証記載の住所地の賃貸マンションで居住していた
が、平成11年6月30日には、同市《住所略》所在の土地建物を原告妻名義で購入し、
リフォームを行った後、翌12年2月から同所に居住している。その際、自己資金1000
万円程度のほかに、購入資金を830万円ほど借りたが、毎月返済している。又リフォー
ムの際の借金も完済している。
 原告子は、韓国語を僅かに聞き取ることができる程度で話すことも読むこともでき
ず、自分の名前を書くこともできない。2歳時からは4年間、前橋市のG幼稚園に通
園し、平成11年4月からは同市立H小学校に通学しており、日本人の友人達と楽しく
学校生活を送っているほか、成績もよく、習字等で賞を獲得している。またバイオリ
ン、バトントワリング、ピアノ、ジュニアオーケストラ等の習い事をして、いずれにお
いても活躍している。また、学校においても、習い事においても友人が多数いる。そし
て、原告子は、日本人としてのアイデンティティーを築いている。
原告妻は、PTAの役員をするなど、地域に密着した生活をしている。
 原告ら夫婦は、原告夫の逮捕以前も、仮放免後も仲むつまじく、原告子も原告ら夫
婦を慕っており、その家族の結合はとても強い(この点について、被告は、原告ら夫婦
の関係が破綻しており、虚構の生活を継続できないとしても原告らの生活基盤が奪わ
れる事にはならないと述べるが、完全な事実誤認である。)。
 原告妻は、前記の不動産の代金や自らのブティックの開店、原告夫の居酒屋の開
店のため借入れを行っているが、それらの借入れは、ほとんどが事業のための投資と
しての性格をもち、原告妻が月々返済を続けているのであり、経済事情が破綻してい
るなどということは決してない。
c 原告らの居住の自由の侵害
憲法22条が保障する居住の自由は、日本にいるすべての外国人について憲法22条の
保障が及ぶものである。仮に、在留資格の枠内に限定されるとすれば、前国家的・普遍
的なものである憲法の人権規定の保証の範囲を、下位規範である法により保障するもの
であり、到底容認することができない。
つまり、憲法22条1項が、何人も公共の福祉に反しない限り居住の自由を有する旨規
定する以上、適法な在留資格を有しない外国人に対しても憲法上の居住の権利の保障は
及ぶものであり、これに対する制約の合理性の判断に際し、在留資格の有無が考慮され
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るにとどまるものである。
そして、居住の自由は、経済的自由の側面のみならず、人身の自由や精神的自由の側
面も有していることにかんがみれば、具体的に国家が害されるとする公益と個人が失う
であろう私益を検討した上で、裁決が合理的といえるかを判断すべきである。
そして、原告らが韓国に強制送還されれば、原告子の精神的アイデンティティーが失
われ、個人の尊厳を中核とする人格権が侵害される上、原告子への教育の権利が侵され、
さらに、原告ら家族の基盤、最低限の生活が奪われるものであり、その失われる私益は
極めて甚大である。他方、原告らは入国後、法違反以外には何ら法を犯すことなく、善良
な市民として地域社会にとけ込んだ生活を送っていた。したがって、原告らの本邦にお
ける在留資格を認めることによって、日本の善良な風俗・秩序に好影響を与えることこ
そあれ、悪影響を及ぼすことは想定し難く、原告らに在留資格を認めないことによって
保護されるべき国の具体的利益は存在しない。むしろ諸外国においては、非正規滞在者
を正規化することが、国益にかなうものであることを理由として、大規模な正規化を行
っている。
d 子どもの権利条約違反
子どもの権利条約3条は、「児童に関するすべての措置を採るに当たっては、公的若し
くは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるも
のであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」と規定していると
ころ、この内容によれば、第一に子どもの最善の利益とは何かが考慮された上で、当該
利益が他の対立利益の中でも主として考慮された結果、行政処分が行われる必要がある
のであり、最善の利益は在留制度の枠内で保障されるにすぎないとの被告の主張は誤り
である。そして、前記cのとおり、本件各裁決により原告子の利益が害され、逆に、対立
利益は抽象的なものであるのであり、本件各裁決は、子どもの権利条約3条に違反する
ものとなる。
 本件各処分の適法性について
ア 本件各裁決の違法を承継することによる違法
前記のとおり、本件各裁決が違法である以上、これに基づいてされた本件処分も違法なも
のということになる。
イ 本件各処分独自の違法性
ア 退去強制令書発付処分が裁量行為であること
仮に、法務大臣が在留特別許可をせず、異議に理由がない旨の判断をする裁決がされた
場合にも、主任審査官は、退去強制令書を発付するかどうか、ないし、いつの時点で出すか
について裁量があると解すべきである。
すなわち、法24条は、同条各号の定める退去強制事由に該当する外国人について、法第
5章に規定する手続により、「本邦からの退去を強制することができる。」と定めていると
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ころ、法律の文言が、「することができる」と規定している場合には、裁量の範囲はともか
く、一定の効果裁量を認めたものとするのが極めて一般的な見解である。
特に、退去強制令書の発付処分のような侵害的行政処分であって第三者に対する関係で
も受益的な側面をもたない処分については、上記の文言が裁量を示すものと解することに
支障はないし、行政法の解釈において、伝統的に権力発動要件が充足されている場合行政
庁はこれを行使しないことができるとの考え方(行政便宜主義)が一般的であることとも
整合する。
実際、退去強制令書の発付に裁量権を認めないと、本国及び市民権のある国に送還する
ことができず、しかも第三国への入国許可を受けていない外国人など退去強制令書を発付
しても執行が不能であることが明らかな場合にも、主任審査官は退去強制令書を発付しな
ければならないという背理を生ずるし、特に、外国人の出入国管理を含む警察法の分野に
おいては、一般に行政庁の権限行使の目的は公共の安全と秩序を維持することにあるか
ら、その権限行使はこれを維持するための必要最小限度にとどまるべきであると考えられ
ている(警察比例の原則)。
このような観点から、法第5章の手続規定をみると、主任審査官の行う退去強制令書の
発付が、当該外国人が退去を強制されるべきことを確定する行政処分として規定されてお
り、退去強制に関する上記手続を解して、主任審査官に、退去強制令書を発付するか否か
(効果裁量)、発付するとしてこれをいつ発付するかについての裁量が与えられているとい
うべきである。 
イ 比例原則違反
そして、裁量権の行使に当たっては、比例原則が適用されるべきところ、本件では、前記
アイ記載のとおり、本件各処分により、原告らが築きあげてきた住居、営業の根拠、学校
生活、言語環境等、すべての生活を根こそぎ奪うことになり、このような不利益を被るこ
とを知りながらされた本件各処分は、違法というほかない。

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