退去強制令書執行停止申立事件
平成15年(行ク)第41号
申立人:A、被申立人:大阪入国管理局主任審査官
大阪地方裁判所第7民事部(裁判官:川神裕・山田明・芥川朋子)
平成15年12月1日
決定
主 文
1 被申立人が申立人に対し平成15年10月17日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本
案事件(当庁平成15年(行ウ)第91号)の第1審判決言渡しの日から30日を経過した日まで停止
する。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は、これを3分し、その1を申立人の負担とし、その余は被申立人の負担とする。
事実及び理由
第1 申立ての趣旨
被申立人が申立人に対し平成15年10月17日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本
案判決の確定に至るまで停止する。
第2 当事者の主張
本件申立ての理由は別紙1に、これに対する被申立人の意見は別紙2に、これに対する申立人
の反論は別紙3に、それぞれ記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 本件疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。
 申立人
申立人は、1978年(昭和53年)12月1日に中華人民共和国(以下「中国」という。)山東省青
州市で出生した中国国籍を有する外国人の女性である(疎乙10)。
 申立人の在留経過等
ア 申立人は、中国の高校を卒業後、貿易会社でデザイナーとして働いていたが、同会社が日
本との取引を拡大したため、日本語を学ぶ必要が生じた。申立人は、中国の大学で日本語を
学び、同大学の教諭から推薦を受けて、日本で日本語を学ぶことにした(疎乙20、22)。
イ 申立人は、平成13年11月26日、学校法人a日本語学校校長Bを代理人として、法務大臣に
対し、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)7条の2第1項に基づき、在留資格認
定証明書の交付を申請した(疎乙1)。法務大臣は、平成14年2月28日、同申請に基づき、申
立人に対し、その在留資格を「就学」とする在留資格認定証明書を交付した(疎乙2)。
ウ 申立人は、同年4月9日、関西国際空港に到着し、大阪入国管理局(以下「大阪入管」とい
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う。)関西空港支局入国審査官に対し、上陸許可申請を行い、同日付けで、同審査官から、在
留資格を「就学」、在留期間を1年とする上陸許可を受け、本邦に上陸した(疎乙10)。
エ 申立人は、その後、和歌山市《住所略》に居住し、a日本語学校に入学し、平成15年3月14
日、同校指定の上級課程を修了した(疎乙3、10)。
オ 申立人は、同年3月25日、京都市《住所略》に居住地を変更し(疎乙4、10)、同月26日、b
大学(以下「本件大学」という。)学長により、同年4月1日から同大学経済学部への入学を
許可され、現在、同学部経済学科に在学している(疎乙5、6)。
カ 申立人は、同年3月27日、大阪入管京都出張所において、法務大臣に対し、在留資格を「就
学」から「留学」へ変更する在留資格変更の許可申請を行い、法務大臣から権限の委任を受け
た大阪入国管理局長は、同年4月14日、申立人に対し、在留資格を「留学」、在留期間を2年
とする在留資格の変更を許可した(疎乙7、10)。
キ 申立人は、同年5月8日から同年6月19日までの間、京都市《住所略》所在の社交飲食店
中国クラブ「c」(以下「本件クラブ」という。)において、「なみ」の名前でホステスとして稼
働していた(疎乙8、21)。
 退去強制令書発付手続等
ア 京都府警五条警察署生活安全特別捜査隊警察官は、平成15年6月19日、本件クラブを強制
捜査し、申立人を含め「留学」等の在留資格でありながら本件クラブで稼働していた中国人
11名を法73条違反容疑により在宅捜査の対象とした。申立人は、京都地方検察庁に書類送検
され、同年7月31日、不起訴処分(起訴猶予)となった。(疎乙8、9、11)
イ 大阪入管入国警備官は、同年8月20日、申立人が法24条4号イ(資格外活動)に該当する
と疑うに足りる相当の理由があるとして、被申立人から収容令書の発付を受けた上、同月21
日、同収容令書を執行し、申立人を、入国者収容所西日本入国管理センターに収容し、大阪入
管入国審査官に引き渡した(疎乙13)。
ウ 大阪入管入国審査官は、同月26日、申立人について審査した結果、申立人が法24条4号イ
に該当すると認定し、その旨を申立人に通知したところ、申立人は、同日、口頭審理の請求を
した(疎乙15、23)。
エ 大阪入管特別審理官は、申立人に対し口頭審理を実施した結果、同年9月3日、入国審査
官の上記認定には誤りがない旨判定するとともに、その旨を申立人に通知したところ、申立
人は、同日、法務大臣に対し異議の申出をした(疎乙16、17)。
オ 法務大臣から権限の委任を受けた大阪入国管理局長は、申立人に対し、同年10月17日、申
立人の異議の申出は理由がない旨の裁決をした。被申立人は、同日、申立人にその旨通知す
るとともに、同日付けで退去強制令書を発付し、大阪入管入国警備官は、同日、退去強制令書
を執行した(疎乙18、19)。
 申立人の本邦における生活状況等
ア 申立人は、本邦上陸後、a日本語学校において、1年間、日本での大学入学に必要な日本語
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能力を習得した。その間の半年分の家賃と1年間の学費については、入国前に既に申立人の
母が支払っており、申立人はそれとは別に親から与えられた約60万円と、本邦で資格外活動
許可を得て行ったアルバイトで得た金員で生活費をまかなった(疎乙3、22、24)。
イ その後、申立人は、経済学を学ぶことを志し、平成15年4月1日、本件大学経済学部経済
学科に入学し、現在在学中である(疎乙5、6)。
本件大学における授業の時間帯は、毎日1限目が午前9時から午前10時30分、2限目が午
前10時45分から午後零時15分、3限目が午後1時15分から午後2時45分、4限目が午後3
時から午後4時30分、5限目が午後4時45分から午後6時15分であり、申立人は、月曜日は
1限目のみ、火曜日は1ないし4限目、水曜日は1、2限目、木・金曜日は1ないし3限目と
5限目を履修していた。同学部の平成15年4月から9月末まで(授業は7月中旬まで)の春
学期の授業について、申立人の出席率は、およそ8割に達していた(疎甲1、14、乙24)。
申立人は、春学期において登録したすべての科目の試験を受験し、その成績は専門科目で
ある「マクロ経済学入門」で最上級の評価「秀」を、「入門セミナー」と「簿記原理A」では「優」
の評価を受けた。その他の科目についても評価にばらつきはあるものの1科目を除いて単位
を取得した(疎甲12、13)。
ウ 申立人が本件大学で学ぶために必要な学費・生活費は、その大半を両親が援助していた。
申立人の父は元医師であり、母は現に貿易会社の副社長兼財務総括顧問であり、申立人の実
家は経済的に裕福な家庭であるところ、申立人は、平成15年3月に一時帰国した際、申立人
の母親から60万円、父親から10万円を与えられ、それに申立人の貯金30万円余りを加えた資
金によって、入学の際に必要な学費等47万円(入学金27万円、授業料半年分34万1500円、教
育充実費半年分10万3000円。ただし、そのうち26万円については返還された。)、引越代30
万円、生活費約30万円をまかなった(疎乙24)。
エ 申立人は、中国の大学の友人から紹介された本件クラブで、平成15年5月8日から同年6
月19日までの間、原則として毎週木曜日と金曜日(時には土曜日)に午後8時30分から翌日
午前1時30分又は午前3時までホステスとして接客のアルバイトをした。このアルバイトの
給与は5時間で8000円であり、申立人は、上記期間中合計17日間本件クラブで稼働し、その
対価として合計15万7300円の収入を得た。なお、申立人は5月分の4万7250円は受領した
ものの、6月分の11万0050円は受領していない(疎乙21、22)。
 本案訴訟
申立人は、平成15年10月25日、本件退去強制令書発付処分の取消しを求める本案訴訟(平成
15年(行ウ)第91号退去強制令書発付処分取消請求事件)を提起した。
2 本案の理由
 被申立人は、本件退去強制令書発付処分は、法24条4号イ所定の退去強制事由に該当し、適
法であるから、「本案について理由がないとみえるとき」に該当すると主張する。
 法24条4号イに該当するには、「第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する
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活動又は報酬を受ける活動」を「専ら行っている」と「明らかに認められる者」であることが必
要であるので、以下、各要件について検討する。
ア 「第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」
を行っているか
申立人は、現在「留学」の在留資格を得て本邦に在留しているところ、法19条1項2号に
よれば、同条2項の許可を受けて行う場合を除き、収入を伴う事業を運営する活動又は報酬
を受ける活動を行ってはならないと定められている。
申立人は、本件クラブでの就労について同条2項の許可を得ていない(疎乙21)。また、申
立人は、平成15年5月8日から同年6月19日までの間、合計17日にわたり本件クラブにおい
てホステスとして稼働し、その対価として合計15万7300円の報酬(うち4万7250円は受領
済み)を得たのであるから、本件クラブにおける稼働は-定の役務の提供に対する対価を受
ける活動といえ、申立人は「報酬を受ける活動」を行っていたと認められる。
よって、「第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受け
る活動」を行っているとの要件を満たすことは否定できない。
イ 「専ら行っている」といえるか
「専ら行っている」といえるためには、当該活動の継続性及び有償性、本来の在留資格に基
づく活動をどの程度行っているか等を総合的に考慮して判断し、外国人の在留目的の活動が
実質的に変更したといえる程度に資格外活動を行っていることを要すると解される。
本件において、申立人は、約40日の間に17日間稼働しているが、その稼働時間は週2日か
ら3日で、1日約5時間から6時間30分であり、申立人の日常生活においてそれほど長時間
を占めていたわけではない。また、申立人が本件大学での春学期に履修した授業は、毎週月
曜日から金曜日まで毎日あり、授業が多い日で1日4コマ(1コマ1時間30分)であった。
申立人は、本件クラブで稼働した木曜日及び金曜日は午後6時15分まで授業に出席し、本件
クラブには午後8時過ぎに出勤し、午後8時30分から稼働していたものであり、勉学と本件
クラブでの就労を両立させていたのであって、本件クラブでの就労により本件大学での勉学
に特に支障が生じていたとする事情も見受けられない。むしろ、前記のとおり、申立人は8
割方授業に出席して単位をほぼ取得し、そのうち3科目については優秀な成績を修めたこと
からすれば、申立人が在留資格「留学」の活動を十分行っていたことが推認できる。
また、申立人の本件クラブでの就労による報酬は合計15万7300円であり、そのうち実際に
受領した4万7250円については生活費に充てられた。しかし、前記のとおり、本件大学入学
時から春学期終了までに申立人が支払った学費及び生活費は合計約100万円であり、その大
半は両親が負担していること、申立人が本件クラブでの就労で得た報酬は、未払分を含めて
も学費及び生活費に比較して必ずしも多額とはいえないことからすれば、本件クラブでの就
労で得た報酬は申立人の生活費等の補完として使用されたにすぎない。さらに、今後必要と
なる本邦での生活費及び学費についても、両親が援助するとの約束がされている(疎甲4)。
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以上のとおり、申立人の本件クラブでの稼働時聞及び報酬額並びに申立人の就学状況から
すれば、申立人の在留目的が留学から就労に実質的に変更したといえる程度に資格外活動を
行っているとは速断できず、現段階における疎明資料によっては、「専ら行っている」と認め
ることはできない。
ウ 「明らかに認められる」かについて
「明らかに認められる」とは、証拠資料、本人の供述、関係者の証言等から、当該資格外活
動を専ら行っていたことが明らかに認められることであるが、前記のとおり、申立人が専ら
資格外活動を行っていたとは認め難く、そのことについて本件疎明資料から明らかに認めら
れるとは到底いえない。
 結論
以上のとおり、法24条4号イ該当性については現段階で速断することはできず、「本案につ
いて理由がないとみえるとき」とはいえない。

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