損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
平成15年(ネ)第531号、第2289号(原審:大阪地方裁判所平成13年(ワ)第7204号)
控訴人(附帯被控訴人):国、被控訴人(附帯控訴人):A
大阪高等裁判所第2民事部(裁判官・林醇・小西義博・浅見宣義)
平成15年12月11日
判決
主 文
1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の、附帯控訴費用は附帯控訴人(被控訴人)の、各負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。
 上記取り消しに係る被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨等
 原判決中、附帯控訴人(被控訴人)敗訴部分を取り消す。
 附帯被控訴人(控訴人)は、附帯控訴人(被控訴人)に対し、原判決主文1項に加え、180万円
及びこれに対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は、第1、2審とも附帯被控訴人(控訴人)の負担とする。
 仮執行宣言
(以下、控訴人(附帯被控訴人)を「控訴人」と、被控訴人(附帯控訴人)を「被控訴人」と表示する。)
第2 事案の概要
1 本件は、ウガンダ共和国の国籍を有し 法務省入国者収容所西日本入国管理センター(以下「本
件センター」という。)に収容されていた被控訴人が、本件センター職員から臀部を触られるセク
シャルハラスメントにあたる行為を受けたほか、これに抗議する等したところ、本件センター内
にある保護室に連行される途中に、本件センター職員から、床へ押し倒され、背中を蹴り付けら
れるなどの暴行を加えられて、その後、本件センター内にある保護室や単独室に隔離され、また、
上記暴行から保護室に収容された後も合計約45分間金属手錠を施されたこと等が違法行為に該
当するとして、国家賠償法1条1項に基づき、控訴人に対し、慰謝料200万円及びこれに対する違
法行為後である平成13年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求めた事案である。
原判決は、被控訴人が本件センター職員から暴行を受けたことを一部認め、控訴人に対し、20
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万円及びこれに対する平成13年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命
じたところ、控訴人が控訴を、また、被控訴人が附帯控訴をそれぞれ提起した。
その余の事案の概要(基礎となる事実、当事者の主張)は、原判決3頁1行目の「特別処遇担当
総括」を「特別処遇担当統括」と、4頁8行目の「地方入局管理局長」を「地方入国管理局長」と、
13行目の「他の収容者」を「他の被収容者」と、5頁3行目、6行目、7行目、10行目及び13行目
の各「処遇担当総括」をいずれも「処遇担当統括」と各改めるほかは、原判決「事実及び理由」中
の「第2 事案の概要」2ないし4(2頁14行目から9頁24行目まで)記載のとおりであるから、
これを引用する。
2 当審における当事者の補足主張
(控訴人)
被控訴人は、本件センターの入国警備官らが制圧を開始した後も、なお、反撃の可能性が高く、
仮にそうでないとしても、被控訴人の抵抗を完全に抑圧する高度の必要性があったこと、本件セ
ンターでは、当時、わずか15名の入国警備官によって被収容者193名を看守していたところ、そ
のうちの9名が被控訴人の制圧のために動員された結果、本件センターの監視が手薄となり、保
安及び平穏の確保の観点から速やかな制圧が必要であったこと、当て身は典型的な逮捕術として
制圧の際に一般的に使用されている適切な手段であるところ、Bは被控訴人が激しい抵抗を続け
ていたために当て身を行ったのであり、その回数も3回だけであり、また、Cも、後ろ手に手錠を
かけるに当たり脱臼を避ける目的で1回だけ当て身を行ったのであり、いずれも受傷に及ばない
程度のものであることから、BやCによる被控訴人に対する各有形力の行使は、正当な職務行為
の範囲を逸脱するものではない。
(被控訴人)
 セクシャルハラスメントに当たる行為について
Dは、右手の1本か2本の指を、被控訴人の尻の割れ目の部分に入れるような感じで、肛門
部分を突き上げるように触った。Dは、被控訴人を励ますつもりで被控訴人の尻の辺りを軽く
1回叩いただけであり、やましい感情など一切持っていなかったと弁解するが、被控訴人から
セクシャルハラスメントであると発言されるや直ちに被控訴人に対して不快に感じたのであれ
ば謝罪すると述べたのであるから、Dの上記弁解は信じがたく、他方、被控訴人は、その行為を
受けた直後から多数回にわたって本件センターに対し謝罪や幹部面接、マスコミ・警察との電
話連絡を要求しているのであるから、セクシャルハラスメントがあったことは明らかである。
 隔離行為について
本件センターは、被控訴人がDのセクシャルハラスメントに関して幹部面接や警察との電話
連絡を要求したことに対し、事案の解明に非協力的で、最終的に警察への電話を不許可とした
上、被控訴人に対し帰室を命じたものであるから、これは正当な職務行為ということはできず、
このような正当な職務行為に当たらない帰室命令に対して被控訴人が抗議することは当然のこ
とであり、これをもって職員の職務執行に反抗し、または妨害すること(処遇規則18条1項2
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号)に当たらないことは明らかである。したがって、隔離①(単独A3号室への隔離)は違法で
ある。
そして、隔離②(保護室への隔離)は、違法な隔離①に引き続くものというだけでなく、被控
訴人の正当な抗議行為を処遇規則18条1項に当たるものとする点でも違法である。
さらに、隔離③(単独室で5月16日まで継続した隔離)は、被控訴人が行っていたDのセク
シャルハラスメントに対する抗議行為を、隔離という懲罰的な手段を用いて封じ込めようとし
たものであり、前同様に違法である。しかも、Eは、被控訴人が拘禁反応を起こす可能性がある
ことを5月7日の段階で認識し、また、同月8日に被控訴人を診察したF医師も、異常行動が
あればすぐに同医師に連絡するよう指示していたところであるが、本件センターは、被控訴人
に同月13日奇行に及ぶなどの拘禁反応の症状が現れたにもかかわらず、適切な治療をしないま
ま隔離を継続しており、この点でも、隔離③は違法である。
 金属手錠使用について
入国警備官らによる制圧行為自体が違法であるから、その際の戒具使用は違法であるし、保
護室に隔離後は、被控訴人にもはや自傷他害や逃亡のおそれがないことは明らかであるし、そ
の後、被控訴人はセンター職員と冷静に会話を交わしているのであるから、保護室に隔離した
後も金属手錠を使用したことは違法である。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する請求は、20万円及びこれに対する平成13年5月17日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由
がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第
4 当裁判所の判断」1ないし5(10頁2行目から18頁23行目まで)記載のとおりであるから、
これを引用する。
1 原判決10頁22行目の「Dは、」の次に「被控訴人と一緒にその居室である共同B8号室前まで
同行し、」を加え、同11頁6行目の「作成するので」の次に「Gが」を加え、同12頁8行目の「同日
午後5時42分頃、」を削除し、同13頁13行目の「H’」を「H」と、同頁17行目の「右下腹部辺り」
を「下腹部辺り」と、同頁25行目「I処遇上席」を「I処遇首席」と各改め、同14頁8行目の「述
べられたため、」の次に「また、被控訴人から反省文の提出があったことから、」を加える。
2 同15頁7行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「また、被控訴人は、Dが、被控訴人を励ますつもりで被控訴人の尻の辺りを軽く1回叩いただ
けであり、やましい感情など一切持っていなかったと弁解するが、被控訴人からセクシャルハラ
スメントであると発言されるや直ちに被控訴人に対して不快に感じたのであれば謝罪すると述べ
たのであるから、Dの上記弁解は信じがたく、他方、被控訴人は、その行為を受けた直後からDの
行為がセクシャルハラスメントであると主張し、多数回にわたって本件センターに対し謝罪や幹
部面接、マスコミ・警察との電話連絡を要求しているのであるから、セクシャルハラスメントが
あったことは明らかである旨主張する。
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しかし、前記のとおり、Dは、被控訴人から「これセクシャルハラスメントですね。」等と発言
されたため、被控訴人と一緒にその居室である共同B8号室前まで同行し、上記の弁明・謝罪を
したものであり、また、証拠(乙3、4、証人D)によれば、上記居室前において被控訴人から幹
部面接を求められたDは、A見張室まで取りに戻った後、居室にいる被控訴人に対し申出書を交
付したことが認められるのであり、この一連の経過に照らすと、被控訴人が不快感を示したこと
に対し、Dが、自らの行為が被控訴人に誤解を与える結果となったと認識して謝罪することはな
んら不自然なことではないし、被控訴人がDの行為をセクシャルハラスメントであると受け止
め、その後に謝罪要求や抗議行動を続けたとしても、そのことが、直ちにセクシャルハラスメン
トがあったことの根拠となるものともいい難く、前記の認定事実、特に、Dに動機がないこと、他
の入国警備官や被収容者がいるというセクシャルハラスメントに及びにくい状況下での出来事で
あったことに照らし、被控訴人の上記主張は、採用することができない。」
3 同16頁7行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「被控訴人は、被控訴人がDのセクシャルハラスメントに関し幹部面接や警察との電話連絡を
要求したことに対し、本件センターは、事案の解明に非協力的で、最終的に警察への電話を不許
可とした上、被控訴人に対し帰室を命じたものであり、これは正当な職務行為ということはでき
ず、このような正当な職務行為に当たらない帰室命令に対して被控訴人が抗議することは当然の
ことであり、これが処遇規則18条1項2号に当たらないことは明らかであり、隔離①(単独A3号
室への隔離)は違法である旨主張する。しかし、本件センターにおいては被控訴人からの要求に
応じて6回に及ぶ幹部面接を実施し、事情を聴取しているのであって、本件センターが事案の解
明に非協力的であったということはできず、また、Eは、警察に連絡するのであれば、友人か弁護
士に相談するか、警察に手紙を出すように指示した上、必要性がないとして警察への電話連絡を
不許可としたものであり、処遇規則、処遇細則に照らしてこれらの行為が不当であるということ
はできないから、被控訴人に帰室を命じたことが正当な職務行為であることは前記認定のとおり
であり、被控訴人の上記主張は採用することができない。」
4 同17頁6行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「被控訴人は、隔離②は、違法な隔離①に引き続くものというだけでなく、被控訴人の正当な抗
議行為を処遇規則18条1項に当たるものとする点でも違法である旨主張するが、これを採用する
ことができないのは、前記で認定判断したとおりである。」
5 同17頁13行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「被控訴人は、隔離③は、被控訴人が行っていたDのセクシャルハラスメントに対する抗議行為
を、隔離という懲罰的な手段を用いて封じ込めようとした点で違法であるだけでなく、被控訴人
には5月13日奇行に及ぶなどの拘禁反応の症状が現れたにもかかわらず、本件センターは適切な
治療をしないまま隔離を継続した点でも違法である旨主張する。
しかし、Dの行為がセクシャルハラスメントといえないことはすでに述べたとおりである上、
被控訴人は、単独室において、興奮状態で、大声を出し、また、鉄格子を叩くといった行動に出て
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おり、また、保護室へ連れて行かれる際にも抵抗して暴れたのであり、これら一連の経過に照ら
すと、被控訴人に対し、なお、隔離を継続する必要があったことは明らかである。
また、前記のとおり、本件センターでは、被控訴人に対し、隔離③の間、平成13年5月13日及
び同月17日を除き、医師の診察を受けさせているのであるから、適切な治療をしないまま隔離を
継続したということはできない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。」
6 同17頁末行の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「被控訴人は、入国警備官らによる制圧行為自体が違法であるから、その際の戒具使用は違法で
あるし、保護室に隔離後は、被控訴人にもはや自傷他害や逃亡のおそれがないことは明らかであ
るし、その後、被控訴人はセンター職員と冷静に会話を交わしているのであるから、保護室に隔
離した後も金属手錠を使用したことは違法である旨主張する。しかし、前記認定のとおり、本件
センターの職員が被控訴人に対し制圧行為に及んだこと自体は正当であり、また、手錠使用に至
るまでの被控訴人の言動に照らすと、金属手錠を45分間継続したことを違法ということはできな
い。」
7 同18頁15行目の「右下腹部辺り」を「下腹部辺り」と改め、同18行目の末尾に改行の上、次のと
おり加える。
「控訴人は、被控訴人は、本件センターの入国警備官らが制圧を開始した後も、なお、反撃の可
能性が高く、仮にそうでないとしても、被控訴人の抵抗を完全に抑圧する高度の必要性があった
こと、本件センターでは、当時、わずか15名の入国警備官によって被収容者193名を看守してい
たところ、そのうちの9名が被控訴人の制圧のために動員された結果、本件センターの監視が手
薄となり、保安及び平穏の確保の観点から速やかな制圧が必要であったこと、当て身は典型的な
逮捕術として制圧の際に一般的に使用されている適切な手段であるところ、Bは被控訴人が激し
い抵抗を続けていたために当て身を行ったのであり、その回数も3回だけであり、また、Cも、後
ろ手に手錠をかけるに当たり脱臼を避ける目的で1回だけ当て身を行ったのであり、いずれも受
傷に及ばない程度のものであることから、BやCによる被控訴人に対する各有形力の行使は、正
当な職務行為の範囲を逸脱するものではない旨主張する。しかし、被控訴人は、前記のとおり、単
独A3号室から出る際にはおとなしくEらに従って歩行していたこと、被控訴人は、同室から数
メートル連行されたところで突然、被控訴人の右手を抱えていたJの手を振り解こうとして右肘
を高く挙げるとともに、身体を右側にひねって強く抵抗したのであるが、被控訴人はJを現実に
殴ってはおらず、これをJらに対し殴るなどの攻撃を加えるものと断定することはできないし、
入国警備官らが被控訴人を仰向けに押し倒した上、8人がかりで被控訴人を取り押さえたのであ
るから、被控訴人が、手足を動かして抵抗しているとはいえ、反撃できる余地はほとんどなく、も
はや下腹部辺りに膝を落とす行為や手拳で腰部や腕を殴るという危険を伴う行為に及ぶ必要に乏
しいというべきであり、制圧行為としては程度を越えたものといわざるを得ない。また、本件セ
ンター内の保安及び平穏の必要性があったとしても、下腹部辺りに膝を落とすといった行為や手
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拳で殴るという行為まで正当化できるものではない。
したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。」
第3 結論
以上の次第で、被控訴人の請求は、20万円及びこれに対する違法行為後である平成13年5月17
日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容すべきで
あるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、
本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。

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