退去強制令書執行停止申立事件
平成15年(行ク)第45号
申立人:A、被申立人:大阪入国管理局主任審査官
大阪地方裁判所第7民事部(裁判官:川神裕・山田明・一原友彦)
平成15年12月24日
決定
主 文
1 被申立人が申立人に対し平成15年10月30日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本
案事件(当庁平成15年(行ウ)第100号)の第1審判決言渡しの日から30日を経過するまで停止
する。
2 申立費用は被申立人の負担とする。
事実及び理由
第1 申立ての趣旨及び当事者の主張
本件申立ての趣旨及び理由は別紙1執行停止決定申立及び別紙3申立人意見書に、これに対す
る被申立人の意見は別紙2被申立人意見書及び別紙4被申立人意見書にそれぞれ記載のとおり
である。なお、B(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)の各申立ては、平成15年12月4日、
取り下げられた。
第2 当裁判所の判断
1 前提事実
本件疎明資料によれば、次のとおり加除訂正した上、別紙2被申立人意見書第2の2事案の概
要及び第3基礎的事実関係記載の各事実が一応認められる。
 6頁1行目「入国後から」から4行目「ところ」までを削除する。
 7頁1行目「同年6月」から2行目「かかわらず、」までを削除する。
 7頁14行目「入国後」から16行目「していた。」までを削除する。
 8頁17行目「申立人A」から19行目「いたところ、」までを削除する。
 第3の末尾に次のとおり加える。
「3 申立人は、平成15年11月11日、本件退令発付処分の取消しを求めて本案訴訟(当庁平
成15年(行ウ)第100号)を提起するとともに、本件申立てをした。
4 B及びCの仮放免許可は、指定住居を大阪市《住所略》とし、平成15年11月21日午後5
時までの期間とするものであったが、同日付けで仮放免期間延長許可がされた。B及びCは、
現在、上記指定住居において、申立人の母であるD(以下「D」という。)及びその娘E(10歳。
以下「E」という。)と同居し、同人らの養育監護を受けている。」
2 回復困難な損害を避けるための緊急の必要性について
- 2 -
 送還部分について
本件退去強制令書の執行により申立人がタイへ送還されると、申立人の意に反して送還する
点で、そのこと自体が申立人にとって重大な損害となる。また、仮に本案訴訟において請求が
認容されても、申立人が当然に再入国できるなど、その送還前に置かれていた申立人の原状を
回復する制度的保証はない。さらに、訴訟代理人が選任されているとはいえ、送還されれば、申
立人と訴訟代理人との間の訴訟追行に関する十分な打ち合わせができず、申立人本人が出廷し
法廷において尋問に応じ陳述することが極めて困難となるなど、その訴訟活動に著しい支障を
来すことも予想できる。
以上の事情を考慮すると、本件強制退去令書に基づく送還によって申立人が被る損害は、原
状回復が不可能又は困難な損害であって、しかも、金銭賠償による損害の回復をもって満足す
ることを受忍させることが相当でないというべきであるから、回復困難な損害に該当する。そ
して、このような回復困難な損害を避けるためには、本件退去強制令書に基づく執行のうち送
還部分を停止すべき緊急の必要がある。
 収容部分について
前記のとおり、申立人の子で6歳のB及び4歳のCは、現在、仮放免許可により大阪市《住所
略》に居住し、申立人の母であるDらに養育監護されていることが認められるところ、同幼児
らは、これまで母である申立人により養育監護されてきたものであり、人格形成において重要
な幼児期において長期間母親の監護から離れることは、同幼児らの身体的及び精神的発達に重
大な影響を与えかねない。特に、4歳のCにおいては、現在、母親と離れていることによる不安
感等には大きいものがあり(疎甲28、31、32)、長期間母親と離れることによる情緒等精神面
における発達や人格形成に悪影響を及ぼす懸念も払拭できない。加えて、Dは、悪性リンパ腫
を患い、高血圧症、自律神経失調症、C型慢性肝炎、変形性頸椎症、変形性腰椎症により通院加
療を継続しており、生活保護を受けている上、症状増悪時には家事・育児に困難を来たし、他
者の介助を要する状態であって(疎甲6、8ないし10、26、27)、単独で同幼児らの十分な養育
監護ができない状況にあることを認めることができる。このため、申立人の妹に当たる10歳の
Eが、Dの体調の悪いときなどは、小学校を休み、食事の仕度をしたり面倒を見たりして同幼
児らの監護に当たっており、E自身に学習の遅れ等を生じている状況にあることが認められる
(疎甲29ないし31)。これらの点に照らせば、申立人の収容が継続されることにより、申立人の
子や家族らの生活・発育等に深刻かつ重大な影響が生じかねず、これらは同幼児らの親権者で、
DやEの扶養義務を負う申立人にとっても重大な損害というべきものである。上記損害は、原
状回復が不可能又は困難な損害であって、かつ、金銭賠償により受忍すべきものとはいい難い
ものと認められる。
被申立人は、同幼児らの同時収容や保護施設入所の可能性を指摘するが、同幼児らを長期間
収容施設に収容したり、家族と離れて保護施設に入所させた場合の同幼児らの発育等に対する
影響は計り知れないものがあり、到底、回復困難な損害であることを否定できる理由とはなら
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ない。
さらに、疎明資料(疎乙13ないし15、17)によれば、申立人が、仮放免許可後、同幼児らと共
に同幼児らの父親であるFの住居に寝泊まりしていた事実を認めることができる。しかしなが
ら、上記Fの住居とDらが居住する指定住居とはさほど離れた場所にあるわけではなく、申立
人提出の疎明資料(疎甲23ないし25)によれば、申立人及び同幼児らが上記指定住居に現在す
ることも多いことが認められ、また、同幼児らは、遅くとも平成14年8月以降、平成15年10月
に申立人の仮放免が取り消された後現在に至るまで、一貫して大阪市《住所略》所在のa保育
所に通所しており(疎甲24、乙5、7、8)、同保育所からは、上記Fの住居より指定住居であ
るDの住居の方が近いことからすれば、申立人らがDやEとも極めて緊密な交渉を持っていた
ことが認められるところであり、上記指定住居が申立人らの生活の本拠地であった可能性が全
くないわけではない。少なくとも、申立人が許可なく住居を変更したことで、入管当局におい
て申立人との連絡が困難となったり、身柄の確保に困難が生じるなど、仮放免許可において指
定住居を定めた趣旨に反して重大な支障が生じたとは認め難いところである。本件退去強制令
書に基づく執行のうち収容部分について停止したとしても、申立人が逃走するなどして将来退
去強制が不可能又は著しく困難となるおそれは少ないということができる。
他に、上記回復困難な損害の認定を覆すに足りる事実の疎明はなく、このような回復困難な
損害を避けるためには、本件退去強制令書に基づく執行のうち収容部分についても停止すべき
緊急の必要があるというべきである。
3 本案の理由について
申立人が主張する種々の家族状況等を考慮すれば、在留特別許可を付与することなく申立人の
特別審理官判定に対する異議申出に理由がないとした大阪入管局長の裁決に裁量権を逸脱した違
法があるという申立人の主張が、現段階において明らかに失当であるとまではいえず、本件につ
いて、本案について理由がないとみえると断定することはできない。
4 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ
本件退去強制令書に基づく収容の執行停止に関し、被申立人が公共の福祉に重大な影響を及ぼ
すおそれがあるとして主張するところは、一般的な影響をいうものであり、何ら具体性がなく、
本件において退去強制令書に基づく収容を停止すると公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが
あるとの事情を認めるに足りる疎明もない。
5 結論
以上によれば、本件申立ては理由はあるから認容することとし、主文のとおり決定する。

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