退去強制令書執行停止決定に対する即時抗告事件
平成15年(行ス)第20号(原審:名古屋地方裁判所平成15年(行ク)第17号)
抗告人:名古屋入国管理局主任審査官、相手方:A
名古屋高等裁判所民事第3部(裁判官:青山邦夫・田邊浩典・榊原信次)
平成16年2月2日
決定
主 文
1 本件抗告を棄却する。
2 申立費用は抗告人の負担とする。
理 由
1 抗告の趣旨及び理由
 抗告人の抗告の趣旨は、「1 原決定のうち、収容部分の執行停止を認めた部分を取り消す。2
 上記部分につき相手方の執行停止申立てを却下する。」というものであり、抗告の理由は、別紙
「抗告理由書」のとおりである。
 抗告人の主張に対する相手方の反論は、別紙「準備書面(平成15年12月19日付け)」のとおりで
ある。
2 事案の概要
 相手方は、旧ビルマ連邦(現ミャンマー連邦)において出生した者である。
 相手方は、法務大臣に対し、難民認定申請をしたところ、法務大臣は難民の認定をしない旨の
処分した。
 また、相手方は、特別審査官が、相手方には不法入国の退去強制事由がある旨の入国審査官の
認定に誤りがないと判定したことについて、出入国管理及び難民認定法49条1項に基づき法務大
臣に異議の申出をしたところ、法務大臣は、これを理由がないと裁決した。
 抗告人は、法務大臣の上記裁決に基づいて、相手方に対して平成14年1月18日に退去強制令書
(以下「本件退去強制令書」という。)を発付した。
 そこで、相手方は、法務大臣及び抗告人に対し、相手方は難民の地位に関する条約上の難民に
当たるなどと主張して、上記法務大臣の難民不認定処分、上記裁決及び本件退去強制令書の発付
の取消しを求める訴訟を提起した(名古屋地方裁判所平成14年(行ウ)第19号難民不認定処分取
消等請求事件)。
 相手方は、上記訴えの提起とともに、本件退去強制令書に基づく執行を本案判決確定に至るま
で停止する旨の申立てをした(名古屋地方裁判所平成14年(行ク)第7号執行停止申立事件)と
ころ、同裁判所は、平成14年5月14日、本件退去強制令書に基づく執行は、送還部分に限り、本
案判決の第1審判決の言渡しの日から1か月を経過する日まで停止する旨の決定をした。
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 名古屋地方裁判所は、上記訴訟事件につき、平成15年9月25日、法務大臣の上記裁決及び本件
退去強制令書の発付を取り消す旨の判決をした(以下「本件第一審判決」という。)。同判決に対し、
抗告人は、控訴した。
 相手方は、上記執行停止申立事件において、送還部分に限り、本件第一審判決言渡しの日から
1か月を経過する日(平成15年10月25日)まで停止するものとされていたため、本件第一審判決
後、本件退去強制令書に基づく執行は本案判決が確定するまで停止する旨の申立てをした。
 原審は、相手方の上記申立を認容する旨の決定をしたところ、抗告人が、原決定のうち、収容部
分の執行停止を認めた部分の取消しを求めて、即時抗告をした。
3 当裁判所の判断
 「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき(行政事件訴訟法25条2項)の該当性
について
ア 出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)52条5項に定める収容は、強制退去令書の
発付を受けた者について送還可能の時までその者の送還を確実に実施することができるように
するため、入国者収容所等の場所に収容してその身体を拘束するものであり、収容部分の執行
により被収容者が入国者収容所等に収容され、その身体の自由が制限される等の不利益を受け
ることは、法の当然に予定しているところであるというべきである。
そして、このように収容部分の執行により当然に生ずる身体的拘束による自由の制限等の不
利益は、それのみでは、いまだ行政事件訴訟法25条2項にいう「回復の困難な損害」に当たる
ものとはいえず、同項にいう「回復の困難な損害」があるというためには、収容部分の執行に
より当然に生ずる上記のような身体的拘束による自由の制限等の不利益を超え、収容に耐え難
い身体的状況があるとか、収容によって被収容者と密接な関係にある者の生命身体に危険が生
ずるなど、収容自体を不相当とするような特別の損害があることを要するものと解すベきであ
る。
イ 一件記録及び審尋の全趣旨によれば、相手方は、西日本入国管理センターに収容中に、拘禁
反応等により体調を崩すなどしたことから、平成14年6月3日、仮放免許可により収容を解か
れたこと(以下「本件仮放免許可」という。)、その際保証金として50万円を納付したこと、仮放
免の条件として、住所の指定、行動範囲の制限の他に、出頭を命じられた場合には指定された
日時・場所に出頭することという条件が付されていたこと、上記条件に違反したときは、仮放
免を取り消し、保証金の全部又は一部を没収することがあること、仮放免の期間は当初は平成
14年7月2日までとされていたところ、その後、平成16年2月19日まで延長されたことが認め
られる。
上記のとおり、相手方は、西日本入国管理センターに収容中に拘禁反応を起こしたことによ
り、本件仮放免許可を受けたものであるから、再度収容されることになった場合、再度拘禁反
応の症状が発生する可能性が高いと認められる。
収容(拘禁)が違法なものであった場合、それにより被った損害は原則として金銭により賠
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償されることになるところ、拘禁反応は精神的なものであり、拘禁反応により精神に変調を来
した場合には、慰謝料等により損害を償うとしても、精神状態について回復をもたらすわけで
はなく、しかも精神的なものであるから、かかる損害は回復困難な損害に該当すると認めるの
が相当である。
なお、相手方は、上記のとおり仮放免の許可を受けているが、それによって、収容処分の執行
停止の申立てをする利益・必要性がなくなるものではない。
ウ よって、相手方が収容された場合には、相手方は「回復の困難な損害」を被ると認められる。
 「本案について理由がないとみえるとき」及び「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある
とき」(行政事件訴訟法25条3項)の該当性について
ア 行政事件訴訟法25条3項は、「本案について理由がないとみえる」ことを、執行停止申立ての
消極的要件として規定するが、同規定は、申立人の法的利益の救済と行政目的ないし公共の利
益の保持との均衡を図る趣旨に出たものと解すべきであるから、上記「本案について理由がな
いとみえるとき」とは、「勝訴の見込みがないとき」や「敗訴に見込みがあるとき」を意味する
ものではなく、執行停止の申立てについての審理において疎明されたところから、本案につい
ての申立人の主張が一応理由がないと認められるときをいうものと解される。
本件においては、本件第一審判決において、本件退去強制令書の発付が取り消されていると
ころ、一件記録によっても、同判決が明らかに誤りであるとまでは認められないから、本案に
ついての申立人の主張が理由がないと認めることはできない。
イ また、本件において本件退去強制令書に基づく執行を停止すると公共の福祉に重大な影響を
及ぼすおそれがあるとの事情をうかがわせる十分な疎明はない。
 抗告人の主張について
抗告人は、相手方は、50万円の保証金を納付して、本件仮放免許可を受けているところ、執行
停止決定が出されたことによって、今度、抗告人が相手方に対して出頭を求めることは許される
のか、延長期間を超えた場合にはいかなる措置を講じるべきか、保証金を没収することが可能で
あるか等の実務上様々な問題が生じる旨主張する。
しかし、法54条に基づく仮放免の手続と行政事件訴訟法25条に基づく執行停止の手続は、別個
の手続であり、仮放免の許可を受けている者について行政事件訴訟法25条に基づく執行停止の申
立てを否定する規定はなく、これを否定する合理的理由もない。
したがって、抗告人の主張は理由がない。
4 よって、原決定は結論において正当であり、本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文
のとおり決定する。

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