難民認定をしない処分取消請求事件(平成12年事件)
平成12年(行ウ)第33号 
退去強制令書発付処分取消等請求事件(平成13年事件)
平成13年(行ウ)第277号
退去強制令書発付処分無効確認請求追加的併合事件(平成15年事件)
平成15年(行ウ)第608号 
原告:A、平成13・15年事件被告:東京入国管理局主任審査官、全事件被告:法務大臣
東京地方裁判所民事第3部(裁判官:藤山雅行・廣澤諭・新谷祐子)
平成16年2月19日
判決
主 文
1 被告法務大臣が原告に対し平成10年8月25日付けでした難民の認定をしない処分を取り消す。
2 被告東京入国管理局主任審査官が原告に対し平成13年7月9日付けでした退去強制令書発付
処分を取り消す。
3 原告の本件訴えのうち、被告法務大臣が原告に対し平成13年6月22日付けでした出入国管理
及び難民認定法49条1項に基づく原告の異議申出は理由がない旨の裁決の取消し及び無効確認
を求める部分を却下する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項、第2項同旨
2 被告法務大臣が平成13年6月22日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1
項に基づく原告の異議申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
3 被告法務大臣が平成13年6月22日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1
項に基づく原告の異議申出は理由がない旨の裁決が無効であることを確認する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、ミャンマー国籍を有する外国人である原告が平成9年2月3日付けでした出入国管理
及び難民認定法(以下「法」という。)61条の2に基づく難民認定申請(以下「本件申請」という。)
に対し、被告が、原告は難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)及び難民の地位に関
する議定書(以下「難民議定書」という。)にいう難民と認められないとして、平成10年8月25日
に難民に認定しない処分(以下「本件不認定処分」という。)をしたことから、原告が、自らが難民
条約及び難民議定書にいう難民に該当するのに難民に該当しないとしてした本件不認定処分が違
法である旨主張し、本件不認定処分の取消しを求めるものである(平成12年事件)。原告は、被告
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が本件不認定処分の後である平成13年7月9日に、原告の法49条1項に基づく異議申出に理由
がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、原告に対し退去強制令書発付処分(以下「本件
退令発付処分」という。)を行ったことから、平成13年10月9日に、本件裁決及び本件退令発付処
分の取消訴訟を提起し(平成13年事件。なお、この事件において当初から本件裁決の取消しが求
められていたか否かについては、後記のとおり、当事者間に争いがある。また、同事件は、難民の
認定をしない処分取消請求事件と弁論併合されている。)、平成15年10月31日には本件裁決の無
効確認を求める訴えを提起した(平成15年事件)。
2 判断の前提となる事実(認定根拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか当裁判所に顕
著な事実である。)
 原告は、昭和40年《日付略》、ミャンマー(当時はビルマ連邦)ヤンゴン(当時はラングーン、
以下年代を問わず「ヤンゴン」という。)において出生したミャンマー国籍を有する外国人であ
る(乙1)。
 原告は、平成元年11月18日、新東京国際空港に到着し、東京入国管理局(以下「東京入管」と
いう。)成田支局入国審査官に対し、渡航目的「観光」、日本滞在予定期間「15日間」とそれぞれ
外国人入国記録の所定の欄に記入して上陸申請をし(乙2)、同日、平成元年法律第79号による
改正前の法4条1項4号所定の在留資格及び在留期間を30日とする上陸許可を受け、本邦に入
国した(乙1)。
 原告は、在留期間の更新又は在留資格の変更の許可を受けることなく、前記上陸許可の在留
期限である同年12月18日を超えて本邦で不法残留することとなった(乙1参照)。
 原告は、平成5年3月26日、平成6年5月19日、同年12月12日及び平成8年4月24日に、
それぞれ在京ミャンマー大使館において、原告名義の旅券の有効期間の延長許可を受けた(乙
1)。
 原告は、平成9年2月3日、東京入管において、被告法務大臣に対し難民認定申請をした(乙
3)。
 原告は、平成10年5月14日、新宿区長に対して、東京都新宿区《住所略》を居住地として外
国人登録申請をした(乙4)。
 東京入管難民調査官は、平成10年5月18日及び同年6月1日、原告から事情を聴取するなど
の調査をした(乙5、6)。
 被告法務大臣は、平成10年8月25日、「特定の社会的集団の構成員であること」及び「政治的
意見」のために迫害を受けるおそれがあるという申立てについては、これを立証する具体的な
証拠がないので、原告は難民条約第1条A及び難民議定書第1条2に規定する「特定の社会
的集団の構成員であること」及び「政治的意見」を理由として迫害を受けるおそれは認められず、
難民条約及び難民議定書にいう難民とは認められないとして、本件不認定処分をし、同年10月
2日、原告に対し本件処分を告知した(乙7)。
 原告は、平成10年10月7日、被告に対し、本件不認定処分について異議の申出をした(乙8)。
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 東京入管難民調査官は、平成10年11月18日、東京入管第二庁舎において、原告から事情を聴
取するなどの調査をした(乙9の1、2)
 被告は、平成11年9月10日、の異議申出については、原告の難民認定申請につき再検討し
ても、難民の認定をしないとした原処分の判断に誤りは認められず、他に、原告が難民条約上
の難民に該当することを認定するに足りるいかなる資料も見出し得なかったとして、理由がな
い旨の裁決をし、平成12年1月7日、原告に告知した。
 東京入管入国警備官は、平成10年9月21日違反調査を実施した結果(乙11)、原告が法24条
4号ロに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして、同月29日、東京入管主任審査官か
ら収容令書の発付を受け、同年10月2日、同令書を執行し、原告を法24条4号ロ該当容疑者と
して東京入管入国審査官に引渡した。
 被告主任審査官は、平成10年10月2日、原告の請求に基づき、原告に対し仮放免を許可した。
 東京入国審査官は、平成10年10月2日及び同年11月5日、原告について違反審査をし、その
結果、同日、原告が法24条4号ロに該当する旨の認定をし、原告にこれを通知したところ(乙
17)、原告は、同日、口頭審理を請求した。
 東京入管特別審理官は、平成11年3月17日、口頭審理を実施し(乙18)、その結果、特別審理
官は、同日、入国審査官の前記認定に誤りがない旨判定し、原告にこれを通知したところ(乙
19)、原告は、同日、被告法務大臣に異議の申出をした(乙20)。
 被告法務大臣は、平成13年6月22日、原告からの上記の異議の申出については、理由がな
い旨裁決し(本件裁決、乙21)、同裁決の通知を受けた被告主任審査官は、同年7月9日、原告
に本件裁決を告知するとともに、本件退令発付処分をした(乙23)。
3 当事者の主張
 原告
ア 難民条約の解釈基準
ア 難民認定手続を正しく運用するためには、「難民」の定義、立証基準、立証責任、信憑性
などの諸原理について正しい解釈を得なければならない。しかし、我が国の難民認定手続
を定める入管法には、これらの諸原理に関する明文の規定がなく、これらの諸原理を解明
するためには入管法の解釈を要するところであるが、入管法の難民認定制度に関する諸規
定は、我が国が難民条約及び難民議定書を批准したことによりこれらを国内法化するため
に制定されたものであり、その解釈は全面的に難民条約及び難民議定書の解釈に依拠する
ものである。
ことに、難民の意義については、入管法上の「難民」と難民条約及び難民議定書が定める
「難民」とは全くの同義であり、かつ、難民の意義について締約国は何らの留保を付するこ
とも認められていない(難民条約42条1項)から、我が国は難民条約及び難民議定書の定
める難民を「そのまま難民として」認定する義務を負っている。したがって、「難民」の意
義の解釈や、いかなるものを難民として認定すべきかの基準については、全て難民条約及
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び難民議定書の解釈によって導かれなければならない。
以上の理由から、難民条約の解釈は不可欠な作業となる。
イ 難民条約解釈のルール
条約を含む国際法規は、これを批准した締約国間に共通の法規であって、締約国間に客
観的に存在し、締約国を等しく拘束する法秩序となる。したがって、国際法規は締約国ご
との区々の解釈がされるべきではなく、個々の締約国の政策や思惑を超えた国際的に統一
された解釈がされる必要がある。
このような観点からすれば、難民認定手続における諸原理を難民条約の解釈によって導
出するに際しても、その解釈が締約国ごとに独自なものであることは許されず、各締約国
において共通に運用される、統一的かつ普遍的な解釈がされることが難民条約それ自体の
要請であることは明らかである。
「条約法に関するウィーン条約」(以下「条約法条約」という。)31条及び32条は、条約そ
の他の国際法の解釈基準を定めており、同条約がそれまで国際慣習法として成立した解釈
基準を確認したものであるから、難民条約もそれにより定められる解釈基準により解釈さ
れるべきものである。そして、条約法条約31条は、文言解釈ないし文理解釈と称される原
則に依拠し、条約の文言が明らかに不合理な結果や条約の他の部分との整合性を有しない
結果を来したり、締約国の意図するところを明らかに逸脱する場合を除いては、用語の通
常の意味に解釈しなければならないものとし、同32条では、31条の規定による解釈では意
味があいまい又は不明瞭である場合、明らかに常識に反した不合理な結果がもたらされる
場合には、条約の準備作業段階の事情や条約に基づく判例法、同種の他の条約又は類似の
条項に関する裁判例を補足的手段として、解釈を行うべきであると定める。
以上によれば、難民条約は、その条約文や締約国間でされた難民条約の関係合意である
「最終文書の規定」さらには、難民の人権の広範な保障という難民条約の趣旨・目的に照ら
し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解や難民条約を実施する各国の先例等をも
解釈の準則として解釈を行うべきである。
イ 難民認定の要件
ア 難民の定義
難民として認定され、保護されるための該当条項に係る要件は、①本国の外にあること、
②十分に理由のある恐怖、③迫害、④理由であり、これら全ての要件を合わせ満たす必要
があるが、以下、本件で問題となる「国外にいること」以外の3要件につき検討する。
イ 十分に理由のある恐怖
この要件は、「恐怖」という主観的要素と、「十分に理由のある」という客観的要素の双方
を明示的に求めており、当事者の内心及びこれを合理的に裏付ける客観的な事情の両方の
要素が考慮されなければならないが、難民の認定が覊束的なものであることからすれば、
客観的な要素を確定し、その内容を予め明確にすることが必要であり、その指標として、
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申請者の個別的状況、出身国の人権状況、過去の迫害、同様の状況におかれている者の事
情などが考慮されるべきである。
ウ 迫害
迫害とは「国家の保護の欠如を伴う基本的人権に対する持続的若しくは系統的危害」で
あり、迫害の認定をするに当たっては広く、経済的・社会的・精神的自由に対する抑圧や
侵害も検討されなければならず、そのように迫害を広く捉える解釈が、条約法条約の解釈
手法、難民条約「前文」との間での整合性を有するものといえる。
エ 理由
迫害の理由として列挙されている、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員である
こと、政治的意見は、これらのうちいずれか一つ以上があれば足り、このうちの1つであ
るのかいくつの理由を組み合わせるのか、どの1つに該当するのかといったことは申請者
において特定する必要はない。
ウ 立証責任・立証基準
ア 難民認定手続は、申請者の難民該当性に関する事実認定及びあてはめ作業を内容とする
手続であるから、証明に関するルールが明らかにされる必要がある。そして、難民認定申
請を行ったものが本国を捨て、保護の確証のない外国で手続を行うものであること、本来、
対立当事者間の武器対等を前提とした対審構造が予定されたものではなく、非対審構造が
予定されていること、訴訟が過去の事実を認定する手続であるのに対し、難民認定手続は
将来予測的な事実の証明を行うものであること、難民認定機関は、認定者であると同時に
申請者に対する協力者であることが求められていることによれば、訴訟手続における証明
のルールをそのまま導入することは妥当なものではないというべきである。そして、その
証明のルールを検討する際には、締約国各国の判例や先例が重要な参考資料となり、それ
らを重視して、検討を行うべきである。
イ 立証責任
難民認定手続における立証責任の問題は、訴訟手続における立証手続とは異質のもので
あり、訴訟手続における立証責任の概念は妥当しない。そして、我が国の難民認定制度立
法過程での国会の審議における当時の法務省入国管理局長の答弁や法61条の2の3の規
定によれば、同条は、難民認定申請者には身分事項、経歴、迫害の根拠とされる事由につい
ての説明、活動歴、自己又は同じ集団に属する他人若しくは集団自体に対する過去の迫害
の事実、出国から入国の経過、入国後申請に至るまでの経過、入国後の活動状況について
事実を提供する義務を負い、一方で、出身国情報や、申請者が記憶する過去の事件の有無・
内容、同種の理由による我が国への難民認定申請の有無、同種の理由による他国への難民
認定申請事例の有無、申請者の活動を裏付ける資料の収集や申請者の知人・親族等からの
事情聴取などを積極的に行うべきである。
ウ 立証基準
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我が国の難民認定制度は、条約上の難民をそのまま難民として認定することが義務付け
られており、いかなるものが難民として認定されるべきかは、難民条約に従って、その規
定及び解釈により決せられるべきものであり、難民認定の目的は、紛争の解決や法的安定
性の確保ではないから、それらを目的とする訴訟制度のルールを導入する合理的基盤はな
いし、その証明対象は、主観的要素を含み、将来予測を含むものであり、訴訟手続と異なっ
ており、また、判断の誤りにより侵される法益は重大であり、事後的な回復は不可能であ
るから、難民認定手続の立証基準は、訴訟手続との対比からではなく、難民条約の文言に
基づき決せられるべきものであり、難民条約の内容や難民保護の目的、各締約国の運用実
務からみれば、難民性の立証基準としての「十分に理由のある恐怖」とは、客観的な迫害の
可能性ではなく、主観的な「恐怖」に十分な理由があることであり、その「十分な理由」とは、
当該申請者がおかれた状況に、合理的な勇気を有するものが立ったときに、「帰国したら迫
害を受けるかもしれない」と感じ、国籍国への帰国をためらうであろうと評価し得る場合
に、その恐怖に「十分な理由」があるということができる。
エ 信憑性判断
ア 難民認定手続は、難民であることを有権的に確定する行為であるから、認定機関は、個々
の外国人が難民に該当する事実を具備しているか否かを誤りなく判断することが要求され
る。そして、この事実の確定作業において、申請者の申請・供述の信憑性の判断は決定的
な要素となるものである。そして、申請者が証言の全てを裏付ける物証や書証を提出し得
ることがむしろ例外的であるという難民認定手続の特殊性をかんがみれば、信憑性評価の
重要性は一層増すこととなる。
イ このような難民認定手続が取り扱う保護法益の重要性、難民認定における信憑性判断の
もつ重要性から、難民認定機関においては信憑性判断を誤りなく行うことが求められ、難
民認定における信憑性判断の有する、①申請者及び難民認定機関の双方で証拠収集が制限
されているという物理的要因の特殊性、②申請者が本国において現実に迫害を受けてきた
か、あるいは潜在的に迫害の危険を有していることから、しばしば申請者の心的作用に障
害が認められることがあり、また、官憲に対する不信感・警戒心、出身国に残る家族や知
人に危害が及ぶことを避けようとする意識等が存するという心理的要因の特殊性、③申請
者が言語的障害・文化的相違をもち、申請者の言語や概念について審査官の解釈が常に合
致しているとは限らないという文化的要因の特殊性、④難民認定手続について対審構造が
採られていないという構造的特殊性といった特殊性により、信憑性判断は困難で専門的な
作業となっており、これらの特殊性を十分念頭におかねばならず、信憑性判断が無原則な
ものとなれば、難民認定行為の覊束性は無に帰することとなる。
ウ そして、各締約国の信憑性判断の経験上、注意すべき点の共通点をまとめると①疑わし
きは申請者の利益に(灰色の利益の原則)。この原則は、主張の実質的本案審議と申請者の
信憑性評価の両方に適用される。②信憑性についての懸念を申請者や証人に提示し、釈明
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の機会を与えなければならない。③信憑性についての否定的な判定には、証拠中に適当な
根拠がなければならず、申請者の供述は、単なる憶測や推測により排除されるべきではな
い。理由を説明せずに申請者の話を「あり得ない」とするだけでは不十分であり、なぜそ
の証言が合理的にあり得ることと明らかに矛盾するか説明できなければならない。特に矛
盾しない証言を排除する際には注意を払うべきである。④信憑性についての否定的な判定
は、申請の重要な面に基づいて行われるべきである。ただし、主要でないことに関する矛
盾でも、それが重なると申請者の信憑性に疑問を投げかけることになる。⑤証拠を全体と
して、また客観的で偏見のない目で考慮することが重要である。⑥矛盾のない、信憑性の
ある説明については独立した裏付けは必要ではない。⑦信憑性の欠如が理由で認めらない
証拠があっても、必ずしも申請の却下につながるとは限らない。⑧矛盾を見つけるのに過
度の熱意を示してはならない。認定者は矛盾点や信憑性がない証拠などを探し、結果とし
て申請者の信憑性を攻撃するために証拠を調べてはならない。⑨信憑性を評価する際には
事情に通じていなければならない。証言の信憑性と価値は申請者の出身国の状況や法等に
ついて一般的に知られている事実に照らし合わせて評価されなければならない。⑩信憑性
について明確な判定をし、それについて適切な理由が付されなければならない。認定者は
供述の中で信憑性がないようにみえる部分を明確に指摘し、その結論に至った理由も明確
に伝える義務を負う。⑪不真実表示・事実隠ぺいや証言内容の変遷は、信憑性評価に影響
を及ぼすものであるが、人が嘘をつく背景には様々な動機があり得、それ自体は申請の却
下を意味しないし、逆に、申請者の主張の信憑性を裏付ける証拠にもなり得る。⑫常識と
は、歴史的に構築されたものであり、文化によって決定され、それゆえ普遍的でないから、
その評価は重視されるべきではない。⑬手続の特徴を考慮に入れるべきである。難民認定
手続はしばしば迅速で形式張らず、本質的に探求的であり、口頭の証拠のほとんどは通訳
というフィルターを通している結果、認定過程は誤解の可能性に満ちている。申請者の緊
張、トラウマや文化的相違も混乱や誤解を作り出すことがある、⑭信憑性判断の要素とし
て証人の様子に頼るのは避けるべきである。⑮申請の遅延は、そのこと自体決定的な要素
とはならず、申請が遅れた背景事情を追求しなければならない。といったものが挙げられ
る。
オ 難民認定手続と適正手続
行政手続においても憲法上、適正手続の保障があることが認められており、難民認定手続
においても適正手続の保障が及ぶというべきであるところ、我が国の難民認定手続において
は、事後手続としての異議申立ては認められるものの、難民不認定処分を出す前に申請者に
釈明の機会が与えられていない点、処分書に要求されるべき理由が明記されていない点、判
断の主体が直接手続に関与していない点(直接主義違背)において、適正手続を欠くものと
いわざるを得ない。
カ 原告の難民該当性
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ア 原告の供述の信憑性
前記ウウの信憑性評価の注意点に加え、供述の信用性に関する一般原則を勘案すれば、
供述の信憑性の評価に当たっては、些末な事項についていちいち細かい点をとらえて表現
の違いを問題としたり、ましてや、最初からあら探しをするような態度で供述を吟味する
ことは妥当でなく、全体的な供述の自然性や一貫性、重要な部分についての供述の詳細さ、
客観的証拠との符合などに重きをおいて供述をみるべきである。
このような観点から原告の供述をみるに、原告の供述は、基本的な流れにおいて一貫し
ており、とりわけ不自然という点もみられない。特に、原告が仕事を辞めて学生達の民主
化運動に加わる決意をした事件の様子、インセイン刑務所で受けた尋問の様子、原告がデ
モ参加中に発砲を受けた様子などについての供述は、自ら体験したものでなければ語り得
ない具体性、迫真性がある。
さらに、客観的証拠との符合という観点でも、原告のビルマにおける活動の内容は、民
主化運動の歴史的経緯と合致しており、原告の日本における民主化運動の参加についての
供述も客観的証拠により裏付けられている。
被告は、原告の供述の信憑性を疑うべき事情を縷々述べるが、いずれも、前記ウウの注
意点に背を向けて独自の信憑性評価原則に固執し、その信憑性評価を誤ったものというほ
かない。
イ 原告の難民該当性
a 出身国の外にあること
原告はビルマ出身であり、現在日本に在留し当該国の外にある。
b 迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖
原告は、民主化運動の活動家として、1988年に民主化運動に公然と参加し、一度は逮
捕され、拷問を受けたこともある。また、原告が日本におけるビルマ民主化運動の中心
的活動家の一人であることは明らかである。
かかる人物についての迫害の危険性についてみると、ビルマの当時の状況やビルマに
おける民主活動家に対する逮捕・拘禁そして拷問等の迫害の実態にかんがみ、原告がビ
ルマに継続してとどまっていたならば、原告の自由と権利が危害を被る客観的可能性は
十分に認められたというべきであるし、我が国における活動の継続を経た本件不認定処
分時、本件退令発付処分時において、原告がビルマに帰国すれば、逮捕や殺害の危険を
はじめとして、原告の自由と権利が危害を被る客観的可能性は十分に認められたという
べきである。
少なくとも、原告がおかれた状況に合理的勇気を有するものが立ったときに、「帰国し
たら迫害を受けるかもしれない」と感じ、国籍国への帰国をためらうであろうと評価し
得ることは明白である。
したがって、原告には、「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」は
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優に認められる。
c 迫害
原告に及ぶ危害の内容が生命及び身体の自由への脅威を含んでいることは、1988年
以降のビルマにおける民主化に対する弾圧の内容をみれば明らかである。
d 理由
原告は、ビルマにおいても、日本においても、ビルマの現軍事政権に反対し、民主化を
求めて活動してきた結果として、迫害の危険にされされている。したがって、原告には、
政治的意見を理由とする根拠がある。
キ 本件不認定処分の違法
前記アないしカによれば、原告は難民として認められること、及び十分な理由の附記を欠
いている点のいずれからしても本件不認定処分は違法であり取り消されるべきものである。
ク 本件裁決の違法及び無効
ア 前記アないしカのとおり、迫害及び拷問のおそれが認められる原告については、難民条
約33条1項及び拷問及びその他の残虐な非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰
を禁止する条約3条1項に違反しないために、また、人道上の見地からも、被告法務大臣
は、原告に対し在留特別許可をすべきであった。しかし、被告法務大臣はこれをせず、原告
に対して、本件裁決をした。これは、処分の前提たる事実に誤認があったものであり、同裁
決は、取り消されるべきものであり、その瑕疵の重大性にかんがみれば、本件裁決は無効
であるともいえる。
イ 平成13年事件の請求の趣旨の記載について
原告は、平成13年事件訴状において、被告法務大臣を被告とする本件裁決の取消訴訟を
提起したのであるが、請求の趣旨において、その旨の記載が脱漏していた。
事件名を退去強制令書発付処分等取消請求事件と「等」を付していること、当事者目録
において被告主任審査官と列記して法務大臣を被告としていること、訴状の請求原因にお
いて「行政処分の存在」の項で本件裁決の告知を受けたことについて述べていること、請
求原因4項の表題が「本件裁決及び退去強制令書発付の違法性」となっていること、同項
の表題も「原告に対する本件裁決・退去強制令書発付の是非」としていることから、こ
れが単なる脱漏にすぎず、訴状において既に原告が本件裁決の取消しを求めていること
は、一見明白である。
ケ 本件退令発付処分の違法
本件裁決が違法であることにより、本件退令発付処分も当然に取り消されることになる
が、本件退令発付処分は、難民条約33条1項及び拷問等禁止条約3条1項のノンルフールマ
ン原則に違反して、送還先を本国と指定しており、本件退令発付処分は、難民条約及び拷問
等禁止条約に違反する違法なものである。
 被告ら
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ア 難民・迫害の意義
ア 法に定める「難民」とは、難民条約1条又は難民議定書1条の規定により難民条約の適
用を受ける難民をいうところ(法2条3号の2)、同規定によれば、難民とは、「人種、宗教、
国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受け
るおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であっ
て、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するために国
籍国の保護を受けることを望まないもの及び(中略)常居所を有していた国の外にいる無
国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐
怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」とされている。
そして、その「迫害」とは、「通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫
であって、生命又は身体の自由の侵害又は抑圧」を意味し、また、上記のように「迫害を受
けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには、「当該人が迫害
を受ける恐れがあるという恐怖を抱いていたという主観的な事情のほかに、通常人が当該
人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的な事情が存在していること」
が必要である。
イ そして、ここにいう客観的な事情があるというためには、単に迫害を受ける恐れがある
という抽象的な可能性が存するにすぎないといった事情では足りず、当該申請者について
迫害を受ける恐れがあるという恐怖を抱くような個別的かつ具体的な事情が存することが
必要である。すなわち、ある国の政府によって民族浄化が図られていることが明らかな場
合はともかく、そうでなければ、当該政府が特に当該難民認定申請者を迫害の対象とした
ことが明らかになる事情が存在しなければならないのである。そのことは、難民条約及び
議定書が集団全体を一個の難民として認定する手法を採用していないこと、原告が頻繁に
引用するUNHCR作成の難民認定ハンドブックにおいても「各個人の状況はそれぞれの事
案ごとに評価されなければならない」(43項)、「ある特定の人種的集団に属するという事
実のみでは、通常、難民の地位の申請を裏付けるのに十分とはいえない」(70項)、「ある特
定の宗教的社会に属するという事実のみでは、通常、難民の地位の申請を裏付けるのに十
分とはいえない」(73項)、「特定の社会的集団に属するという事実のみでは、通常、難民の
地位の申請を裏付けるのに十分とはいえない」(79項)、「政治犯罪人が難民に該当するか
否かを決定するに当たっては次のような要素が考慮に入れられなければならない。即ち、
申請人の人格、政治的意見、犯罪の動機、犯された行為の性質、訴追の性質及び動機、そし
て最後に訴追がなされる基礎となっている法律の性質がこれである」(86項)とされてい
ることからも明らかである。
イ 難民であることの立証責任は原告にあり、真偽不明な場合は難民とは認定されないこと
ア いかなる手続きを経て難民の認定手続がされるべきかについては、難民条約に規定がな
く、難民条約を締結した各国の立法政策にゆだねられているところ、我が国において法61
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条の2第1項は、「法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申請が
あったときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定(以下「難民の認
定」という。)を行うことができる。」と定め、申請者に対し申請資料として「難民に該当す
ることを証する資料」の提出を求めている(法施行規則55条1項)。この法令の文理からす
れば、難民であることの資料の提出義務と立証責任が申請者に課されていることは明らか
である。
このように、難民不認定処分は、申請者が自ら難民であることを立証できなかったため
に行われる処分であることから、その提出した資料等からも難民ではないと確認される場
合と、難民であるとも難民でないとも確定的には確認できない(真偽不明)場合との双方
を含む概念である。
イ このことは、難民認定処分の処分としての性質からも明らかである。
すなわち、難民認定処分は、当該難民認定申請者(以下単に「申請者」という。)が難民条
約所定の「難民」であるか否かを申請者から提出された資料に基づいて確認し、処分時に
おいて難民であることを認定する行為である。このように難民認定処分は本質的には事実
の確認であるが、法務大臣により難民認定を受けていることが、他の利益的取扱いを受け
るための法律上の要件となっており(法61条の2の5、61条の2の6、61条の2の8)、こ
の点からすると、難民認定処分は、その処分自体が申請者に対して直ちに何らかの権利を
付与するものではないものの、授益処分とみるべきである。
授益処分については、一般に、申請者側に処分の基礎となる資料の提出義務と立証責任
があると解されているのであって、このような難民認定処分の性質からみても、難民認定
の資料は、授益者となるべき申請者が提出すべきものである。
ウ さらに、このことは、難民認定のための資料との距離という観点からみても、合理的で
ある。
すなわち、難民であると認められるためには、前記のとおり、「人権、宗教、国籍若しく
は特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあ
るという十分に理由のある恐怖を有する」ことが立証される必要があり、このような難民
該当性の判断の対象とされる諸事情は、事柄の性質上、外国でしかも秘密裏にされたもの
であることが多い。このような事実の有無及びその内容は、それを直接体験した申請者こ
そが最もよく知ることができる立場にあって、申請者においてこれを正確に申告すること
は容易である。しかも、これらの事実は難民認定を受けるための積極的な事実であって申
請者に有利な事実である。
これに対し、法務大臣は、それらの事実につき資料を収集することがそもそも困難であ
り、ましてや、難民該当性を基礎付ける事実の不存在を立証する資料の収集は不可能に近
い。
仮に、法務大臣にこうした資料収集の義務を負わせるとすると、法務大臣に難民認定手
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続上の過重な負担を負わせ、適正な難民認定ができなくなる恐れが生じる。このような観
点からも、法は、申請者に自らが難民であることを証明する資料を提出する義務を負わせ、
真偽不明な場合には難民不認定処分を行うことができるとしたものと解される。 
ウ 難民認定されるための立証の程度
ア 原告は、難民認定されるための立証の程度は、争訟手続と同様に解することができず、
我が国の訴訟制度において採用されている「合理的疑いを容れない程度の証明」である必
要はない旨を主張するところ、原告の同主張が、難民認定手続において、行政庁である法
務大臣が難民認定申請者の難民該当性を判断する際に当該申請者が尽くすべき立証の程度
を指すものか、不認定処分の取消しを求めた訴訟手続において、原告として尽くすべき立
証の程度を指しているのかは必ずしも明らかではない。
しかしながら、本件においては、原告を難民と認定しなかった被告の判断の適否、すな
わち、原告が本件不認定処分当時において難民と認められるに必要な「十分に理由のある
迫害の恐怖」を有していたかが訴訟の場において争われているのであるから、原告がこの
点について「合理的な疑いを容れない程度の証明」をしなければならないのは当然である。
すなわち、民事訴訟における「証明」とは、裁判官が事実の存否について確信を得た状態
をいい、合理的な疑いを容れることができないほど高度の蓋然性があるものでなければな
らないが、通常人なら誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信で足りる。行
政事件について行政事件訴訟法に定めがない事項については民事訴訟の例によるから、上
記の民事訴訟法の原則は、特段の定めがない限り、行政訴訟における実体上の要件に該当
する事実の証明についても当然当てはまるものである。
以上のような民事訴訟における事実の証明は、実体法の定める全ての要件に共通するも
のであり、特別の定めがないにもかかわらず、特定の類型の事件若しくは特定の事件の特
定の要件に該当する事実に限って証明の程度を軽減することは許されない。しかるとこ
ろ、難民認定手続について、難民条約及び難民議定書には、難民認定に関する立証責任や
立証の程度についての規定は設けられておらず、難民認定に関しいかなる制度及び手続を
設けるか否かについては、締約国の立法政策にゆだねられているが、我が国の法は、難民
認定手続やその後の訴訟手続について、立証責任を緩和する旨の規定は存しない。そうで
ある以上、難民認定手続やその後の訴訟手続について、立証責任を緩和する旨の規定は存
しない。そうである以上、難民認定されるための立証の程度は、難民認定手続においても、
その後の訴訟手続においても、通常の民事訴訟における原則に従うべきであり、難民認定
申請者は、自己が難民であることについて、「合理的な疑いを容れない程度の証明」をしな
ければならない。
イ この点に関し、原告は、いわゆる灰色の利益論を主張するが、原告の主張が独自の法解
釈に基づくもので到底現行法の解釈とし採り得ないことは明らかである。原告の主張する
難民認定手続の特殊性については、いずれも各事案において自由心証の枠内で当該裁判所
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が考慮すべきかどうか検討すれば足りるものであり、法解釈として難民認定の立証基準や
立証責任を原告側に緩和すべき理由はない。現に裁判例をみても、一般の民事訴訟と同様
の立証責任と立証の程度を求めている。
エ 原告が難民とは認められないこと
前記アないしウのとおり、本件不認定処分が違法であるとしてこれを取り消すためには、
原告において、自らが難民であることにつき「合理的な疑いを容れない程度の証明」をしな
ければならないが、本件においては、次の諸点からすると(被告らは、当初他の事情を指摘し
ていたが、口頭弁論終結時に陳述した準備書面においては、次のアないしエを指摘するに
とどまっている。)、このような立証責任論を持ち出すまでもなく、原告が難民でないことは
明らかというべきである。
ア ミャンマー政府が原告を迫害の対象としているとはおよそ考え難いこと
原告は、ミャンマー政府が原告を迫害の対象としているという根拠として、1988(昭和
63)年3月に反政府活動に参加するようになり、デモや集会に参加し同年6月に当局に約
1週間拘束されたこと、同年10月には当局による再度の拘束を恐れてインドへ逃れたこ
と、1989(平成元)年1月に帰国した後もビラを配るなどの反政府活動に従事したこと、
反政府活動家としてリストに登載されていることなどを主張する。
しかしながら、これらを裏付ける客観的な証拠はなく、その指摘する出来事はいずれも
にわかに信じ難いものばかりである上、1989(平成元)年10月10日、本国政府から原告名
義の有効な旅券の発券を受け、同年11月には何の問題もなく出国し、タイを経由して来日
しているばかりか、その際、成田空港において、在日ミャンマー大使館員の息子の出迎え
を受け、平成5年から平成8年までに入国時に使用した旅券の更新手続を4回にわたって
在東京ミャンマー大使館において行っている。原告が、ミャンマー大使館において旅券の
更新手続を行っていることは、原告が本国政府に対して庇護を求めていること、迫害を受
けるおそれや恐怖心など抱いていないこと、本国政府から敵視されていないことの現れで
ある。本国では、原告の両親も平穏に生活していることがうかがわれ、平成10年6月には、
原告が交際していた日本人女性に会うために来日し、無事帰国している。したがって、ミ
ャンマー政府が原告を迫害の対象としていたなどとはおよそ考え難く、「迫害を受けるお
それがあるという十分に理由のある恐怖」を原告が有していたとは到底認め難いというべ
きである。
イ 原告の来日目的は本邦での不法就労であること
被告らも、申請人が就労活動をしたからといって直ちに難民性を失うとまで主張するも
のではないが、原告は、本法入国の動機として日本の先端技術にあこがれており、電気関
係の技術を学びたかったとも供述し、来日した約1週間後には、栃木県芳賀郡《地名略》所
在の会社で溶接工として不法就労を開始し、その後、都内のそば屋や清掃員、ラーメン店、
居酒屋等で稼働するなどしていたが、来日後7年余り、その間、難民認定申請することも、
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我が国に対して庇護を求めることもなかったものであって、原告の本邦への真の入国目的
は、不法就労にあったものと推認せざるを得ない。
ウ 原告が反政府活動等に従事していたとは考え難いこと
原告は、自らが反政府活動をしていたことを裏付ける一つの出来事として、1988年に他
の学生とともにアウンサンスーチー女史(以下「スー・チー女史」という。)に会いに行き、
直接、武装闘争を訴えて同人に反対されたなどと主張する。
反政府活動の重要人物と目されるスー・チー女史と直接対話したことがあるということ
は、本邦において難民認定申請をする者が自己の難民性を裏付ける有力な事情として強調
する傾向があることが顕著にみられるものであるものの、平成9年2月3日に原告によっ
て作成された難民認定申請書において、この点は何ら触れられていない。原告は、難民調
査官の質問の仕方が原因でこの事実が記載されなかった旨述べるが、そもそも、スー・チ
ー女史と対話したことがあるなどということは、本件各事件の訴状や執行停止事件にかか
る疎明資料等のいずれにおいても何ら主張されていなかったのである。一方で、原告は、
難民認定申請時には、この旨を全て代理人に話した旨述べていたというのであるが、これ
が事実とすれば訴状等に記載されていないこと自体が不可解である。結局、本件難民認定
申請後6年以上も経過した、平成15年6月3日付け原告の供述録取書において初めて、上
記のような陳述を始めたものと認められ、なぜ当初からその点の供述がされなかったかに
ついて、何ら合理的な説明はされていないのである。
以上の事情にかんがみると、原告自身がスー・チー女史と会って武装闘争の話をしたと
する供述自体疑わしい。
こうした点に加え、原告は、本国での迫害をおそれ一時インドに逃れたなどと主張して
いるが、インドに3か月ほど滞在したものの、体の不調を来して帰国したなどと、本国政
府から迫害を受けてインドに逃れた者とは考えられない供述をするなどしていることに照
らしても、原告が反政府活動をしていたとも考え難い。
エ 原告が不自然な供述を繰り返したこと
a 原告は、原告の両親が来日したことがある旨を述べていたが、本人尋問においては、
この事実を否定し、原告の父親のみが1回来日したことがあるにすぎないなどと供述し
たり、一転してさらにこれを翻したりするなど、いかにも場当たり的な供述に終始した。
また、原告は、両親が来日する際、盗聴等をおそれ、両親との連絡は、全て交際中であ
った日本人女性が行った旨述べるが、同人は、英語の会話能力もミャンマー後の会話能
力もほとんどないことを自認しているのであるから、原告の両親と来日に関わる連絡を
全て日本人女性が行ったとの原告の供述はもとより信用できず、原告が本国の家族との
間の手紙が没収されることや電話が盗聴されることを恐れていると述べていることも信
用できない。
b 原告は、本国の家族構成につき、難民認定申請書に父母及び5人の姉妹を記載し、原
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告以外に家族で来日歴があるのは両親だけである旨述べ、被告らが入国歴がある旨指摘
したBは、原告の姉とは全く別人である旨供述している。しかしながら、原告の難民認
定申請書には、姉妹としてBとの記載がある上、原告の外国人登録証明書写しの表面に
世帯主として記載されている人物名と同一である。そして、Bが供述した家族関係は、
原告以外の家族については原告が難民認定申請書に記載した家族関係と一致している
上、本国の住所も一致していることからすると、原告らは姉弟であるにも関わらず、こ
とさらにこれを隠そうとして虚偽の供述をしていることは明らかである。また、原告に
はCという妹が本国におり、同人が来日したことはない旨述べるところ、原告及びBと
本国における住所を同じくするCなる人物が平成7年12月11日に本邦に入国し、同人
の外国人入国記録の連絡先として原告及びBの外国人登録をした住所が記載されてい
る。そして、Cは、原告と同様、Bを世帯主及び同人の妹として、前記住所を居住地とし
て外国人登録を行っており、その際のCの父母の氏名及び本国の住所は、原告及びBの
父母の氏名や本国の住所と一致しており、原告は、姉妹関係や妹の来日歴を殊更に隠し
ているというほかない。
なお、Cは、在留期限である平成8年3月10日を超えて本邦内にとどまった後、在東
京ミャンマー大使館において平成11年5月28日付け旅行文書となる身分証明書の発給
を受け、同年6月1日、東京入管に出頭し、不法残留事実を申告した。東京入管主任審査
官は、同日、送還先をミャンマーとした退去強制令書を発付し、Cは、関西空港から送還
された。
オ 小括
以上から判断すると、結局、原告は、本邦で専ら稼働することを目的に入国し、在留資格
を得るための口実として、難民認定申請をしたものと推認せざるを得ず、ミャンマー政府
が原告を迫害の対象としていたなどとはおよそ考え難く、「迫害を受けるおそれがあると
いう十分に理由のある恐怖」を原告が有していたとは到底認め難い。
オ 本件裁決取消の訴えについて
ア 本件裁決取消しの訴えについて
原告は、平成13年事件の平成14年1月29日付け訴状の訂正申立書及び平成15年11月7
日付けの原告準備書面において、請求の趣旨に本件裁決の取消しを求める訴えの記載が
欠落していたとして、これを訂正する旨の申立てをしているが、請求の原因を記載した部
分にも、本件裁決の取消しを求める旨の記載はなく、これを単なる記載漏れとして処理す
ることは許されない。原告の上記申立てを善解すれば、平成14年1月29日付けでされた訴
えの追加的併合の申立てと解するのが相当であるが、被告法務大臣が原告に対して本件裁
決の告知をしたのは、平成13年7月9日であるから、出訴期間を明らかに徒過しており、
本件裁決の取消しを求める訴えは不適法というほかない。
イ 本件裁決の適法性
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原告が難民であると認め難いことは、前記エのとおりであり、在留特別許可を付与すべ
き積極的な理由が原告にあるとは到底考えられないから、在留特別許可を付与することな
くされた本件裁決が適法であることは明らかである。
カ 本件退令発付処分の適法性
退去強制手続において、法務大臣から「異議の申出は理由がない」との裁決をした旨の通
知を受けた場合、主任審査官は、速やかに退去強制令書を発付しなければならず、この点に
ついて裁量の余地はない。
また、主任審査官の送還先に関する判断にも誤りはない。 
したがって、本件退令発付処分は適法である。
第3 争点及び争点に関する当裁判所の判断
本件の争点は、①本件裁決の取消訴訟の適法性(争点1)、②本件不認定処分及び本件退令発付
処分の適法性であり、②の前提として、原告の難民該当性(争点2)が問題となる。
1 争点1(本件裁決の取消訴訟の適法性)
 法49条1項の異議の申出に対する裁決の処分性
ア 法49条1項の異議の申出を受けた法務大臣は、同異議の申出に理由があるかどうかを裁決
して、その結果を主任審査官に通知しなければならず(法49条3項)、主任審査官は、法務大
臣から異議の申出に理由があるとした旨の通知を受けたときは、直ちに当該容疑者を放免し
なければならない一方で(同条4項)、法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の
通知を受けたときは、速やかに当該容疑者に対しその旨を知らせるとともに、法51条の規定
による退去強制令書を発付しなければならないこととされている(法49条5項)。
このように、法は、法務大臣による裁決の結果につき、異議の申出に理由がある場合及び
理由がない場合のいずれにおいても、当該容疑者に対してではなく主任審査官に対して通知
することとしている上、法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した場合には、法務大臣
から通知を受けた主任審査官が当該容疑者に対してその旨を通知すべきこととする一方、法
務大臣が異議の申出に理由があると裁決した場合には、当該容疑者に対しその旨の通知をす
べきことを規定しておらず、単に主任審査官が当該容疑者を放免すべきことを定めるのみで
あって、いずれの場合も、法務大臣がその名において異議の申出をした当該容疑者に対し直
接応答することは予定していない(なお、平成13年法務省令76号による改正後の法施行規則
43条2項は、法49条5項に規定する主任審査官による容疑者への通知は別記61号の2によ
る裁決通知書によって行うものとすると定めているが、この規定はあくまで主任審査官が容
疑者に対して通知する方式を定めたものにすぎず、法の定め自体に変更がない以上、この規
則改正をもって法務大臣が容疑者に直接応答することとなったとは考えられない。)。こうし
た法の定め方からすれば、法49条3項の裁決は、その位置づけとしては退去強制手続を担当
する行政機関内の内部的決裁行為と解するのが相当であって、行政庁への不服申立てに対す
る応答行為としての行政事件訴訟法3条3項の「裁決」には当たらないというべきである。
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イ このことは、法の改正の経緯に照らしても明らかである。すなわち、法第5章の定める退
去強制の手続は、法の題名改正前の出入国管理令(昭和26年政令319号)の制定の際に、その
さらに前身である不法入国者等退去強制手続令(昭和26年政令第33号)5条ないし19条の規
定する手続を受け継いだものと考えられ、同手続令においては、入国審査官が発付した退去
強制令書について地方審査会に不服申立てをすることができ(9条)、地方審査会の判定にも
不服がある場合には中央審査会に不服の申立てをすることができ(12条)、中央審査会は、不
服の申立てに理由があるかどうかを判定して、その結果を出入国管理庁長官(以下「長官」と
いう。)に報告することとされ、報告を受けた長官は、中央審査会の判定を承認するかどうか
を速やかに決定し、その結果に基づき、事件の差戻し又は退去強制令書の発付を受けた者の
即時放免若しくは退去強制を命じなければならないものとされていた(14条)もので、この
長官の承認が、法49条3項の裁決に変わったものと考えられる。そして、長官の承認は、中
央審査会の報告を受けて行われるものとされていて、退去強制令書の発付を受けた者が長官
に対して不服を申し立てることは何ら予定されておらず、長官の承認・不承認は、退去強制
手続を担当する側の内部的決裁行為にほかならない。したがって、同制度を受け継いだもの
と考えられる法49条3項の裁決についても、退去強制令書の発付を受けた者の異議申出を前
提とする点において異なるものの、その者に対する直接の応答行為を予定していない以上、
基本的には同様の性格のものと考えるのが自然な解釈ということができる。
ウ また、前記の解釈は、法49条1項が、行政庁に対する不服申立てについての一般的な法令
用語である「異議の申立て」を用いずに、「異議の申出」との用語を用いていることからも裏
付けられる。すなわち、昭和37年に訴願法を廃止するとともに行政不服審査法(昭和37年法
第160号)が制定されたが、同法は、行政庁に対する不服申立てを「異議申立て」、「審査請求」
及び「再審査請求」の3種類(同法3条1項)に統一し、これに伴い、行政不服審査法の施行
に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和37年法律第161号)は、それまで各行政法規が
定めていた不服申立てのうち、行政不服審査法によることとなった行政処分に対する不服申
立ては廃止するとともに、行政処分以外の行政作用に対する不服申立ては前記3種類以外の
名称に改め、そうした名称の一つとして「異議の申出」を用いることとした。
他方、法の対象とする外国人の出入国についての処分は行政不服審査の対象からは除外さ
れている(同法4条1項10号)とはいえ、前記のとおり行政不服審査法の制定に際して個別
に不服申立手続について規定する多数の法令についても不服申立てに関する法令用語の統一
が図られたのに、法49条1項に関しては、従前どおり「異議の申出」との用語が用いられた
まま改正がされず、法についてはその後も数次にわたって改正がされたにもかかわらず、や
はり法49条1項の「異議の申出」との用語については改正がされなかった。そして、現在に
おいては、法令用語としての「異議の申出」と「異議の申立て」は通常区別して用いられ、「異
議の申出」に対しては応答義務さえないか、又は応答義務があっても申立人に保障されてい
るのは形式的要件の不備を理由として不当に申出を排斥されることなく何らかの実体判断を
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受けることだけである場合に用いられる用語であるのに対し、「異議の申立て」は、内容的に
も適法な応答を受ける地位、すなわち手続上の権利ないし法的地位としての申請権ないし申
立権を認める場合に用いられる用語として定着しているということができる。したがって、
数次にわたる改正を経てもなお「異議の申出」の用語が用いられている法49条1項の異議の
申出は、これにより、法務大臣が退去強制手続に関する監督権を発動することを促す途を拓
いているものではあるが、同異議の申出自体に対しては、被告の応答義務がないか、又は、応
答義務があっても、形式的要件の不備を理由として不当に申出を排斥されることなく何らか
の実体判断を受けることが保障されるだけであり、申出人に手続上の権利ないし法的地位と
しての申請権ないし申立権が認められているものとは解されない(最高裁第1小法廷判決昭
和61年2月13日民集40巻1号1頁は、土地改良法96条の2第5項及び9条1項に規定する
異議の申出につき、同旨の判示をしている。)。
よって、法49条1項の異議の申出に対してされる法49条3項の「裁決」は、不服申立人に
そうした手続的権利ないし地位があることを前提とする「審査請求、異議申立てその他の不
服申立て」に対する行政庁の裁決、決定その他の行為には該当せず、行政事件訴訟法3条3
項の裁決の取消しの訴えの対象となるということはできない。
エ さらに、法49条1項の異議の申出については、前記のとおり、申出人に対して法の規定に
より手続上の権利ないし法的地位としての申請権ないし申立権が認められているものと解す
ることはできないのであるから、異議の申出に理由がない旨の裁決がこうした手続上の権利
ないし法的地位に変動を生じさせるものということはできず、同裁決が行政事件訴訟法3条
2項の「処分」に当たるということもできない(前記ウの最1小判参照。)。
オ 以上によれば、法49条1項の異議の申出に対する法務大臣の裁決は内部的決裁行為という
べきものであり、行政事件訴訟法3条1項にいう公権力の行使には該当しないというべきも
のである。
 退去強制令書発付処分における主任審査官の裁量及び比例原則の適用
ア 法24条は、同条各号の定める退去強制事由に該当する外国人については、法第5章に規定
する手続により、「本邦からの退去を強制することができる」と定めている。そして、いかな
る場合において行政庁に裁量が認められるかの判断において、法律の規定が重要な判断根拠
となることに異論はないというべきであり、法律の文言が行政庁を主体として「……するこ
とができる」との規定をおいている際には、その裁量の内容はともかく、立法者が行政庁に
一定の効果裁量を認める趣旨であると解すべきものであって、同条が退去強制に関する実体
規定として、退去強制事由に該当する外国人に対して退去を強制するか否かについてはこれ
を担当する行政庁に裁量があることを規定しているのは明らかであり、法第5章の手続規定
は、主任審査官の退去強制令書の発付に至る手続を規定しているにすぎないことからすれ
ば、退去強制について実体規定である法24条の認める裁量は、具体的には、退去強制に関す
る前記手続規定を介して主任審査官に与えられ、その結果、主任審査官には、退去強制令書
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を発付するか否か(効果裁量)、発付するとしてこれをいつ発付するか(時の裁量)につき、
裁量が認められているというべきである。
このような解釈は、行政法の解釈において伝統的に認められる行政便宜主義、すなわち権
力発動要件が充足されている場合にも行政庁はこれを行使しないことができるとの考え方
や、警察比例の原則、すなわち、警察法分野においては、一般に行政庁の権限行使の目的は公
共の安全と秩序を維持することにあり、その権限行使はそれを維持するため必要最小限なも
のにとどまるべきであるとの考え方ばかりか、憲法13条の趣旨等に基づき、権力的行政一般
に比例原則を認める考え方によっても肯定されるべきものである。
イ なお、法47条4項、48条8項及び49条5項は、いずれも「主任審査官は……(中略)……退
去強制令書を発付しなければならない。」と規定しており、その文言は、上記の解釈に反する
ようにみえないでもない。
しかし、退去強制手続は、原則として容疑者である外国人の身柄を収容令書により拘束し
ていることを前提としているため、その手続を担当する者が何の考慮もないままに手続を中
断し、放置することを許さないように、法47条1項、48条6項及び49条4項において、それ
ぞれ容疑者が退去強制事由に該当しないと認められる場合に「直ちにその者を放免しなけれ
ばならない」ことを定めるとともに、法47条4項、48条8項及び49条5項においては、退去
強制に向けて手続を進める場合においても、「退去強制令書を発付しなければならない」とし
て主任審査官の義務としての規定をおいたものと解され、これらの規定と法24条をあわせて
解釈すれば、実体規定である法24条において退去強制について前記効果裁量及び時の裁量を
認めている以上、主任審査官において、そうした裁量の判断要素について十分考慮してもな
お退去強制手続を進めるべきであると判断した場合には、放免又は退去に至らないまま手続
を放置せず、法の定める次の手続に進む(退去強制令書を発付する)べきことを定めたもの
と解すべきである。このように法の各規定をその位置づけに応じて解釈すれば、主任審査官
に退去強制令書発付についての裁量を認めることは、法47条4項、48条8項及び49条5項の
各規定と何ら矛盾するものではない。
ウ また、退去強制事由に該当する外国人には比例原則において警察権の行使と対比されるべ
き権利利益が存在せず、退去強制令書の発付には、法の定める要件適合性以外に比例原則違
反の有無が問題となる余地がないとの考え方もないではない。
しかし、たとえ正規の在留資格を有しない外国人であっても、その性質が許す限り基本的
人権を享有するのであって、退去強制手続に当たっても、このことと外国人の出入国の公正
な管理という公益上の要請とを調和させる必要があることはいうまでもないことであり、上
記の考え方は、当該外国人の人権を全く無視するに等しく、到底採用できない。
なお、退去強制令書の発付は、これまでの訴訟実務上は行政処分として扱われているが、
これに応じない者に対しては直ちに実力を持って執行することが可能なものであることから
すると、むしろ義務の賦課という段階を伴わない即時強制(又は即時執行)手続とみるべき
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ものであって(このように解しても、その実力行使の継続性からして取消訴訟の対象となる
ことには問題がない。)、それが、行政処分という義務の賦課にとどまるものに比べて、より
直接的かつ強力な権力行使の手段であることからして、比例原則のより厳格な適用が求めら
れるべきであり、このことは学説上も異論がないものと思われる。すなわち、法は、退去強制
事由を定めているが、それらは一般的かつ抽象的にみて比例原則を満たすことが多いと考え
られる類型にすぎないのであるから、それらに該当することのみをもって比例原則上の問題
がないとは到底いえず、現に退去強制令書を発付するに当たっては、それが比例原則に違反
しないか否かにつき、当該外国人の個別具体的事情など当該事案に即した個別的かつ具体的
な検討を要するのであり、退去強制令書の発付が、このような検討を全く経ないでされた場
合や、考慮すべき事情を考慮せず、考慮すべきでない事情を考慮するなどして社会通念上著
しく不当な判断をした場合には、当該令書の発付は、比例原則に反する違法なものになると
いうべきである。
エ そのほか、上級行政機関である法務大臣の意思決定を同大臣の指揮監督を受ける下級行政
機関である主任審査官が、その独自の判断に基づいて覆し、あるいはその適用時期を考慮で
きるとすることは行政組織法上の観点から想定し難いとの考え方もないではないが、前記の
とおり裁決は、行政処分ではなく単なる行政機関内部における決裁手続にすぎないと解すべ
きであるから、その決裁の趣旨が退去強制令書の発付を命じる趣旨であるとしても、それは
組織法上の義務を生じさせるにとどまり、それにより当該発付処分が適法となるのではな
く、客観的に裁量違反ないし比例原則違反の事実がある場合には当該処分は違法といわざる
を得ない。このことは処分庁が事前に上級行政庁の決裁を受けて行政処分をした場合一般に
生じることであり、そのような決裁が行われたとしても、裁量権行使の主体は、あくまでも
当該行政処分を行う行政庁であり、上級行政庁となるわけではないのである。
 以上を前提とすれば、法49条1項の異議の申出に対する裁決につきその取消しを求める訴訟
は、対象の処分性を欠く不適法なものといわざるを得ないこととなり、前記のとおり、退去
強制令書発付処分につき効果裁量、時の裁量が認められていることによれば、退去強制令書発
付処分の取消し等を求める訴訟において、退去強制事由の有無に加え、その裁量の逸脱濫用に
ついても同処分の違法事由として主張し得ると解すべきである。このような解釈によれば、前
記判示の解釈により法49条3項の法務大臣の裁決につき独立して適法に取消訴訟を提起する
ことができなくなるが、法49条3項の裁決の取消訴訟で問題とされた法務大臣の裁量権行使の
適否は、退去強制令書発付における主任審査官の裁量権行使の適否においてもほぼ同一の内容
で審理の対象となるべきものであって、外国人が退去を強制されることを争う機会を狭めるも
のとはならない。むしろ、在留特別許可をするか否かの判断がたまたま法49条の裁決に当たっ
てされるとの制度が採用されていることのみを捉え、本来全く別個の制度である在留特別許可
の判断(法50条3項は、在留特別許可が、専ら退去強制事由に該当するか否かを判断してされ
る法49条の裁決とは本来的に異なる制度であることから、在留特別許可がされた場合には、あ
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えて、それを法49条4項の適用につき異議の申出に理由がある旨の裁決とみなす旨を定めてい
る。)の当否を法49条3項の裁決の違法事由として主張し得ることを認めるという無理のある
解釈を採用する必要がなくなるものである。
 そうすると、本件訴状の請求の趣旨において裁決の取消しを求める旨の記載が欠けていたこ
とについて、仮に、原告の主張するとおり、請求の趣旨の脱漏であり、当初から裁決の取消しを
求めるものであったと評価するとしても、同請求に係る訴えは、もとより、原告が追加的に申
し立てた同裁決の無効確認の訴えもまた、行政事件訴訟法3条において取消しを求める対象と
して挙げられた処分その他の公権力の行使に当たる行為や審査請求、異議申立てその他の不服
申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為に該当しないものを対象としている点におい
て不適法なものといわざるを得ないこととなる。

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