退去強制令書発付処分執行停止申立についてした決定に対する抗告事件
平成16年(行ス)第8号(原審:大阪地方裁判所平成15年(行ク)第45号)
抗告人(原審被申立人):大阪入国管理局主任審査官、相手方(原審申立人):A
大阪高等裁判所第10民事部(裁判官:下方元子・橋詰均・高橋善久)
平成16年2月20日
決定
主 文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理 由
第1 抗告の趣旨及び理由
1 抗告の趣旨
 原決定中、抗告人が相手方に対し平成15年10月30日付けで発付した退去強制令書に基づく
執行のうち、収容部分の執行を停止した部分を取り消す。
 前項の取消しに係る本件申立てを却下する。
 申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。
2 抗告の理由
別紙のとおりである。
第2 抗告に至る経緯
一件記録によれば、次の事実が認められる(以下、出入国管理及び難民認定法を「入管法」と、
行政事件訴訟法を「行訴法」という。)。
相手方は、昭和45年(1970年)《日付略》、タイ王国(以下「タイ」という。)において出生した、
タイ人である母親のB(以下「B」という。)とタイ人男性との間の娘である。
Bは、日本人男性C(以下「C」という。)と交際し、昭和60年(1985年)《日付略》、タイにおいて、
Cとの間の娘D(以下「D」という。)を出産した。CはBと婚姻しておらず、Dを認知しなかった
ため、Dは出生後現在までタイ籍を有する外国人である。
相手方は、Dの姉であるが、年が15歳も離れていることやBがタイを離れて我が国に居ること
が多かったこともあり、Bに代わって幼いDの面倒をみる期間が長かった。
もっとも、Dは、平成7年中にCに引き取られ、現在もCによって監護されており、「定住者」
の在留資格で我が国に居住している。
3 Bは、Cと別れた後、平成3年ころ以降、日本人男性E(以下「E」という。)と交際し、平成5
年9月28日、やはりタイにおいて、Eとの間の娘F(以下「F」という。)をもうけた。EはFを認
知し、Fは日本国籍を取得した。また、EとBとは、平成7年2月6日婚姻し、BとFは、平成7
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年中に我が国に入国し、Eと同居することになった。
4 相手方は、タイにおいて大学を卒業し就職したが、平成9年(1997年)《日付略》、タイ人男性
G(以下「G」という。)との間の娘H(以下「H」という。)を出産した。
5 相手方とHは、母子とも、平成10年10月8日、「短期滞在」の在留資格及び90日の在留期間を許
可されて我が国に入国し、在留期間を更新しないまま我が国に在留した。
また、相手方は、不法滞在中の平成11年(1999年)《日付略》、我が国において、Gとの間の娘I
(以下「I」という。)を出産した。
6 Bは、平成13年5月28日、Fの親権者をBと定めてEと協議離婚し、以後、単独でFを監護し
ており、「定住者」の在留資格を許可されて我が国で生活している。
7 相手方、H及びIの母子3名(以下「相手方ら」という。)の不法在留の事実は平成14年7月23
日に発覚し、相手方らは、平成15年1月27日、入管法違反事実の調査のため収容令書の執行を受
けたが、同日、直ちに仮放免許可を受け、以後、在宅での調査を受けた。
しかし、相手方は、平成15年10月21日、指定住居条件に違反したことを理由として仮放免許可
の取消し処分を受けて収容された(H及びIの仮放免許可は取り消されなかった。)。
8 相手方らは、平成15年10月30日、入管法49条5項に基づき、退去強制令書発付処分(以下「本
件処分」という。)を受け、これによる収容の執行を受けた。
H及びIは、同日、直ちに仮放免許可を受け、実際には身柄を拘束されなかったが、相手方につ
いては仮放免許可がされず、同日以降も収容が継続された。
9 相手方らは、大阪地方裁判所に対し、本件処分の取消しを求める本案訴訟を提起し、平成15年
11月11日、本件処分の執行の停止を求める本件申立てをした(H及びIはその後申立てを取り下
げた。)。
10 大阪地方裁判所は、平成15年12月24日、本件処分の送還部分及び収容部分のいずれについて
も、相手方に生じる「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」(行訴法25条2項)と認
め、かつ、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」又は「本案について理由がない
とみえるとき」(行訴法25条3項)に該当しないと判断し、本件処分全部の執行を停止する旨の決
定をした。
第3 当裁判所の判断
1 行訴法25条2項の要件について
 当裁判所も、相手方に生じる「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」ため、本件
処分については、収容部分を含め、その全部の執行を停止すべきものと判断するが、その理由
は、原決定「事実及び理由」の「第2 当裁判所の判断」2項と同じであるからこれを引用する。
 抗告人は、原決定が本件処分のうち収容部分の執行まで停止したことを不服とし、その抗告
の理由において、退去強制令書によって身柄を拘束されることそれ自体は外国人が受忍すべき
損害であり、したがって、相手方の収容によって相手方ら母子が分離された結果発生する不利
益は、一般に、行訴法25条2項所定の「回復の困難な損害」に該当せず、原決定は、この要件に
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関する解釈適用を誤ったと主張する。
しかし、H及びIが幼児であって、児童心理学の学問的知見に照らせば、収容部分の執行に
よる長期間の母子分離は、H及びIの心身の健全な発達に重大な悪影響をもたらすおそれがあ
るといわざるをえないのであり、その不利益は、後日の金銭賠償によって償うことが困難な損
害であり、行訴法25条2項所定の「回復の困難な損害」に該当する。
 なお、抗告人は、Bに健康上の問題があってその監護能力に不安があり、そのため小学生の
FにH及びIの監護の負担がかかっている旨の原決定の事実認定を争う主張をしている。
しかしながら、原審記録中の疎甲第28及び第29号証(保育所の保母及び小学校の教諭の陳述
書)によれば、相手方が収容された後、小学4年生のFが毎日のようにH及びIの保育所への
送り迎えを担当していること、小学校の担任教諭の目にも、Fには両幼児の面倒をみることが
重荷になっていると看取されていることが明らかであり、Fに監護の負担がかかっている事案
は動かし難いように思われる。この点は、抗告人が当審で提出した疎乙第31号証(Fが平成15
年10月から12月までの3か月間に、家事都合という理由で小学校を合計8日欠席しているこ
とが記載されている。家事都合による欠席は9月中にも3日あるが、そのような欠席は8月以
前にはみられない。)とも符合しているのである。
また、Bが悪性リンパ腫を患い、高血圧症、自律神経失調症、C型慢性肝炎.変形性頸椎症、
変形性腰椎症により通院加療を継続していること自体は原審記録に照らして明らかである。
したがって、仮に、抗告人が当審で提出した疎乙第21及び第22号証のとおり、Bの疾患が直
ちに入院治療が必要なほど重篤ではないとしても、Bに健康上の不安があってその監護能力が
脆弱であること及びFに監護の負担がかかっていることは明らかであって、原決定の上記事実
認定は何ら誤りではない。
 また、抗告人は、Bの実の娘Dが我が国に在留しているから、Dの援助があれば相手方の収
容の執行を停止する必要がないかのように主張しているが、前記第2の2のとおり、DはCの
監護下にあるし、BとCとの間にDとの面接交渉を巡る紛争さえ存在したことは原審記録(疎
甲第7号証の1、2)に照らして明らかであって、DがBの日常生活を援助することが可能な
状況にあるのかどうかは極めて疑わしい。
2 行訴法25条3項該当性について
当裁判所も、本件処分の執行を停止した場合に「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあ
る」とは認められないし、本件については「本案について理由がないとみえるとき」には該当しな
いものと判断するが、その理由は、原決定「事実及び理由」の「第2 当裁判所の判断」3項及び
4項と同じであるからこれを引用する。
3 結論
よって、原決定は相当であり本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとお
り決定する。
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別紙
抗告人は、本書面において、抗告理由を明らかにする。
なお、略称等については、本書面で新たに用いるもののほか、原決定における抗告人の意見書の例
による。
第1 事案の概要
1 基礎となる事実関係
タイ国籍を有する相手方は、本国よりも豊かな生活を求めて、平成10年10月8日にタイ国籍の
内縁の夫及び同人との間にもうけた長女とともに、関西国際空港から在留資格「短期滞在」、在留
期間「90日」で入国後、在留期間の更新又は在留資格の変更を受けることなく不法残留をした上、
不法就労をしながら生活をしていた(疎乙第14号証)。その間、平成11年《日付略》に本邦におい
て次女を出産した。
平成14年7月23日、相手方は、稼働先のbにおいて、大阪入管入国警備官に摘発され、法違反
が発覚したが、相手方は幼児2人を養育中であることから、在宅にて調査を受けることとなり、
同時点では内縁の夫の存在は判明していなかった。その後、大阪入管入国警備官の違反調査を経
て、平成15年8月7日、大阪入管入国審査官により、違反審査が行われ、その結果、同入国審査官
が法24条4号ロに該当する旨認定したところ、相手方は、口頭審理を請求し、同年9月12日、大
阪入管特別審理官が上記認定に誤りはない旨判定したが、相手方は、同日、法務大臣に対し異議
の申出をした。なお、相手方は、平成15年1月27日に実母宅(大阪市《住所略》)を指定居住地と
して収令仮放免許可を受けていた(その後、指定居住地は同区《住所略》に変更された。)。
平成15年10月21日、大阪入管入国警備官は、住吉警察署と合同で、大阪市《住所略》にある相
手方の内縁の夫宅において内縁の夫を摘発した際、相手方及び同人らの実子である2人の幼児が
同居しているのを発見した。そして、相手方及び内縁の夫も同所で同居していたことを自認した
ことから、仮放免許可の指定居住地について、あらかじめ抗告人の承認を受けることなく変更し
ていたとして、同日、仮放免許可を取り消し、相手方を大阪入管に収容した。なお、相手方は、そ
の後、同年11月25日、入国者収容所西日本入国管理センター(以下「西日本センター」という。)
に移送された。また、相手方の実子2人については、仮放免許可を取り消されることなく、相手方
の実母であるBに預けられた。
法務大臣から委任を受けた大阪入管局長は、同年10月24日、異議の申出に理由がない旨の裁決
(本件裁決)をし、抗告人は、同月30日、相手方に対して退去強制令書を発付した(本件処分)。
本件の本案事件は、相手方に対する本件処分について、相手方の実子2人、実母(在留資格「定
住者」、在留期間「3年」)及び実母の実子(日本国籍)に過度の負担を強いるもので、このような
家族の事情を考慮し在留特別許可を与えなかったことが、裁量権を逸脱ないし濫用したものであ
って違法であるなどと主張して本件処分の取消しを請求している事案であるところ、本件申立て
は、本件処分の執行を本案判決言渡し後30日を経過するまで停止するように求めた事案である。
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2 原決定は、平成15年12月24日、本件処分に基づく執行について、送還部分のみならず、収容部
分をも含め、本案事件の第一審判決の言渡しの日から30日を経過するまでの間停止したため、相
手方は、同日、西日本センターを出所した。
3 しかし、本件申立てが収容部分の停止をも求めることについては、行政事件訴訟法(以下「行訴
法」という。)25条2項に定める「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」との執
行停止の要件を満たさないにもかかわらず、原決定にはその判断を誤った違法があるから、原決
定のうち収容部分の執行停止を認めた部分を取り消した上、速やかに同部分に係る本件申立てを
却下すべきである。
第2 「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」とはいえないこと
1 回復の困難な損害の意義
 行政処分を定める行政実体法は、行政目的達成のために行政処分をする権限を行政庁に付与
するものであり、その立法に当たっては、当該処分の相手方に生じる損害を十分に想定した上、
それでもなお当該行政目的達成のために行政処分をすることが必要であると判断されたもので
あることからすると、当該行政処分又は行政処分の執行自体により通常発生する損害は、受忍
限度内のものとして予定されており、これが行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害」に該
当しないことは明らかである。
 退去強制に関しては、法が、本邦において、在留資格を有せず、入国管理局の管理下にないよ
うな外国人の存在を予定していないことに留意する必要がある。すなわち、退去強制手続は、
我が国に好ましくない外国人を強制力をもって国外に排除するという国内秩序維持のための
手続に伴うものであり、国家の有する主権の本質的な一作用として高度な公益性を有するもの
である。その中で退去強制令書の執行による収容は、法24条各号所定の退去強制事由に該当す
る外国人に対して行われるものであって、単に送還のために身柄を確保するのみならず、退去
強制令書の発付を受けた者を隔離し、その者の我が国におけるこれ以上の在留活動を禁止する
趣旨をも含むものである(東京高裁昭和52年12月13日決定・訟務月報23巻13号2274ページ)。
退去強制令書の執行による収容は、このような行政目的を念頭に置いて設けられた制度である
から、法は、同収容により、被収容者の移動の自由が制限され、それに伴って精神的苦痛等の不
利益が生ずることも当然に予定しているというべきである。
なお、退去強制令書の発付を受け、その執行により収容された外国人について、その収容を
継続することが妥当性を欠くなどの事態に至った場合のために、法は仮放免の制度を定めてい
るが(法54条)、同制度は、入国者収容所長又は主任審査官が、300万円を超えない範囲内で保
証金を納付させるなどし、かつ、住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務、その他
必要と認める条件を付して在留活動を制限し、期限付きで行われる例外的措置にすぎないもの
である(同条2項)。それにもかかわらず、行訴法25条によって、退去強制令書発付処分の収容
部分の執行が停止された場合には、在留資格を有しない外国人が我が国において活動するとい
う、本来、法の予定しない状態が発生するのであるから、「回復の困難な損害を避けるため緊急
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の必要がある」として、行訴法25条に基づく執行停止をせざるを得ない場合があるとしても、
その要件は、自ずと厳格に解されなければならない。
 以上のような退去強制制度の趣旨にかんがみると、退去強制令書に基づく収容の執行停止を
求める申立てにおいて、行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要が
あるとき」に該当するというためには、単に、収容によって移動の自由が失われるとか、仮放免
された家族との交流が妨げられるといった程度の不利益を受けるだけでは不十分というべきで
あって、収容に耐え難い身体的状況にあるとか、収容によって被収容者と密接な関係にある者
の生命身体に重大な危険が生じるおそれがあるなど、金銭賠償による回復をもって満足するこ
とはできない著しい損害が生ずるおそれがあり、退去強制令書の執行による収容に伴って相手
方が被る損害が、上記のような退去強制令書の行政目的を達成する必要性を勘案しても、なお
収容の継続を是認することができないような特別な場合に限って、「回復の困難な損害を避け
るため緊急の必要がある」との要件を肯定できるというべきである。
2 本件処分によって相手方が被る損害について
 原決定の判断
原決定は、「申立人の収容が継続されることにより、申立人の子や家族らの生活・発育等に深
刻かつ重大な影響が生じかねず、……これらは……申立人にとっても重大な損害というべきも
のである。」として、申立人に「回復の困難な損害」が生じることを肯定する。
 原決定の判断の問題点について
ア 相手方の実母Bの健康状態及び相手方による介護の必要性について
ア 相手方は、実母Bの健康状態から同女の介助を要する旨主張し、原決定もその点を、回
復し難い損害を認定する一要素としている。
イ しかしながら、Bが悪性リンパ腫の治療を開始したのは、平成14年6月26日(疎甲第9
号証)で、高血圧症等で通院加療を始めたのは、平成13年8月3日である(疎甲第10号証)。
それにもかかわらず、相手方は、平成14年8月19日の調査では、Bが通訳の仕事等をして
いることから、今後その援助を受けて生活していく旨(疎乙第5号証7枚目)、平成15年8
月7日の違反審査の際には、Bと同居して、その通訳料と生活保護で生計を立てていた旨、
それぞれ述べて(疎乙第7号証7ページ)、同女の健康に不安がある等の申告は一切してい
なかったことに加えて、B自身も平成14年9月6日の取調べにおいては、「私の健康状況
についても特に問題はありません。」と供述していたもので(疎乙第17号証8枚目)、これ
らの事情からすると少なくともその当時、取り立てて同女に対する介護が必要な事情はな
かったものと認められる。
ウ さらに、Bの出入国状況や主治医の陳述によれば、現在に至るまでも取り立てて介護の
必要がないと認められる。
すなわち、Bは、その出入国記録(疎乙第21号証)によれば、平成8(1996)年3月12日
から平成14(2002)年8月29日にかけて、高血圧症等による通院治療や悪性リンパ腫に対
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する治療の開始後も含めて、頻繁に本邦とタイを行き来していることが明らかであるとこ
ろ、そのためには、少なくとも6、7時間は機内で、窮屈な状態に耐えなければならないの
であるから、このような長時間の搭乗に耐えられる程度に体調は安定しているということ
になり、Bの主治医も、平成14年9月に診断書(疎甲第8号証)を発行した当時は、入院が
必要と判断したものの、その後の通院による経過観察の過程では、同女の症状は安定した
状態にある旨陳述している(疎乙第22号証)。
これらの事情からすると、「現にB(実母)は食事を作ることすら殆どできず、体調が悪
い時には歩くことすらできない程である」(申立書7ページ)という状態であるとの相手方
の主張は、にわかには信じ難いというべきである。
仮に、Bの健康状態が、介護が必重な程度に悪化しているというのであれば、その場合
には入院が必要な状態といえるのであって、入院ということになれば、むしろ相手方の介
護は必要がないといわざるを得ないし、どうしても近親者の介護が必要ということであっ
ても、Bには前夫と婚姻する以前に付き合っていた日本人男性との間にもうけた18歳の子
があり、同人は大阪府池田市内に在住していること(疎乙第23号証)から、同人のサポー
トを受けることも可能である。加えるに、相手方の従姉妹であり、永住者の在留資格を持
つBの姪が、B宅とそう遠くない東大阪市に在住している(疎乙第24号証)。
エ ところで、上記出入国記録のとおり、Bは、相手方が本邦に入国した平成10年10月8日
の後も、相手方を本邦に置いて、本邦とタイとの行き来を繰り返しており、Bの実子(F)
もこれに同行して本邦とタイとの間を行き来している(疎乙第25号証)。
また、法違反者摘発結果報告書(疎乙第13号証)、摘発後の申立人の供述調書(疎乙第14
号証)、内縁の夫の審査調書(疎乙第15号証)等によれば、相手方らが内縁の夫であるGと
《住所略》で一緒に暮らしていたことが明らかであり、Bとは別世帯を構成していたのであ
るから、原決定が指摘するように、相手方の実子の通っていた保育園と実母の家が近く、
ときおり相手方ら親子がBを頼っていた等の交流があったとしても、本件処分による相手
方の収容が継続することで、Bやひいては相手方自身が社会通念上受忍すべき範囲を超え
る損害を受けるといえるほどの密接な関係であったかどうかは極めて疑わしい。
なお、この点について原決定は、相手方の提出した疎明資料(疎甲第23ないし第25号証)
により、「申立人及び同幼児らが上記指定住居(引用者注;B宅)に現在することも多いこ
とが認められ」るとするが、相手方やその実母であるBは、相手方の内縁の夫が、不法残留
で法24条4号ロの退去強制事由に該当し、不法就労していたことを承知しながら、抗告人
にその旨を隠して虚偽の生活状況を述べていたこと、さらに、内縁の夫の摘発をより困難
にするために、《住所略》に転居しながら、生活用品の一部をB宅に置いて、同居を装おう
としていたこと(疎乙第14号証5、6枚目)等、本邦における在留を継続するために画策
していたのであるから、Bの陳述書を始めとする相手方の提出に係る疎明資料は、容易に
信用できないものというべきである。
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オ 以上によれば、相手方の提出する疎明資料から、Bが「症状増悪時には家事・育児に困
難を来たし、他者の介護を要する状態」であり、かつ、相手方がその介護に従事する必要が
あるとは認められないというべきである。
イ 相手方の実子の養育上の問題について
原決定は、相手方の実子について、「人格形成において重要な幼児期において長期間母親の
監護から離れることは、同幼児らの身体的及び精神的発達に重大な影響を与えかねない。」と
し、「特に、4歳のIにおいては、現在、母親と離れていることによる不安感等には大きいも
のがあ」るとしている。
しかし、上記のとおり、収容による自由の制限や精神的苦痛等の不利益が収容の結果通常
発生する範囲にとどまる限りは、「回復の困難な損害」に該当せず、被収容者が受ける損害は、
社会通念上金銭賠償による回復をもって満足することもやむを得ないものというべきである
というのが確定した裁判例であり、東京高等裁判所平成15年9月18日決定(疎乙第30号証)
において、強制退去のため収容されている者が養育している未成年者との関係について、「そ
の父母とともに生活することが望ましいということはいえるが、諸般の事情により父母によ
る直接の監護を受けられない子のすべてが、当然に、その人格の発達に障害を来すものとは
いえない。」と判示されていることに照らしても、本件処分の収容部分の執行により相手方の
子や家族の同居生活が制限されることによる損害が、社会通念上金銭賠償による回復をもっ
て満足されるべき精神的損害を超えて存在すると認めることはできないというべきである。
この点をおくとしても、相手方の実子2人は、現在、相手方の実母であるBがその養育監
護に当たっているところ、上記のとおり、同女は、高血圧症や悪性リンパ腫に罹患している
ものの、通院治療を受けることによって、その健康状態は安定していると認められるのであ
るから、申立人とその実子とが一時期、一緒に生活できなかったとしても、Bがその間の世
話をすることによって実子らの養育に悪影響を及ぼすことは少ないと考えられる。
ウ 以上に述べたとおり、相手方の実母Bの病状は、差し迫って介護が必要な状況ではなく、
他に養育すべき近親者も存在している状況にかんがみると、相手方が実母の面倒を見なけれ
ばならない切迫した必要性はなく、相手方の実子の養育の問題についても、Bが身近にいる
ことにより、母親による直接の監護を受けられないことによる影響も少なくなると思料され
る。そもそも、本件は、相手方が実子との生活を強く望むのであれば、速やかに実子とともに
本国に帰国すれば済む事案である。
したがって、本件処分の収容部分の執行により相手方の子や家族の同居生活が制限される
ことによる損害が、社会通念上金銭賠償による回復をもって満足されるべき精神的損害を超
えて存在すると認めることはできない。
3 本件における行政処分たる収容の必要性について
 前記第1の経過から明らかなとおり、相手方が法24条4号ロに該当することは明白であり、
退去強制事由があることは動かし難い。
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 原決定は、相手方に対する仮放免許可の際の指定住居が「生活の本拠地である可能性が全く
ないわけではない。少なくとも、申立人が許可なく住居を変更したことで、入管当局において
申立人との連絡が困難となったり、身柄の確保に困難が生じるなど、仮放免許可において指定
住居を定めた趣旨に反して重大な支障が生じたとは認め難いところである。本件退去強制令書
に基づく執行のうち収容部分について停止したとしても、申立人が逃走するなどして将来退去
強制が不可能又は著しく困難となるおそれは少ない」としている。
しかし、上記判断は、相手方が、前記3アエのとおり、内縁の夫との関係について虚偽の内
容を申告していただけでなく、内縁の夫の摘発を免れるために、居住状況を偽装工作するなど、
入管当局に対して極めて非協力的な態度を取っていたことをあえて無視したものといわざるを
得ない。そして、相手方の内緑の夫がタイに退去強制させられた現在、収容部分の執行を停止
しても相手方が逃走するおそれがないということはできない。
また、原決定の上記判断は、仮放免許可についての認識をも誤っているというべきである。
そもそも仮放免を許可するに際しては、遵守すべき条件を設けており、その条件に違反すれば
仮放免許可を取り消されることとなる(法55条1項)。相手方は、その条件である指定居住地以
外で居住していたことが客観的に認められ、かつそのことを自認した(疎乙第13、14号証)こ
とから仮放免許可を取り消されたのであり、その結果相手方が収容されるに至ったこと自体、
何ら瑕疵はないのである。付言するに、本来であれば相手方は、最初に摘発された平成14年7
月23日に収容されるべきところ、相手方には養育している幼児2人がいたことを考慮して、人
道的措置として、仮放免許可にしたのである。それに対して、相手方は仮放免許可の遵守条件
を破り、しかも内縁の夫について虚偽の供述をした上、仮放免許可の遵守条件である指定居住
地での居住について偽装工作までしていたのであり、正に適正な出入国管理行政を妨げていた
のである。すなわち、相手方は大阪入管の配慮を逆手に取って背信的な行為に及んだために、
仮放免許可が取り消されて収容されるという事態を自ら招来したにほかならない。したがっ
て、この期に及んで、相手方を収容・退去強制することについて、家族の事情を理由に人道上
許されないなどと主張することは、相手方の置かれた家庭環境を考慮に入れても、あまりに身
勝手な言い分である。
第3 結語
以上のとおり、本件申立てのうち、本件処分の収容部分の停止を求める点については、「回復の
困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を具備しないものであるから、原決定中、
収容部分の執行停止を容認した部分は、速やかに取り消され同取消しに係る本件申立ては却下さ
れるべきである。

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