仮放免申請不許可処分取消請求事件
平成14年(行ウ)第183号
原告:A、被告:入国者収容所西日本入国管理センター所長
大阪地方裁判所第2民事部(裁判官:山田知司・田中健治・小野裕信)
平成16年4月7日
判決
主 文
1 被告が原告に対し平成14年12月5日付けでした仮放免申請不許可処分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は、中国の国籍を有する外国人であり、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)24
条2号に該当するとしてされた退去強制手続において、大阪入国管理局主任審査官により発付さ
れた退去強制令書の執行として、入国者収容所西日本入国管理センター(以下「西日本センター」
という。)に収容されている原告が、被告に対してした仮放免許可申請(以下「本件申請」という。)
に対し被告が平成14年12月5日した仮放免の不許可処分(以下「本件処分」という。)の取消しを
求めた事案である。
1 前提となる事実等
 当事者
原告(《日付略》生)は、中国福建省において出生した中国の国籍を有する外国人である。
原告の妻はB(《日付略》生。以下「B」という。)であり、原告とBとの間には、C(《日付略》生。
以下「C」という。)及びD(《日付略》生。以下「D」という。)の2人の子がいる。
Bの母は、E(以下「E」という。)である。
(当事者間に争いのない事実)
 原告の入国及び在留経緯等
ア Bは、平成6年8月19日、元日本人FことF’(以下「F」という。)の孫と偽って、本邦に
入国した。
(当事者間に争いのない事実)
イ 原告は、平成7年12月3日、大阪入国管理局(以下「大阪入管」という。)天王寺出張所にお
いて、法務大臣に対し、妻であるBと同居することを目的に在留資格認定証明書の交付申請
をした。法務大臣は、同申請に対し、平成8年6月3日、在留資格「定住者」の在留資格認定
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証明書を交付した。(弁論の全趣旨)
ウ 原告は、平成8年7月28日、C及びDとともに関西国際空港に到着し、大阪入管関西空港
支局入国審査官に上陸申請をし、同入国審査官から、在留資格「定住者」及び在留期間1年と
する上陸許可を受けて、本邦に上陸した。
(乙1号証、当事者間に争いのない事実)
エ 原告は、本邦上陸後、以下のとおり、大阪入管において、法務大臣に対し、在留期間の更新
許可をし、法務大臣は、同申請に対し、在留期間1年又は3年とする在留期間の更新を許可
した。
ア 申請 平成9年7月4日
許可 同年10月1日 在留期間1年
イ 申請 平成10年7月16日
許可 平成11年4月12日 在留期間3年
(乙2号証、3号証)
オ 大阪入管入国審査官は、平成13年2月16日、原告について、法7条1項2号に規定された
上陸の条件に適合していなかったことが判明したとして、平成8年7月28日付けで行われた
上陸許可を上陸の日にさかのぼって取り消すとともに、原告に通知した。法務大臣も、平成
13年2月16日、エ記載の各在留期間更新許可をそれぞれ取り消し、これを原告に通知した。
原告は、これらの取消しにより、平成8年7月28日、入国審査官から上陸の許可を受けな
いで本邦(関西国際空港)に上陸したこととなった。
(乙4号証、5号証、当事者間に争いのない事実)
 原告に対する退去強制令書発付に至る経緯
ア 大阪入管入国警備官は、原告について、平成13年8月27日、法24条2号に該当すると疑う
に足りる相当の理由があるとして、被告主任審査官から収容令書の発付を受けた上で、同月
29日収容令書を執行し、同日、大阪入管入国審査官に引き渡した。
原告は、同日、仮放免許可された。
(乙6号証、7号証、当事者間に争いのない事実)
イ 大阪入管入国審査官は、原告について、平成13年11月19日、法24条2号に該当する旨の認
定を行い、原告にこれを通知したところ、原告は、同日、口頭審理を請求した。
(当事者間に争いのない事実)
ウ 大阪入管特別審理官は、平成14年6月18日、入国審査官のイ記載の認定には誤りがない旨
判定し、原告にこれを通知したところ、原告は、同日、法務大臣に対し異議の申出をした。
(当事者間に争いのない事実)
オ 法務大臣から権限の委任を受けた大阪入管局長は、平成14年7月17日付けで、原告の異議
の申出は理由がない旨の裁決をした。大阪入管主任審査官は、同裁決を受けて、同月18日、
原告に同裁決を告知すると共に、退去強制令書(以下「本件令書」という。)を発付し、大阪入
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管入国警備官は、同日、これを執行し、原告を西日本センターに収容した。
(乙8号証、当事者間に争いのない事実)
 原告、B、C及びD(以下「原告ら4名」という。)は、平成14年10月15日、当裁判所に対し、
法49条1項に基づく原告ら4名の異議申出は理由がない旨の大阪入管局長の裁決及び大阪入
管主任審査官が原告ら4名に対してした退去強制令書発付処分の各取消しを求める訴え(以下
「別件訴訟」という。)を提起した。
(当事者間に争いのない事実)
 本件処分に至る経緯
原告(代理人空野佳弘)は、平成14年11月14日、被告に対し、仮放免許可申請(本件申請)を
した。本件申請の身元保証人にはG及び原告代理人空野佳弘がなっている。被告は、同年12月
5日、本件申請に対し、仮放免を不許可と決定した(本件処分)。
(当事者間に争いのない事実)
 Eの就籍許可審判の関係
Eは、平成15年3月に本邦に入国した後、大阪家庭裁判所に就籍許可の審判を申し立てた。
大阪家庭裁判所は、同年9月29日、以下のとおりEが就籍することを許可する審判(以下「本
件就籍許可審判」という。)をし、同審判は同年10月16日確定した。
本籍 大阪市《住所略》
氏名 H
生年月日 大正15年12月9日
父の氏名 不詳
母の氏名 I
父母との続柄 女
(乙26号証、48号証、49号証、57号証、58号証、当事者間に争いのない事実)
2 争点
本件の争点は本件処分の違法姓の有無である。
(原告の主張)
 法所定の収容制度の目的と仮放免の許否の判断基準
ア 憲法18条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)違反
ア 自由が原則であること
原告には、人としての身体の自由が憲法上保障されている(憲法18条)。
B規約9条1項も、「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。何人
も、恣意的に逮捕され又は抑留されない。」と定めており、このような権利は当然に原告に
も保障されている。
イ 退去強制令書による収容の目的・効果
このような全ての人に保障されている、極めて重大な権利である人身の自由を制限する
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ためには、目的がやむを得ず、かつ、その手段たる収容が目的達成のために必要かつ最小
限なものでなくてはならない。
そして、退去強制令書に基づく収容は、あくまで強制送還を円滑に進めるために身柄を
確保するためのもの、言い換えれば逃亡防止を目的とするものであって、退去強制される
者の在留活動を禁止することまでも目的とするものではない。
なぜなら、退去強制令書の発付を受ける者は、在留資格がない場合(法24条4号ロ)だ
けではなく、在留資格がありながら資格外活動を行った者(同号イ)など、一定範囲の在留
活動は認められている者も含まれる。そうすると、退去強制令書の発付によって、許可さ
れている在留活動まで禁止されるいわれはない。
また、在留資格がない者について、身体の自由を完全に奪って一切の在留活動を禁止す
ることは、その目的との関連性で、明らかに過度な制約である。
さらに、退去強制令書に基づく収容がされたときでも、仮放免が認められているし(法
54条2項)、法52条6項は、入国者収容所長等は、退去強制を受ける者を送還することが
できないことが明らかになったときは、必要条件を付した上でその者を放免することがで
きる旨定めている。もし、在留資格がない者が、一切の人としての在留活動を禁じられる
というのであれば、これらの規定によって収容を解かれた者が一定の在留活動が認められ
ることになるのであるが、その正当性を説明できない。
加えて、仮放免された者が逃亡し、逃亡すると疑うに足りる相当の理由があり、正当な
理由がなく呼出に応じなかった場合に仮放免が取り消され収容される(法55条)ことから
すると、収容はあくまでも逃走防止のための手段と解するほかない。
法自体も、仮放免の合理的行使により、収容が不当なものとならないようにすることを
予定していると解される。
そして、在留活動の禁止も収容の目的に含まれるとすると、法の収容制度は、B規約9
条1項の「恣意的」拘禁に該当し、法令無効ということになる。すなわち、同項にいう「恣
意的」という概念は、「違法」ということとは必ずしも同義ではなく、不適切や正義に反す
るという要素をも含む広い概念であり、事案の全状況に照らし、逃走や証拠隠滅を防止す
る場合以外の収容は「恣意的」なものとなる。
以上から、法の収容の目的は、逃亡を防止することのみにあり、在留活動の禁止という
ことは含まれない。
イ 被告主張の全件収容主義、自由裁量論への反論
ア 現行の法の収容に関する規定は、その前身である出入国管理令を引き継いだものである
ところ、同令の立法者意思は、収容謙抑主義に立つものであった。したがって、同令の規定
を概ね承継した法が収容謙抑主義に立つことは明らかである。
イ 法28条は、「強制の処分は、特別の規定がある場合でなければすることができない」旨定
め、任意の調査が原則であることを明らかにしているところ、収容という強制的な国家権
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力の発動を正当化するには、明示的な授権規範が存在しなくてはならない。人身の自由が
あるのが大前提であり、それを制限するのは例外であるという憲法の大原則からすれば、
それが当然の解釈である。被告が掲げる法44条、45条、47条、48条には、全件収容主義に
ついての明文規定は存せず、これら規定から全件収容主義を正当化することはできない。
ウ 要急収容を認める法43条1項は、「収容令書の発付をまっていては逃亡の虞があると信ず
るに足りる相当の理由」を要件とするところ、これは、収容の基盤が逃亡の防止にあるこ
とを示している。同項は、収容においては容疑のみならず逃亡のおそれが必要であること
を前提に、容疑及び逃亡のおそれの双方につき、通常以上の明白性、切迫性がある場合に、
収容令書の発付を待たずに収容することができるとしたものである。
そして、同条3項は、主任審査官が事後的に収容令書発付の審査をすることを定めると
ころ、主任審査官による事後的審査において審査される要件は、退去強制事由該当容疑だ
けでなく、「収容令書の発付をまっていては逃亡の虞があると信ずるに足りる相当の理由」
も審査されることは文言上明らかである。このように主任審査官は、逃亡のおそれの程度
を判断する権能を有している。
仮に被告の主張するように退去強制手続において退去強制事由該当容疑者を全件収容す
るのが法の建前であるとするなら、退去強制事由に明らかに該当する者について何故にさ
らに逃亡のおそれがあるか否かを審査するのか説明に窮する。
さらに、この場合に釈放される者は、退去強制事由に明らかに該当する者であっても、
「収容令書の発付をまっていては逃亡の虞があると信ずるに足りる相当の理由」が認めら
れない者を含むのであるから、法は退去強制事由に該当するとして容疑を受けながら収容
されない者があることを明らかに許容している。
エ 法44条は、収容の期間を最小限にすべき趣旨から、収容した場合の時間の制限を規定し
たものであり、法45条は、同様の趣旨から、収容状態で引渡しを受けた場合には、すみや
かに審査しなければならない旨定めたものである。これらはいずれも、入国警備官及び入
国審査官に、その権限行使にあたり守らなければならない手続(この場合は時間的制約な
ど)を定める手続規範であり、容疑者を収容する場合において、容疑者の人権に配慮して
手続を定めようとしたものである、収容しない場合には、そのような配慮は必要がないか
ら、詳細な定めがないにすぎない。
被告は、入国警備官が容疑者を収容しないで(在宅のままで)違反事件を入国審査官に
引き渡す手続について定めた規定は存しない旨主張する。しかしながら、法44条、45条の
引渡しの対象は「容疑者」であり、身体拘束の権限が移転する趣旨であって、もともと違反
事件の引渡しの手続を定めた規定など収容した場合にも存在しない。
オ 被告は、法47条が容疑者が全て収容されていることを前提としている旨主張するが、同
条は、法45条を引き継ぎ、容疑者が収容された場合について規定したものであるにすぎな
い。
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カ 被告は、法48条3項に出頭要求の規定のないことを、口頭審理の段階では容疑者は全て
収容されている前提であることの根拠とするが、口頭審理は容疑者が当事者として請求す
る審理であって取調べではないことから、出頭要求という規定の体裁をとらなかったもの
と解される。時刻と場所の通知によって、呼出はなされる。
被告の主張は、あたかも、口頭審理は収容場に身体拘束された者に対してのみなしうる
かのような主張であるが、言うまでもなく、仮放免されている者も、口頭審理を受ける。
キ 法64条2項は、「当該外国人に対し収容令書又は退去強制令書の発付があったときは」
と規定し、収容令書が発付されない場合のあることを明らかにしており、これは収容前置
主義と矛盾する。
ク 被告は、法は、収容の必要性の有無にかかわらず全件収容主義を採用しているとの立場
に立っている。しかしながら、収容の必要性は、別段これを法が明文上規定していなくて
も、立法の趣旨に照らし、当然これを前提とするものと解すべきである。
ケ 仮放免制度においては、保証金をもって逃亡防止を担保する手段としている。そして、
法54条2項からすると、仮放免の全件につき、保証金を課すこととなっている。これはま
さしく、収容された者は逃亡の可能性のある者であることを前提としている。裏を返せば、
逃亡のおそれのない者が収容されることは予定していないのである。
仮放免制度について、身体拘束の必要性がない場合には仮放免を義務的になすのでなけ
れば、身体拘束に最小限性を要求する憲法31条及びB規約9条に適合するということはで
きない。しかるに、主任審査官等は、仮放免を自由裁量行為であるとして運用している。
仮放免が合理的に運用され、実際の身柄拘束が収容の必要性のある場合に限られるので
あれば、法はかろうじて憲法及びB規約と整合性を保つことができる。しかし、現在のよ
うに運用されている限り、その違法性は顕著と言わざるを得ない。
 本件処分の検討
以下の各事情に照らせば、本件処分は違法である。
ア 原告に逃亡の危険がないこと
原告については、Gと原告代理人が身元保証人になっている。
また、原告ら4名は、収容されるまでの間、大阪市《住所略》の住居で、親子4名で平穏に
生活しており、仮放免中のB及び子ら2名は現在も同所で生活している。そして、Cは近畿
大学に、Dは大阪市立中学校にそれぞれ在籍し、まじめに通学している。
原告が、このような家族を放置して、あるいは家族と共に、逃亡するようなおそれは全く
存在しない。
原告ら家族が、違反調査が始まって以来、大阪入国管理局の指示に従ってきちんと出頭し
てきたことも、逃亡の意思のないことを示している。原告ら家族は、あくまで、Eが日本人で
あることを裁判の中で証明しようとしているのであり、逃亡などは考えたこともない。
イ 原告及び妻の健康状態が良くないこと
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ア 原告は、収容前から、十二指腸潰瘍を患っており、中国から送ってもらう漢方薬をずっ
と服用していた。日本の病院で施薬された薬が体に合わなかったからである。ところが、
収容に伴い漢方薬の差し入れは禁止された。また、収容に伴うストレスは、十二指腸潰瘍
の治療に障害となっている。
さらに、原告はB型肝炎ウイルスのキャリアであるが、その発症を防ぐための定期経過
観察が必要とされている。しかし、収容状態ではそれは困難である。そのような医療体制
は整っていない。B型肝炎は発症すれば肝癌に移行する可能性が高く、定期経過観察を怠
ることは許されない。また、西日本センターは、原告代理人からの情報に基づき、原告を感
染防止のためいったん単独室に移し、その後、a病院の診断により感染の可能性が低いと
いう結果が出た段階で、原告の要請もあり、再度雑居室に移したが、原告が使用するカミ
ソリ等は他の同室の者には使わせないよう原告に指示している。しかし、このことは他の
同室の者には言ってはいけないと原告に指示しており、西日本センターは原告がB型肝炎
キャリアであることを他の収容者には秘匿している。このことからすると、感染の可能性
は低いとはいえ、否定することはできず、現在の収容状態は適正でない。また、単独室での
長期収容は原告に多大な精神的苦痛をもたらすので許されるべきではない。
イ 原告の妻Bは、平成12年2月に卵巣摘出手術をし、また慢性の変形性腰痛症に罹患して
おり、健康状態が良くない。こうした状態で2人の子らの養育に1人であたるのは困難で
ある。
ウ 平等原則(憲法14条、B規約3条)違反
妻B並びに子のC及びDについては、平成14年7月18日に仮放免が許可され、その後も延
長が許可され続けているのに対し、生計を同じくする夫の原告のみに仮放免が許可されない
ことについては、なんら合理性は見出せず、明らかに平等原則に反する。
エ 拷問を禁ずる条約の違反
本件処分は、拷問等を禁じたB規約7条、及び、平成11年7月29日に日本でも発効した「拷
問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」(以下「拷
問等禁止条約」という。)に違反する。
すなわち、B規約7条は、「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける
取扱い若しくは刑罰を受けない」と定めている。また、その禁止を徹底するため、より詳細な
規定を定めた拷問等禁止条約は、「身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人
に重い苦痛を故意に与える行為であって、(中略)本人若しくは第三者を脅迫し若しくは強要
することその他これらに類することを目的として」行われるものを「拷問」と定義づけ(1条
1項)、締約国に対し、「自国の管理の下にある領域内において拷問に当たる行為が行われる
ことを防止するため、立法上、行政上、私法上その他の効率的な措置をとる」べきものと定め
ている(2条1項)。
しかるところ、ウ記載のような不平等な本件処分の真の意図は、原告のみに対する収容を
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長期間継続して、妻及び2人の子らと隔離し続け、原告ら4名に精神的な苦痛を与え続ける
ことによって、原告ら4名が提起している別件訴訟の遂行を断念させ、帰国に追い込もうと
いうところにあると考える以外に説明はつかない。
そうすると、本件処分は、原告ら4名に対し、帰国を強要する目的で重い苦痛を故意に与
えるものであるから、B規約7条及び拷問等禁止条約2条1項に反する。
 Eの国籍と本件処分に与える影響
ア Eの国籍に関する事実関係
ア E(日本名H)は、1926年(大正15年)に静岡県で生まれた。Eの実母は日本人であるI
(以下「I」という。)である。Iは、同年ころ、静岡県でJ(以下「J」という。)と結婚した。
しかしながら、Eの実の父は、Jではなく、日本人の男性であった可能性が高い。同男性
は、IがEを妊娠して2か月くらいのときに行方が知れなくなったものである。このこと
は、Iが死去する間際にEに話したものであり、信憑性は高い。
イ JとIは、Eが5歳くらいのころ、Eらと共に、中国福建省に渡った。
ウ Eは、17歳のとき(1943年)、中国人男性(K)と最初の婚姻をしたが、同人は死亡した。
エ Eは、29歳のとき(1955年)、中国人男性(L)と2回目の婚姻をした。Bは、両名の子
として出生した。
イ Eの国籍の評価
ア アア記載のとおり、Eは、日本人母(I)の婚外子であるから、旧国籍法(明治32年制定
のもの。以下同様)によっても、出生の時日本国籍を取得している。
仮に、Eの父がJであったとしても、IとJとの婚姻について婚姻届の事実は確認でき
ない以上、同婚姻は事実婚と解するのが相当である。そして、当時、正式な婚姻は日本人女
性にあっては親の承諾が絶対的な条件とされていたが、中国人に対する偏見の厳しかった
当時にあって、Iの親が正式な結婚を承諾したと考えるのは困難であることから、実際に
もIとJとの婚姻届は出されていないものと推測される。当時、日本人女性が中国人男性
と法律上の結婚をすると、日本人女性は日本国籍を失うことになったことも、婚姻届に消
極的になる理由となったと考えられる。
イ 被告は、Jによる認知によりEが日本国籍を失ったと推認される旨主張する。
まず、JがEについて戸口上の届出をしているとする点については、中華民国民法1065
条が適用されるのは中華人民共和国成立以前であるところ、中華人民共和国において初め
て戸口登記条例が制定されたのは1958年1月9日のことである。したがって、仮にJがE
について戸口上の届出を行った事実があるとしても、中華民国民法1065条が適用される
余地はない。
また、Eが日本にいる間に認知の効力を有する戸籍上の出生届等を一切行わなかったこ
とは考えがたいとの点についても、Jがこのような届出を行った証拠は皆無であり、被告
の主張は失当である。
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ウ Eの最初の婚姻は、アウ記載のとおりであるところ、この当時中国において適用される
中華民国国籍法2条1号は、中国人の妻となった外国人は元の国籍を維持しない限り、中
国国籍を取得する旨規定していた。
他方、旧国籍法18条は、日本人が外国人の妻となり、夫の国籍を取得したときは、日本
の国籍を失う旨規定していた。
上記は有効な婚姻を前提とするところ、平成元年改正前の法例は、婚姻の実質的成立要
件は各当事者の本国法により、形式的成立要件(方式)は、婚姻挙行地法によるとしていた。
そして、婚姻挙行地法である中華民国民法982条は、婚姻の方式として、結婚は、公開の儀
式及び2人以上の証人があることを要する旨規定していた。
しかしながら、Eは貧しく、結婚式のようなものは全く挙げていないとのことであり、
上記最初の婚姻は、中華民国民法の婚姻についての方式をみたしておらず、法律上有効な
婚姻とはみなされない。
したがって、最初の婚姻によって、Eが日本国籍を喪失することはない。
ウ 以上のとおり、原告の妻Bの母Eは日本国籍を有し、あるいは、少なくとも日本人母の子
であり、また、これを裏付ける本件就籍許可審判が存する。この点は、収容の必要性に関し、
重要な意味を有するものである。
(被告の主張)
 法所定の収容制度の目的と仮放免の許否の判断基準
ア 退去強制手続について
退去強制事由に該当する外国人に対する退去強制手続は以下のとおりである。
すなわち、法24条は、「次の各号のいずれかに該当する外国人については、次章に規定する
手続により、本邦からの退去を強制することができる。」と退去強制処分をする行政庁の機能
を定めており、入国警備官は同条各号の一に該当する疑いがある外国人(以下「容疑者」とい
う。)があれば、これを調査した上、すべて身柄を収容して、当該容疑者を入国審査官に引き
渡さなければならず(法27条、39条、44条)、入国審査官は、当該容疑者が同条各号の一に該
当するか否かを速やかに審査の上、認定することを要し(法45条、47条)、また、当該容疑者
が同認定に服さず、口頭審理を請求(容疑事実は認めるが、在留特別許可を求める場合を含
む。)したときは、特別審理官は、口頭審理をした上で認定に誤りがないかどうかを判定しな
ければならず(法48条)、さらに当該容疑者が同判定に服さず異義を申し出たときは、法務大
臣は、その異義の申出に理由があるかどうかを裁決し、その結果を主任審査官に通知するも
のとしている(法49条)。そして、この退去強制手続において、容疑者が法24条各号の一に該
当するとの入国審査官の認定若しくは特別審理官の判定に容疑者が服したとき又は法務大臣
から異議の申出は理由がない旨の裁決の通知を受けたときには、主任審査官は、当該容疑者
に対する退去強制令書を発付しなければならない(法47条4項、48条8項、49条5項)。
イ 原則収容主義について
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ア ア記載のような一連の退去強制手続において、容疑者の身柄を拘束して行うのが原則
(収容前置主義、原則収容主義)である(法39条1項、41条1項、52条5項)。
すなわち、法39条は、入国警備官が収容令書に基づいて容疑者を収容する権限があるこ
とを定め、法44条は、入国警備官が容疑者を収容した場合には、48時間以内に入国審査官
に引き渡すこととし、引渡しを受けた入国審査官は容疑者が法24条各号に該当するかどう
かをすみやかに審査しなければならないとされている(法46条)が、入国警備官が容疑者
を収容しないで(在宅のままで)違反事件を入国審査官に引き渡す手続について定めた規
定は存しない。また、法47条1項が入国審査官は、審査の結果、容疑者が法24条各号のい
ずれにも該当しないと認定したときは、直ちにその者を放免しなければならないと定め、
法48条1項による口頭審理の請求があったときに、特別審査官が行う口頭審理において、
容疑者に対して出頭を求める規定がなく(違反調査における法29条1項参照)、かえって、
同条6項が、特別審査官は、口頭審理の結果、法47条2項の認定が事実に相違すると判定し
たときは直ちにその者を放免しなければならないとしていることは、入国審査官による審
査及び特別審査官による口頭審理の時点で、容疑者がすべて収容されていることを前提と
した規定と解される。
イ この収容の目的は、第1に送還のための身柄確保の必要にあるが、これにとどまらず、
第2に、元来、不法入国者のみならず、不法上陸者及び不法残留者は、本邦において在留活
動をすることは許されないのにかかわらず、身柄を収容し在留活動を禁止しなければ、事
実上在留活動を容認することになり、在留資格制度の根底を紊乱することになるから、在
留活動を禁止するためでもある。
第2の点をふえんすると、法は、外国人の入国及び在留管理の基本となる制度として在
留資格制度を採用した。すなわち、在留資格制度とは、法において、外国人が本邦に入国し
在留して特定の活動を行うことができる法的地位又は特定の身分若しくは地位を有する者
としての活動を行うことができる地位を「在留資格」として定め、外国人の本邦において
行おうとする活動が、在留資格に対応して定められている活動のいずれかに該当しない限
りは入国及び在留を認めないこととして、この在留資格を中心に外国人の入国及び在留の
管理を行う方法をいい、この制度を外国人の入国及び在留管理の基本として採用した(法
2条の2)のである。そして、退去強制とは、国家が自国にとって好ましくないと認める外
国人を強制力をもって国外に排除する作用をいう。このような作用を有する退去強制令書
を発付したにもかかわらず、在留資格制度の下、容疑者を収容せず本邦内において事実上
在留活動を認めることは背理であることは明らかであって、収容の目的の一つが、在留活
動を禁止するためにあることは自明の理である。
この点、原告は、仮放免制度(法54条2項)や特別放免(法52条6項)を挙げ、これらの
場合、在留資格のない者も在留活動をなしうるのであるから、在留活動を禁止するために
収容されるのだとの立論は説明がつかないと主張する。
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しかしながら、これらの制度は、原則収容主義の下での例外的措置として身柄の拘束が
解かれるにすぎず、その者の地位が退去強制令書を発付された者であることに変わりはな
く、その付された条件範囲内で一定の社会的活動(日常生活を送る等の活動)が許容され
るのは、仮放免あるいは特別放免により在留資格が付与され、又は復活するのではなく、
これらの特別な制度の枠内における管理によるものであり、在留資格のない者は在留活動
をなしえないのは何ら変わりなく、原告の主張は失当である。
また、原告は、仮放免の取消理由は、逃走等に限られているとし、収容はあくまで逃走防
止の手段と解するほかないと主張する。
しかしながら、法55条によれば、「仮放免に附された条件に違反したとき」も仮放免の取
消理由になるのであり、仮放免の取消しとなるのは、逃亡やそれに類似した事由に止まら
ない上、仮放免の取消理由から収容の目的が直ちに導かれるか疑問であって、原告の立論
は論理に飛躍がある。
さらに、原告は、逃走や証拠隠滅を防止する以外の収容はB規約9条1項にいう「恣意
的」抑留となるとし、収容の目的の一として在留活動の禁止を含ませることは「恣意的」で
あって、収容の目的に含まれるとすると、法に定める収容制度はB規約に反し、制度その
ものが無効となるとする。
しかしながら、退去強制令書に基づく収容は、国際法上国家の権利として認められてい
る外国人の退去強制の実施を目的とし、外国人を国外に退去強制するという行政目的を達
成するための不可欠の手続として、原則収容主義を採用しているのであり、かかる収容が
B規約9条1項にいう「恣意的」抑留に当たらないことは明らかである。
ウ 仮放免について
イ記載のように、退去強制手続は容疑者の身柄を収容して行うのが原則であるが、その例
外的措置として、法54条は、収容令書若しくは退去強制令書の発付を受けて収容されている
者について仮放免の制度を設け、退去強制令書の発付を受けて収容されている者に関して
は、自費出国又はその準備のため若しくは病気治療のため等、身柄を収容するとかえって円
滑な送還の執行が期待できない場合、その他人道上配慮を要する場合等特段の事情がある場
合に一定の条件を付したうえで一時的に身柄の解放を認めるものである。したがって、法64
条2項の規定の体制をもあわせ考慮すると、仮放免の許否の判断については、入国者収容所
長等に上記の目的的見地からする広範囲の自由裁量に委ねられているというべきである。
したがって、仮放免許否の判断については、入国者収容所長等に裁量権の逸脱ないし濫用
があった場合に限り、違法と評価されるというべきである。
 本件処分には裁量権の逸脱濫用はないこと
ア 原告は、本件申請において、仮放免理由の1つとして、原告が十二指腸潰瘍とB型肝炎キ
ャリアであり、精神的、治療の面でも収容は避けるべきであるとする。
しかしながら、a病院所属のM内科医は、平成14年10月4日に行った採血による検査結果
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等から、原告の病状について、「HBウイルスDNAも陰性であり、感染症や活動性は極めて低
い。肝機能も正常」と診断している。また、原告の主張する漢方薬の服用についても、原告の
申出に基づき、その都度服用を認めるなど適切に対応している。
イ 原告は、妻と在学中の子2人の4人家族であって、逃走の危険がないとはいえない。確か
に、原告は、違反調査が始まって以来、大阪入管の指示に従って出頭してきているが、かよう
な行動は、最終的には法務大臣の在留特別許可を期待していたものと推察される。しかしな
がら、原告に対して退去強制令書が発付されたことにより、この期待は消失し、逃走しない
という保障はなくなったといわざるを得ない。
また、子らが大学と中学校に在籍している点も、子らは在留資格を有していないのである
から、当然に就学の在留活動はできないのであって、理由とはならない。
ウ 原告は、妻子に対して仮放免が許可されたのに、原告のみが許可されないことについて合
理性はなく、平等原則に違反する旨主張する。
しかしながら、仮放免の許可は入国者収容所長等の自由裁量によるものであるところ、
個々の仮放免対象者を取り巻く諸事情は様々であり、仮に同一家族で申請理由が同一の場合
でも全く同じということはない。入国者収容所長等は、その自由裁量により、個々の仮放免
対象者につき仮放免請求理由を含む諸般の事情を総合的に考慮し仮放免の許否を決定しうる
のであり、単に同一所帯の構成員であることの故をもって、原告の妻子に対し仮放免許可を
する場合に原告に対しても仮放免許可しなければ平等原則に反するとして、許可する義務を
負うものではない。
エ 原告は、本件処分がB規約7条及び拷問等禁止条約2条1項に違反する旨主張する。
しかしながら、原告の収容は、法に従った正当な措置である上、収容にある程度の負担や
苦痛が伴うとしても、それは通常収容に伴うやむを得ないものであって、「拷問」に当たらな
いことは明らかである。
 Eの国籍と本件処分に与える影響
ア 前述のように、仮放免の許否は入国者収容所長等の自由裁量に委ねられているところ、本
件において仮処分が許可されなかったのは、仮放免すべき特段の事情がなかったからであ
る。
すなわち、被告は、原告からの仮放免許可申請書及び添付書類並びに証拠書類の提出を受
け、原告の主張する個々の事情等をも考慮の上で仮放免の許否を総合的に判断した結果、仮
放免を認めるべき事情がないと判断したものである。
したがって、本件処分の後に、原告の妻の母Eに本件就籍許可審判があったからといって、
何ら本件処分が違法となるものではない。
また、仮にEが日本国籍を有していたとの事実が認められたからといって、直ちに原告に
在留資格が認められるものでもないから、この点からも、就籍の事実が本件処分の効力に影
響を与えるものではないというべきである。

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