難民認定をしない処分取消請求事件(第1事件)
平成11年(行ウ)第31号
退去強制令書発付処分等取消請求事件(第2事件)
平成13年(行ウ)第258号
原告:A、両事件被告:法務大臣、第2事件被告:東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第2部(裁判官:市村陽典・丹羽敦子・森英明)
平成16年5月28日
判決
主 文
1 被告法務大臣が平成13年6月26日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1
項に基づく原告の異議申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
2 被告東京入国管理局主任審査官が平成13年6月26日付けで原告に対してした退去強制令書発
付処分を取り消す。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、平成11年(行ウ)第31号事件について生じたものは原告の負担とし、平成13年(行
ウ)第258号事件について生じたものは被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 平成11年(行ウ)第31号事件(以下「第1事件」という。)
被告法務大臣が平成10年10月5日付けで原告に対してした難民の認定をしない旨の処分を取
り消す。
2 平成13年(行ウ)第258号事件(以下「第2事件」という。)
主文第1項及び第2項と同旨
第2 事案の概要
本件は、ミャンマー連邦の国籍を有する原告が、被告法務大臣に対し、出入国管理及び難民認
定法61条の2第1項の規定に基づき、難民の認定を申請したところ、被告法務大臣から、同条2
項所定の期間を経過した後に上記申請を行ったこと等を理由として難民の認定をしない旨の処
分を受けたことから、同項の規定を適用して上記処分を行ったことが難民の地位に関する条約及
び難民の地位に関する議定書に反するなどと主張して、上記処分の取消しを求めるとともに(第
1事件)、被告法務大臣から同法49条に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決を受け、被告東
京入国管理局主任審査官から退去強制令書の発付処分を受けたことから、原告に在留特別許可を
認めなかった上記裁決は、被告法務大臣が与えられた裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法があ
り、上記裁決を前提としてされた上記退去強制令書の発付処分も違法であると主張して、これら
の処分の取消しを求めている(第2事件)事案である。
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1 法令の定め等
(以下、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。昭和27年法律第126号により同年
4月28日以後法律としての効力を有する。)を「法」という。)
 難民の認定
法61条の2第1項は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申請があったとき
は、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことができる旨規定する。
そして、同条2項は、「前項の申請は、その者が本邦に上陸した日(本邦にある間に難民とな
る事由が生じた者にあっては、その事実を知った日)から60日以内に行わなければならない。
ただし、やむを得ない事情があるときは、この限りでない。」と規定する。
(以下において「60日条項」という場合は、難民の認定の申請期間に係る同項の規定をいう。)
 法における難民の意義
ア 法2条3号の2は、法における「難民」の意義について、難民の地位に関する条約(昭和56
年条約第21号。以下「難民条約」という。)1条の規定又は難民の地位に関する議定書(昭和
57年条約第1号。以下「難民議定書」という。)1条の規定により難民条約の適用を受ける難
民をいうと規定している。
イa 難民条約1条Aは、「1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、
国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受け
るおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であっ
て、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにそ
の国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有し
ていた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有し
ていた国に帰ることを望まないもの」は、同条約の適用を受ける「難民」に該当すると規定
している。
b また、難民議定書1条2は、同議定書の適用を受ける「難民」とは、難民条約1条Aの
規定にある「1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、」及び「これらの事件の
結果として」という文言が除かれているものとみなした場合に同条の定義に該当するすべ
ての者をいうと規定し、難民議定書1条1は、上記難民に対し、難民条約2条から34条ま
での規定を適用するとしている。 
ウ したがって、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的
意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍
国の外にいるものであって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような
恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」は、法にいう「難民」に
該当することとなる。
2 前提となる事実(これらの事実は、いずれも当事者間に争いがない。)
 原告の国籍並びに本邦への入国及び在留状況
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ア 原告は、1954(昭和29)年《日付略》、当時のビルマ連邦(1974(昭和49)年にビルマ連邦
社会主義共和国、1989(平成元)年にミャンマー連邦と改称され、現在に至る。以下、原則と
して「ミャンマー」といい、ミャンマー連邦と改称される以前における同国を「ビルマ」とい
う。)において出生した、ミャンマー国籍を有する外国人である。
イ 原告は、平成3(1991)年《日付略》、新東京国際空港に到着し、東京入国管理局(以下「東
京入管」という。)成田支局入国審査官に対して、渡航目的「TOURIST」(観光)、日本滞在予
定期間「7 DAYS」(7日間)とそれぞれ外国人入国記録に記入して上陸申請し、同日、法(た
だし、平成3年法律第71号による改正前のもの)別表第1に規定する在留資格「短期滞在」
及び在留期間90日とする上陸許可を受け、本邦に上陸した。
ウ 原告は、本邦に入国して約1週間後から、東京都《地名略》区において、不法就労(水産物
加工)を開始し、在留期間の更新又は在留資格の変更の許可申請をすることなく、在留期限
である平成3年《日付略》を超えて不法残留することとなった。
エ その後、原告は、《地名略》市、東京都《地名略》区等において、建設作業員等として稼働した。
オ 原告は、平成9年2月10日、東京都《地名略》区長に対し、同区《住所略》を居住地として、
外国人登録の新規登録申請をした。
 原告の難民認定申請手続の経緯
ア 原告は、平成9年《日付略》、東京入管において、被告法務大臣に対し、難民認定申請をし
た(以下「本件難民認定申請」という。)。
イ 被告法務大臣は、平成10年10月5日、本件難民認定申請に対し、難民の認定をしない旨の
処分を行い(以下「本件不認定処分」という。)、同年11月18日、原告に告知した。
なお、本件不認定処分の通知書には、本件不認定処分の理由として、「貴殿からの難民認定
申請は、出入国管理及び難民認定法第61条の2第2項所定の期間を経過してなされたもので
あり、かつ、貴殿の申請遅延の申立ては、同項但書の規定を適用すべき事情とは認められな
い。」と記載されている。
 原告の退去強制手続の経緯
ア 東京入管入国警備官は、平成10年10月14日に違反調査を実施した結果、原告が法(ただし、
同年法律第101号による改正前のもの。以下、において同じ。)24条4号ロに該当すると疑
うに足りる相当の理由があるとして、同月26日、被告東京入管主任審査官(以下「被告主任
審査官」という。)から発付された収容令書に基づき、同月29日、同令書を執行し、原告を同
号ロ該当容疑者として東京入管入国審査官に引渡した。
イ 被告主任審査官は、平成10年10月29日、原告に対し、請求に基づき、仮放免を許可した。
ウ 東京入管入国審査官は、平成10年10月29日、同年11月27日及び同月30日に、原告につい
て違反審査をした結果、同日、原告が法24条4号ロに該当する旨の認定を行い、原告にこれ
を通知したところ、原告は、同日、口頭審理を請求した。
エ 東京入管特別審理官は、平成11年4月1日、口頭審理を実施し、その結果、特別審理官は、
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同日、入国審査官の上記認定に誤りがない旨判定し、原告にこれを通知したところ、原告は、
同日、被告法務大臣に異議の申出をした。
オ 被告法務大臣は、平成13年6月13日、原告の上記異議の申出は理由がない旨の裁決をし
(以下「本件裁決」という。)、本件裁決の通知を受けた被告主任審査官は、同月26日、原告に
本件裁決を告知するとともに、退去強制令書を発付し(以下「本件令書発付処分」という。)、
同日、原告を東京入管収容場に収容した。
カ 被告主任審査官は、平成13年9月26日、原告に対し、請求に基づき、仮放免を許可した。
原告は、現在も仮放免中である。
3 当事者双方の主張
(原告の主張)
 本件不認定処分が違法であること
ア 法61条の2第2項と難民条約及び難民議定書の関係
a 難民条約及び難民議定書は、難民の定義及び締約国がとるべき保護措置の概要に関する
規定を設けているものの、難民認定手続に関しては何らの規定も設けておらず、難民認定
の具体的な手続については、円滑かつ的確な難民の認定とその保護のために、締約国に対
して、統治機構の制度と実情に応じた手続を創設することをゆだねたものということがで
きる。
しかしながら、このことは、締約国がその自由な裁量によって難民認定手続を定めるこ
とが許容されることを意味するものではなく、難民条約及び難民議定書で定義する難民
(以下「条約上の難民」という。)をそのまま難民と認定するために、当該締約国の統治制度
上最も適切な認定手続を設けることが求められているのであって、締約国に与えられた難
民認定手続の創設に関する裁量には、このような条約の目的による一定の限界があるとい
うべきである。
b 難民条約及び難民議定書は、締約国に対し、各国の状況に従い、同条約1条A及びこ
れを修正する議定書で定義する条約上の難民を等しく難民として保護すべきことを求めて
いるところ、本邦に上陸した日から60日以内に難民認定申請を行うことを難民の認定の要
件とする法61条の2第2項の規定は、その解釈、運用によっては、条約上の難民のうち一
定の者を難民と認定しない結果をもたらすこととなるから、これによって、条約上の難民
の中に難民条約上の保護措置の利益を享受できない者が生じることとなり、また、締約国
ごとに難民認定の結果に相違が生じることにより、国際条約によって難民を定義しその保
護を各国に要請した意味が失われることとなる。
したがって、難民の認定に係る申請期間を定めた同項の規定を同条約及び同議定書によ
る上記の要請に適合するように解釈するならば、同項の規定が単に申請期間に関する努力
目標を定めたものと解するか、又は、同項ただし書の「やむを得ない事情」をかなり広く解
するほかない。
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にもかかわらず、被告法務大臣は、上記「やむを得ない事情」について、病気、交通の途
絶等の客観的事情により入国管理官署に出向くことができなかった場合や、本邦において
難民認定申請をするか否かの意思を決定することが客観的にも困難と認められる特段の事
情がある場合等をいうものとして、極めて限定的に解釈したうえで、同項所定の期間内に
難民認定申請が行われなかったという形式的理由のみによって、原告の難民該当性に関す
る実体判断をしないで本件不認定処分を行ったものであるから、かかる解釈及び運用に基
づいて行われた本件不認定処分は、同条約及び同議定書に違反するというべきである。
また、国連難民高等弁務官事務所の執行委員会(以下「UNHCR執行委員会」という。)
による1979(昭和54)年の「庇護国なき難民の決議」(決議15号。以下「本件UNHCR執行
委員会決議」という。)が、「庇護希望者に対し一定の期限内に庇護申請を提出するよう求
めることはできるが、当該期限を徒過したことまたは他の形式的要件が満たされなかった
ことによって庇護申請を審査の対象から除外すべきでない。」としており、この決議は、同
条約に基づく難民保護の要請の必然的な結果というべきであるから、60日条項を適用して
原告の難民該当性に関する実体判断をせずに本件不認定処分を行ったことは、同条約及び
同議定書に違反する。
さらに、60日条項の期間制限は、被告法務大臣の運用において、実体審査に入る前に満
たされるべき要件とされているところ、このことは、難民の概念に時間的制限を付加する
に等しいから、難民概念について留保ないしは変更を行うものであって、同条約1条A、
42条に違反する。
c 被告法務大臣は、難民認定申請に係る期間制限を定めた60日条項が、難民条約及び難民
議定書の規定及び趣旨に照らして合理的な制度であって、仮に同項の適用により我が国に
おいて難民の認定を受けられない条約上の難民が生じ得るとしても、同条約及び同議定書
に反しないと主張するが、被告法務大臣が同項の期間制限の合理的根拠として主張する点
は、下記ないしのとおりいずれも失当であり、難民認定申請の期間制限に関する諸外
国の制度やその運用の実情に照らしても、60日条項及びその解釈、運用が合理的であると
はいえない。
 被告法務大臣は、難民は恐怖から早期に逃れるため速やかに他国の庇護を求めるのが
通常であるから、我が国の保護を受けるべく難民の認定を申請する者も速やかにその旨
申し出るべきであると主張するが、このような主張は、難民が難民と認定されることに
よって故国と絶縁することをためらったり、難民と認定されない場合にかえって本国に
送還されることを懸念するという現実を無視しており、我が国において難民認定申請に
期間制限があること自体が十分周知されていないことに照らしても、難民認定申請を速
やかにしなかった事実を難民該当性の判断に直結させることは、事実誤認、経験則違反
というほかない。
 被告法務大臣は、難民となる事実が生じてから長期間を経過した後に難民認定申請が
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されると事実関係の把握が困難となり、適正な認定ができなくなるおそれがあるとする
主張についても、一定の期間の経過によって一律かつ定型的に事実関係の確定が不可能
ないし著しく困難になることはなく、事実関係の把握という観点からは、60日の申請期
間の厳守を強固に貫くことには意味が乏しいというべきである。
 被告法務大臣は、我が国の地理的、社会的実情に照らせば、60日の申請期間が十分な
期間であると主張するが、日本語を解さない外国人が実際に難民認定手続をすること
は、情報面でも心理的にも極めて困難であり、実際の申請のほとんどが上記申請期間の
経過後にされていることからも、上記申請期間が十分であるということはできない。
 被告法務大臣は、60日条項が難民認定制度の濫用者による申請を可及的に排除する機
能をも併せ有すると主張するが、真の難民が濫用防止手続のために不認定になるような
ことがあってはならないのであって、このような理由によって申請期間の制限を正当化
することはできない。
 被告法務大臣は、60日の申請期間を経過した後に行われた難民認定申請であっても、
法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」が認められる場合には、上記期間内
に行われた申請と同様に難民性の有無を判断することになることから、60日条項は合理
的であると主張するが、上記「やむを得ない事情」に関する被告法務大臣の厳格な解釈
を前提とすれば、これが認められる事例はほとんどなく、同項ただし書の規定が何の機
能も果たしていないことは明らかである。
d 被告法務大臣は、我が国における難民条約上の保護措置について、難民の認定を受ける
か否かにかかわりなく、当該行政機関等が個別に難民であるか否かを判断することによっ
て付与されるとし(いわゆる個別認定方式)、条約上の難民であれば難民条約上の保護措置
による利益を実質的に享受することが可能であると主張する。
しかしながら、我が国は、難民条約を批准するに当たり、難民の認定という複雑な判断
を各行政機関等がそれぞれの立場でその都度行うことが非効率的であり、判断の不統一も
生じかねないことから、被告法務大臣が難民の認定を統一的に行う方式(いわゆる統一認
定方式)を採ることとし、その旨閣議了解をもって決定されているところである。
そして、難民認定証明書及び難民旅行証明書については、被告法務大臣が難民該当性の
判断を一元的に行い、その判断に基づいて交付されることが明文で規定されているとこ
ろ、このことは、上記各証明書を受けた者に対し、これによって自己が難民であることを
他の各行政機関等に証明する方法を与えた趣旨によるものというべきであって、統一認定
方式が採用されていることを示すものである。
したがって、被告法務大臣の上記主張は、難民該当性に関する個別認定方式を前提とす
る点で失当である。
e また、難民条約上の保護措置を個別的に検討しても、条約上の難民であってもこれらの
保護措置の利益を実質的に享受することができるものではないことは明らかである。
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 教育に関する保護措置
難民条約22条2は、締約国が、難民に対し、初等教育以外の教育に関し、できる限り
有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも同一の事情の下で一般に外国人に対し
て与える待遇よりも不利でない待遇を与える旨規定している。
しかしながら、大学受験資格に関しては、昭和57年2月12日付け学大第34号各国公
私立大学長・大学入試センター所長あて文部省大学局長通知(以下「大学局長通知」と
いう。)により、難民の認定を受けた者について、出身国の学校から卒業証明書等を取り
寄せることが不可能なことから、本人の申請をもって当該証明書に代える扱いが認めら
れているのに対し、条約上の難民でありながら60日条項の適用により難民と認定されな
かった者は、卒業証明書等を取り寄せることが不可能なことから、大学受験資格が与え
られないこととなり、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利で
ない待遇が与えられないこととなる。
 社会保障に関する保護措置
難民条約23条は公的扶助及び公的援助に関して、また、同条約24条1は社会保障に関
して、締約国が合法的にその領域に滞在する難民に対し、自国民と同一の待遇(以下「内
国民待遇」という。)を与える旨、それぞれ規定している。
しかしながら、国民健康保険については、実務上その対象者が難民の認定を受けた難
民及び長期的な在留資格を有する者に限られており、また、生活保護についても、難民
の認定を受けている者はその対象となるが、短期滞在者や不法滞在者はその対象とされ
ていないから、合法的に滞在する難民でありながら60日条項の適用により難民と認定さ
れなかった者に対しては、内国民待遇を与えられないことがあり得ることとなる。
 身分証明書等の発給及び交付
難民条約27条は、締約国が、その領域内にいる難民で有効な旅行証明書を所持してい
ない者に身分証明書を発給する旨規定し、同条約25条2は、締約国の機関又は国際機関
が難民に対し、外国人が通常本国の機関から又は本国の機関を通じて交付を受ける文書
又は証明書等を交付し又は交付されるようにする旨規定している。
しかるに、同条約27条の身分証明書は、難民としての身分及び地位を証明する文書を
意味するものというべきであるから、外国人登録証明書はこれに該当しない。
また、船員法50条3項、同法施行規則28条に定める船員手帳は、同条約27条の身分証
明書に該当し、仮に該当しないとしても、同条約25条2の文書又は証明書等に該当する
ところ、船員手帳の交付手続について定める同規則29条5項は、本邦外の地域に赴く航
海に従事する船舶に乗り組む「難民」(難民認定証明書の交付を受けている外国人をい
う。)にあっては、当該国の領事官の証明書を添付することを要しないと規定しているこ
とからすれば、条約上の難民でありながら60日条項の適用により難民と認定されなかっ
た者については、難民認定証明書が交付されず、当該国の領事官の証明書を添付するこ
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ともできないから、同条約25条又は27条2の規定による保護措置を受けられないこと
となる。
 難民の出国に際して与える便宜
難民条約31条2は、避難国に不法にいる難民について、移動に関し、必要な制限以外
の制限を課してはならない旨規定し、移動の自由の保障を定めている。
しかしながら、我が国の退去強制手続においては、退去強制事由に該当すると疑うに
足りる相当の理由がある外国入に対しては、収容令書を発付してこれを収容し、さらに
退去強制令書が発付されれば、当該外国人を送還の執行まで収容しなければならないと
ころ、難民の認定を受けた者については、在留が正規化される実務が定着していること
から、上記各収容を免れるのに対し、条約上の難民でありながら60日条項の適用により
難民と認定されなかった者は、上記各収容によって移動制限を課されることとなる。
 合法的にいる難民の追放の禁止
難民条約32条1は、締約国が、合法的にその領域内にいる難民について、国の安全又
は公の秩序を理由とする場合を除くほか、これを追放してはならないと規定していると
ころ、締約国の合法的な滞在資格を有している間に難民認定申請をした者がその後難民
と認定された場合には、その時点で在留資格がなくても、合法的にその領域内にいる難
民に該当し、追放されてはならないものと解すべきである。
そして、国内法上、外国人が本邦に滞在するために在留資格を必要とする制度が採ら
れていることからすれば、難民の認定は当然に在留資格の付与を予定するものというべ
きである。
そうであるとすれば、少なくとも上記のような意味で合法的に本邦に滞在する条約上
の難民の場合、60日条項を適用して実体審査をせずに難民不認定処分をすることは、同
条1の規定に違反するというべきである。
 相互主義の免除
難民条約7条2は、すべての難民がいずれかの締約国の領域に3年間居住した後は、
当該締約国の領域内において立法上の相互主義を適用されない旨規定しているところ、
難民が本邦に上陸後長期間を経過した場合などにおいて、相互主義の適用の免除を受け
るために自ら難民であることを立証することは著しく困難であり、難民の認定を受けな
い限り、相互主義の適用の免除を受けることは実質的にほとんど不可能であるから、60
日条項を適用して難民の認定をしないことは、同条2の規定に違反する。
 属人法
被告法務大臣は、難民条約12条に規定する保護措置である属人法に関する規定を適用
するに当たり、当該難民が難民の認定を受けている必要はないと主張する。
しかし、上記主張は、前記dのとおり、我が国の難民認定制度において統一認定方式
が採用されていることに反するものであり、戸籍事務における難民の取扱いに関する昭
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和57年3月30日付け法務省民二第2495号各法務局長、地方法務局長あて民事局長通達
「難民の地位に関する条約等の発効に伴う難民に関する戸籍事務の取扱い」(以下「民事
局長通達」という。)が、難民認定証明書の写し又はこれに準ずるものを添付したときに
限りその者を難民として取り扱う旨定めていることや、実際に戸籍事務を行う市町村に
おいて難民該当性の判断を行うことが困難であることに照らしても不合理というほかな
く、同条に規定する保護措置の利益を享受するには、難民の認定を受ける必要があると
いうべきであるから、60日条項の適用により難民の認定をしないことは、同条の規定に
違反する。
 避難国に不法にいる難民の刑事免責
難民条約31条1は、締約国が、避難国に不法にいる難民に対し、不法に入国し又は不
法にいることを理由として刑罰を科してはならない旨規定し、これを受けて、法70条の
2は、不法入国、不法在留等の罪を犯した場合に、難民であることなど所定の要件の証
明があり、当該罪に係る行為をした後遅滞なく入国審理官の面前でこれらの要件に該当
することの申出をした場合に、刑を免除する旨規定している。
しかしながら、条約上の難民でありながら60日条項の適用により難民と認定されなか
った者が本邦上陸後長期間を経過した場合に、上記規定の適用を受けるために自ら難民
であることを証明することは著しく困難であり、このような難民が同条約31条1の保護
措置の適用を受けることは、実質的にほとんど不可能である。
 ノン・ルフールマン原則
難民条約33条1は、「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍
若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自
由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。」と
規定しているところ(いわゆるノン・ルフールマン原則)、条約上の難民でありながら
60日条項の適用により難民と認定されなかった者は、ノン・ルフールマン原則の適用を
受けることができない。
これに対し、被告法務大臣は、申請期間を徒過したことにより難民と認定されなかっ
た者についても、在留特別許可を与えることにより、迫害を受けるおそれのある地域へ
送還することを防止できる旨主張するが、被告法務大臣自身が、在留特別許可は裁量行
為であり、迫害を受けるおそれのある国に送還せざるを得ないことは在留特別許可の判
断の一事情である旨主張していることからすれば、在留特別許可がノン・ルフールマン
原則を担保するものでないことは明らかである。
また、被告法務大臣は、法53条3項が退去強制を受ける者の送還先に同条約33条1項
に規定する領域を含まない旨規定しており、これによってノン・ルフールマン原則が担
保されている旨主張するが、出身国以外の第三国には退去強制を受ける者を受け入れる
義務はなく、第三国による受入れが実現することは極めて例外的であって、このような
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偶然の事情に依存した法53条3項の規定によりノン・ルフールマン原則が制度的に担
保されているとはいえないし、本国及び第三国のいずれにも送還できない場合、被告主
任審査官としては、異議の申出に理由がない旨の裁決の通知を受けたときは直ちに退去
強制令書を発付しなければならない(法49条5項)ことから、結局迫害を受けるおそれ
のある本国を送還先とした退去強制令書を発付する可能性があることは否定できず、法
53条3項の規定によりノン・ルフールマン原則が担保されているとはいえない。
さらに、送還不能な場合における特別放免(法52条6項)等についても、裁量行為と
して運用されており、ノン・ルフールマン原則の制度的な担保とはなり得ない。
したがって、被告法務大臣の上記各主張はいずれも失当である。

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