退去強制令書発付処分取消請求事件
平成15年(行ウ)第420号
原告:A、被告:東京入国管理局長ほか1名
東京地方裁判所民事第38部(裁判官:菅野博之・鈴木正紀・馬場俊宏)
平成16年9月17日

判決
主 文
一 被告東京入国管理局長が原告に対して平成一五年四月九日付けでした出入国管理及び難民認定法四九条一項に基づく原告からの異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
二 被告東京入国管理局主任審査官が原告に対して平成一五年四月一〇日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
主文一、二項と同旨(訴状「請求の趣旨」欄一項記載の「一〇日」は「九日」の誤記と認める。)
第二 事案の概要
一 事案の骨子
本件は、法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長(以下「被告東京入管局長」という。)から出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)四九条一項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決を受け、被告東京入国管理局主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)から退去強制令書の発付処分を受けた原告が、原告に在留特別許可を認めなかった前記裁決には、被告東京入管局長が裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法があり、同裁決を前提としてされた退去強制令書の発付処分も違法である旨主張して、同裁決及び同発付処分の取消しを求める事案である。
二 前提となる事実
証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、その旨記載した。それ以外の事実は当事者間に争いがない。
1 身分事項等
原告は、昭和四八年(一九七三年)四月二一日、中華人民共和国(以下「中国」という。)遼寧省において出生した中国国籍を有する外国人である。
2 原告の入国及び在留状況等
 原告は、平成六年(一九九四年)四月四日、新東京国際空港に到着し、入国審査官から、入管法別表第一に定める在留資格「留学」、在留期間「一年」とする上陸許可を受けて、本邦に上陸した。
 原告は、東京都杉並区長に対し、平成六年四月八日、外国人登録法(以下「外登法」という。)に基づく新規登録申請をし、外国人登録証明書の交付を受けた。
 原告は、平成七年三月、同八年三月及び同九年二月に、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)において、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をし、いずれも、在留期間「一年」とする許可を受けた。
 原告は、平成七年四月及び同一一年一月に、それぞれ居住地変更登録をした。
 原告は、平成九年一二月一八日、本邦において、Bと婚姻した。Bは、中国国籍を有する外国人であった。
 原告は、平成九年一二月二六日、東京入管において、法務大臣に対し、入管法別表第一に定める在留資格「留学」から入管法別表第一に定める在留資格「家族滞在」へ変更する旨の在留資格変更許可申請をし、平成一〇年一月一九日、入管法別表第一に定める在留資格「家族滞在」、在留期間「一年」とする許可を受けた。
 原告は、平成一〇年一二月一一日、東京入管において、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をし、同月二五日、在留期間「一年」とする許可を受けた。
 原告は、平成一二年一月六日、東京入管において、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をし、同月一七日、在留期間「三年」とする許可を受けた。この許可に係る在留期限は、平成一五年一月一九日であった。
 原告は、平成一二年七月四日、東京都板橋区長に対し、居住地を東京都板橋区(以下「板橋区」という。)《住所略》(現住所地である。以下、同所で居住している貸室を「本件マンション」という。)とする居住地変更登録をした。
 原告は、平成一四年二月二七日、Bと離婚した。
十一 原告は、平成一四年四月二四日、東京入管において、法務大臣に対し、入管法別表第一に定める在留資格「家族滞在」から入管法別表第一に定める在留資格「人文知識・国際業務」へ変更する旨の在留資格変更許可申請(以下「第一次申請」という。)をした。法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入管局長は、同年九月二日、第一次申請について、不許可処分をした。
3 退去強制令書発付処分に至る経緯
 原告は、平成一五年一月一六日、東京入管において、法務大臣に対し、入管法別表第一に定める在留資格「家族滞在」から入管法別表第一に定める在留資格「人文知識・国際業務」へ変更する旨の在留資格変更許可申請(以下「第二次申請」という。)をした。法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入管局長は、同年二月二五日、第二次申請について、不許可処分をし、同年三月一二日、これを東京入管に出頭した原告に通知した。
これにより、原告は、在留期限である同年一月一九日を超えて本邦に不法に残留することとなり、入管法二四条四号ロ(在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者)に該当することとなった。
 東京入管入国警備官は、平成一五年三月一二日、原告が入管法二四条四号ロに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして、被告主任審査官から収容令書の発付を受け、同日、同令書を執行し、原告を東京入管収容場に収容した。東京入管入国警備官は、同月一三日、原告を東京入管入国審査官に引渡した。
 東京入管入国審査官は、平成一五年三月二五日、原告が入管法二四条四号ロ(不法残留)に該当する旨認定し、原告にこれを通知した。原告は、同日、この認定につき、特別審理官による口頭審理を請求した。
 東京入管特別審理官は、平成一五年四月七日、原告に係る口頭審理をし、前記における入国審査官の認定に誤りはない旨判定し、原告にこれを通知した。原告は、法務大臣に対し、同日、この判定につき、入管法四九条一項に基づく異議の申出をした。
 法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入管局長は、平成一五年四月九日、原告からの前記四の異議の申出について理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。同日本件裁決の通知を受けた東京入管主任審査官は、原告に対し、同月一〇日、本件裁決を告知するとともに、退去強制令書発付処分(以下「本件退令処分」という。)をした。
4 本件裁決及び本件退令処分後の経過
 東京入管入国警備官は、平成一五年五月二〇日、原告を入国者収容所大村入国管理センター(以下「大村センター」という。)へ収容した。
 日本人であるC(昭和四二年一二月二一日生。以下「C」という。)は、平成一五年五月二二日、板橋区長に対し、Cと原告が婚姻する旨の届出をした。
 原告は、平成一五年七月九日、本件訴えを提起した。
 原告は、平成一六年六月一八日、仮放免された。その後、原告は、本件マンションで、Cと同居して生活している。
三 争点
1 本件裁決の適法性について
被告東京入管局長は、原告につき、特別に在留を許可すべき事情があるとは認められないとして、本件裁決をしているが、この判断は、同被告の有する裁量権を逸脱するなどしてされた違法なものか。
2 本件退令処分の適法性について
本件裁決が違法であるから、これを前提とする本件退令処分も違法か。
四 当事者の主張の要旨
1 原告の主張
 争点1(本件裁決の適法性)について
 憲法上外国人に入国の自由が認められないとしても、そのことから直ちに、いったん我が国に入国した外国人に在留する権利が保障されていないと帰結することはできない。憲法二二条一項が「何人も」居住、移転の自由を有すると規定し、同条二項が「何人」も外国に移住する自由を侵されない旨規定していることや、例えば、移転の自由はその権利の性質上外国人に限って保障しないとする理由は見当たらないことから明らかなように、日本国憲法は、個人の尊厳に立脚し、個人がいかなる幸福を追求するかを個人の決定にゆだねるべきであり、国家はそれを追求する諸条件・手段を保障しようとするものであるという個人主義思想に立脚していることからすれば、外国人であろうと、日本国籍を有する者であろうと、差別される理由はない。在留特別許可の制度において法務大臣等に広範な裁量権があることを前提に、その裁量権の逸脱又は濫用の場合に初めて、裁決が違法となると解することは、法の支配を排除しようとすることにほかならない。
憲法が国民のみならず外国人に対しても居住・移転の自由を保障し、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)二一条においても同様の規定があることにかんがみれば、不法滞在者であっても、個人として尊重すべきであり、人生設計の全面的なやり直しを迫る退去強制という手段は、人道上も人権上も問題であるから、特別の事情がある場合には、在留を認めようとするのが、在留特別許可の制度である。このような制度の趣旨を念頭におけば、在留特別許可をすべきか否かの判断基準は、すべての移住労働者とその家族構成員の権利保護に関する国際条約(以下「国連移住労働者条約」という。)
六九条二項を参考に、入国の状況、在留期間及びその他関連する事項、特に家族の状況に関する適切な配慮がされているか否かに求めるべきであり、これを念頭において、不法滞在者が市民として我が国に定着しているか否かという観点から、在留特別許可を認めるかどうかを判断すべきである。
ア 原告は、平成六年四月四日、国費留学生として来日し、D専門学校、次いでE専門学校幼児教育学科、さらに同校の幼稚園教諭・保母養成学科でまじめに就学し、学業に専念して、すべての課程を修了し、保母資格及び幼稚園教諭二種免許を取得して、平成一〇年三月、同校を卒業した。
イ ところが、原告は、恋愛関係にあったBとの子供を妊娠したため、自分の夢を捨ててBとの婚姻を決意した。Bは、両親の反対を秘して、平成九年一二月、強引に原告との婚姻に踏み切った。
ウ 原告は、中国に帰国して長女Fを出産した後、日本に戻った。原告は娘を含む三人での生活を望んでいたが、Bが仕事に専念したいなどという理由で、これに反対したため、原告は、やむなく中国の原告の両親に娘を預け、仕送りをしながらやがて家族で生活することを夢見ていた。ところが、Bは、職場を転々としており、そのため、収入も月二五万円程度であって、それほど多くはなかった。原告は、中国の地方出身者で、夫を立てなければならないと教わって育ってきており、生活が苦しいときは仕事を見つけ収入を得て夫を助けなければならないと考え、Bの仕事が不安定でBの収入が多くなく、中国への送金もままならない状態であった平成一一年五月に、株式会社G(以下「G社」という。)に就職して、Bを助け、Fに送金するために、必死で働いた。このときの上司がCである。その後、Bは、H社に入社したが、原告も、誘われて、同年一〇月ころ、G社を退職し、H社に就職した。原告は、入社後約三か月が経ったころに、同社の繁忙期が過ぎた上、Fに会いたい気持ちが強くなったので、H社を退職し、いったん中国に帰国した。原告は、平成一二年五月、日本に戻って、I株式会社(以下「I社」という。)の旅行部門に就職した。このとき、資格外活動許可を得た。
エ ところが、Bは、平成一二年五月、両親が来日すると、原告を残したまま両親と旅行に出かけ、同年七月ころにはH社を退職し、両親とともにそのまま中国に帰国し、日本に来ようとはしなかった。原告は、不安定な生活が続く中で、必死で働き、仕事上のことで分からないことがあると、電話でCに質問するなどして、旅行業に精通するようになり、顧客の立場で旅行計画を立案して、顧客から信頼されるようになるとともに、会社においても、マナーを守り、日本の風習を習得し、日本人以上に日本人らしく振る舞い、上司や同僚からは原告の手腕が買われるようになった。原告は、Bを迎えに中国に行き、日本でもう一度将来を考えるため、二人で日本に帰国した。しかし、Bは、ほぼ無職の状況が続いた。原告は、必死に働き、家庭を守ってきたが、夫婦の溝は深まり、原告とBは、平成一四年二月、離婚した。しかし、Bは、仕事がなく、行き場もなかったので、離婚後も、本件マンションで生活を続けた、
オ 原告は、I社で懸命に働き、売上げもトップを走っていたが、独立するといううわさが流れ、平成一四年一月、同社を解雇された。原告は、J株式会社(以下「J社」という。)の社長に請われ、就労ビザを取得すると約束してくれたので、同社に就職した。
原告は、別れた夫と同居するという極めて不自然な生活を続けるうちに、帰宅するのが嫌になり、結局、早朝から深夜遅くまで働き、人相が変わるほどやつれた。
カ Cは、平成一四年二、三月ころに、原告がJ社で働いていることを知った。その後、Cは、数回、仕事上のことで原告と電話で話したり、会うなどしたが、その際、原告に対し、「今度食事でもしよう。」と誘った。原告は、イタリアンレストランでCと会ったが、このとき、Bとの離婚、その後のBとの同居、中国にいるFのことなど、これまでの事情をすべて話し、欝積した苦悩を打ち明けた。Cは、原告の生活や苦悩を知って、原告に同情した。Cは、原告から、夫を支え、家族を守るために必死に働いてきたことを聞かされ、日本人以上に日本人らしく振る舞っていた原告をいとおしく思う感情を抑えることができず、原告を助けてあげたいという衝動に駆られた。
キ その後、原告とCは、頻繁に会うようになり、週に数回デートを重ね、週末も一緒に過ごすようになり、急速に親しくなっていった。Cは、これまで付き合ってきた日本人の女性にはない優しさや、老人や子供に対するいたわりが原告にあることに惹かれ、原告は、Cに対する尊敬の念から、原告の苦悩を理解しすべてを受け入れてくれる一人の男性として思いを募らせるようになってきた。原告は、離婚後、J社の社長から、週六日間の労働を強要され、「ビザはあってもないのと同じだ。」などと言って、給与を不当に引き下げるなどの嫌がらせを受けるようになったが、Cは、原告をかばい、原告を支えた。
ク 原告が足にけがをして一、二日入院した後通院するということがあったが、Cは、原告の傍らにいて看病することができない自分に腹立たしさと無力感を覚えるようになり、原告との婚姻を意識するようになった。原告も、Cを心底信頼するようになり、Cとの婚姻を心から望むようになった。Cと原告は、平成一四年八月に、婚姻して、将来中国にいるFを日本に呼び寄せ、一緒に生活することを誓うようになった。しかし、親思い
のCは、自分が一人っ子であること、原告には離婚歴があり、中国に子供がいること、別れた夫が本件マンションに居座っている状況であることなどから、すぐには原告との婚姻の意志を両親に伝えることができず、原告と相談の上、環境を整えた上で両親を説得することにした。
ケ 環境整備の一環として、原告は、Cの紹介で、株式会社K(以下「K社」という。)に就職し、新しい住まいを探すようになった。しかし、そのころ、Bが中国に送還されることになったので、原告は、引っ越しを断念し、本件マンションでCと二人で生活する決意を固めた。原告とCは、平成一四年一二月にヨーロッパ旅行に出かけた。このように、原告とCは、同月には、事実婚の意志を固めていたということができる。原告とCは、帰国後、事実上の婚姻生活をするようになり、家賃と光熱費等は原告が負担し、Cが、生活費として五万円を渡し、外食や買物の費用もCが負担していた。Cは、平成一五年一月初旬ころから、原告が日本に永住することができるよう在留資格の変更の手続をするよう助言し、その手伝いもしていた。原告もCも、Cの両親から祝福された状態で正式な婚姻をしたいと考えていたが、Cは、まだ両親に原告を紹介していなかった。そのため、Cは、両親との関係を悪化させないよう配慮して、週に数日は実家に戻っていた。
コ その後、Cは、原告が収容された時点で、原告に対し、入籍を求めたが、原告は、強制退去の危険があるのにこれ以上Cに迷惑をかけることはできないという思いと、収容された直後に入籍するのは責任逃れのように勘違いされるという思いから、入籍にはちゅうちょを覚えた。しかし、Cは、退去強制令書が発付される可能性が高くなった段階に至って、原告との別離は二人の生活を根本的に破壊し、計り知れない精神的ダメージを与えることになると悟り、原告に対し、強く入籍を求めた。原告は、Cの愛情の深さに心を打たれて、これに同意した。
Cは、両親を説得して、平成一五年五月二二日、原告との入籍を果たした。Cは、原告との生活の場所であった本件マンションで暮らし、原告との面会を続けた。Cの給与は、手取りで月約二五万円から二六万円くらいであったにもかかわらず、Cは、預金を取り崩しながら、原告が大村センターに収容された後も、月に二回から四回大村センターを訪れて、原告と面会した。原告も、Cに対し、数百通に及ぶ手紙を出した。
 原告は、資格外活動をしたことがあるが、平成一三年八月一七日以前は法的無知が原因であり、その違法性は低い。原告が平成一四年一一月三日に入社したK社については資格外活動の許可を受けていないが、在留資格の変更によって就労の場を確保しようとしていたのであり、やはり違法性は低い。外国人に対する過重な就労制限に批判の目が向けられている現在の状況の下では、特別の理由がない限り、資格外活動それ自体を理由に在留特別許可をしないことは許されないというべきである。そして、本件では在留特別許可をしないとする特別な理由も存しない。
また、第二次申請の申請書には虚偽の記載があるが、これは、行政書士にすべて依頼して手続をしたところ、生じたものであり、原告には、悪意はなく、違法性の意識もなかった。
 以上の経緯によれば、原告は、国費留学生として来日し、勉学にいそしみ、業務に専念し、夫婦としてCと深い愛情に結ばれ、善良な市民として日本の社会に定着しており、原告とCとの仲を引き裂くのは、人倫に反し、正義の観念に著しく反するのであって、原告に在留特別許可を認めるべきである。
仮に、在留特別許可の制度において裁量権を認めるとしても、以上の事情によれば、被告東京入管局長は、原告が在留期間の経過によって不法滞在となったという形式的理由により本件裁決をしたもので、裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法であることは明らかである。
 争点2(本件退令処分の適法性)について
本件退令処分は、本件裁決を前提とするものであり、本件裁決の違法性を承継している。
前記のとおり、本件裁決は違法であるから、本件退令処分も同様に違法である。
2 被告の主張
 争点1(本件裁決の適法性)について
 原告は、在留期限である平成一五年一月一九日を超えて本邦に不法に残留するものであり、入管法二四条四号ロに該当する。したがって、被告東京入管局長に対する異議の申出は理由がない。
 そもそも、国家は、外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく、特別の条約又は取り決めがない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができる。我が国は、国連移住労働者条約を批准していない。B規約は、一三条において法律に基づいて行われた決定によって外国人が強制退去されることを前提とした規定を設けていることからも明らかなとおり、外国人を受け入れるかどうか、及びこれを受け入れる場合にいかなる条件を付する
かは専らその国家の立法政策にゆだねられているという国際慣習法を前提とする条約であるから、B規約が憲法の諸規定による人権保障を超えた利益を保護するものではないことは明らかである。
また、憲法上も、外国人は、我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利又は引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない。我が国に適法に在留し、期間更新についても申請権も付与されている在留期間更新の許否についてさえ、我が国への入国・在留が憲法上当然に保障されたものではなく、国家の自由な裁量に任されていることに基づき、それを前提として入管法が立法されていることによるものと考えられ、更新事由の有無の判断は法務大臣の裁量に任されているとされているのであり、在留特別許可は、入管法上、退去強制事由が認められ退去されるべき外国人に恩恵的に与え得るものにすぎず、当該外国人に申請権すら認められていないものである。
そして、在留特別許可の許否を的確に判断するには、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制目的である国内の治安と善良な風俗の維持、保健・衛生の確保、労働事情の安定など国益の保持の見地に立って、当該外国人の在留中の一切の行状等の個人的な事情のみならず、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情が総合的に考慮されなければならないのであり、このような見地から、入管法は、在留特別許可の付与を国内及び国外の情勢について通暁する法務大臣等の裁量にゆだねたものであり、この点からも、その裁量の範囲は極めて広範なものであることが明らかである。
以上のとおり、在留特別許可は、在留期間更新許可における法務大臣等の裁量の範囲よりも質的に格段に広範なものであるから、これを付与しないことが違法となる事態は容易に考え難く、極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても、それは、在留特別許可の制度に設けられた入管法の趣旨に明らかに反するなど極めて特別な事情が認められる場合に限られる。
ア 原告は、本件裁決時には、Bと離婚しており、Bは中国に送還され、原告とBとの間の子であるFは中国に居住し、Cとは婚姻関係になかったのであるから、原告に対して在留資格を付与する理由は何らも存在せず、在留特別許可を与える前提を欠いていた。
イ 原告は、平成一四年二月二七日、Bと離婚して、入管法別表第一に定める在留資格「家族滞在」に該当しなくなったにもかかわらず、在留資格変更許可を受けることなく在留を継続し、また、Bは、同年一一月一五日、中国に強制送還されていたにもかかわらず、原告は、K社への就職が決まったとして、平成一五年一月一六日、在日親族欄にBの氏名を記入して在留資格変更許可を求める第二次申請をした。また、原告は、平成一四年一一月からK社において資格外活動の許可を受けることなく就労していた。以上のような在留状況に照らし、被告東京入管局長は、原告に対し、平成一五年二月二五日、提出書類の信ぴょう性に疑義が認められ在留状況が不良と認められることを理由に、第二次申請について不許可処分をしたのである。
この事実からすると、原告が善良な市民として日本の社会に定着していたなどとは到底いうことができない。
ウ 原告名義のみずほ銀行新宿西口駅前支店の預金口座(《口座番号略》)には平成九年五月九日から同年一二月一八日まで合計約四五一万円が入金されており、これは、原告が本邦において稼ぎ出したものであるが、これがすべて正業により得られたものとは考え難く、仮に、正業による収入であったとしても、原告が入管法一九条一項に違反して長時間労働していたことは明らかである。また、原告は、平成七年九月二二日から平成一〇年七月二七日まで、郵便局に約三〇〇万円もの貯金を有しており、これも正業による収入とは考え難く、仮に、正業による収入であったとしても、原告が入管法一九条一項に違反して長時間労働していたことは明らかである。
以上によれば、原告が、学生の当時、勉学にいそしんでいたということはできない。
エ I社は、原告が売上金の一部を着服したことを理由に、原告を解雇している。また、J社は、原告が会社に無断でテレホンカードを仕入れて販売しその利益を自分のものにしたり、虚偽の売上げを報告して売上金の一部を横領したりするなどして、会社に損害を与えたことを理由に、原告を解雇している。以上によれば、原告がまじめに稼働して、業務に専念していたということはできない。
オ 原告は、足にけがをして平成一四年八月二三日から同年九月一〇日まで休業したことを理由に損害保険会社から損害保険金として二〇万四三九七円の支払を受けている。しかし、原告は、休業期間中である同年八月二三日、同月二六日、同月二八日、同月二九日及び同月三〇日にそれぞれ出勤しており、五日分の損害保険金の支払を不正に受けたものと認められる。
B名義のシティバンク赤坂支店の口座には、平成一〇年六月二九日から同年九月三日までに約二九〇〇万円が入金されており、このうち一三〇〇万円が同年一〇月八日に原告名義のシティバンク池袋支店の口座に入金されている。この約二九〇〇万円が正業により得られたものとは考え難く、原告がこの金員の取得に全く関与していなかったとは考えられない。
以上によれば、原告の在留状況には問題があったというべきである。
カ ①原告は、東京入管入国警備官に対し、平成一五年三月一二日、本邦に在留を希望する理由について、本邦において仕事を続けたい旨供述し、Cとの同居を継続し婚姻を予定していることなど全く供述していないこと、②原告からCあての同月二一日付けの手紙の内容からすると、原告は、Cに結婚を求めたものの、Cがこれに応じなかったため、中国への帰国をほのめかしたことがうかがわれること、③原告は、同月二五日、東京入管入国審査官の違反審査において、本邦での在留を希望する理由について、日本の生活
に慣れたこと、今の会社の仕事が好きであることなどを挙げ、できればずっと日本にいたい旨供述し、Cについては「好きな人も日本にいる」という程度の供述であったことによれば、前記違反審査の時点までには、原告とCとの間に婚姻関係を形成する具体的な合意など存在しなかったものと認められる。
原告は、同年四月七日の口頭審理において、Cの立会いの下に、Cと婚姻してその面倒をみて支えていきたい旨述べ、同月二日又は同月三日に中国にいる母親に対し、婚姻手続に必要な書類を日本に送るよう依頼した旨述べていることからすれば、前記口頭審理の時点に至って、ようやく、原告とCとの間に婚姻関係を形成する合意が形成されたものというべきである。
したがって、収容される以前から原告とCとの間に婚姻の合意があったかのような原告の主張は、失当である。
キ ①原告は、前記口頭審理において、「本年二月以降収容されるまではほとんど同居している状態ですが、一日くらい自分の家に帰るときもありました。」旨供述しているが、Cは、同日、東京入管特別審理官から、原告と同居しているのかと問われて、「同居はしていません。週二、三日ぐらいでしょうか、仕事が遅くなったときには彼女の家に泊まり出勤しています。」旨述べて、明確に同居の事実を否定していること、②Cの自宅は、横浜市青葉区であり、勤務先は、東京の北青山であり、原告の住所は、東京都板橋区であることからすると、Cは、仕事で帰りが遅くなった際に自宅に帰らず、原告宅で寝泊まりしていたにすぎないものというべきである。
したがって、原告とCが同居していた事実はない。
ク Cは、東京入管特別審理官から、原告に生活費を支給しているのかと問われて、「たまにお米を買ってあげる程度で、家賃、光熱費、生活費の支給はしていません。」と述べ、原告も、「家賃と光熱費で月一〇万円くらいを私が自分で払っています。」と述べていることからすると、原告とCは、生計を別々にしていたというべきである。
ケ 仮に、原告とCが交際していたとしても、前記キ及びクの程度の交際関係があったというだけでは、本邦での在留を認めるべき特別な事情に当たるということはできない。
コ 原告がCと婚姻した事実は、本件裁決後の事情であり、これを本件裁決の適法性を判断するに当たってしんしゃくすることはできない。
サ 原告は、中国で出生し、同所で育ち、同所で教育を受け、同所で生活を営んできたものであって、本邦に入国するまで、我が国とは何ら関わりのなかった者である。そして、原告は、稼働能力を有する成人であるところ、中国には両親、弟及び子が居住しており、資産として約八〇〇万円があるというのであるから、中国に帰国したとしても、帰国後の生活に特段の支障があるとは認められない。
 以上によれば、原告について在留特別許可を付与しないことが在留特別許可制度に設けられた入管法の趣旨に明らかに反するなど極めて特別な事情があるとは認められないから、本件は、在留特別許可を付与しなかったことが例外的に違法となる場合にも当たらない。
 争点2(本件退令処分の適法性)について
被告主任審査官は、退去強制手続において、法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入管局長から「異議の申出が理由がない」との裁決をした旨の通知を受けた場合、退去強制令書を発付するにつき全く裁量の余地はない(入管法四九条五項)。したがって、前記通知があった以上、本件退令処分も適法である。

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