損害賠償等請求事件
平成13年(ワ)第17413号
原告:A・B、被告:国・トルコ航空会社・株式会社アイム・Cほか3名
東京地方裁判所民事第44部(裁判官:滝澤孝臣・脇由紀・大畠崇史)
平成16年10月14日

判決
主 文
一 被告アイム、被告C、被告D、被告E及び被告Fは、連帯して、原告らに対し、各一一〇万円及びこれに対する平成一二年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告国及び被告トルコ航空に対する請求並びに被告アイム、被告C、被告D、被告E及び被告Fに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告らと被告国及び被告トルコ航空との間では、原告らの負担とし、原告らと被告アイム、被告C、被告D、被告E及び被告Fとの間では、これを三分し、その一を被告アイム、被告C、被告D、被告E及び被告Fの、その余を原告らの各負担とする。
四 この判決は、主文一項につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告らの請求
被告らは、連帯して、原告らに対し、各三六〇万円及びこれに対する平成一二年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、チュニジア国籍の原告らが、来日のため、被告トルコ航空の航空機に搭乗して新東京国際空港(現・成田国際空港。以下「成田空港」という。)に到着したが、上陸を禁止されたことから、
被告トルコ航空の航空機で送還されるまでの間、成田空港内の上陸防止施設で待機することになったところ、原告らを同施設に移送するまでの間、その警備を担当することになった被告アイムの従業員に警備料等の支払を要求され、暴行を加えられたうえ、金銭を強取ないし喝取されたと主張して、被告国に対しては、国家賠償責任、被告トルコ航空に対しては、民法七一五条の使用者責任、民法七〇九条の不法行為責任ないし原告ら主張の安全配慮義務違反、被告アイムに対しては、民法七一五条の使用者責任、その余の被告らに対しては、民法七〇九条、七一九条の共同不法行為責任をそれぞれ理由として、各三六〇万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。
第三 前提となる事実
本訴請求に対する判断の前提となる事実は、以下のとおりであって、当事者間に争いがないか、あるいは、括弧内に挙示する証拠ないし弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。
一 当事者その他の関係者
 原告らは、チュニジア共和国の国籍を有する男性である。
 被告トルコ航空は、トルコ共和国の国営に係る航空会社で、原告らが来日のために搭乗してきた航空機を運航し、また、上陸を禁止された原告らを送還するために搭乗した航空機を運航していたものである。
 被告アイムは、警備業、空港等における上陸を禁止された外国人(以下「上禁者」という。)の送迎、宿泊、食事等のサービス提供の請負業務などを業とする株式会社で、被告国ないし被告トルコ航空との関係はともかく、上陸を禁止された原告らが同空港内にある東京入国管理局成田支局(以下「入管成田支局」という。)特別審理官室から第二上陸防止施設に移送されるまでの間、その警備を担当していたものである。
被告Cは、本件当時、被告アイムの代表者であった。
被告D、被告E及び被告Fは、本件当時、被告アイムに勤務し、原告らの警備に従事していたものである。
なお、以下、被告アイム、被告C、被告D、被告E及び被告Fの五名を総称して「被告アイムら」と、そのうち、被告D、被告E及び被告Fの三名を総称して「被告Dら」という。
二 原告らの来日から送還までの経緯(乙一五)
 原告らは、平成一二年六月二〇日午前一〇時四五分、被告トルコ航空が運航するトルコ航空一〇二二便に搭乗してイスタンブールから成田空港に到着した。
 原告らは、同日午前一一時三〇分ころ、成田空港内の上陸審査ブースで審査を受け、入国審査官に対し、観光目的で二週間の滞在予定を告げた。原告らは、正規の旅券を所持していたが、所持金、宿泊施設の予定などの点から上陸条件に適合しないとして、上陸を禁止された。
そして、入管成田支局特別審理官室で特別審理官による審査を受けた後、退去命令を受けたため、異議申出の放棄書に署名して、同日午後一二時四〇分ころ、トルコ航空一〇二三便に搭乗して送還される予定となったが、原告らは、その直後に同便への搭乗を拒否し、同月二五日のトルコ航空一〇二三便で送還されるよう搭乗便の再指定が行われた。
 原告らは、再指定された搭乗便が出航するまでの間、その待機場所として、成田空港内の第二上陸防止施設を指定された。
そして、前記特別審理官室から指定された第二上陸防止施設に移送されるまでの間、原告らを警備することになった被告アイムの従業員である被告E及び被告Fに引き渡された。
 被告E及び被告Fは、原告らを警備員控室に連行したうえ、待機中の警備料、食事代などについて説明し、その支払を求めたが、原告らがこれに応じないため、第二上陸防止施設に移送することなく、成田空港内にある被告アイムの事務所に原告らを連行した。なお、その際、同事務所では、被告Dが執務していた。
 同事務所において、その経緯はともかく、被告アイムは、原告らから警備料等として各三〇〇ドルを取得することになった。 
 原告らは、同日午後五時五分あるいは同一六分、それぞれ被告アイムの事務所から第二上陸防止施設に移送され、同施設に入った。
 原告らは、翌日になって、被告アイムの従業員から各三〇〇ドルを強取ないし喝取されたとして告訴し、以後、成田空港警察署警察官による事情聴取が行われたが、被告アイムから各三〇〇ドルが返還されるという経緯を経た上、告訴を取り下げた。
 原告らは、同月二五日午後一時一〇分、前記再指定を受けたトルコ航空機一〇二三便に搭乗してイスタンブールに送還された。
三 上禁者の送還などに係る費用の負担
上禁者の送還などに係る費用の負担は、概略、以下のとおりとなっている。
 航空会社による負担
出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)五九条一項は、「次の各号の一に該当する外国人が乗ってきた船舶等の長又はその船舶等を運航する運送業者は、当該外国人をその船舶等又は当該運送業者に属する他の船舶等により、その責任と費用で、速やかに本邦外の地域に送還しなければならない。」と規定している(なお、上禁者は一号に該当する。)。
本件は、航空機に係る事案であるが、上禁者がその乗ってきた航空機でそのまま送還される場合は格別、次の便などで送還される場合には、我が国に一時的に滞在する結果となる。しかし、上陸を禁止されているので、上陸防止施設内等で送還されるまでの時間を過ごすことになるが、この場合には、法五九条三項により航空会社がその責任と費用の負担の一部を免除された場合を除き、原則として、その滞在などに要する費用も航空会社が負担することになる。
 上禁者による負担
航空会社は、上禁者に対して、その費用を求償し得る(例えば、運送約款で、求償権を留保するなどしている)のが一般的で、この場合には、最終的な費用負担者は上禁者ということになる。
もっとも、実際には、上禁者の警備を担当することになった警備会社において、上禁者に対して直接に警備料等を請求して、その支払を受けている場合が多く、上禁者がその支払を拒絶すれば、航空会社に請求することになるが、上禁者が支払えば、航空会社に請求することもなく、航空会社から上禁者に求償するといったこともない。
 本件において被告アイムが原告らから各三〇〇ドルを取得したのも、その当否はともかく、警備会社と上禁者との間の警備料等の請求・支払に関係して行われたものである。
四 国家賠償法六条の相互保障の有無(乙一六)
チュニジア共和国においては、日本人が訴訟において国家賠償請求を提起することに支障はなく、原告らの我が国における国家賠償請求訴訟の提起につき、国家賠償法六条の規定する相互保障上の問題はない。
第四 本件訴訟の争点
一 第一の争点は、被告Dらによる暴行及び金銭の強取ないし喝取の有無であるが、この点に関する当事者双方の主張は、要旨、以下のとおりである。
(原告ら)
 原告らは、被告Dらから暴行を受け、反抗を抑圧され、あるいは、畏怖して、前記各三〇〇ドルを強取ないし喝取されたものであるが、当該暴行及び金銭の強取ないし喝取(以下「本件加害行為」という。)の態様は、次のとおりであった。すなわち、 原告Aにつき被告F及び被告Eは、平成一二年六月二〇日午後四時一五分ころ、被告アイムの事務所において、原告Aに対し、警備料等の支払を求めたが、同原告がこれに応じないため、同事務所に同道した原告Bから引き離して事務所内の衝立内の打合せ用のスペースまで原告Aの両手を後ろ手にして絞り上げながら連行し、さらに、その支払を要求し、同原告の胸部を強く突き、顔面を突き、後頭部を壁に打ち付けるなどの暴行を加えたうえ、同原告の反抗を抑圧し、同原告のズボンのポケットから現金を取出して、三〇〇ドルを強取した。
 原告Bにつき
被告E及び被告Dは、同日午後四時二〇分ころ、原告Bに対しても、左腿部を蹴りつけ、手拳で殴りつけるなどの暴行を加え、同原告を畏怖させ、その所持していた財布を差し出させて、三〇〇ドルを喝取した。
(被告国)
原告ら主張の本件加害行為の事実については知らない。
(被告トルコ航空)
原告ら主張の本件加害行為の事実については知らない。
(被告アイムら)
 被告Dらの原告らに対する本件加害行為は否認する。
 原告ら主張の本件加害行為は、被告アイムを退職した元従業員などが同被告の営業を妨害しようと画策し、その事実が歪められて、問題化されているにすぎない。
 被告Dらは、原告らから、その了解の下に、警備料等の支払を受けただけであって、本件加害行為の事実はない。
二 第二の争点は、被告Dらの原告らに対する本件加害行為が認められる場合における被告らの損害賠償責任の有無であるが、この点に関する当事者双方の主張は、要旨、以下のとおりである。
(原告ら)
 被告アイムらにつき
ア 被告Dらは、原告らに対する直接の不法行為者であって、かつ、共謀して本件加害行為を行っているものであるから、民法七〇九条、七一九条に基づき、原告らに対する損害賠償責任がある。
イ 被告アイムは、被告Dらの使用者で、同被告らの本件加害行為は被告アイムの事業の執行について行われたものであるから、同被告らの使用者として、民法七一五条に基づき、原告らに対する損害賠償責任がある。
ウ 被告Cは、被告アイムの従業員に対し、従前から上禁者を同被告の事務所に連行して警備料等を徴収するよう指示していたものであって、被告Dらの原告らに対する本件加害行為もその指示の結果として行われたものであるから、同被告らとの共同不法行為者として、民法七〇九条、七一九条に基づき、原告らに対する損害賠償責任がある。
エ 仮に被告Cによる被告Dらとの共同不法行為が認められないとしても、被告Cは、被告アイムの従業員によって上禁者に対する暴行、警備料等の支払の強要などの加害行為が行われることがないように、従業員を指揮・監督する義務があったのに、これを怠ったため、被告Dらが原告らに対する本件加害行為を行うに至ったものであるから、民法七〇九条に基づき、自ら不法行為者として、原告らに対する損害賠償責任がある。
オ 因みに、上禁者の警備は、被告国の公権力の行使として行われるものであるが、原告らの警備を担当することになった被告アイムらを国家賠償法一条一項の公務員に相当すると認めるべきではなく、仮に公務員に相当すると認められる場合にも、被告アイムらには、故意又は重過失があるから、国家賠償法上の免責が認められるべきものではない。
 被告トルコ航空につき
ア 被告トルコ航空は、法五九条に基づき、上禁者となった原告らを送還する責務があるため、その送還までの警備を被告アイムに委託したが、両者の関係は、被告トルコ航空を使用者、被告アイムを被用者とみるべきものである。
イ 被告Dらの原告らに対する本件加害行為は、同被告らが被告アイムの事業の執行について行ったものであるが、これによる被告アイムの原告らに対する不法行為は、同被告が被告トルコ航空の業務の執行について行ったものというべきであるから、被告トルコ航空は、被告アイムの使用者として、民法七一五条に基づき、原告らに対する損害賠償責任がある。
ウ 仮に被告トルコ航空が使用者責任を負わないとしても、同被告は、上禁者に対する警備の関係では、被告アイムと実質的に一体と評価されるべき関係にあるから、自ら不法行為の主体として、原告らに対する損害賠償責任を負うべきである。
エ 仮に被告トルコ航空が不法行為責任を負わないとしても、同被告は、その責務で送還しなければならない上禁者に対する安全配慮義務を負っているというべきところ、原告らが被告Dらから本件加害行為を受けるに至ったのは、被告トルコ航空が当該義務に違反したからであって、その義務違反を理由として、原告らに対する損害賠償責任がある。
オ 因みに、被告トルコ航空は、同被告が上禁者の警備につき、不法行為責任を負う余地があるとしても、同被告の行為は、被告国が公権力の行使として行う上禁者の警備を被告国から委託されている関係にあるから、国家賠償法一条一項にいう公務員に相当するので、免責されると主張する。
しかし、同被告の地位が公務員に相当するものであったとしても、国家賠償法一条一項の適用上、公務員に故意又は重過失がある場合には、免責されないと解されるべきところ、本件において、被告トルコ航空には、故意又は重過失があるから、国家賠償法上の免責が認められるべきものではない。
 被告国につき
ア 成田空港における出入国の管理に関する事項は、入管成田支局の支局長の所管である。
イ 被告国は、同支局長を介して、上禁者の警備を担当する警備会社に対する指導・監督を適切に行い、警備会社の従業員による上禁者に対する暴行などの加害行為を防止すべき義務があったのに、入管成田支局長がこれを怠ったため、被告アイムの従業員である被告Dらの原告らに対する本件加害行為が行われるに至ったものである。
ウ 入管成田支局長の前記義務違反は、国家賠償法一条一項所定の公権力の行使に当たる公務員の不法行為に相当する。
エ したがって、被告国は、国家賠償法一条一項に基づき、原告らに対する損害賠償責任がある。
オ 因みに、被告トルコ航空は、同被告が上禁者の警備につき、不法行為責任を負う余地があるとしても、同被告の行為は、被告国が公権力の行使として行うべき上禁者の警備を被告国から委託されている関係にあるから、国家賠償法一条一項にいう公務員に相当するので、国家賠償法上の免責が認められると主張するが、同被告が免責されるとしても、それは、上禁者の警備が公権力の行使であるからであって、被告国が国家賠償法一条一項に基づく損害賠償責任を負うべきことに変わりはない。
(被告アイムら)
原告らの主張は争う。
(被告トルコ航空)
 被告トルコ航空は、トルコ共和国の国営企業・国策企業であって、同共和国の国家機関にほかならないから、いわゆる「主権免除」によって、日本国の裁判所の裁判権は及ばず、原告らの本件訴えは、不適法として、却下されるべきものである。
 仮に日本国の裁判所の裁判権が及ぶとしても、被告トルコ航空は、被告アイムが被告国(入管成田支局)の許可している警備会社であったから、被告アイムに原告らの警備を委託したものであって、他の警備会社を選択する余地はなく、また、被告アイムを指揮・監督する立場にもなく、同被告の不法行為につき、使用者責任を負うべき立場にはない。
また、被告アイムを指揮・監督していたのは被告国であるから、被告トルコ航空が被告アイムと一体として責任を追及される立場にもない。
原告らは、被告トルコ航空の原告らに対する安全配慮義務違反を主張するが、同主張も争う。
 因みに、被告国は、被告トルコ航空が法五九条などに基づき上禁者の警備についてもっぱら責任を負うものであるから、被告Dらの原告らに対する本件加害行為があったとしても、被告国が責任を負う余地はないと主張するが、上禁者の警備は、本来、被告国の公権力の行使として行われるべきものであって、被告トルコ航空は、そのような公権力の行使に係る上禁者の警備につき、被告国から委託されていた関係にすぎないから、国家賠償法一条一項にいう公務員に相当し、国家賠償法上の免責が認められるので、被告国が責任を負うべきものである。
反対に、上禁者の警備が被告国の公権力の行使として認められないとすれば、それは、トルコ共和国の公権力の行使として認められるべきものであって、この場合には、被告トルコ航空は、前記した主権免除によって、責任を負わないことになる。
(被告国)
 上禁者の送還及びそれまでの身柄の確保は、法五九条により、航空会社の責任とされているのであって、被告国が関係するものではなく、原告らが上陸禁止処分を受けてから送還されるまでの間の被告Dらの本件加害行為につき、被告国が損害賠償責任を負う余地はない。
 原告らは、入管成田支局長の被告アイムに対する指揮・監督に係る義務違反を問題にするが、その指揮・監督も被告トルコ航空が行っていたものであるから、同支局長の指揮・監督義務の懈怠を理由として、被告国が国家賠償責任を負うことはない。
三 第三の争点は、被告らの全部又は一部につき、損害賠償責任が認められる場合に、原告らが当該被告らに賠償を求めることができる損害の有無及び額であるが、この点に関する当事者双方の主張は、要旨、以下のとおりである。
(原告ら)
 原告らが被った損害は、本件加害行為に対する精神的苦痛に対する慰謝料として各三〇〇万円、本件訴訟の提起・追行のために要した弁護士費用として各六〇万円、以上合計各三六〇万円を下らない。
 よって、原告らは、被告Dらに対しては民法七〇九条及び七一九条、被告Cに対しては民法七〇九条及び七一九条、被告アイムに対しては民法七一五条、被告トルコ航空に対しては民法七一五条ないし民法七〇九条、被告国に対しては国家賠償法一条一項に基づき、各三六〇万円及びこれに対する本件加害行為が行われた日の翌日である平成一二年六月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
(被告ら)
原告らの主張は争う。
第五 当裁判所の判断
一 本件加害行為の有無及びその態様
原告らの本訴請求は、被告らの責任原因はさておき、被告Dらの原告らに対する本件加害行為を前提とするところ、その有無をめぐって、特に被告アイムらとの間で争いがあるので、まず、この点について検討する。
 原告Bは、本訴提起前の証拠保全手続における本人尋問において、本件加害行為につき、原告らの主張に沿う供述をし、要するに、原告らは、被告F及び被告Eによって被告アイムの事務所に連行され、原告Aは、被告F及び被告Eによって、原告Bは、被告D(同事務所で執務していた)及び被告Eによって、無理矢理に各三〇〇ドルを取られたものであるというのに対し、被告D及び被告Fは、当審における本人尋問において、被告アイムらの主張に沿う供述をし、要するに、本件加害行為の事実はなく、原告らは任意に各三〇〇ドルを支払ったものであって、それが本件訴訟のように問題となったのは、被告アイムを退職した元従業員などの画策で事実を歪められているかのようにいう。
 しかしながら、両者の供述を比較検討すると、まず、原告Bの供述については、以下の点を指摘することができる。すなわち、
ア 原告らの主張で本件加害行為を行った一人とされている被告Fは、本件訴訟前、テレビの報道番組のインタビューにおいて、平成一二年六月二〇日、被告アイムの警備員が原告Aを押さえつけ、殴って壁に頭を打ち付け、三〇〇ドルを取ったことがあるが、当該事件後、被告アイムからそのような暴行などはなかったとする旨の報告書を作成するよう言われたなどと回答していた(甲四、五、一九、被告F)。
被告Fは、本件訴訟に至って、前記インタビューの回答は、当時、同被告が前記事件に関する責任を一人で負わされそうになったことから、腹いせのため、噂を言ったにすぎないなどと供述しているが、同被告の前記インタビューの回答それ自体は、原告Bの供述に沿うものであって、同供述の信用性を高めるものということができる。
また、被告Fの供述の変遷についても、その供述するような理由から、前記インタビューの回答が同被告の真意ではなかったと認定するだけの信用性はないといわざるを得ない。
イ 被告E及び被告Fは、前提となる事実のとおり、原告らが警備料等の支払を拒絶した後、原告らを上陸防止施設に移送せず、上禁者を不法に上陸させることになり、連行することが許されない区域にある被告アイムの事務所に連行しているが、そのような法令に違反してまでも、被告アイムの事務所に原告らを連行しているのは、原告らからその拒絶している警備料等の支払を強要するためであって、そのために人目につかない同被告の事務所に連行したとみられても止むを得ない。
ウ 原告らは、被告Dらから警備料等の支払を請求されても、その支払を拒絶し、しかも、被告アイムの事務所に連行された後も、なおその支払を拒絶していたことは、被告F及び被告Dの供述からも認められるところであるのに、そのような態度から一転して、警備料等の支払を了解して各三〇〇ドルを支払ったというのは、被告Dらの説明に納得したからという余地がないわけではないが、被告D及び被告Fの供述によっても、原告らが納得して警備料等として各三〇〇ドルを支払ったというような状況は窺い知れず、反対に、同被告らの供述に照らしても、原告らは、その意に反して、各三〇〇ドルの支払を強要されたものと推認せざる
を得ないところである。
エ 被告Cは、その供述によると、平成一二年六月二三日に原告らと面会しているが、その際、原告らから身体の痛みを訴えられ、その後、原告らの告訴もあったためもあるが、原告らに対して各三〇〇ドルを返還しているところ、そのような対応も、原告らが被告Dらから、その程度はともかく、有形力の行使を受け、警備料等の支払を強要されたという前記推認に係る本件加害行為の存在を裏付けるものということができる。
オ 被告アイムにおいては、被告Cの供述によると、上禁者の警備料等につき、上禁者から直接に支払を受ける場合は、二万四〇〇〇円を取得していたが、航空会社に請求する場合は、被告トルコ航空に対しては、一万二〇〇〇円を請求していたというのである。被告Cの供述では、その差額につき、合理的な説明ができていないが、被告アイムが直接に上禁者から支払を受ける場合の単価計算と航空会社から支払を受ける場合の単価計算に勘違いがあるとしても、被告アイムの従業員においては、上禁者から警備料等の支払を受けるほうがより多くの収益を得ることができるものと受け止めていて、この点が、上禁者から支払を受けるためには、上禁者を連行してはならない被告アイムの事務所に連行し、長時間に及ぶ請求を続け、その支払を強要する事態に至る原因となっていた可能性を否定することができない。
 これに対し、被告D及び被告Fの供述については、以下の点を指摘しなければならない。すなわち、ア 被告Fは、原告らが立ち上がろうとするのを押さえようとしただけであるなどと供述するが、他方で、その押さえ方がやりすぎたかも知れない旨の供述をし、また、原告らが被告Dらに理解できない言語で会話していたことなどから、同被告自身が感情的になっていたことを認めているのである。
イ 被告Dも、また、暴行などは否定しているが、結局のところ、その程度問題であるかのような供述をしているばかりでなく、警備料等の支払を拒絶していた原告らが、被告アイムの事務所に連行された後、一転してその支払に応じたという理由を尋ねられると、言葉に窮している。
 以上説示したところを総合すれば、原告Bの供述は、これを採用し得るが、被告D及び被告Fの供述を採用するのは困難というほかなく、要するに、被告F及び被告Eは、上禁者となった原告らから警備料等の支払を得るため、仮に任意の支払であれば問題がなかったとしても、上禁者を連行してはならない区域にある被告アイムの事務所に原告らを連行したうえ、被告F及び被告Eは、原告Aに対し、被告D及び被告Eは、原告Bに対し、それぞれ任意の支払を求めたというには、前提となる事実からも窺われる時間的な経過からみても、その限度を超え、しかも、原告らの身体に対する有形力を行使して、原告らから各三〇〇ドルを取得したものであって、これを刑法にいう「強取」ないし「喝取」と評価するか否かはともかく、原告らの意思に反して当該金銭を取得したことそれ自体は否定し得ないところである。
 被告アイムらは、本件加害行為が被告アイムを退職した元従業員などが同被告の営業を妨害しようと画策したものであるかのようにいうが、前記認定の態様に係る本件加害行為それ自体は、少なくとも同被告らの主張する画策などが入り込むの余地のない、動かし難い事実であって、これに反する被告アイムらの主張を採用する余地はないといわなければならない。
二 上禁者の取扱いと被告らの立場
被告Dらの本件加害行為が事実として存在したことは、前記認定のとおりであるが、当該事実を前提に、被告らの損害賠償責任の有無を検討するためには、上禁者の取扱いにつき、被告らがどのような立場で関与しているのかを理解しておく必要があるので、次に、この点について検討する。
 被告国の関与について
ア まず、被告国についてみると、外国人に対し、入国を許可するか否かを決定するのが国家の権力作用として行われるものであることはいうまでもないところである。
イ しかるところ、外国人が上陸を禁止された場合の当該上禁者の送還についてみると、法五九条によれば、前記のとおり、上禁者を搭乗させてきた航空会社が、その責任及び費用で、上禁者を送還する責務を負う旨が規定されているのであって、証拠(乙二二)及び弁論の全趣旨によれば、そのような取扱いは、我が国に限らず、国際社会において、その態様に差異はあっても、一般的に承認されている慣行に裏付けられたものであると認めることができ、そのような取扱いを国家の権力作用としてみるべきものではないと解される。
この点につき、原告らは、上禁者の取扱いにつき、被告国が単に上陸を禁止すれば足りるという問題ではなく、上禁者を送還することも、本来、出入国管理に係る問題として、我が国の権力作用として行われるべきものであって、現に、外国にあっては、国家の権力作用として、上禁者の送還を行っている場合もあるなどと主張して、また、被告トルコ航空は、上禁者の身柄の確保は、本来、国家の権力作用として行われるべきものであって、法五九条にいう「送還」に上禁者の身柄の確保を含めるのは、拡大解釈として許されないなどと主張して、その立場は異なるが、前記の取扱いを国家の権力作用とみるべきであるという。
しかしながら、外国の法制において、上禁者の取扱いを国家の権力作用として位置づけている場合があるからといって、前掲証拠によれば、我が国のように上禁者の送還を航空会社の責任として位置づけることも一つの法制として国際的に承認されているということができるから、このような場合に、航空会社の責任とされた上禁者の送還を我が国の権力作用とみるのは相当でなく、上禁者の送還は、我が国ないし我が国と同じ法制の外国においては、国家の権力作用として行われるものではなく、航空会社がその運送業務の一環として行うことが予定されているというべきである。
ウ また、上禁者の送還が航空会社の運送業務の一環として行われるといっても、航空会社が上禁者を送還するまでの間に時間を要する場合が想定されるところ、この場合における送還までの間の上禁者の身柄の確保も、送還が航空会社の責務である以上、航空会社が行うべきものである。
この場合に、上禁者が送還されるまでの間に逃亡して我が国に上陸することがあってはならないことはいうまでもないが、そのことから、逃走した上禁者を不法入国者としてその身柄を拘束する場合とは異なり、航空機に搭乗して来日した上禁者の送還されるまでの間の身柄の確保を我が国の権力作用としての身柄の拘束とみるべきものではない。
したがって、外国人の入国を許可するか否かが国家の権力作用であるとしても、現在の国際慣行をみると、我が国のような法制も承認されているのであって、この場合における上禁者の取扱いは、これを国家の権力作用とみるべきものではなく、上禁者の送還については、送還までの間の身柄の確保を含め、基本的に航空会社がその運送業務の一環として行い、被告国は、上禁者の取扱いに従事する業者等の許認可業務についてはともかく、その取扱いそれ自体に責任を負うものではないというほかない。 
 被告トルコ航空の関与について
ア これに対し、被告トルコ航空は、前記説示したところから、上禁者の送還について責任を負うべきものであって、かつ、それは、現在の国際社会における航空会社の運送業務の一環として行われるべきものである。
イ この点につき、被告トルコ航空は、上禁者の送還には、身柄の確保といった国家の権力作用は含まれないといい、また、反対に、上禁者の送還も、国家の権力作用であって、被告国が我が国の権力作用であることを否定するのであれば、それは、とりもなおさず、トルコ共和国の権力作用であるから、主権免除が認められるべきであるという。
ウ しかしながら、前者については、前記説示したとおりであって、身柄の確保と拘束とは区別して理解すべきものであるから、その限りで、首肯し得るが、後者については、上禁者の送還を権力作用とみること自体が首肯し得ないし、また、我が国の権力作用でないとすれば、トルコ共和国の権力作用であるようにいうのは、主権免除に対する判断はともかく、上禁者が搭乗した航空機が民間の航空会社である場合などを想定すれば、到底採用し得ないものといわざるを得ない。
 被告アイムの関与について
被告アイムは、前記のとおり、空港等における上禁者の送迎などの業務を行っているが、実際の業務の遂行は、上禁者を送還する航空会社から委託を受けて、その送還までの身柄の確保のための警備などに従事しているものである。
三 本件加害行為に対する被告らの責任
そこで、上禁者の取扱いにおける被告らの関与の態様を前提に、本件加害行為に対する被告らの損害賠償責任の有無について検討する。
 被告Dらにつき
ア 被告Dらの本件加害行為は、各原告から警備料等を徴収することを目的に行われたものであったが、前記のとおり、上禁者を連行することが許されない被告アイムの事務所に連行された原告らに対し、任意の支払を説得するなどといった限度を超え、かつ、有形力の行使によって、各原告からその意思に反して金銭を取得したものであって、これが不法行為に該当することは明らかである。
イ そして、これらの行為は、原告らいずれに対するものも、被告アイムの事務所において同時に、被告Dらが互いにその行動を認識しながら行われたものであって、共同不法行為に当たるというべきである。
ウ なお、被告Dらの本件加害行為は、前記した上禁者の取扱いの過程で行われたものであるが、同被告らは、被告トルコ航空から上禁者の警備の委託を受けた被告アイムの従業員として原告らの警備に当たったにすぎず、同被告の業務それ自体を公権力の行使とみるべきものではないから、被告Dらが、本件加害行為につき、国家賠償法一条一項にいう公務員に相当するとして、国家賠償法上の免責が認められる余地はない。
 被告アイムにつき
ア 被告Dらは、被告アイムの被用者であって、被告Dらの警備料等の徴収は、被告アイムの事業の執行について行われたものであるから、被告アイムがその選任・監督につき相当の注意を払ったものと認めるに足りる証拠もない本件において、被告アイムは、被告Dらの本件加害行為につき、民法七一五条の使用者責任を負うべきものである。
イ なお、被告アイムが業として行っていた原告らの警備は、被告国から指定された第二上陸防止施設に移送するまでの間に行われるものではあるが、航空会社がその責務として行う上禁者の送還までの間の身柄の確保のためのものであって、前記説示のとおり、その警備それ自体を公権力の行使というのは相当でないから、被告アイムが国家賠償法一条一項にいう公務員に相当するとして、国家賠償法上の免責が認められることもないというべきである。
 被告Cにつき
ア 被告D及び被告Fの供述によれば、被告アイムの従業員は、警備料等の支払を拒絶する上禁者に対し、従前から上禁者を連行することができない区域にある被告アイムの事務所に連行したうえ、一時間ないし二時間にも及ぶ長時間の請求を行っていたことがあったというのであって、本件加害行為も、いわばその一環として、被告Dらにおいて、特に躊躇することもなく行われていたとみなければならない。
イ しかるところ、被告Cの供述によれば、同被告は、上禁者が被告アイムの事務所に何度か連れて来られていたところを見たことがあると認められるばかりでなく、航空会社に対して警備料等を請求する場合は一万二〇〇〇円であるのに対し、被告アイムが自ら上禁者に請求して支払を受ける場合には二万四〇〇〇円であるというように、警備料等の額に相違があるため、被告アイムの従業員において、上禁者に請求して支払を受けるほうが会社の利益になるという認識から、いきおい警備料等の支払を拒絶しようとする上禁者に対し、前記認定のとおり、長時間に及ぶ請求をして、その支払を強要したとしかいいようのない事態に至っていると認められるのである。被告アイムでは、できる限り上禁者から直接警備料等を徴収するような雰囲気があったという被告Fの供述も、これを裏付けるものである。
ウ 被告Cは、前記供述に照らしても、被告アイムの事務所において、その従業員が上禁者から警備料等の支払を強要する事態に至っていることは、認識していたか、認識し得たというべきである。
この点につき、被告Cは、上禁者に対して暴力を用いてでも警備料等を徴収せよとの指示を出したことはなく、また、被告Dらほかの従業員が被告アイムの事務所に上禁者を連行したうえ、警備料等の支払請求をしていたことは知らなかったなどと供述するが、少なくとも被告Cが被告Dらほかの従業員が上禁者を被告アイムに連行したうえ、警備料等の支払請求をしていたことを知らなかったとはいえない。
被告Fの供述のうちには、本件訴訟前の発言を本件訴訟後に翻すなど、不自然なところもないわけではないが、以上の認定判断を妨げるものではない。
エ したがって、被告Cとしては、被告アイムの従業員に対し、上禁者を同被告の事務所に連行することが許されないことを徹底し、警備料等の支払を強要する事態に至るようなことは絶対に禁止するよう指示すべきであったのに、これを怠ったというべきであって、そのような被告Cの注意義務違反は、それ自体が不法行為を構成し得るものと解されるから、被告Dらの本件加害行為と共同不法行為の関係に立つというべきである。
オ なお、被告Cについても、国家賠償法一条一項にいう公務員に相当するとして、国家賠償法上の免責を認める余地がないことは、被告Dらないし被告アイムについて説示したところと同様である。
 被告トルコ航空につき
ア 主権免除の有無について
被告トルコ航空がトルコ共和国の国営会社であることについては特に争いがないところ、そのことから、被告トルコ航空は、同社がトルコ共和国の国家機関であって、主権免除により、我が国の裁判所の裁判権が及ばないかのように主張する。
しかしながら、被告トルコ航空がトルコ共和国の国営会社であるとしても、上禁者の取扱いにおける航空会社の関与の態様は、前記説示したとおりであって、航空会社の運送業務の一環として位置づけられるものであるから、これをトルコ共和国の国内における行政行為、立法行為、軍隊に関する行為、外交活動に関する行為、公的債務に関する行為など、いわゆる主権的行為が問題とされている場合とみるべきものではなく、主権免除の対象となるものではないので、上禁者の送還の際の加害行為が問題となっている本件については、被告トルコ航空の損害賠償責任の有無ないし帰すうはともかくとして、我が国の裁判所の裁判権が及ぶといわなければならない。
イ 使用者責任の有無について
① 原告らは、被告トルコ航空の損害賠償責任として、まず、被告アイムに対する使用者責任を主張するところ、被告アイムが本件加害行為について損害賠償責任を負うべきことは、前記説示のとおりである。
② そこで、被告トルコ航空と被告アイムとの関係をみると、証拠(証人G)及び弁論の全趣旨によれば、被告トルコ航空に限らず、航空会社は、上禁者を送還することになった場合に、その送還までの間、上禁者を上陸防止施設で警備などする必要があるが、自らその警備に当たることは困難である。そこで、警備会社に委託するのが一般的であるが、航空会社から上禁者の警備を委託された警備会社は、自らの業務としてその警備に当たるものと解されるから、航空会社と警備会社との間に、民法七一五条所定の使用者責任を認め得るに足りる指揮・監督関係はないものといわなければならない。
この点につき、原告らは、上禁者の送還は、航空会社の責務であって、これを警備会社に委譲することは許されないのであるから、航空会社と警備会社との間には、指揮・監督関係が認められて当然であるかのように主張する、しかしながら、上禁者の送還が航空会社の責務であることと、その責務を果たすために警備会社に上禁者の警備を委託する場合の同社との間の指揮・監督関係とは、別個の問題であって、警備会社の利用が一般的に認められている場合には、航空会社と警備会社との間に指揮・監督があるとまでいうことはできない。
③ したがって、被告トルコ航空が被告アイムの使用者として、同被告の従業員が行った本件加害行為につき、損害賠償責任を負うべきであるという原告らの主張は、その前提を欠き、採用することができない。
ウ 不法行為責任の有無について
① 原告らは、被告トルコ航空の損害賠償責任として、同被告自らの被告アイムと一体となった不法行為を主張するところ、証拠(被告C、被告F、被告D、証人G)によれば、被告トルコ航空は、上禁者の警備を被告アイムに毎回依頼し、同被告は、被告トルコ航空から警備料等の支払を受けていたというほか、被告トルコ航空は、被告アイムが自ら上禁者から警備料等を徴収することがあったことも認識していたことが認められ、その場合には、被告トルコ航空が被告アイムに警備料等を支払うことはなく、被告アイムが上禁者から警備料等を徴収することは被告トルコ航空の利益になっていたといえなくもない。
② しかしながら、被告トルコ航空が負担する上禁者の警備料等は、最終的には、上禁者に対する求償が可能であって、警備会社が上禁者から徴収したからといって、被告トルコ航空の利益は、警備会社に対する支払と上禁者に対する求償を免れるというにとどまり、警備会社との一体性を認めるのは困難である。そして、それ以上に、被告トルコ航空において、被告アィムの従業員が上禁者を同被告の事務所に連行して、警備料等の支払をいわば強要していたことなどを認識したうえ、同被告に原告らの警備を委託したとまで認めるに足りる証拠はない。
③ したがって、被告トルコ航空と被告アイムとが一体となって不法行為責任を負うという原告らの主張も採用し得ない。
エ 安全配慮義務違反について
① 原告らは、被告トルコ航空の原告らに対する安全配慮義務違反も主張するが、上禁者の取扱いをめぐる航空会社と警備会社との前記関係に即してみれば、航空会社が警備会社の上禁者に対する警備に問題があって、上禁者の生命・身体などに危害が加えられるおそれがあることを認識し、かつ、その認識に従い、警備会社を別の警備会社に変更し得る状況であったにもかかわらず、前記のおそれがある警備会社に上禁者の警備などを委託したといった特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、上禁者に対する安全配慮義務を負うものではないというべきである。
② しかるところ、本件各証拠によっても、被告トルコ航空において被告アイムがその事務所に上禁者を連行し、長時間にわたり警備料等の支払を要求するなど、上禁者の警備などに前記した危険があることを認識し、あるいは、認識し得たというような事情は窺われない。
③ したがって、被告トルコ航空の安全配慮義務違反をいう原告らの主張も、本件においては、これを採用することができない。
 被告国につき
ア 上禁者の送還については、前記説示したとおり、その送還までの間の警備(身柄の確保)を含め、権力作用ではなく、基本的に航空会社に責任があるのであって、その警備中に生じた本件加害行為につき、被告国が国家賠償法一条所定の損害賠償責任を負う余地は原則としてないというべきである。
イ もっとも、送還及び送還までの警備が権力作用ではなく、基本的に被告国の責任によるものでないとしても、被告国が上禁者の送還及び送還までの警備について、航空会社ないし航空会社から委託を受ける警備会社に対して、何らかの関与をし、その関与を通じて航空会社ないし航空会社から委託を受ける警備会社が問題のある行動を取ったときにこれを是正する義務があるということができ、かつ、当該義務違反が認められる場合には、なお、その限りで公権力の行使としての、原告の主張する入管成田支局長の被告アイムに対する指揮・監督に係る義務違反を理由とする被告国の責任が問題となる余地がある。
ウ そこで、前記見地から入管成田支局長の義務違反の有無について検討すると、被告アイムが成田空港内でその業務を行うために入管成田支局ないし関係機関から当該業務自体に対する許認可を受ける必要があって、かつ、許認可を受けているのか否かは、本件証拠からは明らかではない。
しかしながら、弁論の全趣旨によると、少なくとも、本件において、被告アイムが上禁者となった原告らを入管成田支局特別審理官室から第二上陸防止施設に移送する業務を行い得るのは、同被告が入管成田支局ないし同支局長から「審査場立入許可証」の交付を受けているからであって、同許可は、所定期間ごとに更新されていることが認められ、当該許可がなければ、成田空港の審査場に立入りが許されない以上、被告アイムが業務を遂行することはできないのであって、その意味で、被告アイムの業務の遂行に被告国も関与しているというべきである。
そうとすれば、被告国は、被告アイムに対して審査場に立ち入ることを許可する限りにおいて、同被告が問題となる行動を取ったときに、この許可を取り消すことによって、その行動を是正する義務が生ずる余地があるということができる。
エ しかしながら、本件において、入管成田支局ないし同支局長が被告アイムに対して前記許可を取り消すべきであったというためには、被告アイムに対する許可を取消してまで、同被告が上禁者の警備に当ることを回避する必要があったということができるような、その権限行使が制限されるべき事情が必要といわなければならない。
しかるところ、本件では、上禁者から入管成田支局に対し、警備会社の警備員から暴力を振るわれたなどの苦情が寄せられたことがあることが認められないわけではないが(証人H)、入管成田支局において、その実態を調査しても、そのような事実は認められなかったというのであるし(前同)、また、当該苦情の真偽を検討するに足りる証拠も提出されていない。
証拠(甲二二)によれば、上禁者から入管成田支局に被告アイムの取扱いをめぐって苦情が寄せられたことがあることも認められるが、当該証拠に照らすと、一面的ともみられる言い分であって、その真偽のほども判然としないというほかない。さらに、被告アイムに上禁者が引き渡された後、上陸審査事務室から数メートル離れた第二上陸防止施設などに一時間も遅れて上禁者を被告アイムが連行することがあったことを入管成田支局も認識していたことが窺えなくもないが(前記証人H)、このことから、直ちに被告アイムが上禁者を同被告の事務所に連行して長時間に及ぶ警備料等の支払請求をしていたとまで認識し得たはずであると
いうこともできない。
以上、要するに、本件加害行為が発覚する以前において、入管成田支局長が被告アイムに対する前記許可を取り消すべきであったとまでいうのは困難であって、本件加害行為が発覚した後にも、被告アイムの業務態勢が改善されず、再び本件加害行為のような加害行為が行われたという場合であればともかく、少なくとも本件については、入管成田支局ないし同支局長の義務違反それ自体を認めることができないといわざるを得ない。
オ したがって、被告国についても、その損害賠償責任をいう原告らの主張を採用することはできない
四 原告らの被った損害の有無及びその額以上説示したところによれば、被告Dらの本件加害行為につき、原告らに対して損害賠償責任を負うのは、被告アイムらに限られる。
 本件加害行為によって原告らが精神的な苦痛を被ったことは推認するに難くないところ、その苦痛を慰謝するに足りる金員は、本件に現れた諸事情を勘案すると、各一〇〇万円をもって相当と認める。
 また、本件加害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、本件訴訟の難易、審理経過、前記認容額などを考慮すると、各一〇万円をもって相当と認める。
五 よって、原告らの本訴請求は、被告アイムらに対して前記説示した各一一〇万円及びこれに対する本件加害行為の行われた日の翌日である平成一二年六月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、被告国及び被告トルコ航空に対する請求並びに被告アイムらに対するその余の請求をいずれも失当として棄却し、主文のとおり判決する。

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