退去強制令書発付処分取消請求事件
平成15年(行ウ)第91号
原告:A、被告:法務大臣
大阪地方裁判所第7民事部(裁判官:川神裕・山田明・芥川朋子)
平成16年10月19日
判決
主 文
1 被告が原告に対し平成15年10月17日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)24条4号イ所定の退去強制事由に該
当するとして被告から退去強制令書の発付処分(以下「本件処分」という。)を受けた原告が、同
退去強制事由に該当しないから本件処分は違法であるとして、本件処分の取消しを求めている事
案である。
2 争いのない事実等
 当事者
原告は、《日付略》に中華人民共和国(以下「中国」という。)山東省青州市で出生した中国国
籍を有する外国人の女性である。
 原告の入国及び在留経過等
ア 原告は、平成13年11月26日、学校法人B学校校長Cを代理人として、法務大臣に対し、法
7条の2第1項に基づき、在留資格認定証明書の交付を申請した(乙1)。法務大臣は、平成
14年2月28日、同申請に基づき、原告に対し、在留資格「就学」に関して在留資格認定証明
書を交付した(乙2)。
イ 原告は、同年3月17日、在北京日本国領事館から日本国査証の発給を受け、同年4月9日、
関西国際空港に到着し、大阪入国管理局(以下「大阪入管」という。)関西空港支局入国審査
官に対し、上陸許可申請を行い、同日付けで、同審査官から、在留資格を「就学」、在留期間を
1年とする上陸許可を受け、本邦に上陸した(乙10)。
ウ 原告は、本邦上陸後、和歌山市《住所略》に居住し、B学校に入学し、平成15年3月14日、
同校指定の上級課程を修了した(乙3、10)。
エ 原告は、同月25日、京都市《住所略》(賃貸アパート)に居住地を変更し(乙4、10)、同月
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26日、D大学(以下「本件大学」という。)学長により、同年4月1日から本件大学経済学部
への入学を許可され、現在、同学部経済学科に在学している(乙5、6)。
オ 原告は、同年3月27日、大阪入管京都出張所において、法務大臣に対し、在留資格を「就
学」から「留学」へ変更する在留資格変更の許可申請を行い、法務大臣から権限の委任を受け
た大阪入国管理局長は、同年4月14日、原告に対し、在留資格を「留学」、在留期間を2年と
する在留資格の変更を許可した。同許可による在留期限は、平成17年4月9日である(乙7、
10)。
カ 原告は、平成15年5月8日から同年6月19日までの間、京都市《住所略》所在の社交飲食
店中国クラブE(以下「本件クラブ」という。)において、「F」の名前でホステスとして稼働
していた(乙8、21)。
 本件処分に至る経緯等
ア 京都府警察本部生活安全特別捜査隊警察官は、平成15年6月19日、本件クラブを強制捜査
し、原告を含め「留学」等の在留資格でありながら本件クラブで稼働していた中国人ら11名
を法73条に定める19条1項違反容疑により在宅捜査の対象とした。原告は、京都地方検察庁
に書類送検され、同年7月31日、法70条1項4号の罪について不起訴処分(起訴猶予)とな
った(乙8ないし11)。
イ 大阪入管入国警備官は、同年8月20日、原告が法24条4号イ(資格外活動)に該当すると
疑うに足りる相当の理由があるとして、被告から収容令書の発付を受けた上、同月21日、同
収容令書を執行し、原告を入国者収容所西日本入国管理センター(以下「西日本入国管理セ
ンター」という。)に収容し、大阪入管入国審査官に引渡した(乙13)。 
ウ 大阪入管入国審査官は、同月26日、原告について審査した結果、原告が法24条4号イに該
当すると認定し、その旨を原告に通知したところ、原告は、同日、口頭審理の請求をした(乙
15、23)。
エ 大阪入管特別審理官は、原告に対し口頭審理を実施した結果、同年9月3日、入国審査官
の上記認定には誤りがない旨判定するとともに、その旨を原告に通知したところ、原告は、
同日、法務大臣に対し異議の申出をした(乙16、17)。
オ 法務大臣から権限の委任を受けた大阪入国管理局長は、原告に対し、同年10月17日、原告
の異議の申出は理由がない旨の裁決をした。被告は、同日、原告にその旨通知するとともに、
同日付けで退去強制令書を発付し(本件処分)、大阪入管入国警備官は、同日、退去強制令書
を執行した(乙18、19)。
カ 原告は、同月25日、本件訴訟を提起するとともに本件処分の執行停止を申し立て(《事件番
号略》)、同年12月1日付けで収容部分を含めて執行を停止した決定により、同月2日に西日
本入国管理センターを出所した(乙31)。
3 争点及び当事者の主張
 退去強制令書発付処分(以下「退令処分」という。)の取消訴訟において主張できる違法事由
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(被告の主張)
法47条2項所定の入国審査官の認定は、退去強制の要件である退去強制事由を認定するもの
であり、法48条1項は、同認定に対し、口頭審理の請求という不服申立権を容疑者に与えてい
るから、同認定には処分性が認められる。そして、法49条1項による異議の申出に理由がない
旨の法務大臣の裁決の取消訴訟については、原処分主義(行政事件訴訟法10条2項)の適用が
あり、裁決の取消訴訟において、同認定処分の違法事由を主張することはできない。さらに、同
認定処分に対して不服申立てによる権利救済の道が設けられている以上、同認定処分と裁決よ
り更に後続処分である退令処分との間に違法性の承継は認められず、法24条4号イに該当する
との認定の誤りは退令処分の取消事由になり得ない。
本件において、原告は、専ら大阪入管入国審査官の認定の違法のみを主張し、本件処分固有
の違法事由を主張していないから、原告の請求は理由がない。
(原告の主張)
法49条5項の法務大臣の裁決は、退令処分に先立つ行政庁内部の決裁行為にすぎず、処分性
を有しないから、行政事件訴訟法10条2項にいう「裁決」に当たらない。よって、法24条各号
の該当性は、本来的に退令処分の取消訴訟において争うべきである。仮に、法務大臣の裁決が
処分性を有するとしても、法24条各号の該当性は退令処分自体の固有の要件であるから、退令
処分の取消訴訟においてその要件の欠缺を争うのは当然であって、違法性の承継の問題はそも
そも生じない。さらに、仮に、違法性の承継の問題であるとしても、入国審査官の認定から特別
審理官の判定、裁決を経て退令処分に至る手続は特定の外国人の退去強制へ向けられた一連の
手続であるから、当然違法性は承継されるべきものである。
 法24条4号イの「専ら行っている」の該当性
(被告の主張)
ア 「専ら行っている」とは、当該資格外活動の内容、活動の継続性、有償性、その本来の在留
資格に基づく活動をどの程度行っているかなどを総合的に判断して、外国人の在留目的の活
動が変更したと認められる程度に資格外活動を行っていることをいう。
イ 原告は、平成15年5月8日から同年6月19日までの間、おおむね週に3日の割合で合計17
日間にわたり、午後8時30分ころから翌午前1時30分ないし午前3時ころまで、本件クラブ
でホステスとして稼働しており、本件大学における授業時間よりも多くの時間を資格外活動
に費やしていたのであるから、資格外活動が原告の勉学に影響を与えなかったということは
できない。また、原告は、本件クラブ以外にも、同年4月21日から、「G」においてアルバイ
トをしており、同年5月には合計82.25時間稼働し、6万8267円の収入を得ていた。これら
の事情等からすれば、原告の活動は、アルバイトの域を逸脱し、本邦での就労活動による報
酬によって生活費や学費を支弁していたのであって、在留目的の活動が就労活動に変更され
ていたものといえる。
(原告の主張)
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ア 「専ら行っている」の要件は、退去強制という重大な不利益処分の構成要件であるから、通
常の理解力を有する人が通常理解する語義に解釈されるべきであり、不利益処分を受ける者
にとって不利な方向への拡大解釈は許されない。したがって、「専ら行っている」とは、当該
外国人の活動のすべての部分が資格外活動だけで占められているということであり、留学と
いう在留目的は仮装にすぎず、何ら実質を伴わないものであることが明らかな場合をいう。
イ 仮に、「専ら行っている」の解釈を被告主張のとおりに解したとしても、原告は本件大学に
おいて真面目に授業を受け、学期試験に合格し、単位を取得している。原告が本件クラブで
稼働していた金曜・土曜の翌日は本件大学における授業がなく、木曜の稼働についても、翌
日の金曜の授業への出席状況や成績からすれば、原告の勉学に支障があったとはいえない。
また、被告は本件クラブ以外にも「G」で働いていたことなどの事情から、原告の在留目的の
活動が就労に変更されていたと主張するが、原告がアルバイトで得た収入は、学費及び生活
費等の必要経費の36パーセント弱にすぎず、原告の貯蓄額も外国人留学生が通常有する相当
額にとどまるものであるから、被告の主張は失当である。
したがって、原告の在留目的の活動が留学から就労に変更したとはいえず、「専ら行ってい
る」の要件を満たさないから、本件処分は違法であって、取消しを免れない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(退令処分の取消訴訟において主張できる違法事由)について
 入国警備官は、法24条各号の一に該当すると思料する外国人(以下「容疑者」という。)につ
き違反調査をすることができ(法27条)、容疑者が法24条各号の一に該当すると疑うに足りる
相当の理由があるときは、収容令書により、その者を収容することができる(法39条1項)。
入国警備官から容疑者の引渡しを受けた入国審査官は(法44条)、容疑者が法24条の各号の
一に該当するかどうかを審査し(法45条)、審査の結果、法24条各号に該当しないと認定した
ときは、直ちに容疑者を放免しなければならないが(法47条1項)、法24条各号の一に該当す
ると認定したときは、主任審査官及び容疑者にその旨を知らせなければならない(法47条2
項)。通知を受けた容疑者は、入国審査官の認定に異議があるときは、3日以内に特別審理官に
対し口頭審理の請求をすることができる(法48条1項)。容疑者が上記認定に服したときは、主
任審査官はすみやかに退去強制令書を発付しなければならない(法47条4項)。
口頭審理の請求があった場合、特別審理官は、口頭審理の結果、上記認定が事実に相違する
と判定したときは、直ちに容疑者を放免しなければならないが(法48条6項)、上記認定が誤り
がないと判定したときは、主任審査官及び容疑者にその旨を知らせなければならない(同条7
項)。通知を受けた容疑者は、上記判定に異議があるときは、3日以内に法務大臣に対し異議を
申し出ることができる(法49条1項)。容疑者が上記判定に服したときは、主任審査官はすみや
かに退去強制令書を発付しなければならない(法48条8項)。
異議の申出があったときは、法務大臣は、同申出が理由があるかどうかを裁決して、その結
果を主任審査官に通知しなければならないが(法49条3項)、異議の申出が理由がないと認め
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る場合でも、容疑者が法50条1項各号の一に該当するときは、在留を特別に許可することがで
き、その許可は異議の申出が理由がある旨の裁決とみなされる(同条1項、3項)。法務大臣が
異議の申出が理由があると裁決した場合、その通知を受けた主任審査官は容疑者を放免しなけ
ればならないが(法49条4項)、異議の申出が理由がないと裁決した場合は、その通知を受けた
主任審査官は、すみやかに容疑者に知らせるとともに、退去強制令書を発付しなければならな
い(同条5項)。
 上記のとおり、容疑者が法24条各号の一に該当する旨の入国審査官の認定は、容疑者につい
て、法24条各号の一に該当するかどうかを審査した後にする判断であって(法45条1項、47条
2項)、これにより引き続き容疑者の収容を継続する効果を発生させるとともに(法47条1項
参照)、容疑者がその認定に服したとき、あるいは特別審理官の判定及び法務大臣の裁決によっ
て認定が確定したときは、主任審査官をしてその者に退去強制令書を発付することを義務付け
ることになるから(法47条4項、48条8項、49条5項)、容疑者の法的地位に重大な影響を与え
る行為であり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるというべきである。
また、法47条ないし49条によれば、法務大臣が法49条1項の異議の申出に理由がないとする
裁決の性質は、特別審理官の判定に対する異議に対し、特別審理官によって誤りがないと判定
されたことによって維持された入国審査官の認定の当否を審査しこれを維持する判断と、法50
条1項所定の容疑者の在留を特別に許可すべき場合に該当しないとして、その許可を付与しな
い判断とが不可分的に一体となった処分と解される。この点、原告は、法務大臣の裁決は退令
処分に先立つ行政庁内部の決裁行為にすぎず、処分性を有しないと主張するが、在留特別許可
を付与しない判断は法務大臣の固有の権限に基づくものであること、法務大臣から異議の申出
に理由がないとする裁決の通知を受けた主任審査官は退去強制令書の発付を義務付けられるこ
と(法49条5項)からすれば、同裁決に公権力性が認められるとともに、同裁決は容疑者の法
的地位に重大な影響を与えるから、同裁決は処分性を有するというべきである。
 しかしながら、前記のとおり、入国審査官の認定、特別審理官の判定、法務大臣の裁決及び主
任審査官の退令処分は、退去強制という同一の行政目的を達成するための一連の手続を構成す
る処分であり、退令処分は、これを受ける外国人が法24条各号の一に該当すること(退去強制
事由があること)を中核的根拠とする処分である。また、異議の申出に理由がないとする裁決
の通知を受けた主任審査官は退去強制令書の発付(退令処分)を義務付けられることになる。
こうした関係からすると、入国審査官において、法24条各号の一に該当する場合ではないのに、
これに該当するとの認定をした違法は、これを是認する特別審理官の判定、これに対する異議
を棄却する法務大臣の裁決、さらにこれに基づいて一連の手続の最終処分としてされる退令処
分にも及び、上記違法性を承継した退令処分も瑕疵ある処分といわざるを得ないものと解され
る。先行する認定等の処分が独立の争訟対象となるとしても、早期救済のため争訟の機会を与
えたものにすぎず、その段階で取消訴訟等を提起して争わなければ最終処分である退令処分に
おいてその違法を主張して争うことを許容しない趣旨であるとは考えられない。したがって、
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入国審査官の認定の違法を理由に退令処分の取消しを求めることは許されるものというべきで
ある。また、法務大臣の裁決の取消訴訟において上記認定の違法を主張し得るかどうかは行政
事件訴訟法10条2項の原処分主義の適用があるかどうかの問題であるが、後続処分である退令
処分の取消訴訟において上記認定の違法を主張し得るかどうかは同条項とは関係のない問題で
あり、これを主張し得ると解しても何ら同条項に反するものではない。
 原告は、入国審査官の認定が違法であることを理由に退令処分の取消しを求めているとこ
ろ、上記のとおり、認定の違法は退令処分の取消事由となり得るものと解される。したがって、
以下、原告の主張する本件処分の違法性について判断する。
2 前記争いのない事実等に加え、証拠(甲1、6ないし9、12ないし17、19ないし23、乙5、6、
14、21、22、24、29、32ないし38、42、43、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実
が認められる。
 原告は、本邦上陸後、B学校において、1年間、日本での大学入学に必要な日本語能力を習得
した。その間の半年分の家賃と1年間の学費については、入国前に既に原告の母が支払ってお
り、原告はそれとは別に親から与えられた17万円及び3000米ドル(約33万円)と、本邦で資格
外活動許可を得て行ったファミリーレストラン及びうどん店におけるアルバイトで得た金員
(合計46万4025万円)等で生活費を賄った。
 その後、原告は、経済学を学ぶことを志し、平成15年4月1日、本件大学経済学部経済学科
に入学した。
本件大学における授業の時間帯は、月曜日から金曜日までそれぞれ1限目が午前9時から午
前10時30分、2限目が午前10時45分から午後零時15分、3限目が午後1時15分から午後2時
45分、4限目が午後3時から午後4時30分、5限目が午後4時45分から午後6時15分であり、
原告が1年次の春学期(同年4月から同年9月末まで(授業は7月中旬まで))において履修登
録した授業は、月曜日は1限目のみ、火曜日は1ないし4限目、水曜日は1、2限目、木・金曜
日は1ないし3限目と5限目の合計15コマ(1週間当たり合計22.5時間)である。
原告の成績は、専門科目である「マクロ経済学入門」で最上級の「秀」(100点から95点)の評
価を、「入門セミナー」と「簿記原理B」では「優」(94点から80点)の評価を受けた。その他の
科目については、「良」(79点から70点)が5科目、「可」(69点から60点)が3科目であり、1科目
のみ単位を取得できなかった。なお、残りの3科目は通年科目であるが、春学期のみの成績はすべて70
点を上回る成績であった。
原告の出席状況については、出欠の確認をしている科目に限ってみれば、約8割方出席して
いる。
原告が本件クラブで稼働した木曜日の翌日である金曜日の授業の出席状況及び成績は、以下
のとおりである。
ア 1限目
 簿記原理B 出欠確認なし 「優」
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イ 2限目
 西欧の伝統思想B 出欠確認なし 「可」
ウ 3限目
 経済数学B 9回中8回出席 「可」
エ 5限目
 入門セミナー 10回中10回出席 「優」
 原告の父は、元医師であり、中国の平均的な市民に比べて多額の年金を支給されている。母
は、現在、貿易会社の副社長兼財務総括顧問であり、多額の給与と株式の配当金を得ている上
に、多額の年金を支給されている。また、原告自身賃貸不動産を所有している。このように、原
告の実家は経済的に裕福な家庭であり、原告が本件大学で学ぶために必要な学費・生活費等は、
その大半を両親が援助していた。現に、原告が平成15年3月に一時帰国した際も、原告の母親
から60万円、父親から10万円を与えられた。これに加え、B学校時代のアルバイトで知り合っ
たHからもらった合計13万8000円の小遣いや原告の預貯金等の資金によって、原告は本件大
学への入学の際に必要な学費等約45万円(入学金27万円、授業料半年分34万1500円、教育充
実費半年分10万3000円。ただし、そのうち26万4900円については返還された。)、引越代30万
円、生活費(1か月当たり約8万5000円)を賄った。
 原告は、中国の大学の友人から紹介された本件クラブで、平成15年5月8日から同年6月19
日までの間、原則として毎週木曜日と金曜日、時にはそれに加えて火曜日又は土曜日に午後8
時30分から翌日午前1時30分又は午前3時までホステスとして接客のアルバイトをした。こ
のアルバイトの給与は5時間で8000円であり、原告は、上記期間中合計17日間本件クラブで稼
働し、その対価として合計15万7300円の収入を得た。なお、原告は、5月分の4万7250円は受
領したものの、6月分の11万0050円は受領していない。
 原告は、本件クラブにおける稼働以外にも、平成15年4月21日から、飲食店である「G」に
おいて稼働を開始し、同年4月中は毎日、午後5時ないし午後7時から午後10時ないし午後11
時ころまで、合計10日間で45.25時間稼働し、3万6200円の給料を得た。同年5月中は合計17
日間で82.25時間稼働し、6万8267円の給料を得た。
3 争点(法24条4号イの「専ら行っている」の該当性)について
 退去強制事由である法24条4号イに該当するには、「第19条第1項の規定に違反して収入を
伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」を「専ら行っている」と明らかに認められる
者であることが必要であるが、原告が前者の要件に該当していることについては当事者間に争
いがないから、以下、原告が資格外活動を「専ら行っている」といえるか否かについて検討する。
 「専ら行っている」の要件について
ア 「専ら行っている」の判断基準
ア 「留学」の在留資格をもって在留する者は、法務大臣の資格外活動許可を受けて行う場合
を除き、報酬を受ける活動を行ってはならず、資格外活動許可は、当該在留資格に対応す
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る活動(留学)の遂行を阻害しない範囲内で報酬を受ける活動を行うことを希望する申請
があった場合において、相当と認めるときに行うものとされている(法19条1項、2項)。
また、法7条2項、出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「規則」という。)6条、法20
条2項、規則20条2項、規則別表第三によれば、外国人が「留学」を目的として上陸の申請
をし、又は在留資格を「留学」に変更する申請をする場合、在留中の一切の経費の支弁能力
を証する文書(当該外国人以外の者が経費を支弁する場合には、その者の支弁能力を証す
る文書及びその者が支弁するに至った経緯を明らかにする文書)を提出しなければならな
い。このように「留学」の在留資格で在留する者は、本来、本邦において就労活動を行うこ
とを予定していないものということができる。
しかしながら、留学の遂行を阻害しない範囲内で滞在中の学費その他の必要経費の一部
を補う目的でアルバイトを行うことは、資格外活動許可を得ることにより許容されること
とされている。また、法24条4号イが、「第19条第1項の規定に違反して……報酬を受け
る活動を行っている」という定め方をせず、「……報酬を受ける活動を専ら行っていると明
らかに認められる」と定めていることからすれば、許可を得ずに資格外活動である報酬を
受ける活動を行ったというだけでは退去強制事由とはせず、法73条等による規制をするに
とどめるものとする立法政策を採っていることは明らかである。
イ 「専ら行っている」といえるためには、当該活動の継続性及び有償性、本来の在留資格に
基づく活動をどの程度行っているか等を総合的に考慮して判断し、外国人の在留目的の活
動が実質的に変更したといえる程度に資格外活動を行っていることを要すると解される。
この点、原告は「専ら行っている」ことの要件について、当該外国人の活動のすべての部分
が資格外活動だけで占められているということであり、留学という在留目的は仮装にすぎ
ず、何ら実質を伴わないものであることが明らかな場合をいうと主張する。しかし、当該
外国人の活動のすべてが資格外活動のみで占められている場合でなくても、在留目的の活
動が実質的に変更したといえる程度に資格外活動を行っている場合には、当該外国人に一
定の在留目的で在留資格を付与した法の趣旨に反することになるから、原告の主張は採用
できない。
ウ 以上によれば、報酬を受ける活動を専ら行っているといえるかどうかは、その活動の時
間の程度、継続性、報酬の多寡、留学の目的である学業の遂行を阻害していないかなどを
総合的に考慮し、在留目的たる活動が実質的に留学ではなく、就労その他の報酬を受ける
活動に変更したといえる程度に達しているか否かをもって判断すべきものと解される。
イ 平成15年4月における資格外活動について
原告は、平成15年4月21日から30日まで、Gにおいて、毎日午後5時ないし午後7時から
午後10時ないし午後11時ころまで、合計45.25時間稼働した。1日当たりの平均稼働時間は
4.5時間であり、資格外活動許可を与えられた場合に認められる稼働時間(1週間当たり28
時間以内。乙43)と同程度である。また、Gで稼働して得た給料は3万6200円であり、それ
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ほど多額ではない。
ウ 平成15年5月における資格外活動について
原告のGにおける平成15年5月中の稼働時間は、合計17日間、82.25時間であり、1日当
たりの平均稼働時間は約4.8時間である。また、原告は同月8日から本件クラブでの稼働を始
めたが、原告の本件クラブにおける同月中の稼働時間は、合計11日間、約63.8(出勤時刻か
ら退店時刻までの時間であり、始業準備、帰宅準備の時間を含む。以下同じ)時間であり(乙
21)、1日当たりの平均稼働時間は約5.7時間である。2か所での稼働時間を合計すると5月
1か月間で約146時間であり、資格外活動許可を得た場合に認められる稼働時間(1週間当
たり28時間以内)を超過することになるが、原告の稼働時間が日常生活においておよそアル
バイトの程度を越えるほど長時間を占めていたということはできない(なお、仮に資格外活
動許可で認められる稼働時間を1日単位で換算すれば1日当たり4時間となるところ、5月
の1か月31日を基準にした場合の原告の1日当たりの稼働時間は4.7時間であり、超過の程
度はそれほど大きなものではないということもできる。)。
原告の得た給料は、G6万8267円、本件クラブ4万7250円であり、4月に比べると大幅に
増加したものの、生活費以外にもまとまった学費等が必要な年度始めの時期においては、多
額とまではいえない。 
エ 平成15年6月における資格外活動について
原告のGにおける平成15年6月中の稼働時間は、合計13日間、58.75時間であり(乙32)、
1日当たりの平均稼働時間は約4.5時間である。原告の本件クラブにおける同月中の稼働時
間は、合計6日間、約36.5時間である(乙21)。両者の稼働時間を合わせても19日間、95.25
時間であり、資格外活動許可を得た場合に認められる稼働時間(1週間28時間以内)を大き
く超えるものではない。
原告の得た給料は、G4万9350円、本件クラブ11万0050であるが、本件クラブの給料は
現在に至るまで受領していない。
オ 平成15年7月における資格外活動について
原告のGにおける平成15年7月中の稼働時間は、合計12日間、50.75時間、1日当たりの
平均稼働時間は約4.2時間であり、仮にほぼ連日稼働したとしても、資格外活動許可を得た場
合に認められる稼働時間(1週間28時間以内)と同程度ということができる。原告の得た給
料も、4万3137円であり(乙32)、それほど多額ではない。
カ 平成15年8月における資格外活動について
原告のGにおける平成15年8月中の稼働時間は、合計11日間、52.25時間、1日当たりの
平均稼働時間は約4.75時間であり、仮にほぼ連日稼働したとしても、資格外活動許可を得た
場合に認められる稼働時間(1週間28時間以内)をそれほど上回るものではない。原告の得
た給料も、4万4412円であり(乙32)、それほど多額ではない。
キ 資格外活動の勉学への影響について
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原告は、Gで、早いときは午後5時から稼働していたが、他方、本件大学で毎週木曜日及び
金曜日の5限目(午後4時45分から午後6時15分まで)に授業があった。木曜日の5限目は
13回中11回出席し、金曜日の5限目は10回すべて出席していることからして、Gでのアルバ
イトを優先して授業を休みがちになっていたという事情は認められない。
また、本件クラブでの稼働時間帯は午後8時30分から深夜にわたるものであり、原告の本
件大学における勉学に支障を与えかねない時間帯であるが、原告が稼働していた木曜日及び
金曜日については、本件大学の授業を5限目まで(午後6時15分まで)受講した上で午後8
時過ぎに本件クラブに出勤していたこと、金曜日及び土曜日の稼働については、深夜まで働
いていたとしても翌日に授業がないこと、本件クラブで稼働した木曜日の翌日である金曜日
に履修していた授業の出席状況は把握し得る限りで19回中18回出席と良好で、4科目のう
ち2科目について「優」という優秀な成績を修めていることからすれば、本件クラブでの稼
働によって原告の本件大学における勉学に特段支障があったというような事情は認め難い。
その他、原告の春学期の授業への出席率は把握し得る科目について約8割と低調とはいえ
ないこと、春学期の授業のうち1科目を除いた11科目の単位を取得したこと、単位を取得し
た科目のうち3科目については優秀な成績を修めていることから、原告が本件大学における
勉学に真面目に取り組んでいたことが認められる。
ク 資格外活動で得た報酬と生活費等について
前記認定のとおり、本件大学入学時から春学期終了までに原告が支払った学費及び生活費
等の大半は両親が負担していること、原告が資格外活動で得た報酬は、未払分を含めても合
計約26万円であり、平成15年度春学期に要した学費、生活費及び引越費用等合計約120万円
に比較すると必ずしも多額とはいえないことからすれば、資格外活動で得た報酬は原告の生
活費等の補完として使用されたにすぎないということができる。また、今後必要となる本邦
での生活費及び学費についても、両親が援助するとの約束がされており(甲16、17)、実際、
同年12月には両親から60万円及び5000米ドルの援助があったのであるから、今後も原告の
生活費及び学費の大半を両親が援助することは十分可能であるといえる。
ケ 被告は、原告が本件クラブ等において引き続き稼働を継続する意思を有していたことを主
張し、原告の供述(原告本人、乙23、24)中には、Gや他のアルバイト先でアルバイトを続
けるつもりであった旨の供述部分が認められるが、他方で、学業は続けて卒業したいとの供
述をしていることからして、同供述部分も、本件大学における勉学をおろそかにしてまで本
件クラブ等での就労に専念したり、これを拡大して稼働するという趣旨のものとは認められ
ず、他に原告がそのような意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、
原告に稼働継続の意思があったことをもって、資格外活動を「専ら行っている」と認めるべ
き事情であるということはできない。
また、被告は、本件クラブでの稼働は風俗営業が営まれている営業所において行う活動で
あり、そもそも資格外活動許可が得られる余地のない稼働であることを主張する。しかし、
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資格外活動の内容が同許可の得られない活動であることが法73条の適用場面において違法
性の程度の判断に影響し得ることはいうまでもないが、そのことをもって直ちに資格外活動
を「専ら行っている」と推認すべきであるとか、その判断に決定的な影響を与えるものであ
るということはできない。
本件クラブの強制捜査やその後の退去強制手続が、原告にとっては幸運にも、資格外活動
にのめり込み、これに専従することへの歯止めとなったという可能性は否定できないが、仮
にそうであったとしても、本件処分時において、原告が既に資格外活動を「専ら行っている」
との要件に該当していたと認めることはできない。
コ 以上のとおり、原告の資格外活動の稼働時間及び報酬額並びに原告の就学状況からすれ
ば、原告の在留目的が留学から就労に実質的に変更したといえる程度に資格外活動を行って
いたとはいえず、原告が資格外活動を「専ら行っている」と認めることはできない。
 したがって、原告の資格外活動が法24条4号イの要件を満たしているとはいえないから、同
要件に該当するとした大阪入管入国審査官の認定ないし大阪入国管理局長の裁決に基づいて被
告が行った本件処分は違法である。
4 以上のとおり、原告の請求には理由があるからこれを認めることとし、主文のとおり判決する。

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