退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件
平成16年(行コ)第194号(原審:東京地方裁判所平成10年(行ウ)第208号)
控訴人(被告):法務大臣・東京入国管理局主任審査官、被控訴人(原告):A
東京高等裁判所第21民事部(裁判官:濵野惺・金子順一・小林昭彦)
平成17年1月20日

判決
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する
3 訴訟費用は、第1審及び第2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文と同旨
第2 被控訴人の請求の趣旨
1 控訴人法務大臣の被控訴人に対する平成10年9月28日付けの難民の認定をしない旨の処分を取り消す。
2 控訴人法務大臣の被控訴人に対する平成10年10月5日付けの被控訴人の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
3 控訴人東京入国管理局主任審査官の被控訴人に対する平成10年10月9日付けの退去強制令書発付処分を取り消す。
第3 事案の概要
1 トルコ共和国国籍を有する被控訴人は、我が国に偽造のイタリア旅券で入国した上で、控訴人法務大臣に対し、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)第61条の2第1項の規定に基づいて、難民の認定の申請をしたが、控訴人法務大臣は、被控訴人に対し、平成10年9月28日付けで、被控訴人は難民の地位に関する条約(昭和56年条約第21号。以下「難民条約」という。)及び難民の地位に関する議定書(昭和57年条約第1号。以下「難民議定書」という。)にいう難民とは認められないとして難民の認定をしない旨の処分(以下「本件不認定処分」という。)をした。
また、東京入局管理局入国審査官が、被控訴人が法第24条第1号(不法入国)に該当すると認定したため、被控訴人は、法第49条第1項の規定に基づいて、控訴人法務大臣に対して異議を申し出たが、控訴人法務大臣は、被控訴人に対し、平成10年10月5日付けで、異議の申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。そこで、控訴人東京入国管理局主任審査官は、被控訴人に対し、平成10年10月9日付けで、退去強制令書を発付した(以下「本件発付処分」という。)。
本件は、被控訴人が、本件不認定処分、本件裁決及び本件発付処分はいずれも違法であると主張して、控訴人法務大臣に対し、本件不認定処分及び本件裁決の取消しを求め、控訴人東京入国管理局主任審査官に対し、本件発付処分の取消しを求める事案である。
2 原判決は、本件不認定処分時において、被控訴人は、難民条約上の難民に該当するというべきであるから、本件不認定処分、本件裁決及び本件発付処分はいずれも違法であると判示して、被控訴人の請求をいずれも認容したので、これを不服とする控訴人らが控訴の申立てをした。
3 法令の定め、前提事実、争点(争点に関する当事者の主張を含む。)は、原判決を次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2ないし4(原判決2頁5行目から32頁17行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決2頁9行目の「法2条3号」を「法第2条第3号の2」に改める。
 同頁18行目の「望まないもの」を「望まないもの及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」に改める。
第4 当裁判所の判断
 1 争点(被控訴人の難民該当性)について
 出入国管理及び難民認定法上、難民とは、難民条約第1条の規定又は難民議定書第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいうものと定義されている(法第2条第3号の2)から、難民条約第1条に規定する「難民」の定義と難民議定書第1条に規定する「難民」の定義との共通するところは、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」というものである。
 被控訴人は、被控訴人の従前の経歴によれば、クルド人であることから、政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するものであって、出入国管理及び難民認定法上の難民に該当するなどと主張し、その主張の根拠となる事情や自己の従前の経歴について概略次のとおり供述ないし陳述等(以下「被控訴人の供述」という。)をしている(甲29の1及び2、31、32、47、乙11、12、14ないし16、18、37ないし39、42、被控訴人本人)
ア 1994年(平成6年)3月に警察にPKKを援助したとの嫌疑で逮捕勾留されて脅迫により警察のスパイになることを強要された上、同年5月にも拷問及び処罰の脅迫をもって警察のスパイとなることを要求されたり、発砲されたことがあったため、生命の危険を感じ、同年7月にトルコを出国し、難民認定の申請をする目的で、同月15日に1回目の来日をした。
イ 1995年(平成7年)10月に我が国から強制送還された後、イスタンブール空港で警察に拘束され、テロ対策支部において、拷問や虐待の上、日本に行った目的や日本で難民認定の申請をしようとした理由等について尋問を受けたが、その後解放され1996年(平成8年)春には、PKKの依頼により、PKKゲリラのBと呼ばれる人物を山岳地帯を通ってヨーロッパに送る任務に就いたことがある。
ウ その後、1996年(平成8年)夏、PKKのゲリラで学生時代の友人に再会したが、同年11月その友人が反ゲリラのメンバーに射殺されたため、クルド民族の人権と自決権のための活動をすることを決意し、ゲリラと党の間の書類運搬の任務に就き、1997年(平成9年)10月、トルコ国内の山間部でゲリラ2名と会っていた際、トルコ軍の軍隊に包囲されて逃走し、国外に脱出することを決め、同年12月12日、ブローカーの手配でパスポートを所持せずに団体客に紛れてトルコを出国し、経由地のモスクワでブローカーから被控訴人名義の偽造のイタリア旅券を受け取り、この偽造旅券により来日した。
 しかしながら、被控訴人の供述の信用性については、次のとおり重大な疑いがある。
ア 被控訴人は、上記アのとおり、生命の危険を感じ、難民認定の申請をする目的で、1994年(平成6年)7月15日に1回目の来日をした旨供述する。
しかしながら、原判決掲記の各証拠によれば、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3の前提事実を認めることができ、これによれば、被控訴人は、その第1回目の来日後、難民認定の申請をしないまま、同年8月12日にシンガポールに向けて出国し、同月26日に2回目の来日をしたときも、再び難民認定の申請をしないまま、同年9月9日にシンガポールに向けて出国し、同月30日には3回目の来日をしたものの、その後、約1年間にわたって、難民認定の申請をしないまま、《地名略》において古タイヤを回収する仕事に就いたり、《地名略》において建設現場で土木作業員として稼働し、1995年(平成7年)10月19日に《地名略》市内において不法滞在の容疑により現行犯逮捕されたこと、その後も、被控訴人は、難民認定の申請をしないまま、退去強制手続によりトルコに送還されたのであって(なお、上記退去強制手続において、被控訴人が難民である旨の主張をしたことを認めるに足りる証拠もない。)、とりわけ、約1年にわたって、古タイヤを回収する仕事に就いたり、建設現場で土木作業員として稼働していながら、来日の目的であったという難民認定の申請をしていないこと、まして、退去強制手続が開始されたにもかかわらず、難民認定の申請をしていない上に、難民である旨の主張すらもしてないことに照らすと、被控訴人の上記供述の信用性には重大な疑いがあるというべきである。
イ また、被控訴人は、上記イのとおり、被控訴人がPKKゲリラを山岳地帯を通ってヨーロッパに送る任務に就いた旨供述し、その供述を裏付けるものとして、その際に撮影されたと主張するビデオ(甲35)を提出しているけれども、同ビデオの撮影時期、撮影場所、撮影対象者を明らかにする客観的証拠はなく(仮に被控訴人が撮影されているとしても、他の撮影対象者を明らかにする客観的証拠はない。)
そもそも、PKKゲリラを山岳地帯を通ってヨーロッパに送る任務の様子であるかどうかも全く不明であって、同ビデオが、被控訴人の上記供述を客観的に裏付けるものとは到底いうことができない。
ウ 被控訴人は、上記ウのとおり、トルコから、ブローカーの手配でパスポートを所持せずに団体客に紛れて出国し、経由地のモスクワでブローカーから被控訴人名義の偽造のイタリア旅券を受け取り、この偽造旅券で来日した旨供述している。
しかしながら、証拠(乙6、7、18、126)によれば、被控訴人が1997年(平成9年)の来日の際に乗っていたC国際航空○便の乗客名簿には、被控訴人が使用した偽造旅券の名義と同じ「A’」との名がモスクワからの乗客欄にではなく、ロンドンからの乗客欄に記載されていること、上記の乗客名簿は、乗客が乗機地においてチェックインをして搭乗券の発行を受け、かつ、搭乗ゲートにおいて搭乗手続をすると、この両者の情報が電算処理されることによって作成され、それが到着地にテレックスで送信されるから、乗機地を誤った乗客名簿が作成されることは通常あり得ないし、乗機地においてチェックインをする際には、旅券などの渡航文書による本人確認が行われるため、渡航文書と名義の異なる搭乗券が発行されることも通常はあり得ず、したがって、渡航文書の名義と異なる乗客名簿が作成されることも通常あり得ないこと、被控訴人自身外国人入国記録(乙6)の乗機地の欄にロンドンと記載していることが認められ、以上の認定事実に照らすと、被控訴人は、上記の供述内容とは異なって、ロンドンからC国際航空○便に乗って来日したものとの疑いがあることが濃厚であるといわざるを得ず、被控訴人の上記供述の信用性には重大な疑いがあるといわなければならない。
なお、被控訴人が、上記来日の際に使用した偽造イタリア旅券の写し(甲41)には、英国から出国した旨の記載はないが、証拠(乙127)によれば、英国においては、1996年(平成8年)前後ころに出国審査が廃止され、それ以降、出国の際に旅券に出国証印が押印されることはないことが認められるのであり、このことからすれば、被控訴人の上記旅券に英国から出国した旨の記載がないことをもって、被控訴人がロンドンから来日したものとの疑いがあることが濃厚である旨の上記認定判断を左右するものではない。
なお、難民認定室認定係長D作成の平成14年9月25日付け法務省入国管理局総務課難民認定室長宛文書(乙104)には、外務省を通じて英国内務省から入手した情報として、被控訴人と同名で生年月日も同一の人物が、1995年(平成7年)《日付略》英国に入国して難民認定申請をし、1996年(平成8年)《日付略》上記申請却下処分を受けたため、これに対して不服申立をしたところ、1998年(平成10年)《日付略》上記不服申立が却下されたこと、さらに、同人物については英国に出国記録が存在しないことが記録されていることが認められるところ、上記文書に記載された人物が被控訴人と同一人物であるとすれば、被控訴人がトルコに強制送還された後の行動に関する被控訴人の上記供述のほとんどは虚偽であることになるところ、被控訴人は、平成9年12月13日に日本に入国した際には、ロンドンから飛行機に搭乗して来日した疑いが濃厚であることは前記のとおりであることに照らすと、上記文書に記載されている人物が被控訴人と同一人物である可能性があることも直ちには否定することはできないし、上記文書記載の人物に対する難民申請却下処分に対する不服申立が、英国において、上記文書記載のとおり、1998年(平成10年)《日付略》に却下されたとしても、この時点において、上記不服申立却下処分を受けた上記人物が必ずしも英国内に滞在していたとはいえず、他に当該人物が上記不服申立の却下処分を受けた当時英国内に滞在していたこと
をうかがわせる証拠もないことから、上記文書記載の人物が被控訴人であるとしても、被控訴人の日本への入国が平成9年12月13日であることと矛盾するものともいい難い。また、確かに、上記文書には、文書記載の当該人物について、出国記録が存在しない旨の記載があり、他方、被控訴人には、前記のとおり、英国から出国して、平成9年12月13日に日本へ入国した疑いが濃厚であるが、被控訴人は、上記入国時に本人名義の偽造イタリア国旅券を所持していたことは前記のとおりであることに照らすと、被控訴人が英国を出国する際にも何らかの不法な手段により出国した可能性があることも直ちには否定することができず、そうすると、上記文書に、同文書記載の人物について、英国に出国記録がない旨の記載があるとしても、このことから直ちに被控訴人と上記文書記載の人物とが同一人物ではないということも困難というほかなく、以上によれば、上記文書記載の人物が被控訴人である可能性があることを否定することは困難というほかない。また、他に、上記文書の記載内容の信用性を覆すに足りる証拠もない。そして、以上の事情に照らすと、被控訴人の上記イ及びウの供述の信用性には疑いがあるといわざるを得ない。
 以上のとおり、被控訴人は、出入国管理及び難民認定法上の難民に該当する根拠とする事情及び自己の従前の経歴として上記のとおり供述しているけれども、被控訴人の上記各供述の信用性については、上記のとおり重大な疑義があり、被控訴人の上記各供述を直ちには採用することはできないというべきであるし、他に、被控訴人の上記各供述内容を客観的に裏付けるに足りる証拠はない。なお、被控訴人は、平成15年1月24日付け上申書において、その添付の写真について、「原告(被控訴人)は、銃を持ったPKKメンバーと、屋外において共に座って撮影されている。この写真は、原告(被控訴人)がPKKに対して援助活動を続けていたことを明白に裏付ける証拠である」旨主張しているが、上記写真の撮影者、撮影場所、撮影年月日を明確にすべき証拠は何ら提出されておらず、また、被控訴人がPKKメンバーである旨主張している上記写真中の人物が真実そのような人物であることを示す証拠も何ら提出されていないことに照らすと、上記写真をもって、被控訴人の主張するような証拠と評価することは困難というほかない。
以上によれば、結局、本件全証拠によっても、被控訴人には、その主張するような迫害を受ける恐怖を抱くような客観的事情が存在するということはできず、したがって、被控訴人が出入国管理及び難民認定法上の難民に当たるということはできないから、控訴人が被控訴人の難民該当性を否定した本件不認定処分をした点に違法はないというべきである。
2 争点(本件不認定処分についての理由付記の違法性)について
被控訴人は、本件不認定処分は、被控訴人の難民性を否定する理由として、「迫害のおそれの証拠がない」としか記載していないから、この記載では、出入国管理及び難民認定法の要求する理由付記の程度には達していないから、本件不認定処分は違法である旨主張するが、証拠(乙22)によれば、確かに、本件不認定処分においては、被控訴人が難民に該当しないとする理由としては、被控訴人が迫害を受けるおそれがあることを立証する具体的な証拠がない旨記載するに止まることが認められるが、前記のとおり、被控訴人が出入国管理及び難民認定法上の難民に該当するとして主張する事実を認めるに足りる証拠がないのであるから、本件不認定処分においても、その旨を理由として付記すれば足りるものというべきである。
したがって、本件不認定処分に理由不備の違法があるということはできない。
3 争点(本件裁決の違法性)について
 被控訴人は、難民認定を受けていなくても、難民条約上の難民に当たるから、控訴人法務大臣は、法第61条の2の8の規定により、被控訴人の在留を特別に許可すべきであったにもかかわらず、これをしないでした本件裁決には裁量違反の違法がある旨主張するが、被控訴人が難民条約上の難民(出入国管理及び難民認定法上の難民)に当たるということができないことは前記のとおりであるから、被控訴人の上記主張は、その前提を欠き、理由がないことは明らかであるといわなければならない。
 また、被控訴人は、本件裁決及び本件発付処分に先行する違反審査及び口頭審理手続において被控訴人を収容したことは、収容に代えて監視をすべきであった点において難民条約第31条第1項の規定に違反し、収容の必要性がなかった点において憲法第33条、第34条、市民的及び政治的権利に関する国際規約第9条、法第39条の規定に違反する上、収容令書の執行前の時点において被控訴人の身柄が拘束された点において違法であり、以上のとおり先行手続に重大な違法がある以上、本件裁決及び本件発付処分は違法である旨主張する。
しかしながら、難民条約第31条第1項は「締約国は、その生命又は自由が第1条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であって許可なく当該締約国の領域に入国し又は許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国し又は不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。ただし、当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国し又は不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする。」と規定しているところ、被控訴人が難民条約上の難民に該当しないことは前記のとおりであるから、難民条約第31条第1項違反をいう被控訴人の上記主張は、前提を欠き、失当である。そして、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3の前提事実によれば、被控訴人の収容については、法第39条の要件を具備していることが認められるから、被控訴人の収容について、被控訴人の主張するような法第39条に違反する点は認め難い。なお、第39条に基づく収容は、退去強制という行政目的を達成するためになされる行政手続であって、刑事手続ではなく、かつ、被控訴人の収容が法第39条に違反するものではないことは前記のとおりであるから、被控訴人が上記収容について、憲法第33条、第34条違反、市民的及び政治的権利に関する国際規約第9条違反をいう被控訴人の主張は、前提を欠き、失当である。また、前記前提事実に証拠(乙10、30)を総合すると、東京入国管理局警備第2課の担当官において、平成10年3月16日午前9時15分ころ、《地名略》警察本部外事課等と合同で、《地名略》市内の事業所に対する立入検査を実施した際に、同担当官の質問に対し、被控訴人が在留資格がないことを述べたため、同担当官は、被控訴人に対し、東京入国管理局の庁舎まで任意同行を求めたこと、その際、被控訴人は、特段の抗議もなく、これに応じていたこと、同日午後、被控訴人は、同担当官の同行の下に、その当時の
居住地である《地名略》の居宅に荷物整理のために立ち寄り、その際、同担当官は、被控訴人代理人弁護士作成に係る被控訴人が難民認定申請者であって、任意同行の要請には拒否する旨を記載した書面を確認したが、同担当官が被控訴人に対し、同庁舎へ同行を求めたところ、被控訴人はこれに応じ、その後、被控訴人は上記東京入国管理局の庁舎に到着したこと、入国警備官が、同日午後5時45分、同庁舎内で、被控訴人に対し、控訴人東京入国管理局主任審査官が発付した同日付け収容令書を執行して、被控訴人を東京入国管理局収容場に収容したことが認められる。なお、入国警備官作成の乙30には、被控訴人が上記東京入国管理局警備第2課の担当官から東京入国管理局の庁舎への任意同行を求められた際に、上記担当官から「再三荷物整理を行うよう説得したが、頑としてこれに応じず、「(洗面道具等の)荷物はいらない。」と申し立てた」との記載があることが認められるが、上記の記載は、その直後に、被控訴人が上記担当官からの東京入国管理局庁舎への同行を求められたのに応じて、難民認定申請の必要書類等を所持して、上記庁舎まで同行した旨の記載があることに照らし、被控訴人が任意同行を拒否した趣旨の記載と解するのは相当ではなく、上記の記載をもって、被控訴人が上記担当官の求めに対して任意同行に応じたとの上記認定を左右するに足りないというほかない。
また、被控訴人は、「任意同行の要請は拒否します。」との記載のある被控訴人代理人弁護士作成の書面によって、被控訴人が上記担当官による任意同行の求めを拒否した旨主張するかのようであるが、上記担当官により任意同行を求められた以降の被控訴人の行動は上記認定のとおりであって、上記書面の存在のみをもって、被控訴人が任意同行に応じたとの上記認定を左右するに足りない。そうすると、被控訴人は、前記の認定により、東京入国管理局の庁舎へ到着した後、同人に対する収容令書が執行されるまでの間に、東京入国管理局の庁舎内に止まるなどしていたことが認められるけれども、そのことから、直ちに、被控訴人の身柄が収容令書の執行前の時点において拘束されたと認めるに足りる事情はうかがわれず、他に、この点の被控訴人の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件裁決及び本件発付処分について被控訴人の上記主張の違法があると認めることはできない。
4 争点(本件発付処分の違法性)について
 被控訴人は、難民条約上の難民であるから、難民条約第33条第1項により、迫害のおそれがある本国に送還されない権利を保障されており、法第53条第3項も同様の趣旨を規定しているところ、本件退去強制令書は、被控訴人の送還先を被控訴人の本国であるトルコ共和国とするものであるから、上記各規定に違反するものであり、本件発付処分は違法である旨主張するが、被控訴人が難民条約上の難民であると認めることができないことは前記のとおりであるから、被控訴人の上記主張は、その前提を欠き、失当というべきである。
 被控訴人は、法第61条の2の4の規定により、本件不認定処分について、控訴人法務大臣に対し異議を申し出ることができるところ、退去強制処分の執行により本邦から出国してしまうと、難民である旨の認定を受けることができなくなるから、不認定処分について異議申出権を有する者に対して、退去を命じることは、被控訴人の異議申出権を侵害するものであって違法である旨主張するが、出入国管理及び難民認定法上、難民の認定の申請者が難民認定の手続の終了まで我が国に在留することができる旨を定める規定はないし、被控訴人が出入国管理及び難民認定法上の難民であると認めることができないことも前記のとおりであるから、被控訴人の上記主張は、その前提を欠き、失当というはかない。
 被控訴人は、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第3条第1項の規定は、「締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し、送還し又は引き渡してはならない。」と定めているところ、披控訴人が本国であるトルコ共和国に送還されると、拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠があるから、本件発付処分は、上記規定に違反して違法である旨主張するが、本件発付処分は、平成10年10月9日付けであるところ、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約は、平成11年7月29日、我が国において効力を生じたものであって、この条約には遡及効についての規定がないし、また、控訴人東京入国管理局主任審査官が上記条約第3条第1項の規定に違反することを認めるに足りる証拠もないから、被控訴人の上記主張は失当である。
5 以上によれば、本件不認定処分、本件裁決及び本件発付処分はいずれも適法というべきであるから、各取消しを求める被控訴人の請求はいずれも理由がなく、棄却すべきものである。したがって、被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は相当でないから、本件控訴は理由がある。
よって、原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

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