在留特別許可不許可に対する異議申出に理由がないとした裁決取消等請求控訴事件
平成17年(行コ)第222号(原審:横浜地方裁判所 平成15年(行ウ)第31号)
控訴人:東京入国管理局長、被控訴人:A
東京高等裁判所第11民事部(裁判官:富越和厚・桐ヶ谷敬三・佐藤道明)
平成18年1月18日
判決
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
1 被控訴人は、《日付略》に中華人民共和国(以下「中国」という。)で生まれ、中国の国籍を有す
る女性であり、平成7年6月14日日本人男性と偽装結婚をし、在留資格「日本人の配偶者等」、在
留期間「6月」として上陸許可を受けて、同年10月17日に中国から日本に入国し、在留期間の更
新又は変更を受けないで上記在留期間(平成8年4月17日まで)を経過して不法に日本に残留し
ていたが、平成12年8月ころから同居していた日本人B(《日付略》生。)と平成13年1月30日に
養子縁組を行ったことから、Bとの生活を続けることを希望し、同年7月19日東京入国管理局横
浜支局に出頭し、上記不法残留事実を申告した。
しかし、出入国管理及び難民認定法(平成15年法律第65号による改正前のもの。以下「法」と
いう。)24条4号ロに該当する旨の入国審査官の認定(法47条2項)と、同認定には誤りがない旨
の特別審理官の判定(法48条7項)を受けたことから、平成15年5月2日、法務大臣に対し法49
条1項の規定による異議の申出をしたところ、法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入国
管理局長(以下「控訴人入管局長」という。)は、同月7日、上記異議の申出に理由がない旨の裁決
を行い(法49条3項。以下「本件裁決」という。)、本件裁決の通知を受けた控訴人東京入国管理局
横浜支局主任審査官(以下「控訴人主任審査官」という。)は、同日、被控訴人に対し、退去強制令
書を発付した(法49条5項。以下「本件退去強制令書発付処分」という。)。
本件は、被控訴人が、控訴人入管局長がした本件裁決は、被控訴人に対し法50条1項3号の規
定に基づく在留特別許可を付与しないという判断を前提としたものであって、裁量権を逸脱又は
濫用した違法なものであり、したがって、控訴人主任審査官がした本件退去強制令書発付処分も
違法である等と主張して、控訴人入管局長に対しては本件裁決の取消しを、控訴人主任審査官に
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対しては本件退去強制令書発付処分の取消しを各求めた事案である。
原審は、控訴人入管局長がした被控訴人に対し在留特別許可を付与しないとの判断は事実的基
礎を欠くものであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くものであることが明らかと認めざるを
得ないもので、同控訴人に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があった違法なもので
あり、したがって、これを前提とした本件裁決は違法であり、また、違法な本件裁決を前提として
された本件退去強制令書発付処分も違法であるとして、各処分(以下「本件各処分」という。)を
取消したので、控訴人らが控訴した。
2 基礎となる事実、争点、争点に関する当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」第3ないし第
5に摘示のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、被控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり
である。
1 争点①(本件裁決をした控訴人入管局長の判断に係る裁量権の範囲の逸脱・濫用の違法の有無)
について
 本件の事実経過については、原判決の「事実及び理由」第6の1のに説示のとおりである
から、これを引用する。
 法は、全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図ることを目的とし(1条)、外国人の
入国については日本国内で行おうとする活動、身分等を審査することとし(7条)、日本に在留
する外国人は所定の在留資格の下で、所定の活動が許され、また、当該資格による在留につい
てはそれぞれ在留期間が定められ、これに応じて在留資格に変更が生じた場合には在留資格の
変更が、在留期間の更新を相当とする事由がある場合には在留期間の更新が予定されている
(2条の2、法第4章第1節)。そして、このような制度枠組は我が国の出入国管理の根幹をな
すものといえる。
そこで、法は、刑法等の刑罰法規に触れる行為(法24条4号ホないしリ、4号の2)に限らず、
不法入国(同条1号、2号)、不法就労(同条4号イ)、不法残留(同条4号ロ)に該当する者など、
上記制度枠組に反する者についての退去を強制する手続を規定する。また、出生その他の事由
により上陸の手続を経ることなく日本に在留することとなる外国人で、法22条の2に定める在
留資格の取得の許可を受けないで、在留資格を有することなく日本に在留できる60日の期間を
超えて日本にいる者についても、退去強制事由に該当するとしていること(法24条7号)に見
られるように、退去強制の対象となる者について帰責性を要件としていない。すなわち、法は、
法24条列挙の退去強制事由に該当する者を類型的に見て我が国社会に滞在させることが好ま
しくない外国人であるとし、不法残留について帰責性がない者であっても、退去強制手続の対
象とすることを予定しているものである。
ただし、法務大臣は、法49条3項の規定に基づく裁決をするに当たって、外国人に退去強制
事由があり、法49条1項による異議の申出が理由がないと認める場合でも、その外国人につい
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て、「永住許可を受けているとき」「かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき」
に加え「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」は、その在留を特別に許可するこ
とができる(法50条1項)。もっとも、在留特別許可は、退去強制事由があるために我が国から
退去強制されるべき者に対して法務大臣等が例外的に付与する許可であるから、在留特別許可
を付与するかどうかは、法の目的とする出入国の管理及び在留の規制の適正円滑な遂行という
その制度目的の実現の観点から、その外国人の在留中の一切の行状、特別に在留を求める理由
等の個人的な事情ばかりでなく、国内の政治・経済・社会等の諸般の事情及び国際情勢、外交
関係等の諸般の事情を総合的に考慮して行なわなければならないものであって、その要件の判
断は、法務大臣の広範な裁量を前提としているものと解すべきであり、このことは、法務大臣
から権限の委任を受けた地方入国管理局長が法49条3項の裁決をする場合(法69条の2、法施
行規則61条の2第9号)においても同様である。
本件においては、前記基礎となる事実(原判決第3、2及び)のとおり、被控訴人は法24
条4号ロに該当すると認められるから、本件裁決が違法であるか否かは、控訴人入管局長が、
被控訴人に対し法50条1項3号の規定に基づく在留特別許可を付与しなかったことについて
の違法性の有無によることとなる。そして、この場合において、「法務大臣が特別に在留を許可
すべき事情があると認めるとき」に該当しないとの判断が違法となるのは、当該事情があるの
に、裁量判断の基礎とした事実の誤認により当該事情を看過した場合又は事実に関する評価が
合理性を欠くこと等により当該事情がないとした判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠
くものであることが明らかであると認められる場合であるというべきである。
なお、法50条1項3号の規定に基づく在留特別許可は、法24条各号の退去強制事由に該当
し、日本からの退去を求めるべき外国人に対して、引き続き日本に在留し、日本の社会で生活
していくことを許容するものであることからすれば、法務大臣等がする在留特別許可を付与す
るかどうかの判断において、当該退去強制事由に係る行為の動機、目的、態様等を具体的に検
討することを要することはいうまでもなく、また、その外国人が、それまで日本において、健全
な市民として平穏で安定した生活を送ってきたこと及び将来も、日本において健全な市民とし
て平穏で安定した生活を送ることができる蓋然性が高いことは、最低限満たすべき要素である
ということができる。
 ところで、《証拠略》によれば、控訴人入管局長は、被控訴人が在留期間の更新を受けないで
在留期間を経過して日本に残留する者(法24条4号ロ)に該当するとして、被控訴人が偽装結
婚により日本人の配偶者としての在留資格で日本に入国したこと、Bと養親子関係にあり、同
居の親子と同様な生活を営んでいることを確認したうえ、被控訴人及びBの供述を考慮して
も、在留特別許可を付与する事情は認められないとしたことが認められる。
そこで、本件において、被控訴人に対し在留特別許可を付与しなかった控訴人入管局長の判
断が、事実的基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかなものであって、裁
量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものと認められるかどうかについて検討することと
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する。
ア 被控訴人の日本における生活状況等について
前記認定事実によれば、被控訴人は、平成7年10月に日本に入国してから平成15年4月に
横浜支局収容所に収容されるまでの約7年7か月の間、横浜市内に居住して、飲食店の店員、
ホテルでの皿洗い及び家事手伝いの仕事に従事し、生計を立ててきたものであって、反社会
的な業務に従事したことは認められず、その生活関係に関する限りは、健全な市民の一人と
して、平穏で安定したものである。また、a社に登録し従事していた横浜市のホテルでの皿
洗いの仕事は、7年以上にわたり継続的に、極めてまじめに勤務してきたものであり、その
勤務態度や仕事内容は雇用主や職場の人々からも高く評価され、信頼を得るに至っている。
また、日本での生活において被控訴人と現在親交のある者は、いずれも健全な市民として社
会生活を送っている者であることが認められる。
イ 偽装結婚を手段とする不法入国、不法残留及び不法就労等について
ア 被控訴人は、前記認定のとおり、日本人のCと偽装結婚することにより、在留資格を「日
本人の配偶者等」とする上陸許可を受けて日本に入国しているところ、このように、不正
に在留資格を取得し、上陸許可を受けて日本に入国する行為は、我が国の在留資格制度及
び入国審査制度(法3条1項2号、7条1項2号、9条1項)を潜脱する行為であって、実
質的に法24条1号及び2号の退去強制事由に匹敵する行為である上、偽装婚姻を届け出て
戸籍の原本に記載させることは、公正証書原本等不実記載罪(刑法157条1項)にも該当し、
我が国の婚姻制度に対する信頼を著しく損ねる行為である。
また、被控訴人が在留期間の更新又は変更の許可を受けずに在留期限である平成8年4
月17日以降も日本に残留していた行為は、退去強制事由(法24条4号ロ)に該当し、被控
訴人が在留期間経過後も不法に就労していた行為は、外国人の就労活動が制限されている
我が国の在留資格制度(法7条1項2号、19条1項等)を乱す行為であり、さらに、被控訴
人は、元夫Dが日本に不法入国した際にEの指示でDの密入国のための費用200万円を負
担してDの不法入国を幇助していた。
以上のとおり、被控訴人は、日本国内における不法就労を目的として、Eを介して約50
万円の金銭をCに交付し(《証拠略》)、日本人との婚姻という虚偽の外観を作出して入国し
たものであり、偽装結婚がその相手方となる日本人の違法行為をも予定するものであるこ
とからすると、その違法性は顕著であり、また、費用200万円を負担してDの密入国を実
質的に援助した行為も、出入国管理制度に関する規範意識の欠如を示すものというほかな
く、その手段、態様は、法秩序を著しく侵害するものとして違法性が強いものであり、被控
訴人に対し在留特別許可を付与するかどうかの判断において、この点が重要視されること
はやむを得ないといえる。
なお、平成16年8月31日に法務省入国管理局が公表した「在留特別許可された事例につ
いて」の26の実例(《証拠略》)には、偽装結婚を手段として不法入国した外国人に対して
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在留特別許可が付与された例は含まれていない。ちなみに、事例25では、日本人の子及び
その配偶者を装った母親及び父親とともに在留資格「定住者」及び在留期間「1年」の上陸
許可を受けて日本に入国し、日本の小・中学校に就学していたところ、数年後、家族の身
分詐称が発覚したことから上陸許可が取り消された東アジア出身の男性(21歳)について、
本人は大学在学中であり、身元保証人等から学費及び生活費の援助が確約されているもの
で、不法在留以外に法令違反が認められなかった事例において、在留資格「留学」及び在留
期間「1年」の在留特別許可が付与されているが、身分を詐称した両親は、日本での在留を
諦め本国に帰国していることが認められる。
イ 次に、これら違法行為についての動機、目的等を検討する。
前記認定事実によれば、被控訴人は、夫Dが生活費を渡さないばかりか、被控訴人に金
を要求して暴力を振るうなどし、辛い思いをしていたこと、病気となった両親の治療費や
生活費が必要となった際に当時日本で生活していたEの助言から日本で働くことを決意し
たものであり、被控訴人が日本で稼働し収入を得たいと考えるに至った経過や動機は理解
し得るものであるが、このことが違法な手段による日本への入国を正当化するものではな
く、適法な手続によらずに日本で稼働し収入を得たいということは、不法就労目的での不
法入国を企図したことに他ならず、出入国管理制度の観点から是認できる動機、目的とい
うことはできず、E及びCの主導の下に事が運ばれことが推認されるとしても、日本人と
の結婚を偽装するなど、自らの自由意思で偽装結婚を手段に日本に入国したものであり、
その点で不法入国の態様が悪質であるとの評価は免れない。
そして、Dの不法入国幇助については、Dが離婚した元夫であること、日本へ不法入国
してからその後の生活に至るまでいろいろと世話になったEによる指示を受けてのもので
あることを考慮しても、その金額の大きさに照らし、前記違法の顕著性を減殺することは
できない。 
なお、退去強制の事由である被控訴人の不法残留については、もとより容認されるべき
ことではないが、被控訴人が日本の在留資格制度や在留期限等について正確な知識を持っ
ておらず、自己の行為の違法性についての明確な認識を有していなかったことが窺われる
から(《証拠略》)、本件においては、退去強制事由に該当するということ以上に、ことさら
悪質なものと評価すべきものとはいえない。
ウ 日本人との養親子関係について
婚姻と養子縁組とは、相互の情愛ないし精神的な結びつきをもって、新たに家族関係を形
成していくという点では、共通性を有するものではある。しかし、同居の必要性(日本人の養
親が日本国内に居住している場合の他方の日本在留の必要性)の観点からは、大きな相違が
ある。
すなわち、民法上も、婚姻は家族の単位の基本として、「夫婦は同居し、互に協力し扶助し
なければならない。」と規定されており(民法752条)、この強い共同関係は、一夫一婦制を前
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提とし(民法732条)、婚姻関係が持続する限り、家庭生活のあり方として持続していくもの
であるのに対し、養親子関係は、親子関係を作出する合意であり、親子関係においては「直系
血族及び同居の親族は、互に扶け合わなければならない。」(民法730条、809条)、「直系血族
及び兄弟姉妹は、互に扶養をする義務がある。」(民法877条1項、809条)と規定されている
にとどまり、当事者間の同居義務までは定められておらず、子は経済的にあるいは自ら婚姻
関係を形成することにより親との家族共同体から自立していくことが予定されているのであ
る。さらに、養子縁組の目的も、互いに扶け合って共同生活を送ることにある場合もありう
るが(その場合であっても、養子の将来における婚姻や再度の養子縁組等もあり得るのであ
って、これが永続するとは限らない。)、それのみならず財産の承継(相続)を目的とするもの
もある上、養子は一人に限定されているものでもなく、養子は実方の血族との親族関係が終
了するものでもない。
また、これを法の規定にみると、日本人と婚姻関係にある外国人については、「日本人の配
偶者等」として在留資格が認められている(法別表第2)のに対し、日本人と養子縁組を行っ
た外国人については、未成熟子の養育を目的とし養子となる者の実方の血族との親族関係が
終了する特別養子(民法第817条の2)について「日本人の配偶者等」の在留資格が認められ
ている(法別表第2)ほか、一般養子については、法別表第2に定める在留資格「定住者」に
係る平成2年法務省告示第132号の7号において、日本人、永住者の在留資格をもって在留
する者、1年以上の在留期間を指定されている定住者の在留資格をもって在留する者又は特
別永住者の扶養を受けて生活するこれらの者の「6歳未満の養子」について、定住者として
在留資格が与えられることとなっているにとどまる。これら取扱いの相違は、日本人との親
族関係が日本人との同居(日本国内の在留)を必要とするものか否かという観点からも肯定
されるものである。
したがって、日本人と婚姻関係にある外国人については、その婚姻の事実が在留特別許可
を付与するかどうかの判断において重視され、不法残留又は不法就労等がその態様において
悪質でなく、しかも、その点を除けば、日本人の配偶者としての在留資格が肯定される場合
には、在留特別許可が付与されることが多いことがうかがわれる(《証拠略》)が、一般の養親
子関係については、不法残留又は不法就労の点を除いても、それ自体が在留資格となるもの
ではないから、在留特別許可を付与するかどうかの判断において、日本人の配偶者と日本人
の養子とを同列に扱うことはできないというべきである。その外国人が、日本人と、相互の
情愛や精神的な結びつきをもって、同居し、互いに扶け合って共同生活を送っているような
場合、その事実は在留特別許可を付与する一つの好ましい事情として考慮することができ、
真摯な養子縁組を行ったことは、そのような相互の情愛や精神的な結びつきの確実さを示す
一つの事情として考慮すべきである。
エ Bとの生活関係について
ア 前記認定事実によれば、被控訴人は、平成15年5月の本件裁決の6年以上も前にBと出
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会い、次第に親交を深め、Bから養女になってほしいと言われて本件裁決の約2年9か月
前の平成12年8月ころから養子縁組を前提としてBと同居生活を始め、本件裁決の約2年
3か月前には正式に養子縁組の届出をし、以後も、親子としてBと平穏に同居生活を続け
ていたところである。そして、《証拠略》によれば、被控訴人とBの関係は、本件訴訟の口
頭弁論終結時においても、依然として、実の親子のような情愛をもって精神的にも深く結
ばれた真摯なものであり、周囲の多くの人々からもその関係を受け容れられ、社会に溶け
込んだ、安定したものとなっていると認められ、また、当初は、Bが被控訴人の生活を扶助
する関係にあったが、その後のBの稼働状況の変化により、Bが経済的に被控訴人に依存
し、日々の生活における家事についての被控訴人への依存性が高まっていたことがうかが
え、Bとしては、被控訴人の将来における婚姻を考慮にいれつつも、被控訴人の身上を案
じ、被控訴人との同居を希望し、被控訴人もBとの同居を希望している。
イ ところで、被控訴人が中国に強制送還された場合の被控訴人への影響等についてみる
と、①現在、被控訴人が日本において所有している資産は100万円ほどの現金だけであり、
中国には住居も資産も有していないこと(《証拠略》)、②被控訴人の父母は既に死亡し、被
控訴人の長男は離婚した夫の両親に引き取られ、現在長男との交流はなく、被控訴人の両
親の養女、叔父、叔母等の親族との交流もなく、被控訴人にとって、その経済的な生活基盤
や人的な交流関係は既に養親のBを中心とする日本に移っており、中国には経済的な基盤
がない状況にあることが認められる。しかし、本国での経済的窮状から不法就労した場合
に、本国におけるよりも日本における方が就労の機会及び所得が多いと認められるとして
も、このことが本国への強制送還を妨げる事情ということはできず、③被控訴人が、中国
で生まれ、28歳までは中国で生活しており、日本に滞在していた期間は本件裁決時まで約
7年半(本件訴訟の口頭弁論終結時まで10年)の間であること、④被控訴人は、本件裁決
がされた当時36歳であり、健康上の問題も特にないこと(《証拠略》)からすれば、上記事
情のもとにおける強制送還が、被控訴人について人道に悖る行為ということもできない。
被控訴人が、Bと同居し孝行することを在留の目的としており、Bとの養子縁組がなかっ
た場合には、中国に帰国することとなったと理解していることは(《証拠略》)、相当な判断
というべきである。
ウ 次に、被控訴人の強制送還によるBへの影響についてみると、《証拠略》によれば、①こ
れまでの被控訴人とBの生活においては、掃除、洗濯、洗い物等の家事は被控訴人がし、料
理は基本的にBがしており、休日には被控訴人もしていたこと、②Bが体調を崩したとき
は、被控訴人がBを病院に連れて行ったり、看病するなどしていたこと、③《日付略》生ま
れで、高齢となったBの日常生活において被控訴人が大きな助けとなっていたこと、④B
は、甲状腺機能亢進症、慢性C型肝炎などの持病があり、投薬等の治療を受けている状態
であるため、今後日常の家事等を一人でしながら、つつがなく生活することはいずれ困難
になることが予想されること、⑤Bは、独身で子供がなく、親族はそれぞれが家族ととも
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に生活しているため将来の日常生活の世話を期待し難い事情にあること等に加え、既に説
示したとおり、経済的にも精神的にも被控訴人への依存を強めていることが認められる。
もっとも、被控訴人による家事援助又は将来の介護は、Bとの親子と同様の信頼関係か
ら当然に要請されることではないうえ(我が国の家庭においても、仕事や生活の必要から
別居を余儀なくされる親子の例や親族家族が老人を身近に介護することができない例は少
なくなく、また、親子関係における情愛は子の婚姻、自立を妨げるものではない。)、また、
被控訴人への経済的依存もBの本意とするところではなく(《証拠略》)、Bの生計の維持の
ために被控訴人の日本への在留を論ずべきものではない。主として家事援助又は将来の介
護若しくは経済的支援の必要から、被控訴人の在留を論ずることは、被控訴人及びBの本
意にも反するものと解され、両名の真意は、むしろ、家事又は経済の面における相互依存、
相互扶助の中で育まれた親子と同様又はそれ以上の精神的な相互依存、相互扶助関係の持
続に核心があり、在留特別許可との関係では、この精神的な相互依存、相互扶助をいかに
考慮するかを検討すべきである(被控訴人の送還後の本国において予測される経済的困難
も、我が子の身の上を案ずるBの立場からより考慮されることになる。)。
これらの観点からすると、被控訴人の身上を案ずるBの心情及びそのようなBに感謝の
念をもって、その心身を案ずる被控訴人の心情は否定できないが、被控訴人への在留特別
許可の障害となる事由は被控訴人自身の違法行為にあり、真摯な親子の情愛をもってして
も前記の違法な行為を優越するまでに日本での在留の理由となるとすることはできない。
被控訴人が中国に強制送還させられた場合、互いに情愛をもって精神的にも深く結ばれた
Bとの平穏で安定した生活関係は、従来のように身近なものではなくなるが、通信手段の
発達した現在、相互の交流が完全に断ち切られるものではない。また、被控訴人において、
新たに親しい友人や配偶者等を中国で得る可能性もあり得るのであるから、被控訴人が自
己の行為の結果として生まれ育った母国である中国に強制送還されることは、Bとの関係
でも、人道に悖るものとは認められない。
オ その他の事情
被控訴人は、家族の結合の法的保護を謳った「市民的及び政治的権利に関する国際規約」
(以下「B規約」という。)17条及び23条1項の趣旨も重視され、配慮されなければならず、本
件においては、Bと被控訴人は、お互いが唯一無二の家族であり、その結合は誰にも破壊し
得ない高度な法的保護に値するところまで強まっている旨主張する。
ところで、国家は、外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく、特別の条
約ないし取決めがない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れ
る場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができるのであり、憲法上も、外国人
は、我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし
引き続き日本に在留することを要求する権利を保障されているものでもない(最高裁昭和32
年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁、最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集
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32巻7号1223頁参照)。そして、B規約13条1項は在留外国人について「法律に基づいて行
われた決定によってのみ当該領域から追放することができる」と規定し、法律に基づいて退
去強制手続をとることを認容しており、B規約は、上記国際慣習法上の原則を当然の前提と
し、その原則を基本的に変更するものとは解されないところ、B規約17条及び23条1項は、
いずれも憲法の諸規定による人権保障を超えるものではないと解され、日本に在留する外国
人については、法に基づく外国人在留制度の枠内でのみ憲法の基本的人権が保障されている
にすぎず、在留の許否を決定する国家の裁量を拘束するまでの保障が与えられていると解す
ることはできない(前記最高裁昭和53年10月4日判決参照)。したがって、B規約17条及び
23条を根拠に、外国人が家族生活を営むために日本に在留する権利が保障され、法律に基づ
く退去強制の手続によっても退去を強制されることがないと解することはできない。
 上記で検討したところによれば、被控訴人は、日本に入国して以降、健全な市民の一人と
して、平穏で安定した生活を送ってきたものであり、将来にわたって、健全な市民として平穏
で安定した生活を送ることができる蓋然性が高いものと認められるが、被控訴人が行った偽装
結婚を手段とする不法入国、不法残留、不法就労及び不法入国幇助は、いずれも被控訴人の意
思に基づく、違法性の強いものであり、Bと養子縁組をし同人との緊密な信頼関係を築いてい
ることも、同居を必然としない身分関係にある者が被控訴人の将来の安否を気遣い、在留を切
望しているものであって、その心情は理解できるが、被控訴人に対する退去強制を妨げ、日本
への在留を必要ならしめるに足るものということはできない。上記事情のうち不法入国幇助あ
るいは被控訴人とBとの親密な信頼関係、相互の相互依存・相互扶助関係については、控訴人
入管局長による在留特別許可を付与しないとの判断後に立証されたものもあるが、平成15年5
月2日にされた特別審理官による口頭審理の手続には、被控訴人の代理人弁護士佐賀悦子及び
Bも立会いのうえで被控訴人からの事情聴取がされ(《証拠略》)、被控訴人とBとの養子縁組の
経緯や両名の親密な信頼関係等、被控訴人が本件訴訟において主張している事情の多くが記載
され在留特別許可の付与を切望する旨の同日付け上申書(《証拠略》)が代理人から提出されて
いる。控訴人入管局長は、判断時までに現れたこれら諸般の事情を考慮したうえで被控訴人に
対し在留特別許可を付与しないとの判断をしたものであり、このような判断に至る経過、判明
していた事実関係等に照らしても、控訴人入管局長がした上記判断が、事実的基礎を欠くもの
であるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとは認められず、控訴人入管局長に委
ねられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとは認められない。
2 争点②(本件裁決に係る調査義務違反ないし適正手続違反の違法の有無)について
被控訴人は、本件裁決は、適正な調査義務を怠ったばかりか、告知及び聴聞の権利を侵害した
ことは明らかであり、憲法31条に定めた適正手続の趣旨に反し、違法無効な処分であると主張す
る。 
ところで、一般に行政手続は、刑事手続とはその性質において差異があり、行政目的に応じて
多種多様な手続があるところ、行政処分の相手方に対して、事前の告知、弁解、防御の機会を与え
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るかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により
達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであり、常に
そのような機会を与えることを必要とするものとはいえない(最高裁平成4年7月1日大法廷判
決・民集46巻5号437頁参照)。
本件においては、原判決認定の事実経過のとおり、被控訴人は、本件裁決を受けるまで、入国警
備官による違反調査、入国審査官による審査及び法24条4号ロに該当する旨の認定、特別審理官
による口頭審理の各手続において、手続の説明を受け、弁解、意見を述べる機会を十分に与えら
れており、調査に応じ十分に自らの主張を尽くしており(上記のとおり、特別審理官による口頭
審理の手続には、被控訴人の代理人弁護士Fも立ち会い、上申書の提出もしていた。)、告知及び
聴聞の権利を侵害されたとは認めることができない。
したがって、控訴人入管局長が在留特別許可に係る判断において適正な調査義務を怠り、ある
いは告知及び聴聞の権利を侵害したものとはいえず、被控訴人の主張は理由がない。
3 被控訴人のその余の主張も、上記認定、判断を左右するものではない。
4 上記説示したところによれば、本件各処分の取消しを求める被控訴人の請求は、控訴人入管局
長が被控訴人に対し在留特別許可を付与しないとの判断が違法であるとの前提を欠くことになる
から、いずれも理由がない。
5 よって、これと異なる原判決を取消し、被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文
のとおり判決する。

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