退去強制令書発付処分等取消、難民認定をしない処分取消請求控訴事件
平成17年(行コ)第276号(原審:東京地方裁判所平成13年(行ウ)第406号〔A事件〕、平成14年(行ウ)第
255号〔B事件〕)
控訴人:A、被控訴人:法務大臣・東京入国管理局主任審査官
東京高等裁判所第15民事部(裁判官:赤塚信雄・佐藤陽一・古久保正人)
平成18年6月12日

判決
主 文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人法務大臣が平成13年11月28日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民認定法
49条1項に基づく控訴人の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
3 被控訴人東京入国管理局主任審査官が同日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を
取り消す。
4 被控訴人法務大臣が同日付けで控訴人に対してした難民の認定をしない旨の処分を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、控訴人が、ア被控訴人法務大臣が控訴人に対して在留特別許可を与えずにした出入
国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出は理由がない旨の裁決について
は、事実の誤認があり、裁量権の濫用ないし逸脱があるから、違法であるとして、上記裁決の取
消しを求め、また、被控訴人東京入国管理局主任審査官が控訴人に対してした退去強制令書発
付処分については、瑕疵ある上記裁決に基づくものであり、かつ、固有の瑕疵があるとして、そ
の取消しを求め(A事件)、イ被控訴人法務大臣が控訴人に対してした難民の認定をしない旨の
処分については、事実誤認、理由附記の不備の違法があるとして、その取消しを求める(B事件)
事案である。
 原審は、ア控訴人は出入国管理及び難民認定法にいう難民には該当しないから、被控訴人法
務大臣がした控訴人の異議の申出は理由がない旨の裁決については、事実誤認、裁量権の濫用、
逸脱はなく、違法ではない、被控訴人東京入国管理局主任審査官が控訴人に対する退去強制令
書発付処分において送還先をアフガニスタンと定めたこと等についても違法はない、また、イ
被控訴人法務大臣がした難民認定をしない旨の処分の通知書に記載された理由に不備があると
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はいえないから違法なところはないとして、控訴人の本件各請求を棄却した。これに対し、控
訴人が、原審の事実認定及び法令の解釈の誤りを主張して、控訴した。
2 前提事実
原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1項(原判決3頁8行目から4頁末行まで)
に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2項(原判決5頁1行目から8行目まで及び
同別紙)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、当審における控訴人の主張及び証拠調べの結果を考慮しても、被控訴人らがした
処分はいずれも違法ではないので、控訴人の本件請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。
その理由は、次に付加するほかは、原判決理由説示(原判決5頁9行目から29頁20行目まで)の
とおりであるから、これを引用する(ただし、原判決12頁24行目から25行目の「平成13年(2001
年)1月付け」を「平成11年(1999年)1月付け」に、13頁4行目の「平成14年(2002年)4月付け」
を「平成13年(2001年)4月付け」に改める。)。
 控訴人は、タリバン政権下において、ハザラ人がタリバンから支配争奪を巡る戦闘時の対立
状況を離れて、「単に」その民族及び宗教を理由に、生命、身体に対して危害を加えられ、迫害
されていたとは認め難いと判断した点(原判決18頁23行目ないし26行目)について、難民条約
1条Aは、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見
を「理由に」迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有することを要件とし
ているのであって、「単に」というような限定はどこにも付されていない旨主張する。
しかしながら、先に引用した原判決認定のとおり、タリバンによる残虐な行為が行われた地
域は戦闘地域に集中しており、また、イスラム統一党(ハザラ人が基盤)の側も一般市民に対し
て残虐な行為をしたと報告されていて、こうした残虐な行為のほとんどは内戦下の対立組織の
支配地域を占領した際に報復の意図で行われていたとみられ、タリバンは、パシュトゥーン人
中心の組織であるとはいえ、ハザラ人も構成員に含んでいるのである。これらの事実関係から
すると、ハザラ人が、タリバンから生命身体に危害を加えられ、迫害を受けた事実があるとは
いえ、それは、上記のような内戦下における対立組織の支配地域が占領された際、その地域に
住む者を対象とする報復行為として行われたものであって、民族的、宗教的な違いから、ハザ
ラ人であることを理由として加えられたものとは認め難い。この趣旨を示すために「単に」と
表現したものであって、何ら難民条約の上記条項に新たな要件を付加するものではない。なお、
控訴人が引用するハザラ人であることを理由とする迫害の存在を指摘する文献(甲202の3、
乙101)の記載は、先に引用した原判決説示の理由から、採用し難い。
 控訴人は、被控訴人法務大臣の本件不認定処分当時、タリバン政権が崩壊していたことのみ
を捉え、迫害のおそれは払拭されたと判断するのは、難民条約の解釈を誤っていると主張する。
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しかしながら、上記のとおり、本件不認定処分当時、ハザラ人がタリバンから迫害を受け
た事実があったと認められるとはいえ、それは、民族的、宗教的な違いからハザラ人であるこ
とを理由として加えられたものとは認め難いのであるから、そもそも難民条約が規定するよう
な迫害のおそれがあったとはいえず、控訴人の上記主張は、前提自体が失当というべきである。
なお、先に引用した原判決認定のとおり、国土の大部分の地域で、当時、タリバンとイスラム統
一党あるいは北部同盟との内戦が既に終息していたから、控訴人の主張するように、そうした
状況の変化がなお本質的変化にまでは至っていないと判断すべきであるにせよ、ハザラ人がそ
れまで戦闘地域において受けたとされる残虐行為の危険性が減少したことも明らかというべき
である。
 控訴人は、控訴人本人ないしその兄の体験がハザラ人に対する宗教及び人種を理由に加えら
れた迫害に当たると主張する。
しかし、それらの体験は、民族及び宗教上の対立と無関係であるとはいえないにせよ、いず
れも戦闘状態を離れて民族及び宗教を理由にする迫害であるとは認め難いことは、先に引用し
た原判決説示のとおりである。
したがって、控訴人の主張は採用できない。
 控訴人は、控訴人に対する在留特別許可をしなかった被控訴人法務大臣の本件裁決には裁量
権の濫用又は逸脱があると主張する。
しかし、控訴人の当審における主張及び証拠調べの結果を参酌しても、本件裁決に裁量権の
濫用又は逸脱があると認めることはできない。
したがって、控訴人の主張は採用できない。
 控訴人は、ハザラ人はその民族や宗教が寄与的要因となって迫害を受けたものであるから、
ハザラ人である控訴人は難民条約上の難民に当たると主張する。
しかし、先に引用した原判決認定のとおり、ハザラ人は、戦闘状態の下で様々な迫害を受け
ることがあったもので、その民族及び宗教が遠因となってそうした迫害を受けたとは認められ
るものの、さらにすすんでそうした点が迫害を受けるについての寄与的要因にまで達していた
と認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって、控訴人の主張は採用できない。
2 以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、
本件控訴はいずれも理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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