難民認定をしない処分取消等請求事件(第1事件)
平成15年(行ウ)第416号
退去強制令書発付処分取消等請求事件(第2事件)
平成16年(行ウ)第289号
原告:A、両事件被告:法務大臣、第2事件被告:東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第3部(裁判官:鶴岡稔彦・古田孝夫・潮海二郎)
平成18年6月13日

判決
主 文
一 被告法務大臣が原告に対し平成一四年五月一三日付け(告知は同年六月七日)でした難民の認
定をしない処分を取り消す。
二 被告法務大臣が原告に対し平成一六年三月一日付け(告知は同年五月七日)でした出入国管理
及び難民認定法四九条一項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
三 被告東京入国管理局主任審査官が原告に対し平成一六年五月七日付けでした退去強制令書発付
処分を取り消す。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用のうち、原告に生じた費用は四分し、その一を原告の負担とし、その二を被告法務大
臣の負担とし、その余を被告東京入国管理局主任審査官の負担とし、被告法務大臣に生じた費用
は三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告法務大臣の負担とし、被告東京入国管理局主
任審査官に生じた費用は被告東京入国管理局主任審査官の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
(第一事件)
一 主文第一項と同旨(以下同項記載の処分を「本件不認定処分」という。)
二 被告法務大臣が原告に対し平成一五年三月二〇日付け(告知は同年四月八日)でした本件不認
定処分に係る原告の異議の申出は理由がない旨の決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。
(第二事件)
一 主文第二項と同旨(以下同項記載の裁決を「本件裁決」という。)
二 主文第三項と同旨(以下同項記載の処分を「本件退令発付処分」といい、被告東京入国管理局主
任審査官を「被告主任審査官」という。)
第二 事案の概要
本件は、アフガニスタン国(以下「アフガニスタン」という。)国籍を有する原告が、出入国管理
及び難民認定法(平成一六年法律第七三号による改正前のもの。以下「法」という。)の規定に基
づいて、被告法務大臣に対し、難民の認定の申請をしたところ、同被告から、難民不該当を理由に
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本件不認定処分を受け、これに対する異議の申出についても理由がない旨の本件決定を受けたこ
と(第一事件)、また、原告に対する退去強制手続において、同被告から、法四九条一項に基づく
異議の申出には理由がない旨の本件裁決を受け、被告主任審査官から、本件退令発付処分を受け
たこと(第二事件)について、本件不認定処分、本件裁決及び本件退令発付処分には原告が難民で
あることを看過した違法があり、本件決定には理由不備の違法があると主張して、これらの各処
分等の取消しを求める事案である。
一 法令等の定め
 難民の意義等
法において、「難民」とは、難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)一条の規定
又は難民の地位に関する議定書(以下「難民議定書」という。)一条の規定により難民条約の適
用を受ける難民をいう(法二条三号の二)。
ア 難民の意義
難民条約一条A及び難民議定書一条二項は、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集
団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由
のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けること
ができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まな
いもの及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国
に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に
帰ることを望まないもの」は難民条約の適用を受ける難民であると定めている。
イ 事由の消滅に基づく終止条項
難民条約一条Cは、「Aの規定に該当する者についてのこの条約の適用は、当該者が次の場
合のいずれかに該当する場合には、終止する。」と定め、「次の場合」として、「 難民であ
ると認められる根拠となった事由が消滅したため、国籍国の保護を受けることを拒むことが
できなくなった場合」及び「 国籍を有していない場合において、難民であると認められ
る根拠となった事由が消滅したため、常居所を有していた国に帰ることができるとき。」を掲
げている。
ウ 追放及び送還の禁止
難民条約三三条一項は、「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍若
しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅
威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。」と定めている。
 難民認定手続
法は、難民認定手続について、次のように定めている。
ア 法務大臣は、本邦にある外国人から申請があったときは、その提出した資料に基づき、そ
の者が難民である旨の認定(以下「難民の認定」という。)を行うことができる(六一条の二
第一項)。
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イ 難民の認定の申請(以下「難民認定申請」という。)は、その者が本邦に上陸した日(本邦に
ある間に難民となる事由が生じた者にあっては、その事実を知った日)から六〇日以内に行
わなければならない(六一条の二第二項本文)。ただし、やむを得ない事情があるときは、こ
の限りでない(同項ただし書)。
ウ 法務大臣は、難民の認定をしたときは、当該外国人に対し、難民認定証明書を交付し、難民
の認定をしないときは、当該外国人に対し、理由を付した書面をもって、その旨を通知する
(六一条の二第三項)。
エ 難民の認定をしない処分(以下「難民不認定処分」という。)に不服がある外国人は、その
通知を受けた日から七日以内に、法務大臣に対し異議を申し出ることができる(行政不服審
査法の規定による不服申立てをすることはできない。六一条の二の四第一号)。
オ 法務大臣は、四九条一項の規定による異議の申出(後記エ)をした者が難民の認定を受
けている者であるときは、五〇条一項に規定する場合(後記カ)のほか、四九条三項の裁決
に当たって、異議の申出が理由がないと認める場合でも、その者の在留を特別に許可するこ
とができる(六一条の二の八)。
 退去強制手続
法は、退去強制手続について、次のように定めている。
ア 在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者(二四条四号
ロ)その他の法に規定する事由に該当する外国人については、法に規定する手続により、本
邦からの退去を強制することができる(同条)。
イ 外国人が前記アの事由(以下「退去強制事由」という。)に該当すると疑うに足りる相当の
理由があるときは、入国警備官は、主任審査官が発付する収容令書により、当該外国人を収
容することができ(三九条)、収容した外国人は入国審査官に引き渡さなければならず(四四
条)、引渡しを受けた入国審査官は、審査の結果、当該外国人が退去強制事由に該当すると
認定したときは、速やかに、主任審査官及び当該外国人にその旨を知らせなければならない
(四七条二項)。
ウ 入国審査官の認定に対し、当該外国人から口頭審理の請求(四八条一項)があったときは、
特別審理官は、口頭審理を行い(同条三項)、その結果、入国審査官の認定が誤りがないと判
定したときは、速やかに、主任審査官及び当該外国人にその旨を知らせなければならない(同
条七項)。
エ 特別審理官の判定に対し、当該外国人から異議の申出(四九条一項)があったときは、法務
大臣は、当該異議の申出が理由があるかどうかを裁決し、その結果を主任審査官に通知しな
ければならない(同条三項)。
オ 主任審査官は、法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたとき
は、速やかに、当該外国人に対し、その旨を知らせるとともに、退去強制令書を発付しなけれ
ばならない(四九条五項)。
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カ 法務大臣は、四九条三項の裁決に当たって、異議の申出が理由がないと認める場合でも、
当該外国人が永住許可を受けているとき(五〇条一項一号)、かつて日本国民として本邦に本
籍を有したことがあるとき(同項二号)、その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があ
ると認めるとき(同項三号)は、当該外国人の在留を特別に許可することができる(同項。以
下この許可を「在留特別許可」という。)。
キ 退去強制を受ける者は、原則として、その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるも
のとするが(五三条一項)、法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を
除き、退去強制を受ける者が送還される国には難民条約三三条一項に規定する領域の属する
国を含まないものとする(五三条三項)。 
二 前提となる事実
 原告の国籍等
原告は、一九七〇(昭和四五)年ころにアフガニスタンで出生したアフガニスタン国籍を有
するタジク人男性である。
 アフガニスタンの歴史的沿革
ア タリバンが台頭する以前の経緯
アフガニスタンは、パシュトゥン人、タジク人、ウズベク人、ハザラ人などの民族が混在す
る多民族国家である。一九一九(大正八)年に王制の下で英国からの独立を達成し、一九七三
(昭和四八)年七月に共和制に移行後、一九七八(昭和五三)年の政変により共産主義の人民
民主党(PDPA)政権が成立した。
一九七九(昭和五四)年一二月のソ連軍侵攻後、ソ連の支援下で共産主義のカルマル政権
が成立したが、イスラム原理主義を中心とするムジャヒディン(「イスラム聖戦士達」の意)
がソ連及び政権に対する抵抗を開始し、アフガニスタン国内は内戦状態となった。
一九八六(昭和六一)年五月にカルマルからナジブラに政権が引き継がれたが、一九八九
(平成元)年二月にソ連軍が撤退すると、一九九二(平成四)年四月にはナジブラ政権は崩壊
し、ムジャヒディン各派による連立政権が成立した。
その後、ムジャヒディン各派同士での主導権争いにより内戦が激化した。
イ タリバンによる国土の掌握
一九九四(平成六)年末ころ、イスラム原理主義の新興勢力であるタリバンが台頭し、急速
に支配地域を拡大して、一九九六(平成八)年九月には首都カブールを占拠した。タリバンは、
ムハマンド・オマル師を最高指導者とする集団であり、パキスタンの「マドラサ」と呼ばれ
る宗教学校の教師や学生を中心として結成されたといわれ、アフガニスタンの最多民族であ
るパシュトゥン人を主体とする。
こうしたタリバンの進攻に対し、ムジャヒディン各派は反タリバン勢力として統一戦線
(北部同盟)を結成し、両者の間での激しい内戦が継続した。後にタリバン崩壊後の暫定行政
機構の中核をなすに至る北部同盟は、タジク人を主体とするラバニ=マスード派、ウズベク
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人を主体とするアフガニスタン・イスラム運動、ハザラ人を主体とするイスラム統一党を中
心とする。
タリバンは、一九九八(平成一〇)年に入り、北部の要衝地であるマザリシャリフなどを支
配下におさめ、二〇〇一(平成一三)年四月初め現在では、国土の九割を掌握していたといわ
れている。
ウ タリバン政権の崩壊とその後の状況
二〇〇一(平成一三)年九月一一日に米国で発生した同時多発テロを契機として、米軍を
中心とする空爆及び北部同盟等による攻撃が行われ、同年一二月、タリバンがアフガニスタ
ンにおいて統治機能を喪失し、同月二二日に暫定行政機構が成立し、その後、ロヤ・ジルガ
(国民大会議)を経てカルザイ大統領を首班とする移行政権が成立した。
 原告の本邦への入国及び在留状況
ア 入国の状況、在留資格及び在留期間
ア 原告は、二〇〇〇(平成一二)年一〇月一九日、イラン・テヘランから、イラン航空
八〇〇便により、北京を経由し、新東京国際空港(以下「成田空港」という。)に到着し、東
京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田空港支局入国審査官から、在留資格「短期滞
在」、在留期間九〇日の上陸許可を受け、本邦に上陸した。
イ 原告は、二〇〇一(平成一三)年一月三一日及び同年五月一七日、在留期間更新許可を受
け、これにより、原告の最終の在留期限は、二〇〇一(平成一三)年七月一六日までとなっ
た。
ウ 原告は、二〇〇〇(平成一二)年一二月一五日及び二〇〇一(平成一三)年一月一七日、
被告法務大臣から、活動の内容を「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」
とする資格外活動許可を受け、許可の最終の期限は、二〇〇一(平成一三)年四月一七日ま
でであった。
イ 外国人登録の状況
ア 原告は、二〇〇〇(平成一二)年一一月一六日、東京都中央区長に対し、同区月島《住所略》
を居住地として外国人登録申請をし、同年一一月二八日、外国人登録証明書の交付を受け
た。
イ 原告は、二〇〇一(平成一三)年二月一日、静岡県沼津市長に対し、同市千本東町《住所略》
を居住地として居住地変更登録を行った。
ウ 原告は、二〇〇一(平成一三)年四月一六日、東京都中央区長に対し、同区月島《住所略》
を居住地として居住地変更登録を行った。
エ 原告は、二〇〇一(平成一三)年七月一六日、静岡県裾野市長に対し、同市富沢《住所略》
を居住地として居住地変更登録を行った。
オ 原告は、二〇〇一(平成一三)年七月二三日、東京都中央区長に対し、同区月島《住所略》
を居住地として居住地変更登録を行った。
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カ 原告は、二〇〇一(平成一三)年一一月三〇日、川崎市川崎区長に対し、同区日進町《住
所略》を居住地として居住地変更登録を行った。
キ 原告は、二〇〇二(平成一四)年六月一一日、東京都あきるの市長に対し、同市野辺《住
所略》を居住地として居住地変更登録を行った。
ク 原告は、二〇〇三(平成一五)年八月一五日、静岡県裾野市長に対し、同市富沢《住所略》
を居住地として居住地変更登録を行った。
 難民認定手続、退去強制手続及び刑事手続の経緯
ア 原告は、二〇〇〇(平成一二)年一二月一一日、被告法務大臣に対し、「人種」、「特定の社会
的集団の構成員であること」及び「政治的意見」を理由とした迫害を受けるおそれがあると
して、難民認定申請(以下「本件認定申請」という。)をした。
イ 東京入管難民調査官は、二〇〇一(平成一三)年七月二三日及び同年八月二一日、本件認定
申請について、原告から事情を聴取した。
ウ 東京入管入国警備官は、二〇〇一(平成一三)年一〇月一二日及び同年一一月一三日、違反
調査のため、原告から事情を聴取した。
エ 東京入管入国警備官は、二〇〇一(平成一三)年一一月二八日、被告主任審査官から、原告
について法二四条四号ロ(不法残留)容疑での収容令書の発付を受け、同年一一月三〇日、同
令書を執行して原告を東京入管収容場に収容し、同日、原告を東京入管入国審査官に引渡し
た。被告主任審査官は、同日、原告の仮放免を許可した。
オ 東京入管入国審査官は、二〇〇一(平成一三)年一一月三〇日及び二〇〇二(平成一四)年
一月二三日、原告について違反審査をし、その結果、同年一月二三日、原告が法二四条四号ロ
(不法残留)に該当する旨の認定をし、原告にこれを通知したところ、原告は、同日、口頭審
理を請求した。
カ 原告は、二〇〇二(平成一四)年四月二八日、法違反(不法残留)の被疑者として、神奈川
県川崎警察署員によって逮捕され、同日、釈放された。
キ 被告法務大臣は、二〇〇二(平成一四)年五月一三日、本件認定申請について、本件不認定
処分をし、同年六月七日、原告に対し、「あなたの『人種』、『特定の社会的集団の構成員であ
ること』及び『政治的意見』を理由とした迫害を受けるおそれがあるという申立ては証明さ
れず、難民の地位に関する条約第一条A及び難民の地位に関する議定書第一条二に規定す
る『人種』、『特定の社会的集団の構成員であること』及び『政治的意見』を理由として迫害を
受けるおそれは認められないので、同条約及び同議定書にいう難民とは認められません。」と
の理由を付して、これを通知した。
ク 原告は、二〇〇二(平成一四)年六月一三日、被告法務大臣に対し、本件不認定処分につい
て異議の申出をした。
ケ 原告は、二〇〇二(平成一四)年九月一二日、前記カの法違反(不法残留)被疑事件について、
起訴猶予処分となった。
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コ 東京入管難民調査官は、二〇〇三(平成一五)年一月二〇日、前記クの異議の申出について、
原告から事情を聴取した。
サ 被告法務大臣は、二〇〇三(平成一五)年三月二〇日、前記クの異議の申出に理由がない旨
の本件決定をし、同年四月八日、原告に対し、「貴殿の難民認定申請につき再検討しても、難
民の認定をしないとした原処分の判断に誤りは認められず、他に、貴殿が難民条約上の難民
に該当することを認定するに足りるいかなる資料も見出し得なかった。」との理由を付して、
これを通知した。
シ 東京入管特別審理官は、二〇〇四(平成一六)年二月一三日、原告について口頭審理をし、
その結果、同日、前記オの認定に誤りがない旨の判定をし、原告にこれを通知したところ、原
告は、同日、被告法務大臣に対し、異議の申出をした。
ス 被告法務大臣は、二〇〇四(平成一六)年三月一日、前記シの異議の申出は理由がない旨の
本件裁決をし、その通知を受けた被告主任審査官は、同年五月七日、原告にこれを通知する
とともに、送還先をアフガニスタンとする本件退令発付処分をした。
セ 東京入管入国警備官は、二〇〇四(平成一六)年五月七日、本件退令発付処分に係る退去強
制令書を執行して原告を東京入管収容場に収容した。
 本件訴訟の提起及び仮放免等
ア 本件訴訟の提起
原告は、二〇〇三(平成一五)年七月七日に第一事件を、二〇〇四(平成一六)年七月二日
に第二事件をそれぞれ提起した。
イ 仮放免等
ア 東京入管入国警備官は、二〇〇四(平成一六)年一一月四日、原告を入国者収容所東日本
入国管理センター(以下「東日本センター」という。)に移収した。
イ 原告は、二〇〇五(平成一七)年五月一〇日、東日本センター所長から、指定住居を「静
岡県裾野市富沢《住所略》」とする仮放免許可を受け、同日、東日本センターから出所した。
三 本件の争点の概要
本件の争点は、本件不認定処分、本件決定、本件裁決及び本件退令発付処分の各取消原因の存
否であり、その前提として、原告の難民該当性(原告が、法二条三号の二に規定する「難民」、すな
わち、難民条約の適用を受ける難民に当たるかどうか。)が争われている。原告の難民該当性に関
する当事者の主張の要旨は、後記四及び五のとおりであり、各処分等の取消原因に関する当事者
の主張は、次のないしのとおりである。
 本件不認定処分の取消原因について(第一事件)
ア 原告の主張
後記四のとおり、原告は難民であるにもかかわらず、この点を看過してなされた本件不認
定処分には、難民条約及び法に違反する違法があり、取消しを免れない。
イ 被告法務大臣の主張
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後記五のとおり、原告は難民であるとは認められないから、本件不認定処分は適法である。
 本件決定の取消原因について(第一事件)
ア 原告の主張
難民不認定処分に係る異議の申出についての決定にも、行政不服審査法四八条において準
用する同法四一条が適用され、理由の付記が要求される。その理由の内容は、いかなる事実
関係に基づいていかなる法規を適用して異議の申出を理由がないと判断したのかを、異議申
出人においてその通知書自体から了知し得る程度のものでなければならず、いかなる事実関
係を認定して異議申出人がこれに該当しないと判断したのかが具体的に記載されなければな
らない。
このような基準に照らすと、本件決定は、適法な理由付記がなされたとはいえないから、
取消しを免れない。
イ 被告法務大臣の主張
本件決定は、処分に対する行政不服審査法上の異議申立てについての決定としての性質を
有するものであり、同法四八条において準用する同法四一条一項が適用され、理由の付記を
要するものと解されるところ、一般的には、異議の申出を棄却する場合は、原処分の付記理
由と相まって原処分を相当として維持する理由が明らかにされれば足りるというべきであ
る。
これを本件についてみると、本件決定には前記のとおりの理由が付されており、本件不認
定処分の付記理由(そもそも難民であることの立証責任は申請者が負うものであり、被告法
務大臣は、証拠関係を総合しても申請者が難民であることを基礎付ける事実の存在が認めら
れないときは、難民と認定することができないのであるから、難民であると認める具体的根
拠がない旨を記載するだけで、法の要求する難民不認定処分の理由付記としても十分であ
る。)をも考慮すれば、それを維持する理由は明らかであるから、本件決定の理由付記は適法
というべきである。
 本件裁決の取消原因について(第二事件)
ア 原告の主張
後記四のとおり、原告は難民に該当する。一般には、在留特別許可を付与するか否かは被
告法務大臣の裁量に属するものではあるが、他方、日本国は、難民条約の締結国としてその
履行義務を負う。したがって、被告法務大臣といえども、難民に対しては、難民条約の趣旨に
従って、在留特別許可を付与すべきか否かを判断しなければならない。
原告は、アフガニスタン以外の第三国への入国の許可を得ておらず、アフガニスタン以外
に原告の送還を受け入れる国はない。とすれば、被告法務大臣が原告に在留特別許可を付与
せずに異議の申出に理由がない旨の裁決を行えば、この裁決を受けて、被告主任審査官が、
原告に対して、送還先をアフガニスタンとして退去強制令書を発付することが予定されてい
る。あるいは、アフガニスタンに原告を送還すれば迫害を受けるおそれがあるものとして、
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被告主任審査官ないし入国警備官が、原告を送還不能と判断するとすれば、結局、退去強制
令書の収容部分の効力による無期限の収容という事態を招来することになる。以上によれ
ば、被告法務大臣は、原告に在留特別許可を付与すべきこととなる。
したがって、本件裁決は、原告の難民該当性の判断を誤り、又は法令の解釈を著しく誤っ
たものであるから、取消しを免れない。
イ 被告法務大臣の主張
在留特別許可に係る被告法務大臣の裁量の範囲は、極めて広範なものであり、その判断が
裁量権の逸脱濫用に当たるとして違法と評価されるのは、法律上当然に退去強制されるべき
外国人について、なお我が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があった
にもかかわらずこれが看過されたなど、在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反
するような極めて特別な事情が認められる場合に限られる。
原告は、法二四条四号ロ所定の退去強制事由に該当し、退去強制されるべき者であり、ま
た、後記五のとおり、原告は難民に該当せず、原告が本国に送還されたとしても迫害を受け
るおそれはなく、本国への送還が難民条約等に違反することもない。したがって、原告に在
留特別許可を認めるべき積極的な理由があるとはいえないから、被告法務大臣が在留特別許
可を付与せずにした本件裁決に、裁量権を逸脱濫用した違法があるということはできない。
 本件退令発付処分の取消原因について(第二事件)
ア 原告の主張
退去強制令書は、法四九条一項の異議の申出に理由がない旨の被告法務大臣の裁決が適正
に行われたことを前提として発付されるものであるところ、本件において前提となる裁決が
取り消されるべきものであることは前記のとおりであって、本件退令発付処分もその根拠
を欠くものであるから、取消しを免れない。
また、後記四のとおり、原告は難民であり、本件退令発付処分は、原告が迫害を受けるおそ
れのあるアフガニスタンに対して原告を送還するものであって、難民条約三三条一項及び法
五三条三項に違反するから、取消しを免れない。
イ 被告主任審査官の主張
主任審査官は、法務大臣から法四九条一項の異議の申出は理由がない旨の裁決をした旨の
通知を受けたときは、同条五項の規定により速やかに退去強制令書を発付しなければなら
ず、裁量の余地はないから、本件裁決が適法である以上、本件退令発付処分も当然に適法で
ある。
なお、容疑者が本邦から退去強制される者に当たるかどうかの判断は、最終的には法四九
条に基づく被告法務大臣の裁決によって確定するのに対し、被退去強制者をどこに送還する
かについては、主任審査官が法五三条に基づいて判断するものであって、両者には相違があ
ることなどにかんがみると、送還先の記載は、退去強制令書の不可欠の一部ではあるが、法
的には他の記載部分とは可分のものと位置付けられるべきものであって、仮に送還先の記載
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に違法があるとしても、その違法は、退去強制令書全体の効力に直ちに影響を及ぼすもので
はないと解すべきであるから、裁判所は、取消訴訟において、送還先の記載に違法が認めら
れると判断した場合においても、可分である送還先の記載部分のみを取り消すことが可能で
あるにとどまり、退去強制令書発付処分自体を取り消すことはできない。もっとも、本件に
おいては、後記五のとおり、そもそも原告は難民に該当せず、原告が本国に送還されたとし
ても迫害を受けるおそれはないから、本国への送還が難民条約三三条に違反することはな
い。
四 難民該当性に関する原告の主張
 アフガニスタンにおける表現の自由
ア タリバン政権下における表現の自由
アフガニスタンにおける表現の自由は、タリバン政権以前の共産主義政権及びムジャヒデ
ィン政権時代にも既に危機に瀕していたが、タリバン政権下ではそれが全く存在しない状態
となった。タリバンは、人物の写真撮影及びテレビ報道を禁止し、アフガニスタンの状況は、
アフガニスタン国外に避難したジャーナリスト又は外国人ジャーナリストによって、わずか
に伝えられるのみであった。そして、アフガニスタンの状況を撮影するジャーナリストたち
には、タリバン政権による迫害が加えられていた。
これらのことは、米国国務省国別人権報告、「国境なき記者団」年次報告、国連人権委員会
特別報告者報告などによって明らかである。
イ タリバン政権崩壊後の表現の自由
本件不認定処分、本件裁決及び本件退令発付処分がされた当時のアフガニスタンにおいて
は、表現の自由を巡る状況はある程度改善したものの、未だ多くの制限が存在していた。
ヒューマンライツウォッチの記事によれば、アフガニスタンにおいて、治安部隊がジャー
ナリストを脅迫及び逮捕するなど報道に対する攻撃が急増し、ジャーナリストたちが公に指
導者を批判する記事を発表することを躊躇するような恐怖の雰囲気を作り出しているという
ことである。また、同記事は、カブールの外にいる軍事司令官も、ジャーナリストを脅迫して
いる事実を指摘している。
米国国務省国別人権報告によれば、移行政権の下で制定された新憲法が言論及び報道の自
由を定めているにもかかわらず、高官の一部は、特に地方レベルでは、ジャーナリストを脅
迫し、その報道に影響を与えようとしている。外国メディアも、イスラム教について否定的
なコメントをすること及び大統領に対する脅迫とみなされる題材を出版することを禁止され
ている。政府機関の一部がジャーナリストを厳しく取り締まっており、情報局のメンバーに
よるジャーナリストの脅迫も起きている。
デンマーク移民局事実調査団報告の中で紹介されている、EU特別代表、国際危機グループ
(ICG)、ノルウェー代理大使、アフガニスタン独立人権委員会(AIHRC)、アフガニスタン弁
護士組合、ジャーナリスト中央協会、アフガニスタン協力センター(CCA)などの多数の情
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報源は、政権、軍閥、イスラム教を批判した者に対して脅迫、虐待の危険があることを示して
いる。
 原告の難民該当性
ア 原告のジャーナリストとしての活動
ア 原告は、一九九三(平成五)年ころ、アフガニスタン・ジャーナリスト協会の一員となっ
た。同協会の中心メンバーの中には、B氏、C博士などがいた。
イ C博士は、カブール大学の医学部の元教授で、多数政党制を前提とした穏健で民主主義
的な政治思想を持っており、タリバンなどが過去の文化を清算的に見て、破壊するような
考え方に対して反対もしていた。原告は、一九九四(平成六)年ころから、C博士らが中心
となって発刊した雑誌「D」に記事を書くようになり、その中で、北部同盟の人権侵害など
を批判した。しかし、この雑誌は、当時のムジャヒディン政権から発行を禁止され、雑誌の
中心メンバーの一人であったE氏は殺された。チーフ・エディターであったC博士は、タ
ジキスタンに避難して、「D」誌の発行を続け、さらに、タジキスタンで新しく「F」という
雑誌を発行するようになった。

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