退去強制令書発付処分等取消請求事件
平成17年(行ウ)第24号
原告:A、被告:名古屋入国管理局長・名古屋入国管理局主任審査官
名古屋地方裁判所民事第9部(裁判官:中村直文・前田郁勝・片山博仁)
平成18年6月29日

判決
主 文
1 名古屋入国管理局長が、原告に対し、平成17年3月22日付けでした出入国管理及び難民認定法
49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。
2 名古屋入国管理局主任審査官が、原告に対し、平成17年3月22日付けでした退去強制令書発付
処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要等
本件は、出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの。以下、「法」又
は「入管法」という。)24条4号ロ所定の退去強制事由に該当するとの認定及び判定を受けた外国
人である原告が、法49条1項に基づいて法務大臣に対し異議を申し出たところ、法務大臣から権
限の委任を受けた名古屋入国管理局長(名古屋入管局長)によって上記申出は理由がない旨の裁
決(本件裁決)を受け、次いで、名古屋入国管理局主任審査官(名古屋入管主任審査官)によって
退去強制令書の発付処分(本件発付処分、本件裁決と併せて「本件各処分」という。)を受けたため、
本件裁決には裁量権の範囲を逸脱又は濫用して在留特別許可を付与しなかった違法があり、本件
裁決を前提とする本件発付処分も違法であると主張して、本件各処分の取消しを求めた抗告訴訟
である。
1 前提事実(証拠を摘示した部分の他は、当事者間に争いがない。)
 当事者等
ア 原告は、昭和47年(1972年)8月4日生まれのパキスタン・イスラム共和国(以下「パキ
スタン」という。)国籍を有する外国人である。
イ 被告は、名古屋入管局長及び名古屋入管主任審査官が所属する行政主体である。
ウ 名古屋入管局長は、法69条の2及び出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「規則」と
いう。)61条の2第10号に基づいて、法務大臣から法49条3項に基づく裁決を行う権限の委
任を受けた行政機関である。
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また、名古屋入管主任審査官は、法49条5項に基づく退去強制令書の発付権限を有する行
政機関である。
 本件各処分に至る経緯
ア 本邦への入国と不法残留
原告は、平成13年5月19日、在留資格を「短期滞在」、在留期間を「90日」とする上陸許可
を得て本邦に上陸したが、上記許可期限である同年8月17日を超えて本邦に不法に残留した
(乙1号証)。
イ 原告の出頭と違反調査の実施
原告は、平成16年1月21日、愛知県春日井市役所に、Bとの婚姻届をし、同年2月23日、
名古屋入管に出頭して、入管法違反の事実があることを申告した。なお、原告はこの時点で
はパキスタンに妻子がおり、Bとの婚姻は重婚であった(乙1号証、9号証)。
名古屋入管入国警備官は、同日、原告について法24条4号ロ違反(不法残留)の容疑で調
査を実施した。
ウ 本件各処分
名古屋入管入国審査官は、平成16年11月8日、原告に対する違反審査を実施し、原告が法
24条4号ロに該当すると認定した。これに対し、原告は、同日、名古屋入管特別審理官に対
し、口頭審理の請求をした(乙6号証、12号証)。
名古屋入管特別審理官は、平成17年2月14日、原告に対する口頭審理を実施し、同日、原
告が法24条4号ロに該当すると判定した。これに対し、原告は、同日、法務大臣に対し、異議
を申し出た(甲4号証、乙13号証)。 
法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入管局長は、同年3月22日付けで、原告の異議の
申出には理由がない旨の本件裁決をした(甲5号証、乙14号証)。
本件裁決があった旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官は、同日、本件発付処分をした
(乙15号証)。
エ 本訴提起
原告は、平成17年5月31日、本件各処分の取消しを求める本訴を提起した。
2 本件の争点
本件裁決が違法か否か(争点、日本人であるBと婚姻した原告に対して在留特別許可を付与
せず、異議の申出は理由がないとした本件裁決は、裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものである
か。)、及びこれを前提とする本件発付処分は違法か否か(争点)
3 争点に関する当事者の主張
 原告の主張
ア 異議を棄却する旨の裁決の仕組みと違法性について
ア 裁決の仕組み
法49条3項に基づき異議を棄却する旨の裁決については、①異議の申出に理由があるか
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どうかの内部的な判断と、②理由がないと認められた場合であっても法50条1項各号の在
留特別許可をすべきか否かという判断が含まれ、これらのいずれもが認められない場合に
「異議の申出には理由がない」旨の裁決がされる仕組みになっている。
イ 異議の申出に理由がない旨の判断をしたことの違法性について
入管法上、法49条1項の異議理由は定められていないが、この点に関する規則42条は、
「法第49条第1項の規定による異議の申出は、別記第60号様式による異議申出書1通及び
次の各号の1に該当する不服の理由を示す資料各1通を提出して行わなければならない。」
と規定し、1号から4号までの異議理由を定めているところ、同4号は「退去強制が著し
く不当であることを理由として申し出るときは、審査、口頭審理及び証拠に現われている
事実で退去強制が著しく不当であることを信ずるに足りるもの」としていることから、「退
去強制が著しく不当であること」が異議理由になると考えられる。
そして、ここにいう「著しく不当」か否かの判断は事実認定作業であるから、そこに裁量
判断の働く余地はない。
したがって、退去強制が著しく不当であれば、当該裁決は端的に取り消されることにな
る。
ウ 在留特別許可をしないという判断の違法性について
a 仮に退去強制が著しく不当であるとはいえなくとも、第2段階の判断としての在留特
別許可を付与しなかったことの適法性が検討されなければならないが、この点に一定の
裁量判断が認められることはやむを得ない。
しかし、本件においては、在留特別許可を付与しないとの判断をしたのは、法務大臣
から権限を委任された名古屋入管局長であり、その裁量判断には自ずから限界があると
いわざるを得ない。
b 法務大臣の裁量権
法務大臣は、在留特別許可の判断をするについて、広範な裁量権を有するとされてい
るが、その理由は、在留特別許可の許否を的確に判断するに当たっては、当該外国人の
個人的事情のみならず、その時々の国内の政治・経済・社会の諸事情、外交政策、当該
外国人の本国との外交関係等の諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、多面的専門的
知識を要し、かつ政治的配慮をしなければならないため、国内及び国外の情勢について
通暁し、常に出入国管理の衝に当たる法務大臣の裁量に委ねるのでなければ、到底適切
な結果を期待することはできないことにあるとされている。
c 入国管理局長の地位
しかしながら、法務大臣から権限を委任された入国管理局長は、法務省の局の1つで
ある入国管理局の下に8つある地方入国管理局のうちの1つの長にすぎず、地方部門の
統括役であって、当該管轄地域における外国人の在留状況や、過去の在留特別許可に関
する取扱いについては通暁していても、日本全国にわたる入管実務を統括し、内閣の一
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員として国会に対し責任を負う法務大臣とは異なり、上記事由を総合的に考慮する特別
な能力もなければ、政治的配慮をする資格もない。
d 小括(入国管理局長の裁量権)
以上に加え、これまでの入管実務において、在留特別許可の付与について、おおむね
画一的な判断がされてきたことをも考慮すれば、在留特別許可に関する入国管理局長の
判断は、法50条1項の文言からある程度の裁量が予定されていると解釈せざるを得ない
としても、法務大臣に関し議論されるような広範なものではあり得ない。したがって、
処分の前提となる重要な事実関係に誤認があり、処分自体の基礎が失われると評価でき
る場合は、裁量の広狭にかかわらず当該処分は違法であるというべきであるし、事実を
正確に把握した上で各種通達、先例、出入国管理基本計画、国際的な準則等の示すとこ
ろに従い、退去強制が著しく不当であるか否かを慎重に判断すべきであり、考慮すべき
事項を考慮せず(不当評価)、考慮すべきでない事実を考慮して(他事考慮)判断された
場合や、その判断が合理性を欠くものとして許容されない場合には、在留特別許可を付
与しないとの判断は裁量権の範囲を超え又はその濫用があるとして違法というべきであ
る。
イ 異議の申出に理由がない旨の判断をしたことの違法性について(退去強制が著しく不当で
あることについて)
ア 原告とBとの婚姻が真正なものであることについて
a 入籍に至るまでの経緯
原告とBは、原告が入国して数か月も経たない平成13年末ころに出会い、その後主と
して原告から連絡して時々会うようになり、原告から不法残留を打ち明けるなど親密な
関係となって、徐々に結婚の話も出るようになっていった。しかし、Bは、平成11年3
月24日に前夫と死別しており、その間に子供も二人いたため、結婚をちゅうちょしてい
たものの、原告に会うたびに結婚を希望されるうち、Bも徐々に原告に惹かれるように
なって、平成15年11月ころ、両者は婚約した。
Bの親族のうち、子供二人は原告との婚姻に賛成しており、原告と長男との折り合い
もよい。また、アメリカに居住している次男との関係も良好である。Bの両親は、原告と
の婚姻に不安を示していたが、原告とBの新居となる賃貸住宅の連帯保証人をBの父親
が引き受けるなどしており、原告との婚姻を了解している。
このように、原告とBとの婚姻は、在留資格のための便宜的なものではなく、慎重に
話し合われ、時間をかけてはぐくまれた愛情に基づき真摯に合意されたものである上、
Bの親族の同意ないし了解もあり、実体を伴う真正なものである。
b 入籍とBの改宗
原告は、Bとの入籍に当たり知り合いの外国人に諸手続を尋ねたところ、同人が手続
に必要な書類をパキスタンから取り寄せてくれた。
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取り寄せられた書類には、原告の父母が原告の独身を証明する内容の独身証明書等が
含まれており、原告はこれを不審に思ったが、不法残留のままではBに不安定な生活を
強いることになるという思いから焦りが生じたことや、パキスタンでは内容に誤りのあ
る書類を公的機関に提出することも横行していたという背景もあって、平成16年1月の
婚姻届の際、これらの書類を提出した。
また、原告とBは、平成16年2月22日、名古屋モスクにも婚姻届をし、その際、Bは
イスラム教に改宗した。
そして、原告は、Bとともに名古屋入管に自主出頭し、日本人配偶者であることを理
由として在留特別許可を求めたため、名古屋入管入国警備官による調査が開始された。
c 婚姻の実体
原告とBは、入籍以前から愛知県春日井市《住所略》所在のコーポC号室(以下「本件
居室」ともいう。)に同居している。
Bは、平日には、午前5時半過ぎに起きて、午前7時過ぎに出勤する原告のために朝
食と弁当を作り、原告の出勤後、午前8時ころから、元々居住していた名古屋市D区《住
所略》所在の居宅(原告の肩書地。以下「D区の居宅」という。)で子供の世話をし、午前
8時30分過ぎに出社するという生活を送っていた。また、退勤時間は原告の方がやや早
いため、原告が夕食の準備をすることも多かった。
休日には、一緒に出かけて食事をすることなどもあれば、一日中家でゆっくりするこ
ともあった。
Bは、平成16年7月1日に原告が椎間板ヘルニアで入院したときには、原告の身の回
りの世話をしている。
このように、原告とBとは、食事を共にし、肉体関係を持つなど通常の夫婦としての
生活を送っていた。
d 重婚の解消
 原告は、平成4年ころ、パキスタンにおいて、Eと婚姻し、その後、半ば別居状態で
婚姻生活を継続し、その間に4人の子供をもうけた。原告の第4子が生まれたのは、
原告がサウジアラビアに滞在していた平成12年末ころであるが、原告はパキスタン
に帰国することなく、平成13年5月19日に本邦に入国し、その後は本邦で生活してい
る。
 原告は、平成16年5月5日、Eと離婚する旨の通知をパキスタンの所定の役所に送
付し、同年8月4日、4人の子供の養育費を負担することなどを条件に同人と正式に
離婚した。
 Bは、平成16年11月8日、原告がパキスタンにおいて婚姻していたことを知り、い
ったんは、原告との婚姻を考え直そうと思ったものの、原告が重婚解消のために努力
していたこと、原告とEとの婚姻は、原告の家庭の事情によるものであり、原告自身
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が希望したものではなく、親からの押しつけであったこと、B自身が原告を必要と感
じたことなどから、原告との婚姻を維持することを決意した。
イ 真正な日本人配偶者に対する在留特別許可が認められるべきことについて
そもそも「日本人配偶者等」という在留資格が認められた趣旨は、我が国においても国
際社会においても、家族という結合が社会生活上の最小の単位として機能しており、それ
自体、法的保護に値すること、そして、そのような結合に可能な限りの法的保護を与えな
い場合、男女間の愛情やその間にもうけられる子供の養育を著しく損ない、個人の尊厳を
害し、あるいは人道上到底容認できない事態を招きかねないことを重く見たものと解され
る。
事実、憲法24条2項、世界人権宣言16条1項、3項及び経済的・社会的及び文化的権利
に関する国際規約10条1において、家族結合の保護がうたわれている。
このような「日本人の配偶者」の保護にかんがみれば、婚姻実体を伴う法律婚が成立し
ている場合、当該法律婚の配偶者には、原則として在留資格が認められるべきであり、現
に、入管実務においても、そのような運用がなされている。
ウ 平穏な在留状況
原告は、本邦入国後、愛知県小牧市所在の株式会社F工業所に勤務し、日中は勤務に励
み、それ以外の時間帯も特段の非違行為を犯すことなく平穏に生活してきた。Bと知り合
い、交際を始めた後もこれは変わらず、日本人のBには奇異に映るくらい宗教心に篤く、
勤務先においても質素勤勉であると評価されていた。また、無免許運転を指摘されるやこ
れを中止するなど、日本の法規を遵守する規範意識を有していた。
このように、原告の在留状況は極めて平穏であり、このことは在留特別許可の判断に当
たって当該外国人に有利に斟酌されるべきである。
エ 良好な就労状況
原告は、上記のとおり、溶接を業とするF工業所に勤務し、就労してきたが、そこでの
評価は極めて高く、原告のまじめさや飲み込みの良さを見込んだ同社代表者のGは、原告
を後継者候補と目し、最新の機械の使用方法を真っ先に覚えさせるなどして目をかけてき
た。また、原告の人柄や日本語の習得状況から、他の外国人労働者の統率役としての期待
もかけてきた。このような期待の大きさは、平成17年になって原告の月給を15万円から25
万円に値上げしたことに現れている。
以上のように、原告の就労状況は良好であり、それ故、Gは、原告が不法残留になったこ
とを黙っていたことや入管への収容を秘匿していたことを承知した上で原告の滞在と職場
復帰を切望している。
平穏な在留それ自体が法的保護に値する以上、いわゆる不法就労といえども良好な就労
状況である限り、法的保護に値するというべきである。
オ 日本文化への理解
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原告は、Gの評価によると、極めて礼儀正しく、顧客対応もそつなくこなしており、日本
文化になじんでいた。
原告はイスラム教徒であり、日本文化と折り合える点、折り合えない点は様々に存在す
るが、少なくとも原告が、日本において文化的に共生することが可能であることは明らか
である。
カ 被告の主張に対する反論
a 被告は、原告が、本国の妻子の存在をBに隠して婚姻したことを背信行為であると非
難する。
しかし、Bは、その事実を知った当初は動揺したものの、本件各処分時においては、原
告と離婚することもなく、むしろ収容されていた原告に頻繁に面会に行き、訴訟の準備
に協力して費用等を捻出するなど、原告との婚姻を継続する途を選択していた。
したがって、上記のようなBの決断にもかかわらず、被告が、Bの意思に反してまで、
原告の背信行為を論難し不利益に評価することは許されない。
b また、被告は、①Bがパキスタンで原告と生活することが可能であること、②外国人
の退去強制は国際慣習法上国家の自由裁量に属する問題であり、条約や憲法上の外国人
の権利保障もその枠内で与えられているにすぎないことなどと主張する。
しかし、①については、Bは、現在、成人したとはいえ若年の子供2人をもち、福祉関
係の職業に就いているため、短期に生活を一変させ、言語の通じず、文化習俗も異なる
パキスタンに行くことは、心情的にも、物理的にも不可能である。
また、②については、そもそも明文の条約や憲法が、単なる慣習法に劣後するとは到
底考えられないし、外国人の退去に関する国家の諸施策は、世界人権宣言や国際人権規
約の枠内で考えられるべきである。
c さらに、被告は、原告の在留状況を非難するが、原告は少なくともその生活する地域
社会、ことに就労先では高い評価を受けており、関係者からその在留を積極的に支持す
る声が上がっているのであって、このことは、原告が収容中にGから受け取った手紙や
同僚から寄せられた嘆願書からも明らかである。
キ 小括
以上のとおり、原告は、本件裁決当時において、法的にも実体的にも日本人の配偶者で
あり、入国後3年半以上にわたって平穏かつ勤勉な生活を送ってきたものである。
他方、原告の非違行為としては、偽造された独身証明書等を入手して春日井市役所に提
出したことであるが、これ自体何ら犯罪ではなく、文化的な背景の相違からしても酌量に
値する。
重婚自体は犯罪であるが処罰例もほとんどなく、民法上は有効であることとの整合性を
考慮すると、これらの事情を根拠として、原告を本邦から追放することは著しく不当であ
る。
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本件裁決は、真正な日本人配偶者である原告の退去を認めるものであり、憲法13条、24
条、世界人権宣言、国際人権規約に反し、著しく不当である。
ウ 在留特別許可をしないという判断の違法性について(名古屋入管局長に裁量権の逸脱・濫
用があることについて)
ア 原告の婚姻に関する事実誤認
a 憲法24条、国際人権規約及び日本人配偶者等の在留資格を規定した入管法の趣旨に従
い、日本人配偶者としての実体がある不法残留外国人には、特に在留を不相当とする事
情がない限りは、在留特別許可を付与すべきである。
そして、原告には、上記イのとおり、日本人の配偶者としての実体があるから、名古屋
入管局長が、原告の「日本人の配偶者」性を否定したのであれば、それは明白な不当評価
(事実誤認)である。また、「日本人の配偶者」であることを認めつつ、なお本件裁決をし
たのであれば、それは、原告の在留状況等について、一方的な不当評価、他事考慮をした
ものであり、裁量権を逸脱、濫用したものである。
b ところで、名古屋入管局長は、本件裁決に当たり、原告の重婚未解消の事実を特に重
視しており、これが本件裁決の前提をなす重要な事実関係であったことは明らかであ
る。
しかし、重婚における後婚として始まった原告とBとの法律婚は、その当時は取消し
得るものであったものの、原告とEとの間で平成16年8月4日に離婚が成立したことに
より、平成17年3月22日付けでされた本件裁決当時においては、既に瑕疵が解消され、
完全に有効なものとなっていた。
被告もパキスタン領事館からの回答を受けて、原告とEが平成16年8月4日に離婚し
たことを前提に、それまでの重婚が未解消であるとの主張を撤回している。
以上によれば、本件裁決は、重婚が未解消であることにつき、明白な事実誤認に基づ
きなされたものであって、基礎を欠くことが明らかであるから違法というほかない。
これに対し、被告は、原告とEとの間の婚姻が未解消であるとの従来の主張を撤回し
たものの、なお、その離婚は形式にすぎないなどと主張するが、いずれも原告の不当性
を印象づける「可能性論」にとどまり、何らかの事実認定を可能とするような具体性を
もった主張ではない。
c また、原告とBとは、婚姻の若干前から同居を開始し、原告が収容された一時期を除
き、その後は終始同居を継続しているし、夫婦として協力して日常生活を営み、原告も
家事の一部を手伝うなどしている。
また、時には一緒に外出し、肉体関係もあり、Bの連れ子との交流状況も極めて良好
である。
したがって、原告とBとの婚姻は実体を伴ったものである。
これに対し、被告は、原告とBとが同居していない旨主張するがこのような主張は、
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処分理由を追加するものであり許されないだけでなく、時機に後れた攻撃防御方法の提
出でもあり、民訴法157条1項により許されない。
そもそも、上記主張は虚偽であることが判明している。すなわち、Bが、本件居室のあ
るコーポCとD区の居宅を往復しながら、子供の世話をしつつ、原告との夫婦生活を両
立させていたことが、Bの知人によって明らかにされているのである。原告の仮放免後
は、原告が就労できなくなったことから、コーポCの本件居室を引き払い、B自身の都
合に合わせてD区の居宅で同居するようになった。しかし、近所には両人の結婚に強く
反対しているBの母親が居住するなどの事情があるため、できるだけ婚姻の事実を知ら
れないよう生活していたことに加え、Bが初婚でもなく、原告に不法滞在外国人という
弱みもあったことから、ことさら結婚の事実を吹聴していないだけである。
イ 他事考慮及び不当評価
在留特別許可をするか否かは、婚姻の相手方であるBの福祉に重点を置き、原告及びB
の婚姻実体を中心に検討すべきである。
すなわち、日本との関わりが薄く、当初不法就労目的で来日した外国人が日本人との間
に法的保護に値する婚姻関係を始めとする人間関係を形成した場合に、主として日本人の
福祉の観点から、そのような人間関係の擁護のために認められるのが日本人配偶者の在留
資格であり、考慮すべきは婚姻実体でなければならないのである。
それにもかかわらず、在留特別許可の判断において、原告と日本との関わりの薄さや不
法就労実体を取り上げることは他事考慮として許されない。
ウ 小括
原告は、就労目的で来日して不法就労した上、Bとの婚姻を焦る余り、虚偽の独身証明
書をそれと知りながら利用する行動に出て、日本政府及びBをだますとともに、瑕疵ある
重婚状態を作出した。
これらの事情はそれ自体極めて遺憾であるが、あくまで婚姻実体ある日本人配偶者を保
護するための制度目的に照らして、不当に不利な評価をすべきではない。
当初の就労目的や不法就労自体は制度に織り込まれていることや、独身証明書等を偽造
したのは原告自身ではなく、これを利用したにとどまること、瑕疵ある重婚状態も処分当
時には解消されていたこと、被害者的地位にあったBもこれを宥恕していること等を総合
的に考慮すれば、日本人女性であるBと原告との真摯な婚姻生活を破壊しなければならな
い事情があるとは到底考えられない。
したがって、両者によって形成された婚姻実体の保護を優先すべきであるにもかかわら
ず、これについての判断を誤り、法的保護に値する婚姻実体の破壊を容認した本件裁決に
は裁量逸脱の違法がある。
エ 本件処分理由と被告主張の変遷について
ア 被告は、在留特別許可を発するか否かの判断は名古屋入管局長の広範な裁量権に委ねら
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れていることを根拠に、司法審査のあり方も、基本的には判断代置主義ではなく、事後的
に行政判断の適法性を審査することになると主張する。
しかし、そうすると、処分当時に行政庁が判断根拠としていなかった事情を、訴訟にな
ってるる主張し、判断の適法性を補強することは、結局、判断代置主義を採用したに等し
く許されないことになるはずである。
イ しかし、被告は、以下のとおり、処分理由を追加主張した。
すなわち、被告は、平成17年8月5日付け被告第1準備書面において、本件裁決の理由
として、おおむね、①原告に日本人配偶者としての在留活動が認められるとしても直ちに
本件裁決が違法になるものではないこと、②原告の重婚が解消されていないこと、③原告
がその弟の不法就労を助けていたこと等を主張していた。
ところが、平成18年3月22日付け被告最終準備書面において、処分理由を追加し、ア処
分当時の同居実体の不存在、イ仮放免後の同居実体の不存在、ウEとの離婚が形式にすぎ
ないこと、エBも「H」なる外国人への貸付の回収の便宜のため、原告と結婚したこと、こ
れらを処分理由として付加する一方、原告とEが離婚し、本件各処分時において原告が重
婚状態にないことは争わないとするに至った。
ウ しかし、原告とBとの同居の実体は、婚姻実体の間接事実であるから、本件裁決時にお
いて当然調査されていたはずであり、これを追加主張した経緯によれば、かかる事情を本
件裁決の適法性を論ずる上での資料とすることは信義則上許されない。
また、本件裁決時において、原告とBとの婚姻実体を否定する根拠ともなっていた重婚
未解消の主張が撤回され、代わりにこれと矛盾する重婚解消が形式にすぎないとの主張が
追加されており、これを本件裁決の適法性を論ずる上で資料とすることは許されない。
さらに、Bの交際相手として「H」なる外国人を登場させ、「新たなストーリー」を強調し、
Bの婚姻の動機を追加主張しているが、これは従前主張されてきた本件裁決の処分理由と
は異質であるから、これを本件裁決の適法性を論ずる上で資料とすることは許されない。
なお、Bは、原告と入籍したことによって、二月に1度18万円以上支給されてきた前夫
の遺族年金受給資格を喪失していることに加え、原告の入院の際にその費用を支払ってき
ていることからも、Bの婚姻動機が貸金回収の便宜にあるとの被告の主張は荒唐無稽であ
る。
オ 本件発付処分の違法性
本件発付処分は、上記のとおり、違法な本件裁決を前提としてされたものであり、当然に
違法である。
カ 結論
以上のとおり、本件各処分はいずれも違法であるから取り消されるべきである。

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