退去強制令書発付処分取消等請求事件
平成16年(行ウ)第64号
原告:A・B、被告:国・東京入国管理局長・東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第2部(裁判官:大門匡・吉田徹・小島清二)
平成18年6月30日
判決
主 文
1 原告Aの訴えに基づき、被告東京入国管理局長が平成15年11月5日付けで同原告に対してし
た出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく同原告の異議の申出は理由がない旨の裁決並び
に被告東京入国管理局主任審査官が同月19日付けで同原告に対してした退去強制令書発付処分
をいずれも取り消す。
2 原告Bの訴えのうち、被告東京入国管理局長が平成15年11月5日付けで原告Aに対してした
出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく同原告の異議の申出は理由がない旨の裁決並びに
被告東京入国管理局主任審査官が同月19日付けで同原告に対してした退去強制令書発付処分の
各取消しを求める部分をいずれも却下する。
3 原告Bのその余の訴えに係る請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告Aに生じた費用と被告東京入国管理局長に生じた費用の2分の1を同被告の
負担とし、原告Aと被告東京入国管理局主任審査官に生じた費用の2分の1を同被告の負担と
し、原告Bに生じた費用と被告東京入国管理局長及び被告東京入国管理局主任審査官に生じた費
用の各2分の1並びに被告国に生じた費用を原告Bの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 (原告らの請求)
 被告東京入国管理局長が平成15年11月5日付けで原告Aに対してした出入国管理及び難民
認定法49条1項に基づく同原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
 被告東京入国管理局主任審査官が平成15年11月19日付けで原告Aに対してした退去強制令
書発付処分を取り消す。
2 (原告Bの請求)
被告国は、原告Bに対し、20万円を支払え。
第2 事案の概要
本件は、被告東京入国管理局長が、平成15年11月5日付けで、出入国管理及び難民認定法(昭
和26年政令第319号。以下「入管法」という。ただし、条文を伴う場合は、特記しない限り、平成
16年法律第73号による改正前のものをいう。)49条1項に基づく原告Aの異議の申出は理由がな
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い旨の裁決を行い、続いて、被告東京入国管理局主任審査官が、同裁決に基づいて同原告に対し、
平成15年11月19日付けで退去強制令書の発付処分を行ったところ、原告A及びその妻である原
告Bが、原告Aに在留特別許可を与えないでした上記裁決には裁量の逸脱があり、上記裁決及び
これに基づく上記退去強制令書の発付処分は違法であるとして、上記各処分の取消しを求めると
ともに、原告Bにおいては、上記各処分には事実を誤認してされた違法があり、憲法上保障され
た婚姻の自由及び婚姻関係が憲法並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」
という。)17条の家族の保護の利益を侵害されたものであって、その精神的損害を金銭に換算す
ると20万円を下ることはないとして、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償も求
めている事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら
れる事実)
 原告らの身上及び原告Aの在留状況等
ア 原告Aは、1966年(昭和41年)《日付略》、パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」
という。)において出生したパキスタン国籍を有する外国人であり、原告B(旧姓・B’)は、
昭和42年《日付略》生まれの日本人である。
イ 原告Aは、昭和63年3月11日、タイ王国のバンコクから新東京国際空港(以下「成田空港」
という。)に到着し、東京入国管理局成田支局入国審査官から、入管法(ただし、平成元年法
律第79号による改正前のもの。)4条1項4号(現在の在留資格「短期滞在」)、在留期間90日
とする許可を受けて本邦に上陸した(乙1)。
ウア 原告Aは、昭和63年3月29日、埼玉県《地名略》市長に対し、《住所略》を居住地とする
外国人登録法3条1項に基づく新規登録をし、外国人登録証明書の交付を受けた(乙1、
4)。
イ 原告Aは、昭和63年6月7日、東京入国管理局《地名略》出張所において、法務大臣に対
し、在留期間更新許可申請をし、同日、在留期間30日の更新許可を受けた(乙1)。
ウ 原告Aは、昭和63年7月12日、東京入国管理局《地名略》出張所において、法務大臣に
対し、在留期間更新許可申請をし、同日、在留期間30日の更新許可を受けた(乙1)。
エ 原告Aは、平成7年1月13日、東京都《地名略》市長に対し、外国人登録法8条1項に基
づく変更登録(以下、単に「変更登録」という。)として、居住地を《住所略》とした(乙1、4)。
エア 原告Aは、平成7年2月13日、埼玉県《地名略》市長に対し、原告Bとの婚姻の届出をし、
同日、居住地を《住所略》とする変更登録をした。(乙1、4)
イ 原告Aは、平成7年6月28日、埼玉県《地名略》市長に対し、居住地を《住所略》、世帯主
をB、続柄を夫とする変更登録をした(乙1、4)。
ウ 原告Aは、平成8年4月8日、東京入国管理局に出頭し、原告Bとの婚姻を理由に本邦
への在留を希望し、上記ウウの在留期限を超えて不法残留している事実を申告した(乙5
の1)。
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エ 原告Aは、平成11年8月17日、埼玉県《地名略》市長に対し、居住地を《住所略》とする
変更登録をした(乙1、4)。
オ 原告Aは、平成12年9月1日、埼玉県《地名略》市長に対し、居住地を《住所略》とする
変更登録をした(乙1)。
カ 原告Aは、平成15年10月21日、《地名略》市長に対し、居住地を《住所略》とする変更登
録をした(乙1)。
 本件各処分に至る経緯について
アア 東京入国管理局入国警備官は、平成11年10月15日及び同月21日、原告Aに係る入管法
24条4号ロ該当容疑事件につき、違反調査をし、同月20日、原告Aの上記容疑に係る原告
Bの事情聴取をした(乙6から9まで)。
イ 東京入国管理局入国警備官は、平成11年10月27日、原告Aが入管法24条4号ロ(不法残
留)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして、東京入国管理局主任審査官から
収容令書の発付を受けた(乙10)。
ウ 東京入国管理局入国警備官は、平成11年10月29日、上記イの収容令書を執行し、同日、
原告Aを入管法24条4号ロ該当容疑者として、東京入国管理局入国審査官に引渡した(乙
10、11)。
原告Aの引渡しを受けた東京入国管理局入国審査官は、同日、同原告の上記容疑に係る
違反審査をした(乙12)。
東京入国管理局主任審査官は、同日、原告Aの仮放免を許可した(乙13)。
イア 東京入国管理局入国審査官は、平成12年7月31日、原告Aに係る違反審査をした(乙
14)。
イ 東京入国管理局入国審査官は、平成12年8月23日、原告Aに係る入管法24条4号ロ該当
容疑につき、遠反審査をし、その結果、同日、原告Aが上記条項に該当する旨の認定をし、
原告Aにこれを通知したところ、原告Aは、同日、特別審理官による口頭審理を請求した
(乙15、16)。
ウ 東京入国管理局入国審査官は、平成13年12月21日、原告Aの上記容疑に係る原告Bの事
情聴取をした(乙17)。
エ 東京入国管理局特別審理官は、平成14年1月21日、原告Aに係る口頭審理をし、その結
果、同日、入国審査官の上記イの認定に誤りはない旨判定し、原告Aにその旨通知したと
ころ、原告Aは、同日、法務大臣に対し、異議の申出をした(乙18から20まで)。
オ 法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長は、平成15年11月5日、原告A
からの上記エの異議の申出に対し、異議に理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)
をし、同日、被告東京入国管理局主任審査官に同裁決を通知した(乙22の1、2)。
ウア 上記イオの通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官は、平成15年11月19日、原告A
に同裁決を告知するとともに、退去強制令書の発付処分(以下「本件退令発付処分」といい、
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本件裁決と併せて「本件各処分」という。)をし、東京入国管理局入国警備官は、同日、退去
強制令書を執行し、原告Aを東京入国管理局収容場に収容した(乙23、24)。
イ 原告Aは、平成16年4月8日、入国者収容所東日本入国管理センターに移収された後、
同年11月30日、仮放免を受けて同センターより出所した(乙37)。
2 争点
本件における主要な争点は、次のとおりであり、これらについて摘示すべき当事者の主張は、
後記第3「争点に対する判断」において記載するとおりである。
 本件各処分の取消しの訴えについて原告Bが原告適格を有するか否か。
 本件各処分が違法であるか否か。
 原告Bが国に対する賠償請求権を有するか否か。
第3 争点に対する判断
1 争点(本件各処分の取消しの訴えについて原告Bが原告適格を有するか否か。)について
 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分
の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しく
は法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであ
り、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解
消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとす
る趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当た
り、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取
消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
また、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当た
っては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目
的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、
当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があ
るときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当
該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質
並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
 上記の点を踏まえて、本件各処分の取消訴訟において、その相手方たる原告Aの配偶者で
ある原告Bが原告適格(「法律上の利益」)を有するか否かについて検討する。
まず、原告Bは、入管法は、日本人の配偶者である外国人について「日本人の配偶者」という
在留資格を設けるだけでなく、「永住者」の在留資格の取得要件を緩和するなど、婚姻関係の尊
重を図っていること、実際、法務大臣が在留特別許可決定を下す場合は、そのほとんどが日本
人との婚姻関係を保護する必要がある場合であって、当該決定は夫婦が日本国内で同居して婚
姻生活を営むという具体的な権利を保護する機能を有しているといえることから、こうした制
度全体を具体的に検討すると、原告Bの婚姻の自由は、入管法上も保護された利益といえると
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主張する。しかし、入管法及びその関連法令には、外国人の配偶者である日本人の婚姻関係上
の権利、利益を保護すべきであるとする趣旨を含むと解される規定は存在しない。また、本件
裁決に当たって、在留特別許可を付与するか否かの判断は、後記2のとおり、法務大臣等の
極めて広範な裁量にゆだねられており、容疑者が日本人の配偶者であることは主要な考慮要素
となり得るものではあるが、それは飽くまでも容疑者固有の属性として、我が国での在留を特
別に許可すべき事情があるか否かという観点から考慮要素になり得るにすぎないのであって、
当該日本人の婚姻関係上の権利、利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解すべき根拠はな
い。同法2条の2第2項所定の在留資格の一つとして「日本人の配偶者等」が定められている
が、当該在留資格は、外国人の地位・身分に応じて、在留中、日本で行い得る活動と在留期間を
あらかじめ定めておくために設けられた資格の分類にすぎず、当該規定をもって、本件各処分
に当たり、外国人の配偶者たる日本人を保護すべきものとする根拠とみることはできない。
さらに、原告Bは、婚姻関係が憲法及びB規約上保護されており、本件各処分はそこで保護
された具体的な権利を直接侵害することを、同原告に原告適格が認められる根拠として主張す
る(当該侵害の基礎となる事実として、原告Bは、夫である原告Aが日本に長年滞在し、日本の
文化に親しみ、ある程度日本語能力を習得しているのと比較して、パキスタンに滞在した経験
もなく、同地の文化・言語についての知識がないことに加え、我が国において、《病名略》疾患
のある妹の面倒をみなければならないことからすると、現時点で、パキスタンにおいて、原告
Aと婚姻生活を営むことは不可能であることを主張する。)。しかし、後記2ウのとおり、外
国人を自国内に受け入れるか否か、これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかは、国際慣
習法上、当該国家が自由にこれを決することができるのが原則であり、また、B規約13条1項
も、外国人に対する法律に基づく退去強制手続をとることを容認していることからしても、外
国人は、憲法上及びB規約上の権利を、飽くまでも入管法の定める在留制度の枠内において保
障されているものであって、この点も、原告Bに原告適格を認めるべき根拠となるものではな
いと解される。
以上のとおりであるから、本件各処分の取消しの訴えにおいて、原告Bが原告適格(「法律上
の利益」)を有するとはいえない。
2 争点(本件各処分が違法であるか否か)について
 在留特別許可の許否に関する適法性の判断基準
ア 入管法は、24条各号掲記の退去強制事由のいずれかに該当すると思料される外国人の審査
等の手続として、特別審理官が、口頭審理の結果、外国人が同法24条各号掲記の退去強制事
由のいずれかに該当するとの入国審査官の認定に誤りがないと判定した場合、当該外国人は
法務大臣に対し異議の申出ができると規定している(同法49条1項)。そして、法務大臣がそ
の異議の申出に理由があるかどうかを裁決するに当たっては、たとえ当該外国人について同
法24条各号掲記の退去強制事由が認められ、異議の申出が理由がないと認める場合において
も、当該外国人が同法50条1項各号掲記の事由のいずれかに該当するときは、その者の在留
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を特別に許可することができるとされており(同条1項柱書)、この許可が与えられた場合、
同法49条4項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなすとされ、その旨
の通知を受けた主任審査官は直ちに当該外国人を放免しなければならないとされている(同
法50条3項)。
イ 原告は、入管法24条4号ロの強制退去事由に該当する者である(前記前提事実(第2の1)
のウウ、エウ)から、前記前提事実に記載した本件の経緯に照らし、本件裁決の適法性に関
しては、原告が同法50条1項3号に該当するか否かが専ら問題となるものである。
ウ ところで、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条
約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいか
なる条件を付するかは、専ら当該国家の立法政策にゆだねられており、当該国家が自由に決
定することができるものとされているところであって、我が国の憲法上も、外国人に対し、
我が国に入国する自由又は在留する権利(又は引き続き在留することを要求し得る権利)を
保障したり、我が国が入国又は在留を許容すべきことを義務付けたりしている規定は存在し
ない。
また、入管法50条1項3号も、「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると
認めるとき」と規定するだけであって、考慮すべき事項を掲げるなど、その判断を羈束する
ような定めは置かれていない。そして、こうした判断の対象となる外国人は、同法24条各号
が規定する退去強制事由のいずれかに該当し、既に本来的には我が国から退去を強制される
べき地位にある。さらに、外国人の出入国管理は、国内の治安と善良な風俗の維持、保健・衛
生の確保、労働市場の安定等の国益の保持を目的として行われるものであって、その性質上、
広く情報を収集し、その分析を踏まえて、時宜に応じた的確な判断を行うことが必要であり、
高度な政治的判断を要求される場合もあり得るところである。
エ 以上の点を総合考慮すれば、在留特別許可を付与するか否かの判断は、法務大臣の極めて
広範な裁量にゆだねられているのであって、法務大臣は、我が国の国益を保持し出入国管理
の公正を図る観点から、当該外国人の在留状況、特別に在留を求める理由の当否のみならず、
国内の政治・経済・社会の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲等の諸般の事情を総合的
に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。そして、在留特
別許可を付与するか否かに係る法務大臣の判断が違法となるのは、その判断が全く事実の基
礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、法務大臣に与えら
れた裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用した場合に限られるものと解するのが相当であ
る。
 本件裁決における裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無
ア 上記で述べたところに従い、法務大臣から授権された被告東京入国管理局長が本件裁決
をするに当たり、その裁量権の範囲の逸脱又は濫用に相当するような事情があったか否かと
いう観点から、本件裁決の適法性について検討を加えることとする。
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イ 前記前提事実、原告A及び同B各本人尋問の結果並びに各項掲記の証拠によれば、次の事
実を認めることができる。
ア 原告Aの在留状況及び原告らの生活状況等
a 原告Aは、パキスタンの《地名略》市において、8人兄弟の第2子として出生し、地元
の高校を卒業後、同市内にある大学に進学して数学を専攻していたが、我が国に在住す
るパキスタン人の友人が一時帰国した際、同人から、来日すれば多くの収入が得られる
こと、日本国内に多数のパキスタン人が生活していること等の話を聞いて、来日するこ
とを決意し、昭和63年3月11日、成田空港に到着して、我が国に入国した(甲11、乙5
の1・2、6、7、18)。 
b 原告Aは、来日後の約1週間、前記友人宅に滞在していたが、同人の紹介により、東京
都《地名略》区内のアパートにパキスタン人2、3人と居住するようになり、昭和63年
5月ころから、住み込みの建設作業員として稼働を開始した。入国後、2回の在留期間
の更新許可を受け、前記前提事実ウウの更新では同年8月8日が在留期限と定められ
ていたが、それ以降の更新許可を得られる見通しが立たない一方、入国当初から十分に
貯金するまでは帰国する意思がなかったことから、上記在留期限を過ぎてもそのまま在
留・稼働を続けた。(以上につき、甲11、乙6、18)
c 原告Aは、その後も、《地名略》市内や《地名略》市内のアパートを、他のパキスタン人
と共同で賃借してそこに居住し、建設作業員のほか、自動車輸出会社アルバイト、ウェ
イター、ビル清掃員、自動車部品工場工員等として稼働していたが、平成5年秋ころか
らは、中古車の修理・販売業を自営するようになり、当時、月額50万円程度の収入があ
った。平成11年8月からは、不景気で自営の仕事が減ったことから、板橋区《住所略》所
在の中古車輸出入会社(a)でアルバイトを始め、月額17万円程度の収入を得るように
なった。さらに、平成13年には、原告Bの名義で古物営業の許可を取得し、翌平成14年
には、原告Bが取締役に就任するなどして会社(b)を設立し、改めて中古車販売の自営
を始め、月額35万円程度の収入を得ていた。(以上につき、甲10、11、乙6、18)
d 原告Bは、父母、妹二人の5人で同居生活をしていたが、他に独立した兄がいて、父と
共に家業cに従事していた。一家は、当初《住所略》市内に居住し、家業の工場も同市内
にあった。原告Bは、昭和61年に高校を卒業してから、しばらく同市内のデパートに勤
務した後、事務職として家業を手伝うようになった。しかし、長妹Aが、昭和63年に交
通事故に遭ってから、《中略》の症状を示すようになり、特に、平成3年、一家が《地名
略》市内から《地名略》市の肩書住所に転居した後は、その症状が悪化し、《中略》身の回
りのことを自分ですることができず、一日中介護が必要な状態となった。このため、原
告B及び次妹Bが分担してAの介護に当たったが、《中略》一人で手に負えないときは、
世話をしていたBから連絡を受けて、原告Bが仕事を切り上げて自宅に帰らなければな
らないこともあった。なお、Aの病名については、本人が病院に行くのを嫌がっていた
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こと、実家が経済的に余裕のない状況であったことが重なり、これまで正式な診断を受
けておらず、治療も受けないまま現在に至っている。(以上につき、甲10、15の3、乙7、
18)
e 平成2年2月ころ、原告Aが働いていた《地名略》市内のコーヒーショップに原告B
が客として訪れ、原告Aが原告Bに声を掛けたのがきっかけとなって原告らの交際が始
まった。原告Bは、原告Aの真面目な性格や頼りがいのあるところにひかれ、また、原告
Aも家庭の状況等から心労をためがちであった原告Bを助けたいという気持ちを抱くよ
うになり、交際を続けるうち結婚を決意するに至って、平成7年2月13日、婚姻の届出
をした。しかし、原告Bは、Aが上記dのような状況であったため、その介護を続けなけ
ればならず、原告Aに対し、同居することが難しいという話を伝えており、同原告もそ
の点を了解していた。また、原告Bは、幼少時以来、常に兄と比較されつつ、両親から虐
待を受けてきたと考えており、親子の会話はほとんどない状態であって、原告Aとの交
際及び結婚の事実は両親にも、別居していた兄にも、一切話しておらず、家族の中では、
Bに対してのみ原告Aを紹介した。原告Aも、原告Bから親子関係その他家庭の事情の
概略について説明を受けており、B以外の家族に会えないのも当面やむを得ないことと
考えていた。(以上につき、甲10、11、乙6、7、18)
f 原告Aは、婚姻の届出をした平成7年2月以降、《住所略》のアパート(d)に居を定
めたが、階下のスナックのカラオケがうるさかったため、原告Bの希望で、同年6月こ
ろには、《住所略》所在のアパート(e)に転居した。原告Bは、週末その他数日おきに各
アパートを訪ね、原告Aとしばらく時間を過ごした後、《住所略》の実家に帰ることもあ
れば、そのままそこに泊まることもあったが、Aの介護のため何日も続けてアパートに
泊まることはできなかった。また、原告Aは、平成10年6月ころから平成11年8月まで
の間は、仕事で新潟か富山に滞在することが多く不在がちであったことから、上記アパ
ート(e)に知り合いのパキスタン人家族(親子3人)を住まわせていた。(以上につき、
甲10、11、乙7、9、15、18)
g 原告Aは、平成11年8月、経済的な理由から、家賃の安い《住所略》所在のアパート
(f)に転居した。しかし、同アパートの大家が交替し、新しい大家から部屋の立ち退き
を求められたため、平成12年8月末には、《住所略》所在のアパート(g)に転居した。
なお、fからの退去後、1か月余りの間友人宅に滞在していた。さらに、平成15年1月
からは、原告Bの母が介護を要する状態に陥り、同年7月には死亡したこともあって、
同原告が実家で行う家事の量も増え、gへ通うことの負担も重くなった。そこで、同年
10月には、原告Bが借主となって、同原告の勤務先とも近い《住所略》所在のアパート
(h)を賃借し、原告Aは同アパートに転居した。(以上につき、甲11、21、乙7、9、14、
15、42、43の1・2、44、53)
h 原告らは、それぞれの収入を各自で管理しており、具体的な収入額の詳細は互いに把
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握しておらず、生計を共にすることはなかったが、原告Aが原告Bに対し1万円程度の
小遣いを渡すこともあった。原告Aは自ら家事を行っていたものの、原告Bがアパート
を訪れた際は、同原告が掃除、洗濯等を行うほか、原告Aがパキスタン料理の調理法を
原告Bに教え、同原告が料理を作ることもあった。(以上につき、乙14、18)
イ 違反事実の申告と東京入国管理局による調査・取調べ等
a 原告Aは、平成8年4月8日、東京入国管理局に出頭し、不法残留の事実を申告し、原
告Bと安定した生活がしたいこと等を理由に挙げて、残留希望の申述をした。その際、
原告Bとは平成7年1月30日以降同居していること等を記載した陳述書を提出した。東
京入国管理局は、在宅のまま原告Aの調査を実施することとした。(以上につき、甲11、
乙5の1・2、18)
b 東京入国管理局の係官は、平成11年9月3日、原告Aから住所地として申告されてい
たアパート(e)に臨場し、調査を実施したところ、近隣の居住者からは外国人夫婦と子
供が住んでおり、日本人女性は住んでいない旨説明を受けた。同係官は、同月29日にな
って、原告Bから、原告らが《住所略》所在のアパート(f)に転居した旨初めて報告を
受けた。(以上につき、乙47、49)
c 東京入国管理局の係官は、平成11年10月13日、原告Aの従前の居住場所であるアパー
ト(e)に臨場して再度調査を実施したところ、パキスタン人男性が同アパートで応対
し、原告らはたまたま不在であるが、現在も生活していること、自分は1年くらい前か
ら妻子とともに同居させてもらっていること等を申述した。さらに、同係官が原告Bか
ら転居先であるとの報告を受けたアパート(f)に所在調査に訪れたところ、近隣の居
住者からは、同室がインド人かパキスタン人のたまり場となっており、日本人女性を見
たことはない旨説明を受けた。(以上につき、乙50の1・2、51)
d 原告Aは、平成11年10月15日及び21日、東京入国管理局から、呼出しを受け、出頭し
取調べを受けた。また、同月20日には、原告Bが出頭し取調べを受けた。原告らは、取
調べにおいて、原告Aが《住所略》所在のアパート(f)に転居して1か月余りしか経っ
ておらず、原告Bも転入の届出はしたものの、Aの介護等で忙しいため、同アパートに
立ち寄る機会は少なく、そこでの寝泊まりも十回くらいしかしてないこと、結婚当初か
ら、原告Aの下に帰れるのは週2、3回程度であること、今後、生活に余裕ができればA
の面倒をみながら実家近くで一緒に暮らしたいこと、原告らの結婚には原告Bの両親が
反対しており、そのことも解決したいこと等を係官に申し述べた。(以上につき、甲10、
11、乙6から9まで)
e 被告東京入国管理局主任審査官は、平成11年10月29日、原告Aに対し、収容令書を発
付し、これを執行したが、原告Aは、同日、保証金10万円を預託して仮放免の許可を得
た(乙10、13)。
f 原告Aは、平成12年7月31日、東京入国管理局から、再度呼出しを受け、同日及び同
- 10 -
年8月23日に取調べを受けた。その際、同原告は、結婚した日や原告Bの生年月日・旧
姓について覚えていないと述べるなど、その供述にはあいまいなところが少なくなかっ
た。さらに、同原告は、原告BがAの介護のため週に3回程度実家に帰っていると述べ
る一方、Aの病名は知らず、また、原告Bの家族のうち、B以外とは会ったことがなく、
結婚の事実も知られていないこと、同年6月25日ころ、それまで住んでいたアパート
(f)の大家が代わり、原告Aが同アパートから追い出されることになって、友人宅に寝
泊まりしていること、原告Bは当該友人が不在の折に当該友人宅に泊まりにくることも
あったが、取調べ時までの約1か月の間原告Bとは4回しか会っていないこと等を供述
した。なお、友人宅に身を寄せている状況については、原告Aから自主的に説明したわ
けではなく、係官の指摘を受けて初めてこれに言及したものであった。(以上につき、乙
14、15)
g 平成13年12月になって、東京入国管理局の係官が《住所略》所在のアパート(g)に
臨場して調査を行い、原告Bに対して、当該アパートの室内の状況を確認し、事情を聴
きたい旨を電話で連絡をした。原告Bは、職場から自動車で同アパートに向かったが、
到着するまで1時間以上を要し、係官と同アパートで会うことができなかった。同月21
日には、東京入国管理局で原告Bに対する取調べが行われたが、同原告は、平成13年に
なって同アパートを訪れたのは20回程度であり、いずれも泊まっているが、同年10月下
旬以来、同アパートを訪れていないと供述した。(以上につき、甲10、乙17)
h 原告Aは、平成14年1月21日、東京入国管理局において、特別審理官から口頭審理を
受け、原告Bも立会人としてこれに同席した。原告らは、《住所略》所在のアパート(g)
に居住していること、原告Bは実家でAの介護に当たっており、土日や祝日はアパート
に訪ねてくるが、平日はほとんどアパートに戻れないこと、このような生活状況は、原
告B一家が《地名略》市内から肩書住所地に移転してから変わりないこと等を供述した。
(以上につき、乙18)
i 東京入国管理局の係官は、平成15年10月29日、原告Bの実家を訪ね、近隣の居住者の
ほか、原告Bからも事情聴取を行った。同原告は、同月18日に夫婦で《住所略》所在のア
パート(h)に転居したこと、原告BはAの介護もあって週3、4日は実家にいること、
今後も実家と夫居宅とを行き来する生活が続き、継続的に同居したいという希望はある
がその目途は立っていないこと等を供述した。同係官は、前同日(同月29日)、従前の住
居であったアパート(g)にも臨場して調査を実施したところ、近隣の居住者からは、大
勢の外国人が同室に出入りしているが、原告Bを見かけたことはない旨の申述があり、
また、同アパートの仲介業者(その事務所の最寄り駅は同アパートと同じ《駅名略》駅で
あるが、駅からの方向は異なり、商店街に所在する。)の社員からは、原告Aは連絡がな
いまま行方が分からなくなっていること、原告Bを見たことはないこと、入居者は原告
A一人として契約をしていること等の申述があった。以上の調査結果を踏まえ、同係官
- 11 -
は被告東京入国管理局長に対し、原告らについて「婚姻同居継続の蓋然性が認められな
いことが確認された」などとする調査報告を行った。(以上につき、乙53)
j 原告Aに対する取調べは、平成14年1月21日以来実施されなかったが、同原告は、平
成15年11月19日、本件退令発付処分により収容されるまで、毎月、東京入国管理局に出
頭しており、その都度、生活状況等を報告していた(甲11)。
ウ 原告Aの仮放免後の状況等
a 原告Aは、平成16年11月30日に仮放免された後は、原告Bの実家で同原告、その父及
び妹らと同居しており、原告Bの家族との関係は、独立している兄も含めて、おおむね
良好である。平成17年末、原告Bの実家の工場が経営不振により廃業したため、父及び
兄ともに現在は仕事がない状態であり、原告Aの経験を生かし、同原告と共同して中古
車販売業を行うことも検討している。(以上につき、甲18の3、22、23)
b 原告Bは、引き続きAの介護に当たらなければならないほか、パキスタンの言語を全
く理解できず、生活習慣になじみもないことから、原告Aが本国に送還された場合、こ
れに同行することは不可能であると考える一方、原告Aの存在が精神的な支えとして掛
け替えのないものと考えており、同原告が引き続き我が国に在留して一緒に生活する
ことを強く望んでいる。また、原告Aも原告Bの立場を思いやり、これまでの生活の基
盤が形成された我が国に引き続き在留できることを要望している。(以上につき、甲10、
15の2、乙6、7)
ウア 前記前提事実及び上記イの認定事実によると、まず、原告Aは、①昭和63年3月の我が
国への入国時当初から不法残留・不法就労を企てていたものであること、②不法残留の期
間も東京入国管理局への自主申告(前記前提事実エウ)時まででも8年余り、本件裁決
までは15年余りの長期間に及ぶこと、③少なくとも原告Bと婚姻するまでの間は、外国人
登録法にのっとった居住地の変更申請、登録書の切替交付申請を行っていなかったことが
認められる。特に、在留資格が得られる見通しもないまま入国を敢行したものであって、
上陸許可及び在留期間の更新許可に基づいて適法に我が国に在留していた期間はわずか5
か月余りにとどまり、その後は、蓄財という来日目的を果たすために、資格のないまま不
法就労に明け暮れており、その限度でいわゆる確信犯的な要素も認められるところから、
入管行政に及ぼす悪影響は決して小さなものにとどまらず、看過できない事案であるとい
えなくもない。
イ しかしながら、前記イの認定事実によると、原告Aは、①これまで日本において、警察に
逮捕されたり、捜査を受けるなど、刑事事件を引き起こしたことはないこと、②原告Bと
の婚姻をきっかけにしたものであり、在留資格の取得を意図してのこととはいえ、婚姻後
約1年2か月を経過して、自ら入国管理局に不法滞在の事実を申告しており、当該申告を
した平成8年4月以降は、入国管理局の指示には素直に従って行動していること、③原告
Bと真摯な意思に基づいて婚姻し、《病名略》疾患のある長妹Aの介護・家業の手伝いとい
- 12 -
う大きな負担を抱えた同原告の境遇に理解を示し、同原告が時間の許す限り、原告Aのア
パートで一緒に過ごし、家事を行うなど互いに協力して生活を送っており、完全な同居は
ままならないという制約を甘受しつつも、本件裁決時までには、精神的な依存度を高め、
愛情・信頼に基づいた安定した夫婦関係を築いていたといえること、④殊に、本件裁決ま
でには、婚姻の届出をしてから約8年9か月余りもの長期間が経過しており、その間、や
はり完全な同居には至らなかったものの、原告Bの就業先近くのアパート(h)を新たに
借りるなど、夫婦関係はより安定し、結び付きを強めていったことを認めることができる。
ウa これに対し、被告らは、原告らが同居できなかった主な原因と主張する妹の介護に関
し、その病状の改善に向けた方策を講じておらず、原告Aのアパートも、原告Bが訪れ
る都合よりも、原告Aの不法就労の都合を優先して定めるなど、少なくとも原告Aにお
いて原告Bとの同居を実現する真剣な意思があったとはいい難いなどと主張する。
しかし、前記イアdのとおり、長妹A自身が治療を嫌がっており、周囲の目も気にし
ながら、しかも、経済的に必ずしも恵まれていない状況の下では、適切な解決策を講じ
ることができなかったことをとらえて、原告らに不利な事情として斟酌するのは酷であ
る。また、原告Bにとっては、妹の疾患は自らの実家内の事情であって、事柄の性質上、
そのすべてを原告Aに明らかにすることができず、その相談・協力を得て問題解決に当
たるといった行動に出られなかった(他方原告Aは、日本語の理解力の不足とも相まっ
て、Aの正確な病状をほとんど把握していなかったことが認められる(甲11)。)として
も、その心情は十分に理解可能なものであって、実態ある夫婦としては不自然であると
評価できるような事情でもない。また、アパートの所在地についても、原告Aは、外国人
であって在留資格を持たず、経済的余裕のない時期もあったというのであるから、アパ
ートに入居する際も一般の場合と比較してより制約が多かったものと推認でき、《住所
略》近辺のアパートを借りなかったことをとらえて同居実現の意思がなかったというこ
ともできない。
b さらに、被告らは、原告Bがアパートの家賃の滞納を放置していたことや、原告Aの
連絡用の携帯電話が他人に貸与されていたこと、fを追い出された後、原告Aが身を寄
せていた先である友人の名前を原告Bが知らなかったこと、互いに生計を別個に営んで
いたこと等を指摘して、原告らはお互いの状況すら把握しておらず、相互に扶助協力し
合う関係になかったと主張する。
しかし、原告Aが長期間収容され、収入のない状態のまま、原告Bが家賃を支払い続
けるのは大きな負担であって、滞納が生じたことをもって直ちに扶助協力関係にないな
どとするのは相当でない。その余の点にしても、完全な同居をしているわけではないこ
とは事実であるから、生計が別であることはもとより、円滑に連絡がとれないことがあ
ったり、相手方の交友関係にまで目が届かなかったりといったことは、それに付随して
まま起こり得ることであり、そのことをもって、扶助協力関係を否定したり、夫婦が実
- 13 -
体を欠くことの根拠としてあげつらったりするのは、いささか皮相な見方にすぎるとい
うべきである。
c 確かに、入国管理行政の場面においては、日本人との間の婚姻関係の存在が重要な考
慮要素の一つであるとみられて、実体のない婚姻関係の偽装事例が横行していることが
懸念され、その見極めのために、まずは、婚姻関係の外形的事実、すなわち、夫婦同居の
有無・その具体的態様に着目して調査を行い、それを有力な判断要素とすることには十
分な理由があるといえる。
しかし、同居を困難にする客観的かつ合理的な理由(本件原告らにおいては、妹の疾
患と介護の必要性という事情)が存在する場合にあっては、完全な同居をしていない事
実及びそこから派生的に生ずるような事情を含めて、それが真実、夫婦関係の実体の希
薄さを反映した事情といえるのかなどの点について、より慎重な評価・判断を加えてい
く必要があるというべきである。
d なお、被告らは、原告Aがした前記ア③の外国人登録法違反の点のほか、①弟をパキ
スタンから呼び寄せて不法滞在・不法就労を容易にさせた点、②銀行口座の開設時に偽
変造された外国人登録証明書を所持・提示した疑いがある点、③日常的に無免許運転を
繰り返していた点を挙げて、同原告の規範意識の欠如は甚だしく、その在留状況は極め
て悪質であると主張する。
しかし、①の点に関しては、弟の来日に関して、来日を誘っていたこと(乙18)、自身
のアパートに同居させていたということ以上に、その不法滞在・不法就労につき原告A
がどのような役割を果たしたものか定かではないし、②の点に関しても、当該口座開設
時に当該銀行において実際にどのような本人確認の手続がとられていたか、具体的には
明らかになっていないことから、偽変造文書の行使等の事実が直ちに推認できるもので
はない。また、③の点に関しては、原告Aは、本国で発行していた国際免許証を所持して
いたところ、その更新手続を依頼したパキスタン人から偽物を交付されていたこと等が
警察の指摘で判明し、その後は、仕事上緊急の必要があるときのみ運転をしていたと供
述する(同原告)一方、平成14年1月の口頭審理時は、2か月前まで自家用車を保有し
ていたと述べていることからすると、そのころまで、かなりの頻度で自動車の無免許運
転を行っていた疑いが強い。この点は、同原告が事実関係を偽って供述を行っている可
能性が高いことを含め、問題視されても然るべき事情ではあるが、さりとて、既に検討
したとおり、原告らの夫婦としての安定した関係が長期間継続している事実との比較に
おいて、在留特別許可の許否という観点からすれば、それだけで、異なる結論を導くほ
どに大きな考慮要素とみるのは妥当でないというべきである。
エ 以上の検討によれば、本件裁決時までに、原告らは、愛情・信頼に基づき安定した夫婦関
係を築いていること、その継続期間も、原告Aが不法残留の事実を申告し、東京入国管理局
の調査に服した後の期間が大半を占めており、被告らが主張するように「不法残留という違
- 14 -
法状態の上に形成された関係である」などと単純化できないことが認められ、これらのこと
からすると、原告らの夫婦関係は、十分保護に値するものというべきである。さらに、原告A
の我が国における在留状況をみると、長期間の不法残留・不法就労を始めとした法令に抵触
する行為が見受けられるものの、前記イアの事実に照らせば、原告Aに在留特別許可を付与
せず強制退去に付した場合には、パキスタン本国において、互いの扶助・協力の下で生活し、
同居を実現に移すなど、夫婦関係を維持し、これを発展させることはおよそ困難になるもの
と容易に推測できることからすると、被告東京入国管理局長は、原告らの夫婦関係の実体を
適正に認定・評価していれば、原告Aに対しては当然に在留特別許可を付与すべきものであ
ったと解するのが相当である。
したがって、原告Aに在留特別許可を付与しないでした本件裁決は、全く事実の基礎を欠
いており、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであって、在留特別許可を付与する
か否かについて法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長に与えられた裁量権
が極めて広範なものであることを前提としても、本件裁決は裁量権の逸脱に当たるものであ
って違法というべきである。
オ 本件裁決の通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官は、入管法49条5項により、速や
かに当該容疑者に対し、その旨を知らせるとともに同法51条の規定による退去強制令書を発
付しなければならないものとされているのであるから、本件裁決が違法である以上、これに
従ってされた本件退令発付処分も違法であるといわざるを得ない。
3 争点(原告Bが国に対する賠償請求権を有するか否か。)について
 国家賠償法1条1項は、国等の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、
故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国等はこれを賠償する責めに任ずる
旨規定している。ここでいう違法に当たるか否かは、国民等に生じた損害を填補する責任を誰
に負わせるのが公平かという見地に立って総合的に判断すべきものであるから、行政処分が法
律上の要件を充足していない違法なものとして取り消されるべき場合であっても、当該行政処
分が国家賠償法上も直ちに違法であるということはできない。特に、上記公平の見地からすれ
ば、その違法性の有無は、当該行政処分によって侵害された利益の種類、性質、侵害行為の態様
及びその原因、当該行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無、程度並びに損害の程度等
の諸般の事情を総合的に判断して決すべきものであり、それが違法と判断されるためには、少
なくとも、当該行政処分を行った公務員に職務上の法的義務違反があったと認められる場合で
あることを要するものというべきである。
ア これを本件についてみるに、前記2で判断したとおり、本件裁決の判断には裁量権の逸脱
があって違法であり、これに基づく本件退令発付処分も違法であって、いずれも取り消され
るべきものではある。
イ しかし、被告東京入国管理局長が本件裁決のような判断をするに至ったのは、原告らの婚
姻関係を、実体の伴ったものと認定し、法的保護に値するものと判断・評価すべきであるに
- 15 -
もかかわらず、そうした結論に至らなかったことにその原因を求めることができる。
ウ さらに、被告東京入国管理局長が、原告Aに在留特別許可を与えるか否かを判断する前提
として、原告らの生活状況の調査に当たったところ、その過程において、原告らが完全な同
居生活を送っている事実が確認できなかったばかりでなく、次に掲げるように、原告らの婚
姻関係の実体に疑問を差し挟んでも致し方がないと思われるような行為、外形的事実が多々
存在したところであり、これらは原告らが意図して生じさせたものではない場合もあるにせ
よ、原告Aに在留資格を付与するか否かの前提として調査を受けていたことからすれば、原
告らの対応振りとしては甚だ配慮に欠ける面があったことは否定できない。
① 原告Aが住居を移した場合でも、原告らはその事実を速やかに東京入国管理局の係官ら
に申告しなかった場合があること(前記2イイb、i。ちなみに、仮放免の条件として、
指定住居を変更するときは、あらかじめ承認を得ることが必要とされているところであ
る。出入国管理及び難民認定法施行規則49条2項、別記第67号様式参照。)
② 原告Bが原告Aのアパートを訪れる回数にしても、原告らは、おおむね週2、3回程度
と説明していたものの、1年足らずの間に20回程度であるなどと極めて少ない回数しか訪
問していない旨述べたこともあること(同g)
③ 原告Aが退去した後のアパートに、引き続き知合いのパキスタン人家族を住まわせてお
り、同パキスタン人は原告らの居住状況について、原告らによる説明(既に同アパートは
退去済みである旨)とは異なる説明(現在も同アパートに居住中である旨)をしたこと(同
b、c)
④ 原告Bも同係官の求めにもかかわらず、gの調査の立会いに応じられなかったことがあ
ること(同g)
⑤ fから退去を余儀なくされ、友人宅に身を寄せている状況についても、原告Aは係官に
対して自ら進んで説明をしなかったこと(同f)
⑥ 原告Aは、夫であれば通常知っているべき原告Bの身上関係についてあいまいな説明し
かできなかった場合があること(同f)
エ そうすると、被告東京入国管理局長がその判断を誤るに至ったとしても、これを被告東京
入国管理局長、その他同被告の指揮命令を受けていた関係官に責めを負わせるのは相当でな
い。換言すると、本件裁決をした被告東京入国管理局長において、公務員としての職務上の
法的義務違反があったと認めることはできないというべきである。 
また、本件裁決の通知を受けた被告東京入国管理局主任審査官が、速やかに当該容疑者に
対し退去強制令書を発付しなければならないことは、前記2オのとおりであるから、被告東
京入国管理局長に法的義務違反が認められない以上、本件退令発付処分をしたことにつき被
告東京入国管理局主任審査官にも法的義務違反が認められないというべきである。
 したがって、本件各処分において、国家賠償法上の違法があるとはいえないことに帰するか
ら、その余の点について判断するまでもなく、原告Bの損害賠償請求は理由がない。
- 16 -
4 結論
以上によれば、原告Aの請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、原告Bの訴えのうち、
本件各処分の取消しを求める部分は、いずれも不適法であるからこれらを却下し、その余の訴え
に係る請求は、理由がないからこれを棄却する。

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