上陸許可取消処分取消等請求事件
平成17年(行ウ)第80号
原告:A、被告:東京入国管理局長・東京入国管理局主任審査官
東京地方裁判所民事第2部(裁判官:大門匡・吉田徹・小島清二)
平成18年7月19日

判決
主 文
1 被告東京入国管理局長が平成16年12月20日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定
法49条1項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
2 被告東京入国管理局主任審査官が平成17年1月28日付けで原告に対してした退去強制令書発
付処分を取り消す。
3 原告のその余の請求に係る訴えをいずれも却下する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の3分の1と被告東京入国管理局長に生じた費用を同被告の負
担とし、原告に生じた費用の3分の1と被告東京入国管理局主任審査官に生じた費用を同被告の
負担とし、原告に生じた費用の3分の1と被告東京入国管理局入国審査官に生じた費用を原告の
負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告東京入国管理局入国審査官が平成16年11月1日付けで原告に対してした平成8年12月29
日付け上陸許可及び平成13年8月10日付け上陸許可の各取消処分をいずれも取り消す。
2 主文第1及び第2項と同旨
第2 事案の概要
本件は、いわゆる中国残留日本人との親子関係を偽装して我が国の在留資格を得た父と共に、
平成8年12月29日に一家で来日した原告(当時7歳)が、上陸許可・在留更新許可を受けて日本
で生活していたところ、父が日本人との親子関係を偽装した者であり、原告も上陸条件に適合し
ないにもかかわらず上陸許可を受けていた者であることが判明したとして、被告東京入国管理局
入国審査官において、平成16年11月1日付けで上陸許可の取消処分を、被告東京入国管理局長に
おいて、同年12月20付けで出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。平成16年法律第
73号による改正前のもの。以下「入管法」という。)49条1項に基づく原告の異議の申出は理由が
ない旨の裁決を、被告東京入国管理局主任審査官において、平成17年1月28日付けで退去強制令
書の発付処分を、それぞれ行ったことから、原告が、上記各処分はいずれも違法であるとして、こ
れらの取消しを求めている事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら
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れる事実)
 原告の身上及び入国・在留状況
ア 原告は、平成元年(1989年)7月14日、中華人民共和国(以下「中国」という。)黒龍江省で
父・B、母・Cとの間に長女として出生した中国国籍を有する者である。なお、原告には、実
兄である長男のD(昭和62年(1987年)6月1日生)がいる。(以上につき、甲18、乙1、2、6、
11)
イ 原告は、平成8年12月29日、父母及び兄と共に、上海から新東京国際空港に到着し、東
京入国管理局成田空港支局入国審査官に対し、外国人入国記録の渡航目的の欄に「定居(定
住)」、日本滞在予定期間の欄に「1年」と記載して上陸申請を行い、同入国審査官から、入管
法別表第1に規定する在留資格「定住者」及び在留期間「1年」とする上陸許可の証印を受け、
本邦に上陸した。なお、父・Bは、中国残留日本人であって既に日本に帰国していたEの子
であるとして在留資格認定証明書の交付を受け、日本人配偶者等の在留資格の認定を受けて
上陸許可を受けた。(以上につき、乙1から3まで、34の1)
ウア 原告は、平成9年12月10日、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をし、法務大臣は、
同月22日、在留期間を1年として、これを許可した(乙1、2)。
イ 原告は、平成10年11月27日、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をし、法務大臣は、
同年12月9日、在留期間を1年として、これを許可した(乙1、2)。
ウ 原告は、平成11年12月3日、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をし、法務大臣は、
平成12年1月25日、在留期間を3年として、これを許可した(乙1、2)。
エ 原告は、平成13年6月11日、法務大臣に対し、再入国許可申請をし、法務大臣は、同日、
これを1回限り有効なものとして許可した(乙1、2)。
エ 原告は、平成13年6月29日、新潟空港から中国のハルピンに向け、再入国許可による出国
をした(乙1、2)。
オ 原告は、平成13年8月10日、ハルピンから新潟空港に到着し、再入国許可による上陸許可
を受けて本邦に上陸した(乙1、2)。
カア 原告は、平成14年11月19日、法務大臣に対し、在留期間更新許可申請をした(乙1、2)。
イ 被告東京入国管理局入国審査官(以下「被告入国審査官」という。)は、平成16年11月1日、
BとEとの間に親子関係が存在せず、原告ら一家はEとの血縁関係を偽装して上陸・在留
していたことが判明したとして、前記イ、ウアないしウ及びオの各許可を取消して原告に
告知するとともに、上記アの申請を終止した(以下、前記イ及びオの各上陸許可を取り消
す処分を「本件各上陸許可取消処分」という。)(甲1の1・2、乙1、2、6)。
 原告の退去強制手続等について
ア 東京入国管理局入国警備官は、平成16年4月21日、原告を入管法24条2号(不法上陸)該
当容疑で立件した(乙5)。
イ 東京入国管理局入国警備官は、平成16年11月1日、原告について違反調査を行い、その結
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果、原告が入管法24条2号(不法上陸)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして、
同月16日、被告東京入国管理局主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)から収容令書
の発付を受け、同月19日、同令書を執行するとともに、原告を入管法24条2号該当容疑者と
して東京入国管理局入国審査官に引き渡した。
同日、被告主任審査官は、原告に仮放免許可を与えた。
(以上につき、乙6、8、9、10)
ウ 被告入国審査官は、平成16年11月19日、原告について違反審査をし、その結果、同日、原
告が入管法24条2号に該当する旨の認定を行い、原告にこれを通知したところ、原告は、同
日、口頭審理を請求した(乙11、12)。
エ 東京入国管理局特別審理官は、平成16年12月3日、原告について口頭審理を行い、その結
果、同日、東京入国管理局入国審査官による上記ウの認定は誤りがない旨判定し、原告にこ
れを通知したところ、原告は、同日、法務大臣に対し、異議の申出をした(乙13から15まで)。
オ 被告東京入国管理局長は、平成16年12月20日、原告に対し、入管法49条1項に基づく原告
の異議の申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、同裁決の通知を受け
た被告主任審査官は、平成17年1月28日、原告に同裁決を通知するとともに、退去強制令書
の発付処分(以下「本件退令発付処分」という。)を行い、同日、被告主任審査官は、原告に仮
放免許可を与えた(甲2、乙17から20まで)。
カ 父・B、母・C及び兄・Dに対しても、平成16年11月1日、それぞれの上陸許可が取り消
されるとともに、退去強制手続が進められ、父に対しては、同年12月20日、母及び兄に対し
ても、平成17年1月28日、それぞれ退去強制令書の発付処分がされた。
このうち、原告同様、即日仮放免許可が与えられたDは、上陸許可取消処分、入管法49条
1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決及び退去強制令書の発付処分の各取消しを求
めて訴えを提起した。他方、B及びCは、収容所に収容され、平成17年3月ないし4月に仮
放免許可を得て出所した後、同年5月15日、D及び原告の兄妹を我が国に残して中国に帰国
した。
(以上につき、甲18、29、乙11、25、47)
2 争点
本件における主要な争点は、次のとおりであり、これらについて摘示すべき当事者の主張は、
後記第3「争点に対する判断」において記載するとおりである。
 本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過したものであるか否か。
 本件各上陸許可取消処分が違法であるか否か。
具体的には、①本件各上陸許可取消処分が法令上の根拠を欠いているか否か、②日本で教育
を受けることの必要性等、原告の事情を十分に考慮せず、社会通念を逸脱した違法があるか否
か、③法定代理人の関与を認めなかったこと、適切な説明や反論・反証の機会を与えず、代理
人選任権の告知をしなかったこと等の手続的な違法があるか否か。
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 本件裁決及び本件退令発付処分が違法であるか否か。
具体的には、①本件各上陸許可取消処分の違法性を承継して、本件裁決及び本件退令発付処
分も違法となるか否か、②原告に在留特別許可を与えなかった点に裁量権の範囲を逸脱・濫用
した違法があるか否か、また、条約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、児童の
権利に関する条約)違反があるか否か、③違反調査、審査、口頭審理の各手続において法定代理
人の関与を認めなかったという手続的な違法があるか否か。
第3 争点に対する判断
1 争点(本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過したものであるか否
か)について
 平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法(以下、単に「行政事件訴訟法」という。)
14条1項は、取消訴訟の出訴期間は、処分又は裁決があったことを知った日の翌日から起算し
て3か月であり、同条2項は、出訴期間を不変期間と規定している。また、同法律第84号の附
則4条は、出訴期間に関する経過措置として、同法律の施行(平成17年4月1日)前にその期
間が満了した処分又は裁決に関する訴訟の出訴期間については、なお従前の例によるものと規
定している。
前記前提事実(第2の1)カイによると、原告が本件各上陸許可取消処分を知ったのは、平
成16年11月1日であり、原告が本件訴えを提起したのは、平成17年3月7日であるから、本件
各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは、原告が当該処分を知った日から起算して3か月
が経過した後に提起されていることになる。
 上記の点に関して、原告は、①本件各上陸許可取消処分について取消訴訟を提起できること
について告知を受けておらず、かつ、そうした知識もなかったのであるから、本件裁決がある
までは出訴期間は進行しない、②退去強制手続においてした異議の申出(前記前提事実エ)
が、本件各上陸許可取消処分との関係では行政事件訴訟法14条4項にいう審査請求に当たり、
出訴期間はこれに対する本件裁決があったことを原告が知った日から起算すべきである、ま
た、③父・Bは、本件各上陸許可取消処分を受けた直後に、法務大臣の裁決において、在留特別
許可がされる可能性があるとの説明を受けたが、同処分について不服申立てができるという説
明は受けなかったため、退去強制手続が同処分と一体であって、上記異議の申出が同処分に対
する審査請求に該当すると誤信しており、その誤信は行政庁の誤った教示に基づくものである
から、行政事件訴訟法14条4項を適用して、やはり、出訴期間は本件裁決があったことを原告
が知った日から起算すべきであると主張する。
 しかしながら、まず、上記①については、出訴期間の起算点である「処分があったことを知っ
た日」とは、訴えを提起した者が処分があったことを現実に知った日をいい、これについて出
訴できることを具体的に認識していることまでを必要とするものではない。そして、原告及び
その父母が平成16年11月1日に被告入国審査官から本件各上陸許可取消処分がされた旨を告
知された事実に争いはないから、原告の上記①の主張は理由がない。
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次に、上記②については、行政事件訴訟法14条4項にいう審査請求は、取消しを求める処分
についてされた不服申立てであることを要するものというべきところ、入管法49条1項の異議
の申出が当該容疑者に係る上陸許可取消処分を不服の対象とするものでないことは、同項の規
定する異議の内容に照らして明らかというべきである。確かに、退去強制の手続は、外国人が
上陸許可取消処分によって在留資格を失い、退去強制対象者に該当することになって開始する
という経過をたどる場合があり、本件も結局そのように推移した事案であるが、先行する処分
が後行する処分の前提をなし、その条件となっているような場合であってさえも、両処分が飽
くまでも別個の処分である以上、そうした関係にあるというだけの理由で、後行する処分に対
する審査請求が先行する処分に対するそれをも含んだ趣旨であると解することはできないし、
先行する処分についての審査請求を行わなかった以上、行政事件訴訟法14条4項との関係にお
いても、これを先行する処分に対する審査請求と同視して扱うのは相当ではない。
さらに、上記③において、原告の父の誤信をいう点については、原告の主張自体によっても、
東京入国管理局の係官が、本件裁決において在留特別許可が得られる可能性があるとの説明を
し、本件各上陸許可取消処分について不服申立てができるとの説明をしなかったという経緯が
あるにとどまるものである。それ以上に、同処分を独立に争うことができない、あるいは、専ら
退去強制手続の中で争うべきであるなどの教示をしたという事実を主張をするものではない。
そうであるとすれば、本件においては、行政事件訴訟法14条4項のうち、行政庁の誤った教示
がされたことによって出訴期間を徒過した者の救済を図ろうとする趣旨の部分についても、そ
の適用の前提を欠いているというほかない。
なお、当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができ
なかった場合には、その事由が消滅した後1週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の
追完をすることができる(民事訴訟法97条1項)。しかし、上記①及び③の主張事実をもって、
不変期間である出訴期間内に訴えを提起できなかったことにつき、原告の責めに帰することが
できない事由があったとすることもできないから、訴訟行為の追完を認める余地もない。
 以上によれば、本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは、出訴期間経過後に提起さ
れた不適法なものであるから、却下を免れない。
2 争点(本件裁決及び本件退令発付処分が違法であるか否か)について
 在留特別許可の許否に関する適法性の判断基準
ア 入管法は、24条各号掲記の退去強制事由のいずれかに該当すると思料される外国人の審査
等の手続として、特別審理官が、口頭審理の結果、外国人が同法24条各号掲記の退去強制事
由のいずれかに該当するとの入国審査官の認定に誤りがないと判定した場合、当該外国人は
法務大臣に対し異議の申出ができると規定している(同法49条1項)。そして、法務大臣がそ
の異議の申出に理由があるかどうかを裁決するに当たっては、たとえ当該外国人について同
法24条各号掲記の退去強制事由が認められ、異議の申出が理由がないと認める場合において
も、当該外国人が同法50条1項各号掲記の事由のいずれかに該当するときは、その者の在留
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を特別に許可することができるとされており(同条1項柱書)、この許可が与えられた場合、
同法49条4項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなすとされ、その旨
の通知を受けた主任審査官は直ちに当該外国人を放免しなければならないとされている(同
法50条3項)。
イ 前記1で判断したとおり、本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは不適法であっ
て、同処分の効力は一応確定したものとなることから、原告は、入管法24条2号の退去強制
事由に該当する者に当たり、本件裁決の実体法上の適法性に関しては、原告が同法50条1項
3号に該当するか否かが専ら問題となるものである(原告は、本件裁決が、本件各上陸許可
取消処分を前提として行われたものであり、上陸許可取消処分と退去強制手続における入管
法49条1項に基づく異議申出とは一体とみるべきものであるから、本件裁決が本件各上陸許
可取消処分の違法性を承継するとも主張するものであるが、裁決における判断それ自体を問
題にするものではないから、この点はひとまずおくことにする。)。
ウ ところで、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条
約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいか
なる条件を付するかは、専ら当該国家の立法政策にゆだねられており、当該国家が自由に決
定することができるものとされているところであって、我が国の憲法上も、外国人に対し、
我が国に入国する自由又は在留する権利(又は引き続き在留することを要求し得る権利)を
保障したり、我が国が入国又は在留を許容すべきことを義務付けたりしている規定は存在し
ない。
また、入管法50条1項3号も、「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると
認めるとき」と規定するだけであって、考慮すべき事項を掲げるなど、その判断を羈束する
ような定めは置かれていない。そして、こうした判断の対象となる外国人は、同法24条各号
が規定する退去強制事由のいずれかに該当しており、既に本来的には我が国から退去を強制
されるべき地位にある。さらに、外国人の出入国管理は、国内の治安と善良な風俗の維持、保
健・衛生の確保、労働市場の安定等の国益の保持を目的として行われるものであって、その
性質上、広く情報を収集し、その分析を踏まえて、時宜に応じた的確な判断を行うことが必
要であり、高度な政治的判断を要求される場合もあり得るところである。
エ 以上の点を総合考慮すれば、在留特別許可を付与するか否かの判断は、法務大臣の極めて
広範な裁量にゆだねられているのであって、法務大臣は、我が国の国益を保持し出入国管理
の公正を図る観点から、当該外国人の在留状況、特別に在留を求める理由の当否のみならず、
国内の政治・経済・社会の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲等の諸般の事情を総合的
に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。そして、在留特
別許可を付与するか否かに係る法務大臣の判断が違法となるのは、その判断が全く事実の基
礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、法務大臣に与えら
れた裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用した場合に限られるものと解するのが相当であ
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る。
オ なお、原告は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)
は、締約国に対し、教育についてすべての者の権利を認めること、高等教育に関しては、能力
に応じた教育を受ける機会をすべての者に与えることを義務付けており(同規約13条)、児
童の権利に関する条約においても、その28条1項で同様の理が規定されているほか、3条で
は、児童に関するすべての措置をとるに当たり、児童の最善の利益を第一義的に考慮すべき
ことを義務付けているところ、原告が中国に強制送還されれば、日本語での学習しかできな
い原告の教育を受ける権利を侵害し、その自己実現を阻害し、原告の最善の利益に反する結
果をもたらすことから、本件裁決は条約に違反する違法なものであると主張する。
しかしながら、A規約及び児童の権利に関する条約は、外国人を自国内に受け入れるかど
うか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、専ら当該国家の立法政策
にゆだねており、当該国家が自由に決定することができるとする前記ウの国際慣習法上の原
則を排斥する旨の明文の規定を設けていないことからすれば、これらの条約の規定は、この
国際慣習法上の原則を前提としており、これを基本的に変更するものではないと解するべき
である。したがって、上記各条約の存在によって在留の許否を決する国家の裁量を独自に制
約・拘束されるものではないと解するのが相当である。
 本件裁決における裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無
ア 上記で述べたところに従い、法務大臣から授権された被告東京入国管理局長が本件裁決
をするに当たり、その裁量権の範囲の逸脱又は濫用に相当するような事情があったか否かと
いう観点から、本件裁決の適法性について検討を加えることとする。
イ 前記前提事実、原告本人尋問の結果及び掲記の証拠によれば、次の事実を認めることがで
きる。 
ア 原告は、中国黒竜江省のハルピンで農業を営む父・Bと母・Cとの間に生まれ、兄・D
と共に4人で生活していた。6歳になった1995年(平成7年)9月ころには、F小学校(幼
稚園)に入学して、ピンイン(中国語の表音記号)を覚え、漢字の読み書きを練習し、足し
算・引き算を学習するなどしていた。(以上につき、甲10、18)
イ 父・Bは、昭和56年ころに日本に永住帰国した中国残留日本人・Eの夫であるGの兄の
子(Eのおい)に当たるが、若いころに両親を亡くしていたこともあって、原告に対しては、
EとGが実の祖父母であると説明をしていた。Bは、自分の周りに日本人の子供と偽って
来日する者が多くいたことから、自らもEとの縁戚関係を利用し、家族を連れて来日する
ことを決意した。その際、原告を含む家族に対しては、祖母・Eの見舞いに行くとの説明
しかしないまま、平成8年12月29日、一家を連れて来日するに至った。原告の来日時の上
陸許可の申請手続、その後の在留期間の更新許可、再入国許可の申請手続等は、専らBが
行っており、原告はこれに関与することなく、その内容も知らなかった。
 (以上につき、甲18、乙38、47、49(なお、原告は乙49につき、証拠排除を求めているが、
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伏せ字が多く、誰の供述録取書であるか特定性に欠けるものの、原告が主張するような違
法収集証拠類似の状況は認め難く、Eの子の供述録取書であるとまでは特定が可能であ
り、東京入国管理局入国審査官が作成したこと自体には争いがないので、乙49を上記認定
に用いる限度で採用するものとする。))
ウ 原告ら一家は、来日後、千葉県《地名略》市内のE住所地近くのアパートを借り、原告も、
平成9年1月下旬ころから、同市立H小学校の第1学年に編入された。当初、原告は、家
庭内では中国語で会話し、日本語の会話・読み書きが全くできなかったことから、兄とと
もに、小学校で本来の授業とは別に日本語の指導を1日1時間程度受けていた。平成9年
4月には、父の勤務先の倒産を契機として、千葉市《地名略》に転居し、同市立I小学校に
転校し、さらに、平成10年7月には、より家賃の安い公営住宅に当選したため、同市《地名
略》の県営住宅に転居して、同市立J小学校に転校した。I小学校では、日本語の指導が受
けられなかったため、授業がほとんど理解できない状況に置かれたが、J小学校では、他
にも中国人の生徒がおり、週に2、3回日本語教室が開かれ、担当のK教諭の熱心な指導
もあって、原告は、日本語の習得に真面目に取り組むようになった。小学5年生になって
からは、土曜日や平日の夜に日本語教室に通い始め、同じような境遇の中国人の友人らと
仲間同士で勉強したことにより、更に日本語の言語能力が高まった。この日本語教室には、
里親宅に転居するまで(後記カa)通い続けた。(以上につき、甲18、19)
エ 原告の両親は、原告ら兄妹が日本語の習得に苦労していたこともあって、中国に帰国さ
せて、本国の学校に編入させることも考えた。平成13年6月29日には、実際に、原告ら兄
妹(原告は当時、小学6年生)を連れて中国黒竜江省ハルピンに里帰りし、中国の授業につ
いていくことが可能かどうか、原告ら兄妹の中国語の理解力等を親戚の教師に試してもら
った。このとき、通学していたJ小学校に対しては、長期の休暇の取得を申し出ており、こ
のまま中国に帰国する可能性があることも伝えてあった。しかし、原告ら兄妹は、4年半
中国語の勉強から遠ざかっていたこともあって、小学1年生程度の読み書きにも苦労する
状態であり、親戚の教師からは中学に編入するのは無理と判断され、両親も原告ら兄妹を
中国に帰すことはあきらめて、同年8月10日、原告ら兄妹を連れて本邦に再入国した。(以
上につき、甲18、乙25)
オ 原告は、平成14年3月、J小学校を卒業し、翌4月には、千葉市立L中学校に進学した。
中学に入学するころには、授業の内容が理解できるようになり、日本語での会話も自然に
なって、おおむね満足できる程度の成績を修め、充実した学校生活を送ることができるよ
うになってきた。また、父母とは中国語で日常会話をするものの、中国語での読み書きは
できず、日本語によって物事を考えるようになった。中学3年生になるころには、調理関
係か情報関係の仕事に就くことを将来の希望として抱き、それにそった進路として高校進
学のために受験勉強に取り組んでいた。調理を学ぶことができる高校の推薦入試に応募
し、これは不合格となったものの、コンピュータを使った情報教育に力を入れている千葉
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県立M高等学校情報科の一般入試を受験して合格した。なお、受験勉強が佳境に入る当時、
原告ら一家に対する退去強制手続が開始され着々と進行し、父母共に収容されたまま、兄
妹二人で生活する中で、原告は、教師からは食事の世話等の協力を得ながら入学試験を乗
り切り、合格に至ったものである。(以上につき、甲18、乙13、16)
カa 原告の両親は、平成17年3月ないし4月に相次いで仮放免となり、原告ら兄妹を日本
に残して帰国した場合、原告ら兄妹を里親に委託することが可能か、千葉市児童相談所
に相談した。同児童相談所では、原告ら兄妹の要保護性の有無、素行の良否等を調査し
た上、里親委託することが可能と判断し、平成17年5月13日、千葉市内の養育里親に委
託することを決定した。里親委託制度は、保護者のない児童又は保護者に監護させるこ
とが不適当であると認められる児童を保護する措置として行われるものであって、児童
を家族の一員として受入れられる里親家庭に当該児童を預ける制度であり、児童が家庭
に帰ることができるようになるか、又は、18歳に達する(高校卒業時)まで、里親家庭
で養育してもらうこととされている。里親家庭には諸手当が支給されるものとされてお
り、原告ら兄妹に関しては、一人当たり一般生活費4万8210円、就学費2万2100円等が
里親に支給されているほか、医療費は別途公費で負担するものとされている。原告ら兄
妹は、現在、千葉市内の里親家庭で一緒に生活しており、各自個室が与えられ、規則正し
い生活を送っている。兄・Dは、以前から飲食店でのアルバイトを行っており、原告の
父が退去強制手続で収容されてからは、収入もなくなったため、原告も新聞配達のアル
バイトを行うなどしていたが、里親宅に委託されてからは、里親の方針もあって、兄妹
ともどもアルバイトをやめて学業に専念している。
(以上につき、甲10、11、18)
b 原告は、現在、ほとんど遅刻・欠席もすることなく、授業にも意欲的に取り組んで、ま
じめに高校生活を送っており、第1学年の第1学期はクラス在籍43人中23位、第2学期
は同14位の成績を収めている。生徒会の役員に立候補して当選し、書記としての活動を
行うほか、クラスでアルバム製作の係を務め、友人の中に溶け込んで違和感のない日常
生活を送っている。高校卒業後は、専門学校又は大学に進学したいと考えており、帰国
した両親からの援助を期待できる状況にはないが、特待生として学費が免除されること
を目指すとともに、それがかなわない場合でも、奨学金制度や母親が残していった預金
(母・Cが交通事故に遭って受け取った保険金330万円)の使用、アルバイト収入等のほ
かE兄弟支援団の援助を得るなどして学費等を賄うことを予定している。里親家庭での
委託期間が過ぎた後は、同じく大学への進学を希望している高校在学中の兄とともに、
助け合いながら日本での生活を維持したいと考えている。(以上につき、甲12、13、20、
26、31の1・2)
キa 原告ら兄妹が在留特別許可を得る目的で東京入国管理局に提出する嘆願書の作成をK
教諭が原告ら兄妹の関係者に呼び掛けたことが契機となって、平成16年12月11日には、
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「Aさん兄妹の在留を求める会」(以下「求める会」という。)が結成された。K教諭は、同
月3日に行われる審査に間に合わせるために191通の嘆願書を集めて、これを東京入国
管理局に提出したが、その後も引き続き約3000名から嘆願書や要望書を集めた。しか
し、前記前提事実オのとおり、平成17年1月28日には、原告に対して本件退令発付処
分がされたことから、求める会では、原告ら兄妹が処分の取消しを求める訴訟を提起す
ることを支援するものとし、さらに、当時、父・B及び母・Cが収容されていたため、会
のメンバーが、毎日原告ら兄妹宅を訪問して励まし、受験時期にあった原告に対しては、
勉強の指導も行った。また、訴訟費用等に当てる目的での資金集めを開始したほか、父
母が中国へ帰国せざるを得なくなった場合の原告ら兄妹の養育方法についても父母と話
し合い、里親制度(前記カ)を利用して養育してもらうことを勧めた。(以上につき、甲
21、23)
b 求める会のメンバーは、在留資格を得られた後も原告ら兄妹の支援を続ける趣旨で、
平成17年9月1日、原告ら兄妹が、日本で暮らし学び続けられるよう支えるとともに、
原告ら兄妹の自立を後押しすることを目的と定めて、新たに「A兄妹支援団」を結成し
た。発起人代表・代表世話人はK教諭が務め、7名の世話人、44名の協力者が構成員と
して名を連ねている。その運営規定では、具体的な支援の方法として、協力者等から集
められた支援金を基に基金を設立し、これをA兄妹に贈与・貸与すること、ただし、里
親の養育を受けている間は、贈与や貸与を行わないこと等が定められている。求める会
では、平成18年2月までに、約340人から、97万円余の寄付を集めており、原告両親が
仮放免された際に納付した保証金で後に返還された100万円と併せて、求める会名義の
口座で管理されている。これらの金員は、A兄妹支援団が原告ら兄妹の訴訟費用や生活
費、学費等を支援する場合の原資に当てられることが予定されている。(以上につき、甲
14の1から3まで、21、22、24、28)
ウア 原告の日中両国における学習の能力、順応性、経済的基盤等
上記イの認定事実によると(以下、この項及び後記イにおいて、①以下の通し番号を冒
頭に付記することにより、上記イの認定事実によって認められる事実又は評価を示すこと
とする。)、まず、原告の生活状況、学習状況、言語能力に関して、①原告は、中国で中国語
によるわずかな期間の初等教育を受けた状態で7歳時に来日したこと、②我が国では、通
常の小学校に編入したものの、家庭内では中国語で会話をしており、日本語については学
習経験もなかったため、当初は、小学校の授業が全く理解できず、これについていけなか
ったこと、③しかし、通学する小学校に設けられた日本語教室等で外国人の児童向けの日
本語教育を受ける機会が与えられ、教師の熱心な指導と本人の努力もあって、中学に入学
するころには、日常生活はもちろん、学校での学習にも支障のない程度の日本語能力を身
につけるに至ったこと、④中学校では、引き続き日本語教室に通いながら、違和感なく学
校生活に適応しおおむね満足できる程度の成績を修めており、進路についても将来の職業
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を見据えて進学先を選択し、本件裁決時において、その入学試験に合格できる見込みが十
分あるだけの学力を身につけていたこと、⑤このように日本語に習熟していったのと裏腹
に、中国語による学習能力はほとんど失われ、平成13年6月の里帰り時(小学校6年生時)
において、既に小学校1年生程度の授業内容を理解するのも困難になっていたこと、⑥本
件裁決が行われるころも、家庭内での会話は中国語によっており、日常的な会話は可能で
あるものの、読み書きはほとんどすることができず、思考は専ら日本語によって行うよう
になっていたことが認められる。
以上によれば、原告は、7歳の来日時から一貫して日本語による初等・中等教育を受け
てきたことにより、当初は苦労したものの、日本語の言語能力・日本語による学習能力を
年齢相応に着実に身につけていったといえる反面、中国語については、家庭内の日常会話
が辛うじて可能であるほか、来日時の小学校1年生程度の能力すら保持できていないこと
から、中国に帰国したとしても、我が国で受けていたのと同程度の教育に順応することは
極めて困難であり、仮にそれが可能であったとしても、小学生程度のレベルにさかのぼっ
て学習をやり直さなければならないなど基礎的な中国語の習得や社会・文化への適応に多
大な労力・時間を要することになるのは明らかである。そうすると、我が国に継続して滞
在し、日本語での教育を受けながら、進学・就職等を目指している原告にとって、中国へ
退去することを強制するのは、著しい不利益を強いるものといわざるを得ない。
加えて、未成年である原告が我が国に在留を続ける場合の経済的基盤、養育・監護の具
体的方法に関しては、本件裁決時においても指摘できることとして、⑦仮に父母が帰国し、
原告ら兄妹のみが我が国にとどまった場合でも、兄妹で支え合うことが十分想定できたと
ともに、里親委託の制度が利用でき、養育に適した家庭の下で公的扶助を受けながら学業
を続けることが可能であったこと、⑧多数の支援者が求める会を結成し、相当額の寄付を
集めるなど物心両面の組織的な援助が見込める状況にあったこと、⑨母・Cが受けられる
交通事故の保険金等、学費や生活費に振り向けることができる相当額の原資もあり、原告
ら兄妹にはアルバイトの経験があって、そこから収入を得ることも可能であったことが認
められる。
イ 原告の帰責事由等
他方で、原告が不法上陸及び不法滞在の状態に至った経緯に関して、⑩父・BはEとの
血縁関係を偽装して我が国での在留資格を騙取したというべきものであって、その子であ
る原告も父のこうした違法行為に基づいて上陸許可を得て、偽りの在留資格を取得できた
とはいえるものの、当時小学校低学年に相当する年齢であった原告は、Eが父の母であっ
て実の祖母であると信じており、事情も分からないまま父母に連れられて我が国に入国し
てきたにすぎないものであること、⑪我が国への入国時の上陸許可や在留中の在留期間更
新許可の手続も専ら父・Bが行っており、原告自らがこれを行ったことはないことが認め
られる。したがって、原告が不法上陸及び不法滞在の状態に陥ったこと自体については、
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原告の責めに帰することはできない。
もちろん、子の年齢・具体的な境遇によっては、不法上陸・不法滞在に係る違法行為を
した親との間でなお全面的な依存関係にあり、我が国において子が滞在を続ける独立した
利益を認め難いような場合もあり、そのような場合には、たとえ帰責事由のない子であっ
ても、正当な在留資格を有しない以上、これを養育する親とともに退去強制を受ける結果
となることもやむを得ないものと考えられる。
しかしながら、本件における原告にあっては、高校進学を目前に控えており、自身の意
思決定を相当程度尊重すべき年齢及び境遇にあったといえるところ、中国へ強制退去させ
られることになれば、突如として判明した父の違法行為によって、過去の努力を水泡に帰
し、あるいは、前記アでみたように、将来にわたり多くの時間の浪費を余儀なくされると
いう不利益がもたらされるのであって、努力を重ねて日本語及び相応の学力を身につけ、
社会・学校にも溶け込んで毎日を送っている原告にとってみれば、余りにも過大な負担で
あって著しく不当な結果が招来されるとみるべきものである。
ウ 被告らの主張の検討
a 被告らは、①原告が日本で教育を受けていたことは、不法上陸に基づく本邦での滞在
という違法状態の上に築かれたものであるから、直ちに法的保護を受ける筋合いのもの
ではない、②帰国した中国において言語や生活様式等の違いについて多少の困難が生ず
ることがあったとしても、そのような困難は、外国で長期間生活をした子女が本国に戻
った際に多々直面することである上、原告は可塑性に富む年齢であって、その父母が既
に本国に帰国して生活していることからしても、十分克服可能なものである、③原告は、
本件裁決当時、中学生であったところ、入管法上、中学生である外国人が扶養者である
両親と離れて単独で本邦に在留し、中学校に通学するという活動を想定した定型的な在
留資格は設けられておらず、我が国の出入国管理制度上、想定外のものであるから、原
告が本邦内で学習を継続したいという希望を有していることは、直ちに法的保護に値す
るものではないと主張している。
しかし、上記①については、既に前記イでみたとおり、原告が不法上陸及び不法残留
の状況に置かれていることについて、原告自身に責めに帰すべき点がないことを踏まえ
ると、原告は、その年齢及び境遇にかんがみて、我が国に滞在を続けるにつき、親とは独
立した利益を有しており、その利益は十分法的保護に値するものというべきであるし、
上記②については、中国に帰国した場合の困難についても、前記アでみたとおり、十分
克服可能であるとはいい難い上、仮に、克服自体は可能であったとしても、そこに生ず
る重大な不利益を斟酌すべきである。
また、上記③については、確かに、入管法別表第一の四では在留資格である「留学」及
び「就学」の活動内容として、それぞれ大学、高等学校等で教育を受けることを掲げてお
り、中学生以下についての規定はないが、これは、通常であれば、中学生以下の者が親等
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に同伴しており、家族滞在の在留資格をもって在留するものとすれば足りることによる
ものである。本件で問題になっているのは、両親とは別に原告自身に在留を特別に許可
すべきかどうかであって、別表第一に定型的に定められた在留資格に当てはまるかどう
かとは直接関係がないし、中学生以下についての規定を欠く趣旨が上記のようなもので
あるとすると、入管法上、中学生が本邦内で学習する利益が法的保護に値しないという
ことにはならない。ましてや、原告は、本件裁決時には、中学3年生であって、高等学校
の入学試験を控え直前の受験準備をしていたものであるから、いまだ高校生でないから
別表第一の四の在留資格に当たらないという形式的な理由により、保護に値しないなど
とするのは相当ではない。
したがって、被告らの上記各主張はいずれも理由がない。
b また、被告らは、④原告が里親委託されたこと、A兄妹支援団が結成されたことは、本
件裁決後に生じた事情であって、その適法性の判断に影響を及ぼさない、⑤原告の学資
は、本邦で原告の両親が不法に就労して得た金員を充当することが予定されており、原
告の通学活動を是認することは、不法就労を助長する要因となるので不相当であると主
張している。
しかし、上記④についてみると、まず、里親委託の制度は、本件裁決当時から客観的に
存在していたものであり、両親のみが帰国した場合には、条件が合致すれば、同制度に
基づいて養育・監護が図られることが予想されるものである。また、A兄妹支援団の結
成は、平成17年9月に行われたものであるが、平成16年12月11日には、メンバーをおお
むね共通にすると推測される、寄付金集め等の活動を行っている求める会が立ち上げら
れており、いずれにしても、本件裁決当時、原告ら兄妹に多くの支援者がおり、物心両面
でその援助を見込める状況にあったことに変わりはない。そして、実際に前記イキbの
とおり、その活動が発展して実行に移されているということが、翻って、本件裁決当時
の支援活動が具体的なものであったことを裏付ける間接事実と評価できるものである。
したがって、上記④で指摘されている点は、本件裁決を行うに当たっても、原告が我が
国に在留を続ける場合の経済的基盤、養育・監護の具体的方法として、考慮要素となり
得るものである。
さらに、上記⑤については、仮に、両親が本邦で就労して得た金員が原告の学資に充
当される可能性があるにしても、そのことによって不法就労を助長する結果になるとは
解し難い。すなわち、両親が保持している就労の対価をどのような使途に当てるかはそ
の意思にゆだねるほかないところ、それが原告の学資に振り向けられたからといって、
両親の不法就労を殊更容認することを意味しないし、外国人一般に対して不法就労の誘
因になるとも考えられない。
したがって、被告らの上記各主張もいずれも理由がない。 
c 被告らは、中国残留日本人孤児やその子孫の入国や滞在に関しては手厚い保護がされ
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ているところ、これを奇貨として、蛇頭などの組織的犯罪組織が関与して、中国残留日
本人孤児の子孫を装って入国するという看過できない違法な事態が発生しており、原告
ら一家の偽装工作の背後にも何らかの犯罪組織が関与している可能性も否定できないの
であって、本件で在留特別許可を認めるとするならば、我が国に入国しさえすれば、少
なくともその点に責任のない親族につき在留許可が認められるとの期待を増長させるこ
とになりかねないと主張する。
確かに、一般論としては被告らの懸念も無理からぬところではあるにせよ、被告らの
主張する「原告ら一家の偽装工作に対する犯罪組織との関与」はあくまでも疑いにとど
まるものであり、そもそも在留特別許可を判断するに当たっての個別の事情は、人に応
じて様々であって、原告における前記ア及びイのような特別な事情にかんがみれば、本
件について在留特別許可を与えるならば、被告らが主張するような懸念が現実化すると
単純に結びつけて考えるわけにはいかないといわざるを得ない。
エ 以上の検討によれば、原告において、我が国に在留し、通学しながら日本語で学習を続
ける利益は、十分保護に値するものというべきであり、原告の生活状況、学習状況及び言
語能力、さらには、中国に帰国した場合に生ずるであろう不利益を適正に認定・評価して
いれば、原告に対しては、当然に在留特別許可を付与すべきものであったと解するのが相
当である。
したがって、原告に在留特別許可を付与しないでした本件裁決は、被告らの上記ウにお
ける各主張にも照らせば、全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くこ
とが明らかであって、在留特別許可を付与するか否かについて法務大臣から権限の委任を
受けた被告東京入国管理局長に与えられた裁量権が極めて広範なものであることを前提と
しても、本件裁決は裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものであって違法というべ
きである。
 本件退令発付処分の適法性
本件裁決の通知を受けた被告主任審査官は、入管法49条5項により、速やかに当該容疑者に
対し、その旨を知らせるとともに同法51条の規定による退去強制令書を発付しなければならな
いものとされているのであるから、本件裁決が違法である以上、これに従ってされた本件退令
発付処分も違法であるといわざるを得ない。
3 結論
以上によれば、本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しの請求は、いずれも理由があるから
これらを認容し、その余の請求に係る訴え(原告の本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴
え)はいずれも不適法であるからこれらを却下する。

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