退去強制令書等執行停止申立事件
平成18年(行ク)第14号
申立人:A、相手方:国
広島地方裁判所民事第2部
平成18年10月17日

決定
主 文
1 広島入国管理局主任審査官が申立人に対して平成18年9月7日付けで発付した退去強制令書に基づく執行を本案事件の一審判決の確定又は同判決言渡しの日から30日を経過する日のいずれか早い時まで停止する。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は二分し、その一を申立人の、その余を相手方の負担とする。
事実及び理由
第1 申立ての趣旨
広島入国管理局(以下「広島入管」という)主任審査官が申立人に対して平成18年9月7日付けで発付した退去強制令書に基づく執行を本案訴訟第1審判決の確定まで停止する。
第2 事案の概要
本案は、申立人が、①[A]広島入管入国審査官から平成18年8月17日付けで受けた出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)24号4号イに該当する旨の認定(以下「本件認定」という)、[B]本件認定についての口頭審理における判定に対する異議申出に理由がない旨の広島入管長の裁決(以下「本件裁決」という)の各取消しを求めるとともに、②上記各処分を前提とする広島入管主任審査官が申立人に対して平成18年9月7日付けでした退去強制令書発付処分(以下「本件退令処分」という)が違法であるとしてその取消しを求める事案であり、本件は、申立人が行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)25条2項本文に該当する事由があるとして、本件退令処分の執行を本案の第1審判決確定に至るまで停止するよう求める事案である。
1 前提事実(争いない事実を除き、疎明により認定した事実は疎明資料を該当個所に掲記する) 申立人は、1976年7月×日出生した中国国籍を有する外国人である。
ア 申立人は、平成13年4月5日広島空港に到着し、a日本語学校への入学を理由として広島入管入国審査官から在留資格「就学」、在留期間1年の上陸許可を受けて本邦に上陸した。同年10月11日、広島入管において許可期限を平成14年4月5日とする入管法19条2項所定の資格外活動許可を受け、同月9日、広島入管においてb大学への入学を理由として在留資格「留学」、在留期間2年の在留資格変更許可を受けた。同年5月15日、広島入管において許可期限を平成16年4月6日とする前同様の資格外活動許可を受け、同年3月26日、広島入管において在留期間2年とする在留期間更新許可を受けた。そして、平成18年4月10日、広島入管においてb大学大学院への入学を理由として、在留期間2年とする在留期間更新許可を受けた(乙1〜3)。
イ この間の平成17年9月21日申立人は長女を出産した(乙10)。
ウ 申立人は、上記資格外活動許可の内容に違反して平成14年12月頃から平成16年5月頃までの間ラウンジ「c」で、さらには入管法19条2項所定の許可を受けることなく平成16年6月頃から平成17年2月頃までの間スタンド「d」、平成17年11月21日頃から平成18年6月15日頃までの間ラウンジ「e」、平成18年5月18日から同年7月14日までの間ラウンジ「f」で、それぞれホステスとして不法就労活動に従事してきており、「c」では1週間に4日、1日5時間、時給2000円ないし3000円、「d」では1週間4日、1日5時間、時給2800円、「e」では1週間に5日、1日3時間ないし5時間、時給2500円、「f」では1週間に6日、1日5.5
時間、時給2800円という待遇であった(乙5、6、10)。
ア 広島入管入国警備官は、平成18年7月14日、「f」を摘発し、その際、申立人の不法就労事実を確認した(乙4)。
イ 広島入管入国警備官は、平成18年7月31日及び同年8月16日、申立人に係る違反調査を実施し、申立人から事情を聴取した。そして、広島入管主任審査官は、同月15日、申立人が入管法24条4号イ(資格外活動)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして収容令書を発付し、同月16日、広島入管入国警備官が収容令書を執行して申立人を広島入管収容場に収容した。広島入管入国警備官は、翌17日、申立人を同法24条4号イ該当容疑者として広島入管入国審査官に引き渡した。広島入管入国審査官は、同日、広島入管において申立人に係る違反審査をして本件認定をし、申立人にこれを通知した(乙5〜12)
ウ 申立人は、同日、特別審理官による口頭審理を請求した。申立人は同月18日西日本入国管理センターに移収され、同年9月4日、広島入管特別審理官は同センターにおいて口頭審理を行った結果本件認定に誤りはない旨判定して申立人にその旨通知した。(乙8、10、13〜15)
エ 申立人は、同日、法務大臣に対し、異議の申出をした。入管法69条の2及び同法施行規則61条の2により法務大臣から権限の委任を受けた広島入管長は、同月7日、上記異議申出に対して本件裁決をし、同日広島入管主任審査官に同裁決を通知した。なお、本件裁決の際、併せて同法50条による在留特別許可をしない旨の決定(以下「本件決定」という)をした(乙16〜18)。
オ 同日、同通知を受けた広島入管主任審査官は申立人に本件裁決を告知するとともに本件退令処分をし、広島入管入国警備官は本件退令処分を執行した(乙19、20)。
カ 申立人は、上記各処分を不服として、同月27日、当裁判所に対し、上記各処分の取消しを求める本案訴訟を提起した。
キ 申立人は現在西日本入国管理センターに収容中である。
2 争点及び当事者の主張の概要
 本案について理由がないとみえるといえるか否か
ア 相手方の意見の概要
本件は「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25条4項)に該当し、不適法である。
ア 本件認定の適法性
申立人には入管法24条4号イ所定の退去強制事由がある。
a 同法24条4号イに規定する活動を「専ら行つている」とは、在留目的たる活動が在留資格たる活動から変更されたと評価できる程度まで在留資格外の活動を行っていることをいう。
ところで、法は在留資格制度を採用し、「留学」の在留資格の場合に許される活動は入管法別表第一の四のものに限定されるとともに報酬を受ける活動は禁止される(同法19条1項2号)。そして、同法施行規則6条の規定により、同在留資格を得るために経費支弁能力が要件とされている。すなわち、入管法は就労しつつ勉学する活動を行う外国人に留学の在留資格を付与することを予定しておらず、同資格で在留する外国人が資格外活動を行って本邦滞在中の必要経費をまかなおうとしている場合は入管法24条4号イの事由があると解すべきである。
b 本件では、申立人は、懐妊中及び産後の一時期を除き平成14年12月頃から勤務先の摘発日である平成18年7月14日までの間、資格外活動許可を受けることなく風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風俗営業法」という)2条所定の風俗営業を営む店舗のホステスとして稼働していたもので、そのようなホステスとしての稼働はそもそも資格外活動許可の対象外である。稼働状況は、例えば、平成18年7月については2日、9日以外は連日概ね午後7ないし8時頃から4ないし6時間程度であった。
そして、平成17年11月から平成18年5月までで合計約120万4500円、平成18年5月から同年7月までで57万円の報酬を受け、約100万円の蓄財をするに及んでいる。
以上によれば、申立人は本邦滞在中の必要経費の多くを上記不法就労に依拠しており、在留目的たる活動が留学から変更されたと評価できる程度まで在留資格外の活動を行っているから、これを「専ら行っていることが明らか」(入管法24条4号イ)である。
イ 本件裁決及び本件退令処分の適法性
法務大臣の申立人に在留特別許可を付与しない旨の判断が裁量権の濫用ないし逸脱であるとされる余地はなく、本件裁決及びこれを前提とする本件退令処分は適法である。
イ 申立理由の概要
次のとおり本件認定処分、本件退令処分及び本件裁決はいずれも違法であるから、「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25条4項)に当たらない。
ア 入管法24条4号イの退去強制事由に当たらないこと(本案における主位的主張)
入管法24条4号イの退去強制事由は、当該活動の継続性、有償性、生計等の依存度、本来の在留資格に基づく活動の有無又は程度等を総合的に勘案し、当該外国人の活動が、その有する在留資格に属する者の行うべき活動から、他の在留資格に属する者の行うべき活動に変更されてしまったと認められる状態にあることをいう。
a 申立人は、日本語能力検定1級に合格して平成14年4月にb大学に特待生の待遇で入学し、平成18年3月に卒業して同年4月に同大学大学院に入学した。この間、平日の昼間はほぼ毎日授業に出席して軒並み好成績をあげており、大学院を修了した後は知人の推薦を得てg銀行東京支店に勤務する見込みがあり、これを希望している。
b 申立人は、平成14年12月以降クラブのホステスとして夜間稼働するようになった。勤務時間帯は夜8時から12時などであり学業に支障はなく、ホステスとしての就労で得た給与収入を本国に送金したようなこともない。稼働に当たって許可が必要であるという認識もなかった。したがって、申立人の不法就労に関する犯情は悪質とはいえない。
c 申立人に対する刑事処分である起訴猶予処分も入管法73条(報酬活動を専ら行っていたとはいえない場合)を前提として行われた。
以上のような学業の状況、稼働状況、刑事処分の結果に照らし、少なくとも「専ら」入管法24条4号イに該当する活動をしていたとはいえないから、本件認定は違法である。
イ 本件裁決の違法性(本案における予備的主張)
仮に形式的には退去強制事由に該当するとしても、申立人の在留活動の経過その他本件に関する一切の事情に鑑みれば、申立人に対しては在留を特別に許可すべき事情があることは明らかであって、これを付与しない旨の判断を行った本件裁決には裁量を逸脱した違法があり取消しを免れない。
ウ 本件退令処分の違法性
以上によれば、本件裁決処分及び本件裁決を前提とする本件退令処分も違法であり取消しを免れない。
 重大な損害を避けるための緊急の必要の有無
ア 申立理由の概要
本件退令処分の執行により身体・移動の自由が害され、同処分の収容部分の執行により学問の自由が侵害される。これらの自由はいずれも憲法によって保障されるところであって、損害の性質は極めて甚大である。
また、送還部分の執行により申立人は後期日程に復学できず大学院を卒業することが現実的に困難を極め、そうなればg銀行東京支店への就職の推薦を得る時機も逸する結果となる。また、本案訴訟の立証活動にも著しい支障をきたす。したがって、送還部分の執行がなされることによる損害の程度は甚大である。
収容部分についても、①申立人は現在までの収容により肉体的・精神的疲労の極に達し、情緒も不安定になっていること、②大学院の後期日程は既に開始しており、平成19年1月には試験が予定されているところ、申立人が留年すれば現在は成績優秀を理由として免除されている年間約65万円の授業料と施設使用料の支払義務が生じ、さらに収容が長期間にわたれば除籍もあり得るため、申立人の本邦における努力が水泡に帰する危険があること、③長期間収容が続けば家族(幼い長女や腰痛のため日常生活に支障のある夫)とともに生活することができない状態が続くことなど、収容部分の執行により重大な損害が発生することになる。
したがって、重大な損害を避けるための緊急の必要(行訴法26条4項)がある。
イ 相手方の意見の概要
①退去強制令書発付処分は単に送還のために身柄を確保するのみならず退去強制令書の発付を受けた者を隔離してその者の我が国におけるこれ以上の在留活動を禁止する趣旨を含むこと、②入管法は在留資格を有せず入国管理局の管理下にないような外国人の本邦における存在を予定していないこと、③そもそも入管法は収容により被収容者の移動の自由が制限されそれに伴って精神的苦痛等の不利益が生ずることを当然に予定しているから、収容部分の執行により被収容者が受ける損害は「重大な損害」には当たらないし、収容によりある程度の損害が生ずるとしても収容者にはできる限りの自由が認められているうえ仮放免の制度を設けて事案に応じた対応を可能としていることなどに照らし、退去強制令書発付処分により維持される行政目的達成の必要性を一時的に犠牲にしてもなお救済しなければならないほど「重大な損害」が生ずることはない。
 公共の福祉への重大な影響の存否
ア 相手方の意見の概要
収容部分の執行が停止されれば①在留資格のない外国人の違法不当な在留活動の防止という収容の目的を達成し得ず、行訴法44条が排除したはずの民事保全法に規定する仮処分によって仮の地位を与えたのと同様の結果となること、②逃亡防止の手段がないこと、③不法入国、不法残留した外国人による濫訴を誘発・助長することから、本件退令処分の執行停止は「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(行訴法25条4項)に該当する。
イ 申立理由の概要
申立人は身柄が解放された場合は住所地で夫とともに生活し学業に専念することを誓っていること、夫も身元を引き受けることを誓約していること、大学院への復学を強く望んでいることからすれば、再度資格外活動をすることは到底考えられず、公共の福祉に影響を及ぼす危険性はない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実、疎明資料(甲2〜18、乙5〜7、10、13)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が一応認められる。
 学業の状況
申立人は平成14年4月にb大学経済科学部に入学して平成18年3月に卒業し、同年4月からb大学大学院経済科学研究科に在籍して金融論を専攻している。同月11日、同年度前期後期ともそれぞれ講義各4コマ及び集中講義1コマの履修登録をした。
講義には病気の場合を除いて必ず出席しており無断欠席をすることはなく、大学院進学後も、所用で帰国していた平成18年4月25日から同年5月16日までの間(講義があったのはそのうち7日間)と当局による身柄拘束中以外は全て出席しており、大学側からは出席状況は非常に良好であると評価されている。講義が終わった後も大学図書館に残って資料の調査・レポート作成・金融政策の勉強などに勤しみ、帰宅は通常午後4時ないし5時頃であった。
成績も、学部においては全取得単位数73科目140単位のうちAA(90〜100点)が7科目13単位、A(80〜89点)が32科目68単位等、大学院の平成18年前期に履修した5つの授業科目の成績も全てA(80〜100点)であるなど良好で、学部、大学院とも授業料等免除の特別待遇を受けている。なお、指導担当のB・経済科学部教授によれば、申立人は与えられた課題はこなしていたが最近ははっきりとした進歩がみられず停滞気味であると評されている。
申立人は、B教授を尊敬し、今後も少なくとも大学院修士課程を修了するまでは日本に在留して同教授の下で勉強を続けたいと考えている。大学側からは大学院で良い論文を書けば国籍国のg銀行の東京支店への就職の推薦が得られると言われており、それが不可能でも日中関係に関わる業務に就きたいという希望を強く持っている。
申立人の在籍する大学院の後期課程が既に平成18年9月20日に開始されており、平成19年1月中旬には試験が予定されている。
また、広島入管宛てで、大学教授や大学院生から、申立人の学業の継続を願う趣旨の嘆願書が少くとも8通寄せられた。
 稼働の状況
申立人は、前記前提事実のとおり、平成14年12月頃以降ホステスとして不法就労を始め、平成18年6月18日から同年7月14日までの間はラウンジ「f」で稼働していた。同店では1週間に6日、午後7時ないし8時頃に出勤して約5.5時間働いており、時給は最初の2か月間は2800円、その後は3000円であった。稼働状況は、平成18年5月が12日間、6月が26日間、7月が12日間などであった。申立人がホステスを選んだのは、学費と生活費等のために学業に影響を与えないように短時間・高収入の仕事に就きたかったためである。
申立人の不法就労事実が確認された後、申立人がホステスとして稼働した事実を認めるべき疎明資料はなく、入国警備官による第1回取調べを受けた平成18年7月31日には職業をホステスとしていたが第2回の取調べを受けた同年8月16日には学生としている。
なお、申立人は資格外活動の許可を得ないで就労することやホステスとして稼働することが違法であるかもしれないことは感じ取っており、広島入管に対しても稼働の事実を秘匿しつつ継続してきたものである。
 申立人の生活状況等
申立人は、本邦の住居が衛生面で問題があるなどとして、平成18年4月26月に帰国した際長女を夫の両親に預けてきた。その後広島市内の市営住宅に転居し、収容当時夫・Cと妹と共に生活するとともに、転居により衛生面の問題がなくなったことから8月には子を本邦に引き取って養育する予定であった。
Cは、広島入国管理局宛てに、申立人が逃走したり資格外活動をしたりしないよう監督することを誓約する旨の平成18年8月19日付け身元引受書(甲18)を提出した(申立人自身も、同年7月31日の入国警備官の取調べに対し、呼出しがあればできる限り応ずることを約束している)。なお、Cは腰部打撲傷により平成18年9月9日頃14日の安静加療を要する傷害を負い、本件申立て当時、日常生活に支障をきたす状態にあった。
2 判断
以上の事実によれば次のようにいうことができる。
 本案について理由がないとみえるといえるか否か
ア 申立人が入管法「第19条第1項の規定に違反して(中略)報酬を受ける活動を(中略)行つている」ことは明らかであって、その期間及び報酬額も看過できないというほかない。
イア 入管法は、19条1項2号において留学資格の外国人が報酬を受ける活動を行うことを禁止しながら、これを「専ら行っている」者でなければ退去強制事由には該当しないものとしている。すなわち、同法は、同号に違反することが直ちに退去強制事由に該当することとしているわけではなく、このことは同法24条4号イをそのまま犯罪構成要件とする同法70条1項4号と同法78条とを比較することによっても明らかである。また、同法19条2項は同条1項所定の者に対しても報酬を受ける活動を行うことを許可する余地を設けて、現実に即した柔軟な対応を図ろうとしている。
上記のような入管法の態度に照らすと、報酬を受ける活動を「専ら行つている」とは、当該活動の内容、継続性、有償性、生計等の依存度、本来の在留資格に基づく活動の有無・程度等を総合的に勘案して、外国人の在留目的がその有する在留資格に属する者の行うべき活動から報酬を受ける活動に変更されてしまったものと認められる程度に当該活動を行っていることをいうものと解される。そして、留学の在留資格についてそのようにいえるためには、少なくとも、報酬を受ける活動の目的が本邦に在留する期間中の生活費用の一部を支弁する程度を超えていると認められる場合や当該活動が原因で留学の在留資格において通常期待される勉学活動が行われず、又は近い将来これが行われなくなることが確実視されるような状況にあることを要し、たとえ報酬を受ける活動を継続的に行っていたとしても、それだけでは単に入管法19条1項2号に該当するにとどまり、直ちに同法24条4号イに該当するものということはできない。
これに対し、相手方は、留学の在留資格は経費支弁能力を前提としており、学業と就労を共に行うような在留資格は認められていないから、そのような活動を行っていれば留学とは異なる在留資格に基づく活動を専ら行っていることになるなどと主張する。しかし、そのような解釈では、留学を在留資格とする者が就労することは直ちに入管法24条4号イの退去強制事由に該当することとなって上記入管法の採る態度と整合せず、「専ら」の文理(ちなみに、広辞苑によれば「その事ばかり。それを主として。全く」を意味するとされて
いる)を離れたものであるという譏りを免れないし、入管法24条4号イの事由がそのまま犯罪構成要件ともされており(同法70条1項4号)明確性が要請されることにも照らし、相当でない。
イ これを本件についてみると、①申立人が就労していた時間は夜間であって大学院における講義・研究の支障にならない時間帯が選択されていたこと、②1週間の稼働時間も大学院生が正規の資格外活動許可を得た場合に行い得る28時間を大きく超えていたものとはいえないこと、③申立人は、大学、大学院在籍中も特別の事情がない限り講義には出席し、成績も良好で授業料等の免除を受けるほどの成績をあげていたことなどに照らし、就労活動が在留資格の目的である修学の妨害となっているわけではなく、申立人において留学の在留資格において通常期待される以上の勉学活動を行っており、④申立人の就労期間が長く、この間の収入が相当額に上ることはたやすく推認できるところではあるものの、就労の目的・態様や必要性などこの間の事実関係やその評価のためには本案における審理を尽くす必要があるから、申立人の在留目的が留学の在留資格に属する者の行うべき活動から入管法24条4号イに定める活動に変更されてしまったとは評価し得ないという余地があるといわねばならない。
したがって、申立人に同法24条4号イに規定する事由があるとは即断し難く、本件は「本案について理由がないとみえるとき」に当たらない。
 重大な損害を避けるための緊急の必要の有無
アア 行訴法25条2項にいう「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」とは、処分の執行等によって維持される行政目的の達成の必要性とその執行によって申立人が被ることあるべき損害とを当該損害の回復の困難の程度を視野に入れつつ考慮して、行政目的の達成を一時的に犠牲にしても申立人に救済を与えなければならない緊急の必要性があるかどうかを判断すべきである。もっとも、同法の定める執行停止の制度が処分の取消しの訴えの提起が当該処分の効力等を妨げないことを前提とし、その後に勝訴判決を得たとしてもそのことによっては申立人の救済の実効性を挙げることができないことを回避する目的に出たものであることに照らせば、損害回復の困難の程度は損害の重大性の判断を大きく左右するものと解すべきである。
イ 他方、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかは、専ら当該国家において自由に決定できるものとされており、我が憲法においても外国人に対して本邦に入国ないし在留する権利ないし自由を認めるべきことは規定されていないのであって、我が国の入管法は在留資格制度を採用し、個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目しその活動内容に応じた在留資格を取得させ、本邦への上陸及び在留を認めることとしているところである。
そして、退去強制令書の発付処分は、その名宛人を送還するために身柄を確保するとともに、本邦における違法な在留活動を爾後抑制するなどの行政目的によるものであるから、身体の自由を制限すべき必要性ないし緊急性が高く、これに代わる手段を見出し難い。
ウ したがって、退去強制令書の執行によって名宛人の身体の自由が制限されることは、その態様及び期間が合理的なものであって、被収容者においてその身体の自由に対する制限によって重大な損害を被ることを避けるための緊急の必要がある特段の事情がない限り、原則として許されると解すべきである。
イア 前記認定事実によれば、申立人の在籍する大学院の後期課程が既に平成18年9月20日に開始されており、平成19年1月中旬には試験が予定されていることから、早期に後期課程に復学しなければ特待生としての授業料の免除等も受けられなくなるとともに、大学の推薦を得てg銀行東京支店に就職する道も閉ざされることになるおそれが大きいことはたやすく推認される。さらに収容が長期間に及べば大学からの除籍という事態を招来するおそれも否定できず、その場合再度我が国の大学院に再入学することは事実上不可能となる危険性も否定できない。したがって、本件退令処分のうち収容部分を執行すれば申立人がこれまで積み重ねてきた我が国における勉学の成果、しかも卓越した成果が水泡に帰する結果となり、そのことが申立人の今後の人生に大きな影響を及ぼすという意味で回復困難な損害を受ける蓋然性が高い。
なお、相手方は、入管法は収容により被収容者の移動の自由が制限されそれに伴って精神的苦痛等の不利益が生ずることを当然に予定しているのであり、収容によりある程度の損害が生ずるとしても被収容者にはできる限りの自由が認められているから、収容部分の執行により被収容者が受ける損害は「重大な損害」には当たらないという趣旨の意見を述べる。しかし、前記のとおり申立人において被ることあるべき損害が収容によって当然に生ずる類型的な損害にとどまるものということはできないから、相手方の前記意見は失当である。
イ 退去強制令書発付処分の収容部分の執行は、単に送還のために身柄を確保するのみならず、退去強制事由該当者の我が国におけるこれ以上の在留資格に反する活動を阻止する趣旨が含まれることは前述のとおりである。
本件においては、申立人が資格外活動許可を取って適法な就労をするのではなく違法かも知れないことを認識しながら安易にホステスとして平成14年以降長期間にわたって稼働してきたとはいえ、その主要な目的は学生生活を維持することにあったものとみられるし、申立人が5年以上にもわたって本邦で勉学に励んできたこと、現在既にホステスを辞め、復学を強く希望し、大学院で研究活動を行い質の高い論文を書いて学位を取ればg銀行東京支店への就職も期待できるから、復学には多大な利益を有していることに加え、夫
が身元引受人を申し出ており申立人の監督を引き受けると誓約していることや長女を本邦で育てる予定であることなども総合すると、早期に復学できさえすればこれまでの努力を無にして家族との生活を崩壊させるようなことは厳に慎むであろうことが期待される。また、学費については免除されているし、生活費についても夫の稼働、親族からの仕送りや適法な就労によってまかなうことが不可能であるとはいえないから、少なくとも本件に関する一審の司法判断があるまでは生活費等を得るために不法就労を行わざるを得なくなる
というような事態も具体的には想定し難い。
したがって、在留資格に反する活動を阻止するという目的のために収容部分の執行という手段を用いる必要性、合理性は低い。
ウ 以上のとおり、収容部分の執行継続による申立人の学業に与える損害は回復困難な程度に達する蓋然性があるのに対し、行政目的を達するために収容部分の執行という手段によらなければならない必要性があるとはいえず、このことはより重い処分である送還部分についても同様であるから、退去強制令書の執行による行政目的の達成を一時的に犠牲にしても申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるというべきである。
エ 仮放免制度(入管法54条)の存在は上記判断を左右するものではない。その他相手方が縷々主張する点はいずれも抽象的に過ぎ失当である。
ウ なお、一審判決後は判決の結論を踏まえて改めて執行停止の可否を判断するのが相当であるから、本件退令処分の執行は、本案事件の第1審判決の確定又は同判決言渡しの日から30日を経過する日までのいずれか早い時まで停止するのを相当とする。
 公共の福祉への重大な影響の存否
相手方がこの点に関して主張するところはいずれも抽象論に過ぎずそれ自体失当である。また、一件記録によっても、本件退令処分の執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると評価し得るような事実の存在を認めることはできない。
また、申立人において被ることあるべき重大な損害の内容は申立人固有の特殊な事情に基づくものであるから、本件において執行の停止を認めることが他の事例に及ぼす影響は大きくないと思料される。
3 小括
よって本件申立ては本件退令処分の執行を本案事件の第1審判決の確定又は同判決言渡しの日から30日を経過する日までのいずれか早い時まで停止することを求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定をする。

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