退去強制令書執行停止申立事件
平成18年(行ク)第13号
申立人:A、相手方:国
広島地方裁判所民事第1部(裁判官:坂本倫城・榎本光宏・吉田桃子)
平成18年10月27日

決定
主 文
1 処分行政庁が申立人に対し平成18年9月7日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本案事件(当庁平成18年(行ウ)第28号)の第1審判決言渡しの日から起算して30日後まで停止する。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は相手方の負担とする。
事実及び理由
第1 申立ての趣旨
処分行政庁が申立人に対して平成18年9月7日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本案事件(広島地方裁判所平成18年(行ウ)第28号退去強制令書発付処分等取消請求事件)の第1審判決の確定まで停止する。
第2 当事者の主張
本件申立ての理由は別紙1に、これに対する被申立人の意見は別紙2に、それぞれ記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 本件疎明資料によれば、本件の経過について、次の事実が一応認められる。
 申立人の身上
ア 申立人は、中華人民共和国(以下「中国」という。)国籍を有する1977年(昭和52年)《日付略》生まれの女性である。
イ 申立人は、現在独身であり、身柄を拘束される前は、中国人の姉(在留資格「留学」でa大学大学院に留学中)・姉の子供(在留資格「家族滞在」)・姉の夫(姉が大学に行っている間の家事をしているほか、「b」でアルバイトをしている。)と暮らしていた。
(疎甲8、疎乙1、8)
 申立人が従前本邦に上陸・滞在した経緯
ア 申立人は、平成15年8月5日、福岡空港に到着し、在留資格「興行」、在留期間3月の上陸許可を受けて入国した。入国後は、大分県所在の興行店「c」で稼動し、3月の更新許可を受けた後、平成16年2月5日、福岡空港から出国した。
イ 申立人は、平成16年6月6日、福岡空港に到着し、在留資格「興行」、在留期間6月の上陸許可を受けて入国し、前記「c」でダンサー兼ホステスとして稼動した後、平成16年12月4日、福岡空港から出国した。
(疎乙1、5、8、11)
 申立人が今回本邦に上陸・滞在した経緯
ア 申立人は、平成17年9月1日、広島空港に到着し、広島入国管理局入国審査官から、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)別表第一所定の在留資格「短期滞在」、在留期間90日の上陸許可を受けて本邦に上陸した。このとき、申立人は、入国の目的は出産する姉の世話であるとしていた。
イ 申立人は、平成17年12月5日、在留期間90日の在留期間更新許可を受けた後、平成18年3月27日、d専門学校への入学を理由として、在留資格「留学」、在留期間1年(平成19年2月28日まで)とする在留資格変更許可を受けた。在留資格変更の際の申請書には資格外活動をしていない旨記載されている。
(疎乙1、3、4、8、24)
 申立人の本邦における就学状況
ア 申立人は、広島市中区所在のd専門学校のファッションクリエーター学科1年生として在学中である。
イ 申立人の平成18年4月10日から同年7月14日までの出席状況は、出席日数が54日(294単位)、欠席日数が13日(99単位)であり、欠席日数のうち8日間はゴールデンウイークを使って中国に帰国した際のものである。そのほかの5日間については病欠(うち2日が無断欠席)であるが、この5日間について、申立人はいずれも夜はホステスとして稼働していた。
ウ 申立人は、日本語で授業を受けることもさほど支障がない程度の日本語能力を有し、どの授業にも真面目に取り組んでおり、前記イの帰国の際も課題は遅れることなく提出していた。申立人の、同校における平成18年度1学期の成績は、ソーイング、就職対策、流行通信、服飾手芸及びパターンメイキングⅠがA(優れている)、クロッキー、デザインⅠ、マテリアル、ファッションマーケティングⅠ及び選択科目がB(やや優れている)、フラットパターン、商品知識、カラーリングⅠ及びメイクがC(普通・良い)、一般教養がD(やや劣っている)であった。
(疎甲2、3、4、6、乙3、5)
 申立人の就労活動
ア 申立人は、入国後これまでに資格外活動許可は一度も受けたことがない。
イ 申立人は、ア平成17年9月10日ころから平成18年1月ころまでの間、広島市中区所在のスナック「e」において、イ同年1月ころから同年2月20日ころまでの間、山口県宇部市所在のパブ「f」で、ウ同年3月2日ころから同年5月13日までの間、広島市中区所在のラウンジ「g」において、エ同年5月15日から同年7月14日までの間、広島市中区所在のラウンジ「h」において、それぞれホステスとして就労した。
ウ 前記イアでの申立人の稼動条件は、勤務時間は午後8時から翌午前1時、休日は日曜日であり、時給は3000円で、同伴出勤の制度もあった。申立人は、同店において、給料として合計約80万円を受け取った。
エ 前記イイでの申立人の稼働条件は、勤務時間は午後7時から翌午前2時、休日は第一・第三日曜日であり、日給は1万2000円〜1万3000円であった。申立人は、同店において、給料として合計約20万円を受け取った。
オ 前記イウでの申立人の稼働条件は、勤務時間は午後8時から翌年前1時、時給は2800円であった。申立人は、別紙3のとおり、3月に20日間、4月に18日間、5月に5日間の合計43日間勤務し、給料として、3月分として27万1000円、4月分として23万1000円、5月分として7万円の合計57万2600円を受け取った。
カ 前記イエでの申立人の稼働条件は、勤務時間は午後7時から翌午前0時30分、休日は日曜日であり、時給は5月〜6月が2800円、7月が3000円であったが、同伴出勤すると1回500円が支払われ、また皆勤賞になると2万円が支払われることになっていた。申立人は、別紙4のとおり、5月に16日間、6月に26日間、7月に12日間の合計53日間勤務し、給料として、5月分として21万5490円、6月分として39万4510円(皆勤賞を含む)の合計61万円を受け取った。また7月分として17万8800円を受け取るはずであったが、未払になっている。
キ 申立人は、上記のとおり稼いだ金銭のうち、100万円を専門学校の入学金や授業料に、10万円を学校に払う雑費に、10万円を中国への帰国費用に、70万円を貯金にあて、生活費は交通費を含め毎月5万円であった。
(疎甲6、10。疎乙1、2、3、4、5、8)
 申立人についての刑事処分
平成18年7月14日、広島県警察本部及び同広島東警察署員は、入管法違反(不法就労助長罪)を被疑事実として、申立人がホステスとして稼動していた前記イエの「h」の捜索差押えをした。その後申立人は逮捕されたが、同年8月4日に不起訴処分となり釈放された。
(疎乙1、2、25)
 広島入国管理局による処分
ア 広島入国管理局入国警備官(以下「入国警備官」という。)は、平成18年7月14日、広島県警察本部警察官らと共に前記「h」を摘発した。
イ 平成18年8月15日、申立人について法24条4号イ該当容疑により収容令書が発付され、翌16日、申立人はその執行を受けて広島入国管理局収容場に収容された。
ウ 広島入国管理局入国審査官(以下「入国審査官」という。)は、平成18年8月17日、違反審査の結果、前記イウエにおける就労が法24条4号イの資格外活動に該当すると認定した(以下「本件認定」という。)。同日、これに対し、申立人は口頭審理の請求をした。
エ 広島入国管理局特別審査官は、平成18年9月4日、口頭審理の結果、上記ウの認定に誤りがない旨判定した。同日、これに対し、申立人は法務大臣に対する異議の申出をした。
オ 法務大臣から権限の委任を受けた広島入国管理局長は、平成18年9月7日、申立人からの上記エの異議の申出に理由がない旨の裁決をした(以下「本件裁決」という。)。
カ 本件裁決の通知を受けた広島入国管理局主任審査官は、平成18年9月7日、申立人に対し本件裁決を告知するとともに、退去強制令書(以下「本件退令」という。)を発付した(以下「本件退令発付処分」という。)。
(疎乙1、2、6、8、9、10、11、13、14、15、16、17、18)
2 執行停止(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)25条2項)は、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害(以下「重大な損害」という。)を避けるため緊急の必要があるときにすることができるものとされ、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、これをすることができないものとされている(同法25条2項・4項)。以下各要件について検討する。
3 重大な損害を避けるための緊急の必要があるか否かについて
 重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(行訴法25条3項)。
 本件で申立人が執行停止を求めるのは、処分行政庁が申立人に対して平成18年9月7日付けで発付した退去強制令書に基づく執行であり、これは申立人を中国へ送還する部分(以下「送還部分」という。法52条3項)と申立人を収容する部分(以下「収容部分」という。法52条5項)とに分けられる。
送還部分については、これが執行されれば、申立人としては、本件本案訴訟の追行が非常に困難になる上、仮に本案事件について勝訴判決を得ても、送還前に置かれていた現状に回復することが非常に困難になる。したがって、収容部分については、重大な損害を避けるための緊急の必要があるということができる(相手方も、収容部分について「重大な損害を避けるための緊急の必要」があることは争わない。)。
 収容部分について、退去強制令書に基づく収容処分は、同令書による送還のために身柄を確保するとともに、退去強制事由に当たる在留活動を禁止することを目的として、退去強制令書の発付を受けた者を一定の場所に収容するものである。
そこで、本件において、かかる処分により申立人に生じる損害の性質及び程度、その損害の回復の困難の程度を検討する。
前記1のとおり、申立人は、無断欠席は2日あるが課題は全て提出されているなど、同専門学校への通学態度や成績は比較的良好である。この点については、同専門学校の担任教師も、「どの授業にも興味を持ち、真面目に取り組んでおり、課題も遅れる事なく、出しています。熱心に勉強しておりますので、日本語での授業でも不自由は感じていないようです。クラスの中にも打ち解け、中国に興味のある生徒にも快く話をしてくれますので、学生同士、交流も深まっています。」と述べている(疎甲4)。また、前記1によれば、同専門学校入学後の申立人のホステスとしての稼働状況は、基本的に平日は毎日稼動していたものの、その稼動時間はおおむね午後7時から翌1時までの一日5時間〜5時間半であって、稼動先はいずれも同専門学校と同じ広島市中区所在である。そうすると、ホステスとしての稼動状況それ自体によって、申立人の同専門学校での学習が疎かになっていたと直ちに認めることはできない。
そうすると、申立人は、申立人なりに同専門学校で学ぶ努力をし、同専門学校の同級生らの中にとけ込んで、留学の在留資格を得た本旨を全うしようと学習を続けてきたものであると、一応認めることができるのであって、いわゆるオーバーステイなど、そもそもの在留資格が存せず滞在自体が違法である場合とは明らかに事案を異にするということができる。
証拠(疎甲10)によれば、申立人は収容によって二学期以降のカリキュラムを履修できておらず、今すぐ復学して履修しなければ卒業が見込めなくなる状態にあり、もしこのまま収容が継続され復学することができなければ、同専門学校から除籍処分を受けかねないこと、申立人は、同専門学校の初年度の学費を既に納入しているところ、同専門学校の規定により、納入金の返還はできない旨定められているために、このまま申立人が復学できなければ、この学費が無駄になることが一応認められる。そうすると、仮に申立人が本案事件について勝訴判決を得ても、本案事件の審理には相当の日数を要することにかんがみれば、判決を得たときには、申立人は、少なくとも、留学生にとって少額とはいえない授業料を再度納入し直さなければなら
なくなっており、さらには履修の遅れや除籍処分によって、もはや同専門学校へ復学して卒業することも期待できない状況になってしまっている可能性が高い。
翻ってみるに「申立人については、担任教員をはじめ、山口県在住のB、保証人である大分県在住のCが監督を約束していること(Cは平成18年8月8日に広島を来訪し申立人と話をしている)(疎甲4、5、6)、hアパートという安定した住居があり、生まれたばかりの娘がいる姉の家族と同居することができること、申立人本人も本件を反省し、引き続き同専門学校での学習を強く希望していることがうかがわれること(疎甲7)を一応認めることができる。
以上を総合的に考慮すれば、本件収容部分の執行は、送還のための身柄確保及び退去強制事由に当たる在留活動の禁止という目的のためにどうしても必要であるとまではいうことができず、また、かかる必要性の低さに比べて、申立人が受ける損害はあまりにも重大であるといわなければならない。
そして、上記のとおり、現在すでに同専門学校における申立人の履修に遅れが生じ、除籍処分になる可能性が生じていることを同専門学校校長が言明している(疎甲10)ことからすれば、申立人に対する執行停止は、重大な損害を避けるための緊急の必要があるということができる。
4 「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか否かについて
 法24条4号イは、強制退去の要件として、「第19条第1項の規定に違反して……報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる者」であることを定めている。
申立人は、前記1のとおり、法19条2項の法務大臣の許可を受けないでホステスとして稼動しており、「第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」を行っていた(この点は申立人もこれを争わない。)。
 そして、相手方は、申立人の稼働状況、稼動により得た報酬の額及びその使途等からすれば、申立人には本邦滞在中の必要経費を支弁する能力がなく、本邦滞在中の必要経費の多くを本邦での就労に依拠しているから、申立人の活動は、もはや「留学」の在留資格に基づく活動に該当するものではなく、申立人は報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められると主張する。
しかし、申立人が「報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる者」かどうかについては、申立人について認められる前記1の各事実に加えて、申立人の本邦における学生としての生活及び就労等の状況、就労に至った経緯、学費及び生活費の支出の状況、本国からの送金の状況及び使途等並びにこれらの事実の評価等に関し、更に本案における審理を尽くす必要があるのであって、現時点において、申立人の在留目的たる活動が「留学」から変更され、申立人が「報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる者」に当たるとは直ちにいうことはできない。
 以上によれば、申立人が法24条4号イに該当するか否かを現段階で直ちに決することはできないものであるから、本件は「本案について理由がないとみえるとき」には当たらない。
5 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に当たるか否かについて
相手方は、退去強制令書の発付を受けた外国人に対して、その収容部分の執行が停止されることになれば、仮放免における保証金納付などに対応する措置もなく、違法に在留する外国人を放任状態で在留させることになるのであって、かかる在留形態の存在は出入国管理に関する法体系を著しく乱し、本邦に不法に入国し又は不法に残留した外国人による濫訴を誘発、助長するもので、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると主張する。
しかしながら、前記1のとおり、申立人はそもそも在留資格を得て入国・滞在中の者であって、本件本案訴訟は、その在留資格にかかわらず申立人を国外へ強制退去させる処分の適法性を争っているのであるから、少なくとも、その第1審判決言渡しの日から起算して30日後までの間、その従前得ていた在留資格の下に申立人を本邦に在留させ、また収容を解いても、これが相手方が一般論として主張するような公共の福祉に対する重大な影響を及ぼすおそれがあるということはできない。
6 以上によれば、本件申立ては、本案事件の第1審判決の言渡しの日から起算して30日後まで本件令書に基づく執行停止を求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

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