難民認定をしない処分取消請求事件
平成17年(行ウ)第523号、第534号、第535号
原告:Aほか2名、被告:法務大臣
東京地方裁判所民事第2部(裁判官:大門匡・関口剛弘・倉地康弘)
平成19年3月28日

判決
主 文
1 法務大臣が平成16年3月16日付けで、原告らに対してそれぞれした難民の認定をしない処分
をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は、夫婦及び妻の連れ子である原告らが、ミャンマー連邦(以下「ミャンマー」という。)国
籍を有する外国人として難民認定申請をしたが、いずれも難民に該当しないこと及び平成16年法
律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法61条の2第2項の規定(難民認定申請の期
間制限)に違反することを理由に難民の認定をしない処分を受けたため、各処分の取消しを求め
ている事案である。
なお、以下、ミャンマー本国等の日本国外において生じた事象の年号については、西暦をもっ
て表記又は元号と併記する。
1 難民に関する関係法令の定め等
 難民の認定
出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)61条の2第1項は、「法務大臣は、本邦
にある外国人から法務省令で定める手続により申請があったときは、その提出した資料に基づ
き、その者が難民である旨の認定(以下「難民の認定」という。)を行うことができる。」と規定
している。
そして、平成16年法律第73号による改正前の入管法61条の2第2項は、「前項の申請は、そ
の者が本邦に上陸した日(本邦にある間に難民となる事由が生じた者にあっては、その事実を
知った日)から六十日以内に行わなければならない。ただし、やむを得ない事情があるときは、
この限りでない。」と規定していた(以下、同条項を「60日条項」という。)。
 難民の意義
ア 入管法2条3号の2は、同法における「難民」の意義を、「難民の地位に関する条約(以下「難
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民条約」という。)第1条の規定又は難民の地位に関する議定書(以下「難民議定書」という。)
第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう。」と定めている。
イ 難民条約1条A及び難民議定書1条1・2によれば、「人種、宗教、国籍若しくは特定の
社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十
分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受
けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けること
を望まないもの」は難民条約の適用を受ける難民である。
ウ したがって、上記イの定義に当てはまる者は入管法にいう「難民」であり、原告らは、それ
ぞれ、この意味における難民に自らが該当すると主張している。以下において、「難民」とい
うのはすべてこの意味における難民のことである。
2 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
 原告A(以下「原告夫」という。)関係
ア 原告夫は、1959年(昭和34年)《日付略》、ミャンマーにおいて出生したミャンマー国籍を
有する外国人である。
イ 原告夫は、他人名義の旅券を行使して、タイ王国(以下「タイ」という。)を出国し、平成3
年11月6日、空路新東京国際空港(現在の成田国際空港)に到着し、東京入国管理局(以下「東
京入管」という。)成田支局(現在の成田空港支局)入国審査官から平成16年法律第73号によ
る改正前の出入国管理及び難民認定法別表第1に規定する在留資格「短期滞在」、在留期間
「90日」とする上陸許可の証印を受けて本邦に不法入国し、以後本邦に不法に在留してきた。
ウ 原告夫は、平成16年10月17日、新宿区長に対し、同区内の居住地により外国人登録申請を
し、その旨登録された。
エア 原告夫は、平成15年8月19日、東京入管において、法務大臣に対し、難民認定の申請を
した。
イ 東京入管難民調査官は、平成15年10月21日、同月24日、同月27日及び同月31日、東京
入管において、原告夫から、事情を聴取するなどの調査をした。
ウ 法務大臣は、平成16年3月16日付けで、原告夫の難民認定申請について、「あなたは、「政
治的意見」を理由とした迫害を受けるおそれがあると申し立てています。しかしながら、
①あなたの供述等からは、あなたが本国での活動を理由として本国政府から個別に反政府
活動家として把握され迫害を受けるおそれがあるとは認められないこと、②あなたの所持
する旅券及び供述等によれば、あなたは、迫害を受けたとする日以降、自己名義の旅券を
用いて合法的に出国していること、③あなたの提出資料及び供述等からは、あなたが本邦
における活動を理由として本国政府から反政府活動家として把握され迫害を受けるおそれ
があるとは認められないこと等からすると、申立てを裏付けるに足りる十分な証拠がある
とは認め難く、難民の地位に関する条約第1条A及び難民の地位に関する議定書第1条
2に規定する難民とは認められません。また、あなたの難民認定申請は、出入国管理及び
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難民認定法第61条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり、かつ、同項ただ
し書の規定を適用すべき事情も認められません。」として、難民の認定をしない処分をし、
同月29日、原告夫に通知した。
エ 原告夫は、平成16年3月29日、法務大臣に対し、上記不認定処分について、異議の申出
をした。
オ 東京入管難民調査官は、平成16年6月29日、東京入管において、原告夫から、事情を聴
取するなどの調査をした。
カ 法務大臣は、平成17年4月8日付けで、「あなたの原処分に対する異議申出における申
立ては、原処分において申し立てた内容とほぼ同旨を申し立てるほか、迫害に係る新たな
事実を申し立てているところ、新たに提出のあった資料を含め全記録により検討しても原
処分に誤りはなく、平成16年3月16日付け「通知書」の理由のとおり、あなたが難民の地
位に関する条約第1条A及び難民の地位に関する議定書第1条2に規定する難民とは認
められません。また、あなたの難民認定申請については、出入国管理及び難民認定法第61
条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり、かつ、同項ただし書の規定を適
用すべき事情も認められません。」として、異議の申出に理由がない旨の決定をし、同年5
月12日、原告夫に通知した。
 原告B(以下「原告妻」といい、原告夫と併せて「原告夫妻」という。)関係
ア 原告妻は、1960年(昭和35年)《日付略》、ミャンマーにおいて出生したミャンマー国籍を
有する外国人である。
イ 原告妻は、オーストラリアから空路新東京国際空港に到着し、平成7年1月14日、東京
入管成田支局入国審査官に対し、外国人入国記録の渡航目的の欄に「TO ATTEND THE
75TH. G. A. A. J. SHOW」、予定期間の欄に「(15)DAYS」と記載して上陸申請を行い、同
入国審査官から法別表第1に規定する在留資格「短期滞在」、在留期間「90日」とする上陸許
可を受けた。
ウ 原告妻は、在留期間の更新又は在留資格の変更の許可を受けることなく、在留期限である
同年4月14日を経過して本邦に不法残留した。
エ 原告妻は、平成7年2月1日、中野区長に対し、同区内の居住地により外国人登録申請を
し、その旨登録された後、平成13年1月30日、新宿区長に対し、新宿区内の居住地による変
更登録の申請をしてその旨登録された。
オア 原告妻は、平成15年8月19日、東京入管において、法務大臣に対し、難民の認定の申請
をした。
イ 東京入管難民調査官は、平成15年11月25日及び同年12月8日、東京入管において、原告
妻から、事情を聴取するなどの調査をした。
ウ 法務大臣は、平成16年3月16日付けで、原告妻の難民認定申請について、「あなたは、「特
定の社会的集団の構成員であること」及び「政治的意見」を理由とした迫害を受けるおそ
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れがあると申し立てています。しかしながら、①あなたの供述等からは、あなたが本国で
の活動を理由として本国政府から個別に反政府活動家として把握され迫害を受けるおそれ
があるとは認められないこと、②あなたの所持する旅券及び供述等によれば、あなたは、
迫害を受けたとする日以降、自己名義の旅券を用いて合法的に出国していること、③あな
たの提出資料及び供述等からは、あなたが本邦において真摯に反政府活動を行っていると
は認められないこと等からすると、申立てを裏付けるに足りる十分な証拠があるとは認め
難く、難民の地位に関する条約第1条A及び難民の地位に関する議定書第1条2に規定
する難民とは認められません。また、あなたの難民認定申請は、出入国管理及び難民認定
法第61条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり、かつ、同項ただし書の規
定を適用すべき事情も認められません。」として、難民の認定をしない処分をし、同月29日、
原告妻に通知した。
エ 原告妻は、同月29日、法務大臣に対し、上記難民の認定をしない処分について、異議の
申出をした。
オ 東京入管難民調査官は、平成16年7月23日、東京入管において、原告妻から、事情を聴
取するなどの調査をした。
カ 法務大臣は、平成17年4月8日、「あなたの原処分に対する異議申出における申立ては、
原処分において申し立てた内容とほぼ同旨を申し立てるほか、迫害に係る新たな事実を申
し立てているところ、新たに提出のあった資料を含め全記録により検討しても原処分に誤
りはなく、平成16年3月16日付け「通知書」の理由のとおり、あなたが難民の地位に関す
る条約第1条A及び難民の地位に関する議定書第1条2に規定する難民とは認められま
せん。また、あなたの難民認定申請は、出入国管理及び難民認定法第61条の2第2項所定
の期間を経過してなされたものであり、かつ、同項ただし書の規定を適用すべき事情も認
められません。」として、異議の申出に理由がない旨の決定をし、同年5月12日、原告妻に
通知した。
 原告C(以下「原告子」という。)関係
ア 原告子は、平成13年《日付略》、本邦において、原告妻とミャンマー人である前夫D(以下
「前夫」という。)の間の子として出生したが、入管法22条の2第1項により在留資格を取得
することなく、本邦に滞在することのできる期限である平成13年5月4日を超えて、本邦に
不法残留している。
イ 原告子は、平成13年4月6日、新宿区長に対し、原告夫及び原告妻と同一の居住地により、
出生を事由とする同原告の外国人登録申請をし、その旨登録された。
ウア 原告子は、平成15年8月19日、東京入管において、法務大臣に対し、難民の認定の申請
をし、受理された。
イ 法務大臣は、平成16年3月16日付けで、原告子の難民認定申請につき、「あなたは、「政
治的意見」を理由とした迫害を受けるおそれがあると申し立てています。しかしながら、
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あなたの父及び母が難民条約上の難民とは認められないこと等からすると、申立てを裏付
けるに足りる十分な証拠があるとは認め難く、難民の地位に関する条約第1条A及び難
民の地位に関する議定書第1条2に規定する難民とは認められません。また、あなたの難
民認定申請は、出入国管理及び難民認定法第61条の2第2項所定の期間を経過してなされ
たものであり、かつ、同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められません。」として難
民の認定をしない処分をし、同月29日、原告子の法定代理人(母)である原告妻に通知した。
ウ 原告子は、同月29日、法務大臣に対し、上記難民の認定をしない処分について、異議の
申出をし、受理された。
エ 法務大臣は、平成17年4月8日付けで、「あなたの原処分に対する異議申出における申
立ては、原処分において申し立てた内容とほぼ同旨を申し立てるものであって、全記録に
より検討しても原処分に誤りはなく、平成16年3月16日付け「通知書」の理由のとおり、
あなたが難民の地位に関する条約第1条A及び難民の地位に関する議定書第1条2に規
定する難民とは認められません。また、あなたの難民認定申請は、出入国管理及び難民認
定法第61条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり、かつ、同項ただし書の
規定を適用すべき事情も認められません。」として、異議の申出に理由がない旨の決定を
し、同年5月12日、原告子の法定代理人(母)である原告妻に通知した。
3 争点
本件の主要な争点は、次のとおりであり、これに関して摘示すべき当事者の主張は、下記のほ
か、後記「争点に対する判断」において掲げるとおりである。
 各原告は難民か。
この点に関し、原告らは、原告夫妻が特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見
を理由に迫害を受けるおそれがある旨主張し、難民該当性を基礎付ける事実として、原告夫に
ついては、本国における学生運動団体での政治活動と身柄拘束・拷問の体験、NLD(支部)党員
としての政治活動、軍部隊による荷物運搬役(ポーター)への強制徴用とその労役従事中の逃
亡、来日後のNLD-LA日本支部における政治活動、デモ参加の姿の報道、その後の本国当局に
よる本国在住の母に対する尋問等の事実を主張する。そして、原告妻については、本国での婦
人団体での活動やNLDへの寄付、本国当局から受けた捜索や監視、本邦におけるNLD-LA日本
支部における政治活動、デモ参加の姿の報道等の事実を主張し、原告夫婦のいずれかが難民で
あるならば、原告子を含む原告らについて、家族統合の原則(市民的及び政治的権利に関する
国際規約(B規約)23条)により、難民として保護されるべきである旨主張する。
これに対し、被告は、原告夫の本国における政治活動や身柄拘束・拷問の事実を裏付ける客
観的証拠はなく、これにそう原告夫の供述等も信用できないこと、原告夫が、自己名義の旅券
を受給して出国し、経由国でも難民認定申請することなく来日した上、長期間にわたり庇護を
求めることなく、不法就労を継続し、本国に送金してきたもので、本国及び本邦における政治
活動の程度は本国政府の関心をひくようなものとはいえないこと、本国在住の母が平穏に暮ら
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していること、難民認定申請後に本国政府から国際運転免許証の交付を受けたことなどを主張
して、難民該当性を争っている。また、原告妻について、本国での政治活動を裏付ける客観的証
拠がなく、自己名義の旅券により出国した上、本邦入国後も長期間にわたり庇護を求めること
なく、不法就労を継続し、本国に送金してきたもので、その主張に係る本国及び本邦における
政治活動の程度も本国政府の関心をひくようなものとはいえないこと、本国の兄弟が平穏に生
活していることなどを主張するとともに、原告夫妻の難民該当性が認められない以上、原告子
を含む原告らが家族統合の原則によって難民として保護されることはない旨主張して、原告ら
の難民該当性を争っている。
 各原告の難民認定申請は60日条項に反するか(平成16年法律第73号による改正前の入管法
61条の2第2項本文に違反するか。そして、これに違反するとした場合、同項ただし書に定め
る「やむを得ない事情」があるか。)。
この点に関し、被告は、原告夫及び原告妻については本邦上陸の日から、原告子については
本邦における出生の日から、各難民認定申請までの期間が60日を超えていることが明らかであ
るから、各原告の難民認定申請は、60日条項に違反する(病気、交通の途絶等の客観的、物理的
事情により、申請期間を経過したことについて「やむを得ない事情」があるとも認められない。)
旨主張する。
これに対し、原告らは、原告夫について、本邦におけるデモ参加の姿の報道、その後の本国当
局による本国在住の母に対する尋問等とその事実が記載された原告夫の母からの手紙の受領等
の事実を基に、新たに難民となる事由が生じ、その事由を知ってから難民認定申請の日までは
60日が経過していない旨主張するとともに、仮に、本邦上陸の日から60日の期間を起算すると
しても、本国の民主化に対する希望、難民認定制度についての知識の不足、家族との関係、難民
認定申請が認められなかった場合の強制送還の可能性等から、各原告の難民認定申請の日まで
60日を経過したことについて「やむを得ない事情」があるから、各原告の難民認定申請は、60
日条項に違反するものではない旨主張する。

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