退去強制令書執行停止申立事件
平成19年(行ク)第1号
原告:A、被告:国
大阪地方裁判所第2民事部
平成19年3月30日

決定
主 文
1 大阪入国管理局主任審査官が申立人に対して平成18年10月31日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本案事件(当庁平成19年(行ウ)第5号退去強制令書発付処分取消等請求事件)の第1審判決の言渡しの日から30日を経過する日まで停止する。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は相手方の負担とする。
理 由
第1 申立て
大阪入国管理局主任審査官が申立人に対して平成18年10月31日付けで発付した退去強制令書に基づく執行は、本案事件の判決が確定するまで停止する。
第2 事案の概要
1 本案事件は、法務大臣から権限の委任を受けた大阪入国管理局長が、申立人に対し、平成18年10月30日付けで出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)49条1項に基づく申立人の異議の申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をしたのを受けて、大阪入国管理局主任審査官が、申立人に対し、同月31日付けで退去強制令書(以下「本件令書」という。)の発付処分(以下「本件退令発付処分」という。)をしたのに対し、申立人が上記各処分の各取消しを求めた取消訴訟である。
本件は、申立人が行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)25条2項本文に基づき、本件令書の収容部分及び送還部分の両方について、本案事件の判決が確定するまで、その執行の停止を求めた事案である。
2 本件申立てについての申立人の主張は、別紙「退去強制令書発付処分執行停止申立書」(写)、「訴状」(写)、平成19年3月6日付け「反論書」(写)及び同月19日付け「反論書2」(写)に各記載のとおりであり、相手方の主張は、同年1月29日付け「意見書」(写)及び同年3月16日付け「意見書2」に各記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 記録によれば、以下の事実が一応認められる(疎明資料は各枝番を含む。)。
 申立人の入国及び在留の経緯等
ア 申立人は、1980年(昭和55年)7月*日、中華人民共和国(以下「中国」という。)上海市において出生した、中国国籍を有する外国人である。(疎甲4、5、疎乙1)
イ 申立人は、平成12年3月30日、関西空港において大阪入国管理局関西空港支局入国審査官から、在留資格を「留学」、在留期間を「1年」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し、同年4月、愛媛女子短期大学に入学した。
申立人は、平成14年3月7日、同短期大学を卒業した後、同年4月、同志社大学文学部英文学科の3年次に編入学し、現在も同学科に在籍している。
(疎甲8から11まで、疎乙1)
ウ 申立人は、上記上陸許可に係る在留期限(平成13年3月30日)の経過後も、下記の各在留期間更新許可を受けて本邦に在留し、上記のとおり、愛媛女子短期大学、同志社大学に各在籍していた。

許可年月日 在留期間 在留期限
平成13年2月23日 1年 平成14年3月30日
平成14年4月3日 2年 平成16年3月30日
平成16年5月12日 2年 平成18年3月30日
(疎甲4、疎乙1)
 本件退令発付処分に至る経緯等
ア 申立人は、平成18年3月22日、大阪入国管理局長に対し、在留期間更新許可申請を行った。
申立人は、同年4月上旬ころ、大阪入国管理局京都出張所の職員から上記申請について在留期間の更新を許可しない方針である旨伝えられたため、その翌日に、C弁護士に相談した。
大阪入国管理局長は、同年4月18日付けで、申立人に対し、在留資格を「特定活動(出国準備)」、在留期間を「2か月」とする在留資格変更許可をした。申立人及びC弁護士は、在留期間更新不許可処分の取消訴訟を提起する意向であるとして、大阪入国管理局長に対し、上記在留資格変更許可を取り消すよう求めた。そこで、大阪入国管理局長は、同年5月29日付けで、これを取消した上で、同年6月12日付けで、申立人に対し、在留期間更新不許可処分をし(以下「本件更新不許可処分」という。)、同処分の通知書は、同月13日、申立人に到達した。
(疎甲4、32、疎乙2、14、15)
イ 大阪入国管理局入国警備官は、平成18年9月13日、申立人について入管法24条4号ロ(不法残留)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして大阪入国管理局主任審査官から収容令書の発付を受け、同月14日、同収容令書を執行し、申立人を入国者収容所西日本入国管理センター(以下「西日本センター」という。)に収容した。
申立人は、同日の入国警備官による違反調査において、本件不許可処分の取消しの訴えを提起する意向であるといった趣旨の供述をした。
(疎乙3、10)
ウ 大阪入国管理局入国審査官は、大阪入国管理局入国警備官から申立人の引渡しを受け、同年9月15日、同月29日及び同年10月2日、申立人について違反審査を実施し、その結果、申立人が入管法24条4号ロ(不法残留)に該当し、かつ、出国命令対象者に該当しない旨認定し、申立人に対してこれを通知したところ、申立人は、同日、口頭審理を請求した。
申立人は、同年9月29日の違反審査において、本件更新不許可処分の取消しの訴えを提起する意向であるといった趣旨の供述をし、同年10月2日の違反審査において、在留特別許可を希望する理由は、大学を卒業したいこと、B(以下「B」という。)という日本人の恋人がいることなどである旨供述した。
(疎乙4、6、7)
エ 大阪入国管理局特別審理官は、同年10月18日、申立人について口頭審理を実施し、その結果、入国審査官の上記認定には誤りがない旨判定し、申立人にこれを通知したところ、申立人は、同月23日、法務大臣に対して異議を申し出た。
申立人は、上記口頭審査において、在留特別許可を希望する理由は、日本にはBという恋人がいること、同志社大学をまだ卒業していないことなどである旨供述し、上記法務大臣に対する異議に際して同大臣宛てに提出した不服理由書には、日本において、Bと一緒に生活しながら、大学に通いたい旨記載した。
(疎乙8、9、11)
オ 法務大臣から権限の委任を受けた大阪入国管理局長は、同月30日付けで、申立人の異議の申出には理由がない旨の裁決(本件裁決)をした。大阪入国管理局主任審査官は、本件裁決の通知を受けて、同月31日、申立人にその旨を通知するとともに、退去強制令書を発付した(本件退令発付処分)。大阪入国管理局入国警備官は、同日、西日本センターにおいて上記令書を執行し、申立人を引き続き西日本センターに収容した(以下「本件収容」という。)。
(疎乙12、13)
 申立人とBとの関係等
Bは、昭和46年10月*日、京都市右京区で出生した日本国籍を有する者であり、現在、同市下京区内において、はり師、きゅう師として業務を行っている。
申立人とBとは、平成15年7月ころ、アルバイト先で知り合い、その後、交際を始めた。申立人とBとは、平成18年11月24日、京都市下京区役所において、婚姻届を提出した。なお、Bは、上記エの特別審査官による口頭審理に立ち会った。
(疎甲6、7、13から16まで、疎乙7、8)
 申立人の単位取得状況等
ア 同志社大学文学部英文学科の卒業には124単位の修得が必要であるところ、申立人は、現在までに107単位を修得している。申立人は、同学科を卒業するためには、今後、必修科目から2単位、選択科目〈1〉及び同〈2〉から15単位(うち外国語8単位)を修得しなければならない。
なお、申立人は、平成14年度及び平成15年度の2年間で上記卒業に必要な単位数を修得できなかったことから、前記ウのとおり、平成16年5月12日付けで2年間の在留期間更新許可を受け、平成16年度に13単位を修得したが、平成17年度は履修登録をしなかったものである。もっとも、申立人は、平成18年度春学期には6科目14単位を修得している。
(疎甲8、30)
イ 同志社大学学部学則(以下「本件学則」という。)によれば、3年次に編入学することを許可された編入学生の在学年限は、6年を超えることができないとされ(23条4項)、在学年限には休学期間は算入しないこととされているが(27条4項)、同学則27条1項は、学生が疾病その他やむを得ない事由により休学しようとするときは、保証人連署の上、春学期又は秋学期授業開始日までに学部長に願い出て、学長の許可を得なければならない旨規定している。
申立人は、これまでに休学したことはない。
以上によれば、申立人は、平成19年度の履修登録手続をすることができない場合、及び履修登録手続をしても上記アの単位を修得することができない場合は、平成19年度に休学しない限り、本件学則30条の2第2号の規定によって、平成19年度秋学期末に同学部教授会の議を経て除籍されることとなる。
(疎甲29、32)
ウ 平成19年度の履修登録手続の最終期限は、同年4月7日であり、病気療養中であるなどの特段の事情が認められる場合を除き、上記期限経過後の履修登録は認められない。また、同志社大学文学部・文学研究科事務長は、申立人代理人からの照会に対し、申立人が西日本センターに収容されている場合、実際に授業を受けることができる見込みがないことから、履修登録は認められない旨回答し、他方、相手方指定代理人からの照会に対し、申立人において休学制度を利用することは可能であるが、平成19年3月8日現在、同人からの休学願いは出されていない旨回答している。
(疎甲30、32、疎乙19)
 本件申立てに至る経緯等
C弁護士は、平成18年10月末ころ、申立人の代理人を辞任し、申立人は、本件更新不許可処分の取消しの訴えに係る出訴期間中に、同訴えを提起しなかった。
申立人は、本件申立人代理人を代理人として、平成19年1月11日、当庁に対し、本案事件の訴えを提起するとともに、本件執行停止の申立てをした。
(疎甲32)
2 「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行訴法25条2項)に該当するか否かについて
 本件令書の送還部分の執行について
我が国の法令上、退去強制令書の執行により送還され、その後、退去強制令書発付処分の取消しを求める訴訟において同処分の取消しの認容判決を得た者に対し、送還前に置かれていた原状を回復することを保障する制度は設けられていない。また、本件令書の送還部分の執行によって申立人が中国に送還された場合、申立人が本案事件について訴訟代理人らを選任していること及び現在では通信手段が相当程度発達していることなどを考慮してもなお、証拠等を収集し、訴訟代理人らと打合せをすることなどが困難になるといわざるを得ず、申立人が本案事件の訴訟追行をすることが事実上極めて困難になることは否定することができない。
よって、本件において、本件令書の送還部分の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められる。
 本件令書の収容部分の執行について
ア 確かに、退去強制令書発付処分のうち、収容部分は、退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときに送還可能のときまでその者を入国者収容所、収容場その他法務大臣又はその委任を受けた主任審査官が指定する場所に収容することを内容とするものであって(入管法52条5項参照)、その執行により、退去強制を受ける者は、人身の自由を制約され、自由な社会生活を送ることができなくなるという不利益、苦痛を受けるということができる。しかしながら、入国者収容所又は収容場(以下「収容所等」という。)に収容されている者(以下「被収容者」という。)の処遇に関する法令の規定をみると、入管法61条の7第1項は、被収容者には、収容所等の保安上支障がない範囲内においてできる限りの自由が与えられなければならない旨規定し、同条6項の規定に基づいて制定された被収容者処遇規則(昭和56年法務省令第59号)2条は、入国者収容所長及び地方入国管理局長は、収容所等の保安上支障がない範囲内において、被収容者がその属する国の風俗習慣によって行う生活様式を尊重しなければならない旨規定している上、入管法61条の7及び被収容者処遇規則には、寝具の貸与、糧食の給与、衣類及び日用品の給与、物品の購入の許可、衛生、健康の保持、傷病者に対する措置、面会の許可等、被収容者の人権に配慮した種々の規定が置かれており、これらの規定は、収容令書又は退去強制令書に基づく収容が、外国人の退去強制という行政目的を達成するために設けられた行政手続であることにかんがみ、被収容者に対する自由の制限は、収容所等の保安上必要最小限の範囲にとどめようという趣旨によるものと解される。このような被収容者の処遇に関する入管法の規定の趣旨、入管法及び被収容者処遇規則が予定する被収容者の自由に対する制限の内容、態様、程度にかんがみると、収容令書又は退去強制令書発付処分のうちの収容部分の執行により被収容者が受ける損害は、その内容、性質、程度に照らして、特段の事情がない限り、行訴法25条2項にいう「重大な損害」には当たらないものというべきである。
イア この点について、申立人は、収容という身体拘束自体が極めて重大な人権の制約を伴い、本件令書による収容は、申立人の通信、行動の自由を制約し、申立人とBとの同居生活を不可能とするものであって、それ自体が日々回復の困難な重大な損害に該当する旨主張する。
しかしながら、アにおいて既に説示したところに加え、申立人が収容されている西日本センターの収容施設には電話が常備され、被収容者が原則として自由に使用することができるものとされていること(疎乙16)、Bが、ほぼ毎日、申立人との面会に西日本センターを訪れ、面会が許可されていること(疎甲32)などからしても、申立人の主張する上記の不利益は、その内容、性質、程度に照らし、いずれも行訴法25条2項にいう「重大な損害」に当たるということはできない。
イ また、申立人は、本件収容の継続により平成19年度の履修登録手続をすることができない結果、在学年限の経過、除籍処分等によって学業を断念せざるを得ない事態に陥るおそれがあるところ、これは、学生である申立人にとって、重大な損害に当たり、これを避けるため緊急の必要がある旨主張する。これに対し、相手方は、申立人は、本件更新不許可処分につき取消訴訟を提起することなく、その出訴期限である平成18年12月14日を漫然と徒過させ、これを争うことなく確定させたのであって、本件収容の前に、既に申立人の学業継続は法的に認められない状態となっていたのであるから、本件収容によって学業の継続が困難になったかのような申立人の主張は失当である旨主張するとともに、申立人は、当面は、休学制度を利用するなどすれば、直ちに除籍処分を受けることなく、後に単位を追加取得すれば卒業することができる状態を維持することが可能であるから、重大な損害を避けるため緊急の必要があるとは認められないと主張する。
確かに、退去強制令書による収容によって通学することができなくなるなどの学業継続に係る困難を生ずることは、入管法が当然に予定しているところであると解される上、その不利益の内容、性質、程度に照らしても、通常、そのことをもって、行訴法25条2項にいう「重大な損害」に該当するということはできない。 
しかしながら、前記認定事実のとおり、申立人は、平成19年度の履修登録手続をすることができない場合、及び履修登録手続をしても所定の単位を修得することができない場合は、平成19年度に休学しない限り、本件学則30条の2第2号の規定によって、平成19年度秋学期末に同学部教授会の議を経て除籍されることとなる。そうであるところ、平成19年度の履修登録手続の最終期限は、同年4月7日であり、病気療養中であるなどの特段の事情が認められる場合を除き、上記期限経過後の履修登録は認められず、同志社大学文学部・文学研究科事務長は、申立人代理人からの照会に対し、申立人が西日本センターに収容されている場合、履修登録は認められない旨回答している上、本件学則上、休学をするためには、学長の許可を得なければならないものとされているというのである。そうすると、本件収容が平成19年4月以降も継続することとなれば、申立人は、同志社大学文学部英文学科を平成19年度秋学期末に除籍されることとなる蓋然性が高いものと認められる。
前記認定事実のとおり、申立人は、在留資格を「留学」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し、その後、3回の在留期間更新許可を受けて、本邦に在留し、その間、愛媛女子短期大学を卒業し、同志社大学文学部英文学科の3年次に編入学して学業を続けてきたものであって、同学科を卒業することが、平成14年4月以降の約5年間、申立人が本邦に在留してきた主要な目的であるということができる(なお、前記認定事実のとおり、申立人は、平成16年5月12日付けで2年間の在留期間更新許可を受けたにもかかわらず、平成16年度に13単位しか修得することができず、平成17年度には履修登録をしていない。申立人は、その経緯について、平成17年ころから平成18年ころにかけて申立人は精神的に不安定な状態にあったためであるといった趣旨の主張をしているところ、確かに、上記経緯の詳細については記録上必ずしも明らかではないものの、疎甲第12及び第32号証並びに疎乙第2号証によれば、申立人は、平成17年8月7日から同年9月17日まで中国に帰国して扶順市立病院でうつ病と診断されその治療を受けていた事実が一応認められるのであり、他方で、そのころ申立人が本邦において就労等その在留資格に係る活動以外の活動を専ら行っていた様子は記録上うかがわれず、前記認定事実のとおり、申立人は、平成18年度春学期には6科目14単位を修得していることからすれば、在留期間を通じて申立人の在留目的(留学)が実質的に変更したとみることはできないというべきである。)。これらにかんがみれば、本件収容によって同学科での学業を継続することができなくなるにとどまらず、同学科を除籍されるという不利益は、申立人にとって、その性質上回復困難な著しい不利益であって、行訴法25条2項にいう「重大な損害」に該当するというべきである。そして、平
成19年度の履修登録手続の最終期限が同年4月7日である上、申立人が西日本センターに収容されている場合、履修登録は認められないというのであるから、本件においては、本件令書の収容部分の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるものというべきである。
この点について、相手方は、申立人が本件更新不許可処分の取消しの訴えを提起せず、その出訴期限を徒過させている以上、そもそも申立人の学業継続は法的に認められない状態にあるのであって、大学を除籍されることは重大な損害に該当しないといった趣旨の主張をする。しかしながら、前記認定事実のとおり、申立人は、違反調査等において、一貫して、本件不許可処分を訴訟で争う意向を示し、又は在留特別許可を希望する理由は大学を卒業したいからである旨の供述をしている。のみならず、前記認定事実のとおり、申立人は、平成16年度は13単位しか修得せず、平成17年度は履修登録をしていないものの、平成18年度春学期において6科目14単位を修得しているのであって、卒業までに修得することが必要な単位数はわずかに17単位にすぎないことからすれば、卒業するために学業を継続したいと望むのがむしろ自然というべきである上、本件記録上、申立人が本件更新不許可処分の取消しの訴えに係る出訴期限を徒過させたのは、C弁護士との間において円滑な意思疎通がされなかったからであることがうかがわれ、そのことについて必ずしも申立人の責に帰すべき事由がないとはいえないとしても、少なくとも、申立人の意思に反して上
記出訴期間が経過したものと認めることができる。これらによれば、申立人において学業を継続する利益を積極的に放棄したものとは認められず、むしろ、申立人は、学業を継続し、同志社大学を卒業する意思を有していることが認められる。したがって、相手方の上記主張は採用することができない。
また、相手方は、申立人において休学制度を利用することなどによって、直ちに除籍処分を受けることなく、後に単位を追加取得すれば卒業することができる状態を維持することが可能である旨主張する。しかしながら、上記のとおり、申立人は、平成19年度の履修登録をすることができず、かつ休学を許可されなければ、平成19年度秋学期末に除籍されることとなるところ、記録上、申立人の休学が許可される可能性が高いとまでは認められない。加えて、休学すれば、学業の継続性が害され、申立人において在学年限の残りの1年間で卒業に必要な単位数を修得することが困難になることも考えられるから、相手方の上記主張も採用することができない。
 以上により、本件令書の収容部分及び送還部分の両方について、「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行訴法25条2項)に該当するというべきである。
3 「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25条4項)に該当するか否かについて 前記認定事実のとおり、申立人が本件更新不許可処分の取消しの訴えを提起していないことに加え、本案に係る申立人の主張内容に照らしても、本件において、申立人が入管法24条4号ロ(不法残留)の要件に該当することについては、争いがないということができる。もっとも、法務大臣は、外国人に退去強制事由があり、かつ、出国命令対象者に該当せず、入管法49条1項に基づく異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該外国人に特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは、その在留を特別に許可することができるとされている(入管法50条1項4号)。そして、在留特別許可を付与しないとの法務大臣の判断は、それが全く事実の基礎を欠き、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことなどにより、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるような場合には、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法となるものというべきであり、この理は、法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長が裁決する場合においても異ならない。そこで、大阪入国管理局長が申立人に対して在留特別許可を付与しなかった判断につき裁量権の範囲を超え又はその濫用があったか否かについて検討する。
 この点について、申立人は、要旨、入管法が「日本人の配偶者等」を在留資格の一つとして定め、法務省入国管理局が平成18年10月付けで定めた在留特別許可のガイドラインにおいても家族的結合が重要視され、それが許可の積極的要素の一つとして挙げられていることに加え、憲法24条1項、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号)17条1項、同規約23条1項の趣旨を勘案すると、本件裁決の時点において申立人とBとが結婚を決意しており、夫婦生活が継続される可能性が極めて高かったと認められる本件において、大阪入国管理局長が申立人に対して在留特別許可を付与しなかったのは裁量権の濫用、逸脱がある旨主張するとともに、申立人は、本邦において、学業に専念してきたのであり(平成17年度に履修登録をしなかったのは、精神的に不安定だったことが原因であって、勉学意欲を欠いたからではない。)、申立人の堅実な就学状況に照らしても、申立人に対して在留特別許可を付与しなかった本件裁決には裁量権の濫用、逸脱があるなどと主張する。
他方、相手方は、そもそも、婚姻の事実すらなく、単に婚姻予定者がいるという事情のみで、在留特別許可を認めなければならないものではない上、違反調査における申立人の供述等に照らせば、本件裁決当時、申立人とBとの婚姻意思が明確であり、夫婦生活が継続される可能性が極めて高かったと評価することは到底できないなどとし、本件裁決に裁量権の濫用、逸脱はなく、本件裁決は適法であるなどと主張する。
 そこで検討すると、確かに、記録によれば、申立人は、平成18年10月2日の入国審査官による違反調査において、在留資格を得るために結婚したと思われたくないので、同日現在、Bと結婚する気がないといった趣旨の供述をしていたところ、同月18日の口頭審査においては、同月10日にBと結婚することを決め、同月13日に婚姻届を作成した旨の供述をしたことが認められ、また、申立人とBとが婚姻届を提出したのは、本件裁決後の同年11月24日であることが認められる。しかしながら、記録に表われた申立人のBと知り合ってから婚姻意思を固めるまでの経過に関する供述内容はそれ自体別段不自然なところはうかがわれない上、前記のとおり、Bは、ほぼ毎日、申立人に面会するために西日本センターを訪れているというのであるから、これらにかんがみると、申立人とBとの婚姻が偽装であると断じることができないことはもとより、本件裁決当時において、申立人とBとの婚姻意思が浮動的であったと直ちに認めることもできないのであって、申立人とBとが出会ってから婚姻に至るまでの具体的経緯等について、更に審理を尽くす必要がある。
また、申立人の同志社大学文学部英文学科における単位修得状況は、記録上既に明らかであり、これによれば、申立人は、同学科に編入学して以降、既に5年度が経過するも、いまだ卒業に必要な単位数を修得していないのみならず、前記のとおり、平成16年5月12日付け在留期間更新許可に係る期間(平成16年度及び平成17年度)については、わずかに13単位しか修得することができず、平成17年度は履修登録すらしていないというのである。しかしながら、前記のとおり、申立人は、その経緯について、平成17年ころから平成18年ころにかけて申立人は精神的に不安定な状態にあったためであるといった趣旨の主張をしているところ、申立人は、平成17年8月7日から同年9月17日まで中国に帰国して扶順市立病院でうつ病と診断されてその治療を受けていた事実が一応認められるなど、申立人の前記主張に沿う疎明資料等も存在している上、申立人は平成18年度春学期には6科目14単位を修得しているのであって、そのころ申立人が本邦において就労等その在留資格に係る活動以外の活動を専ら行っていた様子は記録上うかがわれないことをも併せ考えると、上記のような申立人の履修経過から直ちに申立人の就学意欲ないし就学態度等が著しく不良であるとか申立人が学業を継続する意思を喪失しているなどと断じることはできないのであって、申立人が平成17年度に履修登録をしなかった経緯等に加え、申立人の同学科での授業への出席状況等の就学状況、学生としての生活態度等について、更に審理を尽くす必要がある。
さらに、前記認定事実のとおり、申立人は、違反調査等において、一貫して、本件更新不許可処分を訴訟で争う意向を示し、又は在留特別許可を希望する理由は大学を卒業したいからである旨の供述をしていたにもかかわらず、前記認定とおり、同処分の取消しの訴えに係る出訴期間中に同訴えを提起していないが、記録からは少なくとも申立人の意思に反して上記訴えに係る出訴期間が経過した経緯が認められるのであって、その経緯等の詳細についても、更に審理を尽くす必要がある。
以上によれば、少なくとも上記の各点について、本案事件において申立人その他の関係者を尋問するなど、更に審理を尽くす必要があり、相手方の指摘するその余の事情をしんしゃくしてもなお、上記の審理が尽くされていない現段階において、申立人に在留特別許可を付与しないとした大阪入国管理局長の判断につき、裁量権の範囲を超え又はその濫用がなかったと直ちに断定することはできないから、本件令書の執行停止の申立てについて、「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとまでいえない。
4 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」(行訴法25条4項)があるか否かについて
相手方は、本件令書の送還部分の執行を停止することになれば、出入国管理行政の迅速かつ円滑な執行を長期間にわたり停滞させることになるなどと主張するが、これらの主張は一般的、抽象的で、具体性を欠いているといわざるを得ず、このことのみをもって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるということはできない。
また、相手方は、入管法が在留資格の制度を設け、また収容された外国人につき仮放免の制度を設けているにもかかわらず、裁判所において退去強制令書の収容部分までその執行を停止することは、裁判所の関与によって同法が予定しない新たな在留の形態(何らの制約も受けない全くの放任状態での在留)を作出することとなり、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるなどと主張する。
しかしながら、入管法の定める仮放免の制度は、収容令書等の発付を受けて収容されている外国人について特別な事情が生じた場合に当該外国人本人若しくは一定範囲の関係人の請求により又は入国者収容所長等の職権により一時的に収容を停止し身体の拘束を解く制度であるのに対し、行訴法の定める執行停止の制度は、取消訴訟の提起があった場合における執行不停止原則の下での仮の救済制度であって、仮放免においては収容されている者の情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格、資産等を考慮して保証金を納付させ、かつ、住居及び行動範囲の制限等その他必要と認める条件を付すものとされており、執行停止においては本案について理由がないとみえるときに当たらないことが要件とされているなど、両制度は、その趣旨、目的及び要件、効果を異にするものであるから、仮放免に関する規定を根拠に退去強制令書の収容部分について行訴法の執行停止に関する規定の適用が除外ないし制限されると解することができないことはもとより、収容令書等に対する執行停止について類型的に行訴法25条4項にいう公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると解することもできない。また、記録に照らしても、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることについての個別具体的な事情を認めるに足りる疎明資料もない。
5 執行停止の期間について
申立人は、本件令書に基づく執行を本案事件の判決が確定するまで停止することを求めている。しかし、本件令書の執行により申立人に生ずる損害であって、行訴法25条2項にいう「重大な損害」に当たると認められるものは、前記のとおり、同志社大学文学部英文学科における修業が不可能となることであるところ、前記認定事実のとおり、申立人は、原則として平成20年4月1日以降同学科に在籍することができないことに加え、現段階における本案についての理由があるとみえるか否かについての申立人の疎明の程度(前記第3の3参照)等にもかんがみると、当裁判所が、現時点において、本案事件の第1審判決の言渡し後も本件令書の執行を停止すべき要件を継続して存在すると判断することは、困難であるといわざるを得ない。そうすると、本案事件の第1審判決の結論をみた上で、改めて本件令書の執行を停止すべき要件があるかどうかを判断するのが相当である。したがって、現段階においては、本案事件の第1審判決の言渡しの日か
ら30日を経過した日までに限り、本件令書の執行を停止すべきである。 
第4 結論
以上により、本件申立ては、本件令書の収容部分及び送還部分の両方について、本案事件の第1審判決の言渡しの日から30日を経過する日までその執行を停止することを求める限度で理由があるから、これを認容すべきであり、その余の部分は、理由がないから、これを却下すべきである。
よって、申立費用について、行訴法7条、民訴法64条ただし書を適用して、主文のとおり決定する。

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